JP4061671B2 - 火力発電所排水の処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は火力発電所排水の処理方法に係り、特に、火力発電所の定常排水を凝集処理した後膜分離処理している処理系において、被処理液を定常排水から非定常排水に切り替えて処理を行う際の膜のフラックス低下を防止して安定かつ効率的な処理を行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
火力発電所排水の処理方法は一般にPAC(ポリ塩化アルミニウム)等のアルミニウム塩やFeCl3 (塩化第2鉄)等の第2鉄塩を凝集剤として添加すると共にpH調整して凝集処理し、得られた凝集処理液を固液分離することにより処理されている。この固液分離手段としては、沈殿法が採用されてきたが、沈殿槽を省略できるなどの利点を有することから、最近では膜分離法が採用されるようになってきている。
【0003】
このような火力発電所排水の処理では、大部分の期間は定常排水(例えば、排煙脱硫排水、発電所洗浄排水、生活排水など。フッ素、金属、SS等を含有するが、第1鉄イオン含有量は少ない。)を処理しており、年間1〜3回程度発生する非定常排水(例えば、電気集塵機洗浄排水、エアヒーター洗浄排水など。SSの他、比較的多くの第1鉄イオンを含む。)は、その発生の毎に、水処理装置への定常排水の供給を一時停止して、代わりに非定常排水を供給することで、当該水処理装置において処理されている。
【0004】
非定常排水を水処理装置に供給するときは、通常の場合、定常排水を処理している水処理系内に定常排水に代わって非定常排水が導入されることになり、この水処理系内が非定常排水に殆ど置き換わる、即ち、定常排水を処理しているときの系内の汚泥が、非定常排水の処理時に発生する汚泥に置き換わるには、定常排水から非定常排水への切り替えから数時間を要する。
【0005】
ところで、定常排水の処理に当り、凝集処理汚泥を安定して膜分離処理するための調整pH値は、6〜7.5、好ましくは6〜7である。しかし、処理対象排水を定常排水から非定常排水に置き換えたとき、定常排水の凝集処理条件、即ちpH6〜7.5のまま、第1鉄イオンを多く(通常の場合、数百〜千数百mg/L程度)含む非定常排水を処理すると、この条件では第1鉄イオンの凝集にはpHが若干低いため、処理水中に第1鉄イオンの一部がリークしたり、生成するフロックが膜分離に好適なフロック径より小さなフロックとなるため膜フラックスを低下させたりするという問題が生じる。
【0006】
このような問題点を回避するためには、非定常排水を処理するときに凝集処理pHを8〜9程度に高める必要がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、定常排水から非定常排水への切り替え時に単に凝集処理pHのみを高めただけでは、短時間で膜の目詰りが生じるようになる。これは、切り替え時には定常排水の汚泥が水処理系内に残留しているため、単にpHのみを調整したのでは、この汚泥がpHが高くなることにより微細化し、この微細化して濾過性の低下した汚泥が膜面を汚染し、膜フラックスの低下をもたらすことによる。
【0008】
一般に、膜分離装置では、透過水を採水する通水処理と、透過水側から透過水等の洗浄水を逆流させる逆洗とを交互に繰り返し行うことで膜の目詰りを防止しているが、逆洗による膜フラックスの回復が悪い場合には、装置の運転を停止して薬品による洗浄を行うこととなる。このような薬品洗浄頻度が高くなると、薬剤コストが高騰するだけでなく、装置の稼動率が低下するため、膜の目詰りを防止して薬品洗浄頻度を低く抑えることが重要となる。
【0009】
本発明は上記従来の問題点を解決し、火力発電所排水の処理において、定常排水から非定常排水に切り替えて処理する際の膜フラックスの低下を防止して薬品洗浄頻度を低減する方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の火力発電所排水の処理方法は、火力発電所排水を凝集処理し、凝集処理液を膜分離装置に通水して透過水を処理水とする火力発電所排水の処理方法であって、火力発電所排水として、第1鉄イオンの含有量が比較的少ない定常排水を処理する時期と、第1鉄イオンの含有量が比較的多い非定常排水を処理する時期とを含む火力発電所排水の処理方法において、該定常排水の処理から非定常排水の処理への切り替え時に、前記凝集処理pHを8〜9に調整するとともに、膜分離装置に供給される水のpHが8〜9になったときに、該水の第1鉄イオン濃度が100mg/L以上となるように調整することを特徴とする。
