JP4385546B2 - 電気化学的防汚方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生物などの付着を電気化学的に防止するために、複数個の対極により被防汚導電性基材に防汚効果を付与する電気化学的防汚方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
海水や淡水中には多くの生物が存在し、水中構造物表面に付着し、様々な問題を引き起こしている。例えば、船舶やブイに付着すると推進抵抗の増大といった問題が発生する。また、養殖用生け簀に付着すると海水の交流阻害といった問題が発生する。更に、定置網などの漁網に付着すると網成りの変形といった問題などが発生する。
また、給排水のパイプ内やバルブ等に付着した微生物は海水や淡水を介して人や生産物を汚染するといった問題を発生する。
海水や淡水に接している構造物表面への生物の一般的な付着機構は以下の通りである。
まず付着性のグラム陰性菌が構造物表面に吸着して脂質に由来するスライム状物質を多量に分泌する。さらにグラム陰性菌は、このスライム層に集まって増殖し、微生物皮膜を形成する。そして、海水中ではこの微生物皮膜上に大型生物である藻類、貝類、フジツボ等の大型の生物が付着する。付着した大型生物が繁殖成長し、最終的に水中構造物表面を覆い尽くすことになる。
こうした水中構造物および海水や淡水に接しているものの表面に付着した生物の防汚手段としては、殺菌性を有する物質を防汚面に添加したり、有機スズ系化合物を含有した塗料で塗膜を形成し、有機スズ系化合物を溶出させる方法が一般に行われていた。しかし、これらの方法は有害物質が発生し、水質の汚染による生物への影響が懸念される。
【0003】
近年、有害物質を発生させないで電気化学的に水中構造物や海水や淡水に接しているものの表面などに付着する生物を制御する方法が提案されている。
この電気化学的な生物の制御方法は、微生物との直接電気化学反応が確認されている所定電位以上の電位を微生物に印加すると、微生物内部の酸化還元物質の一つである補酵素Aが不可逆的に酸化され、微生物の呼吸活性及び微生物膜の透過障壁の低下を誘発し、微生物を死滅させることが可能であるというものである(特公平6−91821号公報)。すなわち、当該公報には、グラム陰性菌の付着を電気化学的に制御することにより大型生物の付着を防止する方法が示されている。
また、特開平4−341392号公報には、水中において、導電性基板に正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程と、前記導電性基板に負電位を印加することにより、前記導電性基板表面に吸着している殺菌された微生物を脱離する工程とを行うことを特徴とする水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。
さらに、導電性基材に負電位を印加することで電解液中から電気化学的に生成物を発生させる負電位を印加することにより、前記導電性基材の表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールを除去する方法であって、更に必要に応じて、電解液中から電気化学的に生成物の発生しない正電位の印加による殺菌工程を含む電気化学的防汚方法を要旨とする発明が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記、生物を制御する方法は、海水や水の電気分解が起こらない電位を防汚しようとする導電性の基材に印加することによって、微生物の殺菌や付着防止を行うことができることから海洋汚染が無く、さらに海洋生物の生態系への影響がないことから優れた防汚方法である。
ところで、上記電気化学的な生物付着制御方法において、電極は、被防汚導電性基材と、この被防汚導電性基材と対になる対極と、必要に応じて採用される被防汚導電性基材の電位を参照するための基準電極とから構成されており、上記被防汚導電性基材と、この被防汚導電性基材と対になる対極と、被防汚導電性基材の電位を参照する為の基準電極とを個々に設置している。
ところが、上記したように、被防汚導電性基材に対して正電位や負電位を印加する際に、対極の材質によっては、被防汚導電性基材に目的とする電位を印加すると、対極から有害物質が発生してしまうことがあった。更に、被防汚導電性基材と対極の面積比や材質差によっては、被防汚導電性基材を目的の電位に調整することができない場合があった。
