JP4013516B2 - 塩化マグネシウムを含有するガラス繊維集束剤により集束されてなるガラス繊維チョップドストランド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス繊維用集束剤、そのガラス繊維用集束剤の不揮発成分によりガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなるガラス繊維束及びそのガラス繊維束と熱可塑性樹脂とを含むガラス繊維熱可塑性樹脂成形物に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂は、それ単独では機械的強度や耐衝撃性等の特性が不充分である場合が多く、高い機械的強度や耐衝撃性が要求される用途においては、ガラス繊維を添加したもの(ガラス繊維強化熱可塑性樹脂)が用いられている。添加されるガラス繊維としては、ガラス繊維フィラメントを複数本束ねたガラス繊維束が一般的であり、かかるガラス繊維束は、通常、ガラス繊維フィラメントを集束剤で束ねて作製される。したがって、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂における、ガラス繊維と熱可塑性樹脂との界面付近には集束剤が存在し、これがガラス繊維強化熱可塑性樹脂の特性に大きな影響を与える。このために、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂に要求される特性に応じて、集束剤を設計する必要がある。
【0003】
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂の特性向上を図るための集束剤としては、例えば、特開平9−249434号公報に開示されたピロリン酸塩を含有する集束剤や、特開平9−250088号公報に開示されたトリポリリン酸塩を含有する集束剤が知られており、上記リン酸塩を含有させることにより、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂の機械的強度及び耐熱水性が向上するとされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年におけるガラス繊維強化熱可塑性樹脂の用途の多様化等により、より高度の機械的強度(引張り強度や耐衝撃性等)及び耐水性が要求されるようになってきており、上記公報に開示されたガラス繊維強化熱可塑性樹脂やその他公知のガラス繊維強化熱可塑性樹脂では、機械的強度や耐水性等の要求条件を満足し得ないようになってきた。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、高い引張り強度及び耐衝撃性を発揮するのみならず耐水性においても優れた性能を示すガラス繊維強化熱可塑性樹脂を得ることが可能な、ガラス繊維用集束剤を提供することを目的とする。また、かかるガラス繊維用集束剤を用いたガラス繊維束、並びに、かかるガラス繊維束を含むガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリウレタン樹脂を皮膜形成樹脂として含む水系のガラス繊維用集束剤に塩化マグネシウムを添加することにより、上記目的が達成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明のガラス繊維用集束剤は、不揮発成分と揮発成分とから構成されるガラス繊維用集束剤であって、不揮発成分は、ポリウレタン樹脂と潤滑剤とシランカップリング剤と塩化マグネシウムとを含み、揮発成分は、水を含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のガラス繊維束は、上記本発明のガラス繊維用集束剤によりガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなることを特徴とするものであり、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物は、上記本発明のガラス繊維束を含む熱可塑性樹脂を成形してなることを特徴とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
上述のように、本発明のガラス繊維用集束剤は、不揮発成分と揮発成分とから構成され、不揮発成分はポリウレタン樹脂と潤滑剤とシランカップリング剤と塩化マグネシウムとを含み、揮発成分は水を含むものであるが、本発明において「不揮発成分」とは、120℃の加熱により揮発しない成分をいい、「揮発成分」とは、かかる加熱により揮発する成分をいう。以下、ガラス繊維用集束剤を構成する成分のそれぞれについて詳述する。
【0010】
先ず、本発明のガラス繊維用集束剤におけるウレタン樹脂について説明する。本発明において用いることのできるポリウレタン樹脂は、ガラス繊維用集束剤の乾燥温度(室温〜150℃)においてガラス繊維上に皮膜を形成可能な、ウレタン結合を有する樹脂である。かかるポリウレタン樹脂は、最低造膜温度が130℃以下(好ましくは80℃以下、更に好ましくは60℃以下、特に好ましくは20℃以下)のポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0011】