【0011】
前述の如く、定常排水から非定常排水への切り替え時に、凝集処理pHを8〜9に上げると、定常排水由来の汚泥は凝集不良となって微細化するが、第1鉄イオンが100mg/L以上となるように調整すると、凝集性が高まり、この第1鉄イオンと共に濾過性の良い凝集フロックを形成するため、膜フラックスの低下は抑制される。
【0012】
なお、この切り替え時のpH調整により系内のpHが8〜9になるまでは多少の時間を要し、その間、膜フラックスが若干低下する。従って、このpH調整時の膜フラックスの低下を防止するために、膜分離装置に供給される水のpHが8〜9に安定するまで膜分離装置からの処理水の採水を停止するのが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の火力発電所排水の処理方法の実施の形態を示す系統図である。
【0015】
火力発電所の定常排水の処理時においては、定常排水を凝集反応槽1に導入して、必要に応じてNaOH等のアルカリ又はH2 SO4 等の酸のpH調整剤を添加してpH6〜7.5、好ましくは6〜7に調整すると共に、凝集剤としてPAC等のアルミニウム塩やFeCl3 等の第2鉄塩等を添加して凝集処理し、凝集処理液を循環槽2を経てポンプPにより膜分離装置3に供給する。膜分離装置3の透過水は処理水として系外へ取り出し、濃縮水の一部は凝集反応槽1に返送し、残部は循環槽2に循環する。濃縮水を凝集反応槽1に返送することにより、濃縮水中のフロックが凝集反応の種晶となって、凝集反応の促進効果を示すが、この濃縮水の返送は必ずしも必要とされず、濃縮水は全量を循環槽2に循環しても良い。
【0016】
凝集反応槽1で排水に添加する凝集剤は、凝集剤の種類や排水の水質によっても異なるが、通常の場合数十〜数百(例えば40〜600)mg/L程度が好適である。
【0017】
また、膜分離装置3の膜としてはMF(精密濾過)膜又はUF(限外濾過)膜が用いられ、好ましくは、透過水流量0.1〜10m3 /m2 ・dayで膜分離処理が行われる。
【0018】
なお、循環槽2には通常の場合、凝集反応槽1と同様のpH調整手段が設けられている。循環槽2にpH調整手段を設けない場合には、循環槽2内の液を凝集反応槽1に返送することにより循環槽2のpHが凝集反応槽1のpHとほぼ同等となるようにする。
【0019】
この循環槽2又は膜分離装置3の循環系内からは、通常の場合、槽内のSS濃度が1000〜30000mg/L程度となるように、連続的又は間欠的に汚泥を引き抜く。
【0020】
非定常排水が発生し、被処理対象排水を定常排水から非定常排水に切り替える際には、定常排水の供給を停止して非定常排水を凝集反応槽1に導入すると共に、凝集反応槽1の設定pHを8〜9に上げる。この凝集処理pHが8未満であると、第1鉄イオンを多く含む非定常排水から不溶物を十分に生成させることができない。しかし、この凝集処理pHが9を超えると汚泥中のアルミニウムや第2鉄塩が溶出するため好ましくない。従って、非定常排水の凝集反応の設定pHは8〜9とする。
【0021】
本発明では、このように定常排水から非定常排水の切り替え時に凝集処理pHを8〜9に上げると共に、膜分離装置3に供給される水のpHが8〜9になったときに、該水の第1鉄イオン濃度が100mg/L以上となるように調整する。
【0022】
具体的には、循環槽2内のpHが8〜9になったのを確認した後、この循環槽2に第1鉄イオン、例えば硫酸第1鉄、塩化第1鉄等を添加して、循環槽2内の第1鉄イオン濃度を100mg/L以上、好ましくは300〜1000mg/Lに調整する。この第1鉄イオン濃度が100mg/L未満では、pHが8〜9とアルカリ性であるにもかかわらず、第1鉄イオン濃度が低いために、系内に残留する定常排水由来の汚泥の凝集性が低下して、これが微細化し、膜分離装置3の膜フラックス低下の原因となる。第1鉄イオン濃度は特に300mg/L以上であることが好ましいが、第1鉄イオン濃度を過度に高くしても凝集性の改善効果に差異はなく、汚泥生成量が徒に増加して好ましくない。従って、第1鉄イオン濃度は1000mg/L以下とする。
【0023】
