JP4091163B2 - 信号入力装置,制御装置及び誘導性負荷の電流制御装置 - Google Patents

信号入力装置,制御装置及び誘導性負荷の電流制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘導性負荷に流れる電流をデューティ制御するのに好適な信号入力装置,制御装置及び誘導性負荷の電流制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電磁弁や電磁式のアクチュエータには、その動力源としてリニアソレノイドが設けられており、電磁弁の開度やアクチュエータによる駆動対象物の変位量を調整する際には、リニアソレノイドへの通電電流量を制御するようにしている。
【0003】
また、こうしたリニアソレノイド等の誘導性負荷に流れる電流量を制御する際には、通常、誘導性負荷をトランジスタ等のスイッチング素子を介して直流電源に接続し、このスイッチング素子を、デューティ比を制御したパルス幅変調信号(以下、PWM信号という)にてオン・オフさせることにより、誘導性負荷に流れる電流を制御するようにしており、更に、電磁弁の開度や駆動対象物の変位量を高精度に制御する必要がある場合には、誘導性負荷に流れた電流を検出し、その検出電流値が、制御目標である目標電流値となるように、スイッチング素子を駆動するPWM信号のデューティ比を増・減する、所謂電流フィードバックを行うようにしている。
【0004】
ところで、こうした電流フィードバックを行う際には、誘導性負荷に流れた電流を検出する必要があるが、誘導性負荷には、PWM信号により周期的にオン・オフされるスイッチング素子を介して電流が流れることから、誘導性負荷に流れる電流は脈動しており、例えば、誘導性負荷の通電経路に設けた電流検出用抵抗の両端電圧から誘導性負荷に流れた電流を検出するようにしただけでは、検出電流値が変動するので、安定した制御を実行できない。
【0005】
そこで、従来、誘導性負荷に流れる電流をフィードバック制御する際には、例えば、特開昭60−68401号公報に記載のように、誘導性負荷の通電経路に設けた抵抗を用いて検出した電流値を、コンデンサと抵抗とからなる積分回路を用いて平滑化し、その平滑化した検出電流値と目標電流値との偏差に応じて、PWM信号のデューティ比を増減するようにしている。
【0006】
例えば、図11は、自動車の内燃機関や自動変速機等に組み込まれた各種電磁弁の開度を制御するために、制御対象となる電磁弁に組み込まれたリニアソレノイドLに流す電流を制御する自動車用リニアソレノイド制御装置の一般的な構成を表す。この図に示すように、従来の自動車用リニアソレノイド制御装置50においては、内燃機関や自動変速機等を制御するホストCPU52が、リニアソレノイドLの電流制御を行うリニアソレノイド制御IC54に対して、リニアソレノイドLに流すべき目標電流値を指令し、リニアソレノイド制御IC54内では、ホストCPU52からの目標電流値をサブCPU54が受けて、目標電流値とリニアソレノイドLに実際に流れた実電流値(検出電流値)との偏差に基づき、リニアソレノイドLをデューティ駆動するためのデューティ比を求め、それを指令値としてPWM信号出力回路56に出力し、PWM信号出力回路56が、その指令値(デューティ比)に対応したPWM信号を生成して、直流電源であるバッテリ(電源電圧Vb)からリニアソレノイドLに至る通電経路に設けられたスイッチング素子(図ではFET)58に出力することで、このスイッチング素子58を、サブCPU54が求めたデューティ比にてデューティ駆動する。また、リニアソレノイドLの通電経路には、電流検出用の抵抗R10が設けられ、この抵抗R10の両端電圧を差動増幅器60にて差動増幅することで、リニアソレノイドLに実際に流れた電流を電圧信号に変換し、更に、この差動増幅器60からの出力を、抵抗R11とコンデンサC11とからなる積分回路62にて平滑化した後、A/D変換器64にてA/D変換することにより、平滑化後の電圧信号を、リニアソレノイドLに流れた電流を表す検出電流値として、サブCPU54に入力するようにしている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の誘導性負荷の電流制御装置では、誘導性負荷に流れる電流をフィードバック制御する際には、積分回路等を用いて電流の検出信号を平滑化し、その平滑化後の検出電流値と目標電流値とから、PWM信号のデューティ比を設定し、更にその設定されたデューティ比に従いPWM信号を生成するようにされていることから、このフィードバック系での遅れ、特に、電流の検出信号を平滑化する積分回路の時定数による遅れによって、誘導性負荷に流れる電流が目標電流値に達して安定するまでに時間がかかるといった問題があった。
【0008】
例えば、図12(a)に示すように、誘導性負荷に流れる電流値が目標電流値に制御されている状態で、目標電流値が変化すると(時点t0 )、検出電流値と目標電流値との偏差が大きくなって、検出電流値を目標電流値に制御すべく、PWM信号のデューティ比もその偏差に応じて更新されるが、積分回路の時定数(CR時定数)が大きい場合には、検出電流値は、誘導性負荷に実際に流れる制御電流の変化に対して応答遅れを生じることから、制御電流が目標電流値に達しても検出電流値と目標電流値との偏差は零にならず、PWM信号は更新され続け、制御電流は目標電流値に対してオーバシュート・アンダシュートを繰り返し、制御電流が目標電流値に安定するのに時間がかかるのである。
【0009】
このため、例えば、自動車において自動変速機の変速段を切り換えるのに使用される電磁弁等、目標電流更新時の応答性や制御精度が要求される誘導性負荷の電流制御装置には、上記従来装置を利用できない。
尚、応答性を高めるには、積分回路を削除したり、或いはその時定数(CR時定数)を小さくすることも考えられるが、このようにした場合には、図12(a)に示すように、制御電流が目標電流値付近で安定するまでの時間は短くなるものの、検出電流値は、スイッチング素子のデューティ駆動によって生じる電流の脈動に応じて変化するため、PWM信号のデューティ比も変動することになり、目標電流値は一定であるにもかかわらず、制御電流を一定に保つことができなくなってしまう。
【0010】
また、例えば、図11に示した従来装置において、PWM信号出力回路56によるPWM信号の発生周期と、平滑化後の電流検出信号をA/D変換してPWM信号のデューティ比を演算するサブCPU54の演算周期とを一致させると、サブCPU54を高速に動作させる必要があり、サブCPU54の処理の負担が大きくなるため、サブCPU54とPWM信号出力回路56とは非同期に動作させ、サブCPU54の演算周期を、PWM信号出力回路56のPWM信号発生周期よりも長くすることが望ましいが、このようにすると、例えば、図12(b)に示すように、目標電流が一定で、制御電流が目標電流にほぼ安定している場合であっても、実際には、サブCPU54の動作に応じたA/D変換タイミングtADで取り込まれる検出電流値は、平滑化後の電流検出信号の脈動によって変動してしまい、目標電流値に対応して、PWM信号のデューティ比を最適値に設定することができないという問題もある。
【0011】
一方、例えば、特開平5−222993号公報には、上記従来のように積分回路を用いて電流検出信号を平滑化するのではなく、PWM信号によりオン・オフされるスイッチング素子のオン直後とオフ直前との2回のタイミングで、電流検出信号を取り込み、これら2つの電流値から制御に用いる検出電流値(平均電流値)を演算により求めることが開示されている。そして、この提案の装置によれば、積分回路を用いて電流検出信号を平滑化する従来装置のように、積分回路の時定数の影響を受けることなく、制御に用いる検出電流値を求めることができ、フィードバック系の遅れを低減できる。
【0012】
しかし、この提案の装置においては、制御によって変化するPWM信号の立上がりタイミングと立下がりタイミングとを正確に検出して、電流検出信号をA/D変換しなければならない。従って、A/D変換を行うタイミングを、PWM信号の立上がり及び立下がりに応じて制御するためのタイミング回路が必要になり、装置構成が複雑になるという問題がある。
【0016】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、誘導性負荷に流れる電流をパルス幅変調信号にてデューティ制御する誘導性負荷の電流制御装置等において、検出信号のフィードバック系で生じる信号の応答遅れによって、制御の応答性が低下するのを防止することを目的とする。
【0018】
つまり、請求項1記載の信号入力装置においては、一定周期で変化するアナログ入力信号を外部の制御手段に入力するに当たって、前述した従来の電流制御装置のように、入力信号を積分回路等を用いて平滑化し、その平滑化後の入力信号をA/D変換するのではなく、A/D変換手段にて入力信号を直接A/D変換し、そのA/D変換後の入力信号m周期時間分のデジタル値を算術平均する。
【0019】
このため、本発明によれば、一定周期で変化する入力信号の平均レベルを、入力信号のA/D変換値として制御手段に入力するに当たって、積分回路の時定数の影響を受けることなく、制御手段に必要なA/D変換値を入力することが可能になる。よって、本発明を、前述した誘導性負荷の電流制御装置における検出信号の入力装置として利用すれば、この信号入力の遅れを低減して、制御の応答性を向上でき、上記目的を達成できる。
