JP4128692B2 - 染色された全芳香族ポリアミド短繊維を有する複合紡績糸およびそれを用いてなる布帛 - Google Patents

染色された全芳香族ポリアミド短繊維を有する複合紡績糸およびそれを用いてなる布帛 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、染色性、耐切創性、耐熱性に優れた芯鞘型複合紡績糸および該紡績糸からなるプリーツ性、防しわ性などの形態保持性に優れ、仕立て栄えの良好な布帛に関する。さらに詳しくは、切創、擦過溶融、火傷の危険の高い職場に用いられる防護被服やアウトドアスポーツなどの過酷な環境下で着用に耐える防護被服素材に好適な芯鞘型複合紡績糸および布帛に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年では、作業効率化、高速化、省力化が進み、労働、交通災害の危険性が高くなり人命尊重の観点からも安全性向上が強く望まれている。一方スポーツにおいても多岐に渡り参加人数も増え活発になり、スノーボード、フィッシング、登山などのアウトドアスポーツへの参加人口の伸びが著しく、それにともないスポーツ衣料素材も従来以上に耐久性、機能性が要求されるようになり、特に、耐切創性、耐熱性などの機能性に優れ、プリーツ性、防しわ性、形態保持性、カラフルな色彩などの審美性の優れたものが望まれている。また溶接や製鉄工場などで用いる耐熱作業服や消防防火服等においても高度の耐熱性が要求されている。
【0003】
これに対して、耐切創性に優れ、耐熱性が高く、耐薬品性、糸強度が高い全芳香族ポリアミド繊維が幅広く用いられるている。
【0004】
例えば、パラ系アラミド繊維100%のフィラメント糸や紡績糸を部分的に用いて交織するものが実公平1−36600号公報や特公昭62−26900号公報、特開平2−292036号公報などで提案されている。これらはいずれも引裂抵抗性、耐切創性は向上するが、パラ系アラミド繊維は本質的に耐熱性繊維であるがため熱セット性が乏しく、縫製された衣服の仕立て栄え、着用中のプリーツの消去としわの発生という形態保持性が劣る欠点がある。また一般にパラ系アラミド繊維等の高強力繊維は、耐切創性、耐熱性に優れているが結晶性が高く、分子間結合力が強固で緻密な分子構造を有しているため染色性が悪く、他の汎用繊維に適用される染色技術により染色するのが困難であるので、パラ系アラミド繊維の染色はほとんど実施されていないのが現状であり、次のような改善手段の提案がなされている。
【0005】
特開平3−830号公報では芯部にパラ系アラミド繊維、鞘部にポリエステル繊維を配置した芯鞘型複合紡績糸やポリエステル短繊維とパラ系アラミド繊維の均一混紡の特開平6−220730号、ポリエステル短繊維と芳香族ポリアミド繊維とセルロース系繊維の均一混紡の特開平4−50340が提案されている。しかしながら、これら提案の従来技術では染色が困難であったパラ系アラミド繊維の布帛表面への出現があり、濃色染めやカラフルな色相への染色性に問題があり、従来の染色設備が使用できないなどの問題を有していた。
【0006】
一方、紡糸原液に顔料や染料を添加して着色する原液着色の手段があるが、色数の制限があり顧客毎の色相の対応は困難である。
【0007】
パラ系アラミド繊維とポリエステル繊維やセルロース系繊維との均一混紡は染料の種類の異なるそれぞれの繊維が混紡糸表面に出現するので色相の統一性において問題がある。また、切創抵抗の低いポリエステル繊維やセルロース系繊維が布帛表面にも出現するのでパラ系アラミド繊維100%布帛と比較すると耐切創性、耐熱性が劣っているのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の欠点を解決せんとするものであって、炎や高温にさらされる作業である消防服や高熱作業服において、耐熱、切創などの機能を充分に発揮し、仕立て栄え、プリーツ保持性、防しわ性などの形態保持性に優れ、濃色に染まり、カラフルで鮮明な色彩に染色可能な審美性をも兼ね備えたアウトドアスポーツ衣料や防護被服用素材を安定的に供給することが可能な芯鞘型複合紡績糸および布帛を提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の芯鞘型複合紡績糸は、次の構成からなる。
【0010】