本発明は、電気化学的防汚系における対極の材質選定に関する自由度を高め、ひいては被防汚導電性基材の電気化学的防汚効果を長期に渡って安定的に得ることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、被防汚導電性基材と、対極と、基準電極と、前記被防汚導電性基材と前記対極との間に電圧を出力する電源とからなり、前記被防汚導電性基材と生物との直接電子移動反応を利用した電気化学的防汚方法であって、前記電源は、前記被防汚導電性基材と前記基準電極との電位差が電気化学的に防汚効果を有する値になるように、前記被防汚導電性基材と複数の対極の間に電圧を出力し、且つ、前記対極は複数個の対極により構成され、前記複数個の対極のうち一つ以上の任意の対極を任意の時間だけ選択して、該選択した一つ以上の対極と前記被防汚導電性基材の間に電圧を出力することを特徴とする電気化学的防汚方法を要旨とするものである。
【0006】
【作用】
本発明に係る電気化学的防汚方法は、被防汚導電性基材に対して複数の対極を設置し、被防汚導電性基材の基準電極に対する電位の設定値に応じて、一つ以上の任意の対極を選択して、被防汚導電性基材と選択した対極との間に電位を印加するため、対極の材質選定に関する自由度が高まると同時に、被防汚導電性基材の電気化学的防汚効果を長期に渡って安定的に得ることが可能となる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明に係る電気化学的防汚方法は、被防汚導電性基材と、対極と、基準電極と、前記被防汚導電性基材と前記対極との間に電圧を出力する電源とからなり、前記被防汚導電性基材と生物との直接電子移動反応を利用した電気化学的防汚方法であって、前記電源は、前記被防汚導電性基材と前記基準電極との電位差が電気化学的に防汚効果を有する値になるように、前記被防汚導電性基材と複数の対極の間に電圧を出力し、且つ、前記対極は複数個の対極により構成され、前記複数個の対極のうち一つ以上の任意の対極を任意の時間だけ選択して、該選択した一つ以上の対極と前記被防汚導電性基材の間に電圧を出力することを特徴とする方法である。
本発明で用いる被防汚導電性基材は、全体が導電性材料から形成されたものであってもよいが、少なくともその表面または水中に浸漬している一部表面が導電性であることが必要である。
基材は金属、樹脂、無機材料からなり、構造を維持する機能を有するものであれば特に限定されない。金属材料の例としては鉄、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、ニオブ、およびそれらの合金、ステンレス等が挙げられる。樹脂材料の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。無機材料の例としては、ガラス、アルミナ、ジルコニア、セメント等が挙げられる。
基材として、樹脂、無機材料などの非導電性材料を用いる場合、導電性微粒子を材料に充填し、基材を形成することにより導電性を付与し用いればよい。導電性微粒子の例としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボン繊維からなる短繊維などの炭素微粒子、金、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウムまたはこれらの貴金属の酸化物の微粒子、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化クロム等の金属窒化物、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン等の金属炭化物、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ハーフニウム、ホウ化バナジウム、ホウ化ニオブ、ホウ化タンタル、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ホウ化タングステン等の金属ホウ化物、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化バナジウム、ケイ化タングステン等の金属ケイ化物などの微粒子が挙げられる。
【0008】
