JP4115674B2 - 炭素クラスターアニオン及びこれを含む金属錯体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はフラーレンから誘導される10個の有機置換基が結合した炭素クラスター誘導体及び該炭素クラスター誘導体を含む金属錯体に関するものである。更に詳しくは、本発明は、フラーレンC60に10個の有機置換基が付加した炭素クラスター誘導体モノアニオンまたはジアニオンの水素置換体、並びに該アニオンがη5様式で金属に結合した金属錯体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的なシクロペンタジエニル錯体は、シクロペンタジエニル骨格を有する有機配位子が、シクロペンタジエニル部でη5型、すなわちシクロペンタジエニル部の5個の炭素が金属と結合する様式で結合した遷移金属錯体(以下、シクロペンタジエニル錯体と略記する。)であり、その結合様式により金属錯体の対称性、電子状態が変わり、有機化合物との反応において特異的な反応性を示すことが明らかにされている。そのような理由から、これまでにシクロペンタジエニル錯体の種々の誘導体が合成され、それらは、金属錯体を用いた有機合成反応において重要な役割を果たしてきた。特に、これらの中で、工業触媒として最も重要な金属錯体は、シクロペンタジエニルが2個金属に結合したメタロセン錯体である。このメタロセン錯体は特定のAl化合物、B化合物あるいは粘土鉱物等と組み合わせることにより、チーグラーナッタ触媒に代わるエチレンやプロピレン等のオレフィン重合触媒として注目され、実用化されてきた。また、これらのメタロセン錯体は、共役系有機配位子が金属に2個結合した錯体であるため、電子伝導等のネットワークを構築するのに優れ、電子伝導材料や光機能材料としても広く利用されている。
【0003】
ところで、1990年になってC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が世界中で精力的に展開されてきた。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その多様な反応性、物性が見出されている。現在では、これらのフラーレン誘導体を用いた電子伝導材料、半導体、医薬などの開発が多面的に進められている(例えば、総説として、現代化学、1992年、4月号、p12、2000年,6月号,p46;Acc.Chem.Res.1998,31,593;Chem.Rev.1998, 98,2527)。
また、フラーレンが、5員環部と6員環部の共役系炭素骨格から構成されている為、フラーレンが金属に対し上記のシクロペンタジエニル配位子のようにη5型で、或いはベンゼン配位子のようにη6型で結合した金属錯体は、フラーレン骨格の電気化学的並びに光化学的特性の双方を兼ね備えた新規な材料や触媒になるものとして期待された。そのような背景から、フラーレンが金属に結合した金属錯体の合成に関する研究も同時に精力的になされてきたが、これらの殆どは、一般に、フラーレンが芳香族化合物というよりは電子欠乏性のポリエンとしての反応性を示すことから、フラーレンのオレフィン部の二重結合が低原子価で電子が豊富な中心金属にη2様式で配位した錯体であった。(例えば、総説として、Chem.Rev.1998, 98,2123)。
【0004】
本発明者らは、先に、フラーレン内の1個の5員環部がシクロペンタジエニル配位子としてη5型で金属に配位した錯体を見出し、報告した。(J.Am.Chem.Soc.1996,118,12850;特開平10-167994;特開平11-255508;特開平11-255509)。しかしながら、これらの錯体は、1個のフラーレン骨格の炭素クラスターがη5型で結合した錯体であり、特に電子伝導材料などの機能性材料としては、分子間の電子伝導性に劣り、その用途は極限られていた。また、炭素クラスター骨格に導入された種々の有機置換基の数は、高々5個であり、依然、有機溶媒への溶解度が低い等、フラーレン特有の製造工程上の問題を解決するには十分なものではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは、フラーレン骨格の炭素クラスターに10個の有機置換基が結合した炭素クラスター誘導体ならびにそれらを含む金属錯体を合成できれば、低い溶解性等、フラーレン特有の製造工程上の問題を解決できるばかりでなく、置換基を適当に選択することにより金属上の電子密度をより自由自在に制御することが出来る為、触媒、材料設計において有用な錯体になりうると考えた。