(1)染色された全芳香族ポリアミド短繊維が鞘成分を構成し、ポリエステルフィラメント糸が芯成分を構成した芯鞘型複合紡績糸であって、上記紡績糸に占める全芳香族ポリアミド短繊維の割合が65〜90重量%であり、上記ポリエステルフィラメント糸の紡績糸に占める割合が10〜35重量%であることを特徴とする芯鞘型複合紡績糸。
【0011】
(2)鞘成分の染色された全芳香族ポリアミド短繊維がパラ系アラミド短繊維であることを特徴とする前記(1)に記載の芯鞘型複合紡績糸。
【0012】
(3)鞘成分の全芳香族ポリアミド短繊維が染色されたパラ系アラミド短繊維とメタ系アラミド短繊維との混紡されたものであることを特徴とする前記(1)に記載の芯鞘型複合紡績糸。
【0013】
(4)鞘染色されたパラ系アラミド短繊維が紡績糸に占める割合が25〜90重量%であることを特徴とする前記(3)に記載の芯鞘型複合紡績糸。
【0014】
(5)メタ系アラミド短繊維が紡績糸に占める割合が60重量%以下であることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の芯鞘型複合紡績糸。
【0015】
(6)パラ系アラミド短繊維が、5以上の固有粘度IV(ηinh )を持つポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)と濃硫酸から紡糸用ドープをつくり、該ドープを紡糸口金の細孔を通して一旦空気中に紡出し、直ちに水中に導き凝固させ、高強度、高弾性率のフィラメントを形成する工程と、該フィラメントに捲縮を与えカットしてステープルとなす工程と、該フィラメントを染色する工程を連続することなく別々の工程で実施する方法において、染色前のパラ系アラミド繊維の引張強度が15g/d以上、結晶サイズ(110方向)が30〜55オングストロームであり、染色前の水分含量が常に8%以上に維持して形成されたものであることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれかに記載の芯鞘型複合紡績糸。
【0016】
(7)染色されたパラ系アラミド短繊維、またはメタ系アラミド短繊維の単繊維繊度が0.5〜4.5デニールであり、撚係数がK=2.6〜6.0であることを特徴とする前記(2)〜(6)のいずれかに記載の芯鞘型複合紡績糸。
【0017】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の芯鞘型複合紡績糸を布帛重量の30〜100重量%の範囲で用いてなることを特徴とする布帛。
【0018】
(9)防護衣服用であることを特徴とする前記(8)に記載の布帛。
【0019】
【発明の実施の形態】
このように本発明では、芯鞘型複合紡績糸の鞘成分に染色されたパラ系アラミド短繊維、もしくは染色されたパラ系アラミド短繊維とメタ系アラミド短繊維を使用して、ポリエステルフィラメント糸を主体とする芯成分の周りを被覆して、染色性を向上させ、ポリエステルフィラメント糸の耐切創、耐熱性の低さをカバーして、染色されたパラ系アラミド短繊維、もしくは染色されたパラ系アラミド短繊維とメタ系アラミド短繊維を複合糸表面に出し、パラ系アラミド短繊維、メタ系アラミド短繊維の機能性を十分に発揮させ、芯部のポリエステルフィラメント糸により、仕立て栄え、プリーツ保持性、防しわ性などの形態保持性を付与させるものである。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の芯鞘型複合紡績糸は、パラ系アラミド繊維の衣料用途使用の大きな欠点である染色性および仕立て栄え、プリーツ性、防しわ性、形態保持性などの審美性付与についてパラ系アラミド繊維の持つ機能特性を損なうことなく実現すべく鋭意検討し、染色可能なパラ系アラミド繊維は、5以上の固有粘度IV(ηinh )を持つポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAと略称)と濃硫酸から紡糸用ドープをつくり、該ドープを紡糸口金の細孔を通して一旦空気中に紡出し、直ちに水中に導き凝固させ、高強度、高弾性率のフィラメントを形成する工程と、該フィラメントを染色する工程を連続することなく別々の工程で実施する方法において、染色前のパラ系アラミド繊維の引張強度が15g/d以上であり、結晶サイズ(110方向)が30〜55オングストロームであり、染色前の水分含量が常に8%以上に維持することによって製造することができる
本発明において、固有粘度IV(ηinh )は次の方法によって測定したものである。
【0022】
固有粘度IV(ηinh )=(ln・ηrel)/c
