JP4077624B2 - 流体吐出装置及び流体吐出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子部品、家電製品などの分野における生産工程に用いることができ、接着剤、クリームハンダ、蛍光体、グリース、ペイント、ホットメルト、薬品、食品などの各種液体を定量に吐出(例えば塗布)するための流体吐出装置及び流体吐出方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
液体吐出装置(ディスペンサー)は従来から様々な分野で用いられているが、近年の電子部品の小形化・高記録密度化のニーズにともない、微少量の流体材料を高精度でかつ安定して吐出制御する技術が要請される様になっている。
【0003】
また、例えばCRT,PDPなどのディスプレイ面に蛍光体を均一に塗布するための、新たな流体塗布手段の開発の要望も大きい。
【0004】
表面実装(SMT)の分野を例にとれば、実装の高速化、微小化、高密度化、高品位化、無人化のトレンドの中で、ディスペンサーの課題を要約すれば、
▲1▼ 塗布量の高精度化と1回の塗布量の微小化できること、
▲3▼ 吐出時間の短縮、すなわち、高速吐出遮断及び開始ができること、
▲4▼ 高粘度の粉流体に対応できること、
である。従来、微少流量の液体を吐出させるために、エアパルス方式、ねじ溝式、電磁歪素子によるマイクロポンプ方式などのディスペンサーが実用化されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前述した従来例のうち、図20に示す様なエアパルス方式によるディスペンサーが広く用いられており、例えば「自動化技術の′93.25巻7号」等にその技術が紹介されている。この方式によるディスペンサーは、定圧源から供給される定量の空気を容器(シリンダ)600内にパルス的に印加させ、シリンダ600内の圧力の上昇分に対応する一定量の液体をノズル601から吐出させるものである。
【0006】
このようなエアーパルスの方式のディスペンサーは応答性が悪いという欠点があった。この欠点は、シリンダに封じ込められた空気602の圧縮性と、エアーパルスを狭い隙間に通過させる際のノズルの流路抵抗よるものである。すなわち、エアーパルス方式の場合、シリンダの容積:Cと、ノズルの流路抵抗:Rとで決まる流体回路の時定数:T=RCが大きくなり、入力パルスを印加後、吐出開始時に、例えば0.07〜0.1秒程度の時間遅れを見込まねばならない。
【0007】
上記エアーパルス方式の欠点を解消するために、吐出ノズルの入口部にニードルバルブを設けて、このニードルバルブを構成する細径のスプールを軸方向に高速で移動させることにより、吐出口を開閉させるディスペンサーが実用化されている。
【0008】
しかしこの場合、流体の遮断時、相対移動する部材間の隙間はゼロとなり、数ミクロン〜数十ミクロンの平均粒径の粉体は機械的に圧搾作用を受け破壊される。その結果発生する様々な不具合のため、粉体が混入した接着材、導電性ペースト、あるいは蛍光体等の塗布への適用は困難な場合が多い。
【0009】
また、同目的のために、粘性ポンプであるねじ溝式のディスペンサーも既に実用化されている。ねじ溝式の場合、ノズルの流路抵抗に依存しにくいポンプ特性を選ぶことができるため、連続吐布の場合は好ましい結果が得られるが、間欠塗布は粘性ポンプの性格上、不得手である。そのため、従来ねじ溝式では、
(1) モータとポンプ軸の間に電磁クラッチを介在させ、吐出のON、OFF時にこの電磁クラッチを連結あるいは開放する。
【0010】
(2) DCサーボモータを用いて、急速回転開始あるいは急速停止させる。
しかし、上記いずれも機械的な系の時定数で応答性が決まるため、高速間欠動作には制約があった。応答性はエアーパルス方式と比較すると良好であるが、しかし、最短時間でも0.05秒程度が限界であった。
【0011】
また、ポンプ軸の過渡応答時(回転始動時と停止時)の回転特性に不確定要因が多いため、流量の厳密な制御は難しく、塗布精度にも限界があった。
【0012】
微少流量の流体を吐出することを目的として、積層型の圧電素子を利用したマイクロポンプが開発されている。このマイクロポンプには、通常機械式の受動的な吐出弁、吸入弁が用いられる。
【0013】
しかし、バネとボールから構成され圧力差によって吐出弁、吸入弁を開閉させる上記ポンプでは、流動性の悪い、数万〜数十万センチポワズの高粘度のレオロジー流体を、高い流量精度でかつ高速(0.1秒以下)で遮断・開放させることは極めて困難である。
【0014】
さて、近年、益々高精度化、超微細化していく回路形成の分野、あるいはPDP,CRTなどの映像管の電極とリブ形成、液晶パネルのシール材塗布、光ディスクなどの製造行程等の分野において、微細塗布技術に関する、次のような要望が強い。
【0015】
▲1▼ 連続吐布後、任意のタイミングですばやく塗布を止めたい。さらに短い時間をおいて、連続塗布を急峻に開始したい。そのためには、例えば0.01秒のオーダーで流量制御できることが理想である。
【0016】
▲2▼ 上記▲1▼において、描画線の始点部の細り、切れ、あるいは終点部の流体塊の発生などが無きこと。
【0017】
▲3▼ 粉流体に対応できること。例えば流路の機械的な遮断により、粉体の圧搾破損、流路の詰まりなどのトラブルがないこと。
【0018】
上述した高粘度流体・粉流体の微少流量塗布に係る、近年の様々な要求に応えるために、本発明者らは、ピストンとシリンダの間に相対的な直線運動と回転運動を与えると共に、回転運動により流体の輸送手段を与え、直線運動を用いて固定側と回転側の相対的なギャップを変化させ、流出量を制御する塗布方法を提案し、「流体供給装置及び流体供給方法」として出願中(特願2000−188899号)である。
【0019】
さらに、本発明者は、ピストンを2つの出力軸を持つ2重構造とし、この2つの出力軸を逆位相で駆動させることにより、前述した描画線の始終端の課題を解決する方法を提案している。上記提案は、ピストンとこのピストンを収納するスリーブを、例えば超磁歪アクチュエータの両端の出力変位を利用して駆動するもので、この方法により、描画線の始終端の課題は大きく改善される。
【0020】
従って、本発明の目的は、上記提案をさらに改良を図るもので、ピストンの2つの出力軸をそれぞれ独立したアクチュエータで駆動することにより、ピストンとスリーブの変位曲線にさらに自由度を与えることができて、各種粉流体を、粉体の圧搾・破壊なく、高速で吐出遮蔽・開始ができる、流体吐出装置及び流体吐出方法を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0022】
本発明の第1態様によれば、ピストンとハウジングを相対的に軸方向移動させる第1アクチュエータと、
上記ピストンの少なくとも一部を収納し軸方向に貫通した空間を有するスリーブと、
上記スリーブと上記ハウジングを相対的に軸方向移動させる第2アクチュエータと、
上記スリーブと上記ハウジング、あるいは上記ピストンと上記ハウジングを相対的に回転させる第3アクチュエータと、
上記第1、第2、第3アクチュエータをそれぞれ駆動する駆動部と、
上記ピストン、上記スリーブ、上記ハウジングで形成されて上記第3アクチュエータの駆動により上記スリーブと上記ハウジング、あるいは上記ピストンと上記ハウジングを相対的に回転させるポンプ室と、
上記ポンプ室とポンプ室外部を連絡する流体の吸入口と吐出口から構成されることを特徴とする流体吐出装置を提供する。
【0023】
本発明の第2態様によれば、上記スリーブと上記ハウジング間の相対移動面に形成され、かつ、上記流体を上記吸入口側から上記吐出口側に圧送するポンピング作用を行わせるねじ溝をさらに備える第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
【0026】
本発明の第3態様によれば、上記スリーブと上記ハウジングの相対移動によって上記ポンプ室と上記外部を連絡する上記流体の流路抵抗が変化するように上記スリーブ及び上記ハウジングが構成されている第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
【0028】
本発明の第4態様によれば、上記第1アクチュエータと上記第2アクチュエータをそれぞれ独立して駆動させることにより、流体吐出開始時又は吐出終了時に上記ピストンと上記スリ−ブを相対的に逆方向に移動させる第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
【0031】
本発明の第5態様によれば、上記流体吐出装置の吐出側と反対側に上記第1アクチュエータを配置し、上記吐出側に回転と直線運動が可能な上記第2アクチュエータを配置し、上記吐出側とその反対側の中間部に回転モータである上記第3アクチュエータを配置する第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
【0032】
本発明の第6態様によれば、上記第1アクチュエータは、流体吐出装置本体から着脱自在である第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
【0034】