又、炭素クラスターの内、ジアニオン体を合成できれば、これは2個の部位で金属にη5型で結合する炭素クラスターとなるため、それらを含む金属錯体は、メタロセン錯体以上に電子伝導性等に優れ、且つフラーレン骨格の電気化学的、光化学的特性を生かした刺激応答性触媒や材料等の従来にない機能性分子になり得ると考えた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記観点からフラーレンのη5型のシクロペンタジエニル配位子に関する研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は、下記式(I)又は式(II)で表されるフラーレンから誘導される炭素クラスタージアニオンのC60R5R’5H2で表される水素置換体に存する。
【化7】
【化8】
(式(I)及び(II)中、R同士、R’同士並びにR及びR’は、互いに同一であっても異なっていても良く、置換基を有していても良いアリール基、アルキル基、又はアルケニル基を表す。)
【0007】
本発明の他の要旨は、上記式(I)又は(II)で表されるフラーレンC60から誘導される炭素クラスタージアニオンの5員環アニオン部の1個の炭素にCN、または水素が結合した下記式(III)又は(IV)で表されるが炭素クラスターモノアニオンのC60YR5R’5H2で表される水素置換体に存する。
【化9】
【化10】
(式(III)及び(IV)中、R同士、R’同士並びにR及びR’は、互いに同一であっても異なっていても良く、置換基を有していても良いアリール基、アルキル基、又はアルケニル基を表す。YはCNまたはHを表す。)
【0008】
本発明の更なる要旨は、フラーレンから誘導される炭素クラスタージアニオンが下記の式(V)で表されるη5様式で2個の金属に結合している金属錯体、
【化11】
(式(V)中、R同士、R’同士並びにR及びR’は、互いに同一であっても異なっていても良く、置換基を有していても良いアリール基、アルキル基、又はアルケニル基を表し、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、Sn及びTlから選ばれる金属原子、Xは、金属に配位した配位子及び/又は対イオンを表す。但し、n≧0である。)並びにフラーレンから誘導される炭素クラスターモノアニオンが下記の式(VI)で表されるη5様式で金属に結合している金属錯体に存する。
【化12】
(式(VI)中、R同士、R’同士並びにR及びR’は、互いに同一であっても異なっていても良く、置換基を有していても良いアリール基、アルキル基、又はアルケニル基を表し、YはCNまたはHを表す。Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、Sn及びTlから選ばれる金属原子を表し、Xは、金属に配位した配位子及び/又は対イオンを表す。但し、n≧0である。)
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、フラーレンから誘導される炭素クラスターアニオン、その水素置換体及び金属錯体に係わるものである。この炭素クラスターアニオンの中、炭素クラスタージアニオンは、上記式(I)又は(II)で表され、その水素置換体はC60R5R’5H2で表され、又金属錯体では、該炭素クラスタージアニオンが上記式 (V) で表されるη5様式で2個の金属に結合している。
炭素クラスターモノアニオンは、上記式(III)又は(IV)で表され、該炭素クラスタージアニオンの5員環アニオン部の1個の炭素にCN、または水素が結合したものであり、その水素置換体はC60YR5R’5Hで表され、又その金属錯体は、該炭素クラスターモノアニオンが上記の式 (VI) で表されるη5様式で金属に結合している金属錯体である。
【0010】
上記式(I)及び(IV)におけるR及びR’は、公知の任意の有機基である。通常、これらの置換基は、グリニャール試薬[RMgX、R’MgX(X=ハロゲン)]または有機リチウム試薬(RLi、R’Li)から調製される有機銅試薬との反応によりフラーレン骨格に導入されるが、本発明においては、R及びR’は、特に上記試薬調製可能なR及びR’に限定されず、グリニャール試薬または有機リチウム試薬の調製が困難なもの(R及びR’)であっても良い。即ち、グリニャール試薬または有機リチウム試薬の調製が困難なもの(R及びR’)をフラーレン骨格に導入したい場合は、グリニャール試薬または有機リチウム試薬から調製される有機銅試薬との反応により一旦フラーレン骨格に有機基を導入後、公知の任意の有機反応により置換基を所望の置換基に誘導することもできる。これらのR及びR’としては、合成の容易性から、特に置換基を有していても良いアリール基、アルキル基、又はアルケニル基が好ましい。また、R同士並びにR’同士は同一であっても異なっていてもよく、異なる置換基を導入する場合には、公知の、例えばOrganic Letters,2000,2,1919に記載の方法が有用である。更に、炭素クラスター骨格へのR、R’の導入は、通常、実施例に記載したように、順次導入されるため、R、R’が同一の誘導体とすることもできるし、R、R’が異なる誘導体とすることもできる。
