JP4078037B2 - 天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は天然ゴムラテックス用の蛋白分解処理剤に関し、より詳しくは、蛋白質の分解処理または脱蛋白処理が施されたラテックスであって、優れたアノード凝着法による成膜性とラテックスの分散安定性と示すラテックスを得るための蛋白分解処理剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
天然ゴムは伸びが大きい、弾性が高い、皮膜の強さが良好である等の特徴を有することから、ゴム手袋等の幅広い分野で利用されている。
天然ゴムからなる手袋の製造には、そのゴム皮膜の厚みに応じた製造方法が採用される。例えば家庭用手袋等の、膜厚が1mm程度のゴム手袋を製造するには、あらかじめ表面に凝固剤(アノード凝固剤)が塗布された手袋の型(手型)を天然ゴムラテックスに浸漬して成膜する、いわゆるアノード凝着法(凝固液浸漬法)を採用するのが一般的である。
【0003】
一方、近年、天然ゴムラテックスを用いたゴム製品については、当該製品中に含まれる蛋白質を高度に除去することが求められている。これは、(1) 天然ゴム製品を皮膚や粘膜と直接に接触させると呼吸困難やじんましん等の即時型(I型)アレルギーを誘発する場合があり、その原因物質として、天然ゴムラテックスに含まれる蛋白質が関与している旨の指摘がなされていること、(2) 前記蛋白質の種類や含有量はラテックスの産地や産出時期等によって異なるため、天然ゴム製品の品質や加硫特性等にばらつきを生じさせる原因となること、さらに、(3) 前記蛋白質は、ゴム製品のクリープ特性、耐老化性等の機械特性、絶縁性等の電気特性を低下させる原因にもなること、が主な理由である。
【0004】
そこで、特開平6−56902号公報には、天然ゴムラテックスに蛋白分解酵素(プロテアーゼ)と界面活性剤とを加えて熟成することによって当該ラテックス中の蛋白質を分解し、次いで当該ラテックスに遠心分離処理を施す、という一連の工程を経ることにより、天然ゴムラテックスから蛋白質およびその分解物を除去する方法が開示されている。かかる方法に従って脱蛋白処理を施した場合には、天然ゴムラテックス中の蛋白質を非常に高いレベルで除去することができ、例えばケルダール法によって測定される窒素含有量(N%)が0.1重量%以下になるまで蛋白質の含有量を低減させることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報に開示の方法によって得られる、いわゆる脱蛋白天然ゴムラテックスには、蛋白質の除去によって不安定化したラテックスを安定化させ、攪拌等の操作によってゴム分が凝集してしまうのを防止することを目的として、界面活性剤が配合されている。
この界面活性剤は、ラテックスの機械的安定性を向上させる作用を示すだけでなく、アノード凝固剤に対する感度に対しても大きな影響を及ぼしている。例えば、界面活性剤として高級アルコール硫酸エステル塩系のアニオン界面活性剤を用いた場合にはラテックスのアノード凝固剤に対する感度が高くなっており、それゆえ、脱蛋白処理が施されていない天然ゴムラテックスと同様の条件であってもアノード凝着法による成膜を行うことができる。
【0006】
しかしながら、上記の場合のアノード凝固剤に対する感度はむしろ高すぎることから、ラテックス浸漬後の皮膜の乾燥が天然ゴムラテックスを用いた場合に比べて極めて速くなってしまう。その結果、例えばゴム皮膜の厚みを大きくする目的でラテックスに型を重ねて浸漬すると、ゴム皮膜の厚みムラや液ダレが起こるという新たな問題が生じる。
また、界面活性剤として高級アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩系の界面活性剤を用いた場合には、ラテックスのアノード凝固剤に対する感度が低くなってゴム分が凝集しにくくなる。このため、脱蛋白処理を施していない天然ゴムの場合と同程度の厚みの皮膜をアノード凝着法によって形成するには、極めて特殊な成膜条件を設定する必要が生じたり、極めて複雑な工程を経る必要が生じたりするといった新たな問題を招いてしまう。
【0007】
なお、本出願人らは、先に、上記の方法によって得られる、ゴム分が過度に安定化された脱蛋白天然ゴムラテックスに対して、特定の感熱化剤やアノード凝固剤を特定の組み合わせで使用し、しかも通常の処方よりも多く配合することによって、十分な膜厚を有する浸漬製品が得られるという事実を見出している(特開2000−17002号公報)。