本発明の第7態様によれば、一端をフロント側としもう一方の端部をリア側とする第2アクチュエータである電磁歪素子と、上記電磁歪素子を貫通したピストンと、上記ピストンを軸方向に駆動する第1アクチュエータと、上記電磁歪素子と上記ピストンを収納しかつ上記第1アクチュエータの固定側を保持する上記ハウジングと、上記電磁歪素子の上記フロント側に押圧されたスリーブと、上記スリーブを回転自在に支持するフロント側シリンダと、上記ピストン及び上記スリーブを軸方向に移動可能に構成すると共に、上記ピストンと上記スリーブのいずれかに回転を与える上記第3アクチュエータと、上記第1、上記第2、上記第3アクチュエータをそれぞれ駆動する上記駆動部と、上記スリーブと上記フロント側シリンダで形成されるポンプ室と外部を連絡する加圧流体の流入口及び流出口から構成される流体吐出装置において、
上記第2アクチュエータと上記第1アクチュエータの駆動によって上記スリーブと上記ハウジング間、及び上記ピストンと上記ハウジング間で形成される流路の隙間が変化するように構成されている第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
【0035】
本発明の第8態様によれば、吸入口からピストンとこのピストンを収納するスリーブとハウジングで形成されるポンプ室内に流体を吸入し、
第1アクチュエータにより上記ピストンと上記ハウジングを相対的に軸方向移動させると共に、第2アクチュエータにより上記ピストンと上記スリーブを相対的に軸方向移動させ、同時に第3アクチュエータにより上記スリーブと上記ハウジング、あるいは上記ピストンと上記ハウジングを相対的に回転させながら、ポンプ室内の上記流体を吐出口から吐出することを特徴とする流体吐出方法を提供する。
【0041】
本発明の第9態様によれば、流体吐出行程終了後、上記吐出口と対向面間のギャップを一定に維持したままで、上記吐出口の先端と上記対向面の相対位置を変えて、次の流体吐出行程に移行する第8の態様に記載の流体吐出方法を提供する。
【0042】
本発明の第10態様によれば、上記ピストンと上記スリーブの変位曲線の選択により、連続流体吐出から間欠流体吐出へ、あるいは、間欠流体吐出から連続流体吐出へ移行する第8の態様に記載の流体吐出方法を提供する。
本発明の別の態様によれば、流体吐出装置外部に設置され、かつ、上記流体を上記吸入口側から上記吐出口側に圧送するポンピング作用を行わせる、流体高圧源をさらに備える第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
本発明の別の態様によれば、上記ピストンのポンプ室側は開放端となっており、上記ピストンのポンプ室側端面及びその対向面の相対移動面に上記吐出口が形成されている第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
本発明の別の態様によれば、上記スリーブと上記ハウジングの相対移動によって上記ポンプ室と上記外部を連絡する上記流体の流路抵抗が変化する動圧シールが、上記スリーブと上記ハウジングの間に形成されている第3の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
本発明の別の態様によれば、上記スリーブと上記ハウジングの相対的な回転によって、上記ポンプ室内の流体を加圧するポンプ部が構成されている第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
本発明の別の態様によれば、上記第1あるいは上記第2アクチュエータは電磁歪素子である第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
本発明の別の態様によれば、上記第3アクチュエータにビルトインモータを用いた第1の態様に記載の流体吐出装置を提供する。
本発明の別の態様によれば、上記吐出流体の流体粘度、流体粘度のせん断力依存性、流体弾性、流体塑性のいずれかが時間と共に変化するデータを基に、上記ピストンと上記スリーブの変位曲線を選択する第8の態様に記載の流体吐出方法を提供する。
本発明の別の態様によれば、吐出流体の特性あるいは流体吐出条件に対応した上記ピストンと上記スリーブの変位曲線のデータを用いて、第1及び第2アクチュエータを駆動する第8の態様に記載の流体吐出方法を提供する。
本発明のさらに別の態様によれば、上記ピストンと上記スリーブと上記ハウジングによる閉空間を形成した状態で、上記ピストンの移動により上記流体を上記吐出口から吐出する第8の態様に記載の流体吐出方法を提供する。
本発明の別の態様によれば、上記流体を上記吐出口から飛翔させて対向面に吐出する上記さらに別の態様に記載の流体吐出方法を提供する。
【0043】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0044】
本発明の一実施形態にかかる流体吐出装置は、ピストンとハウジングを相対的に軸方向移動させる第1アクチュエータと、上記ピストンの少なくとも一部を収納し軸方向に貫通した空間を有するスリーブと、このスリーブと上記ハウジングを相対的に軸方向移動させる第2アクチュエータと、上記スリーブと上記ハウジング、あるいは上記ピストンと上記ハウジングを相対的に回転させる第3アクチュエータと、上記第1、第2、第3アクチュエータをそれぞれを駆動する駆動部と、上記ピストン、上記スリーブ、上記ハウジングで形成されるポンプ室と、このポンプ室と外部を連絡する流体の吸入口と吐出口から構成される。
【0045】
また、本発明の一実施形態にかかる塗布方法は、吸入口からピストンとこのピストンを収納するスリーブとハウジングで形成されるポンプ室内に流体を吸入し、第1アクチュエータにより上記ピストンと上記ハウジングを相対的に軸方向移動させると共に、第2アクチュエータにより上記ピストンと上記スリーブを相対的に軸方向移動させ、同時に第3アクチュエータにより上記シリンダと上記ハウジング、あるいは上記ピストンと上記ハウジングを相対的に回転させながら、ポンプ室内の上記流体を吐出口から吐出する方法である。
【0046】
以下、本発明の第1実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法の一例として、電子部品の表面実装用ディスペンサーに適用した例について、図1を用いて説明する。
【0047】
図1に示すディスペンサーの構造は、大きく分けて3つのアクチュエータである第1〜第3アクチュエータと、ポンプ部とにより構成される。
【0048】
第1アクチュエータは、一例として圧電アクチュエータにより構成されピストンを軸方向に駆動する。第2アクチュエータは、一例として超磁歪素子により構成され可動スリーブを軸方向に駆動する。さらに、非接触で電力供給できる超磁歪素子の特徴を利用して、第3アクチュエータの一例であるモータを用いて、この可動スリーブにさらに回転の機能を持たせている。さらに、この第1実施形態のポンプ部は、下記▲1▼〜▲3▼、すなわち、
▲1▼ ねじ溝が形成された可動スリーブの回転により、流体にポンピング圧力を与えて吐出側に輸送させる機能と、
▲2▼ スラスト動圧シールにより、流体の定常状態における遮断ができる機能と、
▲3▼ 可動スリーブとピストンの直線運動を用いて、過渡状態での吐出量を微妙に制御する機能と、
を併せ持つ構造となっている。
【0049】
以下、まず、3つのアクチュエータについて説明する。
【0050】
第1アクチュエータ1は、直動型の圧電型アクチュエータ2(構造の詳細は省略)と、アクチュエータ2の出力軸であるピストン3とより構成される。このピストン3は、ピストン上部4a、ピストン上部4aより小径のピストン中間部4b、ピストン中間部4bより小径のピストン下部4cより構成されている。
【0051】
第2アクチュエータ5は、超磁歪素子による直動型アクチュエータである。6は上記超磁歪素子による直動型アクチュエータである超磁歪アクチュエータ5によって駆動される可動スリーブ、7は回転スリーブ、8は上記第2アクチュエータ5を収納するハウジングである。9は超磁歪材料から構成される円筒形状の超磁歪ロッドである。この超磁歪ロッド9は、第1バイアス永久磁石10、第2バイアス永久磁石11を上下に挟んだ形で、上部回転スリーブ12とヨーク材を兼ねた可動スリーブ6の間に固定されている。
【0052】
13は超磁歪ロッド9の長手方向に磁界を与えるための磁界コイル、14は円筒形状のヨークでありハウジング8に収納されている。
【0053】
上記第1及び第2バイアス永久磁石10、11は、超磁歪ロッド9に予めに磁界をかけて磁界の動作点を高めるもので、第1バイアス永久磁石11→超磁歪ロッド9→第2バイアス永久磁石10→上部回転スリーブ12→ヨーク14→可動スリーブ6→第1バイアス永久磁石11により、超磁歪ロッド9の伸縮を制御する閉ループ磁気回路を形成している。すなわち、可動スリーブ6と部材9〜14とにより、磁界コイル13に与える電流で超磁歪ロッド9の軸方向の伸縮を制御できる上記超磁歪アクチュエータ5(第2アクチュエータ)を構成している。
【0054】
上記超磁歪アクチュエータ5の超磁歪材料は、希土類元素と鉄の合金であり、例えば、bFe2,DyFe2,SmFe2などが知られおり、近年急速に実用化が進められている。
【0055】
15は、上部回転ヨーク12を可動スリーブ側に延長して形成された回転伝達部である。上部回転ヨーク12の一部であるこの回転伝達部15は円筒形状をしており、その外周部は超磁歪ロッド9、第1バイアス永久磁石10、第2バイアス永久磁石11の内部に収納され、また、内部にピストン3を収納している。また、回転伝達部15の可動スリーブ6側の端部には、後述する連結部16が形成されている。
