JP4064774B2 - 水素透過体とその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素ガスと他の種類のガスとの混合ガス(以下、「粗製ガス」という)から水素を分離するために用いられる水素透過体と、その製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、省エネルギー型分離技術として、膜による気体の選択分離法が注目されている。例えば最近、燃料電池の実用化研究が進んでくるにつれて、燃料となる水素ガスを如何に高純度で効率よく製造するかが重要な課題となっており、その代表的な方法として、都市ガスや天然ガスの如き炭化ガスの熱分解によって水素を製造し、該生成ガス(粗製ガス)から高純度の水素を得る方法がある。この場合、熱分解によって得られる粗製ガスには、水素の他、一酸化炭素や炭酸ガスなどが多量に含まれているので、これらを含む粗製ガスの中から水素を分離する必要があり、そのための分離法として、多孔質体の表面に水素選択透過膜を形成させた水素透過体を利用する方法が知られている。
【0003】
こうした水素透過体は、水素を選択的に透過する水素選択透過膜と、この膜を支持する支持体から構成され、該支持体には、粉末を焼結した多孔質の金属やセラミックス、金属不織布、発泡メタル、さらにはバルク材に微細な穴を無数にあけたものなどが使用されている。
【0004】
そしてこれら多孔質支持体の表面に、例えばスパッタリング法、アークイオンプレーティング法、めっき法、溶射法、もしくは圧延箔の積層法などによって水素選択透過膜を形成し、水素透過体を得ている。
【0005】
水素選択透過膜としては、Pd系の膜(Pdや、Pd−Ag合金などのPd合金によって構成される膜)などがよく知られている。さらに、このPd系膜としては、特許文献1(特開2001−46845号)、および特許文献2(特開2001−131653号)に、特定の希土類元素を3〜15at%含有するPd合金膜が開示されている。これらの記載によると、上記希土類元素を含有するPd合金膜は、従来のPd−Ag合金膜の約2倍の水素透過性能を有している。
【0006】
ところで、このようなPd系の水素選択透過膜を、金属製の多孔質支持体上に直接形成させた水素透過体では、次のような問題がある。即ち、高温で粗製ガスを分離処理するなど、上記水素透過体が高温に曝された場合に、多孔質支持体の金属成分がPd系膜中に拡散して、Pdなどと反応し、粗製ガスの分離処理時間の経過と共に、Pd系膜の水素選択透過性が低下してしまうのである。
【0007】
多孔質支持体の金属成分が水素選択透過膜へ拡散することを防止するため、多孔質支持体の素材としてアルミナなどの酸化物を用いる方法や、金属製多孔質支持体の表面に酸化物層を形成させる方法が知られている。しかし、これら酸化物と上記の希土類元素を含むPd系膜とは密着性が低いため、該膜が剥離してしまうといった問題があった。また、金属製多孔質支持体表面に酸化物層を形成させる場合は、支持体金属と酸化物層との熱膨張率の相違から、粗製ガス分離処理を繰り返し行うことで支持体−酸化物層界面に発生する熱応力の影響によって、酸化物層が支持体表面から剥離するといった問題もあった。
【0008】
上記の諸問題を解決する技術として、特許文献3(特開2000−126565号)には、金属製多孔質支持体の表面に酸化処理または窒化処理を施すことで、該表面に酸化物層または窒化物層を形成し、該層上に水素選択透過膜を形成する方法が提案されている。この技術は、水素選択透過膜と金属製多孔質支持体との間に、酸化物層または窒化物層を存在させることで、該多孔質支持体の金属成分が該膜中に拡散するのを防止し、該膜の水素選択透過性の劣化を抑制するものである。さらに、この技術では、支持体の表面を酸化処理または窒化処理して酸化物層または窒化物層を形成するため、該酸化物層や窒化物層が剥離することもない。
【0009】
しかしながら、多孔質支持体表面の酸化物層または窒化物層と、上述の希土類元素を含有するPd系膜との密着性は必ずしも良好とはいえず、該膜の形成時、あるいは水素透過体の使用時に該膜が剥離する場合があった。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−46845号公報([特許請求の範囲]、[0018]、図1)
【特許文献2】
特開2001−131653号公報([特許請求の範囲]、[0019]、図1)
【特許文献3】
特開2000−126565号公報([0014]〜[0015])
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは上記事情に鑑み、希土類元素を含むPd合金膜を水素選択透過膜として用い、該膜の多孔質支持体への密着性および水素透過性能の耐久性を向上させた水素透過体を提供すべく検討を重ねた結果、Pd−REM合金膜が岩塩構造型の窒化物と良好な親和性を示すことを見出し、多孔質支持体との密着性および水素透過性能とを向上し得た水素透過体の提供を可能とした。尚、この発明については、既に特願2001−366198号で出願している。
【0012】
