JP4075263B2 - 電気化学的防汚方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水生生物などの付着を電気化学的に防止する電気化学的防汚方法及びこの方法を用いた電気化学的防汚装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
海水や淡水中には多くの水生生物が存在し、水中構造物表面に付着し、様々な問題を引き起こしている。例えば、船舶やブイに付着すると推進抵抗の増大といった問題が発生し、養殖用生け簀に付着すると海水の交流阻害といった問題が発生し、定置網などの漁網に付着すると網成りの変形などが発生する。
また、給排水のパイプ内やバルブ等に付着した微生物は水を介して人や生産物を汚染するといった問題を発生させている。
水に接している構造物表面への水生生物の一般的な付着機構は以下の通りである。
まず付着性のグラム陰性菌が構造物表面に吸着して脂質に由来するスライム状物質を多量に分泌する。さらにグラム陰性菌は、このスライム層に集まって増殖し、微生物皮膜を形成する。そして、海水中ではこの微生物皮膜層上に大型水生生物である藻類、貝類、フジツボ等の大型の水生生物が付着し、付着した大型の水生生物が繁殖し成長し、最終的に水中構造物表面を覆い尽くすことになる。
こうした水中構造物および水に接しているものの表面に付着した水生生物の防汚手段としては殺菌性を有する物質を添加したり、有機スズ系化合物を含有した塗料で塗膜を形成し、有機スズ系化合物を溶出させる方法が一般に行われていた。しかし、前記の方法は有害物質が発生し、水質の汚染による生物への影響が懸念される。
【0003】
近年、有害物質を発生させないで電気化学的に水中構築物や水に接しているものの表面などに付着する水生生物を制御する方法が提案されている。
この電気化学的な水生生物の制御方法は、微生物との直接反応が確認されている所定電位以上の電位を微生物に印加すると、微生物内部の酸化還元物質の一つである補酵素Aが不可逆的に酸化され、微生物の呼吸活性及び微生物膜の透過障壁の低下を誘発し、微生物を死滅させることが可能であるというものである(特公平6−91821号公報)。すなわち、当該公報には、グラム陰性菌の付着を電気化学的に制御することにより大型の生物の付着を防止する方法が示されている。
また、特開平4−341392号公報には、水中において、導電性基板に正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程と、前記導電性基板に負電位を印加することにより、前記導電性基板表面に吸着している殺菌された微生物を脱離する工程とを行うことを特徴とする、水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記、水生生物を制御する方法は、海水や水の電気分解が起こらない電位を印加することによって、微生物の殺菌や付着防止を行うことができることから海洋汚染が無く、さらに海洋生物の生態系への影響がないことから優れた防汚方法である。
ところで、導電性基材表面に対する正電位の印加時間は、殺菌を行う電位に達するまでの時間と、所定の電位により殺菌を行う時間とからなる。そして、殺菌が効果的に行われる所定の電位に達する迄の正電位は、基材表面に水生生物を吸着させる効果が主である。従って、殺菌を行う電位に達するまでの時間、導電性基材表面は水生生物の電気化学的な殺菌制御が行われていない。この時、導電性基材表面へ水生生物およびスケールが付着し、殺菌効率を低下させ長期的に防汚効果が低下するという問題を生じさせていた。
特に、港湾内などの潮流の遅い場所や浄水所の配管といった水生生物が大量に存在する系では基材表面に正電位を印加したときの生物付着量の増加が問題となっている。
そこで、導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物を殺菌および脱離する電位制御方法及びこの方法を適用する防汚装置が望まれている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加することによる、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物の殺菌工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生する負電位を印加することによる、前記導電性基材表面に付着した水生生物およびスケールの洗浄工程とよりなることを特徴とする電気化学的防汚方法を第1の要旨とし、導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加することによる、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物の殺菌工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加することによる、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールの脱離工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生する負電位を印加することによる、前記導電性基材表面に付着した水生生物およびスケールの洗浄工程とよりなることを特徴とする電気化学的防汚方法を第2の要旨とし、少なくとも防汚面を、5Vvs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜となした導電性基材と、この導電性基材と接しないように配置した対極と、前記導電性膜が形成された導電性基材と対極との間に直流を通電する電源装置とを備え、この電源装置は、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物が発生しない正電位と、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位と、電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位とを周期的に印加するよう設定されていることを特徴とする電気化学的防汚装置を第3の要旨とするものである。
【0006】
以下、本発明について詳述する。
