JP4150516B2 - リチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法並びにリチウム二次電池用の負極の製造方法及びリチウム二次電池の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法並びにリチウム二次電池用の負極の製造方法及びリチウム二次電池の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
リチウム二次電池用の負極活物質には現在のところ炭素材料が用いられており、特に結晶性の高い黒鉛が主流になっている。黒鉛は層状構造を有しており、充電時に層のエッジ部からリチウムイオンが層間に侵入し、グラファイト・インターカレーション・コンパウンド(graphite intercalation compounds)が形成される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが黒鉛は、鱗片状に近い形状をしているものが多く、負極形成時に層面が集電体の面と平行になるように堆積する。このため、層のエッジ部が正極に対して垂直に配位し、充電時に正極から脱離したリチウムイオンが層間に円滑に侵入できないという問題があった。
特に、高い電流で充電を行った場合は、黒鉛に対するリチウムイオンの拡散が十分におこなわれず、このため放電容量が低下するという問題があった。
【0004】
また一般にリチウム二次電池は、充電には定電流・定電圧充電方式を採用し、放電は定電流放電方式を採用するため、定電圧充電時に低電流で黒鉛結晶の深部に挿入されたリチウムイオンが、高率放電時に完全に放電しきらずに黒鉛内に残存してしまい、黒鉛のサイクル劣化の一因となっていた。
特に従来のリチウム二次電池では、前述したように、充電時に正極から脱離したリチウムイオンが層間に円滑に侵入できないため、リチウムイオンが黒鉛内により多く残存し、サイクル劣化が激しくなるという問題があった。
【0005】
更に黒鉛は、層面((002)面)の面内方向の電気抵抗率が、面方向の電気抵抗率の約1000倍程度であり、黒鉛の配向方向を制御できれば、黒鉛含有組成物の電気抵抗率の異方性を緩和したり、あるいは逆転することができ、電池の他にも種々の電子機器への応用が可能になる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高率充放電における放電容量及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池用の負極の製造方法及びリチウム二次電池の製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、黒鉛の配向を制御して電気抵抗率の異方性が制御されたリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法は、少なくとも黒鉛粉末及び結着材が溶媒に分散されてなるペーストを基材に塗布した後、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を磁場中で同一方向に配向させた状態で、前記溶媒を除去して前記黒鉛粉末を結着材により固化成形することを特徴とする。
係るリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法によれば、黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、黒鉛粒子間で相互に同一方向に配向することができる。
【0008】
尚、前記磁場は、一対の磁場発生手段の間に前記基材及び前記ペーストを配置することにより発生させることが好ましい。
【0009】
また本発明のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法では、前記基材上において前記黒鉛粉末を前記結着材によりシート状に固化成形するとともに、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、シート面の垂直方向に配向させることが好ましい。
これにより、前記シート面をX線回折の測定面とし、黒鉛の(002)面のX線回折強度をI(002)とし、(110)面のX線回折強度をI(110)としたとき、たとえば基材シートを除いた黒鉛含有組成物の密度が1.5g/cm3以上2.0g/cm3以下のときにI(110)/I(002)(%)≧0.5とすることができる。
【0010】
次に本発明のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法は、少なくとも黒鉛粉末及び結着材からなる混合粉末を、磁場中にて加圧成形法により固化成形することにより、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を同一方向に配向することを特徴とする。
係るリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法によれば、黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、黒鉛粒子間で相互に同一方向に配向することができる。
【0011】
また、本発明のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法では、前記磁場を0.5T以上とすることが好ましい。また、前記磁場の印加はペーストの粘度にもよるが0.1秒以上10分以下の範囲で行うことが好ましい。更に、前記溶媒の除去は、前記ペーストを加熱することにより前記溶媒を蒸発させることにより行うことが好ましい。
【0012】
本発明のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法は、たとえば、リチウムイオン二次電池、燃料電池用電極、放電加工用電極、電解加工用電極、電気二重層コンデンサ、可変抵抗器、カーボン抵抗体、電磁波シールドシート、プリント基板等の製造に適用できるが、特に、リチウムイオン二次電池の製造に適用できる。
【0013】
次に、本発明のリチウム二次電池用の負極の製造方法は、少なくとも黒鉛粉末及び結着材が溶媒に分散されてなるペーストを基材に塗布した後、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を磁場中で同一方向に配向させた状態で、前記溶媒を除去して前記黒鉛粉末を結着材により固化成形することを特徴とする。係るリチウム二次電池用の負極の製造方法によれば、黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、黒鉛粒子間で相互に同一方向に配向することができる。
【0014】
尚、前記磁場は、一対の磁場発生手段の間に前記基材及び前記ペーストを配置することにより発生させることが好ましい。
【0015】
また本発明のリチウム二次電池用の負極の製造方法では、前記基材上において前記黒鉛粉末を前記結着材によりシート状に固化成形するとともに、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、シート面の垂直方向に配向させることが好ましい。
これにより、前記シート面をX線回折の測定面とし、黒鉛の(002)面のX線回折強度をI(002)とし、(110)面のX線回折強度をI(110)としたとき、たとえば基材シートを除いた黒鉛含有組成物の密度が1.5g/cm3以上2.0g/cm3以下のときにI(110)/I(002)(%)≧0.5となる。
【0016】
次に本発明のリチウム二次電池用の負極の製造方法は、少なくとも黒鉛粉末及び結着材からなる混合粉末を、磁場中にて加圧成形法により固化成形することにより、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を同一方向に配向することを特徴とする。
係るリチウム二次電池用の負極の製造方法によれば、黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、黒鉛粒子間で相互に同一方向に配向することができる。
【0017】
また、本発明のリチウム二次電池用の負極の製造方法では、前記磁場を0.5T以上とすることが好ましい。
また、前記磁場の印加はペーストの粘度にもよるが0.1秒以上10分以下の範囲で行うことが好ましい。
更に、前記溶媒の除去は、前記ペーストを加熱することにより前記溶媒を蒸発させることにより行うことが好ましい。
【0018】
次に、本発明のリチウム二次電池の製造方法は、正極と負極とを具備してなるリチウム二次電池の製造方法であり、少なくとも黒鉛粉末及び結着材が溶媒に分散されてなるペーストを基材に塗布した後、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を磁場中で同一方向に配向させた状態で、前記溶媒を除去して前記黒鉛粉末を結着材で固化成形することにより前記負極を製造し、前記正極を、前記負極に対し、前記負極に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面に配置することを特徴とする。
係るリチウム二次電池の製造方法によれば、負極に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、黒鉛粒子間で相互に同一方向に配向させ、前記正極を(002)面に配置するので、負極と正極の間を行き来するリチウムイオンが、充電時に黒鉛の層のエッジ部から層間に円滑に侵入させることができる。
【0019】
