JP4576692B2 - ガラス繊維用集束剤、その集束剤で被覆されたガラス繊維束、およびそのガラス繊維束を含むフェノール樹脂 - Google Patents

ガラス繊維用集束剤、その集束剤で被覆されたガラス繊維束、およびそのガラス繊維束を含むフェノール樹脂 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス繊維用集束剤、そのガラス繊維用集束剤で被覆されたガラス繊維束、およびそのガラス繊維束を含むガラス繊維強化フェノール樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年のガラス繊維強化樹脂の用途拡大に伴って、ガラス繊維強化樹脂に求められる性能がますます高くなってきている。例えば、モーターの整流子部分にガラス繊維強化樹脂が用いられているが、近年の高回転化に対応して高い回転破壊強度を有するガラス繊維強化樹脂が求められており、このような用途に対して、例えば、特開平10−7883号公報に開示されたようなフェノール樹脂系ガラス繊維強化樹脂の使用が検討されている。
【0003】
このようなガラス繊維強化樹脂は、一般にガラス繊維束とマトリックス樹脂とを混合することにより得られるものである。マトリックス樹脂との混合に先立って、ガラス繊維束は、通常、集束剤で被覆される。集束剤としては、皮膜形成剤とシランカップリング剤と水とを必須成分として含むものが一般的である。
【0004】
集束剤は得られるガラス繊維強化樹脂の性能に影響を与えるため、使用されるマトリックス樹脂の種類に合わせて種々の集束剤の開発がなされている。例えば、特開平7−267690号公報には、ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリエチレングリコールと多価アルコールとの縮合物である水分散型エーテル変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を含有する集束剤が開示されており、当該集束剤にはシランカップリング剤を添加してもよいと記載されている。また、特開平7−315888号公報には、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化剤、エポキシシランを含むシランカップリング剤、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物またはポリエチレングリコール脂肪酸エステルのノニオン系界面活性剤を含有する集束剤が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平7−267690号公報や特開平7−315888号公報に開示されたガラス繊維用集束剤で被覆されたガラス繊維束を、マトリックス樹脂に添加して得られるガラス繊維強化樹脂は、マトリックス樹脂として高強度および高耐熱性のフェノール樹脂を用いた場合であっても、室温における強度および耐衝撃性が充分ではなく、高温に晒された後においてもこれらの特性が劣るという問題があった。また、特開平10−7883号公報に開示されたフェノール樹脂系ガラス繊維強化樹脂も、室温および高温暴露後における強度および耐衝撃性が必ずしも充分ではなかった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、室温での強度および耐衝撃性が高く、さらに高温に晒された後においても十分な強度および耐衝撃性を発揮するガラス繊維強化樹脂を得ることが可能なガラス繊維用集束剤を提供することを目的とする。また、本発明は、上記特性を有したガラス繊維強化樹脂を得ることが可能なガラス繊維束を提供することを目的とする。
【0007】
さらに、本発明は、室温での強度および耐衝撃性が高く、高温に晒された後においても十分な強度および耐衝撃性を発揮するガラス繊維強化フェノール樹脂を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造のアルコキシシランと、特定構造のエポキシ化合物と、皮膜形成剤と、潤滑剤と、水とを含むガラス繊維用集束剤でガラス繊維束を被覆し、このガラス繊維束をガラス繊維強化樹脂の作製に用いることにより、室温での強度および耐衝撃性が高く、さらに高温に晒された後においても十分な強度および耐衝撃性を発揮するガラス繊維強化樹脂を得ることが可能になることを見出した。そして、特にマトリックス樹脂として、フェノール樹脂を使用することにより、上記特性に特に優れたガラス繊維強化樹脂の作製が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明のガラス繊維用集束剤は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシランと、
【化3】
[式中、xは〜5の整数、yは0または1、zは0〜2の整数、nは1〜3の整数、Rは炭素数2〜10のアルケニル基、水酸基およびアミノ基からなる群より選ばれる1価の基、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10のアルキレン基をそれぞれ示す。ただし、xが2以上である場合は、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物と、
【化4】
[式中、aは1〜100の整数、bは2〜4の整数、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、Rは価数がbである有機基をそれぞれ示す。ただし、aが2以上である場合は、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
