JP3697650B2 - 水生生物の電気化学的制御方法及び防汚方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、水生生物の電気化学的制御方法及び水中において水生生物などの付着を防止する防汚方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
海水や淡水中には多くの水生生物が存在し、病原性を示したり、水中構造物表面に付着し、様々な問題を引き起こしている。例えば、船舶やブイ、あるいは養殖生簀や定置網などの漁網に大型の水生生物が付着すると推進抵抗の増大や海水の交流阻害、網成りの変形などが発生する。
また、給排水のパイプ内やバルブ等に付着した微生物は水を介して人や生産物を汚染するといった問題を発生させている。
一般的な水に接している構造物表面への水生生物の付着機構は以下の通りである。
まず付着性のグラム陰性菌が表面に吸着して脂質に由来するスライム状物質を多量に分泌する。さらに、グラム陰性菌は、このスライム層に集まって増殖し、微生物皮膜を形成する。そして、海水中ではこの微生物皮膜層上に大型の水生生物である藻類、貝類、フジツボ等の大型の水生生物が付着し、付着した大型の水生生物が繁殖し成長し、最終的に水中構造物表面を覆い尽くすことになる。
【0003】
こうした水中構造物及び水に接している物の表面に付着した水生生物の防汚手段としては、次亜塩素酸塩などの殺菌性を有する物質を添加し水生生物を殺菌させる方法や、有機錫系化合物を含有した塗料で船舶や漁網に塗膜を形成し、有機錫系化合物を溶出させることにより防汚する方法が一般に行われていた。
しかし、次亜塩素酸塩などの殺菌性を有する物質を添加する方法は、この物質と水中の有機物などとが反応してトリハロメタン等の有害物質が発生し、水質の汚染による生物への影響が懸念される。
また有機錫系化合物を含有した塗料を用いる方法は、海洋汚染の問題から使用が制限されている。
そこで、上記有機錫系防汚剤の代替えとして非有機錫系化合物が用いられているが、非有機錫系防汚剤では付着防止効果の維持時間が短く、塗料の塗り替え作業に要する労力が大幅に増大しているため人件費など多額の費用がかかるといった問題があった。
【0004】
近年、塩素などの有害物質を発生させないで電気化学的に水中構造物や水に接している物の表面などに付着する水生生物を制御する方法が提案されている。
特公平6−91821号公報には、微生物の直接反応が確認されている所定電位以上の電位を微生物に印加すると、微生物内部の酸化還元物質の一つである捕酵素Aが不可逆的に酸化され、微生物の呼吸活性及び微生物膜の透過障壁の低下を誘発し、微生物を死滅させることが可能であること、即ち、付着する微生物を電気化学的に制御することにより、付着した微生物の大量発生による水質汚染を防止できることや大型の水生生物の付着を防止できることが示されている。
また、特開平4−341392号公報には、導電性を有する被防汚面に+0〜+1.5Vvs.SCEの正電位を印加し付着する微生物を殺菌する工程と、−0〜−0.4Vvs.SCEの負電位を印加し水生生物を脱離する工程とからなる防汚方法が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
水中の微生物を電気化学的に制御する方法は、海水や水の分解が起こらない電位を印加することによって、微生物の殺菌や付着防止を行なうことができることから海洋の汚染が無く、さらに海洋生物の生態系への影響も無いことから優れた防汚方法であると考えられる。
しかし、海水や河川などの水中に存在する水生生物は、種類も多く、また温度や水中に含まれている栄養源となる有機物の濃度によっても水生生物の濃度は異なる。特に高濃度の水生生物が水中に存在すると、導電性基材表面には多層に重なって水生生物が付着したり、正電位を印加して水生生物を導電性基材に吸着、殺菌させた場合でも吸着した水生生物の上に他の水生生物が付着したりする。この場合、水生生物の上に吸着した他の水生生物は導電性基材に直接接触せず、導電性基材に電位を印加しても殺菌できない場合もある。
