JP4069725B2 - 多孔性芳香族ポリアミド系フィルムおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フィルム内部にのみ空孔を有する多孔性芳香族ポリアミド系フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ポリアミドフィルムは、その優れた耐熱性、機械特性を活かして種々な用途に検討されている。特にパラ配向系の芳香族ポリアミドフィルムは剛性、強度等の機械特性が他のポリマーより優れているため、薄物化に非常に有利であり、プリンターリボン、磁気テープ、コンデンサー、太陽電池等の用途が考えられている。また、その剛性、耐熱性、更には耐薬品性を活かし、多孔を有するフィルムも提案されている。これは、芳香族ポリアミドフィルムに微細な貫通孔を多数形成することにより、電池のセパレーターとしたり、誘電率を低下させ高周波の回路基板用のベースフィルムに活用しようとする試みである。例えば、特許文献1には、芳香族ポリアミドと可溶性樹脂のブレンドポリマーを湿式製膜することにより、貫通孔を有する微孔性フィルムが開示されている。また、特許文献2には、同じく芳香族ポリアミドと異種ポリマーのブレンドポリマーを成形後に異種ポリマーを溶解する溶媒に浸漬し、除去することにより貫通孔を有するフィルムが開示されている。こうしたフィルムは、電解質の通過を制御するセパレーターとしては有用であり、また、フィルムの誘電率を低下させることは可能であると考えられるが、一方で、回路材料などの絶縁材として使用とした場合などに、導通を起こしやすくなったり、表面が粗れているため、銅箔との密着性、銅箔の厚み均一性に欠ける場合がある。こうした問題を解決するには、一旦貫通孔を有する多孔性フィルムを形成後、その上に芳香族ポリアミドフィルム層を形成する方法が考えられるが、生産性、コストの点で実用的とは言えない。
【0003】
【特許文献1】
特開平4−25535号公報
【0004】
【特許文献2】
特開2001−329104号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決し、芳香族ポリアミドの本来有する耐熱性、剛性を活用して、誘電率が低く、表面が平滑な芳香族ポリアミド系フィルムを得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するための本発明は、表層において長軸が1μm以上の開孔部の個数密度が1個/2,500μm2未満であり、且つ、フィルム内部に空孔を有する多孔性芳香族ポリアミド系フィルムを特徴とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の芳香族ポリアミドとは、次の一般式(I)および/または一般式(II)で表わされる繰り返し単位を50モル%以上含むものが好ましく、70モル%以上からなるものがより好ましい。
一般式(I)
【0008】
【化1】
【0009】
一般式(II)
【0010】
【化2】
【0011】
ここで、Ar1,Ar2、Ar3は 例えば、
【0012】
【化3】
【0013】
などが挙げられ、X、Yは
−O−、−CH2−、−CO−、−SO2−、−S−、−C(CH3)2−等から選ばれるが、これらに限定されるものではない。更にこれらの芳香環上の水素原子の一部が、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、およびメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基(特にメチル基)、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などのアルコキシ基などの置換基で置換されているものも含み、また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されているものも含む。
【0014】
特性面からは上記の芳香環がパラ配向位で結合されたものが、全芳香環の50モル%以上、好ましくは75モル%以上を占める重合体が、フィルムの剛性が高く耐熱性も良好となるため好ましい。ここでいうパラ配向位とは結合位が直線となるものである。また芳香環上の水素原子の一部がハロゲン基(特に塩素)で置換された芳香環が全体の30モル%以上であると耐湿性が向上し、吸湿による寸法変化、剛性低下などの特性が改善されるために好ましい。
【0015】
