JP4042378B2 - ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド樹脂成形品 - Google Patents

ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド樹脂成形品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびその成形品に関する。さらに詳しくは、耐熱性、寸法安定性、成形品外観(特に透明感)に優れ、特に高温環境下で長期間使用しても変形や寸法変化の問題が少なく、成形品外観の悪化も少ない樹脂組成物およびその成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナイロン6やナイロン66等の結晶性ポリアミドの耐熱性や寸法安定性を向上させるためにガラス繊維などの繊維状強化材や炭酸カルシウム、タルクなどの鉱物系強化材を配合する技術は広く知られている。しかし、これらの強化材を配合したポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂中に分散している強化材が成形品表面に浮き出し光線が乱反射されるため、通常、成形品外観が悪化することは避けられない。
【0003】
一方、ポリアミド樹脂の成形品外観を向上させる目的で、共重合によってポリアミドの結晶性を低下させる技術も知られており、例えば、光沢感や透明感の要求されるフィルムなどの用途で広く用いられている。しかし、結晶性を低下させることによって耐熱性や寸法安定性が低下することは避けられず、これを改良するために前記の強化材の配合を行えば、耐熱性や寸法安定性は向上させ得るものの、成形品外観を大幅に犠牲にすることは避けられないのが現状である。
【0004】
このような、問題を解決する試みとして、従来の強化材より極めて細かい無機結晶成分をポリアミド中に均一に分散させることが提案されている。例えば、特開平5−339498号公報や特開2001−2913号公報では、共重合ポリアミド樹脂中に層状珪酸塩を均一に分散させてなる、成形品外観に優れたポリアミド樹脂組成物が提案されている。しかしながら、これら共重合ポリアミドは成形品外観は優れるものの、耐熱性に課題があり、自動車エンジンルーム内のような高温雰囲気下で長期使用することはできないという課題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は自動車エンジンルーム内のような高温雰囲気下でも使用できる耐熱性と、成形品外観に優れ、かつそれらの特性が高温雰囲気下での長期使用においても低下しないという特性を有するポリアミド樹脂を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、結晶性ポリアミドに非晶性あるいは低結晶性ポリアミドと膨潤性層状珪酸塩を配合し、特定の結晶化度と球晶サイズとすることにより上記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は
(1)(a)示差走査熱量計(DSC)で昇温速度10℃/分で測定した結晶融解熱量が30J/g以上の結晶性ポリアミドと(b)ヘキサメチレンイソフタルアミド単位3〜30重量%とヘキサメチレンアジパミド単位60〜96重量%とカプロアミド単位1〜10重量%からなる共重合ポリアミドおよび(c)膨潤性層状珪酸塩からなるポリアミド樹脂組成物であって、全ポリアミド成分中における前記(a)結晶性ポリアミドの割合が70〜99重量%であり、かつ、樹脂組成物の結晶化度が20%以上、球晶の直径が平均1μm以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物、
(2)(d)無機結晶核剤を含んでなる(1)記載のポリアミド樹脂組成物、
(3)(d)無機結晶核剤が、タルク、シリカ、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種である(2)記載のポリアミド樹脂組成物、
(4)(c)膨潤性層状珪酸塩が層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された膨潤性層状珪酸塩であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載のポリアミド樹脂組成物、
(5)(c)膨潤性層状珪酸塩がポリアミド樹脂組成物中に単層レベルで分散していることを特徴とする(1)〜(4)いずれか記載のポリアミド樹脂組成物、
(6)(1)〜(5)いずれか記載のポリアミド樹脂組成物を射出成形してなるポリアミド樹脂成形品、
を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられる(a)結晶性ポリアミドとは示差走査熱量計(DSC)で昇温速度10℃/分で測定した結晶融解熱量が30J/g以上の結晶性ポリアミドである。ポリアミド樹脂としては、上記結晶特性を有していれば制限はなく、その原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、(2,2,4−または2,4,4−)トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーもしくはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0009】
本発明において、とくに好適に用いられる結晶性ポリアミド樹脂は、200℃以上の融点を有するポリアミド樹脂である。かかるポリアミドを用いることにより、得られる成形体としても優れた耐熱性を持つものを得つことができる。具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
【0010】
とりわけ好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66コポリマーが挙げられる。