【0020】
尚、本発明の信号入力装置は、一定周期で変化する入力信号の平均レベルをデジタル値として外部の制御手段に入力するシステムであれば、誘導性負荷の電流制御装置に限らず、どのような制御システムにも適用できる。
つまり、従来より、入力信号をA/D変換して制御手段に入力するシステムとしては、前述した誘導性負荷の電流制御装置のように、制御対象の動作状態を検出して、その検出結果が目標状態となるように制御対象をフィードバック制御するフィードバック制御システム以外にも、例えば、検査対象となる装置の動作状態を検出して、その検出結果を表示又は記録する検査システム、或いは、制御対象となる装置の動作状態を検出して、その動作状態が異常或いは適正範囲からずれた場合に、制御対象の動作を停止させたり、制御対象の動作を安全側に切り替えるといったオープンループ制御システム等が知られているが、こうしたシステムにおいても本発明は適用できる。そして、このようなシステムに本発明を適用すれば、一定周期で変化する入力信号の平均レベルをデジタル値として制御手段に入力する際の信号入力系での遅れを低減できるため、制御対象の制御や検査対象の検査の応答性を向上できる。
【0023】
従って、請求項2記載の制御装置においては、制御対象を制御するに当たって、制御手段が制御に用いる、制御対象の動作状態を表すデジタル値が、前述の従来装置のように、検出信号の入力系に設けられた積分回路等の影響を受けて遅れを生じることはなく、制御の応答性を向上できる。
【0025】
そして、請求項3記載の制御装置によれば、一定周期で変化する電流を取り込む際に、従来のように積分回路等を用いて平滑化しないので、制御手段は、制御に用いる平均電流値(デジタル値)を、応答遅れなく取り込むことができ、制御対象の制御の応答性を向上できる。
【0026】
尚、請求項2,3に記載の制御装置において、制御手段は、平均値演算手段にて算出された検出信号の平均レベルを表すデジタル値(平均電流値)を用いて、制御対象を制御するが、この制御手段による制御は、取り込んだデジタル値(平均電流値)が目標値(目標電流値)となるように制御対象(負荷電流)を制御するフィードバック制御であってもよく、また、取り込んだデジタル値(平均電流値)から制御対象(電気負荷)の異常動作を判定して、制御対象の動作(電気負荷の通電)を停止或いは切り替えるだけのオープンループ制御であってもよい。
【0027】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するためになされた請求項1記載の誘導性負荷の電流制御装置においては、まず、A/D変換手段が、一定周期で変化するアナログ入力信号(以下単に、入力信号ともいう)を、パルス幅変調信号の周期時間Tよりも短いA/D変換周期時間t(但し、T/tは整数)毎にデジタル値に変換する。そして、このA/D変換手段にて変換されたデジタル値は、記憶手段に順次記憶するように継続的に更新され、平均値演算手段が、記憶手段に記憶されたデジタル値を、パルス幅変調信号の周期時間T分取り込み、その取り込んだデジタル値を算術平均し、この演算結果が、入力信号をA/D変換したデジタル値として制御手段に出力される。
そして、請求項1に記載の発明においては、検出手段が、一定周期で生成されたパルス幅変調信号にて通電制御される誘導性負荷に実際に流れ一定周期で変化する電流を検出するものであって、A/D変換手段が、予め設定されたA/D変換周期時間毎に、検出手段からの検出信号を継続的にデジタル値に変換し、制御手段が、A/D変換手段にてデジタル値に変換された検出電流値が目標電流値となるようにパルス幅変調信号のデューティ比をフィードバック制御するように構成したものである。
【0028】
そして、本発明の誘導性負荷の電流制御装置においては、A/D変換手段が、検出手段からの検出信号を、誘導性負荷の通電制御に用いられるパルス幅変調信号の周期時間Tよりも短いA/D変換周期時間t(但し、T/tは整数)毎にデジタル値に変換すると共に、その変換した検出電流値を電流値記憶手段に順次記憶するように継続的に更新する。また、制御手段においては、所定の演算周期毎に、平均電流演算手段が、電流値記憶手段から、記憶されていた検出電流値を、パルス幅変調信号の周期時間T分取り込み、その取り込んだ検出電流値を算術平均することにより、周期時間T内の平均電流値を算出し、制御手段は、この平均電流演算手段が算出した平均電流値と前記目標電流値とに基づき、パルス幅変調信号のデューティ比を制御する。
さらに、記憶手段は、周期時間Tに相当する所定個数の記憶領域からなり、さらにこの中から異常電流値を検出し、この異常電流値を平均値の算出に用いないようにしている。
【0029】
即ち、本発明の誘導性負荷の電流制御装置においては、従来装置のように、検出手段からの検出信号を積分回路等を用いて平滑化し、制御手段が、その平滑化後の検出信号をA/D変換手段を介して取り込むことにより、フィードバック制御のための検出電流値を取り込むのではなく、A/D変換手段にて、検出手段からの検出信号を所定のA/D変換周期で繰り返しA/D変換し、制御手段が誘導性負荷通電制御用のパルス幅変調信号(PWM信号)のデューティ比を制御する際には、平均電流算出手段により、A/D変換手段にてA/D変換されたPWM信号周期時間T分の検出電流値を算術平均することで、デューティ比の制御に用いる検出電流値(つまり平均電流値)を算出する。
【0030】
このため、積分回路を用いて電流の検出信号を平滑化する従来装置のように、積分回路の時定数の影響を受けることなく、制御に用いる検出電流値を求めることができ、フィードバック系の遅れを低減できる。また、前述の特開平5−222993号公報に記載の装置のように、平均電流値の算出のために、PWM信号の立上がりタイミングと立下がりタイミングとを検出して、A/D変換を行うタイミングを制御する必要はなく、A/D変換手段は、一定のA/D変換周期で動作させればよいことから、A/D変換タイミングの制御のために装置構成が複雑になることもない。
また、本発明では、電流フィードバック系での応答遅れを防止するために、検出手段からの検出信号を平滑化することなくそのままA/D変換手段にてA/D変換するようにしているため、A/D変換手段に入力される検出信号にノイズが重畳されていても、A/D変換手段は、そのノイズを含む検出信号をそのままA/D変換することになり、平均電流演算手段にて得られる平均電流値に、誤差が生じることがある。
そこで、平均電流演算手段には、電流値記憶手段から取り込んだPWM信号m周期時間分の検出電流値の中に異常な電流値があるか否かを判定する異常判定手段を設け、この異常判定手段にて異常電流値があると判断された場合には、その異常電流値を平均電流値の算出に用いないように構成することが望ましい。
つまり、平均電流演算手段をこのようにすれば、平均電流演算手段が取り込んだPWM信号周期時間T分の検出電流値の中に、ノイズ成分を含んだ異常な電流値があっても、それを除いた検出電流値だけで平均電流値を求めることができるようになり、平均電流値の演算精度を確保して、電流の制御精度を向上することが可能になる。
【0031】
よって、本発明によれば、装置構成を複雑にすることなく、誘導性負荷の電流フィードバック制御の応答性を向上することが可能になる。ここで、本発明においては、制御手段がPWM信号のデューティ比を制御するのに用いる平均電流値を、平均電流演算手段にて算出するようにしているため、積分回路を用いて電流検出信号を平滑化する従来装置に比べ、制御手段における演算処理が複雑になるが、平均電流演算手段を、請求項に記載のように構成すれば、平均電流の演算を比較的簡単な演算処理にて行うことができる。
【0032】
つまり、請求項に記載の誘導性負荷の電流制御装置では、平均電流演算手段が、PWM信号の周期時間T分の検出電流値として、2n個の検出電流値を取り込み、その検出電流値の総和を算出し、この総和から平均電流値を算出することから、平均電流値を算出する際には、検出電流値の総和であるデジタル値をnビット分だけ下位方向にシフトさせて、シフト後のデジタル値の下位nビット分を、除去若しくは小数点以下のデータとすればよく、平均電流演算手段において、複雑な演算処理を実行することなく、平均電流値を求めることが可能になる。
【0033】
このため、請求項に記載の装置によれば、制御手段側で平均電流値を演算するにもかかわらず、この制御手段に、除算処理等の複雑な演算処理を高速に行う高価な演算回路(CPU等)を用いることなく、本発明を実現することができるようになる。
【0037】
また、平均電流演算手段をこのように構成する場合、PWM信号周期時間T分の検出電流値の中から異常電流値を除いた検出電流値にて平均電流値を算出するようにしてもよいが、より好ましくは、請求項に記載のように、平均電流演算手段を、異常判定手段にて異常電流値があると判断された場合には、A/D変換手段にて異常電流値の前・後にA/D変換された検出電流値から、異常電流値のA/D変換タイミングでの正常電流値を推定し、平均電流値の算出には、異常電流値に代えてその推定した電流値を用いるようにするとよい。
