JP4207437B2 - 焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物および焼付塗装成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物に関する。より詳しくは、焼付塗装に必要な耐熱性を有し、塗膜密着性、塗装後の表面外観、および剛性、耐衝撃性に優れる焼付塗装成形品が得られる焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミド樹脂は、その優れた成形性、耐熱性、強靱性、耐オイル・ガソリン性、耐摩耗性などを利用して、自動車、電気・電子部品、家庭電化製品などの分野で広範に使用されている。なかでも、車両用外装部品や、家庭電化製品の意匠性部品、筐体など表面外観が重要視される部品においては焼付塗装を施すことが行われている。焼付塗装は通常120〜180℃の温度で行うため、焼付塗装に耐える耐熱性、焼付時にソリや変形が生じないことなどが要求されている。
【0003】
耐熱性を向上させるためには、繊維状あるいは非繊維状の強化材を充填する方法が知られているが、耐衝撃性の低下を招いてしまう問題があった。加えて、繊維状強化材を用いた場合には成形品表面に繊維状強化材が浮き出し、成形品表面外観を悪化させる問題があった。とくに、成形品を焼付塗装した場合に、繊維状強化材の浮きだしが顕著になるため、焼付塗装用途への当該強化材の使用は困難であった。
【0004】
また、耐衝撃性を向上させるためには、耐衝撃性改良剤を添加する方法が知られているが、耐熱性や寸法安定性を悪化させてしまう問題があった。このため、焼付塗装工程でのソリや変形が生じ、とくにオンライン塗装など高温焼付塗装への適用は困難であった。このように、耐熱性、耐衝撃性、寸法安定性、表面外観を高度に均衡させることは非常に困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、焼付塗装に耐えうる耐熱性を有し、かつ塗膜密着性および表面外観に優れ、剛性と耐衝撃性に優れる焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂、膨潤性層状珪酸塩、膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材、耐衝撃改良材、エポキシ基含有化合物を特定量の割合に配合した樹脂組成物を用いることにより、前記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)(A)ポリアミド樹脂30〜98.5重量%、(B)非繊維状充填材0.5〜30重量%、(C)無水マレイン酸がグラフトされた耐衝撃性改良剤1〜40重量%、(D)数平均分子量が10000以下のエポキシ基含有化合物からなる焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物であって、(B)非繊維状充填材が(B1)膨潤性層状珪酸塩と(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材からなり、その重量比b1/(b1+b2)が0.03〜0.5であり(ここで、b1は膨潤性層状珪酸塩の含有量(重量%、無機灰分量として)、b2は膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材の含有量(重量%、無機灰分量として)を示す。)、前記ポリアミド樹脂組成物中の(B1)膨潤性層状珪酸塩が3〜10重量%であり、前記ポリアミド樹脂組成物全体の重量を1としたときの前記エポキシ基含有化合物の重量の割合を、該エポキシ基含有化合物のエポキシ当量で除した値(割合/エポキシ当量)が1.5×10-5〜5×10-5である量で配合してなることを特徴とする焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
【0008】
(2)(B1)膨潤性層状珪酸塩の組成物中における平均分散厚さをLb1、(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の平均分散粒径をLb2としたとき、その比Lb2/Lb1が100〜10000であることを特徴とする前記(1)記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
【0009】
(3)(B1)膨潤性層状珪酸塩が層間に存在する交換性金属陽イオンを有機オニウムイオンで交換してなるものであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
【0010】
(4)(B1)膨潤性層状珪酸塩の板状結晶層の層間距離が1.6〜2.9nmであることを特徴とする前記(1)〜(3)いずれかに記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
(5)(B2)非繊維状充填剤材がタルクであることを特徴とする前記(1)〜(4)いずれかに記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
【0011】
(6)ポリアミド樹脂組成物中のタルクの含有量が15〜29重量%である前記(5)記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
【0012】
