JP4013524B2 - 酢酸金属塩を含有するガラス繊維用集束剤により集束されてなるガラス繊維チョップドストランド - Google Patents
酢酸金属塩を含有するガラス繊維用集束剤により集束されてなるガラス繊維チョップドストランド Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス繊維用集束剤、そのガラス繊維用集束剤の不揮発成分によりガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなるガラス繊維束、及びそのガラス繊維束と熱可塑性樹脂とを含むガラス繊維熱可塑性樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話やノートブック型パーソナルコンピュータ等の部品を構成する材料として、一般の熱可塑性樹脂に比べ成形性(流動性)、強度(剛性)及び耐熱性に優れた液晶ポリマーが用いられるようになってきている。そして、かかるポリマーの機械的強度や耐衝撃性等の特性を更に上昇させるために、ガラス繊維チョップドストランド等のガラス繊維束を添加して、ガラス繊維強化液晶ポリマーを作製することが行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ガラス繊維強化液晶ポリマーの成形物は、液晶ポリマーとガラス繊維束とを押出機等により混練してペレット化した後に、得られたペレットを射出成形等で成形することにより製造されるが、ペレットを製造する工程において液晶ポリマーの粘度低化が生じて押出機等から安定して吐出することができなくなる場合がある。また、このためにペレットの計量不良が生じたり、成形物にバリが発生しやすくなる等の問題も生じている。
【0004】
かかる問題は、用いる液晶ポリマーがポリエステル系液晶ポリマーである場合に特に発生しやすく、この場合の低粘度化の原因は、液晶ポリマーの末端部が空気中の水分等により加水分解され低分子量化することによると想定されるが、現在のところ、かかる低粘度化を簡便且つ効率的に抑制できる手段は知られていない。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、ガラス繊維強化液晶ポリマー等のガラス繊維強化熱可塑性樹脂の製造に用いられる材料であって、熱可塑性樹脂とガラス繊維との混練時の低粘度化を抑制して、押出機等による吐出時の安定性を高めることができ、加えて、成形物におけるバリの発生を充分に低減することが可能な材料、及び、かかる材料を用いて製造されるガラス繊維強化熱可塑性樹脂を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリウレタン樹脂を皮膜形成樹脂として含む水系のガラス繊維用集束剤に酢酸金属塩を添加したものを用いてガラス繊維束を作製し、かかるガラス繊維束を熱可塑性樹脂に添加するガラス繊維束として用いることにより、熱可塑性樹脂とガラス繊維との混練時の低粘度化の抑制が可能で、押出機等による吐出時の安定性向上を図ることができ、更に、成形物におけるバリも低減可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム及び酢酸スズからなる群より選ばれる少なくとも1つの酢酸金属塩と、ポリウレタン樹脂と、潤滑剤と、シランカップリング剤と、水とを含み、上記酢酸金属塩、ポリウレタン樹脂、潤滑剤及びシランカップリング剤は、上記水に溶解及び/又は分散されていることを特徴とするガラス繊維用集束剤を提供するものである。
【0008】
本発明は、また、上記ガラス繊維用集束剤の不揮発成分によりガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなることを特徴とするガラス繊維束、及び、該ガラス繊維束と熱可塑性樹脂とを含むことを特徴とするガラス繊維強化熱可塑性樹脂を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
上述のように、本発明のガラス繊維用集束剤は、酢酸金属塩と、ポリウレタン樹脂と、潤滑剤と、シランカップリング剤と、水とを必須成分として含んでおり、水以外の必須成分である酢酸金属塩、ポリウレタン樹脂、潤滑剤及びシランカップリング剤は水に溶解及び/又は分散されている。
【0010】
本発明においては、水系のガラス繊維用集束剤に酢酸金属塩を用いたこと、そして、それをポリウレタン樹脂、潤滑剤及びシランカップリング剤と組み合わせたことが大きな特徴であるが、これは、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂とガラス繊維とを混練する場合における低粘度化の抑制手段を種々検討する過程において見出された以下の知見に基づくものである。すなわち、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂に添加剤を加えるのではなく、熱可塑性樹脂とガラス繊維の界面に存在する集束剤(ポリウレタン樹脂、潤滑剤及びシランカップリング剤を不揮発成分として含む)に添加剤(酢酸金属塩)を加えることにより、簡便且つ効率的に熱可塑性樹脂の低粘度化を抑制できる、との知見に基づくものである。
【0011】