しかしながら、水素透過体は、高温下で使用されることも多く、例えば天然ガスと水蒸気を400〜600℃程度の温度下で、触媒により水素と二酸化炭素に改質する改質器の水素分離媒体等として使用する場合には、上記水素透過体の最表層に設けられたPd−REM合金膜は、酸化雰囲気に直接曝されることになる。その結果、該Pd−REM合金膜中の希土類元素が酸化され、水素透過性能が低下するという新たな問題が生じてきた。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、希土類元素を含むPd合金膜を水素選択透過膜として用い、該膜の多孔質支持体への密着性を確保しつつ、高温下で繰り返し使用した時でも水素透過性能の経時劣化を起こすことのない水素透過体と、その製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の水素透過体は、希土類元素を含むPd−REM合金膜を有する水素透過体において、該Pd−REM合金膜と多孔質支持体との間に岩塩構造型の窒化膜を有し、該Pd−REM合金膜の表面側にPd膜またはPd−Ag合金膜を有するところに要旨を有する。
【0015】
上記窒化膜は、4a族元素、5a族元素、CrおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の窒化物から構成されるものであることが好ましい。
【0016】
また、上記Pd−REM合金膜に含まれる希土類元素は、Y、Ce、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbよりなる群から選択される少なくとも1種であることが推奨される。
【0017】
この他、上記Pd−REM合金膜は、さらにAgおよび/またはCuを含有するものであることが望ましい。
【0018】
ステンレス鋼製の多孔質支持体を使用する場合、該支持体の片側表面に形成される上記窒化膜は、厚みが0.5μm以上であることが推奨される。さらに、上記Pd−REM合金膜と、Pd膜またはPd−Ag合金膜とを合わせた膜厚は2〜50μmであることが望ましい。
【0019】
また、上記岩塩構造型の窒化膜、Pd−REM合金膜、およびPd膜またはPd−Ag合金膜を、イオンプレーティング法またはスパッタリング法により形成する上記水素透過体の製造方法も本発明に包含される。
【0020】
なお、上記窒化膜および上記Pd−REM合金膜、およびPd膜またはPd−Ag合金膜の形成には、アークイオンプレーティング法(AIP法)を採用することが推奨される。
【0021】
【発明の実施の形態】
上述の通り、特願2001−366198号に開示した技術によって、金属製多孔質支体表面に形成された窒化層と、希土類元素を含むPd系水素選択透過膜(以下、「Pd−REM合金膜」という)との密着性は大幅に改善された。ところが、この水素透過体を使用する際に、Pd−REM合金膜が高温かつ酸化ガスの存在する雰囲気下に直接曝されると、該合金膜中の希土類元素が酸化され、その結果、水素透過体の水素透過性能が徐々に低下するという問題が生じてくる。
【0022】
そこで本発明者らは、Pd−REM合金膜を多孔質支持体上に形成させた水素透過体において、該膜と該支持体との密着性を低下させることなく、水素透過性能の持続性を向上させるべく、更に研究を重ねた。その結果、従来から水素選択透過膜として用いられていたPd膜またはPd−Ag合金膜を、Pd−REM合金膜表面、つまり水素透過体の最表層として設ければ、Pd−REM合金膜の酸化劣化による水素透過性能の低下が阻止されることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
即ち、本発明の水素透過体は、該水素透過体の最表層にPd膜またはPd−Ag合金膜を形成させるところに最大の特徴を有している。このような構成とすることで、Pd−REM合金膜が直接酸化雰囲気下に曝されるのを防ぎ、水素透過体使用時における水素透過性能の持続性を確保し得たのである。なお、上記Pd膜またはPd−Ag合金膜は、従来から水素透過膜として使用されていたものであるため、水素透過性能を低下させる虞はない。以下、本発明の水素透過体の構成について詳細に説明する。
【0024】
本発明の水素透過体では多孔質支持体が用いられる。このような多孔質支持体を採用することで、水素選択透過膜の厚みをできる限り小さくして粗製ガスの処理量(すなわち水素透過量)を高く維持しつつ、水素透過体の機械的強度を高めることができる。
【0025】
上記多孔質支持体としては、粗製ガスの分離処理条件(通常、700℃以下)で耐久性を有する素材によって構成されたものであればよく、該素材としては、例えば、ステンレス鋼(具体的には、SUS304,SUS310S,SUS316,SUS410,SUS430など)や、アルミナなどの耐熱酸化物が挙げられる。
【0026】
なお、水素透過体を粗製ガス処理装置へ組み込むためには、機械加工性や溶接性に優れることが望ましい。よって、上記の素材の中でも、ステンレス鋼が推奨される。
【0027】
尚、例えば多孔質支持体の素材として、岩塩構造型の窒化物を形成し得る元素(例えばTiやCrなど)を用い、上記特開2000−126565号に開示の技術を利用して、該多孔質支持体表面を窒化処理して窒化層を形成した場合、上記窒化層は岩塩構造型であるため、該窒化層上にPd−REM合金膜を形成させれば、該膜の多孔質支持体に対する密着性を高めつつ、水素透過性能の耐久性を確保し得ることが予想される。