しかしながら、上記公報に記載の方法では感熱化剤とアノード凝固剤との両方をラテックス中に配合するため、天然ゴムラテックスを用いた通常の感熱法に比べてラテックスが不安定となって長期に亘る安定性が得られなかったり、さらには、感熱特性の制御が難しくなったりするという問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、天然ゴムラテックスに高度な蛋白分解処理または脱蛋白処理を施すことができ、しかも当該処理により得られる蛋白分解天然ゴムラテックスまたは脱蛋白天然ゴムラテックスに対して、アノード凝着法での十分な凝固性と、厚みムラや液ダレなどを生じることのない良好な成膜性とを付与することができ、しかもラテックスの分散安定性とのバランスを良好なものとすることのできる蛋白分解処理剤を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていく中で、蛋白質の分解処理に伴って不安定となった天然ゴムラテックスに対して、カルシウムイオン(以下、「Ca2+」と表記する。)に対する凝集性が異なる2種以上の界面活性剤を配合することによってその分散安定化を図るとともに、かかる2種以上の界面活性剤についての配合割合を適宜調整することによってラテックス全体のCa2+に対する凝集性の程度を所定の範囲に設定したときには、アノード凝着法における十分な凝固性・成膜性と、ラテックスの分散安定性との両立を図ることができるという全く新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するための、本発明に係る天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤は、
プロテアーゼと、界面活性剤Hと、界面活性剤Lと、を含むものであって、
前記界面活性剤Hが、カルボン酸系アニオン界面活性剤、高級アルコール硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤、スルホン酸系アニオン界面活性剤、およびリン酸系アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤であり、
前記界面活性剤Lが、高級アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤、および高級アルキルエーテル硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤であり、かつ、
前記界面活性剤Hと前記界面活性剤Lとが前記天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤中での含有割合と同じ割合で水に溶解され、前記界面活性剤Hと前記界面活性剤Lとの合計量の濃度が10重量%に調整された水溶液は、前記水溶液が25℃であるときにおいて、前記水溶液のCa2+濃度が0.1mol/L以下であるときに安定に分散し、前記水溶液のCa2+濃度が1.0mol/L以上であるときに凝集するものであることを特徴とする。
【0011】
上記本発明に係る天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤は、前述のように、当該処理剤中に含まれる界面活性剤についてのCa2+に対する凝集の程度が所定の範囲に調整されている。これにより、本発明の蛋白分解処理剤を用いて天然ゴムラテックス中の蛋白質を分解するための処理を施した場合には、処理後のラテックスに適度なアノード凝固性を(言い換えれば、アノード凝着法による優れた成膜性を)付与することができる。
【0012】
すなわち、かかる処理により得られる蛋白分解天然ゴムラテックス(または脱蛋白天然ゴムラテックス)は、アノード凝着法による成膜を行う前の段階において、ラテックス中のゴム分に凝集を生じさせることがなく、ゴム分の安定した分散状態を維持することができる。なお、アノード凝着法による成膜を行う前の段階には、具体的に、蛋白分解天然ゴムラテックスや脱蛋白天然ゴムラテックスを長期に亘って保存したり、搬送などに際してラテックスに機械的振動を与えたり、ラテックスに加硫剤等の種々の添加剤を配合した場合が挙げられる。
【0013】
また、本発明に係る天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤によって処理が施された蛋白分解天然ゴムラテックス(または脱蛋白天然ゴムラテックス)を、アノード凝着法において通常用いられる濃度のアノード凝固剤と接触させたときには、前記2種の界面活性剤のうちCa2+に対する凝集性が高い方の界面活性剤に凝集が生じることによって、ラテックス中でのゴムの分散安定性が著しく低下する。それゆえ、アノード凝着法によるゴム皮膜の形成が可能になる。
【0014】
なお一般に、アノード凝着法によるゴム皮膜の形成には、アノード凝固剤として、例えばイオン価が2以上の金属塩や有機アルキルアミン塩等が用いられる。イオン価が2以上の金属塩としては、硝酸カルシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。これらのアノード凝固剤は一般に水溶液として使用されるものである。上記本発明の蛋白分解処理剤は、かかる処理剤によって処理を施した蛋白分解天然ゴムラテックス(または脱蛋白天然ゴムラテックス)についての、硝酸カルシウム、塩化カルシウム等のアノード凝固剤に対する感度を適度なものに調節することができることから、本発明の蛋白分解処理剤は、アノード凝着法によって成膜を行うための蛋白分解天然ゴムラテックス(または脱蛋白天然ゴムラテックス)を調製するのに好適である。