【0038】
つまり、このようにすれば、異常電流値を除いて平均電流値を算出するようにした場合に比べて、得られる平均電流値の精度を高め、負荷電流の制御精度をより向上することができるようになる。また、この場合、平均電流値の算出に用いるPWM信号周期時間T分の検出電流値の個数は、常に一定になるため、請求項に記載のように、平均電流値の算出に用いる検出電流値の個数を2n個にすることも、簡単に行うことができる。
【0039】
一方、このようにA/D変換手段により得られる検出電流値に誤差が生じるのは、検出手段からA/D変換手段に入力される検出信号にA/D変換周期よりも短い高周波ノイズが重畳されるためであるため、請求項に記載のように、検出手段からA/D変換手段への検出信号の入力経路に、高周波ノイズ除去用のフィルタを設け、このフィルタを用いて、検出信号に重畳された高周波ノイズを除去するようにしてもよい。
【0045】
また次に、請求項〜請求項に記載の誘導性負荷の電流制御装置において、制御手段は、平均電流値演算手段にて算出した平均電流値が目標電流値になるように、誘導性負荷の通電制御に用いられるPWM信号のデューティ比をフィードバック制御できればよいが、このためには、請求項に記載のように、制御手段を、平均電流演算手段としての機能を有し、且つ、平均電流値と目標電流値とに基づきPWM信号のデューティ比を算出する演算手段と、この演算手段にて算出されたデューティ比に応じて、PWM信号を繰り返し生成するパルス幅変調信号生成手段とから構成するとよい。
【0046】
つまりこのように構成すれば、制御のための演算とPWM信号の制御とを演算手段及びパルス幅変調信号生成手段にて個々に実現でき、制御手段としての機能を、例えば、CPU等からなる一つの機能実現手段にて実現する場合に比べて、各手段(演算手段及びパルス幅変調信号生成手段)での処理の負担を軽減でき、結果として、制御手段を安価に実現できるようになる。
【0047】
また次に、制御手段を請求項に記載のように構成した場合、A/D変換手段が検出手段からの検出信号をA/D変換するA/D変換周期時間を、演算手段がデューティ比を算出する演算周期時間よりも長くすると、演算手段がデューティ比を算出する際に、A/D変換手段にてA/D変換されたPWM信号周期時間T分の検出電流値として、同じ検出電流値を用いてデューティ比を算出することがあり、演算手段における平均電流値及びデューティ比の演算処理が不必要に実行されることになる。このため、請求項に記載のように、A/D変換手段がA/D変換を行うA/D変換周期時間は、演算手段が平均電流値及びデューティ比の演算を行う演算周期時間以下に設定することが望ましい。つまりこのようにすれば、デューティ制御に伴う電流変動を抑えるためにPWM信号の周期を短くしても、演算手段における演算処理を不必要に高速に行う必要がなく、演算手段を比較的安価に実現できる。
【0048】
また、本発明では、A/D変換手段が、A/D変換した検出電流値を電流値記憶手段の記憶領域に順次格納し、演算手段側では、電流値記憶手段に記憶されたPWM信号周期時間T分の電流値から、平均電流値を算出することから、請求項又は請求項に記載の装置では、請求項に記載のように、演算手段とA/D変換手段とを非同期に動作させることができる。そして、このように、演算手段とA/D変換手段とを非同期に動作させるようにした場合には、演算手段とA/D変換手段とを別々に設計することができるため、電流制御装置設計時の作業性を向上することができる。但し、パルス変調信号生成手段とA/D変換手段とが、非同期に動作すると、演算手段側では、A/D変換手段にてA/D変換した検出電流値から、PWM信号周期時間T分の検出電流値を正確に取り込むことができず、平均電流値の計算精度が低下することが考えられるので、パルス幅変調信号生成手段とA/D変換手段とは、請求項に記載のように、同一クロック源からのクロック信号により、互いに同期して動作するよう構成することが望ましい。
【0049】
一方、参考例の誘導性負荷の電流制御装置について説明する。
この参考例の誘導性負荷の電流制御装置においては、演算手段が、予め設定された演算周期毎に、誘導性負荷に所定電流を流すためのPWM信号のデューティ比を算出し、パルス幅変調信号生成手段が、この演算手段にて算出されたデューティ比に応じて信号レベルが変化するPWM信号を一定周期で繰り返し生成し、この生成されたPWM信号を誘導性負荷の通電手段に出力する。
【0050】
そして、演算手段側では、駆動データ格納手段が、上記算出したデューティ比から、PWM信号の1周期当たりにPWM信号を第1レベル又は第2レベルに保持すべき時間を算出し、この時間を駆動データとして駆動データ記憶手段に格納する。
【0051】
また、パルス幅変調信号生成手段側では、計時手段が、演算手段の演算周期とは同期せずにPWM信号1周期時間の2分の1の時間を繰り返し計時し、反転時間演算手段が、その計時手段による計時動作に同期して駆動データ記憶手段から駆動データを読み出し、その読み出した駆動データに基づき、PWM信号1周期当たりにこの信号を第1レベルに保持すべき時間の2分の1の時間(第1時間)と、同じくPWM信号1周期時間当たりに該信号を第2レベルに保持すべき時間の2分の1の時間(第2時間)とを、夫々算出する。
【0052】
そして、計時時間判定手段が、計時手段がPWM信号1周期時間の2分の1時間を計時する計時期間毎に、交互に、計時手段による計時時間が反転時間演算手段にて算出された最新の第1時間に達したか、或いは、計時手段による計時時間が反転時間演算手段にて算出された最新の第2時間に達したかを判定し、信号レベル設定手段が、計時時間判定手段にて計時手段による計時時間が第1時間に達したと判定されると、PWM信号の信号レベルを第2レベルに設定し、計時時間判定手段にて計時手段による計時時間が第2時間に達したと判断されると、PWM信号の信号レベルを第1レベルに設定する。
【0053】
このため、参考例の誘導性負荷の電流制御装置によれば、パルス幅変調信号生成手段にて生成されるPWM信号は、演算手段によってデューティ比が更新された後、PWM信号がそのデューティ比に対応するまでの遅れ時間が、最大でもPWM信号の2分の1の周期時間となり、その遅れ時間の最大がPWM信号の1周期時間となる従来の誘導性負荷の電流制御装置に比べて、制御の応答性を向上することができる。
【0054】
つまり、本参考例では、従来装置のように、PWM信号の1周期時間を計時することにより、その1周期時間が経過したタイミングを、PWM信号の立ち上げ或いは立ち下げタイミングとして設定するのではなく、PWM信号の周期の2分の1の周期時間を繰り返し計時する計時手段を設けることによって、PWM信号の立ち上げ及び立ち下げタイミングを設定する区間を、PWM信号の周期の2分の1の時間毎に交互に設定し、各区間毎に、PWM信号を第1レベルに保持すべき時間の2分の1の時間が経過した際には、PWM信号を第2レベルに切り換え、PWM信号を第2レベルに保持すべき時間の2分の1の時間が経過した際には、PWM信号を第2レベルに切り換えるようにしているため、演算手段にてデューティ比が更新された際に、PWM信号がその更新されたデューティ比に対応するまでの遅れ時間を、最大でも、PWM信号の周期の2分の1の周期時間に抑えることが可能になり、従来装置に比べて、誘導性負荷の駆動系での応答遅れを抑制することができ、延いては、制御の応答性を向上することが可能になる。
【0055】
尚、上記参考例の誘導性負荷の通電制御装置は、誘導性負荷への通電電流量を制御するに当たって、PWM信号のデューティ比を誘導性負荷に流すべき電流量に応じて制御する装置(つまり、単なるオープンループ制御を行う装置)にも適用できるが、上記請求項4〜請求項13に記載の装置のように、誘導性負荷に流れる電流をフィードバック制御する場合には、下記のように構成すればよい。
【0056】
つまり、上記参考例の誘導性負荷の通電制御装置に、誘導性負荷に実際に流れた電流を検出する検出手段と、この検出手段からの検出信号を、予め設定されたA/D変換周期毎にデジタル値に変換するA/D変換手段とを設け、演算手段において、A/D変換手段にてデジタル値に変換された検出電流値と目標電流値とに基づき、検出電流値を目標電流値に制御するのに必要なPWM信号のデューティ比を算出するように構成すれば、誘導性負荷への通電電流を目標電流にフィードバック制御することが可能になる。
【0057】
そして、この構成の装置と請求項4〜請求項13に記載の装置とを組合せれば、誘導性負荷に流れた電流を検出して制御手段(演算手段)にフィードバックする際のフィードバック系の遅れと、PWM信号を生成する駆動系の遅れとの両方を抑制できることになり、誘導性負荷の制御の応答性をより確実に向上することが可能になる。
【0058】
また次に、上記参考例の電流制御装置では、反転時間演算手段は、計時手段による計時動作に同期して駆動データ記憶手段から駆動データを読み出し、その読み出した駆動データに基づき、第1時間及び第2時間を夫々算出するように構成されるが、パルス幅変調信号生成手段に、計時手段がPWM信号1周期時間の2分の1時間の計時を開始してから、次の2分の1時間の計時を開始するまでの間に、駆動データ記憶手段に記憶された駆動データが演算手段側の動作によって更新されたかどうかを監視する監視手段と、この監視手段により駆動データの更新が検出されると、反転時間演算手段を計時手段の計時動作とは非同期に動作させて、計時時間判定手段が計時時間の判定に用いる第1時間及び第2時間を、駆動データ記憶手段内の最新の駆動データに対応した時間に更新させる反転時間更新手段と、を設けるようにすれば、PWM信号が、演算手段にて更新された最新のデューティ比に対応するまでの遅れ時間をより短くすることができる。
