JP4044348B2 - 溶射用球状粒子および溶射部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックス、金属等の溶射に有用な酸化イットリウム又は酸化イッテルビウム(以下、これらを希土類元素含有酸化物という)からなる溶射用球状粒子および溶射部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、緻密な溶射膜をセラミックスや金属等の表面に形成する手法として、プラズマ溶射や爆発溶射などが広く用いられている。これらの溶射法において、溶射用粒子として金属や金属酸化物等が使用されている。
【0003】
このような溶射被膜を形成するための溶射用粒子として、(1)原料を電気炉で溶融し、冷却凝固後、粉砕機で微粉化し、その後分級することにより粒度調整を行って得られる溶融粉砕粉、(2)原料を焼結後、粉砕機で微粉化し、その後分級することにより粒度調整を行って得られる焼結粉砕粉、(3)原料粉末を有機バインダーに加えてスラリー化し、噴霧乾燥型造粒機を用いて造粒後、乾燥し、場合によっては分級することにより粒度調整を行って得られる造粒粉、等が挙げられる。ここで、上記(1)〜(3)の粉体製造の原料は、コストや、目的とする溶射被膜の性状により適宜選択され、開発されている。
【0004】
ところで、近年、半導体製造におけるプラズマプロセスにおいて、ハロゲン系腐食ガス中でのウェハー処理部材として、そのプラズマ耐性の高さから希土類元素含有化合物が開発されつつある。
このような半導体製造装置の部材に溶射被膜が使用される場合、被膜に求められる特性としては、▲1▼主要構成元素以外の不純物元素が少ないこと、▲2▼パーティクルが少なく被膜の表面が滑らかで、凹凸が少ないこと、すなわち、ウェハー処理中の発塵を抑制することを意味している、の2つが挙げられる。かかる要求を満たすためには、溶射条件に加え、溶射用粒子の粉体特性をどのようにコントロールするかが重要となってくる。
【0005】
溶射用粒子の特性としては、▲1▼溶射時のプラズマ炎またはフレーム炎まで材料が崩壊せず、安定で、かつ、定量的に供給できること、▲2▼溶射時に(プラズマ炎またはフレーム炎中で)粒子が完全に溶融すること、▲3▼高純度であること、が要求され、これら各特性は、十数項目からなる粉体物性値および元素分析値で定量的に表現される。
【0006】
ところで、上記溶射用粒子は搬送チューブ等の細い流路を介して溶射ガンまで供給されることから、安定的かつ定量的に供給を行えるか否かは、溶射用粒子の粉体物性中、流動性にかなり影響されることとなる。
【0007】
しかしながら、上記(1)、(2)の方法で得られる溶融粉砕粉や、焼結粉砕粉は、形状が不定形であるため、溶射した膜の凹凸が大きくなるという欠点があった。しかも、溶融粉砕粉は、構成元素以外の不純物含有量が高いという欠点が、焼結粉砕粉は、粉砕工程において不純物が混入しやすいという欠点があった。
【0008】
これら各粉砕粉の問題点を解決するものとして、上記(3)の方法で得られる造粒粉、すなわち、球形または球に近い形状であるため流動性が良いという特徴を有する造粒粉、が開発されてきている。しかも、この造粒粉は、使用する原料中の不純物を低減することで、比較的純粋な造粒粉を容易に製造できるという特徴をも有している。
【0009】
しかしながら、原料粉体によっては、造粒した場合にプラズマ中で粒子が崩壊したり、球形からかけ離れた形状の造粒粉が得られたり、造粒粉の周囲に原料粉体が付着するという問題が生じることもあり、特に粒子径を小さくした場合に、流動性の低下を招くという問題も生じていた。
【0010】
さらに、その溶射紛を用いて溶射した膜中または該膜表面に造粒されなかった微粒子が溶融せずに付着し、半導体製造装置等に使用した場合、発塵が多くなるという問題があった。
一方、金属酸化物等からなる溶射用粒子を溶射する場合、発塵がなく、しかも、密着強度に優れた溶射被膜を形成するためには、溶射時にフレーム炎またはプラズマ炎中で溶射用粒子を完全に溶融させるとともに、溶射原料の供給を精密にコントロールする必要がある。
【0011】
特に、希土類元素含有化合物を用いる場合には、融点が高いので、完全に溶融させるためには平均粒径の小さい溶射用粒子を用いることが好ましい。
【0012】
しかしながら、噴霧型造粒機を用いた造粒粉の場合、平均粒径の小さい粒子だけを製造することは難しく、比較的平均粒径の大きな粒子も生じてしまうという問題があった。このような平均粒径の大きな粒子は、重量が大きいため、プラズマ炎中に供給されても完全には溶融せず、未溶融粒子のまま溶射被膜中に取り込まれ、被膜に凹凸を発生させる原因の1つとなっていた。
【0013】
上記問題点を解決するため、原料の粒子径を小さくして表面の凹凸を抑制しようとすると、パーティクルの発生があるとともに、流動性が低下し、精密な定量供給ができなくなり、結果として表面凹凸ができたり、膜の緻密さが低下してしまうという問題があった。さらに、造粒されずに表面に付着する粒子が、溶射時にプラズマ炎中に入り込まずに未溶融となり、溶射被膜中、または該膜表面に付着するという問題もあった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、第1に、十分な破壊強度を有し、溶射時のフレーム(プラズマ)中でも崩壊しない溶射用球状粒子を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、第2に、高融点の希土類元素含有化合物を用いても滑らかで緻密な溶射被膜を形成できるとともに、パーティクルの発生がない純度の高い溶射用球状粒子を提供することを目的とする。
【0016】