また、上記導電性微粒子をバインダー樹脂に充填、分散させた導電性組成物を、前記非導電性材料製基材表面に被覆して導電性を付与してもよい。バインダー樹脂の例としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル−ウレタン樹脂、ポリエステル−ウレタン樹脂、シリコン−ウレタン樹脂、シリコン−アクリル樹脂、エポキシ樹脂や、熱硬化型のメラミン−アルキッド樹脂、メラミン−アクリル樹脂、メラミン−ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂、または天然ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ニトリルブチレンゴム、ポリエチレンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリプロピレンエラストマー等のゴム弾性材料が挙げられる。導電性組成物は、導電性シートを形成して前記非導電性基材上に接着剤を介して積層したり、塗膜層として形成してもよい。
【0009】
上記の導電性微粒子の他に、生物の細胞と電極との電子移動反応を促進する作用を有する特定の化合物を添加してもよい。すなわち、微生物と電極との電子移動を媒介する電子メディエータを導電性材料と共に使用することによって、より効率的に生物の殺菌を行うことができる。電子メディエータの例としては、フェロセン、フェロセンモノカルボン酸、フェロセンジカルボン酸または、〔(トリメチルアミン)メチル〕フェロセン等のフェロセンおよびその誘導体、H4Fe(CN)6、K4Fe(CN)6、Na4Fe(CN)6等のフェロシアン類、2,6−ジクロロフェノールインドール、フェナンジンメトサルフェート、ベンゾキノン、フタロシアニン、ブリリアントクレジルブルー、カロシアニン、レゾルシン、チオニン、N,N−ジメチル−ジスルフォネイティド・チオニン、ニューメチレンブルー、トブシンブルーO、サフラニン−O、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ベンジルビオロゲン、アリザリンブリリアントブルー、フェノシアジノン、フェナジンエトサルフェート等が挙げられる。
この様な電子メディエータを担持した被防汚導電性基材としてはフェロセン修飾電極を挙げることができる。
【0010】
また、抗菌性を有する材料を添加してもよい。抗菌性を有する物質は、無機物に属するものと有機物に属するものとがある。
無機物としては、銀、銅、ニッケル、亜鉛、鉛、ゲルマニウム等の金属およびこれらの酸化物、酸素酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、有機キレート化合物などが挙げられる。
有機物としては、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、4,5,6,7−テトラクロル−2−トリフルオロメチルベンズイミダゾール、10,10’−オキシスフェノキシアルシン、トリメトキシシリル−プロピルオクタデシルアンモニウムクロライド、2−N−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛などが挙げられる。
【0011】
特に、基材の少なくとも防汚面を、バルブ金属、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物又は金属ケイ化物からなる導電性膜となしたものは好ましく用いられる。
導電性膜を形成するに当たっては、溶射やスパッタリング、イオンプレーティングなどの方法を採用することができる。
金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物については既に記載してあるが、記載した材料はその一部であり、形成方法によっては2種類以上の金属が含まれたり、酸化物の一部が含まれたり、さらにはこれらの化合物が2種以上混合されることから、特に限定はされない。これらの金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物は0.1μm以上の厚さの膜であればよく、最大の厚さは特に限定しないが、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物の形成方法や使用目的により適宜設定すればよい。
【0012】