尚、前記磁場は、一対の磁場発生手段の間に前記基材及び前記ペーストを配置することにより発生させることが好ましい。
【0020】
また、本発明のリチウム二次電池の製造方法では、前記基材上において前記黒鉛粉末を前記結着材によりシート状に固化成形するとともに、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、シート面の垂直方向に配向させることが好ましい。
これにより、前記シート面をX線回折の測定面とし、黒鉛の(002)面のX線回折強度をI(002)とし、(110)面のX線回折強度をI(110)としたとき、基材シートを除いた黒鉛含有組成物の密度が1.5g/cm3以上2.0g/cm3以下のときにI(110)/I(002)(%)≧0.5となる。
【0021】
次に、本発明のリチウム二次電池の製造方法は、正極と負極とを具備してなるリチウム二次電池の製造方法であり、少なくとも黒鉛粉末及び結着材からなる混合粉末を、磁場中にて加圧成形法により固化成形して、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を同一方向に配向することにより前記負極を製造し、前記正極を、前記負極に対し、前記負極に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面に配置することを特徴とする。
係るリチウム二次電池の製造方法によれば、負極に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、黒鉛粒子間で相互に同一方向に配向させ、前記正極を(002)面の方向に配置するので、負極と正極の間を行き来するリチウムイオンが、充電時に黒鉛の層のエッジ部から層間に円滑に侵入させることができる。
【0022】
また、本発明のリチウム二次電池の製造方法では、前記磁場を0.5T以上とすることが好ましい。
また、前記磁場の印加はペーストの粘度にもよるが0.1秒以上10分以下の範囲で行うことが好ましい。
更に、前記溶媒の除去は、前記ペーストを加熱することにより前記溶媒を蒸発させることにより行うことが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物は、リチウム二次電池用の負極に好適に適用される。
このリチウム二次電池用の負極は、黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面が、黒鉛粒子間で相互に同一方向に配向した状態で、当該黒鉛粉末が結着材によって固化成形されてなるものである。また、上記の負極は、黒鉛粉末が結着材によってシート状に固化成形されてなり、当該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面が、シート面の垂直方向に配向していることが好ましい。特にこの負極を、正極と負極と電解質とを具備してなるリチウム二次電池に適用した場合は、前記の(002)面が、前記正極の方向に配向していることが好ましい。尚、本発明に係る負極は、上記のシート状に固化成形されたものに限るものではなく、円柱状、円盤状、板状若しくは柱状に固化成形したペレットであっても良い。この場合、負極中の黒鉛粒子の(002)面は、前記正極の方向に配向していることが好ましい。
【0024】
黒鉛は、炭素の6員環が連なる層が多数積層されてなる構造を示すもので、充電時に層間にリチウムイオンが挿入されてグラファイト・インターカレーション・コンパウンド(graphite intercalation compounds)が形成される。
一般に、黒鉛における炭素の6員環が連なる層の面内方向は(002)面で表され、炭素の6員環が連なる層の積層方向は(002)面方向あるいは(110)面の方向で表される。
リチウムイオンは充放電時に、6員環が連なる層のエッジ部近傍から層の面内方向、即ち(002)面に沿って層間に侵入する。
【0025】
本発明に係る負極では、当該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面が、正極の方向に配向しているので、正極から移動してきたリチウムイオンが円滑に黒鉛の層間に侵入することができる。
これにより、特に高い電流で充電を行った場合でも、黒鉛に対するリチウムイオンの拡散が十分に行われるので、放電容量を高めることができる。
【0026】
また、定電圧充電時に低電流で黒鉛結晶の深部に挿入されたリチウムイオンが、高率放電時に完全に放電しきらずに黒鉛内に残存してしまうことがなく、黒鉛のサイクル特性を向上させることができる。
【0027】
本発明に係る黒鉛は、特に高結晶性のものが好ましく、例えば黒鉛の粉末状態での(002)面のX線回折強度をI(002)とし、(110)面のX線回折強度をI(110)としたとき、I(110)/I(002)(%)が1.0以上のものが好ましい。すなわち、6員環が連なる層からなる層構造が高度に発達したものが好ましい。このような黒鉛を用いることにより、放電電圧が比較的安定になり、高い充放電容量を示すことができる。