さらに、本発明は、第3に、上記溶射用球状粒子を基材表面に溶射してなる微粉付着のない平滑な溶射部材を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段および発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、本発明に到達したものである。
【0018】
即ち、本発明は第1に、フィッシャー径が0.4μm以下の酸化イットリウム又は酸化イッテルビウムを造粒して得られた造粒粉末を1,200〜1,800℃で焼成することによって得られ、破壊強度が50MPaを超え、平均粒径が10〜80μmであることを特徴とする溶射用球状粒子を提供する。
この溶射用球状粒子は、溶射時のフレーム(プラズマ)中でも崩壊することがなく、これを用いることにより、表面および内部に未溶融粒子の付着のない溶射膜を形成することができる。
【0020】
また、本発明は、基材と、この基材表面に上記溶射用球状粒子を溶射してなる被膜と、を備えることを特徴とする溶射部材をも提供する。
【0021】
上記の希土類元素含有酸化物から形成された溶射用粒子において、嵩密度、累積細孔容積およびアスペクト比を所定の値に制御し、かつ球形とすること、さらに必要に応じて粒度分布をシャープに制御することで、パーティクルの発生がなく、しかも流動性がよく、緻密かつ高強度であり、溶射時に崩壊せずに完全に溶解するとともに、当該溶射用粒子を溶射してなる被膜が、従来の溶射被膜に比べて微粉の付着がなく、平滑で高純度になり、密着性および耐食性に優れるものである。
【0022】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。
本発明の第1の溶射用球状粒子は、酸化イットリウム又は酸化イッテルビウムから形成され、破壊強度が50MPaを超え、平均粒径が10〜80μmである。
【0023】
本発明における破壊強度Stは、微少圧縮試験機(MCTM−500、島津製作所製)にて測定した圧縮荷重P(N)、粒径d(mm)をパラメータとし、下記式によって求めた値である。
【0024】
St=2.8P/πd2
また、平均粒径とは、レーザー回折法で測定した粒度分布のD50の値であり、フィッシャー径とは、Fisher subsieve sizerで測定した値である。
【0026】
希土類元素酸化物としては、酸化イットリウムまたは酸化イッテルビウムを用いる。
なお、AlもしくはSiとの複合酸化物を用いてもよい。
【0027】
また、本発明において、溶射用球状粒子の破壊強度Stが10MPa未満では、破壊強度が低すぎるため、溶射時のフレーム(プラズマ)中で崩壊して微粉化するという問題がある。この場合、破壊強度の上限は通常300MPa以下である。
さらに、平均粒径10μm未満では、溶射粒子の気化等の原因で歩留りの低下をまねくという問題があり、一方、80μmを超えると、溶射粒子が溶融しきれずに溶け残るという問題がある。より好ましい平均粒径は、10〜60μmである。
【0028】
本発明の希土類元素含有酸化物からなる溶射用球状粒子の製造方法は、フィッシャー径が0.4μm以下の希土類元素含有酸化物微粉末を造粒して得られた造粒粉末を、1,200〜1,800℃で焼成する方法が好ましい。
ここで、希土類元素含有酸化物のフィッシャー径が0.6μmを超えると、造粒後の焼成工程において造粒粉末の焼結が進みにくく、破壊強度の大きな溶射用球状粒子が得られなくなる。破壊強度を向上させることを考慮すると、より好ましいフィッシャー径は0.4μm以下である。
【0029】
本発明の溶射用球状粒子の製造は、具体的に以下のような手順で行うことができる。まず、フィッシャー径0.4μm以下、特に0.1〜0.4μmで、好ましくは平均粒径D50が0.01〜5μm、さらに好ましくは0.1〜1μmの希土類元素含有酸化物の微粉末に、水、イソプロパノール等のアルコール等の溶媒を加えてスラリーを調製する。得られたスラリーを転動型造粒機(回転ディスク)、噴霧型造粒機、圧縮造粒機、流動造粒機等の造粒機を用いて造粒し、平均粒子径が10〜80μm、特に好ましくは10〜60μmの造粒粉末を得る。
【0030】
この際、造粒粉末が回収操作等の際に壊れないようにするために、造粒前の原料酸化物に焼成過程で消失するような有機物を配合してもよい。このような有機物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。有機物の添加量としては、焼成工程で問題が生じない限り、特に限定はないが、希土類元素含有酸化物の微粉末に対し、0.1〜5重量%が好ましい。
【0031】
また、造粒機での造粒工程では、多少非球状粒子が生じるものであり、このような非球状粒子は粉体の流動性等を低下させる要因ともなるので、分級機等で非球状粒子と球状粒子とを分離して、球状粒子のみを後の焼成工程に用いることが好適である。
【0032】
本製造方法において、焼成工程は、大気中もしくは不活性ガス雰囲気または真空下、電気炉等で行うこととなるが、この際、酸化レアアースを原料として用いる場合の焼成温度は、1,200〜1,800℃、より好ましくは1,500〜1,800℃である。焼成時間は、5分〜10時間、特に1〜5時間がよい。
【0033】
このように焼成した溶射用球状粒子は、そのままでも溶射に使用可能であるが、通常粒子間で多少の融着がみられることが多く、この状態で高温のプラズマに曝されると粗粒子側で溶融が不十分となり、その結果、基材へ付着しにくくなる虞がある。このため、焼成後の粒子を解砕機、粉砕機、篩等の分級機にかけることで、各粒子が独立した単分散粒子である平均粒径10〜80μmの溶射用球状粒子とするのが好適である。
【0034】
上述の製法により得られた溶射用球状粒子は、破壊強度が10MPa以上と高強度であるため、粉体搬送時や溶射時に粒子が破壊することがなく、これを溶射に用いることで、溶射膜の表面および内部に未溶融粒子が付着しない、良好な状態の膜を得ることができる。