【0028】
しかしながら、上記の岩塩構造型の窒化物を形成し得る元素は、溶接性や機械加工性が非常に悪いため、これらを素材として水素透過体用の支持体を得ることは、実質的に不可能である。
【0029】
上記多孔質支持体の平均孔径は、1μm以上、好ましくは2μm以上であって、10μm以下、好ましくは6μm以下であることが推奨される。平均孔径が上記範囲を下回ると、多孔質支持体を流れる水素の圧力損失が大きくなり、水素の流量が少なくなる。他方、平均孔径が上記範囲を超えると、孔を塞ぐためにPd−REM合金膜を厚くしなければならなくなり、水素透過体の水素透過速度が低下すると共に、コストも増大する。
【0030】
また、多孔質支持体の相対密度は、水素透過体の機械的強度を確保する観点から、65%以上、好ましくは70%以上とすることが望ましい。
【0031】
多孔質支持体の形状は特に限定されず、粗製ガス処理装置の形状、構造などに応じて円筒状、平板状など任意の形状に設計することができる。なお、現在実用化されている粗製ガス処理装置に適用する上で最も一般的なのは円筒状のものである。
【0032】
多孔質支持体の製造方法にも、格別の制限はなく、従来公知の方法が採用できる。例えば、素材となるステンレス鋼粒子や、アルミナなどの酸化物の粒子に、必要に応じてバインダーを混合し、焼結する方法などが挙げられる。
【0033】
本発明の水素透過体は、多孔質支持体表面に後述するPd−REM合金膜を形成させるに当たり、該支持体と該膜の間に、岩塩構造型の窒化膜を介在させている。本発明において、上記窒化膜は、以下の機能を有する。
【0034】
(1)金属製の多孔質支持体を用いる場合には、既述の通り、金属成分がPd合金膜中に拡散して該膜の水素透過性能を損なう問題があるが、上記岩塩構造型の窒化膜の存在により、該金属成分のPd−REM合金膜中への拡散が防止される。また、岩塩構造型の窒化物は安定であり、Pd−REM合金とは反応しないため、この窒化物から構成される膜自体がPd−REM合金膜を侵すことはない。よって、水素透過体の水素透過性能の耐久性が向上する。
【0035】
(2)Pd−REM合金膜中に存在する希土類元素は、それ自体岩塩構造型の窒化物を形成し得るものであり、他の元素の岩塩構造型窒化物とも親和性が良好である。また、岩塩構造型の窒化物は、本発明に係る水素透過体の多孔質支持体として好ましく採用されるステンレス鋼やアルミナなどの酸化物との親和性も良好である。よって、多孔質支持体表面に岩塩構造型の窒化膜を形成させ、該窒化膜表面にPd−REM合金膜を形成させることで、Pd−REM合金膜−多孔質支持体間の密着性が向上する。
【0036】
このように、上記岩塩構造型の窒化膜を形成することで、水素透過性能に優れるPd−REM合金膜の密着性と水素透過性能の耐久性が、従来よりも遥かに優れた水素透過体の提供が可能となったのである。
【0037】
上記岩塩構造型の窒化膜としては、4a族元素(Ti、Zr、Hf)、5a族元素(V、Nb、Ta)、CrおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の窒化物から構成されるものが挙げられる。好ましい窒化物としては、例えば、TiN、CrN、TiAlN、CrAlN、ZrN、HfN、VN、NbN,TaNなどが挙げられるが、中でも、TiN、CrN、TiAlN、CrAlNがコストの面で特に好ましい。
【0038】
岩塩構造型の窒化膜の厚みは、採用する多孔質支持体の素材によって異なる。多孔質支持体の素材としてステンレス鋼を用いる場合には、上記窒化膜はより厚くする必要がある。Pd−REM合金膜は、多孔質支持体の孔を塞ぐように厚く形成させるため、該孔の内壁までPd−REM合金膜で被覆されてしまう。よって、多孔質支持体の孔の内壁が上記窒化膜で被覆されていないと、該孔部でステンレス鋼とPd−REM合金膜とが接触して反応し、水素透過性能が損なわれるからである。このため上記窒化膜は、上記孔の内壁まで該窒化膜が回り込んで被覆される程度の厚みを確保すべきである。具体的には、上記窒化膜の厚みは0.5μm以上、好ましくは0.8μm以上とすることが推奨される。
【0039】
他方、多孔質支持体の素材として、アルミナなどの耐熱酸化物を用いる場合は、該耐熱酸化物とPd−REM合金膜とは反応しないため、該多孔質支持体の孔内壁まで上記窒化膜で覆う必要はない。よって、上記窒化膜の厚みは、Pd−REM合金膜の密着性が確保できる程度(すなわち、耐熱酸化物製多孔質支持体の多孔質部の表面のほとんどが、上記窒化膜で覆われている程度)であればよい。具体的には、上記窒化層の厚みは0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上とすることが推奨される。
【0040】
ただし、多孔質支持体の素材に関わらず、上記窒化膜を厚くし過ぎると、多孔質支持体の孔を塞いでしまい、水素透過体中を水素が透過し難くなる。よって、上記窒化膜の厚みは、多孔質支持体の素材がステンレス鋼の場合、およびアルミナなどの耐熱酸化物の場合のいずれにおいても、多孔質支持体の平均孔径の1/3以下とすることが望ましい。よって、上記窒化膜の厚みの好ましい上限は、多孔質支持体として推奨される平均孔径から求めればよい。
【0041】