また、付着した微生物及びスケールを除去するために、導電性基材表面の電位を負に調節し、微生物表面の持つ負電位との反発作用によって脱離させる方法や水中の微粒子のゼータ電位が0になるように調節し、脱離を促す方法が考案されているが、導電性基材の電位変化が大きく、導電性基材の劣化を招き問題となっている。
そこで、導電性基材に付着した水生生物の細胞やその死骸、スケール等を被防汚面から除去する電気化学的制御方法及び殺菌効率の向上と、導電性基材の劣化が少ない水生生物の電気化学的制御方法及び水中において水生生物などの付着を防止する防汚方法が望まれている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明はこれらの問題に鑑み、水生生物の電気化学的制御方法及び防汚方法をさらに高めることを目的になされたものであって、第1の要旨を、導電性基材に電解質の分解が起こらない正電位を印加することにより、前記導電性基材表面に直接的又は間接的に接触する水生生物及びスケ−ルを電気化学的に制御する方法において、前記電解質の分解が起こらない正電位を印加する工程と、この電解質の分解が起こらない正電位から0Vvs.SCEへと電位を低下させる工程と、0Vvs.SCE電位から電解質の分解が起こらない正電位に電位を上昇させる工程とよりなり、これらの工程を周期的に繰り返すことを特徴とする水生生物の電気化学的制御方法とし、第2の要旨を、導電性基材に、電解質の分解が起こらない正電位を印加することにより前記導電性基材表面に直接的又は間接的に接触した水生生物の細胞を殺菌する工程と、前記電解質の分解が起こらない正電位から0Vvs.SCEへと電位を低下させる工程と、0Vvs.SCE電位から電解質の分解が起こらない正電位に電位を上昇させることにより前記水生生物、その一部の細胞、殺菌された水生生物の細胞及び/又はその破壊物、有機物やスケールを殺菌及び/又は脱離する工程とよりなり、これらの工程を周期的に繰り返すことを特徴とする防汚方法とする。
【0007】
以下、本発明について詳述する。
本発明で用いる導電性基材は、全体が導電性材料から形成されていてもよいが、少なくともその表面(または水中に侵漬している一部表面)が導電性であれば良い。
基材は、鉄およびその合金、アルミニウムおよびその合金、銅およびその合金、チタン、タンタル、ニオブ、およびそれらの合金、その他ステンレス等の金属材料、ABS、AS、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、PET等の樹脂材料、ガラス、アルミナ、ジルコニア、セメント等の無機材料であり、構造を維持する機能を有すものであれば特に限定されない。
例えば、漁網やFRP等の樹脂からなる非導電性材料を用いる場合、グラファイトやカーボンブラック、金銀などの導電性微粒子を、基材を形成する樹脂に充填したり、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂などのバインダー樹脂に導電性微粒子を分散してなる導電性組成物で、前記非導電性基材上に導電性塗膜を形成すればよい。
また天然ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、NBR、ポリエチレンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリプロピレンエラストマー等のゴム弾性材料に導電性微粒子を充填して形成した導電性シートを非導電性基材に接着しライニング加工により導電性を付与してもよい。
更に、生物の細胞と電極との電子移動反応を促進する作用を有する特定の化合物を添加してもよい。即ち、微生物と電極との電子移動を媒介する電子メディエータを導電性材料と共に使用することによって、より効率的に水生生物の殺菌を行なうことができる。この様な電子メディエータを担持した導電性基材としては、フェロセン修飾電極を挙げることができる。
【0008】
