JP4090774B2 - 汎用基本調味料の製造方法及びその使用 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規汎用基本調味料の製造方法、より詳細には大豆タンパクを主原料とするタンパク性麹の酵素分解法による汎用基本調味料の製造方法、この方法で得ることができる調味料及びその使用等に関する。
【0002】
【従来の技術】
我が国を代表する伝統的醸造調味料である醤油は、古くから家庭内で或いは各種食品の加工用調味料として多量に消費されてきた。醤油は、伝統的な製造方法においては、原料の大豆を蒸煮し、これにほぼ等量の炒割小麦を混合し、これに種麹を接種して製麹し、出麹を塩水に仕込み諸味とし、長期間発酵及び熟成して製造されるものである。近年、醸造期間の短縮を主たる目的とし、醤油麹(醤油製造原料)を無塩乃至低塩下で短期間に加水分解し、乳酸発酵或いは酵母発酵を行い、更に熟成させて醤油を製造する、いわゆる醤油の速醸法が開発されている(特公昭53−41238、特公昭54−8785、特公昭60−6182号公報等参照。)。また、加水分解時にペプチダーゼやグルタミナーゼ等の特殊な酵素製剤を利用する方法(特公平5−17827号公報参照。)、耐熱性酵素を使用する方法(特公昭51−21054号公報参照。)、高温で短時間加水分解を行う方法(特許番号第2659105号[特開平03−112461号]公報参照。)等も知られている。
【0003】
このような方法で製造される醤油は調味料として優れてはいるが、現代の食生活の多様化、グルメ化に伴い、加工食品用の調味料として従来の技術とは異なる機能、例えば食品の持つ素材感や、風味を引き立てる等の高品質化機能や、店頭若しくは飲食店で調理し、供される煮込み汁のような長時間にわたる加熱、若しくはレトルト包装における加熱時にも安定した呈味、風味及び色調の維持可能な機能を有する調味料が求められている。また、消費者の嗜好もアミノ酸の持つうま味に加え、コク味を始めとする複雑で繊細な呈味を求める方向が強くなっている。
【0004】
また、従来の醤油では、うま味を中心とした呈味と共に、その独特の醸造香が好まれる面もあったが、使用する食品によっては素材本来の良さをマスクしてしまう問題点があった。また、醤油は醸造中に生成するアミノ酸及び原料に由来する糖分にアミノカルボニル化反応、即ち「メイラード(Maillard)反応」が生じ、風味及び色調を劣化させる褐変性物質を副生する。また、アミノカルボニル化反応生成物は製品の保存時にも引き続き生成され、風味及び色調の劣化をきたし品質安定性に問題となるばかりでなく、醤油を使用する各種の加工食品に対し好ましくない臭いを移転又は発生せしめる問題があった。
【0005】
このため、各種タンパク質を原料として、アミノ酸を主要な呈味成分とする各種加工用の調味料を製造する方法が開発されている。例えば、醤油香、醸造香が無く、各種食品に広く利用できる汎用性のある基本調味料の製造法(特開平09−121807号及び特開平7−327631号公報参照。)、酵素分解法による調味料の製造方法(特開平09−121807号公報参照。)、更に最近のものでは香味増強剤の製造法が記載されている(特表2001−507223号公報参照。)。それらの多くは、各種タンパク質原料を、タンパク質加水分解酵素を使用して、無塩又は低塩条件下で加水分解し呈味性のアミノ酸や、ペプチドを含有する製品を製造する方法であり、低塩による健康訴求、及び無塩或いは低塩下での分解によるアミノ酸遊離率の向上を特徴としたものである。
【0006】
確かに、酵素分解法による調味料の製造方法は、呈味性や生産性において優れている面もあるが、麹を使用する方法に比して複雑で味わいのある風味が不足する欠点を有することは否めない。
【0007】
以上のような状況下で、調味料としてうま味を始めとする基本的な呈味を有しているが、醸造香が無く各種飲食品に幅広く使用することができ、飲食品の持つ素材感や、風味を引き立てると共に、加熱安定性及び酸化安定性に優れた高品質機能を有する新しいタイプの調味料が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
醤油様の複雑で繊細な、まろやかな呈味を残しながら、その独特の醤油香等の醸造香が無く、尚かつ加熱や酸化等による色調の変化が少なく各種飲食品や他の調味料に広く利用できる汎用性のある調味料、その製造方法、及びその各種使用法等を開発することが、本発明において解決しようとする課題である。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題に対し、醤油特有の香気が、食塩の存在下で行われる諸味の発酵・熟成中に起こること、醤油特有の香気は原料の澱粉質に由来し、諸味の発酵・熟成中に耐塩性の酵母及び乳酸菌による発酵で生成されることに着目し、先ず、澱粉質の配合比率を下げて麹を製造し、無塩条件下での加水分解、即ち高温、短時間の加水分解を試みた。その結果、実験室レベルでは本発明の目的とする品質の調味料を製造できるが、工業的スケールでは製造が困難なことが判明した。即ち、澱粉質を配合しないか又はその配合比率を下げると、通常の製麹方法では製麹工程で雑菌が繁殖し麹ができないという問題に突き当たった。
【0010】
これは当業者にとっては当然のことと言える。何故なら、大豆のみを原料とする醤油として“たまりしょう油”が古くから知られており、近年、澱粉原料を10〜20%(重量)配合することが行なわれているが、たまりしょう油を製造する場合、通常の製麹方法では、麹ができないため、いわゆる“味噌玉”を調製しこれに麹菌を繁殖させて“味噌玉こうじ”とする方法が採用されている(醸協、第64巻、第2号、148〜152、1969参照。)。
【0011】