(7)前記(1)〜(6)いずれか記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品であって、該成形品表面には焼付塗装された塗膜を有する焼付塗装成形品。
【0013】
(8)車両用外装部品であることを特徴とする前記(7)記載の焼付塗装成形品、
を提供するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いる(A)ポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とする樹脂である。その原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、(2,2,4−または2,4,4−)トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーもしくはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0016】
本発明において、とくに好適に用いられるポリアミド樹脂は、200℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2ーメチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/610/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6T/12/66)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/12/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
【0017】
とりわけ好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン610およびナイロン66/6I/6コポリマー、ならびにナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/6コポリマー、ナイロン6T/12コポリマー、ナイロン6T/12/66コポリマー、ナイロン6T/12/6Iコポリマーなどのヘキサメチレテレフタラミド単位を有する共重合体から選ばれる少なくとも一種のポリアミドである。これらのポリアミド樹脂は成形性、耐熱性、靱性、表面性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
【0018】
ポリアミド樹脂の重合度にはとくに制限がないが、ポリアミド樹脂1重量%の98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が2.0〜4.0の範囲のものが好ましい。
【0019】
本発明で用いるポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度は2×10-5〜15×10-5mol/gであることが好ましく、より好ましくは3×10-5〜12×0-5、mol/g、特に好ましくは5×10-5〜10×10-5mol/gである。末端アミノ基濃度をかかる範囲内とすることで、膨潤性層状珪酸塩の分散性は良好になり、成形品の表面外観も一層優れたものとなる。
【0020】
なお、ポリアミド樹脂の末端アミノ基はポリアミド樹脂をフェノール/エタノール混液(フェノール83.5%)に溶解させ、塩酸で中和滴定あるいは電位差滴定する方法で測定される。
【0021】
本発明で用いる(B)非繊維状充填材のうち(B1)膨潤性層状珪酸塩とは、粘土ハンドブック41頁(日本粘土学会編、技報堂(昭和42年1月15日発行))に示されるがごときアルミニウム、マグネシウム、リチウム等の金属を含む八面体シートの上下に珪酸四面体シートが重なって1枚の板状結晶層を形成している2:1型の構造を持つものであり、その板状結晶層の層間に交換性の陽イオンを有している化合物である。
【0022】
その1枚の板状結晶の大きさは、通常幅0.05〜0.5μm、厚さ6〜15オングストロームである。また、その交換性陽イオンの陽イオン交換容量は20〜300meq/100gのものが挙げられ、好ましくは陽イオン交換容量が40〜110meq/100g、より好ましくは60〜95meq/100gである。陽イオン交換容量はメチレンブルー吸着法で測定した値である。
【0023】
かかる膨潤性層状珪酸塩の具体例としてはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性雲母等が挙げられ、天然のものであっても合成されたものであっても良い。これらのなかでもモンモリロナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト系粘土鉱物が好ましく用いられ、特にモンモリロナイトが最も好ましく用いられる。
【0024】
本発明で用いる膨潤性層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換されていることが好ましい。
【0025】
有機オニウムイオンとしてはアンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。これらのなかではアンモニウムイオンとホスホニウムイオンが好ましく、特にアンモニウムイオンが好ましい。アンモニウムイオンとしては、一級アンモニウムイオン、二級アンモニウムイオン、三級アンモニウムイオン、四級アンモニウムイオンのいずれであっても良い。