【0035】
本発明に係る第2の希土類元素含有酸化物から形成される溶射用球状粒子は、嵩密度が1.0g/cm3以上、アスペクト比が2以下、細孔半径1μm以下の累積細孔容積が0.5cm3/g未満の球形であることを特徴とする。
【0036】
本発明における希土類元素含有化合物としては、上記と同様に、希土類元素(但し、イットリウムを含む)を含む酸化物が挙げられるが、特に焼結して用いる点から、酸化物を用いる。なお、酸化物である場合、上記と同様に、破壊強度が10MPa以上、300MPa以下であることが好ましい。
【0037】
ここで、希土類含有酸化物としては、上記と同様、イットリウム(Y)を含む3A族の希土類元素のうちから1種以上を用いることができるが、Y、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる1種または2種以上の重希土類含有酸化物を用いることが好ましい。
なお、上記希土類含有酸化物とAl、Si、Zr、In等から選ばれる1種以上の金属との複合酸化物を用いてもよい。
【0038】
上記嵩密度が1.0g/cm3未満であると、粒子が緻密でないために強度が弱くなりがちであり、溶射時に崩壊する虞が高い。より好ましい嵩密度は、1.2〜5.0g/cm3である。
また、累積細孔容積が0.5cm3/g以上であると、粒子表面の凹凸が大きくなり、滑らかな粒子が得られない。すなわち、粒子径を小さくしても比較的高い流動性を有する粒子とするためには、細孔半径が1μm以下の累積細孔容積を0.5cm3/g未満とする必要がある。
【0039】
さらに、細孔半径1μm以下の領域において、累積細孔容積を0.3cm3/g以下とすることが好ましく、このようにすることで、粒子の流動性をより一層向上させることができる。なお、細孔半径、累積細孔容積は、水銀圧入式気孔分布測定装置で測定することができる。
【0040】
本発明の希土類元素含有酸化物の溶射用粒子は、球形を有するものであり、具体的には、アスペクト比が2以下の粒子である。なお、アスペクト比とは、粒子の長径と短径との比、すなわち、長径/短径で表され、形状が球に近いか否かを表す指標となるものである。
上記アスペクト比が2を超えると、形状が不定形、針状、鱗片状等の球形からかけ離れたものとなり、流動性が悪化することとなる。この場合、アスペクト比の下限値は、特に限定されないが、1により近いものが好ましい。
なお、本発明における球形とは、アスペクト比が2以下の粒子の形状を示したものであり、球形または球形に近い形状をも含む概念である。
【0041】
本発明の第2の希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子は、以上の各物性値を有するのに加え、粒度分布における90vol%の粒径D90が100μm以下であり、かつ、粒度分布における50vol%の粒径D50とフィッシャー径との比が5以下であることが好ましい。
ここで、90vol%の粒径D90が100μmを超えると、プラズマ炎中で完全に溶融せず、未溶融着粉を生じ、表面に凹凸が発生する虞がある。
【0042】
また、粒度分布における50vol%の粒径D50とフィッシャー径との比が5を超えると、粗大粒子および微粉が多くなり、精密な定量供給が困難になる虞がある。すなわち、上記値が5以下、より好ましくは1〜3であれば、粗大粒子および微粉が少ないものと判断される。また、表面に形成された細孔が小さくても、D50とフィッシャー径との比が小さくなるため、定量供給が可能となり、さらに、粒子径が小さくても精密な定量供給が可能となる。その結果、当該溶射用粒子を用いることで、滑らかで緻密な溶射被膜を形成することが可能となる。
なお、フィッシャー径とは、Fisher subsieve sizerで測定した値である。
【0043】
上記フィッシャー径は、粉体中にガスを通過させたときのガスの差圧から算出した値であるので、粉体の平均粒径、粒度分布、粒子の表面状態等に影響される。このため、平均粒径が大きい場合、粒度分布がシャープな場合、および/または表面が滑らかな場合等では、フィッシャー径は大きく算出される。
【0044】
したがって、平均粒径D50との比(D50/フィッシャー径)を算出した場合に、その比が小さいほど、粒度分布がシャープ、または粒子表面が滑らかであるということがいえる。特に、粒度分布が同等であれば、粒子の表面が滑らかであるという特徴があると判断される。
【0045】
さらに好ましくは、粒度分布における10vol%の粒径D10が5μm以上、分散指数が0.6以下であることが好ましい。
すなわち、D10を5μm以上、分散指数を0.6以下にすることで、パーティクルの発生を抑制できるとともに、粒度分布をシャープにすることができる。
また、粒子の流動性が向上し、粉体供給時にノズル内での閉塞を防止することができる。
【0046】
なお、分散指数は、以下の式により求めることができる。
分散指数 = (D90−D10)/(D90+D10)
【0047】
さらに、粒子の流動性を一層向上させるということを考慮すると、分散指数を0.1〜0.5に制御するとともに、粒子の安息角を44゜以下に制御することが好ましい。
【0048】
また、希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子の比表面積は2.0m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5m2/gである。
ここで、比表面積が2.0m2/gを超える場合、構成粒子が崩れやすくなり、発塵の原因となる虞がある。
【0049】