本発明者らは、この問題を解決し、更に各種飲食品に広く利用できる汎用性のある調味料の製造方法を開発すべく、鋭意研究を行った結果、澱粉質、好ましくは粉砕した澱粉質、より好ましくは18メッシュパス以下、更に好ましくは30メッシュパス程度に粉砕した小麦等の澱粉質を使用すれば、配合比率を下げた場合でも、通常の製麹方法で、製麹工程での微生物汚染が少なく、酵素活性の高い良好な麹を得ることができること、及びこの麹が得られる調味料の機能を高めることを見出した。更に、好ましくは脱脂大豆8割と上記粉砕した小麦2割を混合した原料に種麹を加えて製麹を行い、食塩非存在下52〜60℃の温度で、18〜30時間加水分解することにより、酵母、乳酸菌の増殖を抑制し、醸造香が無く、まろやかな醤油様の呈味を有し、飲食品本来の素材感、風味を引き立てると共に、加熱安定性や、酸化安定性に優れた調味料が得られること、及びこの調味料が各種飲食品に広く使用でき汎用性があることを見出し、これらの多くの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、タンパク質原料70〜90重量部に対して澱粉質原料10〜30重量部の比率で両者を含有する原料に種麹を接種して製麹を行い、得られたタンパク性麹を、食塩非存在下又は低食塩存在下、52〜60℃の温度範囲で18〜30時間加水分解に付することに特徴を有する汎用基本調味料の製造方法に存する。
【0013】
本発明は、別の形態として、前記本発明の方法で得られ、又は得ることができる、醸造香が無く、うま味及びふくらみを有する汎用基本調味料にも存する。
コク味及びまろやかさを有する別の調味料や飲食品に添加したときに、そのコク味及びまろやかさを増強し、更に素材感を求める別の調味料又は飲食品に添加したときに、当該別の調味料や飲食品の持つ素材の風味(素材感)や、風味を引き立たせる(活かす)効果(機能)を有する。
【0014】
即ち、この汎用基本調味料は、別の調味料や飲食品の呈味及び風味を増強するもので、具体的にはコク味や、まろやかさを増強することができる。従って、このような別の調味料や飲食品としては、コク味やまろやかさを有し、或いは素材の風味を活かすことが求められる調味料や飲食品が好適に選択される。
【0015】
本発明の汎用基本調味料の色調は薄く、薄口(うすくち)醤油程度の色調で、加熱安定性及び酸化安定性に優れ、長時間の加熱に対しても安定で、色調の変化が殆ど見られない。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を具体的に説明する。代表的な汎用基本調味料の製造例を中心に説明するが、本発明のより好ましい方法について説明するものであり、本発明はこのより好ましい例を含むが、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明で使用するタンパク質原料としては、通常の醤油製造に使用されるタンパク質原料を使用することができる。例えば、粉砕した澱粉質原料、特に好ましくは粉砕した小麦(小麦粉砕物)を配合して麹ができるタンパク質原料であれば種類を問わず、好ましいものとして使用することができる。そのようなタンパク質原料として、好ましくは大豆、より好ましくは丸大豆、更に好ましくは脱脂大豆を使用することができる。この他に大麦、米、とうもろこし、米の分離タンパク質、ジャガイモ分離タンパク質、ビール醸造副製品(ビール粕)等の植物性タンパク質原料も使用できる。また、ゼラチン、卵白、脱脂粉乳、乳カゼイン、乳ホエータンパク質、魚肉、かつお肉抽出物、鶏肉、牛肉、豚肉、獣肉抽出エキス又はその加工品等の動物性原料等もいわば副原料的に、それらを混合して用いることができる。
【0018】
製麹に先立ち、好ましくはタンパク質原料を常法に従い加熱変性処理を行う。例えば、脱脂大豆を例にすると、重量換算で1.0〜1.3倍の水を加えた後、1.5〜2.0kg/cmの条件で高温高圧処理されたものを用いることができる。
【0019】
本発明で使用する澱粉質原料には小麦、ふすま、大麦、トウモロコシ等が使用される。その使用に際し好ましくは、澱粉質原料を粉砕し、粉末の粒径としてより好ましくは大きくとも18メッシュパス(18メッシュパス以下)の粒子を90%以上、更に好ましくは大きくとも30メッシュパス(30メッシュパス以下)の粒子を90%以上含有する程度まで粉砕して使用することができる。澱粉質原料の粉砕は、グラインダー、ロール割砕機、石臼等を用いて行い、その後必要に応じて篩分を行うこともできる。
【0020】
タンパク質原料と澱粉質原料、好ましくは粉砕した澱粉質原料との配合比率については、重量比でタンパク質原料70〜90部に対して澱粉質原料を10〜30部、好ましくは重量比で80部:20部程度である。澱粉質原料の配合比率が1割(10部)未満では望ましい製品が得られず、配合比率の減少に応じて製麹も困難になり、無添加では麹ができない。一方、配合比率が3割(30部)を超えると製品の穀物臭が強くなり、望ましい製品が得られない。
【0021】
製麹に用いる種麹としては、醤油用の種麹として常用されている種麹(アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ等)を使用することができ、市販の醤油用種麹を使用すればよいが、プロテアーゼ活性、ペプチダーゼ活性、グルタミナーゼ活性等を十分有するものを選択するのが望ましい。
【0022】
製麹方法については、従来の醤油製造法で行われる製麹方法に従って行えばよく、例えば培養床上で、加熱処理を施したタンパク質原料と粉砕した澱粉質原料の混合物に種麹(アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ等)を接種し、22〜40℃程度で約40時間培養して麹を製造することができる。