これらの基材の中で電気化学的に溶解や腐食する材料、例えば、鉄やアルミニウム、銅などの金属材料は、該金属材料と接水面に形成された窒化物や炭化物、ホウ化物、ケイ化物との間に、絶縁性塗膜や絶縁性樹脂フィルム層、アルミナや酸化チタン等の酸化物などの絶縁無機物層、または、チタン、ニオブ、タンタル等のバルブ金属が設けられている。これらの材料からなる層は1種または2種類以上多層として形成されてあっても良い。さらに、樹脂材料や無機材料では、導電性樹脂層が形成されてあっても良い。
また、コンクリート等の材料で形成された基材を用いる場合は、表面に導電性塗膜を形成したり、導電性シートをライニングしたり、あるいは、導電性微粒子をコンクリート材料に充填して基材を形成して導電性を付与し用いればよい。
次に接水面に形成された金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物について説明する。金属窒化物としては窒化チタン、窒化ジルコニア、窒化バナジウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化クロム等であり、金属炭化物としては炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン等であり、ホウ化物としては、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ハーフニウム、ホウ化バナジウム、ホウ化ニオブ、ホウ化タンタル、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ホウ化タングステン等であり、金属ケイ化物としてはケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化バナジウム、ケイ化タングステン等である。尚、ここに記載した材料はその一部であり、形成方法によっては2種類以上の金属が含まれたり、酸化物の一部が含まれたり、さらには、これらの化合物が2種以上混合されることから、特に限定はされない。これらの金属窒化物、金属ホウ化物、金属炭化物、金属ケイ化物は0.1μm以上の厚さの膜であれば良く、最大の厚さは特に限定はしないが、金属窒化物、炭化物、ホウ化物、ケイ化物の形成方法や使用目的により適宜設定すれば良い。
【0009】
導電性基材の形状は特に限定されるものではなく、水生生物を効率よく吸着して直接又は間接的に接触し、電位を付与することのできるものであれば良い。
【0010】
次に電位印加条件について説明する。
水生生物を含む水中において導電性基材に正電位を印加すると、水中の水生生物は基材表面に吸着する。更に、基材に印加されている正電位には、基材表面に吸着して接触した水生生物を電気化学的に殺菌する作用がある。
即ち、水生生物は、正電位によって基材表面に吸着させられ、表面上で殺菌される。この時に印加する正電位は+0〜1.5Vvs.SCE、好ましくは+0.5〜+1.2Vvs.SCEであり、これは、電解質の分解が起こらない電位であることが好ましい。前記範囲で一定の時間電位を印加した後、印加した正電位を0Vvs.SCEに低下させる。更に、0Vvs.SCEに低下させた後、所定時間後に所定の正電位へと上昇させる。これらの工程は周期的に行うことが好ましい。
印加電位が+0Vvs.SCE未満では水生生物を基材に吸着させて殺菌することができない。また、+1.5Vvs.SCEを越えた電位を長時間印加すると、水や溶解している塩が電気分解して有害物質が発生したり、導電性基材の劣化が起こるので好ましくない。
【0011】
導電性基材に電解質の分解が起こらない正電位を印加する時間は、水中に存在する水生生物を殺菌する場合はその種類や濃度、又は、水の流速や温度によっても異なるが、5分から6時間程度が好ましい。印加時間が6時間よりも長いと、基材上で殺菌された水生生物の上に他の水生生物が吸着してしまい、後から吸着した水生生物は導電性基材と直接接触していないので、正電位による電気化学的殺菌作用を受けない場合も生じ得る。
【0012】
