JP4110337B2 - 高粘性ローカストビーンガムおよびその製造方法 - Google Patents

高粘性ローカストビーンガムおよびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高粘性ローカストビーンガムおよびその製造方法に関する。かかるローカストビーンガムは、主に食品分野で用いることができるが、工業用分野として化粧品分野、医薬品分野または繊維処理分野、皮革処理分野等においても、増粘剤、安定剤、分散剤、添加剤として用いられる。
【0002】
【従来の技術】
ローカストビーンガムは、キャロブ(Ceratonia siliqua )の種子の胚乳から抽出される多糖類である。ローカストビーンガムの構造は主としてβ−D−マンノースとα−D−ガラクトースからなるガラクトマンナンである。主鎖は1,4結合のβ−D−マンノースであり、側鎖に1,6結合のα−D−ガラクトースが結合し、D−マンノースに対するD−ガラクトースの割合は、およそD−マンノース:D−ガラクトース=4:1である。ローカストビーンガムの製造方法としては、キャロブの実から外皮を取り除き、粉砕したものを高温の水で抽出し、ろ過、イソプロピルアルコールなどのアルコール類による沈殿を経て、そのアルコールを取り除き、乾燥、粉砕する方法などが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ローカストビーンガムは粘性の高い溶液を作ることが知られているが、いわゆる未精製品は、黄色で粉体粒子も大きく、単に水に溶解させた場合にはやがて沈降してしまう。これを解決すべく、精製を施した商品(例えば三栄源エフエフアイ(株)、商品名「ローカストビーンガムF」)が多く市場に投入されているが、いずれも未精製品に比べて粘度が低下しているのが実状である。このため従来のローカストビーンガムは、粘度特性に関し、ユーザーのニーズを十分満足させるものではなかった。すなわち、ローカストビーンガムの粘度がより高ければ添加量をさらに減らすことができる。したがって均一に分散する精製品において、さらに高い粘度特性を有するローカストビーンガムが望まれていた。また、従来のローカストビーンガムは多量に水中に投入すると、膨潤した粒子同士が接合してローカストビーンガム粉末塊の周囲に強い被膜を造り、「ままこ」と呼ばれる粘性のある塊ができてしまい、容易に分散しなくなる等の問題点がある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、ローカストビーンガムを固体状態で加熱して得たローカストビーンガムが優れた粘度特性を有することを見出し、本発明を完成した。かかる本発明は、ローカストビーンガム濃度として1.0重量%の水溶液とした場合、2000mPa・s(B型粘度計6rpm 25℃)以上の粘度を示し、かつ1週間、室温に保存した状態でも、沈降することなく均一溶液となる高粘性ローカストビーンガムに関する。また、同様にローカストビーンガム濃度として1.0重量%の水溶液とした場合、4000mPa・s(B型粘度計6rpm 25℃)以上の粘度を示す高粘性ローカストビーンガムに関する。いずれの場合においても水溶液を80℃まで加温し、1時間スリーワンモーターで攪拌し、放冷したものを用いて粘度評価をしている。ローカストビーンガム濃度として1.0重量%の水溶液とした場合に2000mPa・s(B型粘度計6rpm 25℃)以上の粘度を示さない場合には、粘度特性として不十分で、化粧品分野、食品分野、医薬品分野等の増粘剤、安定剤、分散剤等として用いても効果が小さく価値がない。
【0005】
本発明の高粘性ローカストビーンガムは、乾燥減量(常圧下、105℃、5時間加熱)が50重量%以下のローカストビーンガムを80〜140℃で10秒〜4時間加熱することによって得ることができる。上記加熱は気体中でも液体中でも行うことができる。気体中で行う場合、空気中等酸素の存在下で行うと着色する恐れがあるので、不活性ガス中で行うのが良い。また、気体中での加熱を減圧下で行うことによっても着色を回避できる。液体中で加熱を行う場合、ローカストビーンガムを溶解しない不活性溶剤中にローカストビーンガムを分散させた状態で加熱する。液体中で加熱を行う場合も着色は起こらない。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