[式中、cはポリマー溶液の濃度(溶媒100mL中0.5gのポリマー)であり、そしてηrel(相対粘度)は、毛細管粘度計を用いて30℃で測定した時にポリマー溶液が示す流れ時間とその溶媒が示す流れ時間との間の比率である]で固有粘度(IV)を定義する。本発明における固有粘度値は、濃硫酸(96%H2 SO4 )を用いて測定した値である。
【0023】
かかる繊維は要求される強度特性から、引張強度が15g/d以上、破断伸度が2〜5%であることが好ましい。
【0024】
前記染色されたパラ系アラミド短繊維を用いることで多種の色相に鮮やかに染色可能となるのである。
【0025】
パラ系アラミド短繊維、メタ系アラミド短繊維の特徴である、耐切創性、耐熱性の機能を十分に発揮させるには、種々検討した結果、紡績糸、布帛の表面に染色されたパラ系アラミド短繊維、もしくは染色されたパラ系アラミド短繊維とメタ系アラミド短繊維を配置するのが効果が高く最適であることを見出したのである。
【0026】
また、防護衣服の仕立て栄え、プリーツ保持性、防しわ性などの形態保持性を得るにはポリエステル繊維の優れた熱セット性を利用するのが効果が高く最適であり、いかにパラ系アラミド短繊維、メタ系アラミド短繊維と混紡組み合わせるか種々検討した結果、紡績糸の中心部にポリエステルフィラメント糸を配置して、外周部を染色されたパラ系アラミド短繊維、染色されたパラ系アラミド短繊維とメタ系アラミド短繊維で覆うことで、ポリエステル繊維の耐切創、耐熱性の低さを防護し、かつポリエステル繊維の持つ熱セット性を十分発揮できることを見出したのである。
【0027】
本発明の芯鞘型複合紡績糸は、芯成分がポリエステルフィラメント糸で構成され、芯成分のポリエステルフィラメント糸が紡績糸に占める割合が10〜35重量%の範囲で構成されるものである。ポリエステルフィラメント糸が10重量%未満では防護衣服への満足する熱セット性、形態保持性を付与することができにくくなる。また、ポリエステルフィラメント糸が35重量%を越えるとポリエステルフィラメント糸の弱点である耐熱性、耐切創性の低下が現われ、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維の優れた高機能特性を損ない好ましくない。芯成分のポリエステルフィラメント糸が紡績糸に占める割合が15〜30重量%の範囲がより好ましい。
【0028】
一方、鞘成分は好ましくは染色されたパラ系アラミド短繊維100重量%、もしくは染色されたパラ系アラミド短繊維とメタ系アラミド短繊維の100重量%で構成されている。100重量%より少なくなると染色されたパラ系アラミド短繊維、もしくはメタ系アラミド短繊維の優れた機能特性を十分に発揮させることができず好ましくない。
【0029】
また、鞘成分の紡績糸に占める割合は65〜90重量%の範囲とする。65重量%未満では芯成分のポリエステルフィラメント糸を鞘成分のパラ系アラミド短繊維、もしくはメタ系アラミド短繊維で十分に被覆することが難しくなり、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維の優れた機能特性を十分に発揮させることができなくなる。また、90重量%を越えると芯成部のポリエステルフィラメント糸の混率が低くなり、十分な熱セット性が得られない。好ましくは鞘成分の紡績糸に占める割合は65〜80重量%の範囲である。
【0030】
ここでいうパラ系アラミド繊維とは、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン−3,4,オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などの15g/d以上の強度を持つ高強度のパラ系アラミド繊維である。
【0031】
また、上記のメタ系アラミド繊維とは、例えばポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維があげられる。
【0032】
本発明の染色されたパラ系アラミド短繊維が紡績糸に占める割合は25〜90重量%であり、染色されたパラ系アラミド短繊維にメタ系アラミド短繊維を混紡した場合には、メタ系アラミド短繊維が紡績糸に占める割合が60重量%以下で混紡することが好ましく、各々要求される防護衣服特性により選定するのが良い。
【0033】
