JP4923375B2 - 電気化学的防汚方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水生生物などの付着を電気化学的に防止する電気化学的防汚方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
海水や淡水中には多くの水生生物が存在し、水中構造物表面に付着し、様々な問題を引き起こしている。例えば、船舶やブイに付着すると推進抵抗の増大といった問題が発生し、養殖用生け簀に付着すると海水の交流阻害といった問題が発生し、定置網などの漁網に付着すると網成りの変形などが発生する。
また、給排水のパイプ内やバルブ等に付着した微生物は水を介して人や生産物を汚染するといった問題を発生させている。
水に接している構造物表面への水生生物の一般的な付着機構は以下の通りである。
まず付着性のグラム陰性菌が構造物表面に吸着して脂質に由来するスライム状物質を多量に分泌する。さらにグラム陰性菌は、このスライム層に集まって増殖し、微生物皮膜を形成する。そして、海水中ではこの微生物皮膜層上に大型水生生物である藻類、貝類、フジツボ等の大型の水生生物が付着し、付着した大型の水生生物が繁殖し成長し、最終的に水中構造物表面を覆い尽くすことになる。
こうした水中構造物および水に接しているものの表面に付着した水生生物の防汚手段としては殺菌性を有する物質を添加したり、有機スズ系化合物を含有した塗料で塗膜を形成し、有機スズ系化合物を溶出させる方法が一般に行われていた。しかし、前記の方法は有害物質が発生し、水質の汚染による生物への影響が懸念される。
【0003】
近年、有害物質を発生させないで電気化学的に水中構築物や水に接しているものの表面などに付着する水生生物を制御する方法が提案されている。
この電気化学的な水生生物の制御方法は、微生物との直接反応が確認されている所定電位以上の電位を微生物に印加すると、微生物内部の酸化還元物質の一つである補酵素Aが不可逆的に酸化され、微生物の呼吸活性及び微生物膜の透過障壁の低下を誘発し、微生物を死滅させることが可能であるというものである(特公平6−91821号公報)。すなわち、当該公報には、グラム陰性菌の付着を電気化学的に制御することにより大型の生物の付着を防止する方法が示されている。
また、特開平4−341392号公報には、水中において、導電性基板に正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程と、前記導電性基板に負電位を印加することにより、前記導電性基板表面に吸着している殺菌された微生物を脱離する工程とを行うことを特徴とする、水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。
更に特開2001−198572号公報には電気化学的に生成物を発生させる負電位を印加することにより前記導電性基板の洗浄を行う制御方法及び装置を要旨とする発明が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記、水生生物を制御する方法は、正電位を印加することによって、微生物の殺菌や付着防止を行うことができることから海洋汚染が無く、さらに海洋生物の生態系への影響がないことから優れた防汚方法である。
ところで、上記電気化学的防汚方法は、殺菌工程、脱離工程または殺菌工程、脱離工程、洗浄工程からなるが、実際に本方法を湾岸構築物や船舶などに実施する場合、潮位もしくは喫水変動により被防汚面である導電性基板に対する水位が変動する。そして、この水位の変動により、防汚効果が限られてしまうという問題が生じることがあった。そのため各工程の効果を効率的に行える様、水位の変動に対応して各工程を実施する必要がある。
本発明は、水位の変動がある環境においても効率的に防汚効果が得られる電気化学的防汚方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電気化学的防汚方法において、電解液中に浸漬した導電性基材に正電位を印加して前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物の殺菌工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加して前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールの脱離工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させ得る負電位を印加してなる前記導電性基材表面に接触する水生生物およびスケールの洗浄工程とよりなり、前記殺菌工程と前記脱離工程を交互に行い、前記スケールの洗浄工程を、前記殺菌工程と前記脱離工程の間、且つ導電性基材に対する電解液の水位がその日の平均の潮位を超えているうちに行う電気化学的防汚方法を第一の要旨とし、電解液中から電気化学的に発生する生成物が導電性基材表面に析出するアルカリ性を示す物質であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学的防汚方法を第二の要旨とし、前記スケールの洗浄工程の後に、前記殺菌工程を行い、前記スケールの洗浄工程は、少なくとも導電性基材に対する電解液の水位がその日の平均の潮位を超えたときに開始し、前記殺菌工程は電解液の水位が上昇して満潮になる前に開始することを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載の電気化学的防汚方法を第三の要旨とするものである。
【0006】
以下、本発明について詳述する。