【0026】
一級アンモニウムイオンとしては、デシルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、オレイルアンモニウム、ベンジルアンモニウムなどが挙げられる。
【0027】
二級アンモニウムイオンとしては、メチルドデシルアンモニウム、メチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0028】
三級アンモニウムイオンとしては、ジメチルドデシルアンモニウム、ジメチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0029】
四級アンモニウムイオンとしては、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムイオン、トリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウムなどのアルキルトリメチルアンモニウムイオン、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウムなどのジメチルジアルキルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウムなどのトリアルキルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0030】
また、これらの他にもアニリン、p−フェニレンジアミン、α−ナフチルアミン、p−アミノジメチルアニリン、ベンジジン、ピリジン、ピペリジン、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などから誘導されるアンモニウムイオンなども挙げられる。
【0031】
上述のアンモニウムイオンの中でも、炭素数が15〜30の四級アンモニウムイオンを用いることが非常に好ましい。かかる四級アンモニウムイオンとしては、具体的にはトリオクチルメチルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられ、特にトリオクチルメチルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムを用いることが最も好ましい。
【0032】
本発明において層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された膨潤性層状珪酸塩は、交換性の陽イオンを層間に有する膨潤性層状珪酸塩と有機オニウムイオンを公知の方法で反応させることにより製造することができる。具体的には、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒中でのイオン交換反応による方法か、層状珪酸塩に液状あるいは溶融させたアンモニウム塩を直接反応させることによる方法などが挙げられる。
【0033】
本発明において、膨潤性層状珪酸塩中に含有される有機オニウムイオンの量は、膨潤性層状珪酸塩の分散性、溶融時の熱安定性、成形時のガス、臭気の発生抑制などの点から、層状珪酸塩の陽イオン交換容量に対し、0.4〜2.0当量の範囲であるものを用いることが好ましく、0.8〜1.2当量の範囲のものを用いることが更に好ましい。
【0034】
本発明において膨潤性層状珪酸塩の板状結晶層の層間距離は1.6〜2.9nmであることが好ましい。ここで層間距離とは、膨潤性層状珪酸塩の乾燥粉末を広角X線回折測定して得られた面間隔を言う。層間距離が1.6nm未満の場合または2.9nmを超える場合は、ポリアミド樹脂と溶融混練した場合に層状珪酸塩の分散性が低下し、耐熱性が低下する恐れがある。層間距離は、用いる層状珪酸塩のカチオン交換容量、有機オニウムイオンのかさ高さ(炭素数)、有機オニウムイオンの量によって調整することができる。
【0035】
また、これら膨潤性層状珪酸塩は上記の有機オニウム塩に加え、反応性官能基を有するカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得られるために好ましく採用される。かかるカップリング剤としてはイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
【0036】
特に好ましいのは、有機シラン系化合物(以下シランカップリング剤と言うこともある)であり、その具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等の炭素炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。特に、炭素−炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物が好ましく用いられる。これらシランカップリング剤での層状珪酸塩の処理は、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒中、あるいはこれらの混合溶媒中でシランカップリング剤を層状珪酸塩に吸着させる方法や、ヘンシェルミキサー等の高速攪拌混合機の中に層状珪酸塩を添加し、攪拌しながらシランカップリング剤あるいは有機溶媒を含む水溶液の形で滴下して吸着させる方法、あるいは層状珪酸塩に直接シランカップリング剤を添加して、乳鉢等で混合して吸着させることによる方法などを挙げることができる。層状珪酸塩をシランカップリング剤で処理する場合には、シランカップリング剤のアルコキシ基の加水分解を促進するために水、酸性水、アルカリ性水等を同時に混合するのが好ましい。また、シランカップリング剤の反応効率を高めるため、水のほかにメタノールやエタノール等の水、シランカップリング剤両方を溶解する有機溶媒を混合してもかまわない。このようなシランカップリング剤で処理した層状珪酸塩を熱処理することによってさらに反応を促進させることも可能である。なお、予め層状珪酸塩をカップリング剤で処理する代わりに、層状珪酸塩とポリアミド樹脂を溶融混練する際に、これらカップリング剤を添加するいわゆるインテグラルブレンド法を用いてもよい。
