JP4108873B2 - ポリエステル繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、延伸時の糸切れを低減させることができ、その結果、生産性を向上できる酸化チタン(艶消剤)を含まないポリエステル繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維は、機械的特性をはじめ、耐候性、寸法安定性など優れた特性を有しており、衣料用途や産業資材用途などの様々な用途で広く使用されている。このようなポリエステル繊維を製造するうえで、紡糸または延伸時に発生する糸切れは、生産性を著しく低下させ、製糸コストをあげる大きな要因となっている。
また、ポリエステル繊維は、主に衣料用として用いられるが、ポリエステル繊維は基本的に艶があるために、0.05〜5重量%程度の艶消剤(ダル剤)を添加するのが一般的である。艶消剤としては、一般的に酸化チタンが用いられており、現在、世界中で製造されるポリエステル繊維のほとんどは酸化チタンを添加したものである。一方で、ポリエステル本来の艶を生かした布帛に対する用途に対しては、当然のことながら艶消剤である酸化チタンを添加しないポリエステル繊維を用いることになる。しかしながら、酸化チタンは、艶消効果のみならず、ポリエステルの延伸性向上にも寄与しており、酸化チタンを添加しないポリエステルを溶融紡糸すると、その延伸性が低下するため、延伸時の糸切れ・ラップが多発する。したがって、従来、艶消剤(酸化チタン)を含まないポリエステル繊維の製糸を実施する際には、延伸速度を下げる、または延伸倍率を下げるなどの対策を実施することが必要である。しかしながら、これらの対策は、すべて生産性の低下につながるため、艶消剤を添加せず、生産性を悪化させないポリエステル繊維が求められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の問題を解消し、酸化チタンを含まないポリエステルであっても、延伸速度や延伸倍率を低下させることなく、延伸時の断糸やラップの発生が少なく安定して製糸することができ、生産性の高いポリエステル繊維を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルであって、テレフタル酸成分を基準として、イソフタル酸および/または1,4−シクロヘキサンジメタノールが0.1〜5.0モル%共重合されており、かつ酸化チタンを含まないポリエステル100重量部に対し、硫酸バリウム、硫酸カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを0.001〜0.2重量部添加したポリエステル組成物を溶融紡糸して得られる酸化チタン非含有ポリエステル繊維によって、上記課題が達成される。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明では、酸化チタンを含まないポリエチレンテレフタレートに、以下に述べる特定の炭酸や硫酸のアルカリ土類金属塩を所定量添加し、かつ、上記ポリエチレンテレフタレートに少量のテレフタル酸以外のジカルボン酸成分もしくはエチレングリコール以外のグリコール成分のうち特定の成分を共重合させることによって、酸化チタンを含まない繊維の延伸性を有意に向上させる。
【0006】
本発明のポリエステルにおいては、テレフタル酸成分を基準として、0.1〜5.0モル%の範囲内で、イソフタル酸および/または1,4−シクロヘキサンジメタノールが共重合されていることが必要である。
【0007】
これらの成分は、テレフタル酸成分を基準として、0.1〜5.0モル%の範囲内で共重合される必要があり、1.0〜3.0モル%の範囲内で共重合されていることが好ましい。共重合量が0.1モル%未満では、本発明の延伸時の断糸やラップを抑制する効果は不十分である。一方、5.0モル%を超えると、延伸性は向上するものの、糸の強度などの物性が低下するために好ましくない。
【0008】
本発明で用いられるポリエステル組成物には、特定の硫酸のアルカリ土類金属塩および/または炭酸のアルカリ土類金属塩が、上記ポリエステル100重量部に対して0.001〜0.2重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部の範囲で含有されていることが必要である。添加量が0.001重量部未満では、延伸時の断糸やラップ抑制効果が不十分である。一方、0.2重量部を超えると、これらのアルカリ土類金属塩が逆に異物になって断糸やラップを増加させてしまうため好ましくない。ここで、上記硫酸のアルカリ土類金属塩としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウムが用いられ、上記炭酸のアルカリ土類金属塩としては、炭酸カルシウムが用いられる。
【0009】
本発明に用いられるポリエステルの製造は、通常行われている任意の方法で行われる。例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのごときテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、またはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる。次いで、この反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造される。
【0010】
本発明に用いられるポリエステルは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルであって、テレフタル酸成分およびエチレングリコール成分以外に、イソフタル酸もしくは1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合して得られる。この共重合成分の導入は、任意の段階で実施することができるが、例えばポリエステル製造工程の、エステル化もしくはエステル交換反応前の段階、またはエステル化もしくはエステル交換反応前の段階などで実施することができる。
【0011】
本発明において、上記アルカリ土類金属塩のポリエステルへの添加は、任意の段階で実施することができるが、例えばポリエステル製造工程の、エステル化もしくはエステル交換反応開始前の段階、またはエステル化もしくはエステル交換反応終了前の段階、あるいは紡糸段階で添加することができる。紡糸段階で添加する方法としては、例えば、アルカリ土類金属塩をポリエステルチップに粉体のまま添加するか、これらを添加したポリエステルマスターチップを作っておきこれをポリエステルチップと混合して溶融押出機に投入することができる。
【0012】