【0056】
圧電型アクチュエータ1(第1アクチュエータ)によって駆動されるピストン3は、上部回転ヨーク12(回転伝達部15を含む)を貫通して設けられている。ピストン3を軸方向移動可能に収納する上部回転スリーブ12は、ハウジング8との間に設けられた軸受部17により上端で支持されている。
【0057】
可動スリーブ6と回転スリーブ7の間には、超磁歪ロッド9に機械的な軸方向与圧を与えるバイアスバネ18が設けられている。
【0058】
上記構成により、超磁歪素子の磁界コイル13に電流を印加すると、超磁歪ロッド9は印加電流の大きさに比例して伸縮する。
【0059】
19は上部回転ヨーク12に回転運動を与えるモータ(第3アクチュエータ)であり、第1実施形態ではビルトイン型で回転軸が中空のDCサーボモータを用いている。20はモータ19のモータロータであり、上部回転スリーブ12の外表面に固定されている。21はモータ19のモータステータ、22はこのモータステータを収納する上部ハウジング、23は上部ハウジング22の上部蓋である。
【0060】
モータロータ20に発生する回転トルクは、上部回転スリーブ12の一部である回転伝達部15から、連結部16を経て、可動スリーブ6に伝達される。すなわち、連結部16の形状を、例えば角型断面とすることにより、上部回転スリーブ12は可動スリーブ6に対して回転のみを伝達し、相対的な直線運動はフリーとなっている(図示せず)。
【0061】
また、モータ19から与えられた駆動トルクは、回転伝達部15のみに伝わるために、超磁歪ロッド9には捻り応力は発生しない。また、超磁歪ロッド9の内周面と、回転伝達部15の外周面間の隙間は充分に小さく、超磁歪ロッド9は回転時にも常に回転中心を保つ構成となっている。これらの工夫により、引っ張り応力に対して弱い脆性材料である超磁歪ロッド9の信頼性及び耐久性が確保できる。
【0062】
可動スリーブ6の軸方向の端面位置は、中間ハウジング24に設けられた変位センサー25(2点鎖線で表示)により検出される。26はスラスト玉軸受であり、バイアスバネ18により与えられたスラスト荷重は、回転スリーブ7を介して、このスラスト玉軸受26により支持される。
【0063】
なお、ピストン3及び上部回転スリーブ12の一部(回転伝達部15)には非磁性材料を用いて、超磁歪ロッド9の伸縮を制御する上記閉ループ磁気回路には影響を与えないようにしている。
【0064】
上記構成により、可動スリーブ6は、回転運動と微少変位の直線運動の制御を同時に、かつ、独立して行うことができる。さらに、この可動スリーブ6を貫通して設けられたピストン3は、この可動スリーブ6の運動とは完全に独立して、微少変位の直線運動を行なうことができる。
【0065】
上記第1実施形態では、直動型アクチュエータ(第2アクチュエータ5)に超磁歪素子を用いたために、超磁歪ロッド9(及び可動スリーブ12)を直線運動させるための動力を、外部から非接触で与えることができる。すなわち、本構成のアクチュエータ5では、モータ19を回転させたままで、数メガヘルツの周波数特性を持つ電磁歪素子の特徴を活かし、高いレスポンスで可動スリーブ12を軸方向に移動させることができる。また、第1実施形態では、第2アクチュエータ5の上部に第3アクチュエータ19を設け、さらにこの上部に第1アクチュエータ1を配置している。第1アクチュエータ1で駆動されるピストン3は、描画線の始終端の上記課題▲2▼の解決だけを狙いとするならば、特に回転させる必要はないために、圧電アクチュエータが適用できる。
【0066】
以上の構成により、本ディスペンサーは2つの直動型アクチュエータ1、5を、例えば各運動の位相を考慮して同期運転させることができると共に、2つの直動部材の1つに回転の機能を持たせることができる。
【0067】
以下、ポンプ部27について、図1に加えて図2を用いて説明する。
【0068】
上記実施形態では第3アクチュエータ19であるモータにより、可動スリーブとシリンダを相対的に回転させることにより、ねじ溝ポンプとスラスト動圧シールを構成している。
【0069】
28はポンプ部側可動スリーブであり、図1に示すようにボルト29により上部の可動スリーブ6の端面に締結される。30はこのポンプ部側可動スリーブ28と一体で形成されたスラスト円盤である。このスラスト円盤30と変位センサー25の間のギャップから、ポンプ部側可動スリーブ28の軸方向絶対位置を検出できる。ポンプ部側可動スリーブ28はシリンダ31に収納されている。また、ポンプ部側可動スリーブ28の外表面とシリンダ31の内面の相対移動面には、流体を吐出側に圧送するためのラジアル溝32が形成されている。このポンプ部側可動スリーブ28とシリンダ31の間で、両部材の相対的な回転によってポンピング作用を得るためのポンプ室33(流体輸送室)を形成している。また、シリンダ31には、ポンプ室33と連絡する吸入口34が形成されている。35はシリンダの下端部に装着された吐出ノズル、36はこの吐出ノズルに形成された吐出流通路である。
【0070】
上記ピストンのポンプ室側は開放端となっており、上記ピストンのポンプ室側端面及びその対向面の相対移動面に上記吐出口が形成されている。具体的には、ポンプ部側可動スリーブ28の吐出側端面とその対向面の相対移動面には、シール用スラスト溝37が形成されている。この吐出側端面の対向面の中央部には、吐出ノズル35の吐出口である開口部38が形成されている。
【0071】
上記実施形態では、可動スリーブ6(ポンプ部側可動スリーブ28)の軸方向位置決め機能を用いて、一定の回転状態を保ったままで、可動スリーブ6の吐出側スラスト端面の隙間の大きさを任意に制御することができる。この機能を利用すれば、既に特願2000−188899号「流体供給装置及び流体供給方法」で提案しているように、粉流体を非接触で開放及び遮断する流量制御ができる。すなわち、可動スリーブ6の吐出側スラスト端面の相対移動面に形成された動圧シールにより、吸入口34から吐出ノズル35に至るいかなる流通路の区間も機械的に非接触の状態で、粉流体の遮断及び開放ができる。
【0072】
例えば、回路形成の分野、あるいはPDP、CRT等のディスプレイ・パネルの製造プロセスの分野で用いられる塗布材料のほとんどは、微粒子を含む粉流体である。例えば、回路形成で接合部の樹脂封止などに用いる接着剤の場合は、5μm程度の導電性微粒子が封入されている。また、別の例として、CRTの蛍光材料の場合は、蛍光体の粒径は7〜9μmであった。
【0073】
なお、スラスト動圧シールの流体遮断の効果は、可動スリーブ28とその対向面間が一定の隙間を保っている定常状態で有効である。過渡状態、すなわち可動スリーブ28とピストン3が上昇又は下降中のときは、流体の挙動は可動スリーブ28とピストン3の変位曲線によって支配される(図3(A)参照)。したがって、定常状態(流体吐出開始前の待機時間)において、流体の完全遮断が必ずしも必要の無いプロセスの場合は、このスラスト動圧シールを省略してもよい。
【0074】
以下、本発明の上記実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法の適用例を次の2ケースに分けて説明する。
【0075】
(1) 始終端の流体吐出(例えば塗布)パターン形状制御への適用
(2) 遠距離飛翔ディスペンサーへの適用
まず、上記(1)から説明する。さて、本発明の上記第1実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法を用いれば、それぞれ独立して駆動される可動スリ−ブ6とピストン3の変位曲線の与え方により、描画線の始終端の塗布パターン形状を随意に制御することができる。
【0076】
前述したように、本発明者らは、既にピストンとこのピストンを収納するスリーブを、例えば超磁歪アクチュエータの両端の出力変位を利用して逆位相で駆動することにより、描画線の始終端の課題を解決する方法を既に提案している。以下、その既提案の内容について少し詳しく説明する。
【0077】
(1−1) 2重ピストン式と1重ピストン式の圧力特性比較
2重ピストン式と1重ピストン式の吐出ノズルの上流側圧力Pnを解析した結果を以下に示す。図3(A)は1重ピストン式バルブの時間tに対するピストンの変位の一例を示す。図3(B)はバルブのモデル図を示し、250はピストン、251はハウジング、252は吐出ノズル、253はポンプ室である。
【0078】
図4(A)は既提案の2重ピストン式の時間tに対するピストンの変位と可動スリーブの変位の一例を示す。既提案では、超磁歪素子の両端の出力変位を利用しているために、ピストンとスリーブの変位曲線は時間軸に対して完全な逆位相の関係となる。図4(B)はバルブのモデル図を示し、350はピストン、351は可動スリーブ、352はハウジング、353は吐出ノズル、354はポンプ室である。
【0079】
▲1▼ 図5において、曲線(イ)は、1重ピストン式の吐出ノズルの上流側圧力Pnを示す。この場合、可動スリーブが上昇開始直後、吐出ノズルの上流側圧力Pnは急降下する。圧力が急降下する理由は、可動スリーブの急上昇によって生じたスラスト端面の空隙部の外周部から中心部の間で、求心方向の流路抵抗があるからである。この流路抵抗により、容易には外周部から流体は補給されず、圧力は降下する。大きなマイナス圧力となっているのは、Reynolds方程式を解く理論解析が流体の圧縮性を考慮していないからである。実際は気泡などの発生により流体圧力は絶対圧力ゼロ以下(Pn<0.0MPa)にはならない。