次に、上記、芯鞘型複合紡績糸の鞘成分を構成する短繊維束について説明する。本発明の短繊維束は、染色されたパラ系アラミド短繊維、もしくは染色されたパラ系アラミド短繊維とメタ系アラミド短繊維とを通常の短繊維紡績工程である打綿、梳綿、練条、粗紡、精紡などの各工程を通すことにより作成されるスライバーや粗糸である。また、繊維長を長くして(76〜160mm)一般のソ毛紡績を通したスライバーや粗糸でもよい。短繊維の繊度は0.5〜4.5デニールが好ましく、複合加工性の面から0.8〜2.5デニールがより望ましい、繊維長については特に限定しないが紡績方法に合わせ最適な繊維長を選ぶのが良い。
【0034】
本発明におけるパラ系アラミド繊維とは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用できる。本発明のパラ系アラミド繊維は、5以上の固有粘度IV(ηinh )を持つPPTAと濃硫酸から光学異方性ドープをつくり、該ドープを紡糸口金の細孔を通して一旦空気中に紡出し、直ちに水中に導き凝固させ、ネルソンローラに導いて水酸化ナトリウム水溶液で中和処理し、水洗工程をへてホットロールによってわずかに乾燥し、フィラメントとしてチューブに巻き取る工程を途切れることなく通過させて得られる。巻き取ったパラ系アラミド繊維は、染色工程までの間に乾燥しないようポリエチレンフィルムなどによって包装される。この段階で繊維の引張り弾性率は400g/Dを越えており高弾性率糸としての性能を備えているが、弾性率をさらに向上させるために、乾燥後350〜400℃で5〜10秒熱処理すると結晶化度は50%を越えるのが普通である。
【0035】
本発明に用いるPPTAの固有粘度IV(ηinh )は5以上が望ましい。固有粘度IV(ηinh )が5未満では高強度、高弾性率の繊維物性が得られにくい。
【0036】
本発明のパラ系アラミド繊維は、結晶サイズ(110方向)が30〜55オングストロームであり、かつ水分量が常に8%以上であることが必要である。結晶サイズが30オングストローム未満では繊維の緻密化が不十分で高強度、高弾性率の繊維物性が得られないし、55オングストロームを越えると染色が困難となる。
【0037】
ここで、水分量が常に8%以上とは、8%以下に乾燥した履歴を持たないということである。水分率が8%以下に乾燥すると構造が緻密となり、染色が困難となる。再び水分を付与しても染色性は回復しない。好ましくは、パラ系アラミド繊維の水分率は15〜48%が望ましい。このような水分率にするには、紡糸したパラ系アラミド繊維を、100〜150℃で5〜20秒間低温乾燥することが望ましい。乾燥温度が100℃未満では水分の除去が難しく、チューブに巻き取った後の扱いに問題が生じる。150℃を越えると結晶化が進み、染色が困難になる。水分率が50%を越えると糸道ガイドの抵抗が増しフィラメントの巻き取りが困難となる。
【0038】
本発明においては、このような物性を有するパラ系アラミド短繊維を染色処理する染色方法は、特殊な設備や特殊な方法を必要とせず、既存の合成繊維の染色設備を用いることができる。適量の染料と助剤および酸を加えてPHを調整し、60℃で染色を開始し、60分間で130℃に昇温し30分間染色することによって達せられる。染料はカチオン染料、分散染料を用いることができるが、緻密な構造にも浸透しやすいカチオン染料が望ましい。
【0039】
染色したパラ系アラミド繊維フィラメントを、クリンパーにかけて、捲縮を与え、紡績に適した長さ、たとえば通常スクエアカットにより、1.5インチ〜6インチにカットして着色したパラ系アラミド繊維ステープルを得ることができる。
【0040】
またステープル化は、平均繊維長±2インチのバリアブルカットによっても行われ、長繊維を把持した一対以上のローラ間の速度差によってカットする牽切方式によりステープル化する方法によってもよい。染色加工はステープル化前のフィラメントまたはサブトウあるいは、ステープル化の後でもよい。
【0041】
つぎに上記染色可能なパラ系アラミド短繊維をダークグリーンに染色した染色方法の一例について述べる。
【0042】
owfは乾燥した繊維重量に対する染料の重量%を示す。g/lは調合した染浴1リットルに対する助剤の重量割り合いを示す。
【0043】
染料 Astrazon Yellow 7GLL(CI Yellow 21)
(バイエル社製) 0.1%owf
Kayacryl Red GL(CI Red 29)
(日本化薬社製) 2.0%owf
Aizen Cathilon BRLH
(保土谷化学社製) 8.0%owf
助剤
“ネオデスポンAC”(モーリン化学社製) 2g/l
酢酸 20g/l
硝酸ソーダ 20g/l