基材が電気化学的に溶解や腐食する材料、例えば、鉄やアルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウムおよびそれらの合金、ステンレス等の金属材料からなる場合では、該金属材料と接水面に形成された導電層との間に、絶縁性樹脂塗膜層や絶縁性樹脂フィルム層、アルミナ、チタニア酸化ケイ素などの絶縁無機物層、またはチタン、ニオブ、タンタル等のバルブ金属などを設けておけばよい。これらの材料からなる層は1種または2種以上多層として形成されてあってもよい。
【0013】
被防汚導電性基材の形状は特に限定されるものではなく、生物を効率よく吸着して直接または間接的に接触し、電位を付与することのできるものであればよい。
【0014】
本発明の防汚方法に用いる防汚装置において、対極は、上記被防汚導電性基材と接触しないように複数個設置されている。対極基材は被防汚導電性基材と同様のものを用いることができる。
この対極を構成する基材としては、導電性の金属材料が挙げられる。
金属材料の例としては、金、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、鉄、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、ニオブ、亜鉛、マグネシウム、ニッケル、鉛およびそれらの合金、ステンレス等が挙げられる。また複数個設置した対極は、同一材質の対極から構成したり、異なった材質の対極、例えば、鉄製の対極と白金製の対極とを組み合わせて構成したりすることができる。
上記被防汚導電性基材の電位を参照するための基準電極は、電気化学反応が進む被防汚導電性基材の電位を測るときに基準とするものであって、これを配置することによって、基準電極と被防汚導電性基材とを相互に比較できる。例えば水素電極(NHE、RHE、白金黒電極)、カロメル電極(SCE)、銀・塩化銀電極(Ag/AgCl)、硫酸第一水銀電極、酸化水銀電極などが挙げられる。
【0015】
次に電位印加条件について説明する。
生物を含む水中において、被防汚導電性基材に正電位を印加すると、水中の水生生物は基材表面に吸着する。さらに基材に印加されている正電位には、基材表面に吸着して接触した生物を電気化学的に殺菌する作用がある。即ち、生物は、正電位によって基材表面に吸着させられ、表面上で殺菌される。
このとき、設定される電位は電解液中から電気化学的に生成物が発生しない電位であることが必要である。これは、有害な塩素ガスの発生を防止するためである。好ましい電位は、+0〜1.5Vvs.SCE、より好ましくは+0.5〜+1.2Vvs.SCEである。印加する電位が+0Vvs.SCE未満では生物を基材に吸着させて殺菌することができない。また、+1.5Vvs.SCEを越えた電位を長時間印加すると水や海水が電気分解して有害物質を発生したり、被防汚導電性基材の劣化が起こることがあるので好ましくない。
ちなみに、表面に、5Vvs.SCE以下の電位を印加しても塩素が発生しない導電性膜を形成した被防汚導電性基材を用いた場合には、+5Vvs.SCE迄の電位を印加することができる。
さらに、上記正電位を印加してなる殺菌工程の後、印加した正電位を、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位に変更する事もできる。この負電位は、0〜−1.5Vvs.SCE、好ましくは−0.1〜−1.0Vvs.SCEである。被防汚導電性基材に電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位を印加することによって、被防汚導電性基材に付着した生物、その他の細胞、殺菌された生物の細胞および/またはその破損物や有機物の脱離がおこる。
上記正電位を印加してなる殺菌工程と、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位を印加してなる脱離工程とは周期的に変化させるが、周期、即ち、正電位及び負電位の維持時間は、本装置を取り付ける環境に応じて適宜設定すれば良い。
さらに、電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位、−1.0Vvs.SCE以上、好ましくは−2.0Vvs.SCE以上であり、この値での電位の印加を周期的もしくは不定期的に所定の時間で行うことによって、前記水生生物、その一部の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破壊物、有機物やスケールを効果的に洗浄することができる。
