JP4168644B2 - シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シクロヘキサンを分子状酸素により酸化してシクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、シクロヘキサンを分子状酸素により酸化してシクロヘキサノールやシクロヘキサノンを製造する方法の1つとして、ヘテロポリ酸系触媒を用いる方法が提案されている。例えば、ケミストリー・レターズ(Chemistry Letters)、1998年発行、第1263〜1264頁には、鉄2置換型ケイタングステン酸系触媒を用いることが提案されおり、また、特開平2000−319211号公報には、鉄以外の4〜11族金属2置換型ヘテロポリ酸系触媒を用いることが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら従来の方法では、温和な条件下に高選択率で上記酸化反応を行うことができるものの、触媒の活性すなわちシクロヘキサンの転化率が十分でないため、シクロヘキサノールやシクロヘキサノンの生産性の点で満足できるものではなかった。そこで、本発明の目的は、シクロヘキサンからシクロヘキサノールやシクロヘキサノンを、温和な条件下に高選択率で、しかも生産性良く製造しうる方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、上記酸化反応の際、ルテニウム1置換型ケイタングステン酸系触媒を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ヘテロポリ酸骨格中にケイ素、タングステンおよび1個のルテニウムを含有するヘテロポリ酸化合物の存在下に、シクロヘキサンを分子状酸素と接触させて酸化することにより、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを製造する方法に係るものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で用いる触媒は、ヘテロポリ酸骨格中にケイ素およびタングステンを含有するケイタングステン酸系のヘテロポリ酸化合物であって、該骨格中にさらにルテニウムを1個含有するものである。なお、該骨格中のケイ素およびタングステンの個数は特に限定されないが、通常、ケイ素は1個であり、タングステンは8〜11個である。また、該骨格中には、ケイ素、タングステンおよびルテニウム以外の元素が、必要に応じて1種または2種以上、それぞれ1個または2個以上含有されていてもよい。
【0006】
上記ヘテロポリ酸化合物としては、該化合物におけるヘテロポリ酸アニオンが、下記式(1)
Si1W11Ru1O39 (1)
(式中、Si、W、RuおよびOは、それぞれケイ素、タングステン、ルテニウムおよび酸素を表す。)
で示される組成を有するものが好ましい。
【0007】
また上記ヘテロポリ酸化合物は、ヘテロポリ酸の塩であるのが好ましく、この塩は、例えば、ヘテロポリ酸のプロトンの一部が中和された酸性塩であってもよいし、ヘテロポリ酸のプロトンの全部が中和された正塩であってもよい。上記ヘテロポリ酸化合物におけるヘテロポリ酸アニオンの対カチオンとしては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムのようなアルカリ金属のカチオン;カルシウム、マグネシウムのようなアルカリ土類金属のカチオン;アンモニウムカチオン、各アルキル基の炭素数が1〜20程度のテトラアルキルアンモニウムカチオン、プロトン等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上が含まれていてもよい。
【0008】
上記ヘテロポリ酸化合物は、公知の方法、例えば、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of American Chemical Society)第112巻、第6025頁(1990年発行)に記載の方法により調製することができる。調製の際の原料としては、通常、上記ヘテロポリ酸化合物に含まれる各元素を含む化合物、例えば、各元素のオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等が、所望の原子比を満たすような割合で用いられる。例えば、ケイ素を含む化合物としては、ケイ酸、ケイ酸塩等が用いられ、タングステンを含む化合物としては、タングステン酸、タングステン酸塩、酸化タングステン等が用いられ、ルテニウムを含む化合物としては、塩化ルテニウム等が用いられる。
【0009】
本発明においては、上記ヘテロポリ酸化合物の存在下に、シクロヘキサンを分子状酸素と接触させることにより、酸化反応を行う。この酸化反応は、液相、気相のいずれでも行うことができるが、液相にて行うのがより好ましい。ヘテロポリ酸化合物の使用量は、シクロヘキサン1モルに対して、通常0.000001〜0.1モル、好ましくは0.00001〜0.01モルである。なお、ヘテロポリ酸化合物は、必要に応じて成形して使用してもよいし、シリカ、アルミナ、チタニア等の担体に担持して使用してもよい。
【0010】
分子状酸素源としては、酸素ガス、空気、または酸素ガスもしくは空気を窒素、二酸化炭素、ヘリウム等の不活性ガスで希釈したものを用いることができる。シクロヘキサンと分子状酸素との接触は、例えば、シクロヘキサンおよび上記ヘテロポリ酸化合物を含む液を、分子状酸素含有ガスの雰囲気下に置くことにより行ってもよいし、この液中に分子状酸素含有ガスを吹き込むことにより行ってもよい。
【0011】