本発明で用いる芳香族ポリアミドは、一般式(I)および/または一般式(II)で表される繰り返し単位を50モル%以上含むものが好ましく、50モル%未満は他の繰り返し単位が共重合、またはブレンドされていても差し支えない。
【0016】
本発明の芳香族ポリアミド系フィルムは、その内部に空孔を有するが、その最表層(表層)には実質的に開孔部を持たないものである。すなわち、空孔を有する層と空孔が観察されない層との層状構成を有している。表層について、具体的には、表層において長軸(最長の長さが測定される軸:以下、最長軸という)が1μm以上の開孔部の個数密度が1個/2,500μm2未満であり、好ましくは、最長軸が0.5μm以上の開孔部の個数密度が1個/2,500μm2未満であり、より好ましくは、最長軸が0.2μm以上の開孔部の個数密度が1個/2,500μm2未満である。内部に空孔を有すると、フィルム全体の誘電率は、ポリマーの誘電率と空気の誘電率(≒1)との合成誘電率となるため低下し、高周波の回路基板用に適合したものとなる。また、最表層部に開孔部を有しないことにより、表面の平滑性が向上し、接着剤、金属などとの密着性、また、積層する物質の厚み均一性が向上すると共に、絶縁性が向上する。また、最表層が剛性の高い芳香族ポリアミド系フィルムで構成されているため、曲げ剛性が高くなるという利点も有する。
【0017】
ここで、上記の実質的に開孔部を有しない最表層は、フィルムの少なくとも片面に形成されていることが必要であるが、両面とも開孔部を有しない層を持つことが好ましい。
【0018】
また、本発明のフィルムは、断面写真の観察によって測定される最表層の実質的に開孔部を有しない層(空孔が観察されない層)の厚みが10〜1,000nmであると、絶縁性、低誘電率化に有利であるため好ましい。より好ましくは、20〜800nmであり、更に好ましくは、30〜500nmである。最表層の厚みが10nm未満であると、絶縁性が低下したり、機械特性が低下することがある。また、1,000nmを超えると、誘電率の低下が不十分だったり、内部の空孔が発達しないことがある。
【0019】
また、フィルムの全厚みは、3〜20μmであると、芳香族ポリアミド系フィルムの剛性を活かして薄膜化できるため好ましい。3μm未満であると、フィルムが脆く実用に適さなくなったり、20μmを超えると、内部の空孔が不均一になりフィルムが大きくカールすることがある。より好ましくは3.5〜15μmであり、更に好ましくは4〜12μmである。
【0020】
また、本発明のフィルムにおいて内部の空孔の大きさは、平均値として0.1〜0.8μmであると、機械、電気などのフィルム特性の斑が小さくなるため好ましい。より好ましくは、0.2〜0.5μmである。
【0021】
また、フィルム内部において空孔の占める割合(空孔率)は、30〜85%であると、機械、電気特性のバランスが良好となるため好ましい。より好ましくは、40〜75%である。
【0022】
本発明の芳香族ポリアミド系フイルムは、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、核生成剤等の無機または有機の添加剤が含有されていてもよい。
【0023】
例えば、本発明の芳香族ポリアミド系フィルム中の滑り性、加工性改善の目的で有機および/または無機の粒子を含有せしめても良い。
【0024】
有機粒子としては、例えば架橋ポリビニルベンゼン、アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂粒子などが挙げられ、無機粒子としては、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライト粒子などが挙げられる。また、上記有機粒子に他の有機物で被覆等の各種処理を施した上記有機高分子粒子、あるいは表面に上記の有機高分子で被覆等の各種処理を施した無機粒子等も使用できる。粒子径、添加量は用途により適切に選定されるべきものであるが、平均粒子径が20〜200nm、より好ましくは50〜150nmの単分散粒子を用いることが好ましく、また、添加量は0.1〜2重量%、より好ましくは0.2〜1重量%である。使用する粒子、調製方法にもよるが、上記の範囲を超えると、粒子凝集による異常突起が発生し、工程を汚染することがある。なお、この場合の平均粒子径は、遠心分離を利用した粒度分布測定器(例えば島津製作所製、CAPA−700)を用い、面積平均径の中央値を平均粒子径とする。また、フィルムの状態においては、透過型電子顕微鏡を用いて、倍率10,000倍以上で50個以上の粒子を観察し、個々の粒子の径から平均粒子径を求めることもできる。