“テリールキャリヤA111”(明成化学社製)20g/l
[染料名のCIはカラーインデックスの意味で色の番号を表す]
浴比1:15、60℃で染色を開始、60分間で130℃に昇温し、30分間染色した。染色後、非イオン活性剤と還元剤からなる浴で、80℃20分間還元洗浄し、脱水乾燥後、紡績油剤を付与した。JIS L 0842による染色堅牢度は3級でパラ系アラミド繊維としては極めて高いレベルであった。
【0044】
芯成分を構成する連続糸条はポリエステルフィラメント糸であって、フィラメントカバリング糸を含み、フィラメント糸はモノフィラメント、マルチフィラメントいずれでも良いが、複合加工性、芯、鞘の、ずれ防止の観点からマルチフィラメント糸がより好ましい。
【0045】
本発明の芯鞘型複合紡績糸の撚方向はS、Zいずれでも良く、撚係数K(撚数=K・(番手)1/2 )は一般の紡績糸よりやや高めにするのが芯成分を覆う点で好ましく、K=2.6〜6.0の範囲が望ましい、K=2.6より低くすると芯、鞘の複合加工性が悪化して好ましくない。K=6.0より高くすると強撚になりすぎ二重撚りの発生が強く加工性が悪化する。K=3.0〜4.5の範囲がより好ましい。
【0046】
次に、本発明の芯鞘型複合紡績糸の製造方法について説明する。
【0047】
製造方法は特に限定するものではないが、鞘成分の短繊維束がスライバーや粗糸の場合、例えば一対のテーパーローラーからなるフロントトップローラーおよびフロントボトムローラーを有するリング精紡機により、トランペットを介してバックローラー、エプロンローラーを経て、フロントローラーの送り出し量の高い側へ通し、芯成分の連続糸条をフロントローラーの送り出し量の低い側へガイドを介して通した後、短繊維束と同時にフロントローラーより紡出し、連続糸条を中心に短繊維束が実撚付与時に順時巻回され、芯成部のポリエステルフィラメント糸をこより状に包み込む状態で糸形成させるものである。
【0048】
図1は、本発明の芯鞘型複合紡績糸の製造方法の一例を示す概略図である。精紡機のドラフト、加撚の概要を示すもので、精紡機に供給される短繊維束Aがトランペット1を介してバックローラー2に供給され、エプロンドラフト3を経て一対のテーパーフロントローラー4の送り出し量の高い側(径の大きい側)に把持される。一方連続糸条Bはフロントローラーの送り出し量の低い側(径の小さい側)へガイド5を介して供給する。フロントローラーに把持され出てきた両成分を間隔3〜15mmの範囲にとり合体させ、リング6、トラベラ7で実撚を付与し通常の方法で管糸に巻き取る。芯、鞘両繊維糸条の合体時の間隔は両成分の送り出し量の差、すなわち短繊維束の巻回状態を変えるものであり、重なり状態や紡績糸の物性をみて決めるのがよい。
【0049】
次に、本発明の芯鞘型複合紡績糸を単糸あるいは双糸として、織、編物加工してもよく、該糸100%使いでも良いが、フィラメント、加工糸、弾性繊維などとの交編、交織さらには、耐熱性、耐切創性が要求される特定の部分に本発明紡績糸を用い、常法により織、編物製品を得ることができるが、織、編物製品全体の重量の30〜100%の範囲で用いてなるものである。上記本発明の紡績糸が織、編物製品全体の重量の30%未満ではたとえ特定の部分に本発明糸を用いても十分な耐切創性、耐熱性、が得られない。好ましくは50〜100%の範囲である。
【0050】
【実施例】
以下実施例によって本発明を説明する。実施例中の物性は次の測定によった。
〈結晶サイズ〉
広角X線解析法によった。
【0051】
Figure 0004128692
〈固有粘度〉
固有粘度IV=(ηinh )は、98.5重量%の濃硫酸に濃度(C)=0.5g/dlでポリマーを溶かした溶液を30℃で常法により測定する。
【0052】
(ηinh )=(ln・ηrel)/C
(lnは自然対数)
〈水分率〉
水分率の測定は、JIS L 1013によった。
【0053】
付着水分率(%)=(W−W1)×100/W1
ここに、W :試料採取時の質量
W1:試料の絶乾時質量
〈切創抵抗力〉
枠体の中央部に約3mmの間隔で2枚の試料シートを把持し、この試料シートのスリット部に角度60度で2辺に刃のあるセラミック製の刃を垂直に立てて当て、この刃先に500mm/分の速度で荷重をかけていったときの該試料シートが切創される最大荷重を測定する。
〈プリーツ性〉