皮膜形成剤と、潤滑剤と、水とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のガラス繊維束は、上記本発明のガラス繊維用集束剤の乾燥物で被覆されていることを特徴とする。さらに、本発明のガラス繊維強化フェノール樹脂は、上記本発明のガラス繊維束とフェノール樹脂とを含むことを特徴とする。
【0011】
上記本発明のガラス繊維用集束剤に含まれるアルコキシシランにおいて、一般式(1)のx、yおよびzはいずれも1であり、nは1または2であり、R1はビニル基であり、R2、R3およびR4は同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキレン基であることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明のガラス繊維用集束剤に含まれるエポキシ化合物において、一般式(2)のR7は、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールおよびペンタエリトリットからなる群より選ばれる多価アルコールからb個の水酸基が脱離したb価の有機基であることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のガラス繊維用集束剤について詳細に説明する。
本発明のガラス繊維用集束剤は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシランと、
【化5】
[式中、xは0〜5の整数、yは0または1、zは0〜2の整数、nは1〜3の整数、R1は炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜10のアルキル基、水酸基およびアミノ基からなる群より選ばれる1価の基、R2、R3およびR4は同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10のアルキレン基をそれぞれ示す。ただし、xが2以上である場合は、R1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物と、
【化6】
[式中、aは1〜100の整数、bは2〜4の整数、R5は炭素数1〜4のアルキレン基、R6は炭素数2〜4のアルキレン基、R7は価数がbである有機基をそれぞれ示す。ただし、aが2以上である場合は、R6はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
被膜成形剤と、潤滑剤と、水とを含むものである。
【0014】
先ず、本発明におけるアルコキシシランについて説明する。
上記一般式(1)で表されるアルコキシシランは、一端にトリアルコキシシリル基を有し他端にベンゼン環を有するシランカップリング剤であり、トリアルコキシシリル基とベンゼン環の間にはアルキレン基を介してアミノ基が存在している。
【0015】
上記一般式(1)で表されるアルコキシシランは、トリアルコキシシリル基を有するために、ガラス繊維用集束剤に含有させてガラス繊維を被覆した場合、アルコキシシリル基が加水分解して生じたシラノール基が、ガラス繊維表面の水酸基と反応(縮合反応)しガラス繊維表面と結合を形成する。トリアルコキシシリル基におけるアルコキシ基の炭素数(n)は、1〜3の整数であり、1または2であることがより好ましい。nが4以上である場合は、アルコキシシリル基の加水分解速度が減少し、ガラス繊維との化学結合の形成が不十分となる。
【0016】
上記一般式(1)で表されるアルコキシシランは、ベンゼン環を有しているために高い熱分解温度を有している。すなわち、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等の従来より多用されるアミノシランの熱分解温度は200℃付近であるのに対して、上記一般式(1)で表されるアルコキシシランの熱分解温度は280℃〜300℃である。なお、アルコキシシラン中のベンゼン環は、置換基(R1)を有していても(x=1〜5)、有してなくてもよい(x=0)。ベンゼン環が置換基を有する場合の当該置換基は、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜10のアルキル基、水酸基およびアミノ基からなる群より選ばれる1価の基である。置換基としては、炭素数2〜5のアルケニル基が好ましく、ビニル基がより好ましい。また、置換基の数(x)は1であることが好ましく、置換基の数(x)が2以上である場合は、置換基(R1)はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0017】
ベンゼン環が炭素数1〜10のアルキル基を有している場合は、本発明のガラス繊維用集束剤で被覆されたガラス繊維束の、マトリックス樹脂中における分散性が向上する。また、ベンゼン環が炭素数2〜10のアルケニル基、水酸基、アミノ基を有している場合は、本発明において用いられる一般式(2)で表されるエポキシ化合物や、マトリックス樹脂中の官能基と化学結合を形成しうる。用いるマトリックス樹脂が架橋剤で硬化可能な樹脂である場合は、上記アルケニル基、水酸基、アミノ基は、架橋剤中の官能基や、マトリックス樹脂と架橋剤との反応物中の官能基等とも化学結合を形成することが可能である。ここで、マトリックス樹脂中の官能基、架橋剤中の官能基、マトリックス樹脂と架橋剤との反応物中の官能基としては、ビニル基、カルボキシル基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0018】