また、上記希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子は、当該溶射用球状粒子を溶射してなる被膜を高純度にし、有色斑点の発生を防止するとともに、当該被膜を有する溶射部材に十分な耐食性を付与することを考慮すると、鉄族元素(Fe、Ni、Co等)、アルカリ金属元素(Na、K等)、およびアルカリ土類金属元素(Mg、Ca等)が酸化物換算でそれぞれ5ppm以下であることが好ましい。これらの各金属元素の量は、少なければ少ないほど好ましいものであるが、通常、その下限値は0.1ppm程度である。
【0050】
なお、鉄族元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素の測定は、上記希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子を酸分解した後、ICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で測定したものである。
【0051】
さらに、炭素が100ppm以下であることが好ましい。炭素を100ppm以下に抑制することで、残留炭素により溶射膜中の粒子の結合が弱くなることを防止でき、その結果、発塵を低減することが可能となる。したがって、バインダーを用いて造粒する場合においても、できる限り炭素残留のない焼結をし、原料の炭化物を発生させないようにするのが好適である。
【0052】
ところで、多結晶粒子においては、粒子を構成する単結晶粒子の粒径が大きいほど緻密であると考えられる。このような粒子を構成する単結晶粒子の粒径を結晶子といい、上記希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子において、当該結晶子が25nm以上であることが好ましく、より好ましくは50nm以上である。結晶子が25nm未満の場合、単結晶粒子の粒径が小さい多結晶粒子であるため、緻密とはいえない場合が多いと考えられる。
【0053】
なお、結晶子はX線回折のwilson法から求めた値である。このwilson法では、単結晶粒子の粒径がどれだけ大きくても、上記結晶子は0〜100nmの範囲になる。
【0054】
以上において、特に希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子は、先にも述べたが、次のようにして得ることができる。
【0055】
一次粒子のフィッシャー径が0.4μm以下、特に0.1〜0.4μmで、好ましくは平均粒径が0.01〜5μm、さらに好ましくは0.01〜1μmの希土類元素含有酸化物を水、アルコール等にバインダーとともに添加してスラリーを調製し、これを転動型造粒機、噴霧型造粒機、圧縮造粒機、流動造粒機等で造粒し、乾燥した後大気中もしくは不活性ガス中又は真空下で1,200〜1,800℃、好ましくは1,500〜1,800℃で5分〜10時間、好ましくは1〜5時間焼成し、粒度分布における粒径D90が100μm以下、かつ、D50とフィッシャー径との比が5以下、嵩密度が1.0g/cm3以上、累積細孔容積が0.5cm3/g未満、アスペクト比が2以下の球形を有する流動性に優れた希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子を得る。
【0056】
上記バインダーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース類、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができ、これらを希土類元素含有酸化物に対し、0.1〜5重量%添加することとなる。
【0057】
以上説明したように、本発明に係る希土類元素含有酸化物の溶射用粒子は、球形であるとともに、微粒子で構成され、パーティクルが少なく、しかも、粒子表面の凹凸が少なく滑らかである。したがって、流動性に優れているため、溶射ノズルの閉塞を生じることなく精密な定量供給が可能となる。その結果、当該溶射用粒子を溶射して得られる被膜を滑らか、かつ、緻密で、付着粒子の少ないものにできる。
【0058】
本発明に係る溶射部材は、基材と、この基材表面に上述の第1、第2の希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子を溶射してなる被膜と、を備えることを特徴とする。
ここで、基材としては、特に限定はなく、金属、合金、セラミックス、ガラス等を用いることができ、具体的には、Al、Fe、Ni、Cr、Zn、Zr、Siおよびこれらの合金、酸化物、窒化物、炭化物等、例えば、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素、炭化珪素、石英ガラス、ジルコニア等が挙げられる。
【0059】
上記基材表面の被膜の厚さは50〜500μmが好ましく、より好ましくは150〜300μmである。被膜の厚さが50μm未満であると、当該被膜を有する溶射部材を耐食性部材として使用する場合、わずかの腐食で交換する必要が生じる虞がある。一方、被膜の厚さが500μmを超えると、厚すぎて被膜内部での剥離が生じやすくなる虞がある。
【0060】
また、被膜の表面粗さが60μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下である。表面粗さが60μmを超えると、溶射部材の使用時における発塵の原因となる虞があるとともに、プラズマ接触面積が大きくなるため、耐食性が悪くなる虞があり、腐食の進行によりパーティクルが発生する虞がある。
【0061】
すなわち、被膜の表面粗さを60μm以下とすることで、良好な耐食性が得られるとともに、膜表面に付着したパーティクルが少なくなる。したがって、腐食性ガス(ハロゲン系ガスプラズマ等)雰囲気下においても腐食が起こりにくく、当該溶射部材を耐食性部材として好適に使用することができるとともに、上記希土類元素含有酸化物の溶射用粒子を用いることで、被膜表面に未溶融付着物粒子が10個以下/100μm2という発塵の少ない部材が得られることとなる。