【0059】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の一実施例を図面と共に説明する。
図1は、本発明が適用された自動車用リニアソレノイド制御装置10の構成を表すブロック図である。
【0060】
本実施例のリニアソレノイド制御装置10は、自動車に搭載された内燃機関を目標状態に制御するために、内燃機関に設けられた複数(本実施例では4個)のリニアソレノイドL0〜L3(図ではL0のみを示す)を個々に通電制御するためのものであり、エンジンコントロール用のホストCPU12にて演算された各リニアソレノイドL0〜L3に流すべき電流を表すデータ(以下、目標電流値という)に従い、各リニアソレノイドL0〜L3に流れる電流をフィードバック制御するリニアソレノイド制御IC14を備える。
【0061】
リニアソレノイド制御IC14は、各リニアソレノイドL0〜L3をPWM信号にてデューティ駆動するためのデューティ比を演算し、その演算結果を、PWMデータ(駆動データ)としてPWMデータ受渡用のRAM(駆動データ記憶手段に相当する)22に格納する、演算手段としての制御CPU20と、ホストCPU12に内蔵されたRAMから各リニアソレノイドL0〜L3の目標電流値を読み込み、制御CPU20に入力する、ダイレクト・メモリ・アクセス回路(DMA)24と、PWMデータ受渡用RAM22から各リニアソレノイドL0〜L3に対するPWMデータを夫々読み込み、各リニアソレノイドL0〜L3をデューティ駆動するためのPWM信号PWM0,PWM1,PWM2,PWM3を夫々生成する、パルス幅変調信号生成手段としてのPWM信号出力回路26を備える。
【0062】
一方、電流制御の対象となるリニアソレノイドL0は、バッテリの正極側に接続された電源ライン(電源電圧Vb)からバッテリの負極側に接続されたグランドラインに至る通電経路上に配置されており、その通電経路のリニアソレノイドL0よりも電源ライン側には、所謂ハイサイドスイッチとしてFET28が設けられ、更に、このFET28のゲートには、エミッタがグランドラインに設置されたNPNトランジスタ29のコレクタが接続されている。
【0063】
NPNトランジスタ29は、FET28のゲートをグランドラインに接地することにより、FET28をオンさせるためのものであり、そのベースには、PWM信号出力回路26からリニアソレノイドL0通電用のPWM信号PWM0が入力される。この結果、NPNトランジスタ29及びFET28は、PWM信号PWM0がHighレベルであるときにオン状態となって、バッテリからリニアソレノイドL0への通電経路を導通させ、逆に、PWM信号PWM0がLow レベルであれば、オフ状態となって、リニアソレノイドL0の通電経路を遮断する。
【0064】
尚、図示しない他のリニアソレノイドL1〜L3にも、リニアソレノイドL0と同様のスイッチング素子(具体的にはNPNトランジスタ29及びFET28)が設けられており、PWM信号出力回路26から出力されるPWM信号PW1〜PWM3に従い、各スイッチング素子がオン・オフして、各リニアソレノイドL1〜L3に流れる電流をデューティ制御できるようにされている。
【0065】
また、各リニアソレノイドL0〜L3のグランドライン側の通電経路には、電流検出用の抵抗(本発明の検出手段に相当する)R0が設けられており、その両端電圧から、各リニアソレノイドL0〜L3に流れた電流を検出できるようにされている。そして、この抵抗R0の両端電圧は、抵抗R1,R2を介して、差動増幅器30に入力され、差動増幅器30にて差動増幅された後、信号選択用のマルチプレクサ(MPX)32を介して、A/D変換手段としてのA/D変換器34に選択的に入力される。
【0066】
そして、A/D変換器34は、MPX32を介して、各リニアソレノイドL0〜L3に流れた電流を表す電流検出信号(電圧)を一定のA/D変換周期で順に取り込み、デジタル値に変換し、そのデジタル値(検出電流値)を、A/Dデータ受渡用のRAM(請求項に記載の電流値記憶手段に相当)36に格納する。
【0067】
また、A/Dデータ受渡用のRAM36は、制御CPU20からもアクセスできるようにされており、制御CPU20側では、RAM36に格納された各リニアソレノイドL0〜L3毎の検出電流値の和を、例えば、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)等を用いて高速に演算し、その演算結果から各リニアソレノイドL0〜L3に流れた平均電流値を求め、この平均電流値が、夫々、DMA24を介して入力される各リニアソレノイドL0〜L3の目標電流値となるように、PWM信号PWM0〜PWM3のデューティ比を算出し、その算出したデューティ比に基づき、各リニアソレノイドL0〜L3通電用のPWMデータを設定し、これをPWMデータ受渡用RAM22に格納する。
【0068】
尚、制御CPU20には、演算処理実行用のプログラムや各種データが格納されたROM38、及び、演算処理実行時に制御用のデータを一時格納するためのRAM39が接続されている。そして、制御CPU20は専用の発振子20aにて生成されたクロック信号を受けて動作し、PWM信号出力回路26及びA/D変換器34は、この発振子20aとは異なるPWM信号生成用の発振子26aにて生成されたクロック信号を受けて動作する。つまり、PWM信号出力回路26及びA/D変換器34は、同一発振子26aからのクロック信号により同期して動作し、制御CPU20は、PWM信号出力回路26及びA/D変換器34とは異なる発振子20aからのクロック信号により、これら各回路とは非同期に動作する。
【0069】
次に、PWMデータ受渡用RAM22及びA/Dデータ受渡用RAM36の構成及びこれら各部に格納されるデータ構造について説明する。
まず、PWMデータ受渡用RAM22は、図2(a)に示すように、4個のリニアソレノイドL0〜L3を夫々デューティ駆動するためのPWMデータとして、各PWM信号PWM0〜PWM3毎に、各PWM信号PWM0〜PWM3の周期CYCL(0)〜CYCL(3)を表すデータ(周期データ)と、各PWM信号PWM0〜PWM3の1周期内に、PWM信号PWM0〜PWM3をHighレベルにして、各リニアソレノイドL0〜L3の通電経路に設けられたスイッチング素子をオンするためのオン時間TON(0)〜TON(3)を表すデータと、このデータが制御CPU20にて更新された直後であるか、或いは、データ更新後に既にPWM信号の生成に使用されたかを表す更新フラグOVW(0)〜OVW(3)と、からなる3種類のデータを各々格納できるように構成されている。
【0070】
そして、このPWMデータ受渡用RAM22内のPWMデータは、制御CPU20が各リニアソレノイドL0〜L3をデューティ駆動するためのデューティ比を演算する度に更新され、更新フラグOVW(0)〜OVW(3)は、その更新の度にセット(OVW ←High)される。また、PWM信号出力回路26は、このPWMデータ受渡用RAM22からPWMデータを読み出すことにより、各リニアソレノイドL0〜L3をデューティ駆動するためのPWM信号を生成するが、PWMデータを読み出した際に、対応する更新フラグOVW(0)〜OVW(3)がセットされていれば、これをリセット(OVW ←Low )することにより、そのPWMデータは更新直後の値ではないことを記憶する。
【0071】
一方、A/Dデータ受渡用RAM36は、図2(b)に示すように、制御対象となる4個のリニアソレノイドL0〜L3に対応したデータ値を、夫々、チャンネル0(ch0) 〜チャンネル3(ch3) のデータ値(検出変換値)として、各チャンネルch0〜ch3毎に、過去16個分記憶できるようにされている。そして、A/D変換器34は、例えば、リニアソレノイドL0の検出電流値については、チャンネル0(ch0) のデータ記憶領域に、dat[0,0]、dat[0,1]、… dat[0,15] と記憶してゆき、その後は、データ番号順に、検出電流値を順に更新してゆくことで、各チャンネルch0〜ch3毎に、夫々、最新の検出電流値を、過去16個分記憶させる。
【0072】
尚、A/D変換器34には、図2(c)に示す如く、A/Dデータ受渡用RAM36に各チャンネルch0〜ch3の検出電流値dat[*,*]を格納する前に、各チャンネルch0〜ch3に対応する電流のA/D変換値ad[0]〜ad[3]を一時的に記憶しておくためのRAM34aが内蔵されている。
【0073】
次に、上記のように構成された本実施例のリニアソレノイド制御装置において、リニアソレノイドの通電制御のために、A/D変換器34,制御CPU20,及びPWM信号出力回路26で夫々実行される制御処理についてフローチャート及びタイムチャートを用いて順に説明する。
【0074】