本発明に係る電気化学的防汚方法における基本的構成は、導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加することである。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位は、−1.0Vvs.SCE以上、好ましくは−2.0Vvs.SCE以上であり、この値での電位の印加を周期的もしくは不定期的に所定の時間で行うことによって、前記水生生物、その一部の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破壊物、有機物やスケールを効果的に洗浄することができる。
【0007】
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位が印加されているとき、電解液の分解により導電性基材表面では水素が発生し、この水素によって導電性基材表面の付着物が除去される。また、導電性基材近傍は水酸基イオンが増加することによりアルカリ性を示す。また、強アルカリ雰囲気になることによって水酸化物の析出が起こる。該水酸化物によって、有機物は溶解する。これら、除去及び溶解によって、導電性基材表面は洗浄されることになる。
また、電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加する時間は、導電性基材の耐久性、導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが1〜24時間程度が好ましい。導電性基材の劣化を考慮すると1〜12時間の印加がより好ましい。
【0008】
次に電位印加条件について説明する。
水生生物を含む水中において、導電性基材に正電位を印加すると、水中の水生生物は基材表面に吸着する。さらに基材に印加されている正電位には、基材表面に吸着して接触した水生生物を電気化学的に殺菌する作用がある。即ち、水生生物は、正電位によって基材表面に吸着させられ、表面上で殺菌される。
このとき、設定される電位は電解液中から電気化学的に生成物が発生しない電位であることが必要である。これは、有害な塩素ガスの発生を防止するためである。好ましい電位は、+0〜1.5Vvs.SCE、より好ましくは+0.5から+1.2Vvs.SCEである。印加する電位が+0Vvs.SCE未満では水生生物を基材に吸着させて殺菌することができない。また、+1.5Vvs.SCEを越えた電位を長時間印加すると水や海水が電気分解して有害物質を発生したり、導電性基材の劣化が起こることがあるので好ましくない。
ちなみに、表面に、5Vvs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜を形成した導電性基材及び対極を用いた場合には、+5Vvs.SCE迄の電位を印加することができる。
さらに、上記正電位を印加してなる殺菌工程の後、印加した正電位を、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位に変更する事もできる。この負電位は、0〜−1.5Vvs.SCE、好ましくは−0.1〜−1.0Vvs.SCEである。導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位を印加することによって、導電性基材に付着した水生生物、その他の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破損物や有機物の脱離がおこる。
上記正電位を印加してなる殺菌工程と、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位を印加してなる脱離工程とは周期的に変化させるが、周期、即ち、正電位及び負電位の維持時間は、本装置を取り付ける環境に応じて適宜設定すれば良い。
【0009】
本発明では、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールを電気化学的に制御する方法において(1)電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加することにより、該導電性基材の表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールを洗浄する工程と、(2)電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加することにより、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールを電気化学的に殺菌する工程と、(3)該印加正電位から電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位に電位を低下させ付着物を脱離する工程とを繰り返し実施することが望ましい。工程の組み合わせは、特に限定されないが(2)の工程、(3)の工程を周期的に行い不定期的に(1)の工程を組み入れることにより導電性基材の劣化防止を行うことができる。
【0010】
本発明で用いる導電性基材は、全体が導電性材料から形成されていてもよいが、少なくともその表面または水中に浸漬している一部表面が導電性であることが必要である。
基材は金属、樹脂、無機材料からなり、構造を維持する機能を有するものであれば特に限定されない。金属材料の例としては鉄、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、ニオブ、およびそれらの合金、ステンレス等が挙げられる。樹脂材料の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。無機材料の例としては、ガラス、アルミナ、ジルコニア、セメント等が挙げられる。