【0016】
本発明に係る天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤は、Ca2+に対する凝集性(分散安定性)が異なる2種以上の界面活性剤を含み、Ca2+に対する凝集の程度が所定の範囲となるように調整されたものである。さらに、前述のように、前記界面活性剤として、相対的にCa2+に対する凝集性が高い(分散性が低い)ものと、相対的にCa2+に対する凝集性が低い(分散性が高い)ものとの組み合わせを用いた場合には、ラテックスのCa2+濃度に対する凝集性を、容易に前述の範囲に設定することができる。相対的にCa2+に対する凝集性が高い界面活性剤としては、具体的には、前記界面活性剤Hの群に含まれるものが挙げられる。一方、相対的にCa2+に対する凝集性が低い界面活性剤としては、具体的には、前記界面活性剤Lの群に含まれるものが挙げられる。
【0017】
本発明において「2種以上の界面活性剤が凝集する」とは、2種以上の界面活性剤のうち少なくとも一方の界面活性剤がCa2+と結合して水に不溶性の塩を形成することをいう。一方、本発明において「2種以上の界面活性剤が安定に分散する」とは、界面活性剤がCa2+によって上記のような塩を生じることがなく、水溶液中での分散性が維持されることをいう。
前記2種以上の界面活性剤についてのCa2+に対する凝集性の評価は、通常、前記界面活性剤を水溶液の形態で使用して、これをCa2+を含有する水溶液に滴下することによって行われる。この際、界面活性剤水溶液の濃度は特に限定されるものではないが、濃度が低すぎると凝集の有無を判別しにくくなるおそれがあることから、あらかじめ2種以上の界面活性剤(混合物)水溶液の濃度を10重量%程度に設定しておくのが好ましい。また、前記2種以上の界面活性剤についてのCa2+に対する凝集性を評価するのに用いられる、所定のCa2+濃度を有する水溶液についての液温は、これに限定されるものではないが、アノード凝着法での成膜処理を行う温度範囲に設定しておくのが好ましい。一般には、Ca2+濃度に対する凝固性の程度を評価する際に前記水溶液の液温を25℃に設定しておくのが好ましい。そこで、本発明においてCa2+に対する凝集性の程度を評価するのに際しては、特に言及しない限り、所定のCa2+濃度を有する水溶液についての液温を25℃に設定した。
【0018】
上記本発明の天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤においては、前記界面活性剤Hと前記界面活性剤Lとの含有割合が、重量比で15:85〜70:30であるのがより好ましい。
このように、界面活性剤Hと界面活性剤Lとを15:85〜70:30の重量比で用いることにより、界面活性剤についてのCa2+に対する凝集性の程度を容易に前述の範囲に調整することが可能となる。従って、本発明の蛋白分解処理剤を用いて処理を施した蛋白分解天然ゴムラテックス(または脱蛋白天然ゴムラテックス)に対して、そのアノード凝着法による成膜性と、ラテックス自体の保存・保管性とのバランスを良好なものとすることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係る蛋白分解処理剤について詳細に説明する。
(プロテアーゼ)
上記本発明に係る蛋白分解処理剤に用いられるプロテアーゼとしては、従来公知の種々のものが使用可能であって特に限定されるものではないが、例えばアルカリプロテアーゼ等が好適である。プロテアーゼの由来としては、細菌由来のもの、糸状菌由来のもの、酵母由来のもの等いずれのものであってもよいが、これらの中では細菌由来のもので、特にBacillus属のものが好ましい。また、リパーゼ、エステラーゼ、アミラーゼ、ラッカーゼ、セルラーゼ等の酵素を併用することも可能である。
【0020】
アルカリプロテアーゼを用いる場合において、その活性〔アンソン−ヘモグロビン法(Anson. M. L.,J. Gen. Physiol.,22,79(1938))の改良法による測定値〕は0.1〜50APU/g、好ましくは1〜25APU/gの範囲であるのが適当である。
天然ゴムラテックスに蛋白質の分解処理を施す際の上記プロテアーゼの使用量は、プロテアーゼ自体の活性に応じて変動するものであって、特に限定されるものではない。しかし、一般的には、プロテアーゼの含有量が天然ゴムラテックス中のゴム分100重量部に対して0.0001〜20重量部となるように調整するのが好ましく、0.001〜10重量部となるように調整するのがより好ましい。プロテアーゼの含有量が上記範囲内であると、蛋白分解処理剤の使用時においてプロテアーゼの活性を保持しつつラテックス中の蛋白質を十分に分解することができ、あるいはプロテアーゼの使用量に見合った効果を有効に発現させることができる。
【0021】
(界面活性剤)
本発明に係る蛋白分解処理剤に用いられる界面活性剤は、前述のように、Ca2+に対する凝集性が異なる2種以上の界面活性剤を組み合わせたものである。