【0062】
本発明の溶射部材は、基材表面に、上述の希土類元素含有酸化物の溶射用粒子をプラズマ溶射または減圧プラズマ溶射等にて被膜を形成することで得ることができる。ここで、プラズマガスとしては、特に限定されるものではなく、窒素/水素、アルゴン/水素、アルゴン/ヘリウム、アルゴン/窒素等を用いることができる。
なお、溶射条件等については、特に限定はなく、基材、希土類元素含有酸化物の溶射用粒子等の具体的材質、得られる溶射部材の用途等に応じて適宜設定すればよい。
【0063】
本発明の溶射部材においても、被膜中の鉄族元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素が酸化物換算でそれぞれ5ppm以下であることが好ましいが、これは上述した各金属元素が酸化物換算でそれぞれ5ppm以下の希土類元素含有酸化物の溶射用粒子を用いて被膜を形成することで達成できる。
【0064】
すなわち、鉄族元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素がそれぞれ酸化物換算で5ppm以上混入している溶射用球状粒子を用いて被膜を形成した場合、被膜には溶射用球状粒子に混入しているだけの鉄族元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素がそのまま混入することになるため、半導体製造装置用に使用するとウェハ不良の懸念がある。
【0065】
以上に説明したように、本発明に係る溶射部材は、表面粗さが60μm以下であり、かつ、鉄族元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素が酸化物換算でそれぞれ5ppm以下という高純度の被膜を有するとともに、滑らかで緻密な被膜を有するものである。
【0066】
したがって、プラズマエッチング時に発生するパーティクルが少なく、処理ウェハーへの不純物の混入を抑制することができるため、当該溶射部材を高純度であることが要求される装置にも問題なく使用することができる。具体的には、液晶製造装置用部材および半導体製造装置用部材等として好適に使用することができる。
【0067】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[参考例1]
フィッシャー径0.45μmの酸化イットリウム5kgにメチルセルロースを10g添加し、純水を加えて約40重量%の水スラリーを作った。この水スラリーをスプレードライヤーで造粒し、平均粒径約50μmの造粒粉末を得た。
この造粒粉末を大気雰囲気の電気炉で1,600℃で2時間焼成した後、冷却した。得られた粉末を目開き150μmの篩に通し、平均粒径50μmの球状の溶射粉末を得た。得られた溶射用球状粒子の破壊強度を測定したところ約13MPaであった。
なお、破壊強度の測定は、平面圧子を使用し、試験荷重980mN、約41.5mN/secの負荷速度で行った。
【0069】
[実施例1]
酸化イットリウムのフィッシャー径を0.28μmとした以外は、参考例1と同様にして、平均粒径50μmの溶射用球状粒子を製造した。得られた溶射用球状粒子の破壊強度を測定したところ約160MPaであった。
【0070】
[実施例2]
酸化イットリウムのフィッシャー径を0.35μmとした以外は、参考例1と同様にして、平均粒径49μmの溶射用球状粒子を製造した。得られた溶射用球状粒子の破壊強度を測定したところ約130MPaであった。
【0071】
[実施例3]
フィッシャー径0.28μmの酸化イッテルビウムを用いた以外は、参考例1と同様にして、平均粒径50μmの溶射用球状粒子を製造した。得られた溶射用球状粒子の破壊強度を測定したところ約160MPaであった。
【0072】
[実施例4]
フィッシャー径0.30μmの酸化イッテルビウムを用いた以外は、参考例1と同様にして、平均粒径50μmの溶射用球状粒子を製造した。得られた溶射用球状粒子の破壊強度を測定したところ約120MPaであった。
【0073】
[比較例1]
酸化イットリウムのフィッシャー径を1.5μmとした以外は、参考例1と同様にして、平均粒径50μmの溶射用球状粒子を製造した。得られた溶射用球状粒子の破壊強度を測定したところ約2MPaであった。
【0074】
上記各実施例および比較例における原料粉末、原料フィッシャー径、焼成温度、溶射用球状粒子の平均粒径、および破壊強度について、下記表1にまとめた。
【0075】
【表1】
【0076】
上記各実施例および比較例の結果に示されるように、フィッシャー径0.6μm以下の原料酸化物を使用して得られた溶射用球状粒子は、破壊強度が10MPaを超え、50MPaを超えるもの(実施例1〜4)も得られることがわかる。
また、各実施例および比較例で得られた溶射用球状粒子をプラズマ溶射機を用いてアルミナセラミックス製の基材に溶射したところ、各実施例で得られた破壊強度が10MPaを超える溶射用球状粒子では、溶射時に粒子の破壊による微粒子が発生せず、良好な溶射膜が得られた。
【0077】
このように、本発明の溶射用球状粒子は、酸化レアアース(但し、イットリウムを含む)を含んで構成され、破壊強度が10MPa以上、平均粒径が10〜80μmであるため、フレーム溶射、プラズマ溶射等を用いて溶射被膜を形成する際に、フレーム(プラズマ)による崩壊を起こして微粒子化することがなく、これを溶射に用いることで微粒子が付着しない良好な溶射膜を得ることができる。
【0078】
[参考例2]
PVA(ポリビニルアルコール)15gを溶かした純水12リットルに、フィッシャー径0.5μmでFe2O3が0.5ppm以下の酸化イットリウム8kgを分散させてスラリーを調製し、噴霧型造粒機でこのスラリーを噴霧乾燥させ球状造粒粉を作製した。
