JP4112353B2 - ポリエステル繊維及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル繊維に関する。更に詳しくは、特定のアルカリ金属元素、チタン化合物、リン元素を含む、色調に優れ、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性に優れているという優れた性能を有する、ポリエステルからなる繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。
【0003】
例えばポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応さて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させ、次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されている。
【0004】
これらの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によって、反応速度および得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られている。ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒性能を有し、かつ、色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、ポリエステルを長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸などを発生するという成形性の問題がある。
【0006】
該アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることも提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、上記のような、口金異物堆積に起因する成形性の問題は解決できるが、得られたポリエステル自身が黄色く着色されており、また、溶融熱安定性も不良であるという新たな問題が発生する。
【0007】
上記着色問題を解決するために、コバルト化合物をポリエステルに添加して黄味を抑えることが一般的に行われている。確かにコバルト化合物を添加することによってポリエステルの色調(b値)は改善することができるが、コバルト化合物を添加することによってポリエステルの溶融熱安定性が低下し、ポリマーの分解も起こりやすくなるという問題がある。
【0008】
また、他のチタン化合物として、水酸化チタンをポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献1参照。)、またα−チタン酸をポリエステル製造用触媒として用いること(例えば特許文献2参照。)が開示されている。しかしながら、前者の方法では水酸化チタンの粉末化が容易でなく、一方、後者の方法ではα−チタン酸が変質し易いため、その保存、取り扱いが容易でなく、したがっていずれも工業的に採用するには適当ではなく、更に、良好な色調(b値)のポリマーを得ることも困難である。
【0009】
また、チタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物をポリエステルの製造用触媒として用いること(例えば、特許文献3参照。)、またチタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用触媒として使用すること(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。
【0010】
確かに、これらの方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性はある程度向上しているものの、得られるポリマーの色調が十分なものではなく、したがってポリマー色調のさらなる改善が望まれている。
【0011】
また、口金異物を抑制するには、前記のように触媒としてアンチモンを使用しないことが有効な手段であるが、アンチモンを使用しない方法では、糸の色相が悪化してしまうため、従来は使用に供することができなかった。
【0012】
【特許文献1】
特公昭48−2229号公報
【0013】
【特許文献2】
特公昭47−26597号公報
【0014】
【特許文献3】
特公昭59−46258号公報
【0015】
【特許文献4】
特開昭58−38722号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、色調に優れ、紡糸口金を通して長時間連続的に紡糸しても口金付着物の発生量が非常に少なく、成形性、特に中〜高速紡糸によって得られる部分配向糸の生産性に優れているという性能を有する、色相の改善されたポリエステル繊維を提供することにある。
【0017】
更に、本発明の他の目的は、上記のポリエステル繊維を製造する方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち本発明の目的は、
エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物であるアルカリ金属化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としてアルカリ金属元素換算で1〜40ミリモル%含有し、且つポリエステルポリマー可溶なチタン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としてチタン元素換算で2〜25ミリモル%含有し、リン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としてリン元素換算で5〜120ミリモル%含有し、更にアンチモン元素、コバルト元素、マンガン元素、ゲルマニウム元素の合計含有量が5ppm以下であり、ポリエステルポリマーに可溶なチタン化合物が、下記一般式(I)で表される化合物と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物であるポリエステルからなり、65℃温水中で30分間浸漬させた前後での温水収縮率が40〜70%であり、且つ複屈折率が0.03〜0.065の範囲にある、ポリエステル繊維によって達成される。
【化13】