【0037】
本発明で用いる(B)非繊維状充填材のうち(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材とは、板状、棒状、球状などの形状を持った長径と短径の比率であるアスペクト比が5以下の充填材を言い、このような非繊維状充填材としては、例えば、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、アスベスト、アルミノシリケート、珪酸カルシウムなどの非膨潤性珪酸塩、アルミナ、シリカ、珪藻土、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素などが挙げられる。これらは中空であってもよく、さらにはこれら非繊維状充填材を2種類以上用いることも可能である。また、これら非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で処理して使用してもよい。
【0038】
これら非繊維状充填材の中でも、表面外観、寸法安定性、耐熱性に優れる点でタルク、ワラステナイト、カオリンが好ましい。平均粒径は0.5〜10μmであることが好ましい。平均粒径が0.5μm未満では凝集がおこりやすく耐衝撃性に劣る場合がある。また平均粒径が10μmを超えると耐衝撃性に劣る場合がある。なお、平均粒径は、レーザー回折法により測定した粒径の50%積算値として求めることができる。
【0039】
本発明において(B)非繊維状充填材の含有量は本発明のポリアミド樹脂組成物中に0.5〜30重量%である。好ましくは、0.5〜20重量%、更に好ましくは1〜15重量%である。含有量が0.5重量%未満であると物性改良効果が小さく、含有量が30重量%を超えると塗装後の外観が低下し、本発明の目的を達成することができない。なお、ここでの含有量は無機灰分量としての値を示すものである。無機灰分量は、ポリアミド樹脂組成物2gを600℃の電気炉で3時間灰化させて求めることができる。
【0040】
本発明においては(B)非繊維状充填材として(B1)膨潤性層状珪酸塩と(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材を特定の比率で用いることが特徴である。本発明のポリアミド樹脂組成物中における(B1)膨潤性層状珪酸塩の含有量を無機灰分量としてb1重量%、(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材の含有量を無機灰分量としてb2重量%とした場合、その比率b1/(b1+b2)が0.03〜0.5、さらに好ましくは0.1〜0.5である。その比率が0.03未満であると寸法精度が低下するため好ましくない。
【0041】
なお、(B1)膨潤性層状珪酸塩の具体的な添加量は上記比率を満足する範囲内であり、ポリアミド樹脂組成物中に3〜10重量%、さらに好ましくは3〜5重量%である。一方(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材の具体的な添加量も、同様に上記比率を満足する範囲内で制限を受けないが、ポリアミド樹脂組成物中に1〜29重量%、好ましくは1〜25重量%、さらに好ましくは3〜15重量%である。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂組成物中では(B1)膨潤性層状珪酸塩および(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材は、ポリアミド樹脂への分散性の差と、粒子径の差により、それぞれ異なった分散状態で存在している。(B1)膨潤性層状珪酸塩は、板状結晶の1枚1枚が独立して分散しあるいは数枚から数十枚が重なった状態に分散して存在しており、(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の無機充填剤は原料として仕込んだ無機粒子の形状をほぼ保った状態で存在している。本発明のポリアミド樹脂組成物中における(B1)膨潤性層状珪酸塩の平均分散厚さ(板状結晶の厚さ方向の分散厚さ)をLb1、(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の充填材の平均粒径をLb2とした場合、その比Lb2/Lb1は100〜10000であることが好ましい。さらに好ましくは100〜5000である。Lb2/Lb1が100未満の場合は、耐熱性が低下する恐れがあり、また10000以上の場合は塗装後の表面外観低下の恐れがある。なおLb1およびLb2は本発明のポリアミド樹脂組成物の超薄切片を透過型電子顕微鏡で観察し、(B1)および(B2)各々の分散サイズを測定して求めることができる。
【0043】