【0080】
しかし、負圧発生の間は吐出ノズルから流体の流出はないために、流出が始まる条件:Pnが大気圧以上となるのは、吐出開始の指令が出てから0.02秒遅れとなる。
【0081】
実験の結果、この負圧発生によって、吐出ノズル出口から空気が流入し、通常吐出ノズルの流通路に充填されていた吐出流体の一部が空気と入れ替わる等の要因により、吐出流体の流出開始はさらに遅れることが分かった。この吐出ノズル上流側の負圧発生は、「描画の始点で線が描けない」、あるいは「描画線の細り」などの要因となり、粘度の高い流体を扱う程影響が大きい。以降、0.035<t<0.07秒の間は、連続流体吐出(例えば連続塗布)の状態を保つ。
【0082】
T=0.07秒で可動スリーブが下降を開始すると、吐出ノズルの上流側圧力Pnは急上昇する。その理由は、dh/dt<0のとき発生するスクイーズ作用によるものである。このときの急峻な圧力上昇(図4(A)参照)により、吐出遮断直前で過剰の流体が吐出され、「吐出終点における流体塊発生」などの要因となる。
【0083】
以上の解析結果から、吐出の開放・遮断の1サイクルにおいて、1重ピストン式の場合は、吐出ノズルの上流側圧力は急降下と急上昇を伴うことがわかった。これらは吐出開始時間の遅延と流量精度の低下をもたらすことになる。
【0084】
▲2▼ 曲線(ロ)は、既提案の2重ピストン式の場合の吐出ノズルの上流側圧力特性を示す。可動スリーブのストローク:Xst=20μm、ピストン(中心軸)のストローク:Xpt=30μmである。可動スリーブとピストンは正確に逆位相で駆動する。
【0085】
1重ピストン式と異なり、始点と終点時における圧力の急降下と急上昇はほとんど生じない。圧力の過渡特性は両軸の変位曲線(図4(A))に対してほとんど時間遅れなく、むしろ変位曲線以上のスピードで、定常状態に到達する。
【0086】
これはピストンを可動スリーブに対して逆位相で駆動させることにより、スクイーズ効果と逆スクイーズ効果を同時に作用させ、それぞれがもたらす圧力上昇と圧力降下を相殺しているからである。すなわち、ピストンは動圧シールをダイナミックに利用する場合の、動特性の不具合を補償する効果を有するのである。
【0087】
上記▲1▼▲2▼から既提案の「2重ピストン方式」の優位性は明らかとなった。しかし、その後の研究によって、適用するプロセスの流体吐出条件によっては、既提案の方法だけでは、描画線の始終端をすべて切れ味よく制御することは困難であることがわかった。その理由の1つは、吐出流体は必ずしも非圧縮性ではなく、気泡の混入、あるいは材料自身が元来持っている特性によって圧縮性を有するからである。この圧縮性の影響により、ピストンとスリーブの急峻な変位に対して吐出流量の追従遅れが発生する。また、高分子材料の粘度は強いチクソ性を示し、高せん断力領域においては、ニュートン流体には無い極めて複雑な挙動を示す。したがって、流体特性と流体吐出条件によっては、既提案の方法だけでは、理想的な流体吐出パターンは描けないことがわかった。ここで流体特性とは、流体粘度、流体粘度のせん断力依存性、流体弾性、流体塑性、あるいは高分子流体にみられる非ニュートン流動特性を示す。また、流体吐出条件とは、ノズルと対向面のギャップ、ノズルとその対向面の相対スピード、ノズルの形状と長さ等を示す。
【0088】
本発明にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法を適用したディスペンサーはこの点に着目したもので、可動スリーブとピストンをそれぞれ独立したアクチュエータで駆動させて、流体吐出条件に合わせて、可動スリーブとピストンに最も適切な変位曲線を与えることができるようにしたものである。
【0089】
さて、本発明にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法の効果を評価するために、表1の条件下で構成される第1実施形態(図1)のディスペンサーを用いて、下記3ケースに分けて塗布実験を行った。
【0090】
(1) 1重ピストン方式(従来式に相当):ピストンとスリーブを同位相で駆動する。
【0091】
(2) 2重ピストン方式(既提案と等価):ピストンとスリーブを逆位相で駆動する。
【0092】
(3) 独立2重ピストン方式(本発明の上記実施形態):ピストンとスリーブを時間軸に対して非相似形の変位曲線を用いて駆動する。
【0093】
上記(1)は、「エアー式+ニードルバルブ」で構成される冒頭で述べた従来ディスペンサーに相当する。上記(2)は、超磁歪ロッドの両端の出力変位を利用した既提案の2重ピストン方式と等価である。上記(3)の独立2重ピストン方式は本発明の第1実施形態に相当し、ピストンとスリーブは概略逆位相であるが、時間軸に対してその変位曲線は非相似形である。
【0094】
【表1】
【0095】
図6(A)は本発明の上記実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法を適用したバルブ(独立2重ピストン構造と呼ぶ)の時間tに対するピストンの変位と可動スリーブの変位の一例を示す。図6(B)はバルブのモデル図を示し、450はピストン、451は可動スリーブ、452はハウジング、453は吐出ノズル、454はポンプ室である。
【0096】
図7(A)に描画線の評価方法を定義する。500を描画始点における流体塊とし、その外径をφB1とする。501は描画線が欠落する区間を示し、その長さをT1とする。502を描画終点における流体塊とし、その外径をφB2とする。
【0097】
図7(B)は描画線が理想的に描かれた場合を示す。始点の流体塊については、流体塊の外径φB1と中間部の線幅:Bcの比:B1/Bcでその不具合のレベルを評価する。描画線欠落については、欠落区間の長さT1と描画線の全長Tcの比:T1/Tc、終点の流体塊については、B2/Bcでその不具合のレベルを評価することにする。
【0098】
【表2】
【0099】
さて、表1及び表2の条件下で実施した塗布実験の総評は下記の通りであった。
【0100】
(1) 1重ピストン方式の場合
ピストンの立上がり、立下り時間は共に0.003秒に設定した。
【0101】
従来のエアー式、ねじ溝式の立上がり、立下り時間は通常早くても0.05秒程度が限界であるのに対して、0.005秒という設定値は極めて短い時間である。
【0102】
塗布開始の信号を与えても始点で塗布は描けず、塗布線全長の1/2まで塗布線は欠落した状態が続いた。塗布終了時には、塗布線のほぼ2.5倍の径の流体塊が発生した。この流体塊は、スクイーズ圧力によるものと思われる。
【0103】
(2) 2重ピストン方式(既提案)
ピストンとスリーブの立上がり時間、立下り時間は共に、0.003秒に設定した。
【0104】
塗布開始点で塗布線に対してやや大きめ(1.2倍)の流体塊が発生した。この流体塊から少し遅れて塗布線の描画を開始したが、始点の流体塊と塗布線の間には僅かの欠落部分が生じた。終点は特に流体塊の発生は見られない。
【0105】
(3) 独立2重ピストン方式(本発明の第1実施形態)
スリーブの立上がり時間:Ts1=0.003秒に対して、ピストンの立ち上がり時間を遅く設定し、Tp1=0.05secとした。この理由は、ピストンの上昇に対して変化する吐出ノズル内流体のメニスカス位置の時間遅れを考慮したからである。立下り時間はスリーブ、ピストン共に、Ts1=Tp1=0.003秒である。始終点の流体塊も、塗布線の欠落もなく理想的な塗布線が描けた。
【0106】
以上の結果から、ピストンとスリーブの変位曲線を、個別に任意のタイミングで制御できる「独立2重ピストン方式」が、描画始終点の課題を解決できる最も有力な手段であることがわかった。既提案の2重ピストン方式でも大幅な改善は図れるが、様々な流体吐出条件のすべてをカバーすることは困難である。
【0107】
本発明の上記第1実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法の場合、ピストンとスリーブの変位曲線は、適用する吐出流体材料の特性、流体吐出条件に合わせて、ベストなものを選定すればよい。多くの試行の結果選ばれたピストンとスリーブの変位曲線は、一度決定されれば、CPUなどから構成されて流体吐出動作の駆動を制御する制御部に接続されるメモリーにデータとして保存しておけばよく、材料の種類と流体吐出条件に合わせて再利用は容易である。
【0108】
ピストン350の変位Xpが最下点の位置にあるXp=Xpminのときでも、ピストン350の最小隙間Xpminを十分大きく設定しておけば、ピストン350の存在が流路抵抗(すなわち流量)に与える影響を小さくできる。ピストン350の最小隙間Xpminを十分に大きくする程、ピストンの吐出側端面位置が流量精度に与える影響を小さくできる。
【0109】