基材として、樹脂、無機材料などの非導電性材料を用いる場合、導電性微粒子を材料に充填し、基材を形成することにより導電性を付与し用いればよい。導電性微粒子の例としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボン繊維からなる短繊維などの炭素微粒子、金、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウムまたはこれらの貴金属の酸化物の微粒子、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化クロム等の金属窒化物、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン等の金属炭化物、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ハーフニウム、ホウ化バナジウム、ホウ化ニオブ、ホウ化タンタル、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ホウ化タングステン等の金属ホウ化物、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化バナジウム、ケイ化タングステン等の金属ケイ化物などの微粒子が挙げられる。
【0011】
また、上記導電性微粒子をバインダー樹脂に充填、分散させた導電性組成物を、前記非導電性材料製基材表面に被覆して導電性を付与してもよい。バインダー樹脂の例としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル−ウレタン樹脂、ポリエステル−ウレタン樹脂、シリコン−ウレタン樹脂、シリコン−アクリル樹脂、エポキシ樹脂や、熱硬化型のメラミン−アルキッド樹脂、メラミン−アクリル樹脂、メラミン−ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂、または天然ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ニトリルブチレンゴム、ポリエチレンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリプロピレンエラストマー等のゴム弾性材料が挙げられる。導電性組成物は、導電性シートを形成して非導電性基材上に接着剤を介して積層したり、塗膜層として形成してもよい。
【0012】
上記の導電性微粒子の他に、生物の細胞と電極との電子移動反応を促進する作用を有する特定の化合物を添加してもよい。すなわち、微生物と電極との電子移動を媒介する電子メディエータを導電性材料と共に使用することによって、より効率的に水生生物の殺菌を行うことができる。電子メディエータの例としては、フェロセン、フェロセンモノカルボン酸、フェロセンジカルボン酸または、〔(トリメチルアミン)メチル〕フェロセン等のフェロセンおよびその誘導体、H4Fe(CN)6、K4Fe(CN)6、Na4Fe(CN)6等のフェロシアン類、2,6−ジクロロフェノールインドール、フェナンジンメトサルフェート、ベンゾキノン、フタロシアニン、ブリリアントクレジルブルー、カロシアニン、レゾルシン、チオニン、N,N−ジメチル−ジスルフォネイティド・チオニン、ニューメチレンブルー、トブシンブルーO、サフラニン−O、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ベンジルビオロゲン、アリザリンブリリアントブルー、フェノシアジノン、フェナジンエトサルフェート等が挙げられる。
この様な電子メディエータを担持した導電性基材としてはフェロセン修飾電極を挙げることができる。
【0013】
また、抗菌性を有する材料を添加してもよい。抗菌性を有する物質は、無機物に属するものと有機物に属するものとがある。
無機物としては、銀、銅、ニッケル、亜鉛、鉛、ゲルマニウム等の金属およびこれらの酸化物、酸素酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、有機キレート化合物などが挙げられる。
有機物としては、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、4,5,6,7−テトラクロル−2−トリフルオロメチルベンズイミダゾール、10,10’−オキシスフェノキシアルシン、トリメトキシシリル−プロピルオクタデシルアンモニウムクロライド、2−N−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛などが挙げられる。
【0014】
特に、基材の少なくとも防汚面を、5Vvs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜となしたものは好ましく用いられる。この導電性膜は、金属又はその化合物から構成でき、具体的にはバルブ金属、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物の何れかから構成することができる。
導電性膜を形成するに当たっては、溶射やスパッタリング、イオンプレーティングなどの方法を採用することができる。
金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物については既に記載してあるが、記載した材料はその一部であり、形成方法によっては2種類以上の金属が含まれたり、酸化物の一部が含まれたり、さらにはこれらの化合物が2種以上混合されることから、特に限定はされない。これらの金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物は0.1μm以上の厚さの膜であればよく、最大の厚さは特に限定しないが、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物の形成方法や使用目的により適宜設定すればよい。
【0015】
基材が電気化学的に溶解や腐食する材料、例えば、鉄やアルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウムおよびそれらの合金、ステンレス等の金属材料からなる場合では、該金属材料と接水面に形成された導電層との間に、絶縁性樹脂塗膜層や絶縁性樹脂フィルム層、アルミナ、チタニア酸化ケイ素などの絶縁無機物層、またはチタン、ニオブ、タンタル等のバルブ金属などを設けておけばよい。これらの材料からなる層は1種または2種以上多層として形成されてあってもよい。
【0016】
導電性基材の形状は特に限定されるものではなく、水生生物を効率よく吸着して直接または間接的に接触し、電位を付与することのできるものであればよい。
【0017】
本発明の防汚装置は、上記導電性基材と接触しないように対極が設置されている。対極基材は導電性基材と同様のものを用いることができるが、その表面に5Vvs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜が形成されたものが好ましい。