まず、図3は、A/D変換器34において、例えば13μsec.毎に繰り返し実行されるA/D変換処理を表すフローチャートであり、図4は、その動作を説明するタイムチャートである。
尚、A/D変換器34には、下記の処理手順でA/D変換を繰り返し実行するために、単にMPX32からの入力信号をA/D変換するA/D変換部とは別に、A/D変換値のRAM34aへの書き込み並びにRAM34aからA/Dデータ受渡用RAM36へのA/D変換値の転送を行うために、ロジック回路又はCPUからなる制御部が設けられている。
【0075】
A/D変換器34は、このA/D変換処理を実行する度に、MPX32を介して取り込む電流検出信号を、リニアソレノイドL0からL3へと順に切り換えるようにされており、まず、S110(Sはステップを表す)にて、MPX32を介して取り込んだ電流検出信号をA/D変換して読み込む。そして、続くS120では、その読み込んだA/D変換値を、このA/D変換値に対応するRAM34aの特定チャンネル領域に記憶されたA/D変換値ad[nch] に加算することにより、RAM34a内のA/D変換値ad[nch] を更新し、S130に移行する。尚、nchはチャンネル番号を表し、当該処理を実行する度に0〜3のいずれかに順に更新される後述のカウンタnch の値によって特定される。
【0076】
即ち、A/D変換器34は、A/D変換処理を実行する度に、各リニアソレノイドL0〜L3に設けられた差動増幅器30からの電流検出信号を、ch0 〜ch3 のA/D変換値として、順にA/D変換し、そのA/D変換値を、RAM34aに既に記憶された対応するチャンネルのA/D変換値ad[nch] に加算することにより、RAM34a内の各チャンネルのA/D変換値ad[0]〜ad[3]を、順に更新するのである。
【0077】
そして、続くS130では、RAM34aの各チャンネルch0〜ch3用の記憶領域に格納したA/D変換値ad[nch] の加算回数をカウントするカウンタncntの値が、予め設定された加算回数SN1 (本実施例では4)に達しているか否かを判断し、カウンタncntの値が加算回数SN1 に達していれば(換言すれば、S120で更新した特定チャンネル(nch)のA/D変換値ad[nch] が、そのチャンネルの過去4回分のA/D変換結果を加算した値であれば)、S140に移行して、そのチャンネル(nch) の記憶領域に記憶されたA/D変換値ad[nch] を、検出電流値を表す検出電流値dat[nch,cntm]として、A/Dデータ受渡用RAM36の対応するアドレス[nch,cntm] に転送することにより、そのアドレスの検出電流値dat[nch,cntm]を書き換え、続くS150にて、RAM34aに記憶された検出電流値ad[nch]を初期値「0」に更新する。
【0078】
また、続くS160では、今回A/Dデータ受渡用RAM36内の検出電流値dat[nch,cntm]を更新したA/D変換値ad[nch] のチャンネル番号(nch) は、制御対象となるリニアソレノイドL0〜L3のチャンネル数SNCH(本実施例では4)から値「1」を減じた値に一致するか否か、換言すれば、A/Dデータ受渡用RAM36の各チャンネルch0〜ch3の「cntm」番目の検出電流値dat[0,cntm]〜dat[3,cntm]の更新が全て完了したか否かを判断する。
【0079】
そして、S160にて肯定判断されると、今度は、その後の処理で、A/Dデータ受渡用RAM36の各チャンネルch0〜ch3の「cntm+1」番目の検出電流値dat[0,cntm+1]〜dat[3,cntm+1]を更新できるようにするために、S170にて、次に更新すべきA/Dデータ受渡用RAM36のアドレスを特定するためのカウンタcntmをインクリメントする。
【0080】
また、こうしてカウンタcntmの値を更新すると、今度は、その更新により、カウンタcntmの値が、A/Dデータ受渡用RAM36に各チャンネル毎に検出電流値を記憶可能な最大アドレス値SN2 (本実施例では15)を越えたか否かを判断する。そして、カウンタcntmの値が最大アドレス値SN2 を越えていれば、カウンタcntmの値を、A/Dデータ受渡用RAM36に各チャンネル毎に検出電流値を記憶可能な最小のアドレス値である値「0」に設定し、続くS200に移行して、次にA/D変換してデータを更新すべきチャンネルを表すカウンタnch の値をインクリメントする。尚、このS200の処理は、S130,S160,S180にて否定判断された場合にも実行される。
【0081】
そして、S200にて、カウンタnchの値がインクリメントされると、今度は、S210に移行して、この更新されたカウンタnchの値は、制御対象となるリニアソレノイドL0〜L3のチャンネル数SNCH(本実施例では4)に達したか否か、換言すれば、カウンタnchの値が、チャンネル番号としてとりうる「0〜3」の値を越えたか否かを判断する。
【0082】
そして、S210にて、カウンタnch の値がチャンネル数SNCHに達したと判断されると、続くS220にて、カウンタnch の値を初期値「0」に設定し、更に続くS230にて、カウンタncntの値をインクリメントすることにより、RAM34aでのA/D変換値ad[nch] の加算回数を表すカウンタncntの値を更新し、続くS240にて、その更新後のカウンタncntの値が、予め設定された加算回数SN1 を越えたか否かを判断し、カウンタncntの値が加算回数SN1 を越えていれば、S250にて、カウンタncntの値を初期値「1」に設定した後、当該処理を終了する。
【0083】
また、逆に、S240にて、カウンタncntの値が加算回数SN1 を越えていないと判断されるか、或いは、S210にて、カウンタnch の値が制御対象となるリニアソレノイドL0〜L3のチャンネル数SNCH(本実施例では4)に達していないと判断された場合には、そのまま当該処理を終了する。
【0084】
このように、A/D変換処理を行うA/D変換器34では、図4に示す如く、発振子26aからのクロック信号の発生周期にて設定されるA/D変換周期(13μsec.)で、各リニアソレノイドL0〜L3の電流検出信号を順にA/D変換し、これにより得られたA/D変換値を、そのA/D変換値に対応するチャンネルch0〜ch3のRAM34aの記憶領域に順に格納し、更に、その記憶領域に既にA/D変換値ad[0]〜ad[3]が格納されている場合には、その記憶されたA/D変換値ad[0]〜ad[3]に、新たなA/D変換値を足し込むことにより、RAM34a内のA/D変換値ad[0]〜ad[3]を更新する。
【0085】
そして、その更新を4回行い、RAM34a内のA/D変換値ad[0]〜ad[3]がA/D変換4回分のA/D変換値の和になると、RAM34a内のA/D変換値ad[0]〜ad[3]を、夫々、検出電流値を表す一つのデータdat[0,*]〜[3,*]として、A/Dデータ受渡用RAM36の対応するアドレス領域に格納し、RAM34a内のA/D変換値ad[0]〜ad[3]を値「0」に初期化する。また、A/Dデータ受渡用RAM36に、検出電流値を書き込む際には、各チャンネルch0〜ch3毎に、カウンタcntmの値で決定される「0」から「15」のアドレス毎に順に記憶し、検出電流値を書き込んだ各チャンネルch0〜ch3のアドレスが「15」に達すると、再度アドレス「0」の記憶領域から順に検出電流値を書き換える。
【0086】
このため、各リニアソレノイドL0〜L3に流れた電流のA/D変換は、52μsec.毎に実行され、A/Dデータ受渡用RAM36には、各リニアソレノイドL0〜L3に流れた電流の検出値(検出電流値)として、A/D変換4回分のA/D変換値の和が、208μsec.毎に、順に記憶される。このため、A/Dデータ受渡用RAM36には、各チャンネルch0〜ch3(つまり各リニアソレノイドL0〜L3)毎に、3328μsec.(=208μsec.×16)の間に52μsec.毎にA/D変換した最新のA/D変換結果が蓄積されることになり、そのA/D変換結果の更新遅れは、最大でも208μsec.となる。
【0087】
尚、A/Dデータ受渡用RAM36には、3328μsec.の間にA/D変換器34を介して得られた16個の検出電流値が格納されるが、この時間(3328μsec.)は、PWM信号出力回路26が生成するPWM信号の1周期に対応する。
【0088】
次に、図5は、制御CPU20において、例えば2msec.毎に繰り返し実行される制御量演算処理を表すフローチャートであり、図6は、その動作を説明するタイムチャートである。
図5に示す如く、この制御量演算処理では、まずS310にて、A/Dデータ受渡用RAM36に各チャンネルch0〜ch3毎に記憶された電流値の和を表す演算データ(以下電流積算値という)SUM を値「0」に初期化し、続くS320にて、カウンタmmに、A/Dデータ受渡用RAM36の最大アドレス値SN2 を設定する。そして、続くS330では、A/Dデータ受渡用RAM36に記憶されたチャンネルchm の検出電流値の中から、上記カウンタmmの値に対応したアドレスの検出電流値dat[chm,mm]を読み出し、この検出電流値dat[chm,mm]を電流積算値SUM に加えることにより、電流積算値SUM を更新する。そして更に、続くS340では、カウンタmmの値をデクリメント(−1)し、続くS350にて、カウンタmmの値が負になったか否かを判断し、カウンタmmの値が負でなければ、再度S330に移行する。