本発明に係る電気化学的防汚方法における基本的構成は、導電性基材に正電位を印加することによる殺菌工程と、前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールに電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加することによる脱離工程と、前記導電性基材に付着した水生生物およびスケールに電解液中から電気化学的に生成物を発生させ得る負電位を印加することによる洗浄工程の任意の工程を導電性基材に対する電解液の水位が所定の位置を超えたとき行うよう電位印加するものである。
電位を印加する水位の所定の位置とは、その日の平均の水位以上の位置をいう。
即ち、本発明は、導電性基材に対する電解液の水位がその日の水位の平均値を超えたときに任意の工程を開始する方法である。
【0007】
次に電位印加条件について説明する。
水生生物を含む水中において、導電性基材に正電位を印加すると、水中の水生生物は基材表面に吸着する。さらに基材に印加されている正電位には、基材表面に吸着して接触した水生生物を電気化学的に殺菌する作用がある。即ち、水生生物は、正電位によって基材表面に吸着させられ、表面上で殺菌される。
このとき、設定される電位は電解液中から電気化学的に生成物が発生しない電位であることが好ましい。これは、有害な塩素ガスの発生を防止するためである。好ましい電位は、+0〜+1.5Vvs.Ag/AgCl、より好ましくは+0.5〜+1.2Vvs.Ag/AgClである。印加する電位が+0Vvs.Ag/AgCl未満では水生生物を基材に吸着させて殺菌することができない。また、+1.5Vvs.Ag/AgClを越えた電位を長時間印加すると水や海水が電気分解して有害物質を発生したり、導電性基材の劣化が起こることがあるので好ましくない。
ちなみに、表面に、1.5〜5Vvs.Ag/AgClの電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜を形成した導電性基材及び対極を用いた場合には、+5Vvs.Ag/AgCl迄の電位を印加することができる。
次に、前記導電性基材表面に負電位を印加すると、直接または間接的に接触する水生生物およびスケールが脱離する。印加する負電位は、0〜−2.0Vvs.Ag/AgCl以上である。因みに、印加する負電位が0〜−1.5Vvs.Ag/AgClである場合、負電位の印加時、電解液中から電気化学的に生成物を発生しないので、単に、導電性基材に付着した水生生物、その他の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破損物や有機物が脱離する。
印加する負電位を更に上げ、−1.0Vvs.Ag/AgCl以上、好ましくは−2.0Vvs.Ag/AgCl以上とすると、電解液の分解が発生し、導電性基材表面では水素が発生し、この水素によって導電性基材表面の付着物が除去される。また、導電性基材近傍は水酸基イオンが増加することによりアルカリ性を示す。また、強アルカリ雰囲気になることによって水酸化物の析出が起こる。該水酸化物によって、有機物は溶解する。これら、除去及び溶解によって、導電性基材表面は洗浄されることになる。
上記正電位を印加してなる殺菌工程と、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位を印加してなる脱離工程とは周期的に変化させるが、周期、即ち、正電位及び負電位の維持時間は、本発明に係る電気化学的防汚方法を実施する装置を取り付ける環境に応じて適宜設定すれば良い。
また、上記電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位の印加は、上記正電位を印加してなる殺菌工程と、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位を印加してなる脱離工程との間に周期的もしくは不定期的に1〜24時間(好ましくは1〜12時間)で行う。好ましくは、電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加した後には、上記正電位を印加してなる殺菌工程を組み込んだ方がよい。更に、導電性基材に対する電解液の水位がその日の水位の平均値を超えたとき、上記電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位の印加を行うと、前記水生生物、その一部の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破壊物、有機物やスケールを効果的に洗浄することができる。
【0008】
本発明で用いる導電性基材は、全体が導電性材料から形成されていてもよいが、少なくともその表面または水中に浸漬している一部表面が導電性であることが必要である。
基材は金属、樹脂、無機材料からなり、構造を維持する機能を有するものであれば特に限定されない。金属材料の例としては鉄、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、ニオブ、およびそれらの合金、ステンレス等が挙げられる。樹脂材料の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。無機材料の例としては、ガラス、アルミナ、ジルコニア、セメント等が挙げられる。