【0025】
本発明のフィルムの表面粗さは用途により適切に設計されるものであるが、従来の貫通孔を有するフィルムとは異なり、最表層に開孔部を実質的に有しないため、平滑フィルムとして設計することが、本発明の効果をより一層奏することが可能となるので好ましい。表面粗さとしては、中心線平均粗さ(Ra)として、1〜20nmが好ましく、2〜10nmがより好ましい。
【0026】
本発明のフィルムの少なくとも一方向のヤング率は5GPa以上、より好ましくは6GPa以上、更に好ましくは8GPa以上であると、薄膜でも加工性に優れるため好ましい。ヤング率の上限は特に限定されるものではないが、15GPa程度である。
【0027】
該フィルムの少なくとも一方向の伸度は10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上であると適度な柔軟性を持つので好ましい。伸度の上限は他の物性とのバランスにより決定されるが、通常90%程度である。
【0028】
該フィルムの吸湿率は、5%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下であると、湿度変化によるテープの伸縮が抑えられ、良好な出力特性を保てるので好ましい。また、吸湿率を大幅に低下させようとした場合に他のフィルム特性を損なう可能性があるため、下限としては0.3%程度である。
【0029】
本発明のフィルムは、フレキシブルプリント基板、ビルドアップ基板などの回路絶縁材料、コンデンサー、絶縁テープ、プリンタリボン、音響振動板、太陽電池のベースフィルム、磁気記録媒体のベースフィルムなど種々の用途に好ましく用いることができる。中でも、表面平滑性と内部空孔含有による優れた電気特性を活かすことの出来る回路絶縁材料、コンデンサー、また、表面平滑性と内部空孔含有による適度なクッション性を活かした絶縁テープ、磁気テープのリードフィルムに、特に好ましく用いることが出来る。
【0030】
次に本発明のフィルムの製造法について記すが、これに限定されるものではない。
【0031】
まず、ポリマーであるが、前述した芳香族ポリアミドに、後述する空孔生成剤を含有せしめることが、本発明の多孔性芳香族ポリアミド系フィルムを得る上で好ましい。
【0032】
まず芳香族ポリアミドであるが、酸クロリドとジアミンから得る場合には、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性有機極性溶媒中で、溶液重合したり、水系媒体を使用する界面重合などで合成される。この時、低分子量物の生成を抑制するため、反応を阻害するような水、その他の物質の混入は避けるべきであり、効率的な攪拌手段をとることが好ましい。また、原料の当量性は重要であるが、製膜性を損なう虞のある時は、適当に調整することができる。また、溶解助剤として塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどを添加しても良い。
【0033】
単量体として芳香族ジ酸クロリドと芳香族ジアミンを用いると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの周期律表I族かII族のカチオンと水酸化物イオン、炭酸イオンなどのアニオンからなる塩に代表される無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤が使用される。また、基材フィルムの湿度特性を改善する目的で、塩化ベンゾイル、無水フタル酸、酢酸クロリド、アニリン等を重合の完了した系に添加し、ポリマーの末端を封鎖しても良い。また、イソシアネートとカルボン酸との反応は、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行なわれる。
【0034】
これらのポリマー溶液はそのまま空孔生成剤とのブレンド用原液として使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上記の有機溶媒や、硫酸等の無機溶剤に再溶解してブレンド用原液を調製してもよい。
【0035】
上記の空孔生成剤とは、製膜原液に含有され製膜された場合、フィルムの内部に空孔を生成せしむる能力を有する化合物をいう。中でも、前述の芳香族ポリアミドとは構造の異なる繰り返し単位を有する一種以上の重合体を用いることが好ましく、芳香族ポリアミド溶液に添加したときに溶液状態で、目視で透明性を保つもの、すなわち均一に溶解するものが好ましい。具体的には、芳香族ポリアミドの溶媒として好適に用いられるN−メチルー2−ピロリドン(以下、NMP)に、30℃で5重量%以上溶解可能な重合体であればよく、このような空孔生成剤の例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0036】