2種以上の界面活性剤の組み合わせについては、当該2種以上の界面活性剤を含有する水溶液についてのCa2+に対する凝集性が所定の範囲となるように設定されることが求められる。具体的には、2種以上の界面活性剤を含有する水溶液(または水性分散媒)について、その液温が25℃であり、かつCa2+濃度が0.1mol/L以下であるときには界面活性剤が安定に分散し、前記水溶液(または水性分散媒)の液温が25℃であり、かつCa2+濃度が1.0mol/L以上であるときには界面活性剤に凝集が生じること、が求められる。
【0022】
本発明に使用可能な2種以上の界面活性剤の組み合わせとしては、例えば、
カルボン酸系アニオン界面活性剤、高級アルコール硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤、スルホン酸系アニオン界面活性剤およびリン酸系アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤Hと、
高級アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤および高級アルキルエーテル硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤Lと、
の組み合わせが挙げられる。
【0023】
前記界面活性剤Hの群に含まれるものはCa2+に対する凝集性が相対的に高い(分散性が相対的に低い)界面活性剤であって、前記界面活性剤Lの群に含まれるものはCa2+に対する凝集性が相対的に低い(分散性が相対的に高い)界面活性剤である。
上記界面活性剤Hの群に含まれるものの具体例を表1に示す。また、上記界面活性剤Lの群に含まれるものの具体例を表2に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
上記界面活性剤Hと界面活性剤Lとの混合割合は特に限定されるものではないが、通常、その重量比(H:L)を15:85〜70:30となるように設定するのが好ましい。
界面活性剤Hと界面活性剤Lとの総添加量(総含有量)を100としたときの界面活性剤Hの添加(含有)割合は、前記範囲の中でも、その下限が20〔H:L(重量比)=20:80〕であるのが好ましく、25〔H:L(重量比)=25:75〕であるのがより好ましい。一方、界面活性剤Hの添加(含有)割合は、前記範囲の中でも、その上限が65〔H:L(重量比)=65:35〕であるのが好ましく、60〔H:L(重量比)=60:40〕であるのがより好ましい。
【0027】
(プロテアーゼと界面活性剤との含有割合)
上記本発明に係る蛋白分解処理剤のプロテアーゼと界面活性剤との含有割合は特に限定されるものではないが、蛋白質の分解処理を効率よく進行させるには、両者の比を重量比で1:1〜1:200、好ましくは1:10〜1:50の範囲に設定するのが好ましい。
(蛋白分解処理剤の使用方法)
本発明に係る蛋白分解処理剤を用いた天然ゴムラテックスの蛋白分解処理は、原料となる天然ゴムラテックスに本発明の蛋白分解処理剤を所定量添加して、これを数十分から1週間程度、好ましくは1〜3日程度熟成させることによって行われる。
【0028】
この熟成処理は、ラテックスを撹拌しながら行ってもよく、静置した状態で行ってもよい。また、必要に応じて温度調整を行ってもよい。酵素の活性を十分なものとするには、5〜90℃にするのが好ましく、20〜60℃に調整するのがより好ましい。5℃を下回ると酵素反応が進まないおそれがあり、逆に90℃を超えると酵素の失活を招くおそれがある。
上記蛋白分解処理後の、ラテックス中のゴム粒子の洗浄(精製)処理としては特に限定されるものではないが、例えば遠心分離、限外濾過法等によってラテックスを濃縮し、水中に移行した蛋白質分解物等の非ゴム成分と、ラテックス中のゴム粒子とを分離する処理や、ゴム粒子を酸等によって凝集させて分離する処理が挙げられる。中でも、遠心分離処理により精製を行うのが、精製の精度、効率等の観点からもっとも好ましい。かかる精製処理を減ることによって、脱蛋白天然ゴムラテックスを得ることができる。
【0029】
天然ゴムラテックスに添加された蛋白分解処理剤のうちのプロテアーゼは、蛋白質の分解処理に供された後、上記精製処理によって洗浄、除去される。また、一方の界面活性剤は、その一部が上記精製処理によって洗浄、除去される。界面活性剤の一部は、精製処理後も脱蛋白天然ゴムラテックスに残存して、ラテックスの安定剤として作用するが、この残存量が極端に少ないと(精製処理によって大部分が除去されると)、脱蛋白天然ゴムラテックスの安定性が著しく損なわれてしまう。しかし、蛋白分解処理後のラテックスの洗浄(精製)処理を、例えば通常行われる遠心分離の方法で、かつ、通常の処理条件で処理を行うのであれば、すなわちプロテアーゼと蛋白質の分解物等を洗浄除去できる程度の条件で洗浄(精製)処理が行われるのであれば、脱蛋白処理後のラテックスにあらためて界面活性剤を添加する必要はない。
【0030】