【0023】
製麹工程で得られた麹(出麹)を加水分解する際に、麹に加える水の量については、好ましくは麹の重量の1〜4倍程度、更に好ましくは麹の重量の1.5〜2.5倍程度の水を使用することができる。加水分解を行う場合は、食塩を添加しない食塩非存在(無塩条件)下で行うのが望ましい。また、低食塩存在下、例えば5%以下(重量)の低濃度の食塩存在(低塩条件)下で行うこともできる。食塩濃度が高くなり10%を超えると、製品のうま味が少なくなってしまい、望ましい製品が得られない。
【0024】
無塩又は低塩条件下で麹の加水分解を行うが、その時の温度範囲は、52〜60℃であり、好ましくは55〜60℃程度、更に好ましくは55〜58℃である。加水分解温度が60℃を超え、特に65℃では、麹臭、豆臭及び収斂味が強い調味料になり、異風味を感じ、70℃ではコゲ臭や、褐変風味の強い調味料になり異風味を感じてしまう。一方、加水分解温度が52℃未満の温度では、非常に酸味が強い調味料になり、異風味を生じてしまう。これは分解中に乳酸菌等の生酸菌が増殖することにより分解液が酸敗してしまうことが原因と考えられる。
【0025】
無塩又は低塩条件下、52〜60℃の温度範囲で、麹の加水分解を行う場合、その加水分解時間については、18〜30時間、好ましくは21〜27時間程度が採用される。中でも加水分解時間は24時間程度が最も良く、30時間分解では、若干先中味のふくらみが無くなり、すっきりとした官能になり、33時間分解では、コゲ臭が強くなり異風味を感じると共に、先中味のふくらみが無くなる。48時間以上になると乳酸発酵が進んで酸味及び異臭を生じてしまう。一方、18時間未満の分解では得られる製品の味が薄く、異味異臭を持つため望ましい製品が得られない。
【0026】
加水分解が終了した諸味を圧搾して、液体部分、即ち生揚を分離する。更に必要な場合、生揚を濾過し、不溶性のオリを取り除くことができる。濾過の際、適当な濾過助剤を使うことができる。例えば、「ラジオライト#900」(昭和化学工業)、「トプコパーライト#38」(東興パーライト工業)等を使用することができる。
【0027】
濾過して得られた生揚は殺菌処理を施し、これを珪藻土等で濾過して目的とする清澄な液体調味料を得ることができる。殺菌処理については、例えば、80〜120℃の温度で1分〜3時間、好ましくは120℃、30秒間の加熱処理が行なわれ、加熱処理後、60℃付近の温度に1日以上放置し、不溶性のオリが発生する場合にはこれを濾過により除去して清澄な液体調味料を得ることができる。
【0028】
以上本発明の方法において、加水分解工程を経て得られる調味料は、液状、粉末状、その他の形状の如何や、追加処理工程の有無、本発明の目的を阻害しない範囲での成分添加等を問わず全て本発明で得られる汎用基本調味料に含まれる。例えば、前記方法において加水分解工程後に得られる調味料に、更に調味料製造に必要な処理工程を付加して目的とする当該調味料を製造することもでき、これら全て本発明に含まれる。
【0029】
また、例えばこのようにして得られた液状の調味料は、本発明の汎用基本調味料として、液状で使用される他、粉末化して用いることもできる。粉末化の方法としてはスプレードライ、凍結乾燥等の方法を用いることができる。スプレードライによる粉末化に際しては、通常デキストリンを始めとする賦形剤が用いられるが、本発明においてこのようにして得られる液状の調味料は粉末化が容易であるため賦形剤を使用しなくても粉末化が可能である。本発明においては賦形剤を使用しないことで、呈味力価の高い粉末調味料を得ることができる。
【0030】
本発明の方法で得られる調味料(汎用基本調味料)は、官能評価によれば、醤油香等の醸造香が無いが、うま味及びふくらみがある。より詳しくは、先味にマイルドな酸味、中味に甘味及びふくらみ、先中味にふくらみが有り、すっきりした風味を示すものである。ここで、先味とは口に含んだ際最初に感じる味を、中味とは、先味に続いて感じる味を、また先中味とはその中間に感じる味を言う。ふくらみは味、風味が収斂することなく好ましい広がりを持つことを意味する。
【0031】
この汎用基本調味料は、醸造香が無いため、味質の強化を目的として各種の飲食品や他の調味料に添加して幅広く使用することができる(汎用性がある)。その特徴として、飲食品や他の調味料に対しコク味やまろやかさを増強し、味質を改善する効果、換言すれば香り、風味、呈味を増強する機能を持つことが挙げられる。例えば、だし(節類、エキス類等)、つゆ(めんつゆ等)、たれ、スープ、ソース、ドレッシング、水産畜肉製品、味噌類、豆類原料素材の醸造物等の調味料や、カレー、ハンバーグ、スープ、味噌汁、中華炒め、おでん、水産畜肉製品当の飲食品に添加することで、それらの香り、風味、呈味を増強することができる。
【0032】
次に、この汎用基本調味料の特徴として、上記の香り、風味、呈味等を増強する機能に加えて、飲食品や他の調味料の持つ素材感を引き立たせる機能を挙げることができる。例えば、だし(節類、エキス類等)、つゆ(めんつゆ等)、たれや、これらを含む飲食品にこの汎用基本調味料を添加することで、だし感或いはだし風味を増強することができ、味噌汁に使用すれば味噌の風味を引き立て、中華炒め(回鍋肉等)に使用すれば風味(味噌感、豆ち感等)を引き立たせ、中華醤、オイスターソース等への使用ではその風味を引き立たせ、おでんに使用すれば具材の風味を引き立たせることができる。ハンバーグに使用すればハンバーグの肉質感を、更にカレーに使用すれば、カレー特有の濃厚感や、熟成感を引き立たせることができる。
【0033】