続いて、導電性基材に付着した水生生物、その一部の細胞、殺菌された水生生物の細胞及び/又はその破壊物や有機物の殺菌及び/又は脱離工程を行うため、上記電解質の分解が起こらない正電位を0Vvs.SCEに低下させる。前記導電性基材に印加する時間は、1/1000秒〜15分程度、好ましくは、1分〜10分である。
【0013】
更に、電解質の分解が起こらない正電位と0Vvs.SCEの印加を周期的に前記導電性基材に印加する場合、パルス波として考えても良く、パルス間の時間を任意に設定すれば良い。
また、正電位から0Vvs.SCEへの制御は、早ければ早いほど、前記水生生物、その一部の細胞、殺菌された水生生物の細胞及び/又はその破壊物、有機物やスケールを脱離除去する効果が高くなる。また、0Vvs.SCE電位から所定の正電位への制御は、被防汚面に接触する微生物の種類及び量にもよるが、前記導電性基材の劣化を抑制するためには、正電位から0Vvs.SCEへと電位を低下させる速度を、0Vvs.SCE電位から所定の正電位へ上昇させる速度より、少なくとも早く制御することが好ましい。
また、正電位から0Vvs.SCE電位へ及び0Vvs.SCE電位から所定の正電位への周期変動時間は、基材表面に吸着している水生生物の種類や量によっても異なるが、1/1000秒〜90分程度である。
これらの周期変動時間が比較的広く設定されている理由は、1/1000秒等の短時間で、正電位と0Vvs.SCE電位を周期的に制御する場合は、正電位による殺菌効果以上に、電位変化に伴う微生物の付着制御が主目的となっているためで、60分よりも長い時間を必要とする場合は、正電位により付着生物を効果的に殺菌した後、電位変動によって、付着生物及びスケールを脱離除去するためだからである。
【0014】
本発明では、(1)電解質の分解が起こらない正電位を導電性基材に印加し水生生物を殺菌する工程と、(2)該印加電位から0Vvs.SCEに電位を低下させ付着物を脱離する工程と、(3)0Vvs.SCEから正電位に電位を上昇させる脱離する工程とを繰り返し実施することが好ましい。工程の組合せは、特に限定されないが、(1)の行程、(2)の行程及び(3)の行程を一のセットとして、パルス波として電位変化をさせてもよく、適宜電位印加時間を調節しながら行うことが好ましい。
【0015】
本発明に係る方法を実施するにあたっては、導電性基材を作用極とし、その導電性基材作用極に対して適切な対極、参照極およびポテンショスタットを用いて導電性基材に印加する電位を制御することが必要である。使用することのできる対極、参照極およびポテンショスタットとしては、導電性基材に、予め定められた電位を印加できるものであれば特に制限されない。従って、市販の直流電源装置(整流器)に電圧の調節およびタイミング手段を付加したもので容易に実施できる。
【0016】
本発明により処理することのできる電解液は、水生生物を含有する水であれば特に限定されるものではないが、例えば、海水、河川の水、湖沼の水、水道水、飲料水、蒸留水、脱イオン水または各種緩衝液などが挙げられる。また、対象となる水生生物も、それらの水の中に存在する水生生物であれば特に限定されるものではない。
【0017】
【作用】
本発明に係る方法は、導電性基材に電解質の分解が起こらない正電位を印加する工程と、この電解質の分解が起こらない正電位から0Vvs.SCEへと電位を低下させる工程と、0Vvs.SCE電位から電解質の分解が起こらない正電位に電位を上昇させる工程とよりなっているので、導電性基材に付着した水生生物を効果的に殺菌及び/又は基材表面から脱離できることから、防汚効果が飛躍的に高まった。更に電位の変動幅が小さいため、導電性基材の劣化の防止が図れる。
【0018】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
図1は、以下の実施例に用いた装置の模式図である。
試験槽1内には、導電性基材2が配置されている。導電性基材2は、ナイロン樹脂基板3及びその上に形成された導電性樹脂層電極4とよりなっている。導電性樹脂層電極4はポテンショスタット5と連結している。ポテンショスタット5は試験槽1内に配置された参照極6および対極7と各々連結し、更に、関数発生器8と連結している。試験槽1内には500mlの滅菌海水が入っており、また、その底部には撹拌装置9および撹拌棒10が配置されている。参照極6には飽和甘コウ電極(SCE)を、対極7には白金板を用いた。