基材として、樹脂、無機材料などの非導電性材料を用いる場合、導電性微粒子を材料に充填し、基材を形成することにより導電性を付与し用いればよい。導電性微粒子の例としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボン繊維からなる短繊維などの炭素微粒子、金、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウムまたはこれらの貴金属の酸化物の微粒子、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化クロム等の金属窒化物、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン等の金属炭化物、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ハーフニウム、ホウ化バナジウム、ホウ化ニオブ、ホウ化タンタル、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ホウ化タングステン等の金属ホウ化物、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化バナジウム、ケイ化タングステン等の金属ケイ化物などの微粒子が挙げられる。
【0009】
また、上記導電性微粒子をバインダー樹脂に充填、分散させた導電性組成物を、前記非導電性材料製基材表面に被覆して導電性を付与してもよい。バインダー樹脂の例としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル−ウレタン樹脂、ポリエステル−ウレタン樹脂、シリコン−ウレタン樹脂、シリコン−アクリル樹脂、エポキシ樹脂や、熱硬化型のメラミン−アルキッド樹脂、メラミン−アクリル樹脂、メラミン−ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂、または天然ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ニトリルブチレンゴム、ポリエチレンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリプロピレンエラストマー等のゴム弾性材料が挙げられる。導電性組成物は、導電性シートを形成して非導電性基材上に接着剤を介して積層したり、塗膜層として形成してもよい。
【0010】
上記の導電性微粒子の他に、生物の細胞と電極との電子移動反応を促進する作用を有する特定の化合物を添加してもよい。すなわち、微生物と電極との電子移動を媒介する電子メディエータを導電性材料と共に使用することによって、より効率的に水生生物の殺菌を行うことができる。電子メディエータの例としては、フェロセン、フェロセンモノカルボン酸、フェロセンジカルボン酸または、〔(トリメチルアミン)メチル〕フェロセン等のフェロセンおよびその誘導体、H4Fe(CN)6、K4Fe(CN)6、Na4Fe(CN)6等のフェロシアン類、2,6−ジクロロフェノールインドール、フェナンジンメトサルフェート、ベンゾキノン、フタロシアニン、ブリリアントクレジルブルー、カロシアニン、レゾルシン、チオニン、N,N−ジメチル−ジスルフォネイティド・チオニン、ニューメチレンブルー、トブシンブルーO、サフラニン−O、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ベンジルビオロゲン、アリザリンブリリアントブルー、フェノシアジノン、フェナジンエトサルフェート等が挙げられる。
この様な電子メディエータを担持した導電性基材としてはフェロセン修飾電極を挙げることができる。
【0011】
また、抗菌性を有する材料を添加してもよい。抗菌性を有する物質は、無機物に属するものと有機物に属するものとがある。
無機物としては、銀、銅、ニッケル、亜鉛、鉛、ゲルマニウム等の金属およびこれらの酸化物、酸素酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、有機キレート化合物などが挙げられる。
有機物としては、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、4,5,6,7−テトラクロル−2−トリフルオロメチルベンズイミダゾール、10,10’−オキシスフェノキシアルシン、トリメトキシシリル−プロピルオクタデシルアンモニウムクロライド、2−N−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛などが挙げられる。
【0012】
特に、基材の少なくとも防汚面を、5Vvs.Ag/AgClまでの電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜となしたものは好ましく用いられる。この導電性膜は、金属又はその化合物から構成でき、具体的にはバルブ金属、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物の何れかから構成することができる。
導電性膜を形成するに当たっては、溶射やスパッタリング、イオンプレーティングなどの方法を採用することができる。
金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物については既に記載してあるが、記載した材料はその一部であり、形成方法によっては2種類以上の金属が含まれたり、酸化物の一部が含まれたり、さらにはこれらの化合物が2種以上混合されることから、特に限定はされない。これらの金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物は0.1μm以上の厚さの膜であればよく、最大の厚さは特に限定しないが、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物の形成方法や使用目的により適宜設定すればよい。
【0013】