織、編物のタテ方向に長さ25cmの試料を切り取り、長さ方向5cm間隔で印をつけ(4箇所)中央部の15cmを折り込み、5cmの長さで試料が3重になるように折り、通常のプレス機でプレス表面温度140℃、プレス圧力0.5kg/cm2 で10秒間プレスしたのちバキューム処理を10分間行い試料を冷却する。プリーツ性(プリーツのつき方)は肉眼で級判定した。
【0054】
判定基準を下記する。
【0055】
5級:非常にシャープなプリーツ
4級:シャープなプリーツ
3級:プリーツがある
2級:プリーツが少しある
1級:プリーツがほとんどない
〈プリーツ保持性〉
プリーツ性を評価した試料を用いJIS L0217−103法にもとずき洗濯後試料のプリーツ性を評価した、結果をプリーツ保持性として級判定した。
〈難溶融性(煙草熱溶融性)〉
500℃に加熱された金属棒(直径約0.6cm)の先端に試料を5秒間接触させた時の穴開きの程度を5級(穴開きなし)〜1級(完全に穴が開く)の5段階で級判定する。
〈染色性(L値)〉
L値の測定はJIS Z 8729に従った。測定器は、(株)住化分析センター製Macbeth Color Eyes 3000を用いた。
【0056】
同一色相の場合は、数値が小さいほど良く染着されていることを示す。
[実施例1、比較例1]
通常の方法で得られたPPTA(ηinh =6.5)を99.5%の濃硫酸に溶かし、ポリマー濃度19.0%温度80℃の紡糸ドープとし、孔径0.06mmの細孔数1000個のを有する口金からわずかの間空気中へ紡出した後、4℃の水中に導いて凝固させ、ネルソンローラに導き、8%の水酸化ナトリウム水溶液で中和処理し、水洗後、ホットローラで110℃15秒間乾燥してプラスチックのチューブに巻き取る工程を途切れることなく通過させて、フィラメント数1000からなる総繊度1500デニール(絶乾換算)のパラ系アラミド繊維フィラメント糸(実施例1)を得た。
【0057】
実施例1のパラ系アラミド繊維チューブに巻き取ることなく、つづいて設置されたホットローラに導いてさらに350℃、10秒間の熱処理を行った後巻き取って、乾燥したパラ系アラミド繊維フィラメント糸(比較例1)を得た。これらのパラ系アラミド繊維フィラメント糸を押込みクリンパーにより9山/インチの割合で捲縮をかけ、1500デニール(単繊維繊度1.5デニール)を1.5インチと2インチにカットして、38mmと51mmのステープルとした。
【0058】
これらのパラ系アラミド繊維の物性を表1に示す。
【0059】
【表1】
Figure 0004128692
【0060】
パラ系アラミド繊維ステープルの染色方法の1例について述べる。
【0061】
本発明のパラ系アラミド短繊維を次の条件でダークグリーンに染色した。owfは乾燥した繊維重量に対する染料の重量%を示す。g/1は調合した染浴1リットルに対する助剤の重量割り合いを示す。
【0062】
染料:
Astrazon Yellow 7GLL(CI Yellow 21)
(バイエル社製) 0.1%owf
Kayacryl Red GL(CI Red 29)
(日本化薬社製) 2.0%owf
Aizen Cathilon BRLH
(保土谷化学社製) 8.0%owf
助剤:
“ネオデスポンAC”(モーリン化学社製) 2g/1
酢酸 20g/1
硝酸ソーダ 20g/1
“テリールキャリヤA111”(明成化学社製)20g/1
浴比1:15、60℃で染色を開始、60分間で130℃に昇温し、30分間染色した。染色後、非イオン活性剤と還元剤からなる浴で、80℃20分間還元洗浄し、脱水乾燥後、L値を測定した。同一色の場合は、数値が小さいほど良く染着されていることを示す。上記の場合による染浴を用いた染色方法において、L値が50以下の水準を、染着したと判定した。
【0063】
実施例1のパラ系アラミド繊維は染料をよく吸着したが、比較例1のパラ系アラミド繊維は、ほとんど染着されなかった。
[実施例2〜4、比較例2〜5]
実施例1で得られたパラ系アラミド繊維フィラメント糸に静電気防止、紡績性向上を目的に界面活性剤を浸漬法にて付与した。
【0064】
これらのパラ系アラミド繊維フィラメント糸を押し込みクリンパーにより9山/インチの割合で捲縮をかけ、1500デニール(短繊維繊度1.5デニール)を1.5インチと2インチにカットして38mmと51mmのステープルとした。これらのステープルは、染色工程まではポリ袋にて密閉して保管して水分の乾燥を防止し、前記染色処方により綿染めによってダークグリーンに染色した。同ステープルの物性は、繊度1.5d、繊維長51mmの引張強度23g/d、破断伸度3%、熱分解温度500℃であった。
【0065】