このように、本発明に従って、pHを高めると共に、第1鉄イオン濃度を高めることにより、定常排水から非定常排水への切り替え時に系内に残留する定常排水由来の汚泥を濾過性の良い凝集フロックとして膜分離装置3に送ることができ、これにより膜フラックスの低下を抑えることができるが、定常排水から非定常排水への切り替え時の設定pH値の切り替えには若干の時間を要し、その間に、好適凝集条件を満たさない凝集処理液が膜分離装置3に流入することで、膜フラックスを低下させることとなる。
【0024】
従って、本発明においては、定常排水から非定常排水への切り替え時には、上述の如く、凝集処理pHを8〜9に上げ、第1鉄イオン濃度の調整を行うと共に、バルブVを閉として膜分離装置3に導入する水のpHが8〜9に安定するまでは、膜分離装置3からの透過水の採用を一時停止するのが好ましい。この場合、循環槽2内の液は、単に膜分離装置3の原水室内を通って再び循環槽2に戻される。
【0025】
このように採水を停止することにより、好適凝集条件を満たさず、濾過性の悪い凝集フロックを含む凝集処理液は、単に循環系内を循環するのみで、膜分離装置3の膜を透過しないため、膜フラックスの低下を引き起こすことはなく、膜分離性能を高く維持することができる。
【0026】
図示の方法では、第1鉄イオン濃度の調整のために、循環槽2に試薬の第1鉄塩を添加しているが、第1鉄塩の添加は、循環槽2に限らず、循環槽2から膜分離装置3へ水を供給する配管や膜分離装置3から循環槽2に濃縮水を循環する配管に添加しても良い。このように、膜分離装置の循環系内に第1鉄塩を添加することにより、膜分離に不都合な微細汚泥が膜と接触することが軽減されるため、膜フラックスの低下防止に有効であるが、第1鉄塩は凝集反応槽1や膜分離装置3から濃縮水を凝集反応槽1に返送する配管に添加しても良い。特に、凝集性及び濾過性の改善のためには、凝集反応槽1と循環槽2の両方に第1鉄塩を添加するのが好ましい。
【0027】
また、第1鉄イオン濃度の調整は、このように、系外から別途第1鉄塩を添加する他、循環槽2内の水を排出することにより濃縮水槽などに移し、液位を適当なレベルにまで下げ、その分、非定常排水を凝集反応槽1を経て循環槽2に導入し、循環槽2内の第1鉄イオン濃度を100mg/L以上に上げることもできる。
【0028】
この非定常排水による第1鉄イオン濃度の調整は、前述の試薬の第1鉄塩添加による第1鉄イオン濃度の調整と併用して行っても良い。
【0029】
なお、本発明において、定常排水とは、前述の如く、排煙脱硫排水、発電所洗浄排水、生活排水等の火力発電所から常時排出される排水であり、通常、その第1鉄イオン濃度は10mg/L以下とくに0.1〜1mg/Lである。
【0030】
一方、非定常排水とは、電気集塵機洗浄排水、エアヒーター洗浄排水等の火力発電所から非定常的に排出される排水であり、通常、その第1鉄イオン濃度は100mg/L以上とくに200〜2000mg/Lである。
【0031】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
説明の便宜上まず比較例を挙げる。
【0033】
比較例1
図1に示す装置により火力発電所の定常排水(脱硫排水)を処理し、その後非定常排水に切り替えて処理を行った。なお、定常排水及び非定常排水の水質は次の通りである。
【0034】
定常排水水質
pH:6.8
SS:30mg/L
Fe:1.3mg/L(Fe2+:0.1mg/L以下)
F :19mg/L
非定常排水水質
pH:2.6
SS:720mg/L
Fe:1340mg/L(Fe2+:1280mg/L)
F :3.8mg/L
まず、定常排水を1200L/dayの流量で凝集反応槽(容量500L)1に導入し、凝集剤としてPACを200mg/L添加すると共に、pH6〜7となるように必要に応じてNaOH又はH2 SO4 を添加してpH調整して十分に凝集反応させた後、循環槽(容量1000L)2を経てポンプPにより、チューブラーMF膜(内径5.5mm,孔径0.2μm)を装着した膜分離装置3に導入し、透過水量5m3 /m2 ・day一定で膜分離処理した。
【0035】
膜分離装置3の透過水は処理水として取り出し、濃縮水は一部(1200L/day)を凝集反応槽1に返送し、残部は循環槽2に循環した。この循環槽2からは循環槽内SS濃度が20000mg/Lとなるように汚泥を引き抜いた。
【0036】
なお、本実施例の装置では、循環槽2にpH調整手段が設けられていないため、循環槽2内の液を1200L/dayの割合で凝集反応槽1に返送することにより、循環槽2内の液pHを凝集反応槽1内の液pHに一致させるようにした。
【0037】