より具体的には、例えば遠心分離処理によって洗浄(精製)処理を行う場合、その処理条件を5000〜14000rpmで1〜60分間程度とし、遠心分離処理によって上層に分離したクリーム分を当該クリーム分と同体積程度の水に再分散させるのであれば、脱蛋白処理前にあらかじめ添加した水溶性高分子によって脱蛋白処理後においても十分な安定性と感熱凝固性とが担保される。
【0031】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を説明する。
実施例1
(1) 脱蛋白天然ゴムラテックスの調製
ハイアンモニアタイプの天然ゴムラテックスをゴム分の濃度が30重量%となるように水で希釈した。次いで、このラテックスのゴム分に対して、プロテアーゼと界面活性剤とからなる蛋白分解処理剤を1重量%の割合で添加し、液温を30℃に保って24時間静置、熟成させることにより、蛋白質の分解処理を施した。
【0032】
上記蛋白分解処理剤には、プロテアーゼ(アルカリプロテアーゼ,ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製の商品名「アルカラーゼ2.0M」)2重量部と、オレイン酸カリウム〔表1に示す界面活性剤H(No. H-1-1)〕49重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔表2に示す界面活性剤L(No. L-1-1)〕49重量部とを混合したものを用いた。
蛋白質の分解処理後、ラテックスに13000rpmで30分間遠心分離処理を施し、分子した上層のクリーム分を同量の水に再分散させることによって、脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0033】
(2) ゴム皮膜の作成
上記脱蛋白天然ゴムラテックスのゴム分100重量部に対して、水に分散させたコロイド硫黄1重量部、亜鉛華0.5重量部、加硫促進剤(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(BZ),大内新興化学(株)製の商品名「ノクセラーBz」)1重量部を添加して、40℃で24時間熟成(前加硫)させた。
次いで、ガラス製の型の表面に硝酸カルシウム(アノード凝固剤)の15重量%水溶液をあらかじめ塗布しておき、この型を上記前加硫ラテックスに10秒間浸漬して、型表面にゴム皮膜を形成させた。
【0034】
ゴム皮膜の形成後、前加硫ラテックスから引き上げた型を室温(約25℃)で60秒放置し、再度、上記前加硫ラテックスに10秒間浸漬(二度漬け)した。次いで、型表面のゴム皮膜を100℃に加熱して加硫させ、脱型することにより、加硫ゴム製品を得た。
実施例2
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、オレイン酸カリウム〔界面活性剤H(No. H-1-1)〕24重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕74重量部とを混合したものを用いたほかは、実施例1と同様にして、「(1) 脱蛋白天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0035】
実施例3
界面活性剤Hとして、オレイン酸カリウムに代えてラウリル硫酸ナトリウム〔表1に示す界面活性剤H(No. H-2-1)〕を用いたほかは、実施例1と同様にして、「(1) 脱蛋白天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
実施例4
(1) 蛋白分解天然ゴムラテックスの調製
ゴム分の濃度が30重量%となるように希釈したハイアンモニアタイプの天然ゴムラテックスに対して、実施例1で使用したのと同じ蛋白分解処理剤を同じ分量添加して、同じ条件で蛋白質の分解処理を行った。
【0036】
処理後、遠心分離処理による分解物の除去処理を施さずに、そのままの状態で蛋白分解天然ゴムラテックスとした。
(2) ゴム皮膜の作成・成膜性および物性の評価
脱蛋白天然ゴムラテックスに代えて上記蛋白分解天然ゴムラテックスを用いたほかは、実施例1と同様にして、「(2) ゴム皮膜の作成」を行った。
実施例5
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、オレイン酸カリウム〔界面活性剤H(No. H-1-1)〕24重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕74重量部とを混合したもの(すなわち、実施例2の蛋白分解処理剤と同様のもの)を用いたほかは、実施例4と同様にして、「(1)蛋白分解天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0037】
実施例6