このような黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、熱分解黒鉛等を例示できる。
【0028】
次に、本発明に係る結着材は、有機質または無機質のいずれでも良いが、黒鉛粉末と共に溶媒に分散あるいは溶解し、更に溶媒を除去することにより黒鉛粉末を結着させるものであればどのようなものでもよい。また、黒鉛粉末と共に混合し、加圧成形等の固化成形を行うことにより黒鉛粉末を結着させるものでもよい。このような結着材としてビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フェノール樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが使用でき、たとえばポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンラバー、等の樹脂を例示できる。
また、本発明に係る負極においては、黒鉛及び結着剤の他に、導電助材としてカーボンブラック等を添加しても良い。
【0029】
本発明に係る負極は、例えば上記の黒鉛粉末が結着材によりシート状に固化成形された状態で、前記のシート面をX線回折の測定面とし、黒鉛の(002)面のX線回折強度をI(002)とし、(110)面のX線回折強度をI(110)としたとき、基材シートを除いた黒鉛含有組成物の密度が1.5g/cm3以上2.0g/cm3以下のときにI(110)/I(002)(%)≧0.5であることが好ましい。
これにより、例えばシート状の上記負極にセパレータを介してシート状の正極を積層した場合に、黒鉛の(002)面が正極の方向に配向し、炭素原子の6員環が連なる層のエッジ部が正極に対向することになる。
これにより、正極から移動してきたリチウムイオンが、このエッジ部から黒鉛の層間に円滑に侵入するため、特に高い電流で充電を行った場合に、黒鉛に対するリチウムイオンの拡散が十分に行われるので、放電容量を高めることができる。
また、I(110)/I(002)(%)は、基材シートを除いた黒鉛含有組成物の密度が1.5g/cm3以上2.0g/cm3以下のときに10以下であることが好ましい。I(110)/I(002)(%)が10を越えると、集電体との接着面積が小さくなり、サイクル特性の低下を招く。
【0030】
また本発明に係るリチウム二次電池は、上記の負極と、正極と、電解質を少なくとも具備してなるものである。
そして、負極に対する正極の位置を、負極に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面の方向とすることが好ましい。
これにより、負極と正極の間を行き来するリチウムイオンを、充電時に黒鉛の層のエッジ部から層間に円滑に侵入させることができる。
【0031】
正極としては例えば、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、LiFeO2、V2O5、TiS、MoS等、及び有機ジスルフィド化合物や有機ポリスルフィド化合物等のリチウムを吸蔵、放出が可能な正極活物質を含むものを例示できる。
また、上記の正極には、上記正極活物質の他に、ポリフッ化ビニリデン等の結着材や、カーボンブラック等の導電助材を添加しても良い。
正極及び負極の具体例として、上記の正極または負極を金属箔若しくは金属網からなる集電体に塗布してシート状に成形したものを例示できる。
またこの他に、従来からリチウム二次電池の正極もしくは負極して知られているものを用いることもできる。
【0032】
更に電解質としては、例えば、非プロトン性溶媒にリチウム塩が溶解されてなる有機電解液を例示できる。
非プロトン性溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジエチレングリコール、ジメチルエーテル等の非プロトン性溶媒、あるいはこれらの溶媒のうちの二種以上を混合した混合溶媒を例示でき、特にプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートのいずれか1つを必ず含むとともにジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートのいずれか1つを必ず含むことが好ましい。
【0033】
また、リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiN(CxF2x+1SO2)(CyF2y 十 1SO2)(ただしx、yは自然数)、LiCl、LiI等のうちの1種または2種以上のリチウム塩を混合させてなるものを例示でき、特にLiPF6、LiBF4のいずれか1つを含むものが好ましい。