本発明の(C)耐衝撃性改良剤とは、(A)ポリアミド樹脂とアロイ化した際に耐衝撃性を改良する成分を言い、例えばオレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物を重合して得られる(共)重合体などが挙げられる。これらの耐衝撃性改良材は2種以上併用することも可能である。
【0044】
このような耐衝撃性改良剤の具体例としては、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、(「g」はグラフトを表わす、以下同じ)、エチレン/メタクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1,4−ヘキサジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/2,5−ノルボルナジエン−g−無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/イソプレン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体、などを挙げることができる。この中で、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体がさらに好ましく、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体が特に好ましい。
【0046】
本発明において(C)耐衝撃性改良剤の含有量は、本発明のポリアミド樹脂組成物中において1〜40重量%である。好ましくは2〜35重量%、より好ましくは5〜30重量%である。含有量が1重量%未満であると衝撃強度が低下し、40重量%を超えると、荷重たわみ温度が低下し、本発明の目的を達成することができない。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、さらに(D)数平均分子量が10000以下のエポキシ基含有化合物を含有する。塗膜密着性の点でより好ましい数平均分子量は7000以下である。エポキシ基含有化合物とは、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物を意味する。中でも塗膜密着性と滞留安定性の点で1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であることが好ましく、1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物がさらに好ましい。
【0048】
このようなエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、オロカテロール、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノールのグリシジルエーテル系エポキシ基含有化合物、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどのジオールのジグリシジルエーテル系エポキシ基含有化合物、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルジオールのジグリシジルエーテル系エポキシ基含有化合物、グリシジルエステル系エポキシ基含有化合物、グリシジルアミン系エポキシ基含有化合物、フェノール型エポキシ基含有化合物、クレゾール型エポキシ基含有化合物、脂環式エポキシ基含有化合物、シリコン変性エポキシ基含有化合物、ゴム変性エポキシ基含有化合物、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化大豆油、ナフタレン骨格を持ったエポキシ基含有化合物、ジシクロペンタジエン骨格を持ったエポキシ基含有化合物、リモネン骨格を持ったエポキシ基含有化合物などを挙げることができ、併用してもよい。これらについては、ハロゲン化されているもの、水素添加されているものでもよい。これらエポキシ基含有化合物は液体、固体いずれも用いることができるが、ハンドリング性の点で固体が好ましい。
【0049】
エポキシ基含有化合物の添加量は、本発明のポリアミド樹脂組成物全体を100重量%とした場合に、0.1〜10重量%であることが好ましい。塗膜密着性と諸物性のバランスの点で0.3〜8重量%がより好ましい。0.1重量%未満では塗膜密着性などに劣り、10重量%を越えると耐熱性などが低下するためである。
【0050】
さらに本発明では、ポリアミド樹脂組成物全体の重量を1としたときのエポキシ基含有化合物の重量の割合を、該エポキシ基含有化合物のエポキシ当量で除した値(割合/エポキシ当量)が1.5×10-5〜5×10-5の範囲内にあることが必要である。塗膜密着性と滞留安定性の点で2×10-5〜4×10-5の範囲内がより好ましい。
【0051】
エポキシ基含有化合物のエポキシ当量は塗膜密着性の点で2000以下であることが好ましく、100〜1500がより好ましい。エポキシ当量が2000を越えると、十分な塗膜密着性を得るためにエポキシ基含有化合物を多く添加する必要があり、結果として耐熱性などが低下する場合があるため好ましくない。
【0052】