上記実施形態の場合、図2を用いて説明すると、可動スリーブの変位は、ディスペンサーを流量遮断状態にするために正確な位置決め制御をする必要があるのに対して、ピストン下部4cは過渡状態における描画線の制御をするのが主な役割であり、若干の位置精度の誤差は許容される場合が多い。したがって、可動スリーブのみ変位センサー(位置検出センサー)を用いて位置検出をしてフィードバック制御を行い、ピストンは変位センサーを省略してオープンループ制御をするような構成でもよい。この場合、ピストンの運転開始のタイミングは、可動スリーブの変位センサーの出力を基準にすればよい。
【0110】
吐出ノズルとその対向面間のギャップを十分に大きく保ち、流体を遠距離で飛翔させながら連続流体吐出するプロセスの場合も、始終端の流体吐出は大きな課題となる。
【0111】
この場合、吐出開始時にはピストンを急速降下させて、大きなスクイーズ圧力をピストン端面(吐出ノズルの上流側)に発生させれば、飛翔状態を高速で立ち上げることができる。
【0112】
いずれの場合も最適な描画線を描くためには、適用するプロセスと吐出流体の特性に合わせて、ピストンと可動スリーブの変位曲線を選択し微調整すればよい。すなわち、少なくとも、上記吐出流体の流体粘度、流体粘度のせん断力依存性、流体弾性、流体塑性のいずれかが時間と共に変化するデータを基に、ピストンとスリーブの変位曲線を選択すればよい。
【0113】
ピストンあるいは可動スリーブの吐出側端面とその対向面の形状が平坦面でないバルブの場合でも、従来のバルブが抱える問題点と本発明の適用による効果は同様である。例えば、ピストンの先端を鋭敏な凸面とし、その対向面を凹面としてバルブを構成しても、本発明を適用することができる。この場合は、ピストンの凸面と対向面(固定側)の凹面を近接させることにより、流体を遮断する。この場合は、第1実施形態とは異なり可動スリーブとピストンの変位曲線は位相が逆となる。すなわち、可動スリーブが上昇してピストンが降下するとき流体は遮断され、逆の場合は流体は開放される。
【0114】
この場合は、可動スリーブの変位Xsが最下点の位置にあるXs=Xsminのときでも可動スリーブの最小隙間Xsminが十分大きくなるように設定しておけばよい。また、粉体を含まない吐出流体の場合は、両部材を軽く接触させてもよい。
【0115】
ポンプ部27におけるねじ溝ポンプとスラスト動圧シールの機能は、両方あったほうがベストであるが、適用するプロセスによってはどちらか一方を省略してもよい。例えば、ねじ溝ポンプを省略し、外部から高圧エアーで吐出流体をディスペンサーのポンプ室に供給してもよい。あるいは、流体吐出装置外部に設置された流体高圧源の一例としてのポンプで吐出流体をあらかじめ高圧にしておき、上記高圧流体を本ディスペンサーの吸入口側から吐出口側に圧送する上記ポンピング作用を行わせるようにしても良い。この場合でも、独立2重ピストンによる始終点の課題の解決は図れる。
【0116】
上記実施形態では、可動スリーブの運動がもたらす不具合を補償するピストンは、可動スリーブの中心部に配置したが、この逆の構成でもよい。ピストン側を回転させると共に、ピストン側のスラスト端面に動圧シールを形成し、このピストンの移動により吐出量のON、OFFを制御すると共に、可動スリーブでこのピストンがもたらす圧力の急上昇・急降下を相殺してもよい。この場合、スラスト動圧シールの溝はピストンの端面とその対向面のいずれに形成してもよい。
【0117】
また、回転モータである第3アクチュエータは、吐出側(図1の第1実施形態で第2アクチュエータがある個所)に配置してもよい。
【0118】
あるいは、図1の第1と第2アクチュエータの中間に位置する個所に、回転伝達プーリを配置してベルトドライブで駆動してもよい。本発明を適用する流体吐出装置において、3つのアクチュエータの種類と配置は特に制約はなく、適用する対象の目的に合わせて選択すればよい。
【0119】
以下、本発明の上記実施形態に適用したスラスト動圧シールについて、図8を用いてもう少し詳しく説明する。前述したように、スラスト動圧シールの流体遮断の効果は、可動スリーブとその対向面間が一定の隙間を保っている定常状態で有効である。このスラスト動圧シールは、本発明の適用に必須ではないが、モータを回転させたままで、流体遮断状態を保つことができるため、適用するプロセスによっては、極めて有用である。
【0120】
シール用スラスト溝37は、スラスト動圧軸受として知られているものである。さて、スラスト軸受が発生できる定常状態のシール圧力は次式で与えられる。
(1)式において、ωは回転角速度、R0はスラスト軸受の外径、Riはスラスト軸受の内径、δは対向面間の隙間、fは溝深さ、溝角度、グルーブ幅とリッジ幅などで決まる関数である。
【0121】
【数1】
可動スリーブ28の端面とその対向面間の隙間(図2(A)のδ)が小さいときは、シール用スラスト溝37が有効に働き、遠心方向(図2(A)の矢印)に発生するポンピング圧力によって、流体の吐出は遮断される。この場合、粉流体に含まれる微粒子の粒径をφdとしたとき、δ>φdとなるように、シール用スラスト溝37の形状、回転数などを設定すれば、微粒子を圧搾・破損することなく、流体の遮断ができる。対向面隙間δが十分に大きくなるように可動スリーブ28を上昇すれば、シール用スラスト溝37のポンピング圧力は低減し、流体は開放される。
【0122】
すなわち上記構成により、粉流体を非接触で開放・遮蔽する機能を持つディスペンサーが実現できる。
【0123】
図8における曲線(イ)は、下記の表3の条件下における「隙間に対するスラスト動圧シールのシール圧力の静特性」の一例を示すものである。
【0124】
【表3】
【0125】
この特性はスラスト面の外径、溝深さ、スパイラル角度、溝(グルーブ)と山(リッジ)の比、回転数、粘度等によって任意に選定できる。上記実施形態では、対向面隙間δ=22μmのときには、Ps=20kg/cm2(ゲージ圧)(2.06MPa(絶対圧))以上のシール圧力が発生するように、上記パラメータを設定した。
【0126】
一方、前述したように、ねじ溝ポンプの圧力と流量の関係も同様なパラメータによって選定できる。上記実施形態では輸送量Qg=0のとき、発生圧力Pr=20kg/cm2(2MPa)となるように、溝形状、外径等を設定した。したがって、可動スリーブ28の端面とその対向面間の隙間:δ<22μmの状態では、流体の吐出は遮断される。
【0127】
遮断時、吐出ノズルの開口部38近傍の流体は、スラスト溝37によって遠心方向のポンピング作用(図2(A)の矢印)を受けているために、開口部38の近傍は負圧(大気圧以下)となる。この効果により、遮断後、吐出ノズル35内部に残存していた流体の一部は再びポンプ内部に吸引される。その結果、吐出ノズル先端で表面張力による流体魂ができることはなく、糸引き、洟垂れが解消されるのである。
【0128】
上記実施形態のように、ポンプ室への流体の供給にねじ溝ポンプを用いる場合は、例えば、δ<22μmの状態のときにシール圧力がねじ溝ポンプの最大発生圧力以上になるように、表3の条件を決めればよい。ねじ溝ポンプを用いないで、例えば、エアー圧のみを用いて吐出流体を供給する場合は、同様にシール圧力がこのエアー圧以上になるように設定すればよい。
【0129】
なお、スラスト動圧シールを用いた流体の遮断効果は、ディスペンサーの動作が定常状態のとき、つまり連続して遮断状態を保つときに有効である。過渡状態の吐出流体の挙動、すなわち、描画線の始終端がどのような状態で描かれるかは、ピストンとスリーブの動作に支配される。
【0130】
(3) 遠距離飛翔ディスペンサーへの適用
本発明の第2実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法を適用したディスペンサーは、可動スリーブとピストンを独立して駆動できることを利用して、容積式ポンプとして適用できる。また、第1実施形態と同様、可動スリーブに回転の機能を持たせているために、
▲1▼流体にポンピング圧力を与えて吐出側に輸送させるねじ溝ポンプの機能、
▲2▼スラスト動圧シールにより、流体の定常状態における遮断ができる機能、
の両方を併せ持つことができる。上記▲1▼▲2▼の両方を備えるのがベストであるが、適用するプロセスによってはいずれかを省略してもよい。
【0131】
以下、駆動原理を図9〜図18を用いて説明する。本実施形態を適用する装置全体は図1と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0132】
50は第1アクチュエータによって駆動されるピストン、51は第2アクチュエータによって駆動される可動スリーブ、52はポンプ室であり、ピストン50、可動スリーブ51、シリンダ53で形成される。なお、可動スリーブ51とシリンダ53の相対移動面に形成されたねじ溝は図示していない。
【0133】
54は吐出ノズル、55はピストン50の端面56の対向面に位置するところに形成された吐出ノズルの開口部、57は吐出流体、58は可動スリーブ51とその対向面の間に形成されたヘリングボーン型スラスト動圧シールの溝である。
【0134】
以下、図9〜図14を用いて本ポンプの吸入・吐出行程の一例を示す。
【0135】
1. 吸入行程(イ→ハ)(図9→図10→図11)
▲1▼ 図9の状態
図9はピストン50と可動スリーブ51が共に静止した状態を示している。ピストン50は、その端面56が吐出ノズル54の開口部55を覆うように、最下端にまで下降している。可動スリーブ51とその対向面間のギャップは十分に狭いため、スラスト動圧シール58の効果により、流体57の吐出ノズル54内から外部へのリークは完全に抑制されている。また、可動スリーブ53も同様に、第2アクチュエータが伸張して最下端まで下降した位置にある。