上記一般式(1)で表されるアルコキシシランにおいては、ベンゼン環とアミノ基は、直接結合していてもよく(y=0)、炭素数1〜10のアルキレン基(R2)を介して結合していてもよい(y=1)。ベンゼン環が直接またはR2を介して結合したアミノ基は、トリアルコキシシリル基が結合した炭素数1〜10の有機基(R4)に直接結合していてもよく(z=0)、炭素数1〜10のアルキレン基(R3)とアミノ基とからなる2価の基(−R3−NH−)を介して結合していてもよい。本発明において用いられるアルコキシシランが当該2価の基を有する場合は、その数(z)は、1または2である。ここで、R2、R3、R4は炭素数1〜10のアルキレン基であるが、これらの少なくとも一つが炭素数11以上のアルキレン基である場合は、アルコキシシランの水に対する溶解性が不十分となる。また、R2、R3、R4のうち少なくとも一つは炭素数1〜3のアルキレン基であることが好ましく、R2、R3、R4の全てが炭素数1〜3のアルキレン基であることがより好ましい。
【0019】
本発明において、一般式(1)のx、yおよびzはいずれも1であり、nは1または2であり、R1はビニル基であり、R2、R3およびR4は同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキレン基であるアルコキシシランを用いることが好ましい。この場合において、アルコキシシランは、下記一般式(3)で表される化学構造を有するものとなる。
【化7】
[式中、nは1または2、R2、R3およびR4は同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキレン基をそれぞれ示す。]
【0020】
上記一般式(3)においては、R2はメチレン基であり、R3はエチレン基であり、R4はプロピレン基であることがさらに好ましい。
【0021】
以上説明した、一般式(1)で表されるアルコキシシランとしては、例えば、以下に示す化学構造を有するアルコキシシランが挙げられる。C65−NH−C36−Si(OCH33、CH2=CH−C64−NH−C36−Si(OCH33、C65−NH−C24−NH−C36−Si(OCH33、CH2=CH−C64−NH−C24−NH−C36−Si(OCH33、C65−CH2−NH−C36−Si(OCH33、CH2=CH−C64−CH2−NH−C36−Si(OCH33、C65−CH2−NH−C24−NH−C36−Si(OCH33、CH2=CH−C64−CH2−NH−C24−NH−C36−Si(OCH33。なお、本発明におけるアルコキシシランは、塩酸塩等の塩であってもよい。また、本発明におけるアルコキシシランは1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
次に、本発明におけるエポキシ化合物について説明する。
上記一般式(2)で表されるエポキシ化合物は、分子中にポリオキシアルキレン基を有したものである。すなわち、本発明において用いられるエポキシ化合物は、末端にエポキシ基を有するポリオキシアルキレン基2〜4個(b=2〜4)が有機基(R7)に結合した構造を有している。したがって、有機基(R7)の価数は当該ポリオキシアルキレン基の個数と等しくなる。
【0023】
一般式(2)で表されるエポキシ化合物中に含まれるエポキシ基は、一般式(1)で表されるシランカップリング剤中のアミノ基や、マトリックス樹脂中の官能基と化学結合を形成することが可能である。用いるマトリックス樹脂が架橋剤で硬化可能な樹脂である場合は、エポキシ基は、架橋剤中の官能基、マトリックス樹脂と架橋剤との反応物中の官能基等とも化学結合を形成することが可能である。ここで、エポキシ基が化学結合を形成可能な、マトリックス樹脂中の官能基、架橋剤中の官能基、マトリックス樹脂と架橋剤との反応物中の官能基としては、アミノ基、メルカプト基、水酸基、カルボキシル基等が挙げられる。例えば、用いるマトリックス樹脂が、ノボラック型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂であり、当該マトリックス樹脂の硬化剤がヘキサメチレンテトラミンである場合は、一般式(2)で表されるエポキシ化合物は、一般式(1)で表されるアルコキシシラン中のアミノ基、および、ノボラック型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂とヘキサメチレンテトラミンが反応して生じたアミノ基と反応が可能である。
また、ヘキサメチレンテトラミンは3級アミンであるために、エポキシ化合物とアミノ基との反応において触媒として機能することも期待される。
【0024】
したがって、このようなエポキシ化合物を含有した本発明のガラス繊維用集束剤を用いることにより、このエポキシ化合物を介して、ガラス繊維に結合した一般式(1)で表されるアルコキシシランとマトリックス樹脂との間に化学結合(架橋構造)を形成させることが可能になる。したがって、得られるガラス繊維強化樹脂の常温および高温暴露後の強度が向上する。この場合において、エポキシ化合物中に含まれるポリオキシアルキレン基は柔軟性に優れているために、上記架橋構造における架橋点間を柔軟に保つことができる。また、エポキシ化合物と反応するアルコキシシランはガラス繊維に結合したものであるため、このような柔軟な架橋構造がガラス繊維とマトリックス樹脂の界面付近に局在し、ガラス繊維強化樹脂に外力が加わった場合の破壊点になりやすいガラス繊維とマトリックス樹脂の界面の靭性が向上する。このために、常温および高温暴露後での耐衝撃性も向上する。