またこの他に、リチウム二次電池の有機電解液として従来から知られているものを用いることもできる。
【0034】
また電解質の別の例として、PEO、PVA等のポリマーに上記記載のリチウム塩のいずれかを混合させたものや、膨潤性の高いポリマーに有機電解液を含浸させたもの等、いわゆるポリマー電解質を用いても良い。
更に、本発明のリチウム二次電池は、正極、負極、電解質のみに限られず、必要に応じて他の部材等を備えていても良く、例えば正極と負極を隔離するセパレータを具備しても良い。
【0035】
次に本発明の負極の製造方法の一例を図面を参照して説明する。図1〜図3は、本発明に係るシート状の負極の製造方法の工程図である。
まず図1に示すように、黒鉛と結着材と溶媒とが混合されてなるペースト1を用意し、このペースト1を、ローラ3を介してCu箔等からなる集電体2(基材)に塗布する。
ペーストに添加する黒鉛粉末は、上述したように高結晶性のものが好ましく、粉末状態のXRD強度比I(110)/I(002)(%)が1.0以上のものが好ましい。すなわち、6員環が連なる層からなる層構造が高度に発達したものが好ましい。このような黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、熱分解黒鉛等を例示できる。
また結着材は、有機質または無機質のいずれでも良いが、黒鉛粉末と共に溶媒に分散あるいは溶解し、更に溶媒を除去することにより黒鉛粉末を結着させるものであればどのようなものでもよい。このような結着材としてビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フェノール樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが使用でき、たとえばポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンラバー、等の樹脂を例示できる。
また、本発明に係る負極においては、黒鉛及び結着剤の他に、導電助材としてカーボンブラック等を添加しても良い。
更に溶媒としては、黒鉛粉末及び結着材を均一に分散させるものが好ましく、特に結着材を溶解するものがより好ましい。このような溶媒としてはたとえば、N-メチルピロリドン、水等を例示できる。
【0036】
次に図2に示すように、ペースト1に含まれる溶媒が揮発しないうちに、集電体2ごとペースト1を0.5T以上の磁場中に通過させる。
溶媒が揮発していないため、黒鉛はペースト中に分散して固化成形されていない状態である。即ち、各黒鉛粒子の(002)面は、黒鉛粒子毎に不規則な方向を向いた状態である。
このような状態の黒鉛を磁場中に置くと、黒鉛の(002)面が、磁場中の磁力線の方向に沿って一方向に配向する。これは、黒鉛が本来、反磁性帯磁率の異方性があり、磁場中では、磁場の方向に対して基底面が平行になった方がエネルギー的に安定であるためである。
【0037】
ペーストに印加する磁場は、磁力線が相互に平行なる均一磁場であることが好ましい。磁場内で磁力線の方向に分布が生じると、黒鉛粒子の配向方向に分布が生じ、黒鉛の(002)面を一方向に配向させることが困難になるので好ましくない。
従って磁場は、図2に示すように、例えば磁場発生手段としての一対の電磁石4,4を、集電体2及びペースト1の図中上下に配置した状態で、磁力線(図中電磁石4,4間の矢印)の方向に分布を生じさせないようにして発生させることが好ましい。
【0038】
また磁場の強度は、0.5T以上、より好ましくは1T以上がよい。磁場強度が0.5T未満だと、黒鉛の(002)面を一方向に配向させることが困難になるので好ましくない。また磁場強度の上限は特に限定されるものではないが、例えば2.5T以下程度でよい。実際には、磁場強度の上限は使用する電磁石の性能により決定される。また、上記工程において、電磁石の代わりに超伝導磁石を使用することもできる。
また、磁場の印加時間は、数秒〜数分程度で良く、より具体的には例えば0.1秒以上10分以下程度でよい。
【0039】
次に図3に示すように、磁場を通過させたペースト1及び集電体2を、加熱炉5内に送り、ペーストに含まれる溶媒を除去する。ペースト中の溶媒が除去されることにより黒鉛と結着材が集電体2上に残存し、黒鉛が結着材により固化成形される。
ペースト2は、黒鉛粒子の(002)面が磁場により一方向に配向された状態で加熱炉5に導入されるため、加熱後においても黒鉛粒子の配向方向がそのままの状態で維持される。
【0040】
最後に図3に示すように、加熱炉5から搬出された集電体2は、プレスローラ6,6に送られてプレスされる。
そして、図示略の裁断機等で集電体2が適当な大きさに裁断される。
このようにして、本発明に係るシート状の負極が形成される。
【0041】