また、本発明におけるポリウレタン樹脂は、水分散物(又は溶解物)として以下のような性質を示すものであることが好ましい。すなわち、ガラス板表面上にポリウレタン樹脂の水分散物(又は溶解物)を固形分換算で2g塗布し120℃にて3時間乾燥させ、直径略20cmの乾燥皮膜を形成せしめ、放冷後、1cm角の升状にカッターナイフで切れ目を入れたときに、ガラス板から乾燥皮膜が剥離しないようなポリウレタン樹脂であることが好ましい。更には、1cm角の升状に切れ目を入れた乾燥皮膜に、粘着テープ(ニチバン社製、セロテープCT−15)を貼付け、引き剥がしたときに乾燥皮膜がガラス板から剥離しないようなポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0012】
かかるポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、オレフィン系ポリオール等のポリオールと、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等のポリイソシアネートとを任意の当量比で反応させて得ることができる。ポリウレタン樹脂末端はイソシアネート基であっても水酸基であってもよく、これらの基は公知の手法によりブロック化されていてもよい。また、ポリウレタン樹脂の主鎖は公知の手法による変性がなされていてもよい。
【0013】
本発明におけるポリウレタン樹脂は、その化学構造中に例えばポリオキシエチレンユニットを有し、ガラス繊維用集束剤に含まれる水に溶解性及び/又は膨潤性を示すもの(以下「水溶性ポリウレタン樹脂」という。)であっても、水に対して溶解性や膨潤性を示さず水中で分散又は乳化されるもの(以下「水分散性ポリウレタン樹脂」という。)であってもよい。本発明においては、同一固形分であっても低粘度化が可能であることから、水分散性ポリウレタン樹脂が好ましい。また、水分散性ポリウレタン樹脂は、エマルジョン又はディスパージョンの形態で提供されるものであることが好ましい。
【0014】
次に、本発明のガラス繊維用集束剤における潤滑剤について説明する。本発明のガラス繊維用集束剤は潤滑剤を必須成分として含む。本発明における潤滑剤は、ガラス繊維束等のガラス繊維製品の製造工程における機械摩擦等からガラス繊維を保護することのできるものであればよく、例えば、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールの縮合物等の合成油;ポリエチレンイミン;ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル等が例示できる。本発明において用いることのできる潤滑剤として特に好ましいものは、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸の縮合物に酢酸を加えpHを4.5〜5.5に調整した調整物(以下、該調整物における固形分を「TEPA/SA」と記す。)である。TEPA/SAにおけるテトラエチレンペンタミンとステアリン酸の反応比率はモル比として、前者/後者=1/1〜1/2が好ましい。かかる潤滑剤を用いることにより、ガラス繊維が機械摩擦から保護されるとともに、ガラス繊維束中のガラス繊維フィラメント同士の摩擦をも減少させ、更にはガラス繊維に柔軟性を付与することが可能になる。
【0015】
次に、本発明のガラス繊維用集束剤におけるシランカップリング剤について説明する。本発明において用いられるシランカップリング剤は、加水分解性基と疎水基(有機基)とを有するシラン化合物であり、かかる化合物としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等の不飽和二重結合を有するシランカップリング剤;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。本発明においては、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0016】
シランカップリング剤は、上記のようにガラス繊維と反応性を有する加水分解性ケイ素基と、熱可塑性樹脂との親和性を有する疎水基(有機基)とを有していることから、シランカップリング剤を含む本発明のガラス繊維用集束剤を用いることにより、ガラス繊維束と熱可塑性樹脂との界面接着性を向上させることができる。
【0017】
次に、本発明のガラス繊維用集束剤における塩化マグネシウムについて説明する。本発明のガラス繊維用集束剤は塩化マグネシウムを含むことを特徴としている。本発明において塩化マグネシウムとは、塩化マグネシウムの無水塩(MgCl2)又は塩化マグネシウムの含水塩(二水塩、四水塩、六水塩、八水塩、十二水塩等)をいう。かかる塩化マグネシウムは水溶性を有するため、本発明のガラス繊維用集束剤において、塩化マグネシウムは主に水に溶解した状態で存在している。
【0018】