本発明における汎用基本調味料の別な特徴として、調味料自身の着色が少なく、加熱安定性及び酸化安定性に優れていることを挙げることができる。このため、加熱調理用調味料や飲食品、例えば、レトルト加工食品、煮込み汁(おでん汁、すき焼きのたれ等)等加熱若しくは長時間に渡って熱に晒される食品、調味料に使用又は配合した場合、加熱による褐変を防ぐことができる(加熱安定性向上)。
【0034】
本発明の汎用基本調味料の使用形態については、各種食品の製造又は加工時に使用する方法、他の調味料、例えば液状又は顆粒、粉末状の各種調味料に配合して使用する方法、更には他の調味料の一部を置換して使用する方法等が挙げられる。他の調味料の一部を置換して使用する方法については、例えば醤油類、HP類(蛋白加水分解物)、酵母エキス類の少なくとも1種を使用する、又は含む飲食品において、当該醤油類、HP類及び酵母エキス類の少なくとも1種の全部又は一部を、この汎用基本調味料で置換えて使用することができる。この結果、めんつゆ、中華炒め(回鍋肉等)用調味料、おでん汁等において置換調味料の使用により目的とする飲食品、めん、中華炒め(回鍋肉等)、おでん等の味質を著しく改善することができる。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明する。本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例では、タンパク質原料として脱脂大豆(エスサンこうじ豆:味の素(株)製)を、澱粉質原料として小麦(濃口こうじむぎST-B:日清製粉(株)製)、若しくはふすま(精選ふすま:日清製粉(株)製)を使用し、脱脂大豆と小麦又はふすまの混合物を加熱処理後、市販の種麹(ビオック社、一紫一号菌)を加えて常法に従い製麹を行い、得られた麹と水を混合後、各々異なる条件下で加水分解を行い、得られた加水分解物について一般分析及び官能評価を行い、当該加水分解物が、本発明で求める機能を有する調味料かどうかを判定したものである。また、得られた加水分解物の持つ調味料としての特性を活かした利用法について調べたものである。尚、部は重量部を表す。
【0037】
(実施例1)
脱脂大豆及び、小麦又はふすまを調味料原料とし、以下A、B、C、D及びEの5つの実験区について、脱脂大豆に対する小麦又はふすまの配合割合並びに麹の加水分解条件の検討を行った。
【0038】
A区:脱脂大豆に89%撒水し、加熱処理を行い、30分放冷し、脱脂大豆単独の原料を調製した。原料の加熱処理はオートクレーブを使用して、予備加熱5分の後、130℃で10分間の加熱処理を行った。
B区:脱脂大豆に110%撒水し、A区と同様に加熱処理を実施後、粉砕した小麦20部を混合し、脱脂大豆80部と小麦20部の原料を調製した。
C区:脱脂大豆に110%撒水し、A区と同様に加熱処理を実施後、粉砕しない通常の小麦40部を混合し、脱脂大豆60部と小麦40部の原料を調製した。
D区:脱脂大豆に110%撒水し、ふすま20部を混合した後、A区と同様に加熱処理を実施し、脱脂大豆80部とふすま20部の原料を調製した。
E区:脱脂大豆に110%撒水し、ふすま40部を混合した後、A区と同様に加熱処理を実施し、脱脂大豆60部とふすま40部の原料を調製した。各実験区の原料比率を下表に示した。
【0039】
Figure 0004090774
【0040】
各実験区について、加熱処理した原料に市販の種麹を加え常法に従って、30〜35℃で約40時間製麹を行った。出麹について、酵素活性(プロテアーゼ、グルタミナーゼ、液化アミラーゼ、及び糖化アミラーゼ)及び雑菌数を測定した。その結果、A区(脱脂大豆のみ)の試験区では、微生物汚染が激しく、製麹が困難であった。(A区については、以後の実験を中止した。)。試験区Aを除いて製麹状態は良好であり、各種酵素活性値も一般醤油麹並のものが得られた。
【0041】
A区を除く各実験区について、得られた麹に水及び0.3〜14.6%の食塩を加えて混合し、55〜70℃、24時間(1日)〜10日間、加水分解を行った。加水分解終了後、縦型プレス式の圧搾機(38cm円筒型)を使用して圧搾して液体部分を分離し、生揚を得た。生揚を80℃、30分間加熱・殺菌した後、生じた不溶物(火入れオリ)を珪藻土で濾過し、調味料(汎用基本調味料)を得た。
【0042】
以上の操作によって取得した各実験区の調味料についてケールダール(Kjeldahl)法による窒素(T-N)の分析、アミノ酸アナライザー(旭化成 AS210)によるアミノ酸(総アミノ酸)及びグルタミン酸濃度(GH mg/dl)の測定、公定分析法であるフェーリング レーマン ショウル(Fehring Lehmann Schorl)法による還元糖濃度(g/dl)、吸光度法による色度(545nm)の測定、pHの測定(酸敗)、及び20名からなる官能評価パネルによる単純溶液系による官能評価試験を行った。
【0043】
単純溶液系での官能評価の方法として、各試料を、窒素濃度(T-N)=0.1%、食塩濃度=1.0%になるように希釈、補塩し室温の状態で官能評価を行った。外観、香りについては原液での評価も同時に行った。上記分析値及び官能評価の結果から各実験区について総合評価を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
Figure 0004090774
【0045】
表1の官能検査においては、1〜4点は調味料として不適当であること、5〜7点は調味料として不十分であること、8〜10点は調味料として満足できる水準であることを、それぞれ示し、総合評価は一般分析値及び官能検査結果から本発明の目的に合う品質かどうかを示すものであり、8点以上は、本発明の目的とする品質を満たすこと、5〜7点は、可能性はあるがやや不十分であることを、4点以下は本発明の目的には合わないことを、それぞれ示す。表1の結果から、B-1-1及びD-1の実験区で良好な結果が得られた。最も良かったB-1-1実験区とやや不満足なB-1-2実験区の詳細な分析結果を表2に示す。尚、E‐4区では官能評価が8点であったが、醤油様の風味であるため、総合評価は6点に止まった。