【0136】
▲2▼ 図10の状態
図10において、ピストン50が静止したままで、矢印のごとく、第1アクチュエータを収縮させることにより、可動スリーブ51が上昇する。
【0137】
この段階では、ピストン50はまだ最下端の位置にあり、ピストン50の端面は、狭い隙間を介して、吐出ノズル55の開口部55を覆っている。
【0138】
可動スリーブ51の上昇でポンプ室52は負圧となるため、吐出ノズル54内から外部への流体のリークは無い。
【0139】
▲3▼ 図11の状態
上記▲2▼でこの可動スリーブ51がある位置まで上昇すると、急きょ方向を変え下降に転ずる。この段階で、ピストン50も上昇を開始する。
【0140】
ピストン50の上昇はポンプ室52に新たな空間を創出するが、可動スリーブ53の下降は、図11中の矢印のごとく、流体をポンプ室52内に排除する。そのため、ピストン50の上昇速度Spと、可動スリーブ51の下降速度Ssを、それぞれの断面積の大きさに合わせて設定する。
【0141】
例えば、可動スリーブ51が下降することにより排除する容積をVsとし、ピストン50が上昇することにより新たに創出される空間の大きさをVpとしたとき、総容積(V=Vp+Vs)の時間変化がゼロになるように、上記上昇速度Spと下降速度Ssを設定する。
【0142】
総容積Vの時間変化が小さければ、ポンプ室52内の圧力の絶対値を、吐出側(大気圧)との間で大きな圧力差が生じないように、一定の範囲内に保つことができる。その結果、図11の吸入行程の間、ポンプ室52と吐出ノズル54を介した吐出側との間で、流体の流入・流出を許容される範囲内に抑えることができる。
【0143】
可動スリーブ51の端面が最下端まで降下すると同時に、ピストン50は上死点に到達する。この時点で吸入行程は終了する。
【0144】
以上の吸入行程を整理すると、上記図9、図10の状態では、スラスト動圧シール58の効果によって、及び、可動スリーブ51上昇による負圧発生により、吐出ノズル54内から外部への流体のリークは無い。
【0145】
図11の状態において、例えば、上記総容積(V=Vp+Vs)の時間変化が若干マイナスになるようにピストン4の上昇速度Spと、可動スリーブ51の下降速度Ssを設定すると、ポンプ室52は負圧気味となるため、吐出ノズル54側への流体の流出は完全に防止できる。
【0146】
2.吐出行程(ニ→へ)(図12→図14)
▲4▼図12の状態
図12は吐出行程開始直後(吸入行程終了時)の状態を示す。この時点で、ピストン端面56は高さH(ピストンの変位Xp=H)の位置にある。これは目標吐出量から予め設定される値である。
【0147】
吐出行程に入る時点で、可動スリーブ51の端面とその対向面の間は、十分に狭い隙間を保って、かつ、ヘリングボーン型スラスト動圧シール58によってシールされているために、ポンプ室52は外部と遮断された密閉空間になっている。
【0148】
▲5▼ 図13の状態
そこで、ピストン50を、図13の矢印のごとく下降させると、ポンプ室52の流体の圧力は急上昇し、流体は吐出ノズル54を経て外部に吐出される。
【0149】
流体の圧力上昇の度合いは、吐出ノズル54の寸法形状、流体粘度、流体の圧縮率(体積弾性係数)、ピストン50の速度などで決まる。すなわち、上記スリーブと上記ハウジングの相対的な回転によって、上記ポンプ室内の流体を加圧するポンプ部が構成されている。
【0150】
しかし、本ポンプは、吐出行程ではほぼ完全な容積式ポンプであるため、総吐出量はこれらのパラメータの影響を受けにくく、主にピストン50の移動量Hだけで決定される。
【0151】
▲6▼ 図14の状態
ピストン端面50が下死点にまで下降すると、ポンプ室52内の流体は外部に排出され、吐出行程は終了する(以降、上記図9に戻る)。
【0152】
以上、本発明の上記第1実施形態にかかるディスペンサーを容積式ポンプとして用いた本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置の場合について、吸入・吐出行程の一例を示した。この場合の可動スリーブ3とピストン4の変位と各ステップ(イ→へ)(図9→図14)の関係を図15に示す。図16に、本第2実施形態に適用したヘリングボーン型スラスト動圧シール58を示す。
【0153】
図17に吐出ノズルの上流側圧力Pnを解析した結果を示す。
吐出時(図13)においては、吐出ノズル側の通路以外はほぼ密閉状態になる。このとき、高いレスポンスを有する電磁歪型アクチュエータを用いてピストンを急降下させれば、図17のごとく衝撃的な圧力が発生し、吐出流体を大きく飛翔させることができる。
【0154】
通常、例えばクリーム半田、接着材などを基板上に流体吐出(例えば塗布)する場合は、吐出ノズル先端と対向面間にδ=50〜100μm程度のギャップを介して、材料を流体吐出(例えば塗布)する。しかしこの場合は、吐出ノズル先端に形成された流体塊を基板側に移す「転写のプロセス」に時間を要し、この転写時間(0.01〜0.1秒のオーダー)がタクトアップを図る上での大きな制約となっていた。本発明の上記2実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法を用いれば、吐出ノズル54の先端と対向面間のギャップを充分に大きくした状態で吐出流体(例えば塗布)材料を飛翔させることにより、材料の表面物性に依存する「転写のプロセス」を用いないで、基板上に材料を流体吐出(例えば塗布)することができる。第2実施形態では吐出ノズル先端と対向面間のギャップを0.5mm以上保ち、流体吐出(例えば塗布)時間0.001秒のオーダーで、基板上に材料を高速間欠流体吐出(例えば塗布)させることができた。
【0155】
間欠流体吐出(例えば塗布)の周波数を十分に高くし、吐出ノズル54先端と対向面間の相対的な走行スピードをある範囲内に設定すれば、遠距離飛翔かつ間欠流体吐出(例えば塗布)による擬似的な連続線描画もできる。
【0156】
第2実施形態では、可動スリーブ51の吐出側端面を十分に近接させた状態で、ピストン50と可動スリーブ51とシリンダ53による閉空間を形成した。この代わりに、図18で示す方法でも閉空間を形成することができる。150はピストン、151は可動スリーブ、152はシリンダ、153はシリンダ小径部、154は吐出ノズルである。ピストン150の外径をシリンダ小径部153より若干小さ目にし、それ以外の可動スリーブ151とシリンダ150の隙間は充分に大きく形成する。この場合、ほとんどの壁面間で充分に大きな隙間を保った状態で、可動スリーブの変位Xs→0とすることにより、閉空間を形成することができる。この方法により、粒径の大きな粉体で構成される吐出(例えば塗布)材料でも、遠距離飛翔ができる。
【0157】
本発明の上記2実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法をディスペンサーに適用して、かつ容積式ポンプを構成した場合、従来のエアーパルス式、ねじ溝式ではできなかったことが可能である。例えば、図14の吐出完了直後の状態でピストンを若干量上昇させれば、ポンプ室52内の負圧発生の効果により、液ダレ防止もできる(図示せず)。
【0158】
第2実施形態の場合、ピストン50の変位Xp(図12のHの精度)は、ディスペンサーの総吐出量の精度に直接影響を与えるのに対して、可動スリーブ51の主な役割はポンプ室52と外部のシールを図ることにあるため、若干の位置精度の誤差は許容される場合が多い。
【0159】
したがって、ピストン50のみ変位センサーを用いて位置検出をしてフィードバック制御を行い、可動スリーブ51は変位センサーを省略してオープンループ制御をするような構成でもよい。この場合、可動スリーブ51の運転開始のタイミングは、ピストン50の変位センサーの出力を基準にすればよい。
【0160】
なお、、ピストン50の軸方向位置検出のセンサーは、図1を用いて説明すれば、例えば第1アクチュエータ1内部に収納すればよい。
【0161】
なお、第1アクチュエータ1に超磁歪アクチュエータを用いれば、第2アクチュエータと同様な方法で、ピストン3を回転させながら直線運動をさせることができる。この場合、可動スリーブ(6に相当)を高速回転させる場合、可動スリーブとピストン(3に相当)の間で相対速度がゼロになるために、摺動面の信頼性の点で有利となる(図示せず)。
【0162】
さて、図1の第1実施形態の構造では、吐出側に第2アクチュエータ、中間部に第3アクチュエータを配置し、かつこの第3アクチュエータを中空のビルトイン・モータを用いて、このモータの上部に第1アクチュエータを配置した。
この構成により、第1実施形態のディスペンサーは第1アクチュエータを上方から容易に着脱自在にできる。図18において、101は第2アクチュエータ、102は第3アクチュエータであるビルトイン・モータである。
【0163】
本発明の上記実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法のディスペンサーを、例えば、間欠流体吐出(例えば塗布)専用として用いる場合、あるいは、高速間欠により擬似連続流体吐出(例えば塗布)として用いる場合、あるいは、始終端の流体吐出(例えば塗布)がそれほど大きな課題とならないプロセスに適用する場合は、第3アクチュエータとピストンを取り外して用いれば、部材の共用化が可能である。この場合は、ポンプ部側可動スリーブ103は中実構造にすればよい。