【0011】
以下、有機金属試薬[(RMgX、R’MgX)、(RLi、R’Li)]のR及びR’について説明する。
R及びR’で定義されるアリール基としては、フェニル基やナフチル基が挙げられる。このアリール基が有し得る置換基としては、グリニャール試薬の調製が可能な不活性置換基であれば特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基等のアルキル基;ベンジル基、CF3,C2F5等の置換アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子等のハロゲン原子;メチレンジオキシ基等が挙げられ、これらの置換基を1個又は2個以上有していても良い。
これらの置換基中、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、CF3,C2F5等の炭素数1〜3の低級アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜3の低級アルコキシ基、フッ素原子等のハロゲン原子が好ましい。
【0012】
また、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜10程度のアルキル基;ベンジル基、CF3,C2F5等の置換アルキル基が挙げられる。
これらの中、好ましいアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ベンジル基、CF3,C2F5等が挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、2−ブテニル基,3−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、スチレニル基等の炭素数2〜20程度のアルケニル基が挙げられ、それらの中でも合成のし易さから1−アルケニル基が好ましい。
【0013】
本発明の金属錯体において、式(I)で示される炭素クラスタージアニオン及び式(III)で示される炭素クラスターモノアニオンは、金属に対しη5様式で結合し、その結合様式はそれぞれ式(V)及び式(VI)で表される。
式(V)及び式(VI)において、MXnは金属フラグメントであり、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、Sn及びTlからなる群から選ばれる金属原子、Xは金属に配位した配位子及び/又は対イオンを表す。但し、n≧0である。
【0014】
Mで定義される金属原子はアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、Sn及びTlからなる群から選ばれるが、具体的には、Li、Na、K、Ba、Sn、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Pt、Au、Hg、Tl及びSmが例示される。これらの金属の中、特にLi、K、Ba、Ti、Fe、Cu、Zr、Ru、Rh、Pd、Hfが好ましい。
【0015】
Xで定義される金属に配位した配位子及び/又は対イオンとしては、錯体が安定化されるために存在する配位子或いはハロゲン原子、アニオンを表す。Xの具体例としては、THFやジメトキシエタン等のエーテル類、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、アセトニトリル等のニトリル類、CO等の中性配位子、Cl、Br等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert- ブトキシ基、ネオペントキシ基等のアルコキシ基、ジメチルアミド、ジエチルアミド等のアミド基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル等のアルキル基、上記の置換基を有していても良いフェニル基、メタンスルホネート、トシレート等のスルホネート、BF4、B(C6F5)4等のボレート、PF6等のホスフェート等のアニオンが挙げられる。このような配位子やアニオンの個数(n)は使用する金属原子の性質によって決定されることは当業者に容易に理解されよう。また、これらの配位子やアニオンがそれぞれ複数個存在する場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