【0046】
【表2】
Figure 0004090774
【0047】
総合評価が10点のB-1-1実験区で得られる調味料は、調味料として必要なうま味を有する他、先味にマイルドな酸味を、また中味に甘味、ふくらみを有し、異味異臭、醤油香が無く、本発明で求める汎用基本調味料に最も近い品質を有していた。尚、先味とは口に含んだ際に最初に感じる味であり、中味とはその後続いて感じる味のことである。
【0048】
表1及び2に示すように、原料としては脱脂大豆のみでは麹が製造できないため、小麦やふすまのような澱粉質が必要であり、澱粉質原料としては、小麦が望ましいが、ふすまも利用できることが分かる。澱粉質の配合については、配合比率が少ない方が呈味に厚みがあり、穀物臭が少ないことが分かった。
【0049】
更に、配合比を細かく検討したところ、大豆90部に小麦10部の原料では、麹が若干アンモニア臭いものの、55℃24時間分解品の官能は、若干の収斂味と共に、先味にマイルドな酸味、中味に甘味、ふくらみを有するものであった。また、大豆70部に小麦30部の原料の場合、55℃24時間分解品の官能は、若干穀物臭があるものの先味にマイルドな酸味、中味に甘味、ふくらみ、さらにはうま味を強く有するものであった。よって、原料の配合は大豆70〜90部と小麦10〜30部を混合したものが好ましく、更には大豆80部と小麦20部を混合したものが望ましいことが分かった。
【0050】
麹の加水分解の条件のうち、加水分解の温度については55℃の高温が好ましいが、70℃は高過ぎて異味、異臭を生じた。分解時間としては24時間程度が好ましく、これより長くなると酸味及び異臭を生じるとの結果が得られた。食塩の濃度は0.3%の低塩が好ましく、通常の醤油の持つ食塩濃度(10g/dl以上)では、得られた分解品は、うま味はあるがいわゆる醤油タイプの調味料が得られた。以上の結果に基づき、実施例2以降では、この温度55℃、この低塩及び24時間分解を基本フローとし、更に詳細な製造条件、及び官能評価の検討を実施した。
【0051】
(実施例2)
実施例2では、タンパク質原料である脱脂大豆に配合する小麦について、その粉砕条件等の性状及び配合比率と得られる製品の品質について実験を行った。小麦をグラインダー(家庭用製粉機「ひきっ子K-80」(株)関西塗器製)で粉砕し、9、18、30及び50メッシュパス以下の粒を90%以上含む粉砕品をそれぞれ調製した。
【0052】
脱脂大豆12kgを蒸煮後(原料処理後重量24.9kg)、上記粉砕小麦原料3kg及び種麹(アスペルギルス・ソーヤ)9.2gを混合し、常法に従って22〜40℃で約40時間製麹を行い、麹20kgを得た。各サンプルの出麹の分析結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
Figure 0004090774
【0054】
表3から分かるように、非粉砕品や9メッシュパス品を使用した麹は18メッシュパス以下に粉砕したものに比べて、一般生菌数が1オーダー高く、プロテアーゼ活性が低く、また、アンモニア臭が強いことが分かった。非粉砕品や9メッシュパス品を使用すると、製麹の際に湿った蒸煮脱脂大豆表面が露出してしまい、雑菌の汚染が激しくなると考えられる。
【0055】
次に、得られた麹を約72℃の温水33Lと混合し、55℃の温度で24時間加水分解を行った。加水分解終了後、食塩9.8kgを添加し、溶解後、圧搾して液体部分を分離し、生揚44Lを得た。この生揚に濾過助剤として「ラジオライト#900」(昭和化学工業製)0.25kgを加え、濾過を行い、清澄な生揚44Lを得た。清澄な生揚げを、120℃、30secで殺菌した後、生じた不溶物(火入れオリ)を珪藻土濾過し、調味液40Lを得た。
【0056】
得られた各調味液について官能評価を実施した。官能評価は実施例1と同様に、単純溶液系による直接官能評価と、利用評価系として、そばつゆ、肉とキャベツの味噌炒め(回鍋肉)の醤油画分を25%置換した利用評価系による官能評価を行った。利用評価系においては醤油をコントロールとした。各サンプルの官能評価結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
Figure 0004090774
【0058】
表4から分かるように、非粉砕品を使用した麹を加水分解して得られた調味料は、異味異臭を有しており、調味料として好ましくないものであった。また、粉砕品でも、9メッシュパス以上の粉砕品では、味が薄く官能的に不十分な結果であった。これに対し、18メッシュパス以下の粉砕品では、官能的に好ましい結果が得られたが、18メッシュパス以下の粉砕品を使うよりも、30メッシュパス以下、更には50メッシュパス以下の粉砕品を使った方が、単純溶液系でふくらみがあり、利用評価においても、そばつゆではだし感を引きたて、回鍋肉では味噌、豆ち感を強める効果が高かった。
【0059】
よって、以上の結果から、麹を作製する際には、小麦等の澱粉質原料を粉砕することが望ましく、その粉砕の程度については、好ましくは粒径が少なくとも18メッシュパス以下の粒を90重量%以上含むもの、より好ましくは粒径が30メッシュパス以下の粒を90重量%以上含むものであることも分かった。
【0060】
(実施例3)
脱脂大豆12kgを蒸煮後(原料処理後重量24.9kg)、グラインダーで粉砕した小麦3kg(粒径30メッシュパスの粉末を90重量%以上含む)と種麹 9.2gを混合し、常法に従って22〜40℃で約40時間製麹を行い、麹20kgを得た。