次に、本発明に係る負極の製造方法の別の例を図面を参照して説明する。図4〜図6は、本発明に係るペレット状の負極の製造方法の工程図である。
まず図4に示すように、黒鉛と結着材とが混合されてなる混合物11(粉末)を用意し、この混合物11を、中空円柱状の型12及び上パンチ13並びに下パンチ14からなる加圧成型用の成形型15の内部に収納する。
この成形型15の上パンチ13及び下パンチ14には、図示略の電磁石等の磁場発生手段が内蔵されている。
また電磁石等の磁場発生手段から発した磁力線の漏れを防いで均質な磁場を発生させるために、中空円柱状の型12を、非磁性材料で形成することが好ましい。
尚、混合物11に含まれる黒鉛及び結着材は、上述したものと同等のものである。また、黒鉛及び結着材の他に、導電助材としてカーボンブラック等を添加しても良い。
【0042】
次に図5に示すように、上パンチ13を下降させて混合物11を上下パンチ13,14により圧縮しつつ、上下パンチ13,14に内蔵された電磁石を作動させて磁場を発生させる。
磁場が発生すると、それまで不規則な方向を向いていた混合物11中の黒鉛粒子の(002)面が、磁場中の磁力線の方向に沿って一方向に配向する。これは上記と同様に黒鉛の反磁性帯磁率の異方性による磁気異方性モーメントに起因するものである。
【0043】
混合物11に印加する磁場は、磁力線が相互に平行な均一磁場であることが好ましい。磁場中で磁力線の方向に分布が生じると、黒鉛粒子の配向方向に分布が生じ、黒鉛の(002)面を一方向に配向させることが困難になるので好ましくない。
従って図5に示すように、例えば非磁性材料で形成した型12の内部で磁場を発生させることが好ましく、これにより、磁力線の漏れを防いで均質な磁場を混合物11に印加することができる。
【0044】
また磁場の強度は、前述の場合と同様に、0.5T以上、より好ましくは1T以上がよい。また、磁場の印加時間は、前述と同様に数秒〜数分程度で良く、より具体的には例えば0.1秒以上10分以下程度でよい。
【0045】
次に図6に示すように、上パンチ13を更に下降させて混合物11を上下パンチ13,14でより緻密に圧縮して混合物を固化成形することにより、黒鉛粒子を結着材で固定させる。混合物11は、黒鉛粒子の(002)面が磁場により一方向に配向された状態で固化成形されるため、黒鉛粒子の配向方向がそのままの状態で維持される。
このようにして、本発明に係るペレット状の負極が形成される。
【0046】
また、上述した正極と、上記の製造方法により得られた負極とで電解質を挟むことにより、本発明に係るリチウム二次電池を製造できる。
この場合、前記負極と正極を対向させることにより、前記負極に含まれる黒鉛粒子のエッジ面が正極の方向に配置される。
これにより、負極と正極の間を行き来するリチウムイオンを、充電時に黒鉛の層のエッジ部から層間に円滑に侵入させることができる。
【0047】
【実施例】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
図1〜図3により説明した負極の製造方法に準じて、リチウム二次電池用の負極の製造を行った。
まず、負極活物質として天然黒鉛を用意した。この天然黒鉛は、粉末の状態でI(110)/I(002)(%)が3.0を示すものである。
上記の天然黒鉛96重量部に対し、スチレンブタジエンゴム2重量部、カルボキシメチルセルロース2重量部、水 130重量部を混合し、15分間攪拌することでペーストを調製した。次に、得られたペーストを、図1に示すように、厚さ14μmの銅箔(集電体)に塗布した。塗布の直後に、ペーストを銅箔ごと図2に示すような一対の電磁石の間に配置し、磁場を2.3Tに設定し、約2分間印加した。
【0048】
続いて図3に示すように、ペーストを銅箔ごと加熱炉で乾燥して溶媒を蒸発させた。加熱条件は、60℃で30分乾燥した後、120℃で24時間乾燥する条件で行った。最後にローラープレスを行い、厚さ90μm、嵩密度1.5g/cm3のシート状の負極を得た。
このシート状の負極に対してX線回折測定を行った。X線回折は、シート面を測定面として行い、I(110)/I(002)(%)を求めた。結果を表1に示す。なお、表1にはロールプレス前後のI(110)/I(002)(%)を示す。
【0049】
次に、シート状の負極を銅箔ごと直径13mmの円盤状に打ち出してコインセル用の負極とし、ポリプロピレン製のセパレータと金属リチウムからなる対極(正極)とを順次積層してコイン型電池を製造した。
尚、金属リチウム(正極)は、前記負極と対向するように設置する。
このコイン型電池に対し、定電流定電圧充電、定電流放電を1サイクルとする充放電サイクルを4度行って電池を活性化させた後、更に50回の充放電サイクルを行い、1サイクル目に対する50サイクル後の容量維持率(%)を求めた。結果を表1に併せて示す。