【0011】
結晶性ポリアミドの重合度は、通常の成形加工が施せる程度であれば、とくに制限はないが、ポリアミド樹脂1重量%の98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、2.0〜4.0の範囲のものが好ましい
【0012】
本発明において、(b)成分として、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)を使用する。
【0014】
本発明(b)成分として使用する共重合ポリアミドはヘキサメチレンイソフタルアミド単位3〜30重量%とヘキサメチレンアジパミド単位60〜96重量%とカプロアミド単位1〜10重量%からなる共重合ポリアミドである。
【0015】
これら(b)共重合ポリアミドの重合度は、通常の成形加工が施せる程度であれば、とくに制限はないが、ポリアミド樹脂1重量%の98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、2.0〜4.0の範囲のものが好ましい
本発明のポリアミド成分中において(a)結晶性ポリアミドの割合は70〜99重量%である。結晶性ポリアミドの割合が70重量%未満であると、耐熱性が低下する恐れがあり、また99重量%を超えると透明性が低下する恐れがある。
【0016】
本発明において(c)成分として使用される膨潤性層状珪酸塩とはアルミニウム、マグネシウム、リチウム等の金属を含む8面体シートの上下に珪酸4面体シートが重なって1枚の板状結晶層を形成している2:1型の構造を持つものであり、通常、その板状結晶層の層間に交換性の陽イオンを有している。
【0017】
その1枚の板状結晶の大きさは、通常幅0.05〜0.5μm、厚さ6〜15オングストロームである。また、その交換性陽イオンのカチオン交換容量は0.2〜3meq/gのものが挙げられ、好ましくはカチオン交換容量が0.8〜1.5meq/gのものである。
【0018】
層状珪酸塩の具体例としてはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性雲母等が挙げられ、天然のものであっても合成されたものであっても良い。これらのなかでもモンモリロナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト系粘土鉱物やNa型四珪素フッ素雲母、Li型フッ素テニオライトなどの膨潤性雲母が好ましく、特にモンモリロナイトが最も好ましい。
【0019】
本発明においては層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩を用いることが好ましい。
【0020】
有機オニウムイオンとしてはアンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。これらのなかではアンモニウムイオンとホスホニウムイオンが好ましく、特にアンモニウムイオンが好んで用いられる。アンモニウムイオンとしては、1級アンモニウム、2級アンモニウム、3級アンモニウム、4級アンモニウムのいずれでも良い。
【0021】
1級アンモニウムイオンとしてはデシルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、オレイルアンモニウム、ベンジルアンモニウムなどが挙げられる。
【0022】
2級アンモニウムイオンとしてはメチルドデシルアンモニウム、メチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0023】
3級アンモニウムイオンとしてはジメチルドデシルアンモニウム、ジメチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0024】
4級アンモニウムイオンとしてはベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムイオン、トリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウムなどのアルキルトリメチルアンモニウムイオン、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウムなどのジメチルジアルキルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウムなどのトリアルキルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0025】
また、これらの他にもアニリン、p−フェニレンジアミン、α−ナフチルアミン、p−アミノジメチルアニリン、ベンジジン、ピリジン、ピペリジン、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などから誘導されるアンモニウムイオンなども挙げられる。
【0026】
これらのアンモニウムイオンの中でも、好ましいものは4級アンモニウムイオンであり、例えばトリオクチルメチルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、12−アミノドデカン酸から誘導されるアンモニウムイオンなどが挙げられ、特にトリオクチルメチルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムが最も好ましい。
【0027】
本発明において層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩は、交換性の陽イオンを層間に有する層状珪酸塩と有機オニウムイオンを公知の方法で反応させることにより製造することができる。具体的には、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒中でのイオン交換反応による方法か、層状珪酸塩に液状あるいは溶融させたアンモニウム塩を直接反応させることによる方法などが挙げられる。