さらに、得られた造粒粉を大気中1,600℃で2時間焼成し、溶射用球状粒子を得た。
【0079】
上記製造工程によって得られた溶射用球状粒子の粒径を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は45μmであった。嵩密度は1.86g/cm3、BET法で測定した比表面積は0.6m2/g、細孔半径1μm以下の累積細孔容積は0.18cm3/gであった。また、平均粒径D50とフィッシャー径との比は2.25、アスペクト比は1.01であった。
【0080】
得られた溶射用球状粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は1ppm、CaOは2ppmであり、原子吸光によるNa2Oは5ppm、炭素濃度は70ppmであった。なお、累積細孔容積は、ユアサアイオニクス製、水銀圧入式オートスキャン33型で測定した。
【0081】
さらに、上記溶射用粒子をアルゴン/水素でプラズマ溶射して、アルミニウム合金基板(JIS H4000に記載のNo.6061)上に膜厚190μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。得られた被膜の滑らかさを表す指標である表面粗さを測定したところ、Rmax(JIS B0601に準拠)は48μmであった。
また、得られた溶射被膜の緻密さを調べる目的で、被膜の相対密度を測定した。相対密度は、溶射した被膜を希塩酸中に浸漬して基板から剥離し、アルキメデス法によって測定した。その結果、相対密度は92%であった。
【0082】
[参考例3]
CMC(カルボキシメチルセルロース)15gを溶かした純水16リットルに、フィッシャー径0.4μmでFe2O3が0.5ppm以下の酸化イッテルビウム4kgを分散させてスラリーを調製し、噴霧型造粒機でこのスラリーを噴霧乾燥させ球状造粒粉を作製した。さらに、この造粒粉を大気中1,500℃で2時間焼成し、溶射用球状粒子を得た。
上記製造工程によって得られた溶射用粒子を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は36μm、嵩密度は2.2g/cm3、BET法による比表面積は0.5m2/g、細孔半径1μm以下の累積細孔容積は0.04cm3/g、平均粒径D50とフィッシャー径との比は2.05、アスペクト比は1.02であった。
【0083】
得られた溶射用粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は1ppm、CaOは3ppmであり、原子吸光によるNa2Oは4ppm、炭素濃度は60ppmであった。
さらに、上記溶射用粒子を、アルゴン/水素でプラズマ溶射して、アルミニウム合金基板上に膜厚210μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。この溶射被膜の表面粗さを測定したところRmaxにて39μmであった。
また、得られた溶射膜の緻密さを調べる目的で、参考例2と同様にして膜の相対密度を測定した。その結果、相対密度は90%であった。
【0084】
[参考例4]
PEO(ポリエチレンオキサイド)30gを溶かした純水18リットルにフィッシャー径0.3μmでFe2O3が0.5ppm以下の酸化イットリウム2kgを分散させてスラリーを調製し、噴霧型造粒機でこのスラリーを噴霧乾燥させ球状造粒粉を作製した。さらに、この造粒粉を大気中1,650℃で2時間焼成し、溶射用球状粒子を得た。
【0085】
上記製造工程によって得られた溶射用球状粒子を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は28μm、嵩密度は1.6g/cm3、BET法による比表面積は0.7m2/g、細孔半径1μm以下の累積細孔容積は0.04cm3/g、平均粒径D50とフィッシャー径との比は2.13、アスペクト比は1.01であった。
【0086】
得られた溶射用粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は3ppm、CaOは3ppmであり、原子吸光によるNa2Oは4ppm、炭素濃度は60ppmであった。
さらに、上記溶射用粒子を、アルゴン/水素で減圧プラズマ溶射して、シリコン基板上に膜厚200μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。この溶射被膜の表面粗さを測定したところRmaxにて26μmであった。
また、得られた溶射膜の緻密さを調べる目的で、参考例2と同様にして膜の相対密度を測定した。その結果、相対密度は91%であった。
【0087】
[参考例5]
PVA(ポリビニルアルコール)15gを溶かした純水12リットルに、フィッシャー径0.6μmでFe2O3が0.5ppm以下の酸化イットリウム8kgを分散させてスラリーを調製し、噴霧型造粒機でこのスラリーを噴霧乾燥させ球状造粒粉を作製した。さらに、この造粒粉を大気中1,600℃で2時間焼成し、その後分級機にて微粉を取り除き、溶射用球状粒子とした。
【0088】
上記製造工程によって得られた溶射用球状粒子を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は39μm、D10は23μm、分散指数は0.25、アスペクト比は1.02、嵩密度は1.5g/cm3、細孔半径1μm以下の累積細孔容積0.19cm3/g、安息角は38゜であった。
得られた溶射用球状粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は1ppm、CaOは2ppmであり、原子吸光によるNa2Oは5ppm、炭素濃度は70ppmであった。