【0018】
上記、導電性基材と対極とはリード線により電源装置に接続されている。この電源装置は、導電性基材と対極との間に直流を通電する装置であって、極性が変換できる機能を有しているものである。
【0019】
上記構成以外、必要に応じて参照極およびポテンショスタットを用いて導電性基材に電位を印加することもできる。さらに、導電性基材表面の電位を測定する装置および電流のオン/オフを制御する開閉器によって基材表面の電位を制御、維持することも好ましい方法である。
使用できる参照極およびポテンショスタットとしては、導電性基材に、予め定められた電位を印加できるものであれば特に限定されない。従って、市販の直流電源装置(整流器)に電圧の制御およびタイミング手段を付加したもので容易に実施できる。電位測定器および開閉器は市販の装置を使用することができる。
また、電解セルを形成する電極配置は作用極に対し対極の設置位置は限定されないが参照極は作用極の近傍に設置することが好ましい。
【0020】
本発明により処理することができる電解液は、水生生物を含有する水であれば特に限定されない。例えば、海水、河川の水、湖沼の水、水道水、飲料水、または各種緩衝液などが挙げられる。
また、対象となる水生生物も、それらの水中に存在する水生生物であれば特に限定されるものではない。
【0021】
【作用】
本発明に係わる方法は、電気化学的な防汚方法を行うに際し、導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させる負電位を印加することにより、水素ガスが発生し、さらに、水酸基イオンの増加により電極近傍が強アルカリ性になるので、導電性基材の表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールを物理的に除去し、導電性基材表面をクリーニングし防汚効果が向上する。
なお、海水や河川の水については、電極近傍が強アルカリ性になることにより水生生物を殺菌する効果も得られる(参考例2〜4、6,7参照)。
【0022】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
図1は以下の実施例に用いた装置の模式図である。
試験槽1内には、導電性基材2が配置されている。この導電性基材2は、その表面に5Vvs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したものである。導電性基材2は開閉器3および電位測定器4と個々に連結し、開閉器3はポテンショスタット5と連結している。ポテンショスタット5は試験槽1内に配置された参照極6および対極7と個々に連結し、さらに関数発生器8と連結している。試験槽1内には滅菌海水が入っており、また、その底部には攪拌器9および攪拌棒10が配置されている。参照極6には飽和甘コウ電極(SCE)を、対極7には導電性基材2と同様に、表面に5Vvs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したものを用いた。導電性基材2表面の電位は電位測定器4により測定される。測定された電位によって開閉器3の制御が行われ、導電性基材表面の電位が維持される。
【0023】
実施例1
実海洋で4ヶ月間、海洋生物を付着させた導電性基材(TiN板(5Vvs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したもの)(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位印加条件としては印加電位を−3.0Vvs.SCE、180分間印加後、電位の印加を行わず2日間放置した。このときの電解液に人工海水(千寿製薬(株)製ニューマリンアートSF)、対極にTiN板(100×100mm厚さ0.5mm)、参照極に飽和甘コウ電極(SCE)(東亜電波(株)製HS−205C)、電源装置にポテンショスタット(北斗電工(株)製HA151)及び関数発生器(北斗電工(株)製HB−211)を用いて電位を印加後、電極の表面状態を観察した。
【0024】
実施例2
実海洋で4ヶ月間、海洋生物を付着させた導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位印加条件としては印加電位を−3.0Vvs.SCE、180分間印加後、印加電位1.35Vvs.SCEを2日間印加した。他の条件は実施例1と同様とした。
【0025】
実施例3
実海洋で4ヶ月間、海洋生物を付着させた導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位印加条件としては印加電位を−3.0Vvs.SCE、180分間印加後、印加電位1.35Vvs.SCE、60分/−0.6Vvs.SCE、10分を交互に、2日間印加した。他の条件は実施例1と同様とした。
【0026】
比較例1
実海洋で4ヶ月間、海洋生物を付着させた導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。
電解液中から電気化学的に生成物の発生しない負電位印加条件としては印加電位を−0.6.0Vvs.SCE、180分間印加後、電位の印加を行わず2日間放置した。他の条件は実施例1と同様とした。
【0027】
比較例2
実海洋で4ヶ月間、海洋生物を付着させた導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。
電解液中から電気化学的に生成物の発生しない負電位印加条件としては印加電位を−0.6.0Vvs.SCE、180分間印加後、印加電位1.35Vvs.SCE、60分/−0.6Vvs.SCE、10分を交互に、2日間印加した。他の条件は実施例1と同様とした。
【0028】
参考例1
導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。負電位印加条件としては印加電位を−1.0Vvs.SCE、60分間印加した。このときの電解液に人工海水(千寿製薬(株)製ニューマリンアートSF)、対極にTiN板(100×100mm厚さ0.5mm)、参照極に飽和甘コウ電極(SCE)(東亜電波(株)製HS−205C)、電源装置にポテンショスタット(北斗電工(株)製HA−151)及び関数発生器(北斗電工(株)製HB−211)を用いて電位を印加し、印加時の電極からのガスの発生、印加後の電極の表面状態を観察した。