ここで、樹脂組成物全体の重量を1としたときのエポキシ基含有化合物の重量の割合をエポキシ当量で除した値(割合/エポキシ当量)について説明する。エポキシ当量とは、1グラム当量のエポキシ基を含むエポキシ基含有化合物のグラム数を意味する。したがって、樹脂組成物全体の重量を1としたときのエポキシ基含有化合物の重量の割合をエポキシ当量で除した値(割合/エポキシ当量)は、樹脂組成物1g中に含まれるエポキシ基のグラム当量を表す。
【0053】
本発明においては、この値を1.5×10-5〜5×10-5の範囲に調整することが重要である。この範囲内に調整することにより、塗膜密着性向上効果と共に滞留安定性をも兼備する実用価値の高い材料を設計し得るのである。この値が1.5×10-5未満では塗膜密着性向上効果および滞留安定性向上効果が十分ではなく、またこの値が5×10-5を越えると滞留安定性が低下するのである。
【0054】
ここで言う滞留安定性とは、溶融状態での滞留有無での特性変化の小ささを意味する。すなわち、熱可塑性樹脂を射出成形機中などで溶融状態で滞留させると、熱分解や、反応が起こり、その結果特性変化が生じるのであるが、その際の特性変化の小ささを意味するものである。
【0055】
エポキシ基含有化合物を含有するポリアミド樹脂の場合、一般に溶融状態で滞留させると両者の反応により特性変化が生じ易い。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、樹脂組成物全体の重量を1としたときのエポキシ基含有化合物の重量の割合をエポキシ当量で除した値(割合/エポキシ当量)を1.5×10-5〜5×10-5の範囲に調整した本発明の樹脂組成物においては、エポキシ基含有化合物を含有しない場合よりも特性変化が小さくなる、すなわち滞留安定性が向上することを見出したのである。
【0056】
これは、樹脂組成物全体の重量を1としたときのエポキシ基含有化合物の重量の割合をエポキシ当量で除した値(割合/エポキシ当量)を、かかる範囲に規定を設けることにより、エポキシ当量が小さく添加量が多い場合には、エポキシ基が多く存在することでエポキシ基含有化合物とポリアミド樹脂の過剰な反応に起因すると考えられる滞留安定性低下が生じること、更に、エポキシ当量が大きく添加量が少ない場合には、エポキシ基が少ないためにポリアミド樹脂と耐衝撃性改良剤との反応に起因すると考えられる滞留安定性低下が生じることを効果的に解決できるためである。逆に言えば、この値を1.5×10-5〜5×10-5の範囲とした場合には、エポキシ基含有化合物とポリアミド樹脂の反応が適度に進行することにより、ポリアミド樹脂と耐衝撃性改良剤との反応の進行に遅延が生じると考えられ、その結果滞留安定性低下を効果的に解決できるのである。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの誘導体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、導電性粒子(カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、着色防止剤(次亜リン酸塩等)、他の重合体を含有することができる。
【0058】
特に、本発明のポリアミド樹脂組成物に導電性粒子を添加して導電性を付与した場合には、静電塗装の際に通常塗布している導電プライマーを不要にできるため、導電性粒子を添加することが好ましい。導電性粒子としては上述したとおり、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が挙げられるが、物性上グラファイト、カーボンナノチューブが好ましく、特にグラファイトが好ましい。グラファイトには、いわゆる天然グラファイトと人工グラファイトがあるが、いずれのグラファイトも用いることができる。またこれらを併用してもよい。グラファイトの形状には、鱗片状、鱗状、土状などがあるが、耐熱性や寸法安定性の点から鱗片状または鱗状が好ましい。グラファイトの平均粒径は表面外観と物性のバランスの点で1〜70μmが好ましい。さらに好ましくは、3〜50μmである。
【0059】
本発明のポリアミド樹脂組成物は耐熱性および表面外観、耐衝撃性のいずれにも優れるため、焼付塗装用に用いるに極めて適している。焼付塗装工程としては、自動車ボディとの一体塗装であるオンライン塗装、インライン塗装や、部品塗装であるオフライン塗装いずれでもよいが、より高い耐熱性が必要なオンライン塗装、インライン塗装に好適に用いることができる。
【0060】
塗装方法については特に制限はなく、スプレー塗装法、静電塗装塗法など公知の塗装方法を採用できる。塗料としては、ラッカー系塗料、ウレタン系塗料、アクリル系塗料、アルキッド系塗料、エポキシ系塗料、ポリエステル系塗料、メラミン系塗料などが挙げられる。塗料膜厚については特に限定するものではないが、5〜150μmが好ましい。
【0061】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、VTR、テレビ、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、アイロン、音響機器、冷蔵庫、エアコン、掃除機などの電気製品部品や、フューエルリッド、バンパー、フロントフェンダー、リアフェンダー、ドアパネル、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、ホイールキャップ、カウルなどの車両用外装部品など焼付塗装が施される部品に用いることができ、特に車両用外装部品に好適に用いることができる。特に、フロントフェンダー、リアフェンダー、ドアパネル、テールゲートパネルなどの車両用外板部品に用いることが好ましい。