【化14】
【0020】
更に、本発明の他の目的は、
テレフタル酸ジメチルを90%以上含む芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体とアルキレングリコールに、下記一般式(I)で表される化合物と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物であるポリエステルポリマーに可溶なチタン化合物が全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてチタン元素換算で2〜25ミリモル%添加してエステル交換反応させ、次いでリン化合物を、全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてリン元素換算で5〜120ミリモル%添加してエステル交換反応を完了させるとともに、該エステル交換反応開始前から重縮合反応開始前の任意の段階でナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物であるアルカリ金属化合物を、アルカリ金属化合物を、全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてアルカリ金属元素換算で1〜40ミリモル%添加し、引き続き重縮合反応させて得られる、アンチモン元素、コバルト元素、マンガン元素、ゲルマニウム元素の合計含有量が5ppm以下であるポリエステルを、2500〜4500m/分の巻き取り速度で溶融紡糸する、ポリエステル繊維の製造方法によって達成される。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。このポリエステルは、エチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリエチレンテレフタレートであってもよい。上記第3成分(共重合成分)は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分のいずれでもよい。第3成分として好ましく用いられるジカルボン酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が例示でき、これらは単独又は二種以上を使用することができる。
【0022】
本発明のポリエステル繊維は、アルカリ金属元素を、全ジカルボン酸成分を基準として1〜40ミリモル%含有している必要がある。該アルカリ金属としてはカリウム、ナトリウム、リチウムが好ましく選択されるが、中でもカリウム、ナトリウムが特に好ましい。該アルカリ金属元素の含有量が40ミリモル%を超える場合、得られるポリエステル繊維の色相が低下する他、アルカリ金属を重合時に添加する場合には重合反応速度が低下し、また1ミリモル%未満の場合、2500〜4500m/分程度の巻き取り速度で製糸した部分配向糸の収縮率が低くなり、延伸仮撚加工して分散染料で染色された際に染色度合いが不安定となり工業的に安定して延伸仮撚加工することは困難となる為好ましくない。アルカリ金属元素の含有量の好ましい範囲は金属の種類によって異なるが、カリウムの場合は1.2〜20ミリモル%の範囲が好ましく、1.5〜10ミリモル%の範囲が更に好ましい。ナトリウムやリチウムの場合は3〜35ミリモル%の範囲が好ましく、5〜30ミリモル%の範囲が更に好ましい。またこれらアルカリ金属元素は、例えば艶消し剤として添加される酸化チタン中の不純物、添加物に由来するものであっても良い。
【0023】
本発明のポリエステル繊維に使用するポリエステル中にアルカリ金属を添加する場合、添加するアルカリ金属としてはカリウム化合物、ナトリウム化合物、リチウム化合物、ルビジウム化合物が挙げられるが、これらの中でもカリウム化合物、ナトリウム化合物、リチウム化合物が好ましい。具体的には塩化カリウム、カリウムみょうばん、ぎ酸カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸二水素カリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、酪酸カリウム、しゅう酸二カリウム、しゅう酸水素カリウム、ステアリン酸カリウム、フタル酸カリウム、フタル酸水素カリウム、メタりん酸カリウム、りんご酸カリウム、りん酸三カリウム、りん酸水素二カリウム、りん酸二水素カリウム、亜硝酸カリウム、安息香酸カリウム、酒石酸水素カリウム、重しゅう酸カリウム、重フタル酸カリウム、重酒石酸カリウム、重硫酸カリウム、硝酸カリウム、酢酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カリウムナトリウム、炭酸水素カリウム、乳酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、塩化ナトリウム、ぎ酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、しゅう酸二ナトリウム、しゅう酸水素ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸水素ナトリウム、メタりん酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、りん酸三ナトリウム、りん酸水素二ナトリウム、りん酸二水素ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、重しゅう酸ナトリウム、重フタル酸ナトリウム、重酒石酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、塩化リチウム、ぎ酸リチウム、クエン酸三リチウム、クエン酸水素二リチウム、クエン酸二水素リチウム、グルコン酸リチウム、コハク酸リチウム、酪酸リチウム、しゅう酸二リチウム、しゅう酸水素リチウム、ステアリン酸リチウム、フタル酸リチウム、フタル酸水素リチウム、メタりん酸リチウム、りんご酸リチウム、りん酸三リチウム、りん酸水素二リチウム、りん酸二水素リチウム、亜硝酸リチウム、安息香酸リチウム、酒石酸水素リチウム、重しゅう酸リチウム、重フタル酸リチウム、重酒石酸リチウム、重硫酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、乳酸リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム等が例示され、その中でも、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウムが特に好ましく例示される。これらは単独で使用してもよく、また二種以上併用してもよい。これらアルカリ金属化合物をポリエステル中に添加するには、特に限定はないが、エステル交換法によって製造されるポリエステルの場合は該エステル交換反応開始前から重縮合反応開始前の任意の段階で添加すればよいが、特に、エステル交換反応触媒と同時に添加することが好ましいが、予め重縮合させて得られたポリエステルを再溶融してこれらアルカリ金属化合物をブレンドする方法も好ましく用いることができる。