以下、本発明のガラス繊維用集束剤の必須成分である、酢酸金属塩、ポリウレタン樹脂、潤滑剤、シランカップリング剤及び水のそれぞれについて詳述する。先ず、酢酸金属塩について説明する。
【0012】
上述のように、酢酸金属塩は、熱可塑性樹脂の低粘度化の抑制に寄与する成分である。本発明においては、酢酸金属塩として酢酸ナトリウム(CH3COONa)、酢酸カリウム(CH3COOK)及び酢酸スズ((CH3COO)2Sn)からなる群より選ばれる少なくとも1つの酢酸金属塩を用いる。本発明において酢酸金属塩は、無水塩であっても含水塩であってもよい。かかる酢酸金属塩を含む集束剤を用いることで、熱可塑性樹脂とガラス繊維とを混練する場合の低粘度化の抑制が可能になる。本発明のガラス繊維用集束剤がこのような効果を奏する理由は必ずしも明らかはないが、熱可塑性樹脂がポリエステル系液晶ポリマーである場合は、該ポリマーにおける加水分解の生じた部位に酢酸金属塩が作用して、その部位の再重合や再結合を生じせしめていることによると考えられる。
【0013】
次に、本発明におけるウレタン樹脂について説明する。本発明において用いることのできるポリウレタン樹脂は、ガラス繊維用集束剤の乾燥温度(60〜200℃)においてガラス繊維上に皮膜を形成可能な、ウレタン結合を有する樹脂である。かかるポリウレタン樹脂は、本発明において皮膜形成剤として用いられることから、最低造膜温度が130℃以下、好ましくは80℃以下のポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0014】
また、本発明におけるポリウレタン樹脂は、水分散物(又は溶解物)として以下のような性質を示すものであることが好ましい。すなわち、ガラス板表面上にポリウレタン樹脂の水分散物(又は溶解物)を固形分換算で2g塗布し120℃にて3時間乾燥させ、直径略20cmの乾燥皮膜を形成せしめ、放冷後、1cm角の升状にカッターナイフで切れ目を入れたときに、ガラス板から乾燥皮膜が剥離しないようなポリウレタン樹脂であることが好ましい。更には、1cm角の升状に切れ目を入れた乾燥皮膜に、粘着テープ(ニチバン社製、製品名セロテープCT15)を貼付け、引き剥がしたときに乾燥皮膜がガラス板から剥離しないようなポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0015】
かかるポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、オレフィン系ポリオール等のポリオールと、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等のポリイソシアネートとを任意の当量比で反応させて得ることができる。ポリウレタン樹脂末端はイソシアネート基であっても水酸基であってもよく、これらの基は公知の手法によりブロック化されていてもよい。また、ポリウレタン樹脂の主鎖は公知の手法による変性がなされていてもよい。
【0016】
本発明におけるポリウレタン樹脂は、その化学構造中に例えばポリオキシエチレンユニットを有し、ガラス繊維用集束剤に含まれる水に溶解性及び/又は膨潤性を示すもの(以下「水溶性ポリウレタン樹脂」という。)であっても、水に対して溶解性や膨潤性を示さず水中で分散又は乳化されるもの(以下「水分散性ポリウレタン樹脂」という。)であってもよい。本発明においては、同一固形分であっても低粘度化が可能であることから、水分散性ポリウレタン樹脂が好ましい。また、水分散性ポリウレタン樹脂は、エマルジョン又はディスパージョンの形態で提供されるものであることが好ましい。
【0017】
次に、本発明における潤滑剤について説明する。本発明のガラス繊維用集束剤は潤滑剤を必須成分として含む。本発明における潤滑剤は、ガラス繊維束等のガラス繊維製品の製造工程における機械摩擦からガラス繊維を保護することのできるものであればよく、例えば、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールの縮合物等の合成油;ポリエチレンイミン;ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル等が例示できる。本発明において用いることのできる潤滑剤として特に好ましいものは、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸の縮合物に酢酸を加えpHを4.5〜5.5に調整した調整物(以下、該調整物における固形分を「TEPA/SA」と記す。)である。TEPA/SAにおけるテトラエチレンペンタミンとステアリン酸の反応比率はモル比として、前者/後者=1/1〜1/2が好ましい。かかる潤滑剤を用いることにより、ガラス繊維が機械摩擦から保護されるとともに、ガラス繊維束中のガラス繊維フィラメント同士の摩擦をも減少させ、更にはガラス繊維に柔軟性を付与することが可能になる。
【0018】
次に、本発明におけるシランカップリング剤について説明する。本発明において用いられるシランカップリング剤は、加水分解性基と疎水基(有機基)とを有するシラン化合物であり、かかる化合物としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等の不飽和二重結合を有するシランカップリング剤;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。本発明においては、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0019】