【0025】
一般式(2)で表されるエポキシ化合物における、エポキシ基を有したポリオキシアルキレン基の数(b)は2〜4である。bが1の場合は、アルコキシシランとマトリックス樹脂とがエポキシ化合物を介して結合することが期待できず、常温および高温暴露後における強度が不十分になる。一方、bが5以上である場合は、架橋密度が高くなることによる脆性向上の効果が、ポリオキシアルキレン基が存在することによる耐衝撃性付与の効果より勝ってしまうため、耐衝撃性が十分ではなくなる。
【0026】
一般式(2)で表されるエポキシ化合物におけるオキシアルキレン基(R6−O)の繰り返し数(a)は1〜100の整数であり、好ましくは5〜40、より好ましくは8〜30の整数である。繰り返し数(a)が100を越える場合は、粘度が高すぎて取り扱いが困難である。上記オキシアルキレン基中のアルキレン基(R6)の炭素数は2〜4であるが、炭素数は2または3であることがより好ましい。アルキレン基(R6)の炭素数が5以上の場合は合成が困難である。なお、aが2以上である場合は、アルキレン基(R6)はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。すなわち、(R6−O)aで表されるポリオキシアルキレン部分は、例えば、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体やランダム共重合体であってもよい。
【0027】
一般式(2)で表されるエポキシ化合物において、エポキシ基とポリオキシアルキレン基(R6−O)aとは炭素数1〜4のアルキレン基(R5)と酸素原子とによって結合している。このアルキレン基(R5)の炭素数は、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。アルキレン基(R5)の炭素数が5以上である場合は、エポキシ化合物の柔軟性が不十分になる。
【0028】
上述のエポキシ化合物は、1種または2種以上を用いることができる。また、エポキシ化合物は、分子量の異なるもの、すなわち一般式(2)におけるa値が異なるものの混合物であってもよい。本発明におけるエポキシ樹脂は、例えば、価数が2〜4(b=2〜4)である多価アルコールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの少なくとも一つを反応させて得られるポリオキシアルキレンの末端に、さらに炭素数1〜4のアルキレン基(R5)を介してエポキシ基を結合させることにより得ることができる。例えば、R5の炭素数が1である場合は、上記ポリオキシアルキレンにエピクロルヒドリンを反応させることによって得ることができる。
【0029】
本発明においては、上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールおよびはペンタエリトリット(ペンタエリスリトール)からなる群より選ばれる多価アルコールを用いることが好ましく、この場合は、一般式(2)におけるR7は、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールおよびはペンタエリトリットからなる群より選ばれる多価アルコールから、当該多価アルコールに結合するポリオキシアルキレン基の数(b)と等しい数の水酸基が脱離した構造を有するb価の有機基となる。例えば、多価アルコールがエチレングリコール、プロピレングリコールである場合は、当該多価アルコールに結合するポリオキシアルキレン基の数(b)は2であるから、多価アルコールから2個の水酸基が脱離した構造を有する有機基は、それぞれ、−C24−、−C36−で表される2価の有機基となる。
【0030】
一般式(2)で表されるエポキシ化合物としては、例えば、下記一般式(4)〜(9)で表される化合物が挙げられる。なお、一般式(4)〜(9)におけるaは、一般式(2)におけるaと同義である。
【0031】
【化8】
【0032】
【化9】
【0033】
【化10】
【0034】
【化11】
【0035】
【化12】
【0036】
【化13】
【0037】
本発明のガラス繊維用集束剤は、上述のアルコキシシランとエポキシ化合物の他に、皮膜形成剤と潤滑剤と水を必須の成分とする。
【0038】
本発明のガラス繊維用集束剤に用いられる皮膜形成剤は、特に限定されず、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン樹脂等のように、室温またはガラス繊維用集束剤の乾燥温度においてガラス繊維上に皮膜形成が可能な樹脂の1種または2種以上が好適に用いられる。皮膜形成剤が含まれたガラス繊維用集束剤を用いることにより、ガラス繊維の製造工程において機械上での屈曲や摩擦からガラス繊維が保護される。
【0039】
本発明のガラス繊維用集束剤に用いられる潤滑剤は特に限定されず、例えば、ポリエチレンイミン、変性シリコーンオイル、動植物油に水素添加した硬化油、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールの縮合物等の合成油の1種または2種以上が好適に用いられる。潤滑剤が含まれたガラス繊維用集束剤を用いることにより、ガラス繊維の製造工程における機械摩擦からガラス繊維が保護される。
【0040】
本発明のガラス繊維用集束剤に含まれる水は特に制限されない。ガラス繊維用集束剤中の水の重量は、ガラス繊維用集束剤の全重量を基準として、90〜99重量%が好ましく、94〜98重量%がより好ましい。
【0041】