【0024】
本発明のポリエステル繊維は、ポリエステルポリマー中に可溶なチタン化合物を、全ジカルボン酸成分に対し、チタン金属元素換算で2〜25ミリモル%含有している必要がある。該チタン金属元素が2ミリモル%未満ではポリエステル生産時の生産性が低下し、目標の分子量のポリエステルが得られない為、最終的に得られる繊維の分子量が低くなり、また、該チタン金属元素が25ミリモル%を超える場合は熱安定性が低下し、繊維製造時の分子量低下が大きくなり品質の優れたポリエステル繊維が得られない。チタン金属元素量は2.5〜20ミリモル%の範囲が好ましく、3〜15ミリモル%の範囲が更に好ましい。
【0025】
本発明のポリエステル繊維は、リン元素を全ジカルボン酸成分に対し、5〜120ミリモル%含有している必要がある。このリン元素はポリエステルの耐熱性の向上、エステル交換反応によってポリエステルを製造する場合のエステル交換反応触媒の失活剤として、通常ポリエステルの重合工程において添加されるが、該リン元素量が5ミリモル%未満の場合、最終的に得られるポリエステルポリマー、繊維の色相が低下し、120ミリモル%を超える場合、ポリエステル生産時の生産性が低下し、目標の分子量のポリエステルが得られず好ましくない。該リン元素の含有量は含有するアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素の量によっても異なるが、7〜100ミリモル%の範囲が好ましく、10〜90ミリモル%の範囲が更に好ましい。また該リン元素は、例えば艶消し剤として添加される酸化チタン中の不純物、添加物に由来するものであっても良い。
【0026】
本発明のポリエステル繊維は、アンチモン、コバルト、マンガン、ゲルマニウム金属元素の合計量が5重量ppm以下である必要がある。ここでアンチモンやゲルマニウム金属元素は通常ポリエステルの重合触媒として用いるが、アンチモンの場合はポリエステルの溶融紡糸時に口金異物の原因となり、ゲルマニウムの場合は非常に高価であり、ポリマーコストが高くなるので、含有量が多いと好ましくない。一方、マンガンやコバルト金属元素は通常エステル交換反応触媒や整色剤として用いるが、マンガンの場合はポリマーの黄色味が強まり、またコバルトの場合は白度が低下する為、含有量が多いことは好ましくない。アンチモン、コバルト、マンガン、ゲルマニウム金属元素の合計量は4重量ppm以下であることが好ましく、3重量ppm以下であることが更に好ましい。
【0027】
本発明のポリエステル繊維は、65℃の温水中に30分間浸漬後の温水収縮率が40〜70%であり、複屈折率が0.03〜0.065の範囲にある必要がある。該収縮率はポリエステル繊維の結晶化度の尺度となり、該複屈折率はポリエステル繊維の配向度の尺度となるが、温水収縮率が40%未満、あるいは複屈折率が0.06を越える場合、配向度に対しての結晶化度の変化量が著しく大きくなり、延伸仮撚加工して分散染料にて染色された際に染色度合いが不安定となり工業的に安定して延伸仮撚加工することは困難となる。また温水収縮率が70%を越えるか、あるいは複屈折率が0.03未満の場合、繊維の配向性が低くかつ結晶化していないために物性が経時変化してしまい工業的に安定して延伸仮撚加工することは困難となる。温水収縮率は45〜65%の範囲が好ましく、50〜60%の範囲が更に好ましい。また複屈折率は0.035〜0.062の範囲が好ましく、0.040〜0.060の範囲が更に好ましい。
【0028】
本発明のポリエステル繊維は、アルカリ土類金属を含有してもよい。アルカリ土類金属は通常エステル交換反応触媒として使用するが、アルカリ土類金属をエステル交換反応触媒として用いたポリエステルからなる繊維の場合、該アルカリ土類金属元素の含有量は全ジカルボン酸成分に対して30〜120mmol%の範囲であり、且つアルカリ金属とアルカリ土類金属の合計の含有量とリン化合物の含有量のモル比が下記関係式(1)の範囲にあることが好ましい。
【0029】
【数2】
0.4≦P/M≦1.5 (1)
(ここで、Mはアルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素の合計量の全ジカルボン酸成分に対するモル濃度、Pはリン化合物のリン元素の全ジカルボン酸成分に対するモル濃度を示す。)
アルカリ土類金属の含有量が30mmol%未満、または(P/M)が1.5より大きい場合、反応が非常に遅くなる結果、得られるポリマーの分子量が低くなり、またアルカリ土類金属の含有量が120mmol%より多い場合、または(P/M)が0.4未満の場合、得られるポリエステルの熱安定性や色相に悪影響を与える為、好ましくない。該アルカリ土類金属の含有量は35〜110mmol%の範囲がより好ましく、40〜100mmol%の範囲が更に好ましい。また、(P/M)は0.5〜1.3の範囲が好ましく、0.6〜1.1の範囲が更に好ましい。
【0030】
本発明のポリエステル繊維に使用するアルカリ土類金属としてはカルシウム化合物、マグネシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物が挙げられるが、これらの中でもカルシウム化合物、マグネシウム化合物が好ましい。カルシウム化合物としては酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、安息香酸カルシウム、蟻酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等、及びこれらの水和物、マグネシウム化合物としては酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、安息香酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等、及びこれらの水和物が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、また二種以上併用してもよい。これらの中で酢酸カルシウム一水和物、酢酸マグネシウム四水和物が特に好ましく用いられる。