【0016】
本発明では、前記被防汚導電性基材表面に直接または間接的に接触する生物を電気化学的に制御する方法において(1)電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加することにより、前記被防汚導電性基材表面に直接または間接的に接触する生物を電気化学的に殺菌する工程(殺菌工程)と、(2)該印加正電位から電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位に電位を低下させ付着物を脱離する工程(脱離工程)と(3)電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加することにより、該導電性基材の表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールを洗浄する工程(洗浄工程)を繰り返し実施することが望ましい。工程の組み合わせは、特に限定されないが(1)の工程、(2)の工程を周期的に行い、不定期的に(3)の工程を組み入れることにより導電性基材の劣化防止を行うことができる。
そして被防汚導電性基材との間に電位を印加する際には、複数の対極のうち一つ以上の任意の対極を選択して電位を印加する。対極の選択は固定ではなく、状況に応じて複数の対極から電位を印加する対極を適宜選択する。複数の対極すべてを選択しても勿論よく、対極を一つでなく複数設置することによって被防汚導電性基材表面の電気化学的反応が均一化されることが予想される場合は、複数の対極のうち常にすべての対極を選択して電位を印加する。また対極を切り換える場合の選択の指針としては、個別の対極材質の特性に基づき、印加される電位に応じて発生が予想される劣化や有害物質などを、当該電位の印加時に、相当する対極を選択しないことによって抑制することなどを挙げることができる。
【0017】
【実施例】
装置例1
以下、本発明の詳細を図面を用いて説明する。図1は本発明の方法に基づく防汚装置の電気的ブロック図である。
図1に示す直流電源1には被防汚導電性基材2が接続されており、また制御部11によって制御されるスイッチ6及び7を介して対極4及び対極5が接続されている。スイッチ6及び7は、その開/閉により対極4及び5と電源1とを切断したり接続したりする。対極4及び5は、上に記した導電性基材のうち、それぞれ異なる材質のものを用いる。対極の数は二に限るものではなく、三以上あってもよく、その際の材質の組み合わせも任意である。
デジタル/アナログ変換器(以下、D/A変換器と略記する)8は、制御部11が指示する出力電圧のデジタル指示値を入力してアナログ値に変換し、電源1に出力する。アナログ/デジタル変換器(以下、A/D変換器と略記する)9は、被防汚導電性基材2の電位を入力し、デジタル値に変換して制御部11に出力する。またA/D変換器10は、基準電極3の電位を入力し、デジタル値に変換して制御部11に出力する。制御部11は、CPU、入出力ポート、及びROMやRAM等のメモリから構成された回路からなり、制御プログラムや後述する制御のためのタイミングチャートをROMに内蔵している。制御部11に前記構成部を内蔵したワンチップコンピュータを用いることにより、全体の回路構成を簡素化し安価にすることが可能である。
制御部11は内蔵した制御プログラム及びタイミングチャートに従い、例えば被防汚導電性基材2及び基準電極3の電位をA/D変換器9及び10により測定し、被防汚導電性基材2の基準電極3に対する電位をタイミングチャートが指示する値になるよう、D/A変換器8にデジタル値を出力して電源1を制御する。このような制御には、例えばよく知られたアルゴリズムであるPID制御を用いることができる。また制御部11は、タイミングチャートの指示に従い、スイッチ6及び7を開閉する。
【0018】