【0164】
従来ディスペンサーでは、塗布終了後、次の塗布に移行するためには、ディスペンサー本体を移載装置に搭載されたZ軸アクチュエータを用いて上昇させ、吐出ノズル先端とその対向面間の距離を十分に離す必要があった。その理由は、通常吐出ノズル先端に前回の塗布で残留した流体塊が附着しており、これが「糸引き」「洟垂れ」などの要因となるからである。
【0165】
本発明の上記実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法のディスペンサーを用いれば、吐出終了後、ピストン上昇による負圧発生の効果を利用して、吐出ノズル先端の流体を吐出ノズル内部に高速で吸引させることができる。吸引後吐出ノズル内部の流体のメニスカスの位置は、次に流体吐出(例えば塗布)開始のタイミングにも影響を与えるために、吸い込み過ぎないようにピストン上昇ストロークを設定すればよい。負圧が発生するのはピストンが上昇中の過渡状態だけであるため、ピストンが停止後は再び吐出ノズルから流体のリークが発生する。この場合は前述したスラスト動圧シールを利用すれば、流体吐出(例えば塗布)作業の停止時間が長くても遮断状態を継続できる。以上述べた方法は、第1、第2実施形態のいずれも利用できる。
【0166】
したがって、本発明の上記実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法のディスペンサーでは、流体吐出(例えば塗布)行程終了後、Z軸アクチュエータを用いることなく、吐出ノズルと対向面間のギャップを一定に維持したままで、吐出ノズル先端と対向面の相対位置を変えて、次の流体吐出(例えば塗布)行程に移行することができる。その結果、Z軸移動に伴う時間が短縮され、総流体吐出(例えば塗布)時間のさらに大幅な短縮が図れるのである。
【0167】
本発明の上記実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法における第3アクチュエータ(モータ)の回転数制御と、第1、第2アクチュエータの変位制御を組み合わせれば、さらに様々な流体吐出(例えば塗布)プロセスのニーズに対応できる。
【0168】
第1、第2実施形態では、ハウジングは固定し、ピストンとハウジング及びスリーブとハウジング間に相対的な運動を与えるように各アクチュエータを配置している。この構成の代わりに、例えばピストンを固定してハウジングを第1アクチュエータで駆動する構成も可能である。(図示せず)
あるいは、可動スリーブを固定して、ハウジングを第2アクチュエータで駆動する構成もできる。(図示せず)
これらの場合、スリーブとピストンは必ずしも円筒断面形状、真円断面形状でなくてもよく、例えば角型断面形状でもよい。
【0169】
本発明の上記実施形態にかかる流体吐出装置を微少流量ディスペンサーあるいはポンプとして用いる場合は、第1、第2アクチュエータ1、5に圧電素子あるいは超磁歪素子のような電磁歪型を用いれば、数MHz以上の高い応答性を持つという点で好ましい効果が得られる。
【0170】
また、高粘度流体を高速で吐出させる場合、上記第1、第2アクチュエータには高い流体圧に抗する大きな推力が要求される。この場合、数百〜数千Nの力が容易に出せる電磁歪型アクチュエータが有利である。また、位置検出をしてフィードバック制御をすれば、1μm以下の高い位置決め精度が得られる。なお本明細文では、圧電素子あるいは超磁歪素子を電磁歪素子と呼ぶことにする。
【0171】
上記実施形態で示したような微少流量を扱うポンプでは、ピストンの軸方向変位は数μm〜数10μmの微少変位でよい。この微量変位で良いことを利用すれば、圧電素子、超磁歪素子のストロークの限界は問題とならない。
【0172】
圧電素子あるいは超磁歪素子を第1、第2アクチュエータとして用いた場合、素子の入力電圧(超磁歪素子の場合は電流)と変位は比例するため、変位センサーなしのオープンループ制御でも上記ピストンと上記可動スリーブのストローク制御は可能である。しかし、上記実施形態のような位置検出センサーを設けてフィードバック制御をすれば、より高い精度の流量制御ができる。
【0173】
電磁ソレノイド等のアクチュエータも本発明に適用可能であり、電磁歪素子と比べて応答性は一桁程悪くなるが、ストロークの制約は大幅に緩和される。
【0174】
また、可動スリーブの内部にピストンを収納する構成ではなく、例えば、可動スリーブの対向面にピストンに相当する可動部材を配置する構成でもよい。要は、軸方向に移動する1軸の運動機構に対して、スラスト対向面の容積変化を相殺できる、あるいは容積式ポンプを構成できるもう1軸の独立した運動機構を配置して、かつそのいずれかを回転させればよい。
【0175】
上記実施形態では、可動スリーブとピストンで構成される流体制御部に吐出流体を供給する圧力源としてねじ溝ポンプを用いているが、ねじ溝式以外のポンプでも本発明を適用することができる。例えば、ツイン・スクリュー式、トロコイド式、モーノ式、ギヤ式、ピストン式などの種類のポンプを適用できる。あるいは、高圧エアーを吐出流体に印加するエアー式でもよい。これらの流体加圧源の最大圧力以上の圧力を発生する動圧シールを、可動スリーブあるいはピストンとこれらの対向面に形成すればよい。
【0176】
以上、第1アクチュエータによって駆動されるピストンの変位特性をXp(t)とし、第2アクチュエータによって駆動されるシリンダの変位特性をXs(t)としたとき、Xp(t)とXs(t)の位相関係と振幅、及び変位曲線の形状の選択によって、本発明は様々な用途に適用できた。要約すれば、
▲1▼ ピストンの変位Xp(t)とシリンダの変位Xs(t)を概略逆位相になるように駆動すれば、流体制御バルブとして駆動でき、描画塗布における始終端の課題解決に有効である。さらに、ピストンとスリーブの変位曲線を、個別に任意のタイミングで設定できることを利用して、ベストな変位曲線を選定すれば、様々な塗布材料の特性、塗布条件に対応した理想的な塗布パターンが描ける。
【0177】
▲2▼ ポンプ室に流体を吸入後、吸入側の通路を遮断するようにシリンダ(可動スリーブ)の変位Xs(t)を設定し、しかる後ピストンの変位Xp(t)→0となるようにすれば、容積式ポンプとして適用できる。この駆動方法により、例えば、吐出流体を遠距離で精度よく飛翔できる。
【0178】
▲3▼ ピストンの変位Xp(t)とシリンダの変位Xs(t)を同位相になるように駆動する、あるいはいずれか一方のみを駆動すれば、スクイーズ作用を利用した高速間欠ディスペンサーとして適用できる。
【0179】
上記▲1▼〜▲3▼の流体吐出(例えば塗布)方法は、ピストンの変位曲線とシリンダの変位曲線の選択だけであり、ひとつのディスペンサーを用いて、同一の基板上でこれらの流体吐出(例えば塗布)方法は任意に設定できる。例えば、高精度連続流体吐出(例えば塗布)から超高速の間欠流体吐出(例えば塗布)への移行、あるいはその逆のステップを任意に設定できる。
【0180】
本発明の上記実施形態にかかる流体吐出装置及び流体吐出方法に適用するアクチュエータの種類は、前述した電磁歪式、磁気式などに限定されるものではない。例えば、本発明の原理を適用し、一定容積に対して発生荷重の大きな静電アクチュエータを第1と第2アクチュエータ双方あるいはいずれかに用いれば、本体を大幅に小型化できる。すなわち、マイクロマシーン、ミニマシーンの領域で初めて容積型のマイクロポンプあるいは動特性を補償できる機能を持つ流量制御バルブが実現可能である(図示せず)。
【0181】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0182】
【発明の効果】
本発明を用いた流体吐出装置及び流体吐出方法により、次の効果が得られる。
【0183】
▲1▼ 連続流体吐出後、例えば0.001秒のオーダーの高速で、かつ、任意のタイミングで流体吐出を止めることができる。また、連続流体吐出を急峻に開始することができる。
【0184】
▲2▼ 上記▲1▼において、描画線の始点部の細り、切れ、あるいは終点部の流体塊の発生などが発生せず、理想的な流体吐出パターンが描ける。
【0185】
▲3▼ 粉流体に対応できる。流体の遮断により粉体の圧搾破損、流路の詰まりなどのトラブルが発生しない。
【0186】
▲4▼ 容積式ポンプとして適用できるため、流体を定量かつ高圧で吐出できる。
【0187】
この特徴を利用して、吐出(例えば塗布)流体を遠距離から飛翔できる。
【0188】
本発明を、例えば、表面実装のディスペンサー、PDP、CRTディスプレイの蛍光体塗布、液晶パネルのシール材塗布等に用いれば、その長所をいかんなく発揮でき、効果は絶大なものがある。
【0189】
さらに、本発明のもたらす波及効果は微少流量ディスペンサーに留まらない。流体動圧軸受の原理を利用した動圧シールはさまざまな分野で用いられているが、そのほとんどは静的な状態しか考慮されていない。本発明のような、動圧シールをダイナミックに切り替えて用いるような用途において、本発明が提示したシールの基本原理とメカニズムは、動圧シールの過渡状態の特性改善を図るものとして多いに有用と思われる。
【0190】