芳香族ポリアミドと空孔生成剤とのブレンド方法としては、芳香族ポリアミドの重合前あるいは重合後に、ペレット、粉末状の空孔生成剤を直接あるいは、溶剤に溶解させて添加しても構わないが、芳香族ポリアミドと空孔生成剤とを溶剤に溶解させた状態でブレンドし、成型用原液とすることが好ましい。芳香族ポリアミドと空孔生成剤を溶解させる溶剤は、それぞれ異なったものでも構わないが、コスト、生産性等の工業的メリットを勘案すると同種の溶剤が好ましい。このような溶剤としては、N−メチルー2ーピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチレンホスホルアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホンなどの有機溶媒や濃硫酸等の鉱酸が挙げられるが、本発明のフィルムを好適に得るためには、NMPが好ましい。
【0037】
芳香族ポリアミドと空孔生成剤の構成比率は、使用するポリマーにより適切に設計する必要があるが、芳香族ポリアミドが、芳香族ポリアミドと空孔生成剤の合計に対して、50〜90重量%、より好ましくは60〜80重量%であると、芳香族ポリアミドの剛性を維持しつつ、本発明の多孔性フィルムを得ることができるため、好ましい。芳香族ポリアミドの量が50重量%未満であると、剛性が低下するだけでなく、最表層に開孔部が生じることがある。また、90重量%より多いと、内部空孔が十分に形成されないことがある。
【0038】
次に本発明のフィルムの成形法について説明する。
【0039】
上記のように調製された製膜原液は、濾過精度が6,000nm以下のフィルターによって濾過された後、いわゆる溶液製膜法によりフィルム化が行なわれる。溶液製膜法には、乾燥のみで溶媒を除去し成形する乾式法、製膜原液を直接、水、溶剤、水/溶剤の浴中に導入し、溶媒除去を行い成形する湿式法、一旦、乾燥により自己支持性を得たゲルフィルムを湿式浴に導入して残存溶媒を除去して成形する乾湿式法、製膜原液を支持体上にキャスト、乾燥するが、自己支持性を得ない状態で湿式浴に導入して成形する半乾半湿式法があるが、本発明のフィルムを得るためには、半乾半湿式法を採用することが好ましい。
【0040】
次にこの半乾半湿式法について説明する。
【0041】
前述した製膜原液は、ガラス板、金属板、ドラム、エンドレスベルト等の支持体上にキャストされ、次いで熱風乾燥により、溶媒の一部を除去する。この工程において、溶媒の飛散量と乾燥温度を制御することが本発明のフィルムを得る上で重要である。すなわち、最表層には開孔が実質的になく、且つ内部に空孔を持つフィルムを形成するためには、最表層は芳香族ポリアミドと空孔生成剤の相分離を抑制し均一なフィルムとし、内部は溶媒除去が抑制された状態で、次の湿式浴に導入されることにより、積極的に相分離を発生させ、その結果、内部に空孔を発現させるものである。従って、この乾燥工程では、最表層は均一な状態で固定しつつも、湿式浴での内部からの溶媒除去が可能である程度な緻密さを保持する必要がある。
【0042】
これを達成するためには、乾燥温度(T1:℃)は、溶媒の沸点(T2:℃)に対して、
(T2−100)℃≦T1(℃)≦(T2−50)℃
で乾燥することで最表層の相分離を発生させずに均一性を得ることが可能となる。
【0043】
更に、乾燥時における溶媒除去量を、乾燥前を100%として、30〜70%(重量基準)の範囲に制御することで、表層が緻密ながら湿式浴工程でフィルム内部の溶媒除去、相分離構造形成可能な構造とすることができる。一般にこの状態では、フィルムは自己支持性を得ておらず、支持体からの剥離は困難であり、剥離不可性を乾燥条件検討の指標とすることも可能である。
【0044】
次にフィルムは支持体ごと湿式浴に導入される。浴組成としては、水系媒体、良/貧いずれか、または両方の溶媒系、無機塩含有系など、特に限定はされないが、芳香族ポリアミド、空孔生成剤何れに対しても貧溶媒である系が、内部空孔を適切に発現させる上で好ましい。中でも、工程の簡便さからは水系媒体が好ましいが、使用する空孔生成剤、空孔の制御のために混合溶媒系とすることも好ましい実施様態である。
【0045】