これら染色されたパラ系アラミド短繊維100%を通常の2インチ紡績方法で、太さ0.3g/mの粗糸を作成した。
【0066】
芯成分として連続糸条であるポリエステルマルチフィラメント糸、90、70、60、40、20、10デニール各々を用い、一対のフロントテーパーローラーを有する2インチリング精紡機に仕掛け、短繊維束の粗糸をトランペットを通してフロントローラーの送り出し量の高い側へバックローラーから供給し、フロントローラーの送り出し量の低い供給側へ連続糸条のポリエステルマルチフィラメント糸をガイドを通して供給した。精紡トータルドラフト31.1〜16.2倍で、芯鞘型複合紡績糸の番手を30s(綿番手)、撚係数はK=3.5(19.2T/in)とした。両フリースの間隔を5mmになるようにトランペットとガイドの間隔およびコレクターで調整した後ドラフトし合体させ通常の方法で管糸に巻き取り、鞘成分の染色されたパラ系アラミド短繊維が紡績糸に占める割合が49.2%、60.5%、66.1%、77.4%、88.7%、94.4%の6種(比較例2、比較例3、実施例2、実施例3、実施例4、比較例4)ポリエステル繊維が紡績糸に占める割合が50.8%、39.5%、33.9%、22.6%、11.3%、5.6%であった。
【0067】
また比較例5として、比較例1で得た染まりにくいパラ系アラミド繊維フィラメントを実施例2と同様にステープル加工して同一条件でダークグリーンに染色し、実施例2と同様に紡績加工して、30s、K=3.5の芯鞘型複合紡績糸を得た。
【0068】
これら各種紡績糸をそれぞれ90℃×20分の撚止めセットを行ない、これら各種紡績糸100%使いで平織物を作成した、織成に際して経糸には糊剤を付与した、織密度は経糸78本/in、緯糸65本/in織幅98cmを作成後、パラ系アラミド繊維の織物表面への出現状態(被覆状態)、染着度(L値)、耐切創性、耐熱性、プリーツ性を評価し表2に示した。
【0069】
【表2】
Figure 0004128692
【0070】
表2に示すように、紡績糸に占めるポリエステルフィラメント糸の割合が50.8%の比較例2と、39.5%の比較例3はプリーツ性、防しわ性などの形態保持性は良好であるが、複合糸に占める芯成分のポリエステルフィラメント糸の混率が高く、パラ系アラミド短繊維による被服不足により、パラ系アラミド短繊維の特性が十分に発揮できず、耐切創性、耐熱性などの高機能性も劣るものであった。
【0071】
染色されたパラ系アラミド短繊維が紡績糸に占める割合が94.4%の比較例4、従来の染まりにくいパラ系アラミド短繊維66.1%使用した比較例5の紡績糸はパラ系アラミド繊維の機能特性、すなわち耐切創性、耐熱性は発揮されるが、紡績糸に占めるポリエステルフィラメント糸の割合が5.6%と少ない比較例4は、プリーツ性などの形態保持性が劣り、比較例5はL値65.5と高く染色性が劣るものであった。
【0072】
本発明の実施例2〜4は紡績糸に占める染色されたパラ系アラミド短繊維の割合が高く、ポリエステルフィラメント糸の被覆性が良く、糸、織物表面を染色されたパラ系アラミド短繊維が覆いパラ系アラミド短繊維の機能特性を発揮する良好なものであった。
[実施例5]
鞘成分の短繊維束として、本発明の、繊度1.5d、繊維長38mmのダークグリーンに染色されたパラ系アラミド短繊維と、繊度1.5d、繊維長38mmのメタ系アラミド短繊維[デュポン社製“ノーメックス”(デュポン社登録商標)]を50/50%(実施例5)の比率で混紡したものを通常の綿紡績方法で、太さ0.3g/mの粗糸を作成し、実施例2と同様にポリエステルマルチフィラメント糸60デニールを芯成分として複合加工し、30s、K=3.5の紡績糸を得て実施例2と同様に平織物を作成後布帛評価し結果を表2に示した。
【0073】
染色されたパラ系アラミド短繊維と“ノーメックス”1.5d、38mmをそれぞれ50/50%混紡した実施例5は全芳香族ポリアミド繊維の特性である耐熱性、耐切創性などの高機能特性を十分に発揮し、L値46.5と染色性良好であり色彩豊かでカラフルであり、プリーツ性などの形態保持性をも兼ね備え、布帛がソフトでしなやかで防護衣料に適した優れた布帛であった。
[実施例6〜8]
実施例2の30S 芯鞘型複合紡績糸を織物全体重量の25%(実施例8)、30%(実施例6)、100%(実施例7)になるように経糸、緯糸に均一に用い平織地を作成した。ベース糸としてダークグリーンに染色されたT65%木綿の30s、K=3.7を用い、織成に際して経糸には糊剤を付与した。織密度は経糸78本/in、緯糸65本/inであり織幅98cmのものであった、布帛評価結果を表3に示した。