また、本発明のガラス繊維用集束剤に含まれる皮膜形成剤、アルコキシシラン、エポキシ化合物および潤滑剤の重量比は以下のような比率であることが好ましい。すなわち、アルコキシシランは皮膜形成剤100重量部に対し2〜40重量部であることが好ましく、5〜20重量部がより好ましい。エポキシ化合物は皮膜形成剤100重量部に対し2〜40重量部であることが好ましく、5〜30重量部がより好ましい。潤滑剤は皮膜形成剤100重量部に対し0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部であることがより好ましい。
【0042】
さらに、本発明のガラス繊維用集束剤は、上記の成分の他にも界面活性剤、帯電防止剤等の添加成分を含んでいてもよい。また、水に加えて、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールやその他有機溶剤を含有していてもよい。
【0043】
また、ガラス繊維用集束剤に界面活性剤を添加することにより、上記潤滑剤が分散・乳化されやすくなる。ガラス繊維集束剤に用いられる界面活性剤は特に制限されず、例えば、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を用いることができる。また、界面活性剤を用いる場合においてその含有量は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分100重量部に対して0.5〜2重量部とすることが好ましい。
【0044】
ガラス繊維用集束剤に帯電防止剤を添加することにより、ガラス繊維に生じる静電気の発生を低減させることができる。ガラス繊維集束剤に用いられる帯電防止剤は特に制限されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルスルホネート、第4級アンモニウムクロライド等を用いることができる。また、帯電防止剤を用いる場合においてその含有量は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分100重量部に対して1〜3重量部とすることが好ましい。
【0045】
本発明のガラス繊維用集束剤は、上述した皮膜形成剤の水性エマルジョンまたはディスパージョンを調製し、それに上述したアルコキシシラン、エポキシ化合物、および潤滑剤を添加し、必要に応じて上記添加成分や有機溶剤等を加えれば得ることができる。なお、アルコキシシランはアルコール溶液として提供される場合があり、その場合はアルコール成分を除去することなく添加することが可能である。
【0046】
次に、本発明のガラス繊維束について説明する。
本発明のガラス繊維束は、上記本発明のガラス繊維用集束剤の乾燥物で被覆されていることを特徴とする。
【0047】
上述したガラス繊維用集束剤で被覆されるガラス繊維束の材質は、特に制限されず、Eガラス、Sガラス、Cガラス、Tガラスなどからなるガラス繊維束がいずれも使用可能である。ガラス繊維束を被覆するガラス繊維用集束剤の乾燥重量は、ガラス繊維束100重量部に対して0.3〜1.5重量部であることが好ましく、0.4〜0.7重量部であることがより好ましい。
【0048】
ガラス繊維用集束剤の乾燥物で被覆された本発明のガラス繊維束を得る方法は特に制限されない。例えば、白金ノズル(ブッシング)から引き出されたガラスフィラメントにローラー型アプリケーターやベルト型アプリケーター等を用いてガラス繊維用集束剤を塗布し、これを集束機で集束することによって、本発明のガラス繊維用集束剤が塗布されたガラス繊維束を得ることができる。このガラス繊維束を室温〜150℃で乾燥し、水等の揮発分を除去することによって、ガラス繊維集束剤の乾燥物で被覆されたガラス繊維束が得られる。
【0049】
このようにして得られたガラス繊維束は、例えば、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、PBT樹脂およびPET樹脂等のマトリックス樹脂に添加することにより、ガラス繊維強化樹脂の作製に使用することができる。マトリックス樹脂としては、強度、耐熱性および価格の観点から、フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0050】
次いで、本発明のガラス繊維強化フェノール樹脂について説明する。
本発明のガラス繊維強化フェノール樹脂は、上記本発明のガラス繊維束とフェノール樹脂を含むことを特徴とする。
【0051】
本発明において用いられるフェノール樹脂は、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類との縮合によって得られるものであればよく、特に制限されない。本発明においては、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂を用いることが好ましく、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂としてはノボラック型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂を用いることが好ましい。
【0052】