本発明のガラス繊維用集束剤の必須成分である塩化マグネシウムは、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂の引張り強度、耐衝撃性及び耐水性の向上に大きく寄与しているものと考えられる。塩化マグネシウムに代えて、コロイダルシリカ、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の金属塩を用いたガラス繊維用集束剤では、得られるガラス繊維強化熱可塑性樹脂が引張り強度や耐水性に劣ることから、本発明においては、塩化マグネシウムが他の必須成分と組み合わされることで特異的に上記の特性が得られるものと考察される。かかる特性向上が得られる理由は明らかではないが、塩化マグネシウムが熱可塑性樹脂の結晶構造を変化させていることが理由の1つとして想定される。
【0019】
本発明のガラス繊維用集束剤における上記必須成分の含有量は任意であるが、ポリウレタン樹脂、潤滑剤、シランカップリング剤及び塩化マグネシウムの含有比率は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、それぞれ、10〜80重量%、0.1〜10重量%、1〜30重量%及び10〜80重量%であることが好ましい。
【0020】
ポリウレタン樹脂の含有比率が上記下限値未満である場合は、ガラス繊維フィラメントを集束する強度が不充分になる傾向にあり、上記上限値を超す場合は、ガラス繊維束を含有する熱可塑性樹脂を成形するときに、ガスが発生する場合がある。また、潤滑剤の含有比率が上記下限値未満である場合は、ガラス繊維フィラメントが機械摩擦等から充分に保護されなくなる傾向にあり、上記上限値を超す場合は、ガラス繊維束を乾燥させた際に着色することがあり、また成形物の強度が低下する場合がある。
【0021】
一方、シランカップリング剤の含有比率が上記下限値未満である場合は、ガラス繊維束と熱可塑性樹脂との界面接着性が不充分になる傾向にあり、上記上限値を超す場合は、ガラス繊維束を含有する熱可塑性樹脂の成形物の強度が低下する場合がある。そして、塩化マグネシウムの含有比率が上記下限値未満である場合は、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂の引張り強度、耐衝撃性及び耐水性の向上の度合いが小さくなる傾向にあり、上記上限値を超す場合は、ガラス繊維束の集束性が低下する傾向がある。
【0022】
本発明においては、ポリウレタン樹脂、潤滑剤、シランカップリング剤及び塩化マグネシウムの含有比率は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、それぞれ、15〜60重量%、0.5〜5重量%、5〜25重量%及び20〜70重量%であることがより好ましく、それぞれ、20〜40重量%、1〜3重量%、10〜20重量%及び40〜60重量%であることが更に好ましい。
【0023】
本発明のガラス繊維用集束剤における不揮発成分は、ガラス繊維用集束剤の全重量を基準として1〜20重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。不揮発成分の含有比率が1重量%未満である場合は、1回の塗布でガラス繊維にガラス繊維用集束剤が付着する量が少なくなり、複数回塗布を行わなければならず製造コストが上昇する場合があり、20重量%を超す場合は、粘度が上昇し塗布性に問題が生じる場合がある。なお、揮発成分(不揮発成分以外の成分)中、水の含有比率は90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましい。
【0024】
本発明のガラス繊維用集束剤は、上述した必須成分に加えて、pH調整剤、帯電防止剤及び乳化剤等の添加成分を更に含んでいてもよい。また、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールやその他有機溶剤を少量含有していてもよい。
【0025】
pH調整剤としては、酢酸等の弱酸が好ましく、pH調整剤の添加によりガラス繊維用集束剤のpHを3.0〜5.0に調整することが好ましい。かかるpH調整により、シランカップリング剤の加水分解を促進させることができる。
【0026】
帯電防止剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルスルホネート、第4級アンモニウムクロライドが例示可能である。ガラス繊維用集束剤に帯電防止剤を添加することにより、ガラス繊維に生じる静電気の発生を低減させることができる。帯電防止剤の含有量はガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、1〜3重量%が好ましい。
【0027】
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、脂肪族4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンポリアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤等を用いることができる。乳化剤の含有量はガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全重量を基準として、0.5〜2重量%が好ましい。