上記Pd−REM合金膜は、高度な水素透過性能を有すると共に、膜中の希土類元素の存在によって、岩塩構造型の窒化膜との密着性に優れる。Pd−REM合金膜中の希土類元素の含有量は、5at%以上、好ましくは7at%以上、さらに好ましくは8at%以上である。希土類元素の含有量を上記下限以上とすることで、上記窒化膜との良好な密着性、および高度な水素透過性能を確保することができる。
【0042】
ただし、Pd−REM合金膜中の希土類元素の含有量が多過ぎると、該希土類元素が金属間化合物を形成し、これが析出するようになる。この金属間化合物が析出すると、Pd−REM合金膜の水素透過性能が低下する。よって、Pd−REM合金膜中の希土類元素の含有量は15at%以下、好ましくは12at%以下とすることが推奨される。
【0043】
Pd−REM合金膜に含まれる希土類元素は、Y、Ce、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの元素は、Pd−REM合金膜中に5at%以上含有させることが容易であるため、該膜−上記窒化膜間の良好な密着性と、高度な水素透過性能を確保することができる。他方、上記以外の希土類元素では、上記の金属間化合物が生成し易いため、Pd−REM合金膜中にあまり多く含有させることが困難であり、上記の密着性や水素透過性能を十分に確保できない場合がある。
【0044】
また、Pd−REM合金膜は、さらにAgおよび/またはCuを含有するものであることが好ましい。これらの元素の存在により、Pd−REM合金膜の水素透過性能(水素透過速度)がさらに向上するからである。
【0045】
Pd−REM合金膜中のAgの含有量は、好ましくは10at%以上、より好ましくは15at%以上であって、好ましくは30at%以下、より好ましくは25at%以下とすることが望ましい。水素選択透過膜中の水素の透過速度は、該膜中の水素の拡散係数と、該膜中の水素の固溶度との積で決定される。Pd−REM合金膜中のAg含有量が上記範囲内にある場合、該膜中の水素の固溶度が大きく増大するため、該膜中の水素の透過速度が向上する。
【0046】
また、Pd−REM合金膜中のCuの含有量は、好ましくは45at%以上、より好ましくは47at%以上であって、好ましくは55at%以下、より好ましくは53at%以下とすることが望ましい。Cu含有量が上記範囲内にある場合、Pd−Cu合金が面心立方構造から体心立方構造に結晶構造が変化する。この変化により、Pd−REM合金膜中の水素の拡散係数が増大するため、該膜中の水素の透過速度が向上する。
【0047】
Pd−REM合金膜の厚みは0.05μm以上とすることが好ましい。Pd−REM合金膜の厚みが0.05μm未満では、窒化膜を十分に覆うことができず、高純度の水素が得られないからである。より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μm以上である。尚、Pd−REM合金膜の厚みの上限については、Pd−REM合金膜と、後述するPd膜またはPd−Ag合金膜とを合わせた厚みから、水素透過速度および分離処理後の水素純度などを考慮して適宜決定すればよい。
【0048】
本発明の水素透過体は、上記Pd−REM合金膜表面に、Pd膜またはPd−Ag合金膜を有している。これは、上述のPd−REM合金膜が、高温かつ酸化性ガスの存在する雰囲気下に直接曝されたときに、該合金膜中の希土類元素が酸化することによって生じる水素透過能の低下を防ぐため、該Pd−REM合金膜の上、即ち水素透過体の最表面において酸化防止層として機能させるためである。尚、PdあるいはPd−Ag合金はそれ自体、従来から水素選択能を有するものとして使用されているものであるため、水素透過性能を低下させるおそれはない。
【0049】
上記Pd−Ag合金膜は、これまで水素選択透過膜として用いられてきたものを使用すればよく、Pd−Ag合金膜中のAg含有量は特に限定されないが、10at%以上、30at%以下であればよい。
【0050】
上記PdまたはPd−Ag合金膜の厚みは、1μm以上とすることが好ましい。Pd膜またはPd−Ag合金膜の厚みが1μm未満では、Pd−REM合金膜の酸化を完全に防止できないからである。より望ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上である。尚、PdまたはPd−Ag合金膜の厚みの上限については、後述するPd−REM合金膜と、Pd膜またはPd−Ag合金膜とを合わせた厚みから、水素透過速度および分離処理後の水素純度などを考慮して適宜決定すればよい。
【0051】
一般に、分離処理後の水素の純度は、用途にもよるが、通常は99.99%以上が要求される。よって、これ以上の水素純度が確保できる程度のピンホールはPd−REM膜、およびPd膜またはPd−Ag合金膜(以下、これらを合わせてPd系合金膜という)に存在していても構わない。しかし、Pd系合金膜の厚みが2μm未満では、通常、多孔質支持体の孔が完全に塞がらずにピンホールが多数存在するため、分離処理後の水素純度を99.99%以上とすることが困難になる。よって、Pd系合金膜の厚みの下限は、3μmが好ましく、より好ましくは5μm、さらに好ましくは8μmである。
【0052】