【0031】
本発明において、用いられるチタン化合物は、触媒起因の異物低減の点で、ポリエステルポリマー中に可溶なチタン化合物を使用することが必要である。チタン化合物としては、特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられるが、特に望ましいのは、下記一般式(I)で表わされる化合物、もしくは一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物、あるいは下記一般式(III)で表される化合物である。
【0032】
【化6】
【0033】
【化7】
【0034】
【化8】
【0035】
一般式(I)で表わされるテトラアルコキサイドチタンとしては、R1〜R4がアルキル基および/またはフェニル基であれば特に限定されないが、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタンなどが好ましく用いられる。また、該チタン化合物(I)と反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物が好ましく用いられる。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸またはその無水物の一部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。
【0036】
更に、一般式(III)で表されるチタン化合物としては後述の一般式(IV)のリン化合物、一般式(V)の化合物を反応させて合成することが出来、一般式(III)で表されるチタン化合物の合成方法としては、例えばリン化合物(IV)からなる成分とエチレングリコールとを混合して、リン化合物成分の一部又は全部を溶媒中に溶解し、この混合液にチタン化合物成分(I)を滴下し、反応系を0℃〜200℃の温度に30分間以上、好ましくは60〜150℃の温度に40〜90分間、加熱することによって行われる。この反応において、反応圧力については格別の制限はなく、通常常圧下で行われる。
【0037】
本発明において、用いられる有機リン化合物としては、下記一般式(IV)で表されるリン化合物および/または下記一般式(V)で表されるリン化合物を用いることが好ましい。これらは単独で使用してもよく、また二種以上併用してもよい。
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
上述のリン化合物としては、上記式(IV)で表されるリン化合物としては式中のpが0の場合は、例えば、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸等を挙げることができるが、中でもモノアリールホスホン酸が好ましい。pが1の場合は例えば、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノプロピルホスフェート、モノ−n−ブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノノニルホスフェート、モノデシルホスフェート、モノドデシルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(4−ドデシル)フェニルホスフェート、モノ(4−メチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−エチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−プロピルフェニル)ホスフェート、モノ(4−ドデシルフェニル)ホスフェート、モノトリルホスフェート、モノキシリルホスフェート、モノビフェニルホスフェート、モノナフチルホスフェート、モノアントリルホスフェート等が挙げられる。
【0041】
また、上記式(V)で表されるリン化合物としてはカルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸等のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステルおよびジブチルエステルが挙げられる。
【0042】
本発明に使用するリン化合物には上記式(IV)、(V)以外のリン化合物を使用しても良い。上記式(IV)、(V)以外のリン化合物としては具体的にはリン酸、亜リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、トリ(ヒドロキシエトキシ)ホスフェート、トリ(ヒドロキシエトキシエトキシ)ホスフェート、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、トリ(ヒドロキシエトキシ)ホスファイト、トリ(ヒドロキシエトキシエトキシ)ホスファイト、フェニルホスフィン酸、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、プロピルホスフィン酸、イソプロピルホスフィン酸、ブチルホスフィン酸、トリルホスフィン酸、キシリルホスフィン酸、ビフェニリルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジプロピルホスフィン酸、ジイソプロピルホスフィン酸、ジブチルホスフィン酸、ジトリルホスフィン酸、ジキシリルホスフィン酸、ジビフェニリルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アントリルホスフィン酸、2−カルボキシフェニルホスフィン酸、3−カルボキシフェニルホスフィン酸、4−カルボキシフェニルホスフィン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,3,6−トリカルボキフェニルホスフィン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスフィン酸、ビス(2−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(3−