MXnフラグメントは、金属1個の単核錯体フラグメントで表現しているが、本発明においては、これは、シクロペンタジエニルとの結合が可能なフラグメントであれば、複数個からなる2核錯体フラグメント、3個以上の金属クラスターフラグメントでも良い。金属が複数個からなる場合は、金属は同一でも異なっていても良い。
【0017】
本発明の上記式(I)〜(VI)で表される炭素クラスターアニオンを含む水素置換体及び金属錯体について、その予備的な物性を調べたところ、発光素子としての機能を有し、また、10個の有機置換基が導入されたことによって有機溶媒への溶解度が向上し、取扱いが容易になるため、フラーレン特有の低溶解度性による種々の製造工程上の課題が克服できることが判った。
更に、これらの金属錯体の炭素クラスターアニオンの金属への結合様式が、特に下記式(V)及び(VI)に示すようなη5 型であると、優れた電子伝導等のネットワークを構築することが可能となり、電子伝導材料や光機能材料として従来にない機能性分子となる。
【0018】
【化13】
(上記式(V)及び(VI)において、R、R’ 、Y及びMXnは、前記と同義である。)
【0019】
また、特に式(I)で表される炭素クラスタージアニオンは、C60の南北両極が結合部位となった構造であるため、下記式(VII)に表されるような分子電線のような高い電子導電性が期待される棒状π共役系高分子化合物の設計が可能となる。
【0020】
【化14】
【0021】
式 (VII) 中、R、R’ は、上記と同義である。M’ は、金属を含むフラグメントを示し、金属としては、Ba、Sn、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Ru、Rh、Hf、Pt及びSmからなる群から選ばれる金属であることが好ましいが、特に限定はされない。
【0022】
以下、本発明の炭素クラスターアニオンを含む水素置換体及び金属錯体の製法について説明する。通常、式(I)〜(VI)で表されるフラーレンC60から誘導される炭素クラスターアニオン骨格の置換基R、R’の導入は、先ず、フラーレンC60と種々のグリニャール試薬[RMgX、R’MgX(X=ハロゲン)]又は有機リチウム試薬(RLi、R’Li)とハロゲン化銅誘導体とから調製される有機銅試薬との反応により5個のRまたはR’を導入した後、加水分解によりその水素体を製造する。この反応に使用する有機銅試薬は、グリニャール試薬又は有機リチウム試薬とハロゲン化銅から調製されるが、グリニャール試薬、有機リチウム試薬としては、RMgCl、RMgBr、RMgI、R’MgCl、R’MgBr、R’MgI、RLi、R’Li(R、R’は上記に定義したのと同義である)などが挙げられ、ハロゲン化銅誘導体の具体的な例としては、CuBr・SMe2 (Me:メチル)などが挙げられる。このグリニャール試薬又は有機リチウム試薬とハロゲン化銅誘導体をテトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒中で混合することにより有機銅試薬は調製することができる。
【0023】
次いで、5個の置換基を導入した炭素クラスター水素体に、必要に応じてシクロペンタジエン部上の水素をCN基等で置換し、上記と同様の有機銅試薬との反応により残り5個のRまたはR’を導入する。後段の置換基の導入には、特に限定はされないが、LiBr等の塩の存在下で反応を行うと収率良く目的物が得られる。ここで得られる化合物は、有機銅試薬に由来し、式(VI)においてMがCuで表される金属錯体である。
その後、必要に応じて、該金属錯体を加水分解してC60YR5R’5Hを製造する。次いで、このC60YR5R’5Hに種々の金属錯体(塩)等を反応させることにより、種々の式(VI)で表される金属錯体が合成できる。また、式(V)で表される金属錯体の製造方法としては、C60YR5R’5Hを製造後、必要に応じて、脱CN反応、加水分解を行うことによりC60R5R’5H2を製造し、これに金属錯体(塩)等を反応させる方法が好適に用いられる。
【0024】
金属錯体の製造方法としては、特に限定はされないが、C60YR5R’5H又はC60R5R’5H2に金属アルコキシド、金属アミド等の種々の金属錯体(塩)を反応させる方法が採用される。