【0019】
〈導電性基材の調製〉
導電性基材A
ナイロン樹脂板(30×50×1mm)の表面に、以下の方法で導電性樹脂層電極を形成した。
導電性組成物は、バインダ−樹脂としてウレタン系樹脂(関西ペイント(株)製)を用い、ウレタン系樹脂の樹脂固形分に対して10μmのグラファイト(日本黒鉛(株)製)と0.03μmのカ−ボンブラック(三菱化学(株)製、ケッチェンブラックEC−600JD)とを30%混合したものを50重量%充填し、ボ−ルミルで分散して作成した。この導電性組成物に専用硬化剤を5%添加したものを、スプレ−にて上記ナイロン樹脂板上に塗布し、100℃、1時間乾燥することにより導電性樹脂層電極を形成した。尚、導電性樹脂層電極の比抵抗値は3.5×10-2Ω−cmであった。
【0020】
導電性基材B
ナイロン樹脂板(30×50×1mm)の表面に、以下の方法で導電性樹脂層電極を形成した。
導電性組成物は、バインダ−樹脂としてフッ素系樹脂(旭ガラス(株)製)を用い、フッ素系樹脂の樹脂固形分に対して1μmのグラファイト(日本黒鉛(株)製)と0.03μmのカ−ボンブラック(三菱化成(株)製、#3950)とを30%混合したものを60重量%充填しボ−ルミルで分散して作成した。この導電性組成物に専用硬化剤を5重量%添加したものを、スプレーにて上記ナイロン樹脂板上に塗布し、100℃、50分乾燥することにより導電性樹脂層電極を形成した。尚、導電性樹脂層電極の比抵抗値は3.5×10-2Ω−cmであった。
【0021】
導電性基材C(電子メディエータを含んだ導電性基材の作成)
上記導電性基材Bにおいて、フッ素系樹脂を用いた組成物に、電子メディエータとしてフェロセンをフッ素樹脂固形分に対して60重量%混合し、乾燥条件を80℃、60分とした以外は同様となして導電性基材Cを得た。
尚、導電性基材Cの比抵抗値は1.2×10-1Ω−cmであった。
【0022】
〈殺菌効果確認〉
実施例1 (電極表面の付着菌体数に対する電位印加条件の影響)
水生生物として海洋細菌ビブリオ・アルギノリチクス(Vibrio alginolyticus)を用いた。マリンブロス(Marine broth)2216(DIFCO Laboratory)中で25℃、10時間好気的に培養した。培養後の菌体を遠心集菌し、菌体を滅菌海水で洗浄後、滅菌海水中に懸濁させた。ヘマサイトメーターを用いて、1×109 Cells/ml濃度の菌体懸濁液を調製した。
この菌体懸濁液150mlに上記導電性基材A(ウレタン樹脂電極)を浸漬し(面積4.8cm2 )、電位を印加せずに撹拌しながら90分間放置し、導電性基材Aの表面に菌体を吸着させた。滅菌海水でこの導電性基材Aを洗浄して表面に吸着していない菌体を除去し、菌体付着導電性基材を調製した。
滅菌海水に前記菌体付着導電性基材を挿入し、1.2Vvs.SCEの電位を60分印加後、0Vvs.SCEの電位を10秒印加した。
上記電位を印加した後、この導電性基材を滅菌海水で洗浄し、導電性基材上の付着菌体をDAPI(4’,6−Diamidino−2−Phenylindole)とPI(Propidium Iodide)とで染色し、蛍光顕微鏡で観察したところ、付着した微生物が殺菌されていることが確認された。
【0023】
実施例2 (導電性基材表面の付着菌体数に対する電位低下速度の影響)
実施例1において、電位の印加条件を1.2Vvs.SCEを60分印加後、0Vvs.SCEまで電位を低下させるための時間を各々(1)1/10秒、(2)1/5秒、(3)1秒、(4)60秒、(5)300秒とした以外は実施例1と同様の方法で、導電性基材に付着している微生物数を比較した。
尚、1.2Vvs.SCEのみを印加した時の付着生物数を相対値100として表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