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(4−カルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3−ジカルボキシルフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,4−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,5−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,6−ジカルボキシルフェニル)ホスフィン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(3,5−ジカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,4−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,5−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,3,6−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(2,4,5−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸、及びビス(2,4,6−トリカルボキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。
【0043】
本発明のポリエステル繊維を製造するには、テレフタル酸ジメチルを90%以上含む芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体とアルキレングリコールに、上記一般式(I)で表される化合物と上記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物であるポリエステルポリマーに可溶なチタン化合物が全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてチタン元素換算で2〜25ミリモル%添加してエステル交換反応させ、次いでリン化合物を、全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてリン元素換算で5〜120ミリモル%添加してエステル交換反応を完了させるとともに、該エステル交換反応開始前から重縮合反応開始前の任意の段階でアルカリ金属化合物を、全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてアルカリ金属元素換算で1〜40ミリモル%添加し、引き続き重縮合反応させて得られる、アンチモン元素、コバルト元素、マンガン元素、ゲルマニウム元素の合計含有量が5ppm以下であるポリエステルを、巻取り速度2500〜4500m/分の速度で溶融紡糸することが必要である。
【0044】
本発明のポリエステル繊維は上記速度で巻き取られた部分配向糸をその後延伸仮撚加工することが好ましく実施されるが、巻取り速度が2500m/分未満であると得られる繊維の配向度が十分でなく、その後の延伸仮撚加工の際に高倍率で加工することが必要となり、また4500m/分より大きい場合は配向結晶化が促進されて延伸仮撚加工が困難となる為好ましくない。巻き取り速度は2700〜4200m/分の範囲が好ましく、2900〜4000m/分の範囲が更に好ましい。
【0045】
また、本発明のポリエステル繊維を製造する時の製造方法としては、例えばポリマー温度を270℃〜300℃で再溶融させてから紡糸口金より押し出すまでの滞留時間を20分間以下とし、紡糸口金より押し出した溶融マルチフィラメントを紡糸口金直下に設けた30〜250℃の雰囲気温度に保持した長さ2〜30cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、このマルチフィラメントを冷却固化し、油剤を付与した後、エアーノズルで交絡付与を行い、巻き取る製造方法があげられる。本発明のポリエステル繊維を製造する際において、紡糸時に使用する口金の形状について制限は無く、円形、異形、中実、中空等のいずれも採用することができる。
【0046】
本発明のポリエステル繊維に用いるポリエステルを製造する際に好ましく使用される原料であるテレフタル酸ジメチルとしては、ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによってリサイクルされたテレフタル酸ジメチルが好ましく使用される。ここで、該ポリアルキレンテレフタレートとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、特に回収されたPETボトル、回収されたポリエステル繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、更にはこれら製品の製造工程において発生する屑ポリマーなど回収されたポリエステルが好ましく用いられる。
【0047】
本発明に用いる、ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られたテレフタル酸ジメチルの製造方法については特に限定はないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコールで解重合した後、メタノールでエステル交換反応し、得られたテレフタル酸ジメチルを再結晶や蒸留で精製する方法が挙げられる。
【0048】
本発明のポリエステル繊維の固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)は、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、更に0.45〜0.75、特に0.50〜0.70の範囲が好ましい。固有粘度が0.40未満であると、繊維の強度が不足するため好ましくない。他方、固有粘度が0.80を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0049】
本発明のポリエステル繊維は、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよい。特に艶消剤としての酸化チタン、安定剤としての酸化防止剤は好ましく添加され、酸化チタンとしては、平均粒径が0.01〜2μmの酸化チタンを最終的に得られるポリエステル組成物中に0.01〜10重量%含有させるよう添加することが好ましい。