次に、図2に示す電位制御の切り換えタイミングチャート、及び対極4及び5の電源1に対する接続/切断タイミングチャートを詳細に説明する。タイミングチャートは横軸が時間を、電位制御の切り換えタイミングチャート(a)の縦軸は被防汚導電性基材2の基準電極3に対する電位の指示値を、また対極4及び5の電源1に対する接続/切断タイミングチャート(b)及び(c)の縦軸は対極4及び5の電源1に対する接続状態を「接続」及び「切断」でそれぞれ表す。被防汚導電性基材2に対して、正電位を印加して基材表面において生物を電気化学的に殺菌する工程(殺菌工程12)と、電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加して付着物を脱離する工程(脱離工程13)と、電解液中から電気化学的に生成物を発生する負電位を印加して基材表面を洗浄し付着物を洗い流す工程(洗浄工程14)とを周期的に適用する。対極4及び5の材質はそれぞれ異なり、対極5は、被防汚導電性基材2に対して洗浄工程14を適用する場合に、印加される電位が大きいため電位が高くなり、例えば塩素などの有害物質を発生することが予め分かっている白金のような材質で作られている。従って、被防汚導電性基材2に洗浄工程14を適用する際には、制御部11によってスイッチ7を開き、対極5を電源1と切断して有害物質の発生を防ぐことが可能となるなど、状況に応じて適当な対極もしくは対極の組み合わせを選択するような制御を行うことが可能である。
本例図2においては、上記の三工程を順番に適用しているが、各工程の電位、各工程を適用する時間、適用する順序、また各周期において特定の工程を適用するか否かなどは、被防汚導電性基材2の材質や周囲の環境などにより任意に設定可能である。また基材の抵抗値などから防汚効率を経時的に監視して、上記の設定を動的に変更するような構成も可能である。更に、例えば対極が三個以上あったり、対極の材質が三種類以上であっても基本的に同様であり、対極と同数のスイッチもしくは複数の対極をグループ分けしてそのグループの数だけスイッチを設置し、被防汚導電性基材への印加電位に応じて、適当な対極もしくは対極の組み合わせのグループを選択し、電源1に接続すればよい。
【0019】
図3は、本発明の方法に基づく防汚装置の装置例1を熱交換器に適用した事例の構成図である。図3に示す直流電源1には、被防汚導電性基材2(本装置図においては、熱交換器15のプレート)が接続されており、また、制御部11によって制御されるスイッチ6及び7を介して対極4及び対極5が接続されている。更に、対極4、5は対極設置槽A16、対極設置槽B17内に設置され、対極設置槽A16内には基準電極3が設置されている。
スイッチ6及び7は、その開/閉により対極4及び5と電源1とを切断したり接続したりする。対極4及び5は、上に記した導電性基材のうち、それぞれ異なる材質のものを用いる。対極の数は二に限るものではなく、三以上あってもよく、その際の材質の組み合わせも任意である。
デジタル/アナログ変換器(以下、D/A変換器と略記する)8は、制御部11が指示する出力電圧のデジタル指示値を入力してアナログ値に変換し、電源1に出力する。アナログ/デジタル変換器(以下、A/D変換器と略記する)9は、被防汚導電性基材2の電位を入力し、デジタル値に変換して制御部11に出力する。またA/D変換器10は、基準電極3の電位を入力し、デジタル値に変換して制御部11に出力する。制御部11は、CPU、入出力ポート、及びROMやRAM等のメモリから構成された回路からなり、制御プログラムや後述する制御のためのタイミングチャートをROMに内蔵している。制御部11に前記構成部を内蔵したワンチップコンピュータを用いることにより、全体の回路構成を簡素化し安価にすることが可能である。
制御部11は内蔵した制御プログラム及びタイミングチャートに従い、例えば被防汚導電性基材2及び基準電極3の電位をA/D変換器9及び10により測定し、被防汚導電性基材2の基準電極3に対する電位をタイミングチャートが指示する値になるよう、D/A変換器8にデジタル値を出力して電源1を制御する。このような制御には、例えばよく知られたアルゴリズムであるPID制御を用いることができる。また制御部11は、タイミングチャートの指示に従い、スイッチ6及び7を開閉する。
【0020】
次に上記装置例を使用して本発明の実施例を説明する。
実施例1
被防汚導電性基材2は、チタン板(5Vvs.Ag/AgCl以下の電位を印加しても塩素が発生しない材料で形成したもの)(20×100mm厚さ0.5mm)を用いた。被防汚導電性基材2と対になる対極4、5は、鉄、白金(20×100mm厚さ0.5mm)を用いた。また、以下に示す条件で電位を印加して対極の状態を確認した。