このようなフェノール樹脂は、架橋剤を添加することにより硬化させることもできる。フェノール樹脂用硬化剤は特に制限されず、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂用の硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等の公知の架橋剤を使用することができる。フェノール樹脂に対して添加する架橋剤の量は、用いるフェノール樹脂や架橋剤の種類に基いて適宜決定される。例えば、ノボラック型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂をヘキサメチレンテトラミンで架橋する場合においては、前者100重量部に対して後者10〜20重量部添加すればよい。また、離型剤として、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩を樹脂100重量部に対して1〜2重量部添加してもよい。
【0053】
本発明のガラス繊維強化フェノール樹脂においては、フェノール樹脂100重量部に対して、ガラス繊維用集束剤の乾燥物で被覆されたガラス繊維束150〜200重量部を添加することが好ましい。なお、ガラス繊維束は、1.5〜9mm程度に切断されたガラス繊維チョップドストランドに加工した後に、フェノール樹脂に添加してもよい。
【0054】
本発明におけるガラス繊維強化フェノール樹脂の製造方法は特に制限されない。例えば、上述の未硬化のフェノール樹脂に上述のガラス繊維のチョップドストランドを添加し、さらにヘキサメチレンテトラミンのような架橋剤を添加して、これを加熱し硬化させることにより得ることができる。
【0055】
このようにして得られたガラス繊維強化フェノール樹脂は、室温および高温暴露後において強度および耐衝撃性に優れることから、例えば、使用条件の厳しいハイブリッド自動車用モーターにおける、整流子のモールド部等に特に好適に用いることができる。
【0056】
【実施例】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
酢酸を添加しpHを5に調製した純水9.37kgに、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(東レダウコーニング社製:SZ6032、固形分40重量%)0.07kgを添加した。これに、ポリウレタンエマルジョン(大日本インキ化学工業社製:1660NS、固形分40重量%)0.5kgを添加し、室温で攪拌した。得られた溶液に、上記一般式(4)の構造を有したポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセ化成社製:EX861、固形分100重量%、エポキシ当量:558)0.05kgとポリエチレンイミン(日本触媒社製:SP−012、固形分100%)0.01kgを順次追加し、最後に純水を添加し総重量を10kgにして、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0058】
上記のようにして得られたガラス繊維用集束剤を、ガラスフィラメント径11μmのガラス繊維1600本からなるガラス繊維束(日東紡績株式会社製:240TEX)に塗布した。このとき、上記ガラス繊維束100重量部に対して、上記ガラス繊維用集束剤が乾燥物として0.95重量部付着するようにした。ガラス繊維用集束剤が塗布されたガラス繊維束を110℃で乾燥してガラス繊維束を得た。
【0059】
上記のようにして得られたガラス繊維束を長さ3mmに切断し、ガラス繊維チョップドストランドを作製した。このチョップドストランド60kgをフェノール樹脂(大日本インキ化学工業社製、フェノライトTD−2106)35kgに添加し、さらにヘキサメチレンテトラミン4kgを添加しこれらを混合した後、180℃において硬化し、ガラス繊維強化フェノール樹脂を得た。
【0060】
(比較例1)
N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩に代えて、同量のγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製:A1100、固形分100重量%)を用い、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを添加しなかった他は、実施例1と同様にしてガラス繊維強化フェノール樹脂を得た。
【0061】
(比較例2)
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを添加しなかった他は、実施例1と同様にしてガラス繊維強化フェノール樹脂を得た。
【0062】
(比較例3)
N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩に代えて、同量のγ−アミノプロピルトリエトキシシラン用い、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの使用量を0.5kgから0.2kgにした他は、実施例1と同様にしてガラス繊維強化フェノール樹脂を得た。
【0063】
(比較例4)
750gのビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェル社製:エピコート1001、エポキシ当量:450)に、分子量が1000のポリエチレングリコール200gと、トリメチロールプロパン50gを反応させ、エーテル変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂を得た。ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルに代えて、このエーテル変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂0.05gを用いた他は、実施例1と同様にしてガラス繊維強化フェノール樹脂を得た。