実施例3 (電位印加開始12時間後の電極表面の付着菌体数に対する電位印加条の影響)
実施例1と同様にビブリオ・アルギノリチクスの培養を行い、1×109 Cells/ml濃度の菌体懸濁液を調製した。
この菌体懸濁液50mlに上記導電性基材Aを浸漬し、以下に示す条件で12時間電位を印加した。
その結果を表2に示す。
電位印加条件
A:電位印加なし
B:1.2Vvs.SCE
C:1.2Vvs.SCE60分/−0.4Vvs.SCE15分
D:1.2Vvs.SCE60分/0Vvs.SCE1分
【0026】
【表2】
【0027】
実施例4
実施例1において、電位の印加条件を以下に示すとおりとなし、実施例3と同様の方法で殺菌及び脱離試験の評価を行なった。その結果を表3に示す。
電位印加条件
A:電位印加なし
B:1.2Vvs.SCE60分
C:1.2Vvs.SCE5分/0Vvs.SCE1分
D:1.2Vvs.SCE1秒/0Vvs.SCE1秒(パルス波)
【0028】
【表3】
【0029】
実施例5
導電性基材として、上記導電性基材A、導電性基材B及び導電性基材Cを用い、水生生物として海洋細菌(Vibrio alginolyticus)を用い、実施例4と同様の試験を行ない、殺菌及び脱離試験の評価を行なった。
その結果、B及びCの基材においても同様の効果が認められた。
【0030】
【発明の効果】
本発明は、水生生物の電気化学的制御により、水生生物の細胞を殺菌したり、付着した細胞やその分解物を被防汚面である導電性基材表面から脱離させる効果が高い。また、電位の変動が小さいので、海水や河川などの水中に設置される構造物の少なくとも水と接触する部分が導電性を有した基材の劣化が抑制されることが期待できる。従って、電気化学的制御方法により水生生物の濃度が環境で変化しても効果的に長期間に渡り水生生物の付着が防止できるようになった。実施にあたっては、船舶、湾岸設備、漁網、配水管、冷却水道水の殺菌及び生物付着防止など様々な分野に応用できる有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実験装置の模式図。
【符号の説明】
1 試験槽
2 導電性基材
3 基板
4 電極
Claims (4)
- 導電性基材に電解質の分解が起こらない正電位を印加することにより、前記導電性基材表面に直接的又は間接的に接触する水生生物及びスケ−ルを電気化学的に制御する方法において、前記電解質の分解が起こらない正電位を印加する工程と、この電解質の分解が起こらない正電位から0Vvs.SCEへと電位を低下させる工程と、0Vvs.SCE電位から電解質の分解が起こらない正電位に電位を上昇させる工程とよりなり、これらの工程を周期的に繰り返すことを特徴とする水生生物の電気化学的制御方法。
- 前記電解質の分解が起こらない正電位から0Vvs.SCEへと電位を低下させる工程での下降速度が、0Vvs.SCE電位から電解質の分解が起こらない正電位に電位を上昇させる工程での上昇速度より、少なくとも早い速度で制御されていることを特徴とする請求項1記載の水生生物の電気化学的制御方法。
- 導電性基材に、電解質の分解が起こらない正電位を印加することにより前記導電性基材表面に直接的又は間接的に接触した水生生物の細胞を殺菌する工程と、前記電解質の分解が起こらない正電位から0Vvs.SCEへと電位を低下させる工程と、0Vvs.SCE電位から電解質の分解が起こらない正電位に電位を上昇させることにより前記水生生物、その一部の細胞、殺菌された水生生物の細胞及び/又はその破壊物、有機物やスケールを殺菌及び/又は脱離する工程とよりなり、これらの工程を周期的に繰り返すことを特徴とする水生生物の防汚方法。
- 前記電解質の分解が起こらない正電位から0Vvs.SCEへと電位を低下させる工程での下降速度が、0Vvs.SCE電位から電解質の分解が起こらない正電位に電位を上昇させる工程での上昇速度より、少なくとも早い速度で制御されていることを特徴とする請求項3記載の水生生物の防汚方法。
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