【0050】
また、酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系の酸化防止剤が好ましい。具体的にはペンタエリスリトール−テトラエキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。これらヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は1重量%以下であることが好ましい。1重量%を超えると製糸時のスカムの原因となり得る他、1重量%を超えて添加しても溶融安定性向上の効果が飽和してしまう為好ましくない。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は0.005〜0.5重量%の範囲が更に好ましい。またこれらヒンダードフェノール系酸化防止とチオエーテル系二次酸化防止剤を併用して用いることも好ましく実施される。
【0051】
該酸化防止剤のポリエステルへの添加方法は特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、またはエステル化反応終了後、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加する方法が挙げられる。
【0052】
【実施例】
本発明を更に下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。尚、固有粘度、色相、チタン、リン、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、アンチモン、ゲルマニウム、マンガン、コバルト含有量、ジエチレングリコール含有量、複屈折率、温水収縮率、引張強度、引張伸度及び紡糸口金に発生する付着物の層については、下記記載の方法により測定した。
【0053】
(1)固有粘度:
ポリエステルポリマーの固有粘度は、オルトクロロフェノール溶液について、35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0054】
(2)色相(L値及びb値):
ポリマー試料を290℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを160℃、1時間乾燥結晶化処理後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターL値及びb値を、ミノルタ社製ハンター型色差計CR−200を用いて測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
【0055】
(3)繊維中のリン含有量:
繊維中のリン元素量は繊維をアセトンで洗浄して油剤を除去した後、サンプルを加熱溶融して円形ディスクを作成し、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。
【0056】
(4)繊維中のチタン、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、アンチモン、ゲルマニウム、マンガン、コバルト含有量:
繊維をアセトンで洗浄して油剤を除去した後、サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−8100形原子吸光光度計を用いて定量を行った。ただし、艶消し剤として酸化チタンを添加したもののチタン元素量については、0.5規定塩酸抽出後の抽出液中に酸化チタンの分散が確認された場合は遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させ、傾斜法により上澄み液のみを回収して、同様の操作を行った。
【0057】
(5)ポリマー中のジエチレングリコール含有量:
抱水ヒドラジンを用いてポリマーを分解し、ガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製「HP6850」)を用い、ジエチレングリコール含有量を常法に従って測定した。
【0058】
(6)複屈折率:
光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。
【0059】
(7)温水収縮率(%):
枠周1.125mの検尺機を用い、0.27cN/dtexの初荷重をかけ120回/minの速度で捲き返し、捲き数40回の小カセをつくり、初荷重の20倍の荷重をかけてカセ長L0(mm)を測る。次に荷重をはずし、試料を65℃の温水中に30分間浸漬した後取り出し、自然乾燥し再び初荷重の20倍の荷重をかけてカセ長L1(mm)を測り次の式により温水収縮率を算出した。
温水収縮率(%)=(L0−L1)/L0 × 100
【0060】
(8)引張強度、引張伸度:
JIS L1013記載の方法に準拠して測定を行った。
【0061】
(9)口金異物高さ:
4日間連続紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステルメルトのフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0062】
[参考例11]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部との混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート0.0088重量部と酢酸カリウム0.00076重量部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023重量部、ペンタエリスリトール−テトラエキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](イルガノックス1010、チバスペシャリティーケミカルズ社製)を0.02重量部添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0063】
その後、反応生成物を重合容器に移し、287℃まで昇温し、26.67Pa以下の高真空下で重縮合反応を行って、固有粘度0.63、ジエチレングリコール量が1.0重量%であるポリエステルを得た。結果を表1に示す。