金属アルコキシド又は金属アミドの金属としては、上記アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、Sn又はTlが好ましく、また、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert- ブトキシ基、ネオペントキシ基などの炭素数1〜6の低級アルコキシ基、アミド基としては、N(SiMe3)2、N(i−Pr)2等が挙げられる。具体的には、リチウムtert- ブトキシド、カリウムtert- ブトキシド、タリウムエトキシド、銅tert- ブトキシド又はK(N(SiMe3)2)などを用いることができる。
更に、上記の手法を用いて製造した金属錯体と種々の公知の金属―ハロゲン結合を有する錯体とのトランスメタレーション反応等によっても一般式(V)、(VI)で表される金属錯体を製造することができる。
【0025】
【実施例】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1 C60Me5 H(Me:メチル)の製造
50mlの2径フラスコにフラーレンC60(101mg,0.14mmol)を秤り取り、減圧下ヒートガンで加熱して乾燥を行ない、その後減圧のまま放冷した。この操作を2回くりかえした後、アルゴンを導入してオルトジクロロベンゼン(40ml)に溶解した。この溶液を減圧下、室温で20分間放置することにより脱気した。
CuBr・Me2 S(921mg,4.48mmol)のTHF(5ml)懸濁液をアルゴン雰囲気下−78℃に冷却し、ここにMeMgBrのTHF溶液(1.03M,4.40mL,4.53mmol)を一度に加えた。この混合物を−78℃で25分間撹拌すると黄色い懸濁液となった。
【0027】
ここに上記のフラーレンC60のオルトジクロロベンゼン溶液をカニュラーで移し、さらに素早くヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA;0.39ml,2.24mmol)と塩化トリメチルシラン(TMSCl;35μl,0.28mmol)を加え、攪拌しながら水浴を用いて10分間で室温まで昇温した。室温で16時間攪拌した後、HPLCでC60が完全に消費されたことを確認し、系中に脱気した水(1.5ml)を加え攪拌した。混合物を10分間攪拌した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、アルゴン雰囲気下シリカゲルのカラムに通した。濾液を減圧下濃縮し、HMPAを除くため残渣を減圧下100℃で12時間加熱した。その後、わずかに混入した沈殿物を除去するために、残った固体を脱気したトルエンに溶かしアルゴン雰囲気下短いシリカゲルのカラムで濾過した。濾液を減圧下濃縮し目的物が赤褐色のアモルファス状の固体として106mg(収率95%)得られた。生成物の物性は以下の通りである。
1H NMR(CDCl3 ,δ):4.46(s,1H),2.42(s,3H),2.32(s,6H),2.30(s,6H).
【0028】
実施例2 C60Me5 CN(Me:メチル)の製造
窒素雰囲気下、カリウムtert-ブトキシド溶液(1.0 M in THF, 0.69 mmol)0.69 mlを、C60Me5 H(489.23mg, 0.627 mmol)のベンゾニトリル(PhCN ;50.0 ml)溶液に23℃で加えた。この際反応液の色は赤から黒色に変化した。この溶液にp−トルエンスルホニルシアニド(p-CH3C6H4SO2CN;TsCN 0.18M in PhCN, 0.66 mmol)を加え、5分後、 NH4Cl 水溶液(0.50 ml)を加えて反応を停止した。反応混合物をシリカゲルのカラムで濾過した後、更にシリカゲルから目的物をトルエン(300 ml)で溶離した。溶離液を濃縮後、濃縮液をHPLC(Nacalai Tesque, Buckyprep, 250 mm, トルエン:イソプロパノール=7:3)で精製し、C60Me5 CN(純度:99%)を315 mg (収率:63 % ) 得た。生成物の物性は以下の通りである。
【0029】
IR (KBr) 3435, 2963, 2920, 2860, 2229, 1641, 1547, 1445, 1418, 1374, 1264, 1239, 1200, 1106, 684, 658, 552, 522 cm-1;1H NMR (400 MHz CDCl3-) δ2.36 (s, 6H, CH3), 2.37 (s, 6H, CH3), 2.62 (s, 3H, CH3);