本発明者らの検討の結果、前述した製膜原液を直接湿式浴に導入する方法(例えば特開平4−25535号公報の方法)では、最表層部も開孔を持つものになり、また、フィルムが自己支持性をえるまで乾燥する乾湿式法あるいは乾式法では、内部空孔が発現せず、本発明を達成することは困難である。
【0046】
湿式浴から出たフィルムは、乾燥、熱処理を経て最終フィルムとなる。また、この工程中、必要に応じて延伸を施しても差し支えない。
【0047】
次に、本発明に関連する種々の特性値について、その測定法および評価基準を説明する。
【0048】
(1)最表層部の開孔度
電界放射型走査型顕微鏡(UHR−FE−SEM)を用いて、下記条件でフィルムの任意の場所を2,500μm2以上観察した。
【0049】
装置 :日立(株)製 S−900H
加速電圧 :5kV
試料調製 :直接法
倍率 :5,000倍
得られた写真を観察し、開孔部がある場合、その最も長い軸長を測定し、その個数を2,500μm2あたりの個数とした。また、開孔部であるかどうか判定が難しい場合は、傾斜法により観察し、その影の状態から判定しても良い。
【0050】
(2)最表層部の厚さ、内部空孔の大きさ、空孔率
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、下記条件でフィルムの断面を観察した。
【0051】
装置 :日立(株)製 H−7100FA
加速電圧 :100kV
試料調製 :超薄膜切片法
倍率 :20,000倍
▲1▼最表層部の厚さ
得られた写真を観察し、短軸が0.1μm以上であるものを空孔として、それら空孔が観察されない層の厚さを測定した。
▲2▼内部空孔の大きさ、空孔率
得られた写真の空孔が存在する領域のうち25μm2について、短軸が0.1μm以上であるものを空孔として、それぞれ長軸、短軸を測定し、その平均値をその空孔の大きさとする。これを25μm2の範囲内の空孔について同様の測定を行い、平均値を空孔の大きさ(d:μm)とする。また、同時に空孔総数(N:個/25μm2)もカウントしておく。
【0052】
また、空孔率は以下の式で定義した。
【0053】
空孔率(%)=(d/2)2xπxN/25
(3)乾燥時の溶媒除去量
支持体重量をW0(g)、製膜原液調整時の溶媒含有量をp(重量%)とする。
【0054】
製膜原液を支持体上にキャスト後の重量を測定し(W1:g)、乾燥工程に導入する。所定条件で乾燥後の重量を測定し(W2:g)、下式で、溶媒除去量を定義した。
【0055】
溶媒除去量(%)=(W2−W1)/{(W1−W0)x(p/100)}x100
(4)中心線平均粗さ(Ra)
Digital Instruments社製原子間力顕微鏡NanoScopeIIIver3.20を用いて、以下の条件で支持体に接触しない表面について3ヶ所測定し、平均値を求めた。
【0056】
カンチレバ−:シリコン単結晶
走査モ−ド:タッピングモ−ド
走査範囲:30μm×30μm
走査速度:0.5Hz
測定環境:25℃、相対湿度65%
【0057】
【実施例】
次に実施例に基づき本発明を説明するが、これらに限定されるものではない。
【0058】
実施例1
NMPに芳香族ジアミン成分として85モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、15モル%に相当する4、4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これに99モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、2時間撹拌して重合を完了した。この溶液を多量の水に投入し、再沈・乾燥してパウダー状のポリマーを得た。このポリマーをNMPにポリマー濃度が15重量%となるように溶解した。
【0059】
一方、ポリカーボネート(出光石油化学(株)製、タフロン、以下PCと略す)をNMPにポリマー濃度が15重量%となるように溶解させた。
【0060】
次いで、芳香族ポリアミド溶液と、PC溶液を、芳香族ポリアミド/PC=7/3(重量比率)となるように溶液を混合し、製膜原液を得た。この溶液は透明性を保っており、芳香族ポリアミドとPCが均一に溶解されていることが示唆された。
【0061】
次に、この製膜原液を室温で、ガラス板上にアプリケーターを用いて流延し、130℃の熱風オーブン中で2分間乾燥し、オーブンから取り出した。この状態では、支持体からの剥離は出来ず、溶媒除去量を測定したところ、37%であった。
【0062】
こうして得たフィルムを支持体ごと45℃の流水中に10分間浸漬し、支持体から剥離されたフィルムの表面の水分をガーゼで拭き取った後、枠張りし、200℃の熱風オーブン中で2分間乾燥・熱処理を行って、厚さ6μmの芳香族ポリアミド系フィルムを得た。