本発明を適用すれば、いかなる流体吐出条件下でも、高速・高精度で描画線の始終端が描けるディスペンサーが実現できる。よって、例えば、電子部品、家電製品などの分野における生産工程において、接着剤、クリーンハンダ、蛍光体、グリース、ペイント、ホットメルト、薬品、食品などの各種粉流体を、粉体の圧搾・破壊なく、高速で吐出遮蔽・開始ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態によるディスペンサーを示す正面断面図である。
【図2】 上記第1実施形態のポンプ部の拡大断面図である。
【図3】 (A),(B)は、それぞれ、従来1重ピストン式に相当する時間に対するピストン変位を示す図、及び、従来1重ピストン式のポンプ部のモデル図である。
【図4】 (A),(B)は、それぞれ、既提案の2重ピストン式の時間に対するピストン変位を示す図、及び、既提案の2重ピストン式のポンプ部のモデル図である。
【図5】 1重ピストン式と既提案の2重ピストン式の圧力特性の解析結果を示すグラフである。
【図6】 (A),(B)は、それぞれ、本発明の上記第1実施形態にかかる流体吐出装置における独立2重ピストン式の時間に対するピストン変位を示す図、及び、の上記第1実施形態にかかる流体吐出装置における独立2重ピストン式のポンプ部のモデル図である。
【図7】 (A),(B)は、それぞれ、描画線の評価方法を示す図、及び、理想的な描画線を示す図である。
【図8】 スラスト動圧シールの発生圧力と隙間の関係を示す図である。
【図9】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置を容積式ポンプとして用いた場合の吸入・吐出行程を示す図である。
【図10】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置を容積式ポンプとして用いた場合の吸入・吐出行程を示す図である。
【図11】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置を容積式ポンプとして用いた場合の吸入・吐出行程を示す図である。
【図12】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置を容積式ポンプとして用いた場合の吸入・吐出行程を示す図である。
【図13】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置を容積式ポンプとして用いた場合の吸入・吐出行程を示す図である。
【図14】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置を容積式ポンプとして用いた場合の吸入・吐出行程を示す図である。
【図15】 図9〜図14における可動スリーブとピストンの変位と時間の関係を示す図である。
【図16】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置におけるスラスト動圧シールの上面図である。
【図17】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置における時間に対する吐出ノズル上流側圧力の解析結果である。
【図18】 本発明の上記第2実施形態にかかる流体吐出装置における可動スリーブ、ピストン、シリンダで形成される閉空間を示す図である。
【図19】 本発明の第1実施形態の構造を利用して、第1アクチュエータとピストンを取り外した図である。
【図20】 従来例のエアーパルス方式を示す図である。
【符号の説明】
1…第1アクチュエータ、2…圧電型アクチュエータ、3…ピストン、4a…ピストン上部、4b…ピストン中間部、4c…ピストン下部、5…第2アクチュエータ、6…可動スリーブ、7…回転スリーブ、8…ハウジング、9…超磁歪ロッド、10…第1バイアス永久磁石、11…第2バイアス永久磁石、12…上部回転スリーブ、13…磁界コイル、14…ヨーク、15…回転伝達部、16…連結部、17…軸受部、18…バイアスバネ、19…第3アクチュエータ、20…モータロータ、21…モータステータ、22…上部ハウジング、23…上部蓋、24…中間ハウジング、25…変位センサー、26…スラスト玉軸受、27…ポンプ部、28…ポンプ部側可動スリーブ、29…ボルト、30…スラスト円盤、31…シリンダ、32…ラジアル溝、33…ポンプ室、34…吸入口、35…吐出ノズル、36…吐出流通路、37…シール用スラスト溝、38…開口部、250…ピストン、251…ハウジング、252…吐出ノズル、253…ポンプ室、350…ピストン、351…可動スリーブ、352…ハウジング、353…吐出ノズル、354…ポンプ室、450…ピストン、451…可動スリーブ、452…ハウジング、453…吐出ノズル、454…ポンプ室、500…描画始点における流体塊、501…描画線が欠落する区間、502…描画終点における流体塊、φB1…描画始点における流体塊の外径、φB2…描画終点における流体塊の外径、Bc…流体塊の外径φB1と中間部の線幅、φd…粉流体に含まれる微粒子の粒径、Dp…ピストン350の外径、Ds…可動スリーブの外径、T1…描画線が欠落する区間の長さ、Tc…描画線の全長、Tp1…ピストンの立ち上がり時間、Ts1…スリーブの立上がり時間、Vs…ステージ送り速度、Xp…ピストン350の変位、Xpmin…ピストン350の最小隙間、Xs…可動スリーブの変位、Xsmin…可動スリーブの最小隙間、δ…吐出ノズルと対向面隙間。
Claims (10)
- ピストンとハウジングを相対的に軸方向移動させる第1アクチュエータと、
上記ピストンの少なくとも一部を収納し軸方向に貫通した空間を有するスリーブと、
上記スリーブと上記ハウジングを相対的に軸方向移動させる第2アクチュエータと、
上記スリーブと上記ハウジング、あるいは上記ピストンと上記ハウジングを相対的に回転させる第3アクチュエータと、
上記第1、第2、第3アクチュエータをそれぞれ駆動する駆動部と、
上記ピストン、上記スリーブ、上記ハウジングで形成されて上記第3アクチュエータの駆動により上記スリーブと上記ハウジング、あるいは上記ピストンと上記ハウジングを相対的に回転させるポンプ室と、
上記ポンプ室とポンプ室外部を連絡する流体の吸入口と吐出口から構成されることを特徴とする流体吐出装置。 - 上記スリーブと上記ハウジング間の相対移動面に形成され、かつ、上記流体を上記吸入口側から上記吐出口側に圧送するポンピング作用を行わせるねじ溝をさらに備える請求項1に記載の流体吐出装置。
- 上記スリーブと上記ハウジングの相対移動によって上記ポンプ室と上記外部を連絡する上記流体の流路抵抗が変化するように上記スリーブ及び上記ハウジングが構成されている請求項1に記載の流体吐出装置。
- 上記第1アクチュエータと上記第2アクチュエータをそれぞれ独立して駆動させることにより、流体吐出開始時又は吐出終了時に上記ピストンと上記スリ−ブを相対的に逆方向に移動させる請求項1に記載の流体吐出装置。
- 上記流体吐出装置の吐出側と反対側に上記第1アクチュエータを配置し、上記吐出側に回転と直線運動が可能な上記第2アクチュエータを配置し、上記吐出側とその反対側の中間部に回転モータである上記第3アクチュエータを配置する請求項1に記載の流体吐出装置。
- 上記第1アクチュエータは、流体吐出装置本体から着脱自在である請求項1に記載の流体吐出装置。
- 一端をフロント側としもう一方の端部をリア側とする第2アクチュエータである電磁歪素子と、上記電磁歪素子を貫通したピストンと、上記ピストンを軸方向に駆動する第1アクチュエータと、上記電磁歪素子と上記ピストンを収納しかつ上記第1アクチュエータの固定側を保持する上記ハウジングと、上記電磁歪素子の上記フロント側に押圧されたスリーブと、上記スリーブを回転自在に支持するフロント側シリンダと、上記ピストン及び上記スリーブを軸方向に移動可能に構成すると共に、上記ピストンと上記スリーブのいずれかに回転を与える上記第3アクチュエータと、上記第1、上記第2、上記第3アクチュエータをそれぞれ駆動する上記駆動部と、上記スリーブと上記フロント側シリンダで形成されるポンプ室と外部を連絡する加圧流体の流入口及び流出口から構成される流体吐出装置において、
上記第2アクチュエータと上記第1アクチュエータの駆動によって上記スリーブと上記ハウジング間、及び上記ピストンと上記ハウジング間で形成される流路の隙間が変化するように構成されている請求項1に記載の流体吐出装置。 - 吸入口からピストンとこのピストンを収納するスリーブとハウジングで形成されるポンプ室内に流体を吸入し、
第1アクチュエータにより上記ピストンと上記ハウジングを相対的に軸方向移動させると共に、第2アクチュエータにより上記ピストンと上記スリーブを相対的に軸方向移動させ、同時に第3アクチュエータにより上記スリーブと上記ハウジング、あるいは上記ピストンと上記ハウジングを相対的に回転させながら、ポンプ室内の上記流体を吐出口から吐出することを特徴とする流体吐出方法。 - 流体吐出行程終了後、上記吐出口と対向面間のギャップを一定に維持したままで、上記吐出口の先端と上記対向面の相対位置を変えて、次の流体吐出行程に移 行する請求項8に記載の流体吐出方法。
- 上記ピストンと上記スリーブの変位曲線の選択により、連続流体吐出から間欠流体吐出へ、あるいは、間欠流体吐出から連続流体吐出へ移行する請求項8に記載の流体吐出方法。
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