本発明のポリエステル組成物を溶融紡糸して繊維を製造する場合には、任意の製糸条件を何等の支障なく採用することができる。例えば、500〜2,500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸・熱処理する方法、1,500〜5,000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸と仮撚加工とを同時にまたは続いて行なう方法、5,000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸を省略する方法などの任意の製糸条件を採用することができる。5,000m/分以上紡糸速度では、延伸工程そのものは存在しないが、紡糸時の糸切れに対して効果が見られる。
以上の方法により得られる糸は、艶消剤である酸化チタンを含有せずポリエステル本来の艶を有するため、各種衣料用途をはじめ産業資材用途としても好適に用いることができる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、部および%は特に断らない限り重量基準であり、各物性値および測定値は次のようにして測定した。
固有粘度
引き取られた糸を、オルトクロロフェノールを溶媒とし、オストワルド粘度計を用いて35℃で測定した。単位はdl/gである。
糸の強度および伸度
(株)島津製作所製引張試験機「オートグラフAG−100E」を使用し、25℃、試長25cm、引張速度20cm/分で測定した。
【0014】
延伸時の破断(最大)延伸倍率、断糸発生率とラップ発生率
285℃、巻取速度1,400mで得られる225デニール/36フィラメントの未延伸糸を85℃に加熱したのち、180℃で熱固定する延伸工程において、糸が破断する延伸倍率を求め、最大延伸倍率とした。また3日間連続して紡糸および延伸を行い、延伸断糸発生率およびラップの発生率を測定した。
【0015】
実施例1
テレフタル酸ジメチル190部、エチレングリコール124部、イソフタル酸ジメチル3.9部、炭酸カルシウム0.016部および酢酸マンガン4水塩0.06部を精留塔付き反応槽に入れ、常法に従ってエステル交換反応を行い、理論量のメタノールを留出させた。次いで、反応生成物を精留塔付き重縮合用フラスコに入れ、安定剤としてトリメチルホスフェート0.04部、重縮合触媒として3酸化アンチモン0.079部を加え、温度285℃、常圧で30分、さらに30mmHgの減圧下で15分反応を進行させたのち、系内を徐々に減圧し、攪拌下110分間反応させた。最終温度は285℃、最終内圧は0.37mmHgであった。得られたエチレンテレフタレート系コポリエステルを、常法に従ってチップに成形した。
上記のチップを285℃で溶融し、285℃に保持された紡糸パック中に導入し、紡糸口金から吐出し、該吐出糸条を、1,400m/分の紡糸速度で引き取って、225デニール/36フィラメントの未延伸糸を得た。この未延伸糸を85℃の加熱ローラーに430m/分で供給し、加熱後、3倍に延伸し、180℃のヒーター上で熱固定し、75デニール/36フィラメントの延伸糸を得た。得られた糸の固有粘度、強度、伸度、延伸時の最大延伸倍率、断糸発生率、およびラップ発生率を表1に示す。
【0016】
実施例2〜10、比較例1〜7
共重合成分の種類およびその共重合量、アルカリ土類金属塩の種類およびその添加量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル組成物を製造し、製糸を行った。得られた結果を表1に示す。
【0017】
実施例11
テレフタル酸163部、エチレングリコール75部、イソフタル酸3.3部、炭酸カルシウム0.013部を、常法に従いエステル交換反応した。次いで、反応生成物を精留塔付き重縮合用フラスコに入れ、安定剤としてトリメチルホスフェート0.04部、重縮合触媒として3酸化アンチモン0.068部を加え、温度285℃、常圧で30分、さらに30mmHgの減圧下で15分反応を進行させたのち、系内を徐々に減圧し、攪拌下110分間反応させた。最終温度は285℃、最終内圧は0.37mmHgであった。得られたエチレンテレフタレート系コポリエステルを、常法に従ってチップに成形した。
さらに、上記のチップを実施例1と同様の方法により溶融紡糸した。得られた結果を表1に示す。
【0018】
実施例12
テレフタル酸ジメチル155部、エチレングリコール124部、イソフタル酸ジメチル39部、炭酸カルシウム0.16部および酢酸マンガン4水塩0.06部を精留塔付き反応槽に入れ、常法に従ってエステル交換反応を行い、理論量のメタノールを留出させた。次いで、反応生成物を精留塔付き重縮合用フラスコに入れ、安定剤としてトリメチルホスフェート0.04部、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.079部を加え、温度285℃、常圧で30分、さらに30mmHgの減圧下で15分反応を進行させた後、系内を徐々に減圧し、攪拌下110分間反応させた。最終温度は285℃、最終内圧は0.37mmHgであった。得られたエチレンテレフタレート系コポリエステルは、常法に従ってマスターチップに成形した。得られたこのマスターチップ用のポリエステルの固有粘度は、0.660であった。これを炭酸カルシウムのマスターチップとする。
上記のマスターチップ10部と、固有粘度が0.640のポリエチレンテレフタレートのチップ90部とを混合し、実施例1と同様の方法により溶融紡糸した。得られた結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【発明の効果】
本発明のポリエステル繊維は、酸化チタン(艶消剤)を含まないポリエステル組成物を溶融紡糸する際、延伸時の糸切れやラップが低減されるため、安定して製糸することができ、生産性を著しく向上することができる。また、本発明により得られるポリエステル延伸糸は、ポリエステル繊維本来の艶を有するため、タイツ、水着、靴下などのストレッチ素材、インナー、スポーツウエアー、裏地、スラックス、ブルゾンなどの衣料用途、ブラシ、キャンパス、リボン、テープ、ベルトなどの資材用途に好適に用いることができる。
Claims (1)
- エチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルであって、テレフタル酸成分を基準として、イソフタル酸および/または1,4−シクロヘキサンジメタノールが0.1〜5.0モル%共重合されており、かつ酸化チタンを含まないポリエステル100重量部に対し、硫酸バリウム、硫酸カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを0.001〜0.2重量部添加したポリエステル組成物を溶融紡糸して得られる酸化チタンを含まないポリエステル繊維。
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