基材が電気化学的に溶解や腐食する材料、例えば、鉄やアルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウムおよびそれらの合金、ステンレス等の金属材料からなる場合では、該金属材料と接水面に形成された導電層との間に、絶縁性樹脂塗膜層や絶縁性樹脂フィルム層、アルミナ、チタニア酸化ケイ素などの絶縁無機物層、またはチタン、ニオブ、タンタル等のバルブ金属などを設けておけばよい。これらの材料からなる層は1種または2種以上多層として形成されてあってもよい。
【0014】
導電性基材の形状は特に限定されるものではなく、水生生物を効率よく吸着して直接または間接的に接触し、電位を付与することのできるものであればよい。
【0015】
本発明の方法を実現する防汚装置は、上記導電性基材と接触しないように対極が設置されている。対極基材は導電性基材と同様のものを用いることができるが、その表面には5Vvs.Ag/AgClまでの電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜が形成されたものが好ましい。
【0016】
上記、導電性基材と対極とはリード線により電源装置に接続されている。この電源装置は、導電性基材と対極との間に直流を通電する装置であって、極性が変換できる機能を有しているものである。
【0017】
上記構成以外、必要に応じて参照極およびポテンショスタットを用いて導電性基材に電位を印加することもできる。さらに、導電性基材表面の電位を測定する装置および電流のオン/オフを制御する開閉器によって基材表面の電位を制御、維持することも好ましい方法である。
使用できる参照極およびポテンショスタットとしては、導電性基材に、予め定められた電位を印加できるものであれば特に限定されない。従って、市販の直流電源装置(整流器)に電圧の制御およびタイミング手段を付加したもので容易に実施できる。電位測定器および開閉器は市販の装置を使用することができる。
また、電解セルを形成する電極配置は作用極に対し対極の設置位置は限定されないが参照極は作用極の近傍に設置することが好ましい。
水位の変動により電位を印加するタイミングを指定する手段としては、次のようなものを挙げることができる。例えば湾岸構造物に対しては、水位計を設置し、水位が予め指定した一定水位を超えた場合に印加するようにスイッチ回路を付加することができる。また、カメラを設置して導電性基材を撮影し、画像解析によって一定水位を超えたことを判断して電位を印加するようにマイコンとプログラムを装備することもできる。
【0018】
本発明により処理することができる電解液は、水生生物を含有する水であれば特に限定されない。例えば、海水、河川の水、湖沼の水、水道水などが挙げられる。
また、対象となる水生生物も、それらの水中に存在する水生生物であれば特に限定されるものではない。
【0019】
【作用】
本発明に係る方法は、導電性基材を水位が変化する電解液中に浸漬した場合、導電性基材に対する電解液の水位が一日の水位の平均値の位置を超えたとき、導電性基材に正電位を印加してなる殺菌工程と、前記導電性基材表面に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加してなる脱離工程と、前記導電性基材表面に電解液中から電気化学的に生成物を発生させ得る負電位を印加してなる洗浄工程との任意の工程において電位を印加することにより防汚効果の向上ができる。
さらに、電気化学的に生成物を発生させ得る負電位を印加後、水位が低くなる前に殺菌効果のある正電位を印加することにより余分なアルカリ性物質を除去することができることより導電性基材表面が常に新しい状態維持することができ、長期の生物付着防止効果が得られる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
図1は以下の実施例に用いた装置の模式図である。
電極構成として、導電性基材1(この導電性基材1は、その表面に5Vvs.Ag/AgClまでの電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したものである)、対極2、参照極3が設置されている。
導電性基材1は開閉器4および電位測定器5と個々に連結し、開閉器4はポテンショスタット6と連結している。ポテンショスタット6は電極構成に配置された参照極3および対極2と個々に連結し、さらに水位監視装置8を通して関数発生器7と連結している。
水位監視装置8は、水位センサー9と連結している。
参照極3には銀・塩化銀(Ag/AgCl)を、対極2には導電性基材1と同様に、表面に5Vvs.Ag/AgClまでの電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したものを用いた。
導電性基材1表面の電位は電位測定器5により測定される。測定された電位によって開閉器4の制御が行われ、導電性基材表面の電位が維持される。
水位監視装置8は、通常時は関数発生器7の信号をそのままポテンショスタット6に出力するが、電気化学的に生成物を発生させる電位を印加する際には、水位が設定水位に達したときに、電気化学的に生成物を発生させる電位を印加するようにポテンショスタット6に信号を出力する。また水位監視装置8は、水位が設定水位よりも下がると、ポテンショスタット6への出力を再び関数発生器7の信号に切り換える。
【0021】
実施例1
実海洋で、導電性基材(Ti板(5Vvs.Ag/AgClまでの電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したもの)(500×2500mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位印加条件としては、1週間に一回印加電位を−1.4Vvs.Ag/AgCl、120分間、その日の潮位が一日の水位の平均値より高くなる時間に印加するようにプログラムし印加した。通常時は被防汚導電性基材の電位印加電位を0.9Vvs.Ag/AgClで行った。尚、対極にFe板(50×500mm厚さ10mm)、参照極に銀・塩化銀電極(Ag/AgCl)(大機エンジニアリング(株)製ECAG−32A250)を用いた。