13C NMR (100 MHz CDCl3 ) δ25.36 (2C, CH3, sp3), 26.80 (2C, CH3, sp3), 32.35 (1C, CH3, sp3), 51.12 (2C, C60, sp3), 51.37 (1C, C60, sp3), 52.62 (2C, C60, sp3), 55.46 (1C, C60-CN, sp3),118.08 (1C, CN, sp), 143.02 (2C, C60, sp2), 143.07 (2C, C60, sp2), 143.93 (2C, C60, sp2), 144.03 (2C, C60, sp2), 144.10 (2C+2C, C60, sp2), 144.31 (2C, C60, sp2), 144.35 (2C, C60, sp2), 144.50 (2C, C60, sp2) , 145.10 (2C, C60, sp2), 145.27 (2C, C60, sp2), 146.71 (1C, C60, sp2), 146.83 (2C, C60, sp2), 146.85 (2C, C60, sp2), 147.77 (2C, C60, sp2), 147.91 (2C, C60, sp2), 147.98 (1C, C60, sp2), 148.03 (2C, C60, sp2), 148.15 (2C, C60, sp2), 148.31 (2C, C60, sp2), 148.33 (2C, C60, sp2), 148.50 (2C, C60, sp2), 148.56 (2C, C60, sp2), 148.68 (2C, C60, sp2), 151.75 (2C, C60, sp2), 152.24 (2C, C60, sp2), 152.98 (2C, C60, sp2), 156.37 (2C, C60, sp2);
APCI-MASS (LC) m/z = 821 (M+).
【0030】
C60Me5 CN結晶のX−線構造解析図を図1に示す。
C60Me5 CNの結晶化は、C60Me5 CNの塩化メチレン(CH2Cl2)飽和溶液にエタノールを添加する方法を用いた。得られた赤色結晶をDIP2030 (MacScience, Japan)で解析した。結晶データ及び解析データを表1に示した。また、結晶中の原子座標及び等方性温度因子を表2に示した。作図及び計算はmaXus (MacScience, Japan)により行った。
尚、X線構造解析の結果、C60Me5 CNの構造は、CN基が、それぞれ、0.69、0.23、0.08の多重度でdisorderした構造として収束した。図1はdisorderした構造の内、一つの構造のみを示した。また、結晶溶媒である塩化メチレンも省略した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
実施例3 C60Me5CNPh5H(Ph:フェニル)
窒素雰囲気下、CuBr・SMe2 (3.75 g, 18.3 mmol)のTHF(31 ml)白色懸濁液に、順次23℃でPhMgBr ( 18.6 mmol)のTHF溶液(20.0 ml)、LiBr (1.59 g 18.3 mmol)を加えた。得られた暗橙色の溶液に、C60Me5CN (515 mg, 0.608 mmol)の1, 2-ジクロロベンゼン(50 ml)溶液をカニュラーを用いて加えた。23℃で24時間撹拌した後、飽和NH4Cl水溶液(0.5 ml)を加え、反応を停止した。反応液をトルエン(300 ml)で希釈後、希釈液を予めメタノールで洗浄したシリカゲルカラムに通した。橙色の溶離液を減圧濃縮後、HPLC (Nacalai Tesque Co., Buckyprep, 250 mm, トルエン:イソプロパノール=7:3 、トルエン:ヘキサン=3:7 )を用いて目的物を精製した。C60Me5CNPh5Hを含む溶離液を、減圧濃縮後、メタノールを加えることにより、C60Me5CNPh5Hを3異性体 の混合物として 110.5 mg (収率14 % )得た。NMR、MSの結果から本化合物は式(III)で表される構造の表題化合物であることが判った。
【0036】
1H NMR (400 MHz CDCl3-) δ2.42, 2.44, 2.47 (s, 6H+6H, CH3) , 2.65, 2.67 (s, 3H, CH3), 5.415, 5.419, 5.444 ( s, 1H, Cp-H), 7.10-7.25, 7.30-7.37 (m, 10H+5H, C6H5), 7.42-7.47, 7.62-7.68, 7.80-7.87 (o, 10H, C6H5,);
MS m/z (LC-APCI,トルエン:イソプロパノール = 7:3) 1207 (M-).