上述のごとく、本発明の高粘性ローカストビーンガムは、一般に、乾燥減量(常圧下、105℃、5時間加熱、以下別に定義する場合を除き、「乾燥減量」はこの条件下での乾燥減量をいうものとする)が50重量%以下のローカストビーンガムを80〜140℃で10秒〜4時間加熱することによって得ることができる。
本発明の高粘性ローカストビーンガムを製造するのに使用する原料ローカストビーンガムは、乾燥減量が50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下のローカストビーンガムである。また、未精製品を原料とした場合にも、同じような粘度特性を得ることができるが、本発明によってローカストビーンガムの沈降を押さえる働きは発生しないために、既に精製されたローカストビーンガムを使用することが必須である。かかる原料ローカストビーンガムとしてはまず市販の粉末状、顆粒状等のローカストビーンガムを用いることができる。原料ローカストビーンガムの乾燥減量が50重量%より多いとローカストビーンガムの品温が十分に上がらず、粘性向上の効果がない。
本発明の高粘性ローカストビーンガムを製造するために、かかる原料ローカストビーンガムを加熱するが、加熱は80〜140℃、好ましくは100〜130℃、さらに好ましくは105〜125℃で、10秒以上、好ましくは10秒〜4時間、さらに好ましくは10秒〜3時間である。これらの条件中においても、高温側では比較的短時間加熱、低温側では比較的長時間加熱が好ましい。加熱温度が80℃未満であると粘性の改善が十分でなく、140℃を超えると一般に着色する可能性が大きくなる。
【0007】
上記加熱は、気体中でも液体中でも行うことができる。気体中で行う場合、空気中等酸素の存在下で行うと着色する恐れがあるので、ローカストビーンガムと反応しない不活性ガス中で行うのが良い。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、炭酸ガス、水蒸気等を挙げることができる。また、気体中での加熱を減圧下で行うことによっても着色を回避できる。この場合の気体としては、上記不活性ガスを用いることができるのは勿論であるが、減圧の程度によっては空気も着色を生じることなく用いることができる。減圧の程度は、特に制限ないが、200〜0.01mmHgが適当である。
【0008】
液体中で加熱を行う場合、ローカストビーンガムを溶解しない不活性溶剤中にローカストビーンガムを分散させた状態で加熱する。液体中で加熱を行う場合も着色は起こらない。不活性溶剤としては、ローカストビーンガムを溶解せず、ローカストビーンガムと反応しないものであれば特に制限はない。不活性溶剤の例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール等の炭素数1〜6のアルカノール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール等の炭素数1〜4のアルカンジオール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等のエチレングリコールのモノもしくはジ低級アルキル(C=1〜4、特に1〜2)エーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールのモノもしくはジ低級アルキル(C=1〜4、特に1〜2)エーテル等を挙げることができる。
不活性溶剤中での反応は場合により加圧下で、例えばオートクレーブ中で行うことができる。
【0009】
加熱処理後に得られる高粘性ローカストビーンガムの単離は、例えば加熱処理液を濾過し、ケーキを必要に応じエタノール等の低沸点溶剤で洗浄し、ついで真空乾燥することによって行うことができる。