【0061】
得られた麹を約72℃の温水33Lと混合し、50℃、52℃、55℃、58℃、60℃、及び65℃で24時間加水分解を行った。加水分解終了後、食塩9.8kgを添加し、溶解後、圧搾して液体部分を分離し、生揚44Lを得た。この生揚に濾過助剤として「ラジオライト#900」(昭和化学工業製)0.25kgを加え、濾過を行い、清澄な生揚44Lを得た。清澄な生揚げを、120℃、30secで殺菌した後、生じた不溶物(火入れオリ)を珪藻土濾過し、調味料(汎用基本調味料)40Lを得た。
【0062】
実施例2同様の方法で、得られた各調味料の分析試験及び官能評価を行った。その結果を表5に示す。
【0063】
【表5】
Figure 0004090774
【0064】
表5の結果から、分解温度52℃、55℃、58℃及び60℃においては、単純溶液系では、醤油独特の醸造香が無く、先中味にふくらみがある、これまでに無いタイプの調味料であることが分かった。また、利用評価系においても、そばつゆではだし感を引きたて、回鍋肉では味噌、豆ち感を強める等、他の素材の風味を生かす機能があることが分かった。分解温度65℃では、麹臭、豆臭、及び収斂味が強い調味料になり、異風味を感じた。また、分解温度50℃以下では、非常に酸味が強い調味料になり、異風味を感じた。これは、分解中に乳酸菌等の生酸菌が増殖することにより分解液が酸敗してしまったことが原因と考えられる。以上の結果から、分解温度としては52〜60℃が好ましく、更に好ましくは55〜58℃程度であることが分かった。
【0065】
(実施例4)
実施例3と同様の方法で製麹し、得られた麹を55℃の温度で、加水分解の時間を変えて(16〜33時間の範囲)、加水分解を行った。加水分解後、実施例3の方法に基づいて調味液を製造し、分析及び官能評価を行った。その結果を表6に示す。
【0066】
【表6】
Figure 0004090774
【0067】
表6から分かるように、18時間未満では得られる製品の味が薄く、異味異臭を持つため望ましい製品が得られない。これに対し、18時間、21時間、24時間、27時間及び30時間分解では、実施例1の結果同様、単純溶液系では醤油独特の醸造香が無く、先中味にふくらみがある、これまでに無いタイプの調味料であることが分かった。また、そばつゆ、回鍋肉等に対する利用評価系においても、そばつゆではだし感を引きたて、回鍋肉では味噌、豆ち感を強める等、他の素材の風味を生かす機能があることが分かった。30時間分解では、若干先中味のふくらみが無くなり、すっきりとした官能になることが分かった。加水分解の時間が30時間を超えると望ましくない風味が発生し、33時間分解では、コゲ臭が強くなり異風味を感じると共に、先中味のふくらみが無くなっていた。以上の結果から、55℃分解における分解時間としては18〜30時間程度が好ましく、更に好ましくは21〜27時間程度であることが分かった。
【0068】
(実施例5)加熱安定性
実施例3記載の方法で麹20kgを作製し、温水33Lと混合後、55℃で24時間の加水分解を行った。加水分解終了後、実施例3記載の方法に従い処理を行い、調味料を得た。得られた調味料について加熱安定性を調べた。得られた調味料を全窒素1.0g/dl、pH5.7に調整後、その1.5mlをプラスチックチューブ(エッペンドルフ社)に分注し、100℃で6時間の加熱を行った。加熱中、経時的に試料をサンプリングし、色度(Abs:545nm)の測定を行った。対照として濃口醤油(キッコーマン(株))、薄口醤油(キッコーマン(株))、濃口「味液」(味の素(株)製)、速醸たまり醤油(味の素(株)特開平7−327631号公報参照。)を用い、各々の試料の加熱褐変性を比較した。その結果を図1に示した。尚、図1中、ΔCは初発からの色度上昇度(Abs 545nm)を示す。
【0069】
図1から分かるように、本発明で得られた調味料は醤油を始めとするタンパク質加水分解調味料に比べ、加熱による色度の増加が少ない。即ち、加熱安定性が高いことが示された。これは、例えばレトルト加工食品、及び煮込み汁等加熱、若しくは長時間に渡って熱に晒される食品に使用した際にも安定した色調を保つことを示すものである。
【0070】
(実施例6)酸化安定性
実施例5記載の方法で得られた調味料、濃口醤油(キッコーマン(株))、薄口醤油(キッコーマン(株))、濃口「味液」(味の素(株)製)及び速醸たまり醤油(味の素(株)、特開平7−327631号公報参照。)をそれぞれ全窒素1.0g/dl、pH5.7に調整し、その100mlを500mlの坂口フラスコに入れ、30℃で7日間120rpmで振とうした。振とう中、経時的に試料をサンプリングし、色度(Abs:545nm)の測定を行い、各々の試料の酸化褐変性を比較した。その結果を図2に示した。
【0071】
図2から分かるように、本発明で得られた調味料(汎用基本調味料)は醤油を始めとするタンパク質加水分解調味料に比べ、酸化による色度の増加が少ない。即ち、酸化安定性が高いことを示す。これは、本発明で得られた調味料そのもの、及び本調味料を使用した加工食品が酸素存在下で長期保存しても安定した色調を保つことを示すものであり、本発明で得られた調味料が、加工食品のシェルフライフを長く保つ上で非常に有用な機能を有することを示すものである。
【0072】
(実施例7)コンソメスープへの添加効果
コンソメスープ粉末(食塩35%、L−グルタミン酸−ナトリウム塩(MSG)18%、IN0.2%、白コショウパウダー0.3%、黒コショウパウダー0.5%、ビーフエキスパウダー8.0%、白ワインパウダー3.0%、セロリパウダー2.0%、白菜エキスパウダー8.0%、玉葱エキスパウダー2.5%及び乳糖25.5%)を溶解し(5g/dl)、コンソメスープを調製した。このコンソメスープに対し、実施例5において得られた調味料を0.6%(W/V)となるよう添加し、無添加区を対照として味覚パネル(N=20)による二点嗜好試験法による品質比較を行った。その結果を表7に示した。