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、ラウリル硫酸ナトリウム〔界面活性剤H(No. H-2-1)〕24重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕74重量部とを混合したもの(すなわち、実施例3の蛋白分解処理剤と同様のもの)を用いたほかは、実施例4と同様にして、「(1) 蛋白分解天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0038】
比較例1
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、オレイン酸カリウム〔界面活性剤H(No. H-1-1)〕98重量部とを用いたほかは(すなわち、界面活性剤Hを単独で用いたほかは)、実施例1と同様にして、「(1) 脱蛋白天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
比較例2
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕98重量部とを用いたほかは(すなわち、界面活性剤Lを単独で用いたほかは)、実施例1と同様にして、「(1) 脱蛋白天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0039】
比較例3
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、オレイン酸カリウム〔界面活性剤H(No. H-1-1)〕74重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕24重量部とを混合したものを用いたほかは、実施例1と同様にして、「(1) 脱蛋白天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0040】
比較例4
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、オレイン酸カリウム〔界面活性剤H(No. H-1-1)〕12重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕86重量部とを混合したものを用いたほかは、実施例1と同様にして、「(1) 脱蛋白天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0041】
比較例5
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、オレイン酸カリウム〔界面活性剤H(No. H-1-1)〕98重量部とを混合したもの(すなわち、比較例1の蛋白分解処理剤と同様のもの)を用いたほかは、実施例4と同様にして、「(1) 蛋白分解天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0042】
比較例6
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕98重量部とを混合したもの(すなわち、比較例2の蛋白分解処理剤と同様のもの)を用いたほかは、実施例4と同様にして、「(1) 蛋白分解天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0043】
比較例7
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、オレイン酸カリウム〔界面活性剤H(No. H-1-1)〕74重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕24重量部とを混合したもの(すなわち、比較例3の蛋白分解処理剤と同様のもの)を用いたほかは、実施例4と同様にして、「(1) 蛋白分解天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0044】
比較例8
蛋白分解処理剤として、アルカリプロテアーゼ2重量部と、オレイン酸カリウム〔界面活性剤H(No. H-1-1)〕12重量部と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム〔界面活性剤L(No. L-1-1)〕86重量部とを混合したもの(すなわち、比較例4の蛋白分解処理剤と同様のもの)を用いたほかは、実施例4と同様にして、「(1) 蛋白分解天然ゴムラテックスの調製」と「(2) ゴム皮膜の作成」とを行った。
【0045】
(Ca2+に対する凝集性の評価)
(i) 上記実施例1〜6および比較例1〜8において、蛋白分解処理剤に含まれる界面活性剤についてのCa2+に対する凝集性を評価した。評価は、蛋白質の分解処理に使用した界面活性剤を、蛋白分解処理剤中での含有割合と同じ割合で水に溶解させて、その濃度を10重量%に調整した上で、当該界面活性剤の水溶液をCa2+を含有する水溶液(25℃)に滴下することにより行った。また、測定を行ったCa2+濃度は、0.1mol/Lと1.0mol/Lの2種であった。評価の結果は下記の表3に示すとおりである。
【0046】