電位印加条件は、被防汚導電性基材の印加電位を0.9Vvs.Ag/AgCl(殺菌工程)、−0.6Vvs.Ag/AgCl(脱離工程)、−1.4Vvs.Ag/AgCl(洗浄工程)となし、各電位に対して印加時間を60分とした。殺菌工程及び脱離工程の時には対極4、5を選択し電圧を出力し、洗浄工程の際には、対極4のみを選択して電圧を出力した。
このときの電解液に人工海水(千寿製薬(株)製ニューマリンアートSF)を用いた。
対極の状態の確認は、重量測定、及び目視観察によって行った。また、溶液の残留塩素測定を行った。
残留塩素の測定は、電位を印加した電解液50mlに沃素試薬(オリオン(株)製97−70−10)0.5ml、酸試薬(オリオン(株)製97−70−09)0.5ml、加え2分後、塩素イオン電極(オリオン(株)製塩素イオン電極9770)を投入し5分後の電位を測定し、測定電位より塩素濃度を換算した。
【0021】
実施例2
アルファ・ラバル(株)製プレート式熱交換器(M6−MFML)を用い、上記説明の熱交換器に適用した事例の構成通りに装置を組み立てて電位印加試験を行った。被防汚導電性基材2は、熱交換器のプレート(チタン製)30枚を用いた。被防汚導電性基材2と対になる対極4、5は、鉄(67×100mm厚さ0.5mm)を用いた。また、以下に示す条件で電位を印加して対極の状態を確認した。
電位印加条件は、被防汚導電性基材2の印加電位を0.9Vvs.Ag/AgCl(殺菌工程)、−0.6Vvs.Ag/AgCl(脱離工程)、−1.4Vvs.Ag/AgCl(洗浄工程)となし、各電位に対して印加時間を60分とした。ただし、全ての工程に於いて対極4、5を選択し電圧を出力した。
このときの電解液に人工海水(千寿製薬(株)製ニューマリンアートSF)を用いた。
また、対極の状態の確認条件は実施例1と同様に行った。
更に0.9Vvs.Ag/AgCl(殺菌工程)の電位印加時に於いて、海洋細菌を用いて殺菌試験を行った。海洋細菌はビブリオアルギノリティカスを用いた。また、菌体懸濁液(1.0×108cells/ml)中に被防汚導電性基材2を90分間浸漬し、被防汚導電性基材2上に菌体を付着させた。この被防汚導電性基材2表面を滅菌海水で洗浄後、印加電位を前記条件で印加し、被防汚導電性基材2を取り出して被防汚導電性基材2表面を10mlの滅菌海水で100回繰り返しピペッティングで洗浄し菌体を回収後、コロニー法で生菌率を測定した。コロニー法は0.7%の寒天を含むマリンブロスと懸濁液1mlと混釈し25℃で12時間培養し生じたコロニー数を計数した。生菌率は以下の式より求めた。
生菌率=(電位を印加した被防汚導電性基材のコロニー数)/(電位を印加しない被防汚導電性基材のコロニー数)
【0022】
実施例3
実施例2と同様にアルファ・ラバル(株)製プレート式熱交換器(M6−MFML)を用いて電位印加試験を行った。被防汚導電性基材2は、熱交換器のプレート(チタン製)30枚を用いた。被防汚導電性基材2と対になる対極4、5は、鉄及び白金(67×100mm厚さ0.5mm)を用いた。また、以下に示す条件で電位を印加して対極の状態を確認した。
電位印加条件は、被防汚導電性基材の印加電位を0.9Vvs.Ag/AgCl(殺菌工程)、−0.6Vvs.Ag/AgCl(脱離工程)、−1.4Vvs.Ag/AgCl(洗浄工程)となし、各電位に対して印加時間を60分とした。殺菌工程及び脱離工程の時には対極4、5を選択し電圧を出力し、洗浄工程の際には、対極4のみを選択して電圧を出力した。
このときの電解液に人工海水(千寿製薬(株)製ニューマリンアートSF)を用いた。
また、対極の状態の確認条件は実施例1と同様に行った。
更に0.9Vvs.Ag/AgCl(殺菌工程)の電位印加時に於いて、海洋細菌を用いて殺菌試験を行った。海洋細菌はビブリオアルギノリティカスを用いた。また、菌体懸濁液(1.0×108cells/ml)中に被防汚導電性基材2を90分間浸漬し、被防汚導電性基材2上に菌体を付着させた。この被防汚導電性基材2表面を滅菌海水で洗浄後、印加電位を前記条件で印加し、被防汚導電性基材2を取り出して被防汚導電性基材2表面を10mlの滅菌海水で100回繰り返しピペッティングで洗浄し菌体を回収後、コロニー法で生菌率を測定した。コロニー法は0.7%の寒天を含むマリンブロスと懸濁液1mlと混釈し25℃で12時間培養し生じたコロニー数を計数した。生菌率は以下の式より求めた。
生菌率=(電位を印加した被防汚導電性基材のコロニー数)/(電位を印加しない被防汚導電性基材のコロニー数)