【0089】
つまり、上記S310〜S350の処理では、A/Dデータ受渡用RAM36に記憶されたチャンネルchm の16個の検出電流値[chm,0]〜[chm,15] を、アドレスが最も大きい検出電流値[chm,15] から順に読み出し、電流積算値SUM に加算することにより、これら16個の検出電流値[chm,0]〜[chm,15] の和を算出するのである。尚、S330で読み出す検出電流値のチャンネルchm は、当該処理を実行する度に、0〜3のいずれかに順に更新されるカウンタchm の値によって特定される。
【0090】
次に、S350にて、カウンタmmの値が負になったと判断されると(換言すれば、チャンネルchm の検出電流値の和を表す電流積算値SUM が求められると)、S360に移行して、この電流積算値SUM をn回(本実施例では6回)右にシフトすることにより平均電流値VIO を算出する。
【0091】
つまり、積算値SUMを構成するA/D変換1回当たりのA/D変換値の個数は、64個(=4×16)であり、26個となる。そして、デジタルデータを2nで除算するには、デジタルデータを除算すべき値の指数n分右へシフトさせ、デジタルデータの下位nビット分を除去若しくは小数点以下のデータとした上位のビットデータをとればよい。そこで、S350では、電流積算値SUMからA/D変換1回当たりのA/D変換値(=SUM/26)を求めるために、デジタルデータである電流積算値SUMを、除算すべき値2nの指数n(=6)分だけ右へシフトさせることにより、A/D変換値の平均値(平均電流値)VI0を算出するのである。尚、S360の処理は、請求項1,2に記載の平均電流演算手段に相当する。
【0092】
こうして、平均電流値VIO が算出されると、今度は、この平均電流値VIO とDMA24を介してホストCPU12から取り込んだ目標電流値VR(chm) との偏差EV(chm) に基づき、チャンネルchm のリニアソレノイドをデューティ駆動するためのデューティ比D0(chm) を求め、このデューティ比に基づきPWMデータ受渡用RAM22に書き込むPWMデータを算出するフィードバック計算を行う(S370〜S410)。
【0093】
このフィードバック計算では、まず、前回求めたチャンネルchm の電流偏差EV(chm) をEVOLD として設定(S370)した後、S360で今回求めたチャンネルchm の平均電流値VIO と目標電流値VR(chm) との偏差EV(chm) を算出し(S380)、この偏差EV(chm) と、前回求めた偏差EVOLD と、予め設定された制御ゲインKP,KI(KP;比例ゲイン,KI;積分ゲイン)とをパラメータとする次式に基づき、デューティ比D0(chm) の補正値DD0(chm)を求める(S390)。
【0094】
DD0=KP×[{EV(chm)−EVOLD}+KI×EV(chm)]
そして、現在設定されているチャンネルchmのデューティ比D0(chm) に補正値DD0(chm)を加えることにより、デューティ比D0(chm)を更新し(S400)、更に、この更新したデューティ比D0(chm) と、チャンネルchm のリニアソレノイドL(chm) に対して予め設定されたPWM信号の周期CYCL(chm) とから、PWM信号1周期当たりのスイッチング素子(NPNトランジスタ29,FET28)のオン時間TON(chm) を、次式の如く算出する(S410)。
【0095】
TON(chm) =(D0(chm)/100)×CYCL(chm)
尚、上式において、デューティ比D0(chm) を「100」で割っているのは、デューティ比D0(chm)の単位がパーセント(%)であるためである。
次に、このようにチャンネルchm のPWMデータとして、スイッチング素子のオン時間TON(chm) が算出されると、今度は、S420にて、このオン時間TON(chm) と、PWM信号の周期CYCL(chm) とを、夫々、PWMデータ受渡用RAM22の対応するチャンネルのアドレス領域に格納し、続くS430にて、PWMデータ受渡用RAM22内のチャンネルchm の更新フラグOVW(chm)をセットすることにより、PWMデータ受渡用RAM22内のチャンネルchm のリニアソレノイドL(chm) に対するPWMデータを書き換える。
【0096】
そして、続くS40では、平均電流値及びPWMデータの対象となるリニアソレノイドL(chm)のチャンネルを特定するカウンタchm の値をインクリメント(+1)し、続くS450にて、このカウンタchm の値が、リニアソレノイドL0〜L3のチャンネル数SNCH(本実施例では4)以上になったか否かを判断する。そして、カウンタchm の値がチャンネル数SNCH以上であれば、S460にて、カウンタchm の値を初期値「0」に設定した後、当該処理を終了し、逆にカウンタchm の値がチャンネル数SNCH未満であれば、そのまま当該処理を終了する。
【0097】
以上のように、制御CPU20においては、所定の演算周期(2msec.)毎に、カウンタchm の値で特定されるリニアソレノイドL(chm) に流れた平均電流値VIO を求め、この平均電流値VIO と目標電流値VRとからリニアソレノイドL(chm) をデューティ駆動するためのデューティ比を算出し、このデューティ比に応じてPWMデータ受渡用RAM22内のチャンネルchm のPWMデータを書き換える。そしてカウンタchm は、PWMデータの書き換えが完了する度に、上記S440〜S460の処理によって0〜3のいずれかの値に順に更新されることから、PWMデータ受渡用RAM22内の各チャンネルch0〜ch3のPWMデータは、制御量演算処理が4回実行される度(換言すれば、8msec.毎)に書き換えられることになる(図6参照)。
【0098】
そして、平均電流値には、各チャンネル毎に、A/Dデータ受渡用RAM36内の16個の検出電流値を全て加算し、その値(電流積算値)SUM を、A/D変換器34側でのA/D変換回数64(4×16)で除算した値が設定されることから、平均電流値は、PWM信号1周期分の時間である3328μsec.の間にリニアソレノイドに流れた平均電流値となり、制御に用いられる平均電流値の実際値からの遅れは、最大でも208μsec.となる。
【0099】
次に、図7は、PWM信号出力回路26において、4個のリニアソレノイドL0〜L3に対して各々実行されるPWM信号出力処理を表すフローチャートであり、図8は、その動作を説明するタイムチャートである。
尚、以下に説明するPWM信号出力処理は、実際には各リニアソレノイドL0〜L3毎に設けられた論理回路によって実現されるものであり、ここでは、説明の便宜上、PWM信号出力回路26の動作をフローチャートに沿って説明する。
【0100】
図7に示す如く、PWM信号出力処理では、まずS510にて、PWMデータ受渡用RAM22から、制御対象となるリニアソレノイドL(chm) に対応したPWM信号の周期CYCL(chm) 及びオン時間TON(chm) を読み込み、その読み込んだ周期CYCL(chm) の2分の1の時間を周期時間T1、オン時間TON(chm) の2分の1の時間をPWM信号反転用のオン時間(第1時間に相当)T2、周期時間T1からオン時間T2を減じた時間をPWM信号反転用のオフ時間(第2時間に相当)T3として設定する。そして、続くS520では、計時用カウンタCNTに周期時間T1を設定し、S530にて、PWM信号の出力反転許可フラグPFLG2 をセット(PFLG2 ←High)する。
【0101】
次に、S540では、PWMデータ受渡用RAM22から、制御対象となるリニアソレノイドL(chm) に対応した更新フラグOVW(chm)を読み込み、この更新フラグOVW(chm)が「High」にセットされているか否かを判断する。そして、更新フラグOVW(chm)がセットされていなければS570に移行し、更新フラグOVW(chm)がセットされていれば、S550にて、上記S510と同様の手順で、オン時間T2及びオフ時間T3を設定し、S560にて、PWMデータ受渡用RAM22内の更新フラグOVW(chm)を「Low 」にリセットした後、S570に移行する。
【0102】
S570では、出力反転許可フラグPFLG2 が「High」にセットされているか否かを判断する。そして、出力反転許可フラグPFLG2 がセットされていれば、S580にて、現在PWM信号をLow レベルからHighレベルに反転させるべき判定期間(オン判定期間)であるか、或いはPWM信号をHighレベルからLow レベルに反転させるべき判定期間(オフ判定期間)であるかを表す判定期間識別フラグPFLG1 が、「High」にセットされているか否かを判断する。
【0103】
そして、S580にて、判定期間識別フラグPFLG1 がセットされていると判断されると、現在はオン判定期間であるとして、S590に移行し、計時用カウンタCNTの値がオン時間T2以下であるか否かを判断する。そして、計時用カウンタCNTの値がオン時間T2以下であれば、S600にて、PWM信号の出力レベルを「High」に設定し、S610にて、出力反転許可フラグPFLG2 を「Low 」にリセットした後、S620に移行する。