又、反応液から同一の分子量を持つ化合物が得られ、これはその異性体構造が不可能であることから式(IV)で表される構造の同組成の化合物であると帰属した。
【0037】
実施例4 K+[C60Me5CNPh5]- の製造
NMR管中、C60Me5CNPh5H (27.0 mg, 22.4μmol)の脱気したTHF-d8(0.5 ml)溶液に、30.0μLのカリウムtert-ブトキシド溶液 (1.0 M in THF, 30.0μmol)を、窒素雰囲気下で加えた。溶液の色は直ちに黄色から黒色に変化した。NMRの結果から本化合物は式(VI)で表される構造の表題化合物であることが判った。
1H NMR (400 MHz THF-d8-) δ2.36 (s, 12H, CH3), 2.52 (s, 3H, CH3), 7.00-7.07 (m, 15H, C60-C6H5 m-, p-), 7.90-7.98 (m, 10H, C60-C6H5 o-);
13C NMR (100 MHz); δ26.06 (2C, CH3, sp3), 27.22 (2C, CH3, sp3), 32.09 (1C, CH3, sp3), 51.13 (1C, CH3, sp3), 51.56 (2C, CH3, sp3), 53.09 (1C, CH3, sp3), 56.34 (1C, CN, sp3), 62.58 (2C, C6H5, sp3), 62.68 (2C, C6H5, sp3), 62.73 (1C, C6H5, sp3), 119.75 (1C, CN, sp), 125.69 (2C, C6H5, p-, sp2), 125. 70 (1C+2C, C6H5, p-, sp2), 125. 81 (1C, C60 -Cp- sp2) 126.03 (2C, C60 -Cp- sp2) 127. 03 (2C, C60 -Cp- sp2), 127. 98 (4C+4C+2C, C6H5, o-, sp2) 129. 50 (4C+4C, C6H5, m-, sp2), 129. 54 (2C, C6H5, m-, sp2), 143.49 (2C, C60, sp2), 143.78 (2C, C60, sp2), 144.03 (2C, C60, sp2), 144.46 (2C, C60, sp2), 145.65 (2C, C60, sp2), 147.10 (2C, C60, sp2), 147.55 (2C+1C, C6H5, ipso-, sp2), 147. 63 (2C, C6H5, ipso-, sp2), 148.54 (2C, C60, sp2), 149.31 (2C, C60, sp2), 149.56 (2C+2C, C60, sp2), 149.77 (2C, C60, sp2), 151.01 (2C, C60, sp2), 152.37 (2C, C60, sp2), 153.45 (2C, C60, sp2), 154.70 (2C, C60, sp2), 156.40 (2C, C60, sp2), 158.15 (2C, C60, sp2), 159.33 (2C, C60, sp2), 159.53 (2C, C60, sp2), 160.15 (2C, C60, sp2), 160.80 (2C, C60, sp2), 160.90 (2C, C60, sp2).
【0038】
実施例5 C60Me5Ph5H2の製造
シュレンク管を用いて、C60Me5CNPh5H (18.3 mg, 15.1μmol)のベンゾニトリル(10 ml)溶液に、[C10H8 -]Li+ (リチウムナフタレニド)溶液 (0.18 M in THF,2.5 ml)を窒素雰囲気下で加えた。溶液の色は直ちに黄色から暗赤色に変化した。23℃で1時間撹拌した後、50μl の飽和 NH4Cl水溶液を加え、反応を停止した。溶液の色は暗赤色から赤色に直ちに変化した。混合物をトルエン(30 ml)で希釈し、予めメタノールで洗浄したシリカゲルカラムで濾過した。
赤色の濾液を減圧濃縮し、濃縮液からメタノールを加えることによりC60Me5Ph5H2を結晶として16.5 mg (収率 93 %) で得た。この結晶は、 HPLC純度93 %で、3異性体の混合物であった。
この混合物をアルゴン雰囲気下、 HPLC (Nacalai Tesque Co., Buckyprep, 250 mm, トルエン:イソプロパノール = 7:3)で精製した。C60Me5Ph5H2 の留分を集め、減圧濃縮し、メタノールを加えることにより、C60Me5Ph5H2 を 結晶として10.3 mg (収率 58 %)で得た。この結晶は、HPLC純度98 %で、3異性体の混合物であった。NMR、MSの結果から本化合物は式(I)で表される構造の表題化合物であることが判った。
1H NMR (400 MHz CDCl3-); δ2.35, 2.38, 2.41 (s, 6H+6H+3H, CH3), 4.797, 4.803, 4.818 (s, 1H, CpMe-H ), 5.477, 5.495 (s, 1H, CpPh-H ),7.00-718., 7.24-7.29 7.40-7.50, 7.60-7.68, 7.84-7.89 (m, 10H+10H+5H, C6H5 );
MS m/z (LC-APCI,トルエン:イソプロパノール = 7:3) 1182 (M-).