【0028】
本発明において、層状珪酸塩に対する有機オニウムイオンの量は、層状珪酸塩の分散性、溶融時の熱安定性、成形時のガス、臭気の発生抑制などの点から、層状珪酸塩の陽イオン交換容量に対し通常、0.4〜2.0当量の範囲であるが、0.8〜1.2当量であることが好ましい。
【0029】
また、これら層状珪酸塩は上記の有機オニウム塩に加え、反応性官能基を有するカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得るために好ましい。かかるカップリング剤としてはイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのが挙げられる。
【0030】
特に好ましいのは、有機シラン系化合物であり、その具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等の炭素炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。特に、炭素炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物が好ましく用いられる。
【0031】
これらカップリング剤での層状珪酸塩の処理は、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒中、あるいはこれらの混合溶媒中でカップリング剤を層状珪酸塩に吸着させる方法か、ヘンシェルミキサー等の高速攪拌混合機の中で層状珪酸塩を攪拌しながらカップリング剤溶液を滴下して吸着させる方法、さらには層状珪酸塩に直接シランカップリング剤を添加して、乳鉢等で混合して吸着させることによる方法のどれを用いても良い。層状珪酸塩をカップリング剤で処理する場合には、カップリング剤のアルコキシ基の加水分解を促進するために水、酸性水、アルカリ性水等を同時に混合するのが好ましい。また、カップリング剤の反応効率を高めるため、水のほかにメタノールやエタノール等の水、カップリング剤両方を溶解する有機溶媒を混合してもかまわない。このようなカップリング剤で処理した層状珪酸塩を熱処理することによってさらに反応を促進させることも可能である。なお、本発明の組成物を層状珪酸塩とポリアミド樹脂を溶融混練して製造する際には予め層状珪酸塩のカップリング剤による処理を行わずに、層状珪酸塩とポリアミド樹脂を溶融混練する際に、これらカップリング剤を添加するいわゆるインテグラルブレンド法を用いてもよい。
【0032】
層状珪酸塩の有機オニウムイオンによる処理とカップリング剤による処理の順序にも特に制限はないが、まず有機オニウムイオンで処理した後、カップリング剤処理をすることが好ましい。
【0033】
本発明において(c)膨潤性層状珪酸塩の含有量は本発明のポリアミド樹脂組成物中の無機灰分量として0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%、特に好ましくは1〜10重量%となる範囲である。灰分量が少なすぎると成形性改良効果が小さく、灰分量が多すぎると靱性が低下する場合がある。無機灰分量はポリアミド樹脂組成物2gを600℃の電気炉で3時間灰化させて求めた値である。
【0034】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、マトリックスであるポリアミド樹脂中に層状珪酸塩が単層のレベルで均一に分散していることが好ましい。単層のレベルで均一に分散している状態とは、層状珪酸塩が単層〜10層程度の状態で、二次凝集することなくマトリックス樹脂全体に分散していることを言う。この状態はポリアミド樹脂組成物から切片を切削しこれを電子顕微鏡で観察することによって確認できる。
【0035】
本発明のポリアミド樹脂組成物には結晶性を調整する目的で(d)無機結晶核剤を添加することもできる。結晶核剤としては制限はなく、その具体例としては、タルク、シリカ、グラファイトなどの無機微粒子、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどの金属酸化物などが挙げられる。これらのなかで、タルクやシリカなどの無機微粒子が好ましく、特にタルクが好ましい。結晶核剤を添加する場合の好ましい添加量はポリアミド樹脂組成物100重量部に対し、0.01〜10重量部、好ましくは0.03〜5重量部、より好ましくは0.05〜3重量部である。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物の結晶化度は20%以上であることが必要である。ここで結晶化度は該ポリアミド樹脂組成物を粉末化してX線回折測定を行いRuland法で求めた値である。結晶化度が20%未満であると、耐熱性が低くなり、また高温下で処理した際に後結晶化が発生し、寸法変化を起こしたり成形品表面外観や透明感を低下させる恐れがあり好ましくない。結晶化度に特に上限は無いが、60%を超えると靭性が低下する恐れがあるのでそれ以下にすることが好ましい。
【0037】
また本発明のポリアミド樹脂組成物は球晶サイズに特徴があり、球晶の直径が平均1μm以下、好ましくは0.5μm以下であることが必要である。球晶の直径はポリアミド樹脂組成物の超薄切片を作成し、偏光顕微鏡や電子顕微鏡などで観察し、球晶の写真を撮影した後、画像解析装置などで球晶の直径の数平均を算出して得られる値である。球晶直径が1μmを超えると、成形品の均一性や成形収縮率などの寸法安定性が損なわれ、また成形品外観の悪化ももたらされる。球晶の直径の下限は0.01μmであることが好ましい。
【0038】