【0064】
得られたポリエステルを常法に従いチップ化し、150℃で5時間乾燥した後、スクリュー式押出機を装備した溶融紡糸設備で溶融し、295℃のスピンブロックに導入し、孔径0.23mmの吐出孔が同心円状に72個配列してある紡糸口金から、48g/分の流量で吐出した。吐出された溶融ポリマー流を、クロスフロー式の送風筒から噴出される空気流で冷却・固化し、紡糸口金から80cm下方に設置されたノズル式給油装置で、給油しつつ集束し、エアーノズルで交絡処理を施した後に3500m/分と4000m/分の巻取速度でワインダーによって巻き取った。得られた、ポリエステル繊維の物性を表2に示す。
【0065】
[参考例1]
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラ−n−ブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応させて、その後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥させて、目的とする化合物を得た。
【0066】
[実施例2]
参考例11において、チタン化合物として、上記参考例1の方法で合成したチタン化合物0.016重量部を用いたこと以外は同様の操作を行った。結果を表1、2に示す。
【0067】
[参考例2]
エチレングリコール131重量部中にモノ−n−ブチルホスフェート3.5重量部を120℃に10分間加熱して溶解した。このエチレングリコール溶液134.5重量部に、更にエチレングリコール40重量部を加えた後、これにチタンテトラブトキシド3.8重量部を溶解させた。得られた反応系を120℃で60分間撹拌し、チタン化合物とモノ−n−ブチルホスフェートとを反応させ、反応生成物を含む触媒の白色スラリーを得た。この触媒スラリーのチタン含量は0.3重量%、チタン元素のリン元素に対するモル比(P/Ti)は2.0であった。
【0068】
[参考例13]
参考例11において、チタン化合物として、上記参考例2の操作で合成したチタン化合物0.0091重量部を用いるとともに、リン化合物を表1に示す化合物及び値に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1、2に示す。
【0069】
[実施例4〜6並びに比較例1〜4]
参考例11において、チタン化合物、アルカリ金属化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量に変更したこと以外は同様の操作を行った。ただし、比較例2、3は重合反応が十分に進行しなかった為、製糸評価は実施しなかった。結果を表1、2に示す。
【0070】
[実施例7]
参考例11において、アルカリ金属化合物を添加せず、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値に変更し、エステル交換反応終了後、カリウム元素の含有量が1290ppmである酸化チタンの20重量%エチレングリコールスラリーを1.5重量部添加したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1、2に示す。
【0071】
[実施例8]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部の混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.144と酢酸ナトリウム0.0105重量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。
【0072】
その後、トリエチルホスホノアセテート0.081重量部、ペンタエリスリトール−テトラエキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](イルガノックス1010、チバスペシャリティーケミカルズ社製)を0.02重量部添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0073】
このエステル交換反応物を撹拌装置、窒素導入口、減圧口、蒸留装置を備えた反応容器に移し、重合触媒として参考例1で調整したチタン化合物0.022重量部を添加して285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空下で重縮合反応を行って、固有粘度0.63、ジエチレングリコール量が0.7重量%であるポリエステルを得た。
【0074】
得られたポリエステルを常法に従いチップ化し、実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル繊維を得た。結果を表2に示す。
【0075】
[実施例9〜10並びに比較例5〜7]
実施例8において、チタン化合物、アルカリ金属化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び添加量に変更したこと以外は同様の操作を行った。ただし、比較例2はアルカリ金属化合物を添加しなかった。結果を表1、2に示す。
【0076】
[実施例11]
実施例8において、酢酸カルシウム一水和物の代わりに酢酸マグネシウム四水和物を表1に示す値とし、チタン化合物、アルカリ金属化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1、2に示す。
【0077】
[実施例12]
実施例8において、アルカリ金属化合物を添加せず、チタン化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値に変更し、エステル交換反応終了後、カリウム元素の含有量が1290重量ppmである酸化チタンの20重量%エチレングリコールスラリーを1.5重量部添加したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1、2に示す。
【0078】
[比較例8]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール70重量部の混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート0.0088重量部と酢酸カリウム0.00076重量部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.023重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0079】