尚、活性化のための初期の4回の充放電の条件は、充電電流 0.2 Cで0.001V(vs Li+/Li)まで定電流充電した後に、充電電流が0.01Cになるまで定電圧充電を行った後、放電電流 0.2 Cで1.5VV(vs Li+/Li)まで定電流放電を行う条件とした。
更に、活性化後の50回の充放電の条件は、充放電電流を1Cとし、定電圧充電を0.01Cまで行うこと以外は上記の活性化の充放電条件と同一とした。
【0050】
【表1】
【0051】
図1に示すように、X線回折の強度比を示すI(110)/I(002)(%)は、磁場強度が高くなるにつれて向上しており、磁場強度2.3Tで処理した負極(No.6)の強度比は磁場処理を行わない負極(No.1)の強度比の約19倍になっており、磁場中で処理を行うことにより、黒鉛粒子の(002)面が、シート面の垂直方向に強く配向していることがわかる。
磁場強度の好ましい範囲を容量維持率の結果から検討すると、0.5Tでも容量維持率が54.5%程度に改善し、2Tでは73%まで改善していることがわかる。このことから、磁場強度の好ましい範囲は0.5T以上であり、より好ましい範囲は1T以上であることがわかる。
【0052】
また図7には、No.1とNo.6のコイン型電池の5サイクル目、すなわち1C充電・1C放電の1サイクル目の放電曲線を示す。
図7から明らかなように、磁場強度2.3Tの負極(No.6)のリチウムに対する電位差は、磁場処理を行わない負極(No.1)の場合よりも小さくなっていることがわかる。これは、No.6の負極ではI(110)/I(002)(%)が高いため、黒鉛の炭素6員環からなる層のエッジ部がリチウム(正極)側に向いており、リチウムイオンの脱離が円滑に行われてリチウムイオンの拡散速度が高くなるとともに、電気伝導率の異方性が緩和され、電極のインピーダンスが低くなったためと考えられる
【0053】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法によれば、各黒鉛粒子の(002)面を一定方向に配向させることができるとともに、電気伝導性の異方性を制御することができる。
【0054】
すなわち、本発明のリチウム二次電池用の負極の製造方法によれば、黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、集電体に塗布後、塗布した面に対し垂直に再配向させることができる。
【0055】
この場合、前記正極を黒鉛のエッジ方向に配置するので、負極と正極の間を行き来するリチウムイオンが、充電時に黒鉛の層のエッジ部から層間に円滑に侵入させることができる。
これにより、特に高い電流で充電を行った場合でも、黒鉛に対するリチウムイオンの拡散が十分に行われるので、放電容量を高めることができる。
更に、定電圧充電時に低電流で黒鉛結晶の深部に挿入されたリチウムイオンが、高率放電時に完全に放電しきらずに黒鉛内に残存してしまうことがなく、黒鉛のサイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態であるリチウム二次電池用の負極の製造方法の一例を説明する工程図。
【図2】 本発明の実施形態であるリチウム二次電池用の負極の製造方法の一例を説明する工程図。
【図3】 本発明の実施形態であるリチウム二次電池用の負極の製造方法の一例を説明する工程図。
【図4】 本発明の実施形態であるリチウム二次電池用の負極の製造方法の別の例を説明する工程図。
【図5】 本発明の実施形態であるリチウム二次電池用の負極の製造方法の別の例を説明する工程図。
【図6】 本発明の実施形態であるリチウム二次電池用の負極の製造方法の別の例を説明する工程図。
【図7】 No.1とNo.6のコイン型電池の 5 サイクル目の放電曲線を示すグラフ。
【符号の説明】
1 ペースト
2 集電体(基材)
4 電磁石(磁場発生手段)
11 混合物
12 型
13 上パンチ
14 下パンチ
Claims (18)
- 少なくとも黒鉛粉末及び結着材が溶媒に分散されてなるペーストを基材に塗布した後、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を磁場中で同一方向に配向させ、前記溶媒を除去して前記黒鉛粉末を結着材により固化成形することを特徴とするリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法。
- 前記磁場は、一対の磁場発生手段の間に前記基材及び前記ペーストを配置することにより発生させることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法。
- 前記基材上において前記黒鉛粉末を前記結着材によりシート状に固化成形するとともに、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、シート面の垂直方向に配向させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法。