【0029】
参考例2
導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。負電位印加条件としては印加電位を−2.0Vvs.SCE、60分間印加した。他の条件は参考例1と同様とした。
【0030】
参考例3
導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。負電位印加条件としては印加電位を−3.0Vvs.SCE、60分間印加した。他の条件は参考例1と同様とした。
【0031】
参考例4
導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。負電位印加条件としては印加電位を−4.0Vvs.SCE、60分間印加した。他の条件は参考例1と同様とした。
【0032】
参考例5
導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。負電位印加条件としては印加電位を−1.0Vvs.SCE、60分間印加した。このときの電解液は河川より採取してきた水を用い、対極にTiN板(100×100mm厚さ0.5mm)、参照極に飽和甘コウ電極(SCE)(東亜電波(株)製HS−205C)、電源装置にポテンショスタット(北斗電工(株)製HA−151)及び関数発生器(北斗電工(株)製HB−211)を用いて電位を印加し、印加時の電極からのガスの発生、印加後の電極の表面状態を観察した。
【0033】
参考例6
導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。負電位印加条件としては印加電位を−2.0Vvs.SCE、60分間印加した。他の条件は参考例5と同様とした。
【0034】
参考例7
導電性基材(TiN板(100×100mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。負電位印加条件としては印加電位を−3.0Vvs.SCE、60分間印加した。他の条件は参考例5と同様とした。
【0035】
上記実施例1〜3及び比較例1、2について、電極の表面状態について目視観察を行った。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
比較例1〜2は電気化学的に生成物の発生しない負電位であるため析出物は沈着しない。
【0038】
上記参考例1〜7について、電極表面の水素発生およびアルカリ生成について目視観察を行った。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
析出物は、水酸化物が主で、その中でも水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが多く含まれていた。
淡水は、海水と比較すると金属イオンが少ないため導電率が低いが、水素及び析出物の発生は認められた。
【0041】
【発明の効果】
本発明は、水生生物の電気化学的制御において、電解液中から電気化学的に生成物を発生させる負電位を印加することにより導電性基材上に付着した細胞やその分解物を被防汚面である導電性基材表面から脱離させる効果も高い。その結果、水生生物の濃度が環境で変化しても効果的に長期間に渡り水生生物の付着が防止できるようになった。また、導電性基材上に析出する水酸化物も経時的に溶解し常に導電性基材表面は新しい状態を維持することができる。実施にあたっては船舶、湾岸設備、漁網、配水管、冷却水道水の殺菌および生物付着防止など様々な分野に応用できる有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】防汚装置の模式図
【符号の説明】
1 試験槽
2 導電性基材
3 開閉器
4 電位測定器
5 ポテンショスタット
6 参照極
7 対極
8 関数発生器
9 攪拌機
10 攪拌棒
Claims (3)
- 導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加することによる、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物の殺菌工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生する負電位を印加することによる、前記導電性基材表面に付着した水生生物およびスケールの洗浄工程とよりなることを特徴とする電気化学的防汚方法。
- 導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加することによる、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物の殺菌工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加することによる、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールの脱離工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生する負電位を印加することによる、前記導電性基材表面に付着した水生生物およびスケールの洗浄工程とよりなることを特徴とする電気化学的防汚方法。
- 少なくとも防汚面を、5V vs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜となした導電性基材と、この導電性基材と接しないように配置した対極と、前記導電性膜が形成された導電性基材と対極との間に直流を通電する電源装置とを備え、この電源装置は、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物が発生しない正電位と、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位と、電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位とを周期的に印加するよう設定されていることを特徴とする電気化学的防汚装置。
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