本発明のポリアミド樹脂組成物には色調改良の目的で、リン系化合物を添加することも可能である。好ましいリン系化合物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどの無機リン酸塩、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトなどの有機リン化合物が挙げられる。なかでも、次亜リン酸ナトリウムやビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトが色調改良効果に優れ好ましい。これらリン系化合物を添加する場合の好ましい添加量は本発明のポリアミド樹脂組成物100重量部に対し、0.01重量部〜1.0重量部、より好ましくは0.05〜0.5重量部である。
【0039】
本発明のポリアミド樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、チオエーテル系等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック、メタリック顔料等)、染料(ニグロシン等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化PPO、臭素化PC、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体(ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルフォン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、SBS、SEBS、各種エラストマー等)を添加することができる。
【0040】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得る方法については、制限はなく、ポリアミドの重合時に層状珪酸塩を存在せしめて得てもよいが、ポリアミド樹脂と層状珪酸塩を溶融混練して得る方法が好適である。この際、ポリアミド樹脂と層状珪酸塩を溶融混練する方法には特に制限はなく、ポリアミド樹脂の溶融状態下で機械的剪断を行うことができればよい。その処理方法もバッチ式または連続式のいずれでも良いが、連続的に製造できる連続式の方が作業効率の面から好ましい。具体的な混練装置にも制限はないが、押出機、特に二軸押出機が生産性の面で好ましい。また、溶融混練時に発生する水分や、低分子量の揮発成分を除去する目的で、ベント口を設けることも好んで用いられる。二軸押出機を用いる場合には、(a)結晶性ポリアミドと(b)共重合ポリアミドと(c)層状珪酸塩をあらかじめブレンダー等で混合しておき、それを押出機のフィード口から供給する方法や、(a)および(b)成分を押出機の上流側のフィード口から供給し、(c)成分を下流側のフィード口から供給する方法など供給の方法にも特に制限はない。押出機のスクリューアレンジにも特に制限はないが、層状珪酸塩を単層レベルに分散させるために、ニーディングゾーンを設けることが好ましい。
【0041】
また、(a)ポリアミド樹脂の一部と(c)層状珪酸塩と溶融混練しマスターバッチを製造した後、ポリアミド樹脂の残部と再度溶融混練する方法も層状珪酸塩を分散させるために好んで用いられる。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂組成物は公知の成形方法(射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、インジェクションプレス成形など)により、三次元成形品、シート、容器、パイプなどに加工することができる。成形方法としては射出成形あるいはインジェクションプレス成形等が好ましい。また、各種インサート成形や、多色成形など複合成形技術を用いた成形品にも適用し得る。なかでも射出成形品用途に特に好適であり、得られた成形品は耐熱性、寸法安定性、成形品外観、均一性に優れ、透明感も合わせ持つためプラ製ケース類、ボタンなどの雑貨類、薬液ビンなどの容器類をはじめ、各種機械機構部品、電気電子部品または自動車部品に好適である。
【0043】
本発明の成形品を切削加工や各種溶着などで後加工することも可能である。
【0044】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
評価項目と測定方法
結晶化度:成形品を凍結粉砕で粉末化し、広角X線回折装置で反射法で測定を行い、得られた回折パターンを用いRuland法で算出した。
【0046】
球晶サイズ:成形品中心部から超薄切片を切り出し、偏光顕微鏡で球晶の写真を測定し、画像解析装置を用いて平均直径を算出した。
【0047】
成形品外観:80mm×80mm×1mmの角板を金型温度40℃で成形し、その成形品表面に天井の蛍光灯を映し、その映り具合を目視で比較した。また、同じ角板を150℃のオーブン中で5時間熱処理した後に同様に外観の比較を行った。判定基準は、蛍光灯が鮮明に映し出された場合を◎、鮮明ではないが輪郭がはっきりと映し出された場合を○、ぼんやりと映る場合を△、全く映らない場合を×で示した。
【0048】
透明感:成形品外観の評価に用いたものと同じ角板を用いて直読ヘイズメーターでヘイズ(曇度)を測定した(ヘイズが低いほど透明感に優れる)。また、この角板を150℃のオーブン中で5時間熱処理した後に同様にヘイズを測定した。
【0049】
変形度:成形品外観および透明感の評価に用いた150℃のオーブン中で5時間熱処理した角板を平面盤上に置き、盤面から角板の最上面までの高さを測定し、その値から本来の角板の厚みである1mmを減じた値で比較した(変形が全くない場合は0mmであり、熱によってソリなどの変形が生じた場合は高い値となる)。
【0050】
荷重たわみ温度:ASTM D648に準じて荷重0.46MPaで測定した。
【0051】
層状珪酸塩の分散状態:成形品外観の評価に用いた角板から、超薄切片を切削し、透過型電子顕微鏡で観察し、層状珪酸塩の分散状態を調べた。層状珪酸塩が単層から数層に剥離し、均一に分散している場合を○、数層から十数層程度の層構造で分散している場合を△、数ミクロンサイズの凝集構造で存在している場合を×で示した。
【0052】
参考例1(共重合ポリアミドの製造)
ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩76重量部、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の等モル塩16重量部、およびεカプロラクタム8重量部を重合缶に投入し、さらに投入した全原料と同量の純水を加え、重合缶内を充分窒素置換した後、撹拌しながら加温を開始した。缶内圧力は最大2.0MPaに調節しながら最終到達温度は270℃とした。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られた共重合ポリアミド(b−1)の濃硫酸中、25℃、濃度1%で測定した相対溶液粘度は2.30であった。示差走査熱量計で測定したTmは231℃、Tcは176℃であり(Tm−Tc)は55℃であった。
【0053】
参考例2(有機化層状珪酸塩の製造)
Na型モンモリロナイト(クニミネ工業:クニピアF、陽イオン交換容量120m当量/100g)100gを温水10リットルに攪拌分散し、ここにベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド51g(陽イオン交換容量と等量)を溶解させた温水2Lを添加して1時間攪拌した。生じた沈殿を濾別した後、温水で洗浄した。この洗浄と濾別の操作を3回行い、得られた固体を80℃で真空乾燥して乾燥した有機化層状珪酸塩(c−1)を得た。得られた有機化層状珪酸塩の無機灰分量を測定したところ、68重量%であった。なお、無機灰分量の測定は有機化層状珪酸塩0.1gを600℃の電気炉で3時間灰化して求めた値である。
【0054】
実施例1
ナイロン6(濃硫酸中、25℃、濃度1%で測定した相対溶液粘度は2.70)90重量部と参考例1で得られた共重合ポリアミド(b−1)を10重量部、参考例2で得られた有機化層状珪酸塩(c−1)3重量部を配合し、タンブラーミキサーでプレブレンドした後、シリンダ温度を250℃に設定したTEX−30型二軸押出機(日本製鋼所)で溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた組成物はペレタイズした後、80℃で10時間真空乾燥し、シリンダ温度250℃、金型温度40℃で射出成形を行い、試験片を得た。特性の評価結果を表1に示した。
【0055】
実施例2
さらに結晶核剤としてタルク(富士タルク:LMS−300)を0.1重量部添加する以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得、評価した。結果を表1に示した。
【0056】
実施例3、4
各原料を表1の配合割合で用いる以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
比較例1〜6
各原料を表2の配合割合で用いる以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得、特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
比較例7
ポリアミドとして、6/66共重合ポリアミド(6/66=60/40重量%、濃硫酸中、25℃、濃度1%で測定した相対溶液粘度は2.9、(b−2))を用いる以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得、特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
【表1】
Figure 0004042378
【0060】
【表2】
Figure 0004042378
【0061】
【発明の効果】
本発明のポリアミド樹脂組成物は耐熱性と寸法安定性、成形品外観に優れ、高温雰囲気下に長時間さらされても変形せず、また成形品外観が悪化しないので、自動車・車両関係部品、電気・電子関連部品、建材、包装材、日用雑貨などの各種用途に適している。

Claims (6)

  1. (a)示差走査熱量計(DSC)で昇温速度10℃/分で測定した結晶融解熱量が30J/g以上の結晶性ポリアミドと(b)ヘキサメチレンイソフタルアミド単位3〜30重量%とヘキサメチレンアジパミド単位60〜96重量%とカプロアミド単位1〜10重量%からなる共重合ポリアミドおよび(c)膨潤性層状珪酸塩からなるポリアミド樹脂組成物であって、全ポリアミド成分中における前記(a)結晶性ポリアミドの割合が70〜99重量%であり、かつ、樹脂組成物の結晶化度が20%以上、球晶の直径が平均1μm以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
  2. (d)無機結晶核剤を含んでなる請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. (d)無機結晶核剤が、タルク、シリカ、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種である請求項2記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. (c)膨潤性層状珪酸塩が層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された膨潤性層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1〜いずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. (c)膨潤性層状珪酸塩がポリアミド樹脂組成物中に単層レベルで分散していることを特徴とする請求項1〜いずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
  6. 請求項1〜いずれか記載のポリアミド樹脂組成物を射出成形してなるポリアミド樹脂成形品。
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