【0064】
実施例1および比較例1〜4で得られたガラス繊維強化フェノール樹脂について、室温(30℃)における曲げ強度およびシャルピー衝撃値、300℃加熱後の曲げ強度およびシャルピー衝撃値(ガラス繊維強化フェノール樹脂を300℃の恒温槽中で1時間加熱して、これから取り出した直後の曲げ強度およびシャルピー衝撃値)、470℃で10秒間半田浸漬後の40℃における曲げ強度およびシャルピー衝撃値を測定した。曲げ強度およびシャルピー衝撃値の試験方法は以下に示す通りであった。また、得られた結果をまとめて以下の表1に示す。
【0065】
(曲げ強度試験)
JIS K7055に準拠して、乾燥条件でガラス繊維強化フェノール樹脂の曲げ強度(MPa)を測定した。なお、試験片の形状は、厚さ6mm、幅12.7mm、長さ127mmであり、3点曲げ試験法により、曲げ速度5mm/分で試験を行った。
【0066】
(シャルピー衝撃値試験)
JIS K7061に準拠して、ガラス繊維強化フェノール樹脂のシャルピー衝撃値(kJ/m2)を測定した。試験片の形状は、厚さ10mm、幅4mm、長さ80mmであり、衝撃方向はフラットワイズであった。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示した結果から明らかなように、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランと、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルと、皮膜形成剤と、潤滑剤と、水とを含む本発明のガラス繊維用集束剤を用いて得られた実施例1のガラス繊維強化フェノール樹脂は、室温での強度および耐衝撃性が高く、さらに高温下での強度および耐衝撃性も十分に優れるものであった。
【0069】
一方、比較例1〜4のガラス繊維強化フェノール樹脂は、室温において実施例1のガラス繊維強化フェノール樹脂に比べてかなり低い曲げ強度およびシャルピー衝撃値を示した。また、比較例1〜3のガラス繊維強化フェノール樹脂は、300℃加熱後、半田浸漬後のいずれにおいても曲げ強度およびシャルピー衝撃値が実施例1に比べて劣っていた。比較例4のガラス繊維強化フェノール樹脂は、300℃加熱後および半田浸漬後において、比較例1〜3より優れた曲げ強度を示したものの実施例1の数値には及ばないものであった。また、比較例4の300℃加熱後および半田浸漬後のシャルピー衝撃強度は、比較例1〜3と同様に低いものであった。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のガラス繊維用集束剤は、室温での強度および耐衝撃性が高く、さらに高温に晒された後においても十分な強度および耐衝撃性を発揮するガラス繊維強化樹脂を得ることを可能にする。また、このガラス繊維用集束剤の乾燥物で被覆された本発明のガラス繊維束は、マトリックス樹脂と混合することにより、室温での強度および耐衝撃性が高く、さらに高温に晒された後においても十分な強度および耐衝撃性を発揮するガラス繊維強化樹脂を得ることを可能にする。さらに、本発明のガラス繊維強化フェノール樹脂は、室温での強度および耐衝撃性が高く、高温に晒された後においても十分な強度および耐衝撃性を発揮する。

Claims (5)

  1. 下記一般式(1)で表されるアルコキシシランと、
    [式中、xは〜5の整数、yは0または1、zは0〜2の整数、nは1〜3の整数、Rは炭素数2〜10のアルケニル基、水酸基およびアミノ基からなる群より選ばれる1価の基、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10のアルキレン基をそれぞれ示す。ただし、xが2以上である場合は、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
    下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物と、
    [式中、aは1〜100の整数、bは2〜4の整数、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、Rは価数がbである有機基をそれぞれ示す。ただし、aが2以上である場合は、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
    皮膜形成剤と、潤滑剤と、水とを含むことを特徴とするガラス繊維用集束剤。
  2. 前記一般式(1)において、x、yおよびzはいずれも1であり、nは1または2であり、Rはビニル基であり、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキレン基であることを特徴とする請求項1記載のガラス繊維用集束剤。
  3. 前記一般式(2)において、Rは、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールおよびペンタエリトリットからなる群より選ばれる多価アルコールからb個の水酸基が脱離したb価の有機基であることを特徴とする請求項1または2記載のガラス繊維用集束剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス繊維用集束剤の乾燥物で被覆されていることを特徴とするガラス繊維束。
  5. 請求項4記載のガラス繊維束とフェノール樹脂とを含むことを特徴とするガラス繊維強化フェノール樹脂。
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