又、反応液から同一の分子量を持つ化合物が得られ、これはその異性体構造が不可能であることから式(IV)で表される構造の同組成の化合物であると帰属した。
【0039】
実施例6 K+[C60Me5Ph5H]- の製造
NMR管中、C60Me5Ph5H2 (2.0 mg, 1.7μmol)の脱気したTHF-d8(0.5 ml)溶液に、3.4μLのカリウムtert-ブトキシド溶液(0.5 M in THF, 1.7μmol) を、窒素雰囲気下加えた。溶液の色は直ちに黄色から褐色に変化した。NMRの結果から本化合物は式(VI)で表される構造の表題化合物であることが判った。
Cpアニオンの生成を示した。
1H NMR (400 MHz THF-d8-) δ2.25, 2.26 (s, 15H, CH3 ), 4.54 (s, 1H, CpMe-H), 6.80-7.00 (m, 15H, C6H5), 7.84-7.95 (m, 10H, C6H5).
【0040】
実施例7 K+ 2[C60Me5Ph5]2-の製造
NMR管中、C60Me5Ph5H2(5.0 mg, 4.2μmol)の脱気したTHF-d8(0.5 ml)溶液に、42μLのカリウムtert-ブトキシド溶液 (1.0 M in THF, 42μmol) を、窒素雰囲気下で加えた。溶液の色は直ちに黄色から黒褐色に変化した。NMRの結果から本化合物は式(V)で表される構造の表題化合物であることが判った。
1H NMR (400 MHz THF-d8-) δ2.36 (s, 15H, CH3), 6.97-7.05 (m, 15H, C6H5 ), 7.85-7.91 (m, 10H, C6H5 ); 13C NMR (100 MHz); δ31.48 (5C, CH3, sp3), 52.73 (5C, CH3, sp3), 60.76 (5C, C6H5, sp3), 124.56 (5C, CpPh - sp2, very weak), 124.76 (5C, C6H5, p-, sp2), 127. 36 (10C, C6H5, sp2), 128.08 (5C, CpMe - sp2) 128. 41 (10C, C6H5, sp2), 145.82 (10C, C60, sp2), 145.91 (10C, C60, sp2), 148.22 (5C, C6H5, ipso-, sp2), 155.61 (10C, C60, sp2),
158.07 (10C, C60, sp2).
【0041】
【発明の効果】
本発明の炭素クラスターアニオンを含む水素置換体及び金属錯体は、発光素子としての機能を有し、フラーレン骨格に導入される10個の有機置換基を適宜選定することにより、フラーレン特有の低溶解度性の問題を解決することが出来る。しかも、これらの金属錯体の炭素クラスターアニオンの金属への結合様式が、特にη5 型であると、優れた電子伝導等のネットワークを構築することが可能となり、電子伝導材料や光機能材料として従来にない機能性分子となり有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】C60Me5 CN結晶のX−線構造解析図である。
Claims (5)
- 金属原子が、Li、Na、K、Ba、Sn、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Pt、Au、Hg、Tl及びSmからなる群から選ばれることを特徴とする請求項3又は4に記載の金属錯体。
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