【0063】
このフィルムの何れの面の最表層にも開孔部は見られなかった。また、最表層部で空孔を有しない部分の厚みは、支持体非接触側、接触側でそれぞれ、150nm、120nmであり、空孔の大きさは、0.5μm、空孔率は42%であった。また、このフィルムのRaは、2.2nmと極めて平滑なものであった。
【0064】
実施例2
ポリエーテルスルホン(住友化学(株)製PES−4100、以下PESと略す)をNMPにポリマー濃度が15重量%となるように溶解させた。
【0065】
この溶液を実施例1と同様に芳香族ポリアミド溶液と混合し、製膜原液を得た。この溶液は透明性を保っており、芳香族ポリアミドとPESが均一に溶解されていることが示唆された。
【0066】
次に、この製膜原液を室温で、ガラス板上にアプリケーターを用いて流延し、130℃の熱風オーブン中で2分間乾燥し、オーブンから取り出した。この状態では、支持体からの剥離は出来ず、溶媒除去量を測定したところ、33%であった。
【0067】
こうして得たフィルムを支持体ごと45℃の流水中に10分間浸漬し、支持体から剥離されたフィルムの表面の水分をガーゼで拭き取った後、枠張りし、220℃の熱風オーブン中で2分間乾燥・熱処理を行って、厚さ6μmの芳香族ポリアミド系フィルムを得た。
【0068】
このフィルムの何れの面の最表層にも開孔部は見られなかった。また、最表層部で空孔を有しない部分の厚みは、支持体非接触側、接触側でそれぞれ、100nm、80nmであり、空孔の大きさは、0.8μm、空孔率は65%であった。また、このフィルムのRaは、2.8nmと極めて平滑なものであった。
【0069】
実施例3
キャスト後の乾燥条件を温度150℃、時間3分とした以外は、実施例2と同様にして、芳香族ポリアミド系フィルムを得た。この場合の、溶媒除去量は58%であった。
【0070】
このフィルムの何れの面の最表層にも開孔部は見られなかった。また、最表層部で空孔を有しない部分の厚みは、支持体非接触側、接触側でそれぞれ、450nm、450nmであり、空孔の大きさは、0.3μm、空孔率は31%であった。また、このフィルムのRaは、3.7nmと平滑なものであった。
【0071】
比較例1
実施例1の製膜原液を、支持体上に同様にキャストした後、130℃の熱風オーブン中で7分間乾燥した。オーブンから取り出したところ、このフィルムは支持体から容易に剥離でき、強い自己支持製を持つものであった。この時の溶媒除去量は96%であった。
【0072】
支持体から剥離したフィルムを実施例1と同様に湿式浴を通し、枠張りして同様に乾燥・熱処理を行った。
【0073】
このフィルムの何れの面の最表層にも開孔部は見られなかった。断面を観察したが、空孔は存在しなかった。このフィルムのRaは、2.4nmと極めて平滑なものであった。
【0074】
比較例2
実施例1の製膜原液を支持体上にキャスト後、実施例1と同様の湿式浴に直接導入した。その後実施例1と同様に乾燥・熱処理を行い、芳香族ポリアミド系フィルムを得た。
【0075】
このフィルムは、フィルムの両面に長径1μm以上の開孔部が30個、35個観察された。断面を観察したところ、全厚みにわたって空孔が存在し、空孔の大きさは0.4μm、空孔率は84%であった。また、このフィルムのRaは、12nmと粗れたものであった。
【0076】
【発明の効果】
本発明のフィルムは、最表層に開孔部を持たず、内部に空孔を有する芳香族ポリアミド系フィルムであり、表面平滑性に優れるだけでなく、内部空孔含有による電気特性の向上、適度なクッション性を持ち、且つ絶縁性に優れたものとなる。本発明のフィルムは、フレキシブルプリント基板、ビルドアップ基板などの回路絶縁材料、コンデンサー、絶縁テープ、プリンタリボン、音響振動板、太陽電池のベースフィルム、磁気記録媒体のベースフィルムなど種々の用途に好ましく用いることができる。中でも、表面平滑性と内部空孔含有による優れた電気特性を活かすことの出来る回路絶縁材料、コンデンサー、また、表面平滑性と内部空孔含有による適度なクッション性を活かした絶縁テープ、磁気テープのリードフィルムに、特に好ましく用いることが出来る。
Claims (1)
- 表層において長軸が1μm以上の開孔部の個数密度が1個/2,500μm2未満であり、且つ、フィルム内部に空孔を有することを特徴とする多孔性芳香族ポリアミド系フィルム。
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