【0028】
本発明のガラス繊維用集束剤は、上述したポリウレタン樹脂の水性エマルジョン若しくはディスパージョン又は水溶液を調製し、それに上述した潤滑剤、シランカップリング剤及び塩化マグネシウムを添加し、必要に応じて上記添加成分や有機溶剤等を加えることにより製造することが好ましい。なお、シランカップリング剤はアルコール溶液として提供される場合があり、その場合はアルコール成分を除去することなく添加することが可能である。
【0029】
次に、本発明のガラス繊維束について説明する。本発明のガラス繊維束は、上述のガラス繊維用集束剤によりガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなるものである。ここで、本発明のガラス繊維束は、複数のガラス繊維フィラメントと本発明のガラス繊維用集束剤の不揮発成分とから構成されており、該不揮発成分は複数のガラス繊維フィラメント間に存在し、ガラス繊維フィラメントを束ねる接着剤(バインダ)として機能していることが好ましい。この場合において、不揮発成分はガラス繊維フィラメントの外周を連続又は不連続膜として被覆し、ガラス繊維を保護する機能も有していることが好ましい。
【0030】
かかる不揮発成分は、ガラス繊維束の使用時にガラス繊維フィラメントを束状に保っておくだけの強度を有していればよく、ガラス繊維束中に一様に分布している必要はない。すなわち、ガラス繊維フィラメント同士の接着性の観点からは、不揮発成分はガラス繊維束の外縁部から中心部へ向けて略均一の濃度で分布していることが好ましいが、例えば、外縁部の濃度が高く中心部の濃度が低い場合であってもガラス繊維フィラメントを保持可能であり実用上問題とならないため、かかる構成のガラス繊維束も本発明において採用可能である。
【0031】
本発明のガラス繊維束に用いられるガラス繊維フィラメントのフィラメント径は3〜23μmが好ましく、ガラス繊維束はかかるガラス繊維フィラメントが25〜4000本集束されてなるものであることが好ましい。ガラス繊維フィラメントのガラス組成としては、例えば、Eガラス、Sガラス、Cガラス等が挙げられる。本発明のガラス繊維束におけるガラス繊維フィラメントの総重量とガラス繊維用集束剤の不揮発成分の重量との比は、前者100重量部に対して、後者0.2〜5.0重量部が好ましく、0.5〜2.0重量部がより好ましい。本発明のガラス繊維束の態様としては、ガラス繊維ヤーン及びガラス繊維ロービングが挙げられる
【0032】
本発明のガラス繊維束は、例えば、白金ノズル(ブッシング)から引き出されたガラス繊維フィラメントにローラー型アプリケーターやベルト型アプリケーター等を用いてガラス繊維用集束剤を塗布し、これを集束機で集束することによってガラス繊維フィラメントを束ね、次いで、これを室温〜150℃で乾燥し、水等の揮発成分を除去することにより製造することができる。なお、乾燥の前に必要に応じて加撚を施してもよい。
【0033】
このような方法により得られるガラス繊維束は長繊維であるが、本発明においては、ガラス繊維用集束剤によりガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなることを特徴とするガラス繊維束であって、前記ガラス繊維フィラメントの繊維長が数〜数十mmであるガラス繊維束(以下「短繊維長ガラス繊維束」という。)を用いることもできる。かかる繊維長のガラス繊維束を用いることにより、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂を作製が容易となるとともに、得られるガラス繊維強化熱可塑性樹脂中におけるガラス繊維束の分散性が向上する。
【0034】
短繊維長ガラス繊維束の繊維長は1〜25mmであることが好ましく、1.5〜13mmであることがより好ましい。短繊維長ガラス繊維束の繊維長が1mm未満である場合は、短繊維長ガラス繊維束の作製時に毛羽が発生して嵩高となり生産性が低下する傾向にあり、25mmを超す場合は、短繊維長ガラス繊維束同士がからまって嵩高となり生産性が低下する傾向にある。
【0035】
なお、短繊維長ガラス繊維束は、上述の方法によりガラス繊維束(長繊維)を作製した後に、かかるガラス繊維束を1〜25mmに切断することにより製造することができる(かかる製造法による短繊維長ガラス繊維束をガラス繊維チョップドストランドと呼ぶ)。
【0036】
次に、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物について説明する。本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物は、上述したガラス繊維束(長繊維及び/又は短繊維長ガラス繊維束)を含む熱可塑性樹脂を成形してなるものである。なお、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物がガラス繊維束の長繊維を含む場合は、当該長繊維は編組物であることが好ましい。