【0022】
実施例2
実海洋で、導電性基材(Ti板(5Vvs.Ag/AgClまでの電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したもの)(500×2500mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位印加条件としては、1週間に一回印加電位を−1.4Vvs.Ag/AgCl、120分間、その日の潮位が一日の水位の平均値より高くなる時間に印加するようにプログラムし印加した。通常時は被防汚導電性基材の印加電位を正電位が0.9Vvs.Ag/AgCl、45分間、負電位が−0.6Vvs.Ag/AgClを中心に振幅0.6V、周期2分で23サイクルで印加した。正電位と負電位は、交互に連続的して印加した。尚、対極にFe板(50×500mm厚さ10mm)、参照極に銀・塩化銀電極(Ag/AgCl)(大機エンジニアリング(株)製ECAG−32A250)を用いた。
【0023】
実施例3
実海洋で、導電性基材(Ti板(5Vvs.Ag/AgClまでの電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したもの)(500×2500mm厚さ0.5mm))に以下に示す条件で電位を印加した。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位印加条件としては、1週間に一回印加電位を−1.4Vvs.Ag/AgCl、その日の潮位が一日の水位の平均値より高くなる時間に印加するようにプログラムし印加し、潮位が満潮になる前に通常時被防汚導電性基材へ印加する正電位0.9Vvs.Ag/AgClから印加を始める。また、通常時は被防汚導電性基材の印加電位を正電位が0.9Vvs.Ag/AgCl、45分間、負電位が−0.6Vvs.Ag/AgClを中心に振幅0.6V、周期2分で23サイクルで印加した。正電位と負電位は、交互に連続的して印加した。尚、対極にFe板(50×500mm厚さ10mm)、参照極に銀・塩化銀電極(Ag/AgCl)(大機エンジニアリング(株)製ECAG−32A250)を用いた。
【0024】
上記実施例1、2、3電極の表面状態について目視観察を行った。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【発明の効果】
本発明は、導電性基材を水位が変化する電解液中に浸漬した場合、導電性基材に対する電解液の水位が一日の水位の平均値の位置を超えたとき、導電性基材に正電位を印加してなる殺菌工程と、前記導電性基材表面に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加してなる脱離工程と、前記導電性基材表面に電解液中から電気化学的に生成物を発生させ得る負電位を印加してなる洗浄工程との任意の工程において電位を印加することにより防汚効果を効果的に向上できる。その結果、水生生物の濃度が環境で変化しても効果的に長期間に渡り水生生物の付着が防止できるようになった。また、導電性基材上に析出するアルカリ性物質も、水位が低くなる前に殺菌効果のある正電位を印加することにより除去することができるので、導電性基材表面は、常に新しい状態維持することができ、長期の生物付着防止効果が得ることができる。実施にあたっては船舶、湾岸設備の殺菌および生物付着防止など様々な分野に応用できる有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 防汚装置の模式図
【符号の説明】
1 導電性基材
2 対極
3 参照極
4 開閉器
5 電位測定器
6 ポテンショスタット
7 関数発生器
8 水位監視装置
9 水位センサー
Claims (3)
- 電気化学的防汚方法において、電解液中に浸漬した導電性基材に正電位を印加して前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物の殺菌工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加して前記導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールの脱離工程と、前記導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させ得る負電位を印加してなる前記導電性基材表面に接触する水生生物およびスケールの洗浄工程とよりなり、前記殺菌工程と前記脱離工程を交互に行い、前記スケールの洗浄工程を、前記殺菌工程と前記脱離工程の間、且つ導電性基材に対する電解液の水位がその日の平均の潮位を超えているうちに行うことを特徴とする電気化学的防汚方法。
- 電解液中から電気化学的に発生する生成物が導電性基材表面に析出するアルカリ性を示す物質であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学的防汚方法。
- 前記スケールの洗浄工程の後に、前記殺菌工程を行い、前記スケールの洗浄工程は、少なくとも導電性基材に対する電解液の水位がその日の平均の潮位を超えたときに開始し、前記殺菌工程は電解液の水位が上昇して満潮になる前に開始することを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載の電気化学的防汚方法。
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