他方、Pd系合金膜の厚みが増大すると、上記ピンホールは減少するが、水素透過速度は該膜厚に反比例して低下する。また、Pdは高価であるため、コストの面からもPd系合金膜を薄くすることが好ましい。よって、実用的な水素透過速度を確保することおよびコスト面での有利さを考慮すると、Pd系合金膜の厚みは50μm以下とすることが好ましい。より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下が推奨される。
【0053】
尚、Pd系合金膜を構成するPd−REM合金膜およびPd膜またはPd−Ag合金膜の膜厚は、夫々上述の条件を満たしていれば特に制限されるものではないが、Pd−REM合金膜の厚みを大きくした方が水素透過速度を速くできるため好ましい。
【0054】
上記の窒化膜、Pd−REM合金膜およびPd膜またはPd−Ag合金膜の形成法としては、従来公知の種々の方法が採用できるが、緻密且つ薄い膜を、多孔質支持体表面(上記窒化膜)や上記窒化膜表面(Pd−REM合金膜)に直接形成できる点で、イオンプレーティング法やスパッタリング法が好ましい。特にPd−REM合金膜は、該膜と同じ組成の合金固体ターゲットを用いて上記例示の方法によって形成することが、該膜の組成を均一にし得る点で推奨される。また、上記窒化膜の形成においても、例えばTiAlNなどの2種以上の元素と窒素から構成される窒化物を素材とする場合は、特に上記例示の方法を採用することが好ましい。
【0055】
さらに上記例示の膜形成法の中でも特にアークイオンプレーティング法(AIP)は、成膜速度が速く、高い密着性が得られ、より緻密な膜が形成できるため推奨される。
【0056】
また、Pd−REM合金膜形成後あるいはPd膜またはPd−Ag合金膜形成後、研磨を施すことにより膜中のピンホールが埋められ、一層緻密な膜とすることが可能となる。
【0057】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0058】
実験1
図1に示す円筒状の多孔質支持体1を用いた。この多孔質支持体1は、多孔質部2がSUS410製であり、この両端にSUS410製のキャップ3をレーザー溶接したものである。なお、キャップ3のうちの一方は、SUS410製のパイプ4(1/4インチφ)をレーザー溶接したものを用いた。
【0059】
このとき用いた多孔質部2の平均孔径は約4μmである。なお、多孔質部の平均孔径は、次の方法で求めた。光学顕微鏡を用い、倍率1000倍で多孔質支持体の多孔質部を4箇所写真撮影した。得られた写真の孔の部分を黒く塗りつぶし、画像処理によって孔の面積を測定後、孔の個数で該孔の面積を割って1個当たりの孔の面積を算出し、孔を円形と仮定して平均孔径を求めた。また、多孔質部2は、外径22mm、厚み1mm、長さ70mmである。
【0060】
このステンレス鋼製多孔質支持体1を、図2に示すイオンプレーティング装置内にセットした。イオンプレーティング装置の真空チャンバー5内の下部に配置した3個の坩堝に、夫々Ti、Pd、Yを入れた。真空チャンバー5内を1×10-3Paまで減圧した後、窒素ガスを導入して、該真空チャンバー5内の圧力を1.3Paとした。この後、ステンレス鋼製多孔質支持体1に13.56MHzの高周波(RF)を500Wで印加し、窒素プラズマを形成した。さらに、Tiの入った坩堝に電子銃6で電子線を照射し、Tiを溶解蒸発させて、ステンレス鋼製多孔質支持体表面にTiN膜を形成した(膜厚1μm)。
【0061】
その後、RF電源および電子銃電源を切り、真空チャンバー5内への窒素の導入を止め、再び真空チャンバー5内を1×10-3Paまで減圧した。次に真空チャンバー5内にアルゴンガスを導入して、該チャンバー内の圧力を1.3Paとした。この後、ステンレス鋼製多孔質支持体1に13.56MHzの高周波(RF)を500Wで印加し、アルゴンプラズマを形成した。さらに、PdおよびYの入った各坩堝に電子銃6で電子線を交互に照射してPdおよびYを溶解蒸発させ、上記TiN膜表面にPd−Y合金膜を形成して(膜厚20μm)、水素透過体(1)を得た。なお、各坩堝への電子線の照射時間を調整して、Pd−Y合金膜中のY含有量を10at%とした。
【0062】
真空チャンバー5から取り出した水素透過体(1)には、Pd−Y合金膜の剥離は認められなかった。
【0063】
さらに、上述の方法と同様にして、ステンレス鋼製多孔質支持体表面にTiN膜(膜厚1μm)、Pd−10at%Yを成膜した(膜厚20μm)。Pd−10at%Y合金膜の成膜後、Yの入った坩堝への電子線の照射を止めて、Pdのみを溶解蒸発させてPd膜を成膜した(膜厚5μm)。これを水素透過体(2)とする。
【0064】
得られた水素透過体(1)および(2)について、下記のピンホール評価、および温度サイクル試験を行った。
【0065】
[ピンホール評価]
上記水素透過体(1)を、図3に示す水素透過試験装置の加熱炉8内にセットし、該水素透過体(1)の外側および内側をロータリーポンプで減圧した後、加熱ヒーター10によって、加熱炉8内を600℃に加熱した。次に、水素透過体(1)の外側および内側にヘリウムガスを流し、外側圧力が2.013×105Pa、内側圧力が1.013×105Pa(大気圧)とした。その後、水素透過体(1)の内側から加熱炉8外へ流れ出すヘリウムガスの流量を測定し、該水素透過体(1)のPd合金膜中のピンホールの有無を確認した。
【0066】