【0104】
一方、S580で判定期間識別フラグPFLG1 がセットされていないと判断された場合には、現在はオフ判定期間であるとして、S630に移行し、計時用カウンタCNTの値がオフ時間T3以下であるか否かを判断する。そして、計時用カウンタCNTの値がオフ時間T3以下であれば、S640にて、PWM信号の出力レベルを「Low 」に設定し、S610にて、出力反転許可フラグPFLG2 を「Low 」にリセットした後、S620に移行する。
【0105】
尚、S570にて、出力反転許可フラグPFLG2 がセットされていないと判断されるか、或いは、S590にて、計時用カウンタCNTの値がオン時間T2以下ではないと判断された場合には、そのままS620に移行する。
そして、S620では、計時用カウンタCNTをデクリメント(−1)し、更に、続くS650では、この計時用カウンタCNTが「0」になったか否かを判断して、計時用カウンタCNTが「0」になっていなければ、再度S540に移行し、逆に、計時用カウンタCNTが「0」になっていれば、S660にて、判定期間識別フラグPFLG1 のセット・リセット状態を反転し、再度S510に移行する。
【0106】
即ち、このPWM信号出力処理では、制御対象となるリニアソレノイドL(chm) に流れる電流を制御するためのスイッチング素子に出力すべきPWM信号の周期CYCL(chm)の2分の1の時間を、周期時間T1として、計時用カウンタCNTに書き込み(S520)、そのカウント値を一定周期でデクリメントする(S620)ことにより、周期時間T1をダウンカウントさせ、更に、そのカウント値が「0」になると、再度周期時間T1を計時用カウンタCNTに書き込む(S520)ことにより、計時用カウンタCNTを用いて、出力すべきPWM信号の周期の2分の1の時間を繰り返し計時する。
そして、この計時用カウンタCNTによる周期時間T1の計時が完了する度に、判定期間識別フラグPFLG1 を反転する(S660)ことにより、PWM信号の1周期の半分を、PWM信号をLow レベルからHighレベルに反転してスイッチング素子をオンさせるオン判定期間、残りの半分を、PWM信号をHighレベルからLow レベルに反転してスイッチング素子をオフさせるオフ判定期間として設定する。 そして、図8に示す如く、オン判定期間(S580;YES)では、計時用カウンタCNTの値(周期時間T1の残り時間)が、PWM信号の1周期当たりにスイッチング素子をオンさせるべきオン時間TON(chm) の2分の1の時間(オン時間T2)になった時点tONで、PWM信号をLow レベルからHighレベルに反転させ(S600)、逆に、オフ判定期間(S580;NO)では、計時用カウンタCNTの値(周期時間T1の残り時間)が、PWM信号の1周期当たりにスイッチング素子をオフさせるべきオフ時間(CYCL(chm)−TON(chm))の2分の1の時間(オフ時間T3)になった時点tOFF で、PWM信号をHighレベルからLow レベルに反転させる(S640)。
【0107】
また、周期時間T1,オン時間T2,オフ時間T3は、計時用カウンタCNTによるPWM信号の周期の2分の1の時間(つまり周期時間T1)の計時が完了する度に、PWMデータ受渡用RAM22内のPWMデータを読み出して更新し(S510)、更に、計時用カウンタCNTによる周期時間T1の計時の途中であっても、PWMデータ受渡用RAM22内の更新フラグOVW(chm)がセットされたか否か(換言すれば、制御CPU20がPWMデータを書き換えたか否か)を判断して(S540)、更新フラグOVW(chm)がセットされていれば、更新直後の新たなPWMデータに従い、オン時間T2及びオフ時間T3を更新する(S550)。
【0108】
このため、PWM信号出力回路26から出力されるPWM信号は、従来装置のように、その立上がり或いは立下がりの一方のタイミングが固定されることはなく、PWMデータ(換言すれば出力すべきPWM信号のデューティ比)が更新された直後の立上がり及び立下がりタイミングのいずれかで、PWM信号を、新たなPWMデータに対応した信号に変化させることができる。つまり、PWM信号の立上がり又は立下がりタイミングの一方を固定し、他方のタイミングを制御することにより、PWM信号を生成していた従来装置では、PWM信号のデューティ比を変化させることができるのは、PWM信号の1周期に1回であり、PWMデータ更新後、PWM信号がその更新後のデューティ比に対応するまでの遅れ時間が、最大、PWM信号の1周期時間となるが、本実施例では、PWM信号の立上がりと立下がりの両方のタイミングで、PWM信号のデューティ比を制御できることから、PWMデータ更新後に、PWM信号が更新後のデューティ比に対応するまでの遅れ時間が、最大、PWM信号の周期の2分の1の時間となり、制御の応答性が向上する。
【0109】
また、特に本実施例では、PWMデータの更新フラグOVW(chm)から、PWMデータの更新状態を監視し、PWMデータが更新された場合には、判定期間の切換に同期させることなく、オン時間T2及びオフ時間T3を再計算することから、再計算時の判定期間内で、PWM信号が未だ反転していなければ(換言すれば出力反転許可フラグPFLG2 がセット状態であれば)、再計算後のオン時間T2又はオフ時間T3に基づき、PWM信号が反転されることになり、制御の応答性をより向上することができる。
【0110】
尚、本実施例においては、計時用カウンタCNTに周期時間T1をセットして、これをダウンカウントすることにより、PWM信号の周期の2分の1の時間を計時する、S520及びS620の処理が、計時手段に相当し、PWM信号反転用のオン時間T2、及びオフ時間T3を算出するS510の処理が、反転時間演算手段に相当し、オン時間T2又はオフ時間T3と計時用カウンタCNTの値とを比較するS590及びS630の処理が、計時時間判定手段に相当し、その比較結果に基づきPWM信号の出力レベルを反転させるS600及びS640の処理が、信号レベル設定手段に相当する。また、更新フラグOVW(chm)がセットされたか否かによって、PWMデータの更新を監視するS540の処理が、監視手段に相当し、S540にてPWMデータが更新されたことが検出された直後に、PWM信号反転用のオン時間T2及びオフ時間T3を再計算するS550の処理が、反転時間更新手段に相当する。
【0111】
以上説明したように、本実施例の自動車用リニアソレノイド制御装置においては、A/D変換器34側で、制御対象となる各リニアソレノイドL0〜L3毎に、リニアソレノイドに流れた電流を表す電流検出信号を、一定のA/D変換周期(52μsec.)でA/D変換し、その4回分のA/D変換値の和を検出電流値として、A/Dデータ受渡用RAM36に格納する。そして、制御CPU20側で、そのA/Dデータ受渡用RAM36に格納された過去16回分の検出電流値から、その期間中(本実施例では、PWM信号1周期時間)にリニアソレノイドに流れた平均電流値を求め、この平均電流値と目標電流値とからPWMデータを生成し、PWMデータ受渡用RAM22に書き込む。
【0112】
このため、制御CPU20で算出される平均電流値の、リニアソレノイドに実際に流れた電流値からの遅れは、最大でも208μsec.となり、積分回路等を用いて電流検出信号を平滑化する従来装置に比べて、電流フィードバック系での応答遅れを抑制することができ、図9(a)に示す如く、目標電流値が変化してから(時点t0 )、リニアソレノイドに実際に流れる制御電流が安定するまでの時間を短くし、制御の応答性を向上できる。
【0113】
また、平均電流値は、PWM信号1周期当たりの時間内にA/D変換器34でA/D変換された検出電流値の総和から求めるようにしているので、図9(b)に示す如く、平均電流値を求める制御CPU20の演算タイミングtE と、PWM信号とが同期していなくても、得られる平均電流値は常に安定し、PWM信号のデューティ比が一定で、リニアソレノイドに流れる電流が一定であれば、得られる平均電流値も一定となる。このため、本実施例によれば、制御の応答性を向上できるだけでなく、制御の安定性をも向上することが可能になる。
【0114】
また、既述したように、PWM信号出力回路26側でPWM信号を生成する際に、PWMデータの更新直後から、PWM信号をその更新後のPWMデータに対応させることができるので、PWM信号出力回路26側で生じる遅れも低減でき、制御の応答性をより向上することが可能になる。
【0115】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
例えば、上記実施例においては、図8からわかるように、制御CPU側での演算周期(オンTONの周期)が、PWM信号1周期の時間よりも長くなるようにしているが、制御CPU側での演算周期を、PWM信号1周期の時間よりも短くなるように設定してもよい。
【0116】
また例えば、上記実施例では、制御CPU20において実行される制御量演算処理では、電流積算値SUM を算出する際、電流積算値SUM に、A/Dデータ受渡用RAM36から読み出した検出電流値dat[chm,mm] を加算してゆくものとして説明したが、本実施例では、A/D変換器34には、MPX32を介して、電流検出用抵抗R0の両端電圧を差動増幅する差動増幅器30からの出力(電流検出信号)がそのまま入力されることから、A/D変換器34によるA/D変換結果(換言すれば、A/Dデータ受渡用RAMに書き込まれる検出電流値)は、電流検出信号に重畳されたノイズの影響を受けて、異常電流値になる虞がある。