上記方法によって製造される本発明の高粘性ローカストビーンガムは、その高い粘性において従来のローカストビーンガムと異なる。すなわち、本発明の高粘性ローカストビーンガムは、ローカストビーンガム濃度として1.0重量%の水溶液とした場合、2000mPa・s(mPa・s=ミリパスカル×秒)(B型粘度計、6rpm、25℃。以下別に定義する場合を除き、粘度値はこの条件下でのものをいうものとする。なお、1mPa・s=1cP(センチポアズ)である)以上の粘度を示す。市販のローカストビーンガム(精製品)の1.0重量%水溶液の粘度は80〜1200mPa・s程度であるので、本発明のローカストビーンガムの高粘性は驚異的である。
【0010】
本発明の高粘性ローカストビーンガムのその他の物性については、分子量が測定条件下での再現性に乏しいことを除き、従来のローカストビーンガムと比し、分子式上での変化はないと考えられる。例えば、NMRスペクトル、元素分析およびIRスペクトル(KBr法およびFT−IR法)は原料ローカストビーンガムと比べ実質的変化はない。本発明の高粘性ローカストビーンガムは、従来のローカストビーンガムと同様な用途に用いることができるが、その際に従来品よりも少ない用量で予測以上の増粘効果を発揮することができる。また、水分散性も改善され、作業性も良好である。かかる本発明の高粘性ローカストビーンガムは単独でまたは他の水溶性ゲル化剤や乳化剤と組み合わせて使用することにより、安定なゲルや乳化物を得ることができる。したがって、本発明の高粘性ローカストビーンガムは、食品、化粧品、医薬品等の分野を始め、石油産業を含む一般工業分野で水溶性増粘剤として用いることができる。さらには、本発明のローカストビーンガムでは低温側でより高い粘度値を示す。このため冷凍食品、冷菓、氷菓などの用途においても、機能を発揮することが可能である。
本発明を以下実施例、比較例および参考例によって具体的に説明するが、これらは本発明を例証するためのものであって、本発明を何等限定するものではない。
【0011】
比較例1
市販のローカストビーンガムとして、三栄源エフエフアイ(株)より入手したローカストビーンガム(商品名:「ローカストビーンガムF」乾燥減量3重量%)を1.0重量%水溶液となるように秤量し、80℃に加温した状態で1時間、スリーワンモーターで攪拌し、放冷後、翌日粘度を測定した(試料No.1)。粘度はB型粘度計((株)東京計器製)を用い、6rpmの条件下で測定した。
【0012】
比較例2、3
市販のローカストビーンガムとして、三栄源エフエフアイ(株)より入手したローカストビーンガム(商品名:「ビストップD−6」乾燥減量8重量%)を用い、比較例1と同様に溶液を調整し、粘度評価を行った(試料No.2)。また、未精製品として三栄薬品貿易(株)より入手したローカストビーンガム(商品名:「ローカストコール」乾燥減量5重量%)を用いて同様の溶液調整、粘度評価を行った(試料No.3)。これらの結果を合わせて表1に示す。
【0013】
【表1】
Figure 0004110337
【0014】
実施例1
ローカストビーンガム粉末(三栄源エフエフアイ(株)より入手、商品名「ローカストビーンガムF」、乾燥減量3重量%)10gを1,3−ブチレングリコール40gに分散させ、120℃で20秒間加熱した。ローカストビーンガム分散液をそれぞれ濾過し、ケーキをエタノール40gで洗浄した。真空乾燥に12時間付してエタノールを除去して高粘性ローカストビーンガムを得た(試料No.4)。それぞれの1.0重量%水溶液を比較例1と同様に調製し、粘度を測定した。粘度の顕著な上昇が見られた。各ローカストビーンガムの水への分散は、比較例1のローカストビーンガムと比べ、「ままこ」ができにくく、分散性が改善されていた。
【0015】
実施例2
ローカストビーンガム粉末(三栄源エフエフアイ(株)より入手、商品名「ビストップD−6」、乾燥減量8重量%)10gを1,3−ブチレングリコール40gに分散させ、90℃で2時間加熱した。ローカストビーンガム分散液をそれぞれ濾過し、ケーキをエタノール40gで洗浄した。真空乾燥に12時間付してエタノールを除去して高粘性ローカストビーンガムを得た(試料No.5)。それぞれの1.0重量%水溶液を調製し、粘度を測定した。粘度の顕著な上昇が見られた。各ローカストビーンガムの水への分散は、比較例2のローカストビーンガムと比べ、「ままこ」ができにくく、分散性が改善されていた。
【0016】
実施例3