膜分離装置3は、15分間に1回の割合で処理水による逆洗を5秒間行って連続処理した。
【0038】
なお、薬品洗浄は、透過水量が5m3 /m2 ・day以下となったときに行うものとした。
【0039】
このときの膜の濾過性能として、循環水側圧力の平均と透過水側圧力との差を有効圧力とし、これを0.5kgf/cm2 ,25℃で換算した膜フラックスを求め、この膜フラックスの1日当りの低下量をフラックス低下速度として算出したところ、0.19m3 /m2 ・day/dayであった。
【0040】
ある時点で非定常排水が発生したため、定常排水の導入を停止して非定常排水に切り替え、非定常排水を1200L/dayの流量で凝集反応槽1に導入した。そして、非定常排水のFe2+を十分に凝集処理するために、凝集反応槽1の設定pHを8に上げたこと以外は、上記定常排水の処理時と同様にして、同一凝集剤添加量、同一透過水流量及び逆洗頻度で連続処理を行った。なお、循環槽2内のFe2+濃度は、定常排水から非定常排水に切り替え直後は0.2mg/Lであり、その後徐々に高くなって約0.5日後には100mg/Lになった。
【0041】
この非定常排水処理を7日継続したときのフラックス低下速度及び薬品洗浄頻度は表1に示す通りであった。
【0042】
実施例1
比較例1において、定常排水から非定常排水に切り替えたときに、凝集処理pHを8に上げると共に、循環槽2内のpHが8になったときに、Fe2+濃度が100mg/Lとなるように循環槽2に試薬の硫酸第1鉄を添加したこと以外は同様に処理を行ったところ、非定常排水処理時のフラックス低下速度及び薬品洗浄頻度は表1に示す通りとなった。
【0043】
実施例2
実施例1において、循環槽2内のFe2+濃度が300mg/Lとなるように硫酸第1鉄を添加したこと以外は同様に処理を行ったところ、非定常排水処理時のフラックス低下速度及び薬品洗浄頻度は表1に示す通りとなった。
【0044】
実施例3,4
実施例1,2において、循環槽2内のpHが上昇し始めてからpH8になるまで、バルブVを閉として一時的に透過水の採水を停止し、循環槽2内のpHが8になったところで透過水の採水を再開したこと以外はそれぞれ同様に処理を行ったところ、非定常排水処理時のフラックス低下速度及び薬品洗浄頻度は表1に示す通りとなった。
【0045】
【表1】
【0046】
表1より、本発明の方法に従ってFe2+濃度を調整することにより、膜フラックスの低下を防止して、薬品洗浄頻度を著しく低減でき、更にこの場合において、pHが安定するまでの間、透過水の採水を停止することにより、より一層膜フラックスの低下を防止できることが明らかである。
【0047】
なお、上記比較例1及び実施例1〜3において、非定常排水処理時の処理水のFe及びAl3+濃度はいずれの場合も各々1.0mg/L以下と良好であった。
【0048】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の火力発電所排水の処理方法によれば、定常排水から非定常排水への切り替え時の膜フラックスの低下を防止することができる。このため、膜の薬品洗浄頻度は大幅に低減され、薬品コストの低減、装置稼動率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の火力発電所排水の処理方法の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
1 凝集反応槽
2 循環槽
3 膜分離装置
Claims (2)
- 火力発電所排水を凝集処理し、凝集処理液を膜分離装置に通水して透過水を処理水とする火力発電所排水の処理方法であって、
火力発電所排水として、第1鉄イオンの含有量が比較的少ない定常排水を処理する時期と、第1鉄イオンの含有量が比較的多い非定常排水を処理する時期とを含む火力発電所排水の処理方法において、
該定常排水の処理から非定常排水の処理への切り替え時に、前記凝集処理pHを8〜9に調整するとともに、膜分離装置に供給される水のpHが8〜9になったときに、該水の第1鉄イオン濃度が100mg/L以上となるように調整することを特徴とする火力発電所排水の処理方法。 - 請求項1の方法において、該切り替え時に、膜分離装置に供給される水のpHが8〜9になるまで膜分離装置からの処理水の採水を停止することを特徴とする火力発電所排水の処理方法。
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