【0062】
次に本発明のポリアミド樹脂組成物を得る方法について例を挙げて説明する。本発明のポリアミド樹脂組成物は、各成分を公知の混練方法により溶融混練して得ることができる。溶融混練の方法には特に制限はなく、ポリアミド樹脂の溶融状態下で機械的剪断を行うことができればよい。その処理方法もバッチ式または連続式のいずれでも良いが、連続的に製造できる連続式の方が生産性の面から好ましい。具体的な混練装置にも制限はなく、例えば単軸または二軸の押出機、混練機、ニーダーなどが挙げられるが、特に二軸押出機が生産性の面で好ましい。スクリューアレンジにも特に制限は無いが、層状珪酸塩をより均一に分散させるためにニーディングゾーンを設けることが好ましい。また、溶融混練時に発生する水分や、低分子量の揮発成分を除去する目的で、溶融混練装置にベント口を設けることも好ましい。押出機を用いる場合には、(i)各原料を一括して押出機に供給する方法や、(ii)任意の複数の成分をあらかじめ溶融混練しペレット化しておき、それと残りの成分を押出機に供給する方法が挙げられる。さらに、(iii)供給口を2つ以上有する押出機を使用する場合には、第一の(上流側の)供給口から任意の1ないし複数の成分を供給し、第二以降の(下流側の)供給口から残りの任意の1ないし複数の成分を供給する方法をとることもできる。生産性の点から、(iii)の方法が好ましい。とりわけ、(ii)、(iii)の方法で、(A)ポリアミド樹脂と(B1)膨潤性層状珪酸塩を予め溶融混練しておく、または、両成分を第一の供給口から供給する方法が好ましい。
【0063】
本発明のポリアミド樹脂組成物を成形する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、押出成形、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形、プレス成形などが挙げられ、特に限定されないが、生産性などの点から射出成形や射出圧縮成形が好ましい。
【0064】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0065】
A.使用した材料
ポリアミド樹脂:”アミラン”CM1017(東レ社製)
膨潤性層状珪酸塩1:Na型モンモリロナイト(陽イオン交換容量85meq/100g)100gを温水10リットルに攪拌分散し、ここにベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド(BDMS:炭素数27)36g(陽イオン交換容量(CEC)に対して1.0倍)を溶解させた温水2リットルを添加して1時間攪拌し、生じた沈殿を濾別した後、温水で洗浄し(この洗浄と濾別の操作を3回行った)、得られた固体を80℃で真空乾燥して、膨潤性層状珪酸塩を得た。広角X線回折装置(理学電気製RINT1100)を用いて膨潤性層状珪酸塩の粉末試料を2θ=2〜20度の範囲で測定し、d(001)ピークをもって層間距離を求めたところ、層間距離は1.9nmであった。また、得られた膨潤性層状珪酸塩0.1gを600℃の電気炉で3時間灰化して無機灰分量を測定したところ、69重量%だった。
膨潤性層状珪酸塩2:BDMSの添加量をモンモリロナイトの陽イオン交換容量の0.8倍とする以外は膨潤性層状珪酸塩1と同様にして得た。層間距離は1.5nmであった。また、得られた膨潤性層状珪酸塩0.1gを600℃の電気炉で3時間灰化して無機灰分量を測定したところ、71重量%だった。
【0066】
耐衝撃性改良剤:”N−タフマー”MH5020(三井化学社製)
タルク1:LMS300(富士タルク工業社製)、平均粒径4.5μm
【0067】
ガラス繊維:T258(日本電気硝子社製)。
【0068】
エポキシ基含有化合物1:エピコート1002(数平均分子量1060、エポキシ当量650)(ジャパンエポキシレジン社製)
エポキシ基含有化合物2:エピコート1009(数平均分子量3750、エポキシ当量2850)(ジャパンエポキシレジン社製)。
【0069】
焼付塗料:ポリエステル系樹脂塗料(関西ペイント社製)。
【0070】
B.評価方法
a.耐熱性:荷重0.46MPa下での荷重たわみ温度
東洋精機社製HDT−TESTERを使用し、高さ1/2インチ、幅1/4インチの試料を用いて、ASTM D648−82に従って測定した。
【0071】
b.耐衝撃性:ノッチ付きIzod衝撃強度
東洋精機社製Izod衝撃強度試験機を使用し、厚さ1/8インチの試料を用いて、ASTM D256−87に従って測定した。
【0072】
c.剛性:曲げ弾性率
オリエンテック社製RTA−1tを使用し、幅1/2インチ、厚さ1/4インチの試料を用いて、ASTM D790に準じて測定を行った。
【0073】
d.寸法安定性:吸水時寸法変化率
80×80×3mmの角板を60℃、95%RHの雰囲気下で7日間処理し、処理前後での流れ方向の寸法変化率を求めた。
【0074】
e.表面外観:目視
80×80×3mmの角板にスプレーガンを用いて、ポリエステル系塗料で塗装を施し、160℃×20分の焼付処理を行った後、表面に凹凸が目立つものを×、問題ないものを○とした。膜厚は50μmとした。
【0075】
f.塗膜密着性:碁盤目剥離試験
表面外観の評価に用いた焼付塗装後の角板を、23℃×50%RHの条件で48時間放置した後、剥離試験を行った。離試験は、カッターナイフで1mm間隔で縦横11本の切り込みを入れ、100個の升目を作り、セロハン粘着テープを用いて行い、剥離数を求めた。この測定により得られた測定値が小さいほど、塗膜密着性に優れると言える。