【0023】
比較例1
実施例2と同様にアルファ・ラバル(株)製プレート式熱交換器(M6−MFML)を用いて電位印加試験を行った。被防汚導電性基材2は、熱交換器のプレート(チタン製)30枚を用いた。被防汚導電性基材2と対になる対極4は、鉄製のもの(134×100mm厚さ0.5mm)を1個のみ用いた。従って、対極5は用いていない。また、以下に示す条件で電位を印加して対極の状態を確認した。
電位印加条件は、被防汚導電性基材の印加電位を0.9Vvs.Ag/AgCl(殺菌工程)、−0.6Vvs.Ag/AgCl(脱離工程)、−1.4Vvs.Ag/AgCl(洗浄工程)となし、各電位に対して印加時間を60分とした。
このときの電解液に人工海水(千寿製薬(株)製ニューマリンアートSF)を用いた。
また、対極の状態の確認条件は実施例1と同様に行った。
更に0.9Vvs.Ag/AgCl(殺菌工程)の電位印加時に於いて、海洋細菌を用いて殺菌試験を行った。海洋細菌はビブリオアルギノリティカスを用いた。また、菌体懸濁液(1.0×108cells/ml)中に被防汚導電性基材2を90分間浸漬し、被防汚導電性基材2上に菌体を付着させた。この被防汚導電性基材2表面を滅菌海水で洗浄後、印加電位を前記条件で印加し、被防汚導電性基材2を取り出して被防汚導電性基材2表面を10mlの滅菌海水で100回繰り返しピペッティングで洗浄し菌体を回収後、コロニー法で生菌率を測定した。コロニー法は0.7%の寒天を含むマリンブロスと懸濁液1mlと混釈し25℃で12時間培養し生じたコロニー数を計数した。生菌率は以下の式より求めた。
生菌率=(電位を印加した被防汚導電性基材のコロニー数)/(電位を印加しない被防汚導電性基材のコロニー数)
【0024】
上記実施例1〜3及び比較例1の試験結果を表1に示す。
表1は実施例1〜3および比較例1の洗浄工程における対極の状態及び残留塩素の有無を示したものである。また、実施例2及び比較例1における洗浄工程における電流値の比較をしたところ実施例2の方が高い値を示した。
また、表2は、実施例2、3及び比較例1における殺菌試験結果を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【発明の効果】
本発明に係る電気化学的防汚方法は、被防汚導電性基材に対して複数の対極を設置し、被防汚導電性基材の基準電極に対する電位の設定値に応じて、一つ以上の任意の対極を選択して、被防汚導電性基材と選択した対極との間に電位を印加するため、対極の材質選定に関する自由度が高まった。また、同時に、被防汚導電性基材の電気化学的防汚効果を長期に渡って安定的に得ることが予測される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電気的ブロック図
【図2】 電位制御の切り替えタイミングチャートであって、(a)は電位制御の切り替えタイミングチャートを、(b)は対極4の電源1に対する接続/切断タイミングチャートを、(c)は対極5の電源1に対する接続/切断タイミングチャートを各々示す。
【図3】 本発明を熱交換器に適用した事例の構成図である。
【符号の説明】
1 電源
2 被防汚導電性基材
3 参照極
4 対極
5 対極
6 スイッチ
7 スイッチ
8 D/A変換器
9 A/D変換器
10 A/D変換器
11 制御部
12 殺菌工程
13 脱離工程
14 洗浄工程
15 熱交換器
16 対極設置槽A
17 対極設置槽B
Claims (2)
- 被防汚導電性基材と、対極と、基準電極と、前記被防汚導電性基材と前記対極との間に電圧を出力する電源とからなり、前記被防汚導電性基材と生物との直接電子移動反応を利用した電気化学的防汚方法であって、前記電源は、前記被防汚導電性基材と前記基準電極との電位差が電気化学的に防汚効果を有する値になるように、前記被防汚導電性基材と複数の対極の間に電圧を出力し、且つ、前記対極は複数個の対極により構成され、前記複数個の対極のうち一つ以上の任意の対極を任意の時間だけ選択して、該選択した一つ以上の対極と前記被防汚導電性基材の間に電圧を出力することを特徴とする電気化学的防汚方法。
- 前記複数個の対極は、その対極中の一つ以上が、他の対極と異なる一種類以上の材質のものであることを特徴とする請求項1記載の電気化学的防汚方法。
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