なお、表3に示した界面活性剤の含有割合は、下記の表4および表5に示す蛋白分解処理剤中での界面活性剤の含有割合を表した概算値である。
(ii)上記実施例1〜6および比較例1〜8で得られた脱蛋白天然ゴムラテックスまたは蛋白分解天然ゴムラテックスについて、そのCa2+に対する凝集性を評価した。評価は、脱蛋白天然ゴムラテックスのゴム固形分濃度が60重量%となるように調整した上で、当該ラテックスをCa2+を含有する水溶液(25℃)に滴下することにより行った。また、測定を行ったCa2+濃度は、0.01mol/Lと0.1mol/Lの2種であった。評価の結果は下記の表4および表5に示すとおりである。
【0047】
脱蛋白天然ゴムラテックスまたは蛋白分解天然ゴムラテックスについてのCa2+に対する凝集性は、アノード凝着法による成膜性とラテックス自体の分散安定性とのバランスを良好なものにするという観点から、Ca2+濃度が0.01mol/L以下であるときにはゴム分の凝集が生じず、Ca2+濃度が0.1mol/L以上であるときにゴム分の凝集が生じるものであるのが好ましい。
(窒素含有量の測定)
上記実施例1〜3および比較例1〜4で得られた脱蛋白天然ゴムラテックスについて、その窒素含有率(N%)をケルダール法によって測定した。測定結果は、下記表4の「N%」欄に示すとおりである。
【0048】
(加硫ゴム皮膜の特性評価)
上記実施例1〜6および比較例1〜8で得られた加硫ゴム皮膜について、そのゴム皮膜の厚みと均一性との評価を行った。さらに、JIS K 6301 の規定に基づき、ゴム皮膜の引張強さTB (MPa)と切断時伸びEB (%)とを求めた。測定結果は下記の表6に示すとおりである。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
表3〜6より明らかなように、実施例1〜6の蛋白分解処理剤(相対的にCa2+に対する凝集性が高い界面活性剤Hと、相対的にCa2+に対する凝集性が低い界面活性剤Lとを所定の割合で併用したもの)を用いて得られた脱蛋白天然ゴムラテックスまたは蛋白分解天然ゴムラテックスは、いずれもCa2+濃度が0.01mol/Lであるときに凝固せず、かつ、Ca2+濃度が0.1mol/Lであるときに凝固した。
【0054】
それゆえ、実施例1〜6の蛋白分解処理剤は、アノード凝着法によって成膜を行うのに好適であって、「膜厚」および「皮膜均一性」の結果からも明らかなように、アノード凝着法によって十分な膜厚を有するゴム製品の成膜加工が可能であることがわかった。
これに対し、界面活性剤Hのみを用いた比較例1,5や、界面活性剤Lに比べて界面活性剤Hの含有割合が極端に多かった比較例3,7では、Ca2+濃度が0.01mol/Lのときに凝固が生じてしまったため、十分な成膜を行うことができず、とりわけ皮膜の均一性が不良となるという問題が生じた。
【0055】
また、界面活性剤Lのみを用いた比較例2,6や、界面活性剤Hに比べて界面活性剤Lの含有割合が極端に多かった比較例4,8では、Ca2+濃度が0.1mol/Lのときにも凝固が生じなかったため、十分な成膜を行うことができず、特に十分な膜厚の皮膜を均一に形成することができないという問題が生じた。
Claims (2)
- プロテアーゼと、界面活性剤Hと、界面活性剤Lと、を含む天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤であって、
前記界面活性剤Hが、カルボン酸系アニオン界面活性剤、高級アルコール硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤、スルホン酸系アニオン界面活性剤、およびリン酸系アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤であり、
前記界面活性剤Lが、高級アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤、および高級アルキルエーテル硫酸エステル塩系アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤Lであり、かつ、
前記界面活性剤Hと前記界面活性剤Lとが前記天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤中での含有割合と同じ割合で水に溶解され、前記界面活性剤Hと前記界面活性剤Lとの合計量の濃度が10重量%に調整された水溶液は、前記水溶液が25℃であるときにおいて、前記水溶液のCa2+濃度が0.1mol/L以下であるときに安定に分散し、前記水溶液のCa2+濃度が1.0mol/L以上であるときに凝集するものであることを特徴とする、天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤。 - 前記界面活性剤Hと前記界面活性剤Lとの含有割合H:Lが、重量比で15:85〜70:30である請求項1に記載の天然ゴムラテックス用蛋白分解処理剤。
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