【0074】
【表3】
Figure 0004128692
【0075】
本発明糸を25%使用した実施例8はプリーツ性などの形態保持性は良好であったが耐熱、耐切創の全芳香族ポリアミド繊維の高機能特性が少し劣るものであった。実施例6、実施例7は全芳香族ポリアミド繊維の高機能特性を十分に発揮し、L値45.0と46.5と染色性良好であり、プリーツ性などの形態保持性をも兼ね備えた優れた布帛であった。
【0076】
また実施例6、実施例7の布帛をスラックスに仕立て、仕立て栄えを目視評価した、ポリエステルフィラメント糸の持つ仕立て栄えの良さが現われ、染色性良好で色鮮やかで良好なスラックスであり着用評価を10名にて実施した結果、耐熱、耐切創はもちろんプリーツ保持性も良好であり好評を得た。
【0077】
【発明の効果】
以上のごとく、本発明は全芳香族ポリアミド繊維の持つ欠点である染色性、プリーツ性、防しわ性、形態保持性を大幅に改善して高機能性の要求される防護被服用分野やスポーツ衣料に色彩豊かな好適な芯鞘型複合紡績糸および布帛を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の芯鞘型複合紡績糸の製造方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
A:短繊維束
B:連続糸条
1:トランペット
2:バックローラー
3:エプロンドラフト
4:テーパーフロントローラー
5:ガイド
6:リング
7:トラベラー

Claims (9)

  1. 染色された全芳香族ポリアミド短繊維が鞘成分を構成し、ポリエステルフィラメント糸が芯成分を構成した芯鞘型複合紡績糸であって、上記紡績糸に占める全芳香族ポリアミド短繊維の割合が65〜90重量%であり、上記ポリエステルフィラメント糸の紡績糸に占める割合が10〜35重量%であることを特徴とする芯鞘型複合紡績糸。
  2. 鞘成分の染色された全芳香族ポリアミド短繊維がパラ系アラミド短繊維であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘型複合紡績糸。
  3. 鞘成分の全芳香族ポリアミド短繊維が染色されたパラ系アラミド短繊維とメタ系アラミド短繊維との混紡されたものであることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘型複合紡績糸。
  4. 鞘染色されたパラ系アラミド短繊維が紡績糸に占める割合が25〜90重量%であることを特徴とする請求項3に記載の芯鞘型複合紡績糸。
  5. メタ系アラミド短繊維が紡績糸に占める割合が60重量%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の芯鞘型複合紡績糸。
  6. パラ系アラミド短繊維が、5以上の固有粘度IV(ηinh )を持つポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)と濃硫酸から紡糸用ドープをつくり、該ドープを紡糸口金の細孔を通して一旦空気中に紡出し、直ちに水中に導き凝固させ、高強度、高弾性率のフィラメントを形成する工程と、該フィラメントに捲縮を与えカットしてステープルとなす工程と、該フィラメントを染色する工程を連続することなく別々の工程で実施する方法において、染色前のパラ系アラミド繊維の引張強度が15g/d以上、結晶サイズ(110方向)が30〜55オングストロームであり、染色前の水分含量が常に8%以上に維持して形成されたものであることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の芯鞘型複合紡績糸。
  7. 染色されたパラ系アラミド短繊維、またはメタ系アラミド短繊維の単繊維繊度が0.5〜4.5デニールであり、撚係数がK=2.6〜6.0であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の芯鞘型複合紡績糸。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の芯鞘型複合紡績糸を布帛重量の30〜100重量%の範囲で用いてなることを特徴とする布帛。
  9. 防護衣服用であることを特徴とする請求項8に記載の布帛。
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