[温度サイクル試験]
上記ピンホール評価の後、真空ポンプによって加熱炉8内のヘリウムガスを排気し、その後水素透過体(1)の外側に水素ガス(10%の水蒸気を含む、以下単に「混合水素ガス」という)を流して、圧力を2.026×105Paとした。このとき、水素透過体(1)の内側にはPd合金膜を通過した水素が流入して大気圧以上となるため、水素透過体(1)の内側の圧力を大気開放することによって1.013×105Paとした。他方、水素透過体(1)の外側には圧力が2.026×105Paとなるように混合水素ガスを流し続けた。このようにして水素透過体(1)の外側と内側で水素の圧力に差を設けた水素透過試験を50時間継続し、透過水素流量の経時変化を測定した。
【0067】
その後、真空ポンプによって加熱炉8内の水素ガスを排気し、加熱ヒーター10の電源を切って、加熱炉8内を室温まで冷却した。2時間後、再び加熱ヒーター10によって加熱炉8内を600℃まで昇温して、上述の水素透過試験を50時間継続して行った。このように600℃での水素透過試験と、室温冷却を繰り返し行う温度サイクル試験により水素透過体(1)の耐久性を評価した。温度サイクル試験は、試験に供した水素透過体の状態によって適宜調整し、水素透過試験と加熱炉8の室温への冷却を最大で各々20回繰り返した。同様にして、水素透過体(2)についてもピンホール評価および温度サイクル試験を行った。
【0068】
上記ピンホール評価において、水素透過体(1)を用いた場合のヘリウムガス流量は0であり、Pd−10at%Y合金膜中にピンホールの無いことが確認された。また、水素透過体(2)にもピンホールが発生していないことが確認された。
【0069】
温度サイクル試験において、水素透過体(1)では、1回目の水素透過試験中に水素透過量が徐々に低下し、試験開始当初1.5L/minであった水素透過量が、試験開始後20時間で0.3L/minにまで低下したため、この時点で水素透過試験を中止し、温度サイクル試験は行わなかった。これに対して、Pd−10at%Y合金膜上にPd膜を形成した水素透過体(2)では、温度サイクル試験を20回繰り返した後であっても水素透過量にほとんど変化が無く、1.0L/minと安定しており、温度サイクル試験後の水素透過体(2)表面のPd合金膜に剥離は認められず、良好な密着性を有していた。
【0070】
実験2
実験1と同じステンレス鋼製多孔質支持体に、大気炉中で、650℃、10分の条件で酸化処理を行い、該支持体表面に酸化物層を形成した(層厚約0.3μm)。その後、図2に示すイオンプレーティング装置内にセットした。尚、このときのイオンプレーティング装置内の坩堝にはPdおよびAgを入れておいた。その後、実験1と同様にして、酸化物層上に直接Pd−20at%Ag合金膜を成膜した(膜厚20μm)。これを水素透過体(3)とする。
【0071】
尚、ステンレス鋼製多孔質支持体上に酸化物層を設ける代わりに、スパッタリング法によってSi酸化物層(層厚0.5μm)を形成したものについても同様にしてPd−20at%Ag合金膜を成膜した(層厚20μm)。これを水素透過体(4)とする。
【0072】
これらの水素透過体について実験1と同様にしてピンホール評価および温度サイクル試験を行った。
【0073】
ピンホール試験では、水素透過体(3)、(4)のいずれもヘリウムガスの流量は0であり、Pd−20at%Ag合金膜中にピンホールが無いことが確認された。
【0074】
しかしながら、温度サイクル試験において、ステンレス鋼製多孔質支持体に酸化物層を設けた水素透過体(3)には、3回目の水素透過試験開始直後に、Si酸化物層を設けた水素透過体(4)では2回目の水素透過試験直後に、それぞれ水素透過量が急増する傾向が見られたため、この時点で水素透過試験を中止し、水素透過体を取り出してその表面を観察したところ、どちらもPd合金膜が一部剥離して、合金膜に破れが生じているのが確認された。尚、水素透過体(3)、(4)のいずれもにおいても、剥離は多孔質支持体と酸化物層あるいはSi酸化物層との界面から生じていた。
【0075】
実験3
多孔質部の平均孔径が3μmである以外は、実験1で用いたものと同一形状・サイズのステンレス鋼製多孔質支持体の表面に、以下のようにして岩塩構造型の窒化膜を形成し、次いでPd−REM合金膜を、最表層にPd−23at%Ag合金膜を形成した。なお、ステンレス鋼製多孔質支持体の素材には、SUS310、SUS316、SUS410、SUS430のいずれかを採用した。
【0076】
図4に示す3つの蒸発源を有するスパッタリング装置を用いた。直径6インチのTiターゲット11、希土類元素含有Pd合金ターゲット12およびPd−23at%Ag合金ターゲット13を取り付けたスパッタリング装置内の回転テーブル14上に、上記の多孔質支持体をセットし、真空チャンバー5内が1×10-3Pa以下になるまで真空排気した。次に、真空チャンバー5内に、窒素ガスとアルゴンガスを1:1の流量比で導入し、該チャンバー5内の圧力を1.3Paとした。その後、多孔質支持体に100Vの負のバイアス電圧を印加し、Tiターゲット11をDCパワー1kWで放電させ、該Tiターゲット11をスパッタさせて、多孔質支持体表面にTiN膜を形成した。
【0077】