その後反応生成物に三酸化二アンチモン0.040重量部添加し、混合物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空下で重縮合反応を行って、固有粘度0.60、ジエチレングリコール量が1.0重量%であるポリエステルを得た。
【0080】
得られたポリエステルを常法に従いチップ化し、実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル繊維を得た。結果を表1、2に示す。
【0081】
[比較例9]
実施例8において、酢酸カルシウム一水和物、アルカリ金属化合物及びリン化合物を表1に示す化合物及び値とし、重合触媒としてチタン化合物の代わりに三酸化二アンチモンを表1に示す量使用したこと以外は同様にして重縮合反応を行いポリエステル及び繊維を得た。結果を表2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
表2からも明らかなように、本発明のポリエステル繊維は良好な性能が得られたが、アルカリ土類金属触媒、有機リン化合物、ポリマー可溶性チタン化合物の添加量及び比率が本発明の範囲を外れる場合(比較例1〜8)は、色相が不良であるか、固有粘度が上昇しなかったか、あるいは繊維の温水収縮率が低いものであった。また、アンチモン化合物を触媒として用いたもの(比較9〜10)は、口金異物量が非常に多いものであった。
【0085】
【発明の効果】
本発明によれば、Ti触媒を使用し従来技術の欠点であった色相の悪化を解消し、ポリエステルが持つ、優れた特性を保持しながら、色相が優れ、優れた製糸性を有するポリエステル繊維を提供することができる。
Claims (10)
- エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物であるアルカリ金属化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としてアルカリ金属元素換算で1〜40ミリモル%含有し、且つポリエステルポリマーに可溶なチタン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としてチタン元素換算で2〜25ミリモル%含有し、リン化合物を、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としてリン元素換算で5〜120ミリモル%含有し、更にアンチモン元素、コバルト元素、マンガン元素、ゲルマニウム元素の合計含有量が5ppm以下であり、ポリエステルポリマーに可溶なチタン化合物が、下記一般式(I)で表されるチタン化合物と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物であるポリエステルからなり、65℃温水中で30分間浸漬させた前後での温水収縮率が40〜70%であり、且つ複屈折率が0.03〜0.065の範囲にある、ポリエステル繊維。
- ポリエステルに、更にアルカリ土類金属化合物を含有する、請求項1記載のポリエステル繊維。
- アルカリ土類金属化合物の含有量がポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として、30〜120ミリモル%であって、且つポリエステル中における、アルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素との合計の含有量と、リン元素の含有量とのモル比が下記関係式を満足する、請求項2記載のポリエステル繊維。
【数1】
0.4≦P/M≦1.5
(ここで、Mはアルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素との合計量の、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としたモル濃度、Pはリン元素の、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準としたモル濃度を示す。) - アルカリ土類金属化合物がカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物である、請求項2記載のポリエステル繊維。
- ヒンダードフェノール系酸化防止剤をポリエステルを基準として1重量%以下の範囲で含有する、請求項1記載のポリエステル繊維。
- テレフタル酸ジメチルを90%以上含む芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体とアルキレングリコールに、下記一般式(I)で表されるチタン化合物と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物であるポリエステルポリマーに可溶なチタン化合物が全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてチタン元素換算で2〜25ミリモル%添加してエステル交換反応させ、次いでリン化合物を、全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてリン元素換算で5〜120ミリモル%添加してエステル交換反応を完了させるとともに、該エステル交換反応開始前から重縮合反応開始前の任意の段階でナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物であるアルカリ金属化合物を、全芳香族ジカルボン酸成分を基準としてアルカリ金属元素換算で1〜40ミリモル%添加し、引き続き重縮合反応させて得られる、アンチモン元素、コバルト元素、マンガン元素、ゲルマニウム元素の合計含有量が5ppm以下であるポリエステルを、2500〜4500m/分の巻き取り速度で溶融紡糸する、ポリエステル繊維の製造方法。
- アルカリ金属化合物の添加を、チタン化合物の添加と同時に行う、請求項8記載の製造方法。
- 出発原料として使用するテレフタル酸ジメチルをポリアルキレンテレフタレートを解重合して得られたリサイクルされたテレフタル酸ジメチルとする、請求項8記載の製造方法。
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