【0117】
そこで、図5のS330にて実行される電流積算値SUM の演算処理では、例えば図10(a)に示す如く、A/Dデータ受渡用RAM36から読み出した検出電流値dat[chm,mm] が正常であるか否かをチェックし(S710)、チェックの結果、検出電流値dat[chm,mm]が正常値であれば(S720;YES)、読み出した検出電流値dat[chm,mm]をそのまま電流積算値SUM に加算する(S730)ことにより、電流積算値SUM を更新し、検出電流値dat[chm,mm]が異常値であれば(S720;NO)、今回読み出した検出電流値dat[chm,mm]の前後のアドレス(mm-1,mm+1;但し、mm=0であればmm-1は最大アドレス15とし、mm=15であればmm+1は最小アドレス0とする)に格納された検出電流値dat[chm,mm-1]とdat[chm,mm+1]との平均値「{dat[chm,mm-1]+dat[chm,mm+1]}/2」を算出し、その平均値を電流積算値SUM に加算する(S740)ことにより、電流積算値SUM を更新するようにするとよい。
【0118】
つまり、検出電流値dat[chm,mm] が異常値である場合には、その前後の検出電流値dat[chm,mm-1]、dat[chm,mm+1]の平均値から、検出電流値dat[chm,mm]の正常値を推定し、その値を電流積算値SUM に加算することにより、電流積算値SUM がノイズの影響を受けた異常な検出電流値にて更新されるのを防止するのである。
【00119】
そして、このようにすれば、電流積算値SUM、延いては、平均電流値VIOを、ノイズの影響を受けることなく高精度に求めることができ、制御精度を向上できる。尚、検出電流値dat[chm,mm]が正常であるか否かをチェックするS710のチェック処理(この処理は請求項に記載の異常判定手段に相当する)は、例えば、図10(b)に示す如く、検出電流値dat[chm,mm]が通常とり得る値の最大値K(この値Kは予め設定しておけばよい)を越えているか否かを判断し(S810)、検出電流値dat[chm,mm]が最大値Kを越えていなければ、検出電流値dat[chm,mm]は正常値であると判断し(S820)、検出電流値dat[chm,mm]が最大値Kを越えていれば、検出電流値dat[chm,mm]は異常値であると判断する(S830)ようにすればよい。
【0120】
また、このように平均電流値VIO をノイズの影響を受けることなく高精度に求めるようにするには、例えば、図10(c)に示す如く、差動増幅器30からMPX32に至る電流検出信号の入力経路に、コンデンサCと抵抗Rとからなるノイズ除去用のフィルタを設け、A/D変換器34に入力される電流検出信号から直接ノイズを除去するようにしてもよい。
【0121】
尚、上記実施例では、制御CPU20と、PWM信号出力回路26及びA/D変換器34とは、夫々、異なる発振子20a,26aからのクロック信号を受けて非同期に動作するものとして説明したが、これら各部を動作させるためのクロック信号を一つの発振子で生成するようにしてもよい。そして、この場合には、1個の発振子で実現できるため、装置構成をより簡単にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例の自動車用リニアソレノイド制御装置の構成を表す概略構成図である。
【図2】 PWMデータ受渡用RAM,A/Dデータ受渡用RAM,及びA/D変換器内のRAMに夫々格納されるデータ構造を表す説明図である。
【図3】 A/D変換器にて実行されるA/D変換処理を表すフローチャートである。
【図4】 A/D変換器の動作を表すタイムチャートである。
【図5】 制御CPUにて実行される制御量演算処理を表すフローチャートである。
【図6】 制御CPUの動作を表すタイムチャートである。
【図7】 PWM信号出力回路にて実行されるPWM信号出力処理を表すフローチャートである。
【図8】 PWM信号出力回路の動作を表すタイムチャートである。
【図9】 実施例の効果を説明する説明図である。
【図10】 実施例の自動車用リニアソレノイド制御装置の他の構成例を説明する説明図である。
【図11】 従来のリニアソレノイド制御装置の構成を表す概略構成図である。
【図12】 従来の問題点を説明する説明図である。
【符号の説明】
L0…リニアソレノイド、R0…電流検出用抵抗、10…自動車用リニアソレノイド制御装置、12…ホストCPU、14…リニアソレノイド制御IC、20a,26a…発振子、22…PWMデータ受渡用RAM、26…PWM信号出力回路、28…FET(スイッチング素子)、29…NPNトランジスタ、30…差動増幅器、34…A/D変換器、36…A/Dデータ受渡用RAM。

Claims (8)

  1. 一定周期で生成されたパルス幅変調信号にて通電制御される誘導性負荷に実際に流れ前記一定周期で変化する電流を検出する検出手段と、
    予め設定されたA/D変換周期時間毎に、前記検出手段からの検出信号を継続的にデジタル値に変換するA/D変換手段と、
    該A/D変換手段にてデジタル値に変換された検出電流値が目標電流値となるように前記パルス幅変調信号のデューティ比を制御する制御手段と、
    を備えた誘導性負荷の電流制御装置において、
    前記A/D変換手段にてデジタル値に変換された検出電流値を記憶するためのものであって、前記パルス幅変調信号の周期時間Tに相当する所定個数の記憶領域からなる電流値記憶手段を備え、
    前記A/D変換手段は、前記検出手段からの検出信号を、前記パルス幅変調信号の周期時間Tよりも短いA/D変換周期時間t(但し、T/tは整数)毎にデジタル値に変換すると共に、該変換した検出電流値を、前記電流値記憶手段の前記所定個数の記憶領域に順次記憶するようにして継続的に更新するものであって、
    前記制御手段は、所定の演算周期毎に、前記電流値記憶手段に記憶されていた前記検出電流値を、前記パルス幅変調信号の周期時間Tに相当する前記所定個数の記憶領域分取り込み、該取り込んだ検出電流値を算術平均することにより、該周期時間T内の平均電流値を算出する平均電流演算手段を備え、
    該平均電流演算手段は、前記電流値記憶手段から取り込んだパルス幅変調信号周期時間T相当分の検出電流値の中に異常な電流値があるか否かを判定する異常判定手段を備え、該異常判定手段にて異常電流値があると判断された場合には、該異常電流値を前記平均電流値の算出に用いないものであり、
    前記平均電流演算手段が算出した平均電流値と前記目標電流値とに基づき前記パルス幅変調信号のデューティ比を制御することを特徴とする誘導性負荷の電流制御装置。
  2. 前記平均電流演算手段は、前記パルス幅変調信号の周期時間T分の検出電流値として、2n個の検出電流値を取り込み、該検出電流値の総和を算出し、該総和から前記平均電流値を算出することを特徴とする請求項1記載の誘導性負荷の電流制御装置。
  3. 前記平均電流演算手段は、前記異常判定手段にて異常電流値があると判断された場合には、前記A/D変換手段にて該異常電流値の前・後にA/D変換された検出電流値から、異常電流値のA/D変換タイミングでの正常電流値を推定し、前記平均電流値の算出には、前記異常電流値に代えて該推定した電流値を用いることを特徴とする請求項1記載の誘導性負荷の電流制御装置。
  4. 前記検出手段から前記A/D変換手段への信号入力経路に、高周波ノイズ除去用のフィルタを設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれか記載の誘導性負荷の電流制御装置。
  5. 前記制御手段は、
    前記演算周期で動作し、前記平均電流演算手段として前記平均電流値を算出すると共に、該平均電流値と前記目標電流値とに基づき、前記パルス幅変調信号のデューティ比を算出する演算手段と、
    該演算手段にて算出されたデューティ比に応じて、前記パルス幅変調信号を繰り返し生成するパルス幅変調信号生成手段と、
    を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれか記載の誘導性負荷の電流制御装置。
  6. 前記A/D変換手段が前記検出信号をデジタル値に変換するA/D変換周期時間は、前記演算手段が前記デューティ比を算出する演算周期時間以下であることを特徴とする請求項5記載の誘導性負荷の電流制御装置。
  7. 前記演算手段は、前記A/D変換手段とは非同期に動作し、前記平均電流演算手段として、前記電流値記憶手段に記憶された各検出電流値を使用して前記平均電流値を算出することを特徴とする請求項5又は6記載の誘導性負荷の電流制御装置。
  8. 前記パルス幅変調信号生成手段と前記A/D変換手段とは、同一クロック源からのクロック信号により、互いに同期して動作することを特徴とする請求項5〜請求項7いずれか記載の誘導性負荷の電流制御装置。
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