シランカップリング剤は、上記のようにガラス繊維と反応性を有する加水分解性ケイ素基と、熱可塑性樹脂との親和性を有する疎水基(有機基)とを有していることから、シランカップリング剤を含む本発明のガラス繊維用集束剤を用いることにより、ガラス繊維束と熱可塑性樹脂との界面接着性を向上させることができる。
【0020】
本発明のガラス繊維用集束剤における上記必須成分の含有量は任意であるが、酢酸金属塩の含有比率は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、1.5〜35重量%であることが好ましく、1.8〜32重量%であることがより好ましい。酢酸金属塩の含有比率が1.5重量%未満である場合は、混練時の熱可塑性樹脂の低粘度化が充分に抑制されなくなる傾向があり、35重量%を超す場合は、ガスが発生して成形物が発泡する場合があり成形物の耐熱性が低下する傾向がある。なお、本発明において不揮発成分とは、ガラス繊維用集束剤を130℃で乾燥した場合に揮発しない成分をいう。
【0021】
本発明のガラス繊維用集束剤におけるポリウレタン樹脂の含有比率は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、30〜70重量%が好ましく、35〜65重量%がより好ましい。ポリウレタン樹脂の含有比率が30重量%未満である場合は、ガラス繊維フィラメントを集束する強度が不充分になる傾向にあり、70重量%を超す場合は、ガラス繊維と熱可塑性樹脂とを混練溶融するときガスが発生しやすい傾向にある。
【0022】
本発明のガラス繊維用集束剤における潤滑剤の含有比率は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、0.5〜3.0重量%が好ましく、0.7〜2.0重量%がより好ましい。潤滑剤の含有比率が0.5重量%未満である場合は、ガラス繊維が機械摩擦から充分に保護されなくなる傾向にあり、3.0重量%を超す場合は、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂の強度が低下したり、着色したりする傾向にある。
【0023】
本発明のガラス繊維用集束剤におけるシランカップリング剤の含有比率は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、20〜65重量%が好ましく、25〜55重量%がより好ましい。シランカップリング剤の含有比率が20重量%未満である場合は、ガラス繊維束の集束性が低下する傾向にあり、65重量%を超す場合は、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂の溶融粘度が低下する場合がある。
【0024】
本発明のガラス繊維用集束剤における不揮発成分は、ガラス繊維用集束剤の全重量を基準として1.5〜5.0重量%が好ましく、2.0〜4.0重量%がより好ましい。不揮発成分の含有比率が1.5重量%未満である場合は、1回の塗布でガラス繊維にガラス繊維用集束剤が付着する量が少なくなり、複数回塗布を行わなければならず製造コストが上昇する場合があり、5.0重量%を超す場合は、粘度が上昇し塗布性に問題が生じる場合がある。なお、揮発成分(不揮発成分以外の成分)中、水の含有比率は90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましい。
【0025】
本発明のガラス繊維用集束剤は、上述した必須成分に加えて、pH調整剤、帯電防止剤及び乳化剤等の添加成分を更に含んでいてもよい。また、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールやその他有機溶剤を少量含有していてもよい。
【0026】
pH調整剤としては、酢酸等の弱酸が好ましく、pH調整剤の添加によりガラス繊維用集束剤のpHを3.0〜5.0に調整することが好ましい。かかるpH調整により、シランカップリング剤の加水分解を促進させることができる。
【0027】
帯電防止剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルスルホネート、第4級アンモニウムクロライドが例示可能である。ガラス繊維用集束剤に帯電防止剤を添加することにより、ガラス繊維に生じる静電気の発生を低減させることができる。帯電防止剤の含有量はガラス繊維用集束剤の不揮発成分100重量部に対して1〜3重量部が好ましい。
【0028】
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、脂肪族4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンポリアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤等を用いることができる。乳化剤の含有量はガラス繊維用集束剤の不揮発成分100重量部に対して0.5〜2重量部が好ましい。