その後、Tiターゲット11の放電を止め、真空チャンバー5内を真空排気した後、アルゴンガスを導入して該チャンバー5内の圧力を1.3Paとした。次に、希土類元素含有Pd合金ターゲット12をDCパワー1kWで放電させ、該希土類元素含有Pd合金ターゲット12をスパッタさせて、上記TiN膜表面に希土類元素含有Pd合金膜を形成した。
【0078】
希土類元素含有Pd合金ターゲット12の放電を止め、引き続きPd−23at%Ag合金ターゲット13をDCパワー1kWで放電させて、Pd−23at%Ag合金ターゲットをスパッタさせて、上記希土類元素含有Pd合金膜表面にPd−23at%Ag合金膜を形成して、TiN/希土類元素含有Pd合金/Pd−23at%Ag合金の3層膜を有する水素透過体(5)〜(22)を得た。
【0079】
得られた水素透過体(5)〜(22)について、実験1と同様のピンホール評価および温度サイクル試験を行い、膜の密着性および水素透過耐久性を評価した。水素透過体(5)〜(22)の構成と上記の評価・試験結果を、表1に示す。
【0080】
なお、表1において、例えば、水素透過体(5)の希土類元素と組成「6at%Ce」とは、「Ceを6at%含有するPd合金」であることを意味する。(以下同じ)。
【0081】
表1から分かるように、水素透過体(5)〜(14)は、Pd系合金膜(Pd−REM合金膜およびPd−23at%Ag合金膜を指す、以下同じ)の密着性、ピンホールフリー性共に良好であった。また、水素透過体(12)以外の水素透過体では、20回の温度サイクル試験後(水素透過時間1000時間)も水素透過量がほとんど変化せず、良好な耐久性を有していた。尚、水素透過体(12)には、試験後の該水素透過体表面に直径1mm程度のドーム状のふくれが数箇所見られ、剥離の兆候が現れたため、再度ピンホール評価試験を実施したが、リーク量は試験開始当初と同じ0.2cc/minを示し、膜の破れは認められなかった。
【0082】
これに対し、水素透過体(15)は、Pd合金膜中の希土類元素量が3at%と少なかったためにTiN膜との十分な密着性が得られず、温度サイクル試験4回目で、TiN膜とPd−REM合金膜との界面において剥離が認められた。
【0083】
水素透過体(16)および(17)は、TiN膜が厚過ぎたため、水素透過量の変化やTiN膜およびPd系合金膜の剥離は生じなかったものの、多孔質支持体の孔がTiNで塞がれてしまい、水素透過量自体が低い値であった。
【0084】
水素透過体(18)は、TiN膜の厚みを薄くしたため、ステンレス鋼製多孔質支持体の孔内壁へのTiNの被覆が不十分であり、ステンレス鋼が露出した多孔質支持体の孔内壁にPd合金膜が形成されていた。このため、水素透過試験中にステンレス鋼成分とPd合金が反応し、最終的に水素透過量が初期値の半分にまで低下した。
【0085】
水素透過体(19)は、反応防止層であるTiN層を形成していないため、水素透過試験開始と共に水素透過量が急速に低下し、試験開始後2時間でその値は0.1l/minにまで低下した。このため、この時点で試験を中止した。
【0086】
水素透過体(20)は、Pd−REM合金膜の厚みが薄かったために、Pd−Ag合金膜との密着性が不十分となり、温度サイクル試験9回目でPd−REM合金膜とPd−Ag合金膜の界面に剥離が発生した。
【0087】
水素透過体(21)は、Pd−Ag合金膜の厚みが薄かったために、Pd−REM合金膜の酸化を防ぐことができず、Yが酸化されて、水素透過性能が大きく低下した。
【0088】
水素透過体(22)は、Pd系合金膜全体の厚みが薄かったために、多孔質支持体の孔を塞ぐことができず、ヘリウムガスのリーク量が大きかった。尚、初期の水素透過量は2.4L/minであったが、水素の純度が低かったため、その後の温度サイクル試験は実施しなかった。
【0089】
【表1】
Figure 0004064774
【0090】
実験4
多孔質部の平均孔径が5μmである以外は、実験1で用いた物と同一形状・サイズのステンレス鋼製多孔質支持体を、図5に示す3つの蒸発源を有するアークイオンプレーティング(AIP)装置の真空チャンバー5内にセットした。AIP装置の3つの蒸発源には、岩塩構造型の窒化膜を形成するための金属または合金ターゲット14(以下、「窒化膜形成用ターゲット」という)、希土類元素含有Pd合金ターゲット12およびPd―23at%Ag合金ターゲット13をそれぞれ取り付けた。真空チャンバー5内の圧力を1×10-3Paにまで減圧した。その後、真空チャンバー5内に窒素ガスを導入し、該チャンバー5内の圧力を2.7Paとした。次に多孔質支持体に50Vの負のバイアス電圧を印加し、窒化膜形成用ターゲット14にアーク電流100Aを流してアーク放電を行うことにより、多孔質支持体表面に岩塩構造型の窒化膜を形成した。
【0091】
その後放電を止め、真空チャンバー5内の圧力を1×10-3Paにまで減圧し、さらにアルゴンガスを導入して該チャンバー5内の圧力を2.7Paとした。次に多孔質支持体に25Vの負のバイアス電圧を印加し、Pd−REM合金ターゲット12にアーク電流80Aを流してアーク放電を行うことにより、岩塩構造型の窒化膜表面にPd−REM合金膜を形成した。
【0092】
さらにその後、Pd−23at%Ag合金ターゲットにアーク電流80Aを流してアーク放電を行うことにより、Pd−REM合金膜上にPd−23at%Ag合金膜を形成し、水素透過体(23)〜(33)を得た。