【0089】
さらに、上記溶射用球状粒子を、アルゴン/水素でプラズマ溶射して、アルミニウム合金基板上に膜厚190μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。
得られた溶射部材の表面を電子顕微鏡にて観察し、100μm四方のエリアの中に存在する5μm以下の未溶融付着粒子を数えたところ、5個であった。
【0090】
[参考例6]
PEO(ポリエチレンオキサイド)15gを溶かした純水16リットルにフィッシャー径0.4μmでFe2O3が0.5ppm以下の酸化イッテルビウム4kgを分散させてスラリーを調製し、噴霧型造粒機でこのスラリーを噴霧乾燥させ球状造粒粉を作製した。さらに、この造粒粉を大気中1,500℃で2時間焼成し、その後分級機にて微粉を取り除き、溶射用球状粒子を得た。
【0091】
上記製造工程によって得られた溶射用球状粒子を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は37μm、D10は16μm、分散指数は0.40、アスペクト比は1.01、嵩密度は1.8g/cm3、細孔半径1μm以下の累積細孔容積0.04cm3/g、安息角は40゜であった。
【0092】
得られた溶射用球状粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は1ppm、CaOは3ppmであり、原子吸光によるNa2Oは4ppm、炭素濃度は70ppmであった。
さらに、上記溶射用球状粒子を、アルゴン/水素でプラズマ溶射して、アルミニウム合金基板上に膜厚210μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。
得られた溶射部材の表面を電子顕微鏡にて観察し、100μm四方のエリアの中に存在する5μm以下の未溶融付着粒子を数えたところ、3個であった。
【0093】
[参考例7]
MC(メチルセルロース)15gを溶かした純水18リットルに、フィッシャー径0.3μmでFe2O3が0.5ppm以下の酸化イットリウム2kgを分散させてスラリーを調製し、噴霧型造粒機でこのスラリーを噴霧乾燥させ球状造粒粉を作製した。さらに、この造粒粉を大気中1,500℃で2時間焼成し、その後分級機にて微粉を取り除き、溶射用球状粒子を得た。
【0094】
上記製造工程によって得られた溶射用球状粒子を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は34μm、D10は16μm、分散指数は0.36、アスペクト比は1.01、嵩密度は2.2g/cm3、細孔半径1μm以下の累積細孔容積0.03cm3/g、安息角は42゜であった。
【0095】
得られた溶射用球状粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は3ppm、CaOは3ppmであり、原子吸光によるNa2Oは4ppm、炭素濃度は50ppmであった。
さらに、上記溶射用球状粒子を、アルゴン/水素でプラズマ溶射して、石英基板上に膜厚200μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。
得られた溶射部材の表面を電子顕微鏡にて観察し、100μm四方のエリアの中に存在する5μm以下の未溶融付着粒子を数えたところ、2個であった。
【0099】
[参考例8]
PVA(ポリビニルアルコール)15gを溶かした純水18リットルに、フィッシャー径0.6μmのイッテルビウムシリケート2kgを分散させてスラリーを調製し、造粒機でこのスラリーを造粒、乾燥後、電気炉中1,500℃で2時間焼成し、その後分級機にて微粉を取り除き、溶射用球状粒子とした。
【0100】
上記製造工程によって得られた溶射用球状粒子を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は33μm、D10は14μm、分散指数は0.40、アスペクト比は1.1、嵩密度は1.9g/cm3、細孔半径1μm以下の累積細孔容積0.28cm3/gであった。
【0101】
得られた溶射用球状粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は3ppm、CaOは5ppmであり、原子吸光によるNa2Oは4ppm、炭素濃度は72ppmであった。
さらに、上記溶射用球状粒子を、アルゴン/水素でプラズマ溶射して、アルミニウム合金基板上に膜厚194μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。
得られた溶射部材の表面を電子顕微鏡にて観察し、100μm四方のエリアの中に存在する5μm以下の未溶融付着粒子を数えたところ、3個であった。
【0102】
[比較例2]
PVA(ポリビニルアルコール)15gを溶かした純水12リットルに、フィッシャー径1.1μmでFe2O3が0.5ppm以下の酸化イットリウム8kgを分散させてスラリーを調製し、噴霧型造粒機でこのスラリーを噴霧乾燥させ球状造粒粉を作製した。さらに、この造粒粉を大気中1,600℃で2時間焼成し、溶射用球状粒子とした。
【0103】
上記製造工程によって得られた溶射用球状粒子を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は106μm、嵩密度は1.1g/cm3、BET法による比表面積1.4m2/g、細孔半径1μm以下の累積細孔容積0.55cm3/g、平均粒径D50とフィッシャー径との比は6.93、アスペクト比は1.1であった。
【0104】
得られた溶射用球状粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は3ppm、CaOは2ppmであり、原子吸光によるNa2Oは5ppm、炭素濃度は80ppmであった。