【0029】
本発明のガラス繊維用集束剤は、上述したポリウレタン樹脂の水性エマルジョン若しくはディスパージョン又は水溶液を調製し、それに上述した潤滑剤、シランカップリング剤及び酢酸金属塩を添加し、必要に応じて上記添加成分や有機溶剤等を加えることにより製造することが好ましい。なお、シランカップリング剤はアルコール溶液として提供される場合があり、その場合はアルコール成分を除去することなく添加することが可能である。
【0030】
次に、本発明のガラス繊維束について説明する。本発明のガラス繊維束は、上述のガラス繊維用集束剤の不揮発成分によりガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなるものである。すなわち、本発明のガラス繊維束は、複数本のガラス繊維フィラメントと本発明のガラス繊維用集束剤の不揮発成分とから構成されており、該不揮発成分は複数のガラス繊維フィラメント間に存在し、ガラス繊維フィラメントを束ねる接着剤(バインダ)として機能している。また、不揮発成分はガラス繊維フィラメントの外周を連続又は不連続膜として被覆し、ガラス繊維を保護する機能も有している。
【0031】
かかる不揮発成分は、ガラス繊維束の使用時にガラス繊維フィラメントを束状に保っておくだけの強度を有していればよく、ガラス繊維束間に一様に分布している必要はない。すなわち、ガラス繊維フィラメント同士の接着性の観点からは、不揮発成分はガラス繊維束の外縁部から中心部へ向けて略均一の濃度で分布していることが好ましいが、例えば、外縁部の濃度が高く中心部の濃度が低い場合であってもガラス繊維フィラメントを保持可能であり実用上問題とならないため、かかる構成のガラス繊維束も本発明において採用可能である。
【0032】
本発明のガラス繊維束に用いられるガラス繊維フィラメントのフィラメント径は3〜23μmが好ましく、ガラス繊維束はかかるガラス繊維フィラメントが25〜4000本集束されてなるものであることが好ましい。ガラス繊維フィラメントのガラス組成としては、例えば、Eガラス、Sガラス、Cガラス等が挙げられる。本発明のガラス繊維束におけるガラス繊維フィラメントの総重量とガラス繊維用集束剤の不揮発成分の重量との比は、前者100重量部に対して、後者0.2〜5.0重量部が好ましく、0.5〜2.0重量部がより好ましい。また、本発明のガラス繊維束の態様としては、ガラス繊維ヤーン、ガラス繊維ロービングが挙げられる
【0033】
本発明のガラス繊維束は、例えば、白金ノズル(ブッシング)から引き出されたガラス繊維フィラメントにローラー型アプリケーターやベルト型アプリケーター等を用いてガラス繊維用集束剤を塗布し、これを集束機で集束することによってガラス繊維フィラメントを束ね、次いで、これを室温〜150℃で乾燥し、水等の揮発成分を除去することにより製造することができる。なお、適宜、加撚を施してもよい。
【0034】
このような方法により得られるガラス繊維束は長繊維であるが、本発明においては、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分によりガラス繊維フィラメントが複数集束されてなることを特徴とするガラス繊維束であって、前記ガラス繊維フィラメントの繊維長が数mm〜数十mmであるガラス繊維束(以下「短繊維長ガラス繊維束」という。)を用いることもできる。短繊維長ガラス繊維束を用いることにより、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂を作製が容易となるとともに、得られるガラス繊維強化熱可塑性樹脂中におけるガラス繊維束の分散性が向上する。
【0035】
短繊維長ガラス繊維束の繊維長は1〜25mmであることが好ましく、1.5〜12mmであることがより好ましい。短繊維長ガラス繊維束の繊維長が1mm未満である場合は、繊維強化熱可塑性樹脂の強度が低下したり、短繊維長ガラス繊維束が嵩だかになり作業性が低下することがあり、25mmを超す場合は、短繊維長ガラス繊維束が絡まって、嵩だかになり作業性が低下する傾向にある。
【0036】
なお、短繊維長ガラス繊維束は、上述の方法によりガラス繊維束(長繊維)を作製した後に、かかるガラス繊維束を1〜25mmの長さに切断することにより製造することができる(かかる製造法による短繊維長ガラス繊維束をガラス繊維チョップドストランドと呼ぶ)。切断はガラス繊維束(長繊維)の乾燥工程の前または後に行えばよい。
【0037】
次に、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂について説明する、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、上述したガラス繊維束(長繊維及び/又は短繊維長ガラス繊維束)と熱可塑性樹脂とを含むものである。なお、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂がガラス繊維束の長繊維を含む場合は、当該長繊維は編組物であることが好ましい。
【0038】