【0073】
【表7】
Figure 0004090774
【0074】
表7から分かるように、本調味料を添加したコンソメスープは対照区に比較して、コク味、まろやかさ等が増強されており品質上有意に好まれた。
【0075】
(実施例8)味噌汁への添加効果
市販インスタント味噌汁(あさげ:永谷園(株)製)を通常使用濃度へ希釈したものへ、実施例5において得られた調味料を汁中で0.6%(W/V)となるように添加した。これについて専門味覚パネルによる評価を行ったところ、本調味料の添加により味噌風味が向上したこと、コク味が増強され、濃厚感が付与されたことを確認した。また、同様の条件にて本調味料を添加した味噌汁を、無添加区を対照として味覚パネル(N=20)による二点嗜好試験法による品質比較を行った。その結果を表8に示した。表8から、前記の添加効果全てについて有意に向上していることが分かった。
【0076】
【表8】
Figure 0004090774
【0077】
(実施例9)ドレッシングへの添加効果
市販ドレッシング(味の素(株)製)へ、実施例5において得られた調味料を液中で0.6%(W/V)となるように添加した。これについて専門味覚パネルによる評価を行ったところ、本調味料の添加により酢カド及び塩カドがマスキングされたこと、コク味及びまろやかさが増強したことを確認した。また、同様の条件にて本調味料を添加したドレッシングを、無添加区を対照として味覚パネル(N=20)による二点嗜好試験法による品質比較を行った。その結果を表9に示した。表9から分かるように、前記添加効果全てについて有意に向上していることを認めた。
【0078】
【表9】
Figure 0004090774
【0079】
(実施例10)カレーへの添加効果
市販レトルトカレー(ボンカレーゴールド:大塚製薬(株))へ実施例5において得られた調味料を0.6%(W/W)となるように添加した。これについて専門味覚パネルによる評価を行ったところ、本調味料の添加により熟成風味が向上したこと、コク味が増強され、濃厚感が付与されたことを確認した。また、同様の条件にて本調味料を添加したカレーを、無添加区を対照として味覚パネル(N=20)による二点嗜好試験法による品質比較を行った。その結果を表10に示した。表10から分かるように、前記添加効果全てについて有意に向上していることを認めた。
【0080】
【表10】
Figure 0004090774
【0081】
(実施例11)ハンバーグへの添加効果
自家製ハンバーグへ、実施例5において得られた調味料を0.6%(W/W)となるように添加した。これについて専門味覚パネルによる評価を行ったところ、本調味料の添加により自然な肉質感が向上したこと、甘味及びふくらみ等のコク味が増強されたことを確認した。また、同様の条件にて本調味料を添加したハンバーグを、無添加区を対照として味覚パネル(N=20)による二点嗜好試験法による品質比較を行った。その結果を表11に示した。表11から分かるように、前記添加効果全てについて有意に向上していることを認めた。
【0082】
【表11】
Figure 0004090774
【0083】
(実施例12)めんつゆでの置換え評価
醤油(濃口、たまり)、かつお節(荒本節、枯れ節)、砂糖、みりん、食塩、L−グルタミン酸−ナトリウム塩(MSG)及び乳酸を主成分とするめんつゆの配合において、醤油区分の50%を実施例5記載の調味料にて置換えためんつゆを作製した。本調味料にて置換えためんつゆについて専門味覚パネルによる評価を行ったところ、本調味料での置換えによりだし風味及び燻臭が向上したこと、及びまろやかさが増強したことを確認した。また、同様の条件において本調味料にて置換えためんつゆを、無添加区を対照として味覚パネル(N=20)による二点嗜好試験法による品質比較を行った。その結果を表12に示した。表12から分かるように、前記添加効果全てについて有意に向上していることを認めた。
【0084】
【表12】
Figure 0004090774
【0085】
(実施例13)肉とキャベツの味噌炒め(回鍋肉)での置換え評価
味噌、豆ち、醤油、砂糖、L−グルタミン酸−ナトリウム塩(MSG)、酒、生姜、及びにんにくを主成分とする回鍋肉用炒め調味料の配合において、醤油区分の25%を実施例5において得られた調味料にて置換えた調味料を作製した。本調味料にて置換えた回鍋肉について、専門味覚パネルによる評価を行ったところ、本調味料での置換えにより味噌、豆ち風味が向上したこと、コク味が増強され、濃厚感が付与されたことを確認した。また、同様の条件において、本調味料にて置換えた回鍋肉を、無添加区を対照として味覚パネル(N=20)による二点嗜好試験法による品質比較を行った。その結果を表13に示した。表13から分かるように、前記添加効果全てについて有意に向上していることを認めた。
【0086】
【表13】
Figure 0004090774
【0087】
(実施例14)おでん汁での置換え評価
醤油、かつおエキス、昆布エキス、L−グルタミン酸−ナトリウム塩(MSG)、食塩、砂糖、及び酒を主成分とするおでん汁の配合において、醤油区分の25%を実施例5において得られた調味料にて置換えた調味料を作製した。実施例5において得られた調味料にて置換えたおでん汁について、専門味覚パネルによる評価を行ったところ、本調味料での置換えによりだし風味が向上したこと、コク味及びまろやかさが増強されたことを確認した。同様の条件で、本調味料にて置換えたおでん汁を、無添加区を対照(コントロール区)として味覚パネル(N=20)による二点嗜好試験法による品質比較を行った。その結果を表14に示した。