- 少なくとも黒鉛粉末及び結着材からなる混合粉末を、磁場中にて加圧成形法により固化成形することにより、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を同一方向に配向することを特徴とするリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法。
- 前記磁場が0.5T以上であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法。
- 前記溶媒の除去は、前記ペーストを加熱することにより前記溶媒を蒸発させることにより行うことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池の負極用の黒鉛含有組成物の製造方法。
- 少なくとも黒鉛粉末及び結着材が溶媒に分散されてなるペーストを基材に塗布した後、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を磁場中で同一方向に配向させた状態で、前記溶媒を除去して前記黒鉛粉末を結着材により固化成形することを特徴とするリチウム二次電池用の負極の製造方法。
- 前記磁場は、一対の磁場発生手段の間に前記基材及び前記ペーストを配置することにより発生させることを特徴とする請求項7に記載のリチウム二次電池用の負極の製造方法。
- 前記基材上において前記黒鉛粉末を前記結着材によりシート状に固化成形するとともに、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、シート面の垂直方向に配向させることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のリチウム二次電池用の負極の製造方法。
- 少なくとも黒鉛粉末及び結着材からなる混合粉末を、磁場中にて加圧成形法により固化成形することにより、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を同一方向に配向することを特徴とするリチウム二次電池用の負極の製造方法。
- 前記磁場が0.5T以上であることを特徴とする請求項7または請求項10に記載のリチウム二次電池用の負極の製造方法。
- 前記溶媒の除去は、前記ペーストを加熱し、前記溶媒を蒸発させることにより行うことを特徴とする請求項7に記載のリチウム二次電池用の負極の製造方法。
- 正極と負極とを具備してなるリチウム二次電池の製造方法であり、少なくとも黒鉛粉末及び結着材が溶媒に分散されてなるペーストを基材に塗布した後、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を磁場中で同一方向に配向させた状態で、前記溶媒を除去して前記黒鉛粉末を結着材で固化成形することにより前記負極を製造し、前記正極を、前記負極に対し、前記負極に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面に配置することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。
- 前記磁場は、一対の磁場発生手段の間に前記基材及び前記ペーストを配置することにより発生させることを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池の製造方法。
- 前記基材上において前記黒鉛粉末を前記結着材によりシート状に固化成形するとともに、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子の(002)面を、シート面の垂直方向に配向させることを特徴とする請求項13または請求項14に記載のリチウム二次電池の製造方法。
- 正極と負極とを具備してなるリチウム二次電池の製造方法であり、少なくとも黒鉛粉末及び結着材からなる混合粉末を、磁場中にて加圧成形法により固化成形して、該黒鉛粉末中に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面を同一方向に配向することにより前記負極を製造し、前記正極を、前記負極に対し、前記負極に含まれる黒鉛粒子同士の(002)面に配置することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。
- 前記磁場が0.5T以上であることを特徴とする請求項13または請求項16に記載のリチウム二次電池の製造方法。
- 前記溶媒の除去は、前記ペーストを加熱して前記溶媒を蒸発させることにより行うことを特徴とする請求項13に記載のリチウム二次電池の製造方法。
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