【0093】
表2に使用したターゲット、窒化膜およびPd−REM合金膜の構成化合物、窒化膜、Pd−REM合金膜およびPd−23at%Ag合金膜の厚みを示す。なお、Pd−REM合金膜の組成は、ICP発光分析法によって測定した値である。表2から、Pd合金膜の組成は、使用したターゲットの組成とほぼ同じになることが分かる。
【0094】
【表2】
Figure 0004064774
【0095】
また、得られた水素透過体(23)〜(33)について、実験1と同様のピンホール評価および温度サイクル試験を行った。結果を表3に示す。
【0096】
表3から分かるように、水素透過体(23)〜(30)は、Pd合金膜の密着性、ピンホールフリー性、水素透過性とその耐久性のいずれもが良好である。
【0097】
これに対して、水素透過体(31)はPd系合金膜の厚みが薄く、ヘリウムガスのリーク量が大きかった。このときの水素透過量に対するヘリウムガスのリーク量の割合から水素の純度を概算すると99.8%となり、通常要求されるような高純度(99.99%以上)の水素を確保することができなかった。
【0098】
水素透過体(32)は、TiAlN膜の厚みが薄すぎたため、温度サイクル試験中に水素透過性能が劣化し、水素透過量の値が初期値の半分以下にまで減少した。
【0099】
水素透過体(33)は、Pd−REM合金膜中の希土類元素量が少なく、Pd−REM合金膜の形成直後に剥離が生じた。
【0100】
【表3】
Figure 0004064774
【0101】
【発明の効果】
本発明の水素透過体は、以上の通り、ステンレス鋼製多孔質支持体表面に岩塩構造型の窒化膜を形成し、該窒化膜表面にPd−REM合金膜、Pd−Ag合金膜を形成するものであり、該窒化膜とPd−REM合金膜の良好な親和性を利用して、Pd−REM合金膜の密着性を高めたものである。さらに、ステンレス鋼製多孔質支持体を用いた場合には、該ステンレス鋼成分とPd−REM合金膜との反応を上記窒化膜が防止するため、Pd−REM合金膜の水素透過性の劣化が抑制される。これにより、水素透過性の耐久性も向上する。これらに加えて、Pd−REM合金膜上にPd−Ag合金膜を設け、Pd−REM合金膜中の希土類元素の酸化を防ぐことにより、良好な水素選択性を長期的に維持できる。
【0102】
このように、本発明の構成を採用することで、優れた水素透過性能を有するPd−REM合金膜を、従来よりも有効な形で利用し得る水素透過体の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例で用いた円筒状多孔質支持体の側面模式図である。
【図2】 本発明の実施例で用いたイオンプレーティング装置の概略図である。
【図3】 本発明の実施例で用いた水素透過試験装置の概略図である。
【図4】 本発明の実施例で用いたスパッタリング装置の概略図である。
【図5】 本発明の実施例で用いたアークイオンプレーティング装置の概略図である。
【符合の説明】
1 多孔質支持体
2 多孔質部
3 キャップ
4 パイプ
5 真空チャンバー
6 電子銃
7 RF電源
8 加熱炉
9 スウェージロック
10 加熱ヒーター
11 Tiターゲット
12 Pd−REM合金ターゲット
13 Pd−Ag合金ターゲット
14 回転テーブル
15 岩塩構造型窒化膜形成用元素ターゲット
16 バイアス電源

Claims (8)

  1. 希土類元素を含むPd−REM合金膜を多孔質支持体上に有する水素透過体において、
    該Pd−REM合金膜と多孔質支持体との間に岩塩構造型の窒化膜を有し、
    該Pd−REM合金膜中の希土類元素の含有量は5at%以上であり、
    該Pd−REM合金膜の表面側にPd膜またはPd−Ag合金膜を有することを特徴とする水素透過体。
  2. 上記窒化膜は、4a族元素、5a族元素、CrおよびAlよりなる群から選択される1種以上の元素の窒化物で構成されている請求項1に記載の水素透過体。
  3. 上記Pd−REM合金膜に含まれる希土類元素は、Y、Ce、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の水素透過体。
  4. 上記Pd−REM合金膜が、さらにAgおよび/またはCuを含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の水素透過体。
  5. ステンレス鋼製多孔質支持体の片側表面に形成される上記窒化膜は、厚みが0.5μm以上である請求項1〜4のいずれかに記載の水素透過体。
  6. 上記Pd−REM合金膜と、Pd膜またはPd−Ag合金膜とを合わせた膜厚が2〜50μmである請求項1〜5のいずれかに記載の水素透過体。
  7. 前記岩塩構造型の窒化膜、Pd−REM合金膜、およびPd膜またはPd−Ag合金膜を、イオンプレーティング法またはスパッタリング法により形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水素透過体の製造方法。
  8. 上記窒化膜、上記Pd−REM合金膜、およびPd膜またはPd−Ag合金膜を、アークイオンプレーティング法によって形成する請求項7に記載の製造方法。
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