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等公知の熱可塑性樹脂が挙げられるが、本発明においては液晶ポリマーが好ましい。液晶ポリマーとしてはポリエステル系液晶ポリマーが好ましく、中でも全芳香族ポリエステルが好ましい。なお、本発明において用いられる液晶ポリマーは、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーを意味する。
【0039】
ポリエステル系液晶ポリマーとしては、表1に示す構造単位を同表に示すモル比で含むポリマー(1−1〜1−8)及び表2に示す構造単位を有するポリマー(2−1〜2−8、繰返し数nも同表に併記)が挙げられる。なお、かかるポリマーについては、高分子大辞典(三田達 監訳、丸善株式会社)を参照することができる。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、本発明のガラス繊維束を10〜150重量部含有することが好ましい。なお、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、充填剤等の添加成分を更に含有していてもよい。
【0043】
また、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂においては、ガラス繊維束における酢酸金属塩の重量が、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.005〜0.2重量部(更には0.007〜0.15重量部)であることが好ましい。酢酸金属塩の重量が上記範囲内である場合は、熱可塑性樹脂とガラス繊維との混練時における熱可塑性樹脂の低粘度化が特に効率的に抑制されるようになる。すなわち、酢酸金属塩の重量が0.005重量部未満である場合は、上記抑制効果が得られ難くなる傾向にあり、0.2重量部を超す場合は、添加量が多すぎて添加が無駄になる場合がある。
【0044】
本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、射出成形などの公知の製造方法により製造することができる。
【0045】
以上説明した本発明のガラス繊維熱可塑性樹脂は、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の低粘度化が抑制されているために、耐熱性、機械的強度、耐衝撃性等が優れており、携帯電話やノートブック型パーソナルコンピュータ等の部品を構成する材料として、特に好適に用いることができる。
【0046】
【実施例】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[ガラス繊維用集束剤の作製]
(実施例1)
酢酸が0.7重量%になるように純水で希釈した希酢酸水溶液5kgに、シランカップリング剤であるγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製:A1100、シランカップリング剤濃度:100重量%)0.13kgを添加した。これに、潤滑剤であるTEPA/SA(テトラエチレンペンタミンとステアリン酸とのモル比:前者/後者=1/2、有効成分26重量%)0.01kgと、酢酸ナトリウム無水塩 0.01kgを添加した。さらに、ポリウレタン樹脂エマルジョン(日本エヌエスシー社製:RC30K、ポリウレタン樹脂濃度:31重量%)0.4kgを添加し、室温で攪拌した。得られた溶液に、純水を添加し総重量を10kgにして、ガラス繊維用集束剤を得た。なお、実施例1に用いたシランカップリング剤は希酢酸水溶液中で完全に加水分解し、得られたガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準とした酢酸ナトリウムの含有比率は、4.6重量%であった。
【0048】
(実施例2〜4)
酢酸ナトリウムの重量を、0.005kg、0.03kg及び0.09kgとした他は、実施例1と同様にして、それぞれ実施例2、3及び4のガラス繊維用集束剤を得た。なお、実施例2、3及び4のガラス繊維用集束剤における酢酸ナトリウムの含有比率は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、それぞれ、2.45重量%、12.7重量%及び30.3重量%であった。
【0049】
(比較例1)
酢酸ナトリウムを用いなかった他は実施例1と同様にして、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0050】
[ガラス繊維束及びガラス繊維チョップドストランドの作製]
(実施例5〜8及び比較例2)
実施例1〜4及び比較例1で得られたガラス繊維用集束剤のそれぞれを、ガラスフィラメント径11μmのガラス繊維1600本からなる束(日東紡績社製:420TEX相当)100重量部に対して、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分が0.95重量部付着するように塗布した。次いで、得られたガラス繊維束を長さ3mmに切断し、160℃で乾燥し、ガラス繊維チョップドストランドを作製した。なお、実施例1〜4及び比較例1で得られたガラス繊維用集束剤を用いて得られたガラス繊維チョップドストランドが、それぞれ実施例5〜8及び比較例2に該当する。
【0051】
[ガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマーの作製]
(実施例9〜12及び比較例3)
実施例5〜8及び比較例2のガラス繊維チョップドストランドをそれぞれ30重量%になるように液晶ポリマー(住友化学工業社製スミカスーパーLCP E6000)を混合し、これを溶融混練して細長く吐出させて、ペレタイザーでペレット状にして、ガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマーのペレットを得た。なお、実施例5〜8及び比較例2で得られたガラス繊維用集束剤を用いたガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマーが、それぞれ実施例9〜12及び比較例3に該当する。
【0052】
[ガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマーの性能試験]
(メルトフローレート)
実施例9〜12及び比較例3で得られたガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマーのそれぞれについて、JIS K7210に準拠してメルトフローレート(MFR)を測定した。そして、比較例3で得られたガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマーのMFRを100としたときの数値を算出した。なお、メルトフローレート測定時の試験荷重は21.18N(2.16kgf)、試験温度は345℃であった。
【0053】
(重量減少率)
実施例9〜12及び比較例3で得られたガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマー(ペレット)を、120℃で4時間乾燥して水分を除去した後、370℃で45分間加熱した際の重量減少率を測定し、比較例3で得られたガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマーを100としたときの数値を算出した。
【0054】
メルトフローレート及び重量減少率の評価結果を表3に示す。なお、結果は用いたガラス繊維用集束剤の種類に基づいて示し(実施例1〜4及び比較例1と表記)、ガラス繊維用集束剤の含有成分のうち不揮発成分の重量%も併記した。
【0055】
【表3】
【0056】
表3から明らかなように、酢酸ナトリウムを含有する実施例1〜4のガラス繊維用集束剤を用いた場合は、酢酸ナトリウムを含有しない比較例1のガラス繊維用集束剤を用いた場合に比べて、メルトフローレートの値が2割〜7割小さく、混練中にポリエステル系液晶ポリマーの低粘度化(加水分解)が抑制されていることがわかった。また、実施例1〜4の重量減少率もガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマーが適用される分野における許容範囲内であった。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂とガラス繊維との混練時の低粘度化を簡便且つ効率的に抑制して、押出機等による吐出時の安定性を高めることができ、加えて、成形物におけるバリの発生を充分に低減することが可能な、ガラス繊維用集束剤を提供することができる。また、かかるガラス繊維用集束剤を用いたガラス繊維束、及び、かかるガラス繊維束を含むガラス繊維強化熱可塑性樹脂を提供することが可能になる。
Claims (4)
- 酢酸ナトリウム、酢酸カリウム及び酢酸スズからなる群より選ばれる少なくとも1つの酢酸金属塩と、ポリウレタン樹脂と、潤滑剤と、シランカップリング剤と、水とを含み、前記酢酸金属塩、ポリウレタン樹脂、潤滑剤及びシランカップリング剤が、前記水に溶解及び/又は分散されているガラス繊維用集束剤の不揮発成分により、
繊維長が1〜25mmであるガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなることを特徴とする、
ガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマー成形物を得るために用いられるガラス繊維チョップドストランド。 - 前記酢酸金属塩の含有比率が、前記ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、1.5〜35重量%であることを特徴とする請求項1記載のガラス繊維チョップドストランド。
- 請求項1又は2記載のガラス繊維チョップドストランドとポリエステル系液晶ポリマーとを混練しペレット化した後、射出成形することによりガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマー成形物を得ることを特徴とするガラス繊維強化ポリエステル系液晶ポリマー成形物の製造方法。
- 前記ガラス繊維チョップドストランドにおける酢酸金属塩の重量が、前記ポリエステル系液晶ポリマー100重量部に対して0.005〜0.2重量部であることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
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