【0088】
【表14】
Figure 0004090774
【0089】
表14から分かるように、前記添加効果全てについて有意に向上していることを認めた。
【0090】
また、本調味料にて置換えたおでん汁について、無添加区を対照として褐変性を比較するため、加熱時の経過時間による増色を測定した(Abs:545nm)。その結果を図3に示した。図3に示したように、本調味料を使用したものは無添加区に比べ色度の増加が少ない。官能上においても無添加区に比べ、コゲ臭、ムレ臭及び苦味が少ないことが、味覚パネル(N=20)による二点比較試験法による品質比較で確認された。
【0091】
(実施例15)
実施例5において得られた調味料をスプレードライヤーで粉末化を行い、粉末調味料を得た。その際、賦形剤としてデキストリンを50%添加したもの、及び賦形剤を添加しないものについて粉末化検討を行ったが、賦形剤の有無にかからず、効率良く粉末化することができた。よって、従来、醤油を粉末化する際には、デキストリン等の賦形剤を50%程添加しなければならず、呈味力価の低下が起こっていたが、本発明による調味料については賦形剤を添加せず粉末化することで、呈味力価の高い醤油様粉末調味料を得ることができる。
【0092】
以上の結果から理解されるように、本発明の方法で得られる調味料は、醤油独特の醸造香が無く、うま味と先中味のふくらみを有すると共に、色調の点において加熱安定性及び酸化安定性にも優れた調味料であり、このような調味料は、飲食品に含まれるだしを始め、味噌、豆等の素材感を引きたて、コク味及びまろやかさを増強する機能を有する点から、めんつゆを始めとする各種調味料、中華炒め(回鍋肉等)を始めとする各種加工食品に広く使用することができる。
【0093】
【発明の効果】
本発明によれば、醤油独特の醸造香が無く、うま味及びふくらみを有し、特に、先中味のふくらみを有すると共に、加熱安定性及び酸化安定性にも優れた汎用基本調味料を提供することができる。更に、このような調味料を使用し、コク味及びまろやかさが増強され、或いは素材感が引き立てられた飲食品や調味料、特にだし、めんつゆを始めとする各種調味料、中華炒め(回鍋肉)を始めとする各種加工食品を提供することができる。
【0094】
従って、本発明は工業上、特に食品分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は実施例5において各種調味料の加熱による褐変性を示す。ΔC:初発からの色度上昇度(Abs 545nm)。
【図2】図2は、実施例6において各種調味料の酸化による褐変性を示す。ΔC:初発からの色度上昇度(Abs 545nm)。
【図3】図3は、実施例14において本発明で得られる調味料を使ったおでん汁の加熱による褐変性を示す。 T-N:全窒素。

Claims (11)

  1. タンパク質原料70〜90重量部に対して澱粉質原料10〜30重量部の比率で両者を含有する原料に種麹を接種して製麹を行い、得られたタンパク性麹を食塩非存在下又は5重量%以下の食塩存在下、52〜60℃の温度範囲で18〜30時間加水分解に付することを含み、当該タンパク質原料が大豆又は丸大豆又は脱脂大豆であり、当該澱粉質原料が、大きくとも18メッシュパスの粒径を有する粉末を少なくとも90重量%含む小麦粉砕物であることを特徴とする汎用基本調味料の製造方法。
  2. 当該小麦粉砕物が、大きくとも30メッシュパスの粒径を有する粉末を少なくとも90重量%含む請求項記載の方法。
  3. タンパク質原料70〜90重量部に対して澱粉質原料10〜30重量部の比率で両者を含有する原料に種麹を接種して製麹を行い、得られたタンパク性麹を食塩非存在下又は5重量%以下の食塩存在下、52〜60℃の温度範囲で18〜30時間加水分解に付することを含み、当該タンパク質原料が大豆又は丸大豆又は脱脂大豆であり、当該澱粉質原料がふすまであることを特徴とする汎用基本調味料の製造方法。
  4. 請求項1乃至3記載の方法で得られ、又は得ることができる、醸造香が無く、うま味及びふくらみを有する汎用基本調味料。
  5. 加熱安定性及び酸化安定性に優れた請求項記載の汎用基本調味料。
  6. コク味及びまろやかさを有する調味料又は飲食品に添加したときに、そのコク味及びまろやかさを増強し、素材感を求める調味料又は飲食品に添加したときに、素材の風味を引き立たせる効果を有する請求項記載の汎用基本調味料。
  7. 請求項4〜6何れか記載の汎用基本調味料を含有することを特徴とする、コク味及びまろやかさが増強し、及び/又は素材の風味が活かされている調味料又は飲食品。
  8. 請求項記載の汎用基本調味料を、だし、つゆ、たれ、ソース、ドレッシング、味噌類、及び豆類原料素材の醸造物の何れかの調味料、又はカレー、ハンバーグ、スープ、味噌汁、中華炒め及びおでんの何れかの飲食品に配合することを特徴とする調味料又は飲食品素材の風味を引き立たせる方法。
  9. 調味料がだし、つゆ、たれ、ソース、ドレッシング、味噌類、及び豆類原料素材の醸造物であり、飲食品がカレー、ハンバーグ、スープ、味噌汁、中華炒め、おでん又は水産畜肉製品である請求項記載の調味料又は飲食品。
  10. 醤油類、HP類及び酵母エキス類の少なくとも1種を使用する、又は含む飲食品において、当該醤油類、HP類及び酵母エキス類の何れかを請求項記載の汎用基本調味料で置換したことを特徴とする飲食品。
  11. 加熱調理用調味料又は飲食品に請求項記載の汎用基本調味料を配合することを特徴とする加熱褐変性を向上させる方法。
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