ローカストビーンガム粉末(三栄源エフエフアイ(株)より入手、商品名「ビストップD−6」、乾燥減量8重量%)10gを減圧下(空気、60mmHg)において115℃で3時間加熱した(試料No.6)。得られた高粘性ローカストビーンガムの1.0重量%水溶液を作り、粘度を測定した。粘度の顕著な上昇が見られた。各ローカストビーンガムの水への分散は、比較例2のローカストビーンガムと比較し、「ままこ」ができにくく、分散性が改善されていた。
【0017】
実施例4
ローカストビーンガム粉末(三栄源エフエフアイ(株)より入手、商品名「ビストップD−6」、乾燥減量8重量%)10gに水を加えて乾燥減量が45重量%とした後、窒素ガス中において115℃で3時間加熱した(試料No.7)。得られた高粘性ローカストビーンガムの1.0重量%水溶液を作り、粘度を測定した。粘度の顕著な上昇が見られた。各ローカストビーンガムの水への分散は、比較例2のローカストビーンガムと比べ、「ままこ」ができにくく、分散性が改善されていた。
【0018】
実施例5
ローカストビーンガム粉末(三栄薬品貿易(株)より入手、商品名「ローカストコール」、乾燥減量5重量%)10gを大豆油中において110℃で1時間加熱した(試料No.8)。ヘキサンで洗浄し、乾燥させ、得られた高粘性ローカストビーンガムの1.0重量%水溶液を作り、粘度を測定した。粘度の顕著な上昇が見られた。各ローカストビーンガムの水への分散は、比較例3(試料No.3)のローカストビーンガムと比べ、「ままこ」ができにくく、分散性が改善されていた。
これらの実施例の結果については、表2に示す。
【0019】
【表2】
Figure 0004110337
【0020】
【発明の効果】
本発明の高粘性ローカストビーンガムは、原料ローカストビーンガムが精製を施した商品であっても、従来のローカストビーンガムに比し数倍の粘度特性を有する極めて優れた水溶性増粘剤であり、少ない添加量で従来品以上の効果をあげることができ、また、水分散性も改善され、作業性も良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ローカストビーンガムの一般式である。統計的に4個のマンノースに対して1個のガラクトースが結合している。

Claims (4)

  1. 乾燥減量(常圧下、105℃、5時間加熱)が50重量%以下のローカストビーンガムを不活性ガス中において80〜140℃で加熱することを特徴とする、ローカストビーンガム濃度として1.0重量%の水溶液とした場合、2000mPa・s(B型粘度計6rpm 25℃)以上の粘度を示し、かつ該水溶液を1週間室温保存したときに、沈降することなく均一溶液となる高粘性であり、分散性が改善されたローカストビーンガムの製造方法。
  2. 乾燥減量(常圧下、105℃、5時間加熱)が50重量%以下のローカストビーンガムを80〜140℃で加熱することを特徴とする、ローカストビーンガム濃度として1.0重量%の水溶液とした場合、2000mPa・s(B型粘度計6rpm 25℃)以上の粘度を示し、かつ該水溶液を1週間室温保存したときに、沈降することなく均一溶液となる高粘性であり、分散性が改善されたローカストビーンガムの製造方法であって、加熱を気体中減圧下で行う、高粘性であり、分散性が改善されたローカストビーンガムの製造方法。
  3. 乾燥減量(常圧下、105℃、5時間加熱)が50重量%以下のローカストビーンガムを80〜140℃で加熱することを特徴とする、ローカストビーンガム濃度として1.0重量%の水溶液とした場合、2000mPa・s(B型粘度計6rpm 25℃)以上の粘度を示し、かつ該水溶液を1週間室温保存したときに、沈降することなく均一溶液となる高粘性であり、分散性が改善されたローカストビーンガムの製造方法であって、加熱をローカストビーンガムを溶解しない不活性溶剤中にローカストビーンガムを分散させた状態で行う、高粘性であり、分散性が改善されたローカストビーンガムの製造方法。
  4. 加熱条件が105〜125℃で10秒〜4時間である請求項のいずれかに記載の高粘性であり、分散性が改善されたローカストビーンガムの製造方法。
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