【0076】
g.非繊維状充填材の分散状態
寸法安定性評価に用いるものと同じ角板から一部を切り出し、ウルトラミクロトーム(REICHERT ULTRACUT S:Leica社製)用いて超薄切片を作成して、日立製作所社製透過型電子顕微鏡H−7100で観察し、その写真からピアス社製画像解析装置LA−555により樹脂中に分散している100個以上の膨潤性層状珪酸塩の分散厚さを測定し、平均分散厚さLb1を求めた。膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材については、樹脂中に分散している非繊維状充填材の形状を楕円に近似し、長径と短径の平均を粒子径とし、それを平均して、平均粒子径とした。樹脂中に分散している100個以上の非繊維状充填材につき測定を行い平均分散粒径Lb2を求めた。
【0077】
参考例1〜4
各材料を表1、2に示す割合で配合し、日本製鋼所社製二軸押出機TEX−30で溶融混練後ペレット化した。第一の供給口からポリアミド樹脂と膨潤性層状珪酸塩を、第二の供給口からその他の原料をそれぞれ供給し、溶融混練後ペレット化した。得られたペレットを80℃、12時間の条件で真空乾燥した。乾燥したペレットを用いて、住友重機械工業社製射出成形機SG75H−MIVで試験片と80×80×3mmの角板を成形した。耐熱性、耐衝撃性、剛性、寸法安定性、表面外観、分散状態の評価を行った。
【0079】
実施例1〜2、比較例3〜5
各材料を表3に示す割合で配合し、日本製鋼所社製二軸押出機TEX−30で溶融混練後ペレット化した。溶融混練の方法は、第一の供給口からポリアミド樹脂と膨潤性層状珪酸塩を、第二の供給口からその他の原料をそれぞれ供給し、溶融混練後ペレット化した。得られたペレットを80℃、12時間の条件で真空乾燥した。乾燥したペレットを用いて、住友重機械工業社製射出成形機SG75H−MIVで試験片と80×80×3mmの角板を成形した。耐熱性、耐衝撃性、剛性、寸法安定性、表面外観、分散状態、塗膜密着性の評価を行った。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【発明の効果】
本発明によれば、焼付塗装に必要な耐熱性を有し、塗装後の表面外観、塗膜密着性および剛性、耐衝撃性に優れるポリアミド樹脂成形品を得ることを達成し得るポリアミド樹脂組成物を提供することができる
Claims (8)
- (A)ポリアミド樹脂30〜98.5重量%、(B)非繊維状充填材0.5〜30重量%、(C)無水マレイン酸がグラフトされた耐衝撃性改良剤1〜40重量%、(D)数平均分子量が10000以下のエポキシ基含有化合物からなる焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物であって、(B)非繊維状充填材が(B1)膨潤性層状珪酸塩と(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材からなり、その重量比b1/(b1+b2)が0.03〜0.5であり(ここで、b1は膨潤性層状珪酸塩の含有量(重量%、無機灰分量として)、b2は膨潤性層状珪酸塩以外の非繊維状充填材の含有量(重量%、無機灰分量として)を示す。)、前記ポリアミド樹脂組成物中の(B1)膨潤性層状珪酸塩が3〜10重量%であり、前記ポリアミド樹脂組成物全体の重量を1としたときの前記エポキシ基含有化合物の重量の割合を、該エポキシ基含有化合物のエポキシ当量で除した値(割合/エポキシ当量)が1.5×10-5〜5×10-5である量で配合してなることを特徴とする焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
- (B1)膨潤性層状珪酸塩の組成物中における平均分散厚さをLb1、(B2)膨潤性層状珪酸塩以外の平均分散粒径をLb2としたとき、その比Lb2/Lb1が100〜10000であることを特徴とする請求項1記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
- (B1)膨潤性層状珪酸塩が層間に存在する交換性金属陽イオンを有機オニウムイオンで交換してなるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
- (B1)膨潤性層状珪酸塩の板状結晶層の層間距離が1.6〜2.9nmであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
- (B2)非繊維状充填剤材がタルクであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
- ポリアミド樹脂組成物中のタルクの含有量が15〜29重量%である請求項5記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物。
- 請求項1〜6いずれか記載の焼付塗装用ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品であって、該成形品表面には焼付塗装された塗膜を有する焼付塗装成形品。
- 車両用外装部品であることを特徴とする請求項7記載の焼付塗装成形品。
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