上記酸化反応は溶媒の存在下に行ってもよく、該溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムのようなハロゲン化脂肪族炭化水素類;酢酸i−ブチル、酢酸t−ブチルのようなエステル類;アセトニトリルのようなニトリル類;トルエンのような芳香族炭化水素類;クロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族炭化水素類等、酸化反応に対してシクロヘキサンより不活性なものが挙げられる。溶媒を用いる場合、その使用量は、シクロヘキサン100重量部に対して、通常1〜100000重量部、好ましくは10〜10000重量部である。
【0012】
上記酸化反応の反応温度は、通常20〜300℃、好ましくは50〜200℃であり、反応圧力は、通常、0.1〜10MPaである。また、上記酸化反応は、連続式で行ってもよいし、回分式で行ってもよい。
【0013】
上記酸化反応液中のシクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンは、酸化反応混合物を必要に応じて濾過、濃縮、洗浄、アルカリ処理、酸処理等の操作に供した後、蒸留等で精製することにより、酸化反応混合物から分離することができる。なお、酸化反応混合物中には、シクロヘキシルヒドロペルオキシドやシクロヘキサノールのエステル等が含まれる場合もあるが、これらは熱分解やアルカリ処理等により、目的物であるシクロヘキサノールやシクロヘキサノンに変換することができる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、反応混合物の分析はガスクロマトグラフィーにより行い、シクロヘキサンの転化率ならびにシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの選択率は、それぞれ次式により算出した。
シクロヘキサンの転化率(%)=(生成物の合計モル数/使用したシクロヘキサンのモル数)×100
シクロヘキサノールの選択率(%)=(生成したシクロヘキサノールのモル数/生成物の合計モル数)×100
シクロヘキサノンの選択率(%)=(生成したシクロヘキサノンのモル数/生成物の合計モル数)×100
また、TON(turnover number)は、次式により算出した。
TON=(生成物の合計モル数)/(使用した触媒のモル数)
【0015】
参考例1
タングステン酸ナトリウム2水和物36.284gを純水60mlに溶解し、加熱沸騰させた中に、攪拌下、4mol/Lの塩酸33mlを10分で滴下した後、メタケイ酸ナトリウム9水和物2.842gを純水20mlに溶解した溶液を加え、次いで、4mol/Lの塩酸でpHを5〜6の間に調整しながら、1時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、塩化カリウム30gを加えて塩析を行った。得られた白色沈殿を濾別し、1mol/Lの塩化カリウム水溶液で2回、純水で1回洗浄した後、空気で乾燥し、1欠損型ケイタングステン酸のカリウム塩K8[SiW11O39]・13H2Oを得た。
【0016】
得られた1欠損型ケイタングステン酸のカリウム塩15.9gを、1mol/Lの酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液(pH=4.7)200mlに溶解し、この中に、臭化テトラブチルアンモニウム16.1gを添加した。得られた白色沈殿を濾別し、水洗した後、空気で乾燥した。乾燥後、アセトニトリル/水混合溶媒を用いて再沈殿を行い、過剰の臭化テトラブチルアンモニウムを除去した後、アセトニトリルを用いて再結晶を行い、1欠損型ケイタングステン酸のテトラブチルアンモニウム塩を得た。
【0017】
得られた1欠損型ケイタングステン酸のテトラブチルアンモニウム塩1.724gを、アルゴン雰囲気下でアセトニトリル30mlに溶解し、この中に塩化ルテニウム(III)を添加し、室温で2時間攪拌した。次いで、酸素をバブリングさせながら、純水100μlを加えて1時間攪拌した後、エバポレーターにより40℃以下で濃縮してアセトニトリルを除去し、黒いタール状物を得た。このタール状物を、アセトニトリル6mlに溶解して再結晶を行い、灰茶色の結晶を得た。この結晶を、元素分析、紫外可視分光分析、赤外分光分析により同定した結果、ルテニウム1置換型ケイタングステン酸のテトラブチルアンモニウム塩[(n−C4H9)4N]4H[SiW11Ru(H2O)O39]・2H2Oであると確認された。
【0018】
実施例1
ガラス反応容器に、上記参考例1で調製したルテニウム1置換型ケイタングステン酸のテトラブチルアンモニウム塩0.5μmol、酢酸イソブチル3.0ml、およびシクロヘキサン18.5mmolを入れ、酸素雰囲気下、常圧、100℃にて、48時間攪拌した。シクロヘキサンの転化率は3.0%、シクロヘキサノールの選択率は33%、シクロヘキサノンの選択率は67%であり、TONは1110であった。
【0019】
【発明の効果】
本発明によれば、シクロヘキサンを原料として、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを、温和な条件下に高選択率で生産性良く製造することができる。
Claims (2)
- ヘテロポリ酸骨格中にケイ素、タングステンおよび1個のルテニウムを含有するヘテロポリ酸化合物の存在下に、シクロヘキサンを分子状酸素と接触させて酸化することを特徴とするシクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンの製造方法。
- ヘテロポリ酸化合物におけるヘテロポリ酸アニオンが、下記式(1)
Si1W11Ru1O39 (1)
(式中、Si、W、RuおよびOは、それぞれケイ素、タングステン、ルテニウムおよび酸素を表す。)
で示される組成を有するものである請求項1記載の製造方法。
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