さらに、上記溶射用球状粒子を、アルゴン/水素でプラズマ溶射して、アルミニウム合金基板上に膜厚195μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。この溶射被膜の表面粗さを測定したところRmaxにて88μmであった。
また、得られた溶射膜の緻密さを調べる目的で、参考例2と同様にして膜の相対密度を測定した。その結果、相対密度は84%であった。
【0105】
[比較例3]
フィッシャー径4μmの酸化イットリウム3kgを溶融固化し、その後粉砕、分級して溶射用粒子を作製した。
上記製造工程によって得られた溶射用粒子を、レーザー回折式の粒度測定器で測定したところ、D90は110μm、嵩密度は2.1g/cm3、BET法による比表面積0.1m2/g、細孔半径1μm以下の累積細孔容積0.01cm3/g以下、平均粒径D50とフィッシャー径との比は3.05、アスペクト比は2.6であった。
【0106】
得られた溶射用粒子を酸分解してICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で不純物濃度を測定したところ、Fe2O3は55ppm、CaOは40ppmであり、原子吸光によるNa2Oは10ppm、炭素濃度は92ppmであった。
【0107】
さらに、上記溶射用粒子を、アルゴン/水素で減圧プラズマ溶射して、アルミニウム合金基板上に膜厚190μmの被膜を形成した。溶射中、ノズルの閉塞はなかった。この溶射被膜の表面粗さを測定したところRmaxにて94μmであった。
また、得られた溶射膜の緻密さを調べる目的で、参考例2と同様にして膜の相対密度を測定した。その結果、相対密度は91%であった。
【0108】
上記参考例3,4で得られた希土類元素含有酸化物の溶射用球状粒子は、全て粒度分布におけるD90が100μm以下で、かつ、D50とフィッシャー径との比が5以下であるとともに、嵩密度が1.0g/cm3以上、細孔半径1μm以下の累積細孔容積が0.5cm3/g未満、アスペクト比が2以下の球形であり、しかも、Fe2O3、CaO、Na2Oがそれぞれ5ppm以下と不純物の少ないものである。
【0109】
したがって、高純度の溶射被膜を形成することができるとともに、得られた被膜表面が滑らかで緻密であるので、溶射膜が剥がれにくい。その結果、半導体製造プロセス中に発生するパーティクルを抑制することができ、高純度が必要とされる用途、例えば、液晶製造装置用部材および半導体製造装置用部材として好適に使用することができる。
さらに、表面粗さも60μm以下と小さく、腐食性ガス雰囲気(例えばハロゲン系ガスプラズマ)に対する耐食性部材としても好適に使用することができる。
【0110】
また、参考例6,7で得られた希土類元素含有酸化物の溶射用粒子は、小粒子径であっても精密な定量供給を可能とする粒子であり、細孔半径が1μm以下の領域において累積細孔容積が0.5cm3/g未満、アスペクト比が2以下、嵩密度が1.0g/cm3以上、粒度分布におけるD10が5μm以上、D90が100μm以下で、かつ、分散指数が0.6以下であり、しかも、Fe2O3、CaO、Na2Oがそれぞれ5ppm以下と不純物の少ない高純度のものである。
【0111】
したがって、該溶射用球状粒子を用いた被膜を高純度にすることができ、さらに、被膜表面の5μm以下の未溶融付着粒子の数が100μm四方中にて10個以下であるので、半導体製造プロセス中に発生するパーティクルを抑制でき、高純度が必要とされる用途、例えば、液晶製造装置用部材および半導体製造装置用部材として好適に使用することができる。
また、表面粗さも小さく、腐食性ガス雰囲気(例えばハロゲン系ガスプラズマ)に対する耐食性部材としても好適に使用することができる。
【0112】
これに対して、比較例2の溶射用球状粒子はD90が106μmと大きく、しかも、平均粒径D50とフィッシャー径との比は6.93であることから、得られた溶射被膜の表面粗さが大きくなるため、半導体製造プロセス時のパーティクルの発生を抑制できない。
【0113】
比較例3の溶射用粒子は、平均粒径D50とフィッシャー径との比が3.05と小さく、得られた被膜の相対密度が大きいが、溶射用粒子に混入しているだけの鉄族元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素が存在していて、半導体製造プロセス等に使用した場合、シリコンウェハーを汚染し、工程不良の原因となるため、半導体製造装置等の高純度を要求される用途には使用できない。
また、表面粗さも94μmと粗く、半導体製造プロセス中にてパーティクルの発生原因となり、このパーティクルもシリコンウェハー汚染の原因となり好ましくない。
【0114】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明の第1の溶射用球状粒子によれば、酸化イットリウム又は酸化イッテルビウムから形成され、破壊強度が50MPa以上、平均粒径が10〜80μmであることを特徴とする溶射用球状粒子であるから、十分な破壊強度を有し、溶射時のフレーム(プラズマ)中でも崩壊しない溶射用球状粒子を提供することができる。
Claims (2)
- フィッシャー径が0.4μm以下の酸化イットリウム又は酸化イッテルビウムを造粒して得られた造粒粉末を1,200〜1,800℃で焼成することによって得られ、破壊強度が50MPaを超え、平均粒径が10〜80μmであることを特徴とする溶射用球状粒子。
- 基材と、基材表面に請求項1に記載の溶射用球状粒子を溶射してなる被膜とを備えることを特徴とする溶射部材。
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