【0037】
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン46等)、共重合ナイロン、PET、PBT、ポリプロピレン、ポリエチレン等の結晶性高分子が挙げられる。本発明においては、吸水性が比較的高く水との接触により物性が変化しやすいポリアミド樹脂を熱可塑性樹脂として用いることが好ましい。ポリアミド樹脂は、本発明のガラス繊維用集束剤を用いたガラス繊維束で強化した場合に、耐水性が顕著に向上すると共に、引張り強度や耐衝撃性に優れるようになるからである。
【0038】
本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、本発明のガラス繊維束を30〜200重量部含有することが好ましく、40〜150重量部含有することがより好ましい。なお、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物は、充填剤等の添加成分を更に含有していてもよい。
【0039】
また、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物においては、ガラス繊維束における塩化マグネシウムの重量が、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.05〜1.5重量部(より好ましくは0.1〜1.0重量部、更に好ましくは0.1〜0.5重量部)であることが好ましい。塩化マグネシウムの重量が上記範囲内である場合は、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂の耐水性、引張り強度及び耐衝撃性が特に優れるようになる。すなわち、塩化マグネシウムの重量が0.05重量部未満である場合は、上記特性の向上効果が得られ難くなる傾向にあり、1.5重量部を超す場合は、添加量が多すぎて添加が無駄になる場合がある。
【0040】
本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物を成形する方法は、特に制限されないが、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物は、上記本発明のガラス繊維束(短繊維長ガラス繊維束が好ましい)と熱可塑性樹脂とのコンパウンドをペレット化し、射出成形することにより得ることが好ましい。
【0041】
以上説明した本発明のガラス繊維熱可塑性樹脂は、高い引張り強度及び耐衝撃性を発揮するのみならず耐水性にも優れているために、ラジエタータンク等の用途に特に好適に用いることができる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
[ガラス繊維用集束剤の作製]
(実施例1)
酢酸を添加しpHを5に調製した純水8kgに、シランカップリング剤であるγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製、A1100)0.1kgを添加した。これに、ポリウレタン樹脂エマルジョン(大日本インキ化学工業社製:1660NS、ポリウレタン樹脂濃度:40重量%)0.4kgを添加し、室温で攪拌した。得られた溶液に、塩化マグネシウム無水塩0.3kgと、潤滑剤であるTEPA/SA(テトラエチレンペンタミンとステアリン酸とのモル比:前者/後者=1/2)0.01kgを添加し、最後に純水を添加し総重量を10kgにして、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0044】
(比較例1)
塩化マグネシウムを用いなかった他は実施例1と同様にして、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0045】
(比較例2〜4)
塩化マグネシウムに代えて、同一重量のコロイダルシリカ、トリポリリン酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウムをそれぞれ添加した他は実施例1と同様にして、ガラス繊維用集束剤を得た。なお、コロイダルシリカは20重量%のコロイダルシリカ水溶液(旭電化社製、CT100、固形分20重量%)として添加した。
【0046】
[ガラス繊維束及びガラス繊維チョップドストランドの作製]
(実施例2及び比較例5〜8)
実施例1及び比較例1〜4で得られたガラス繊維用集束剤のそれぞれを、直径11μmのガラス繊維フィラメント1600本からなる束(日東紡績株式会社製:240TEX)に塗布し、110℃で乾燥してガラス繊維束を得た。この場合において上記ガラス繊維フィラメント100重量部に対して、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分が0.95重量部付着するようにした。次いで、得られたガラス繊維束を長さ3mmに切断し、ガラス繊維チョップドストランドを作製した。なお、実施例1及び比較例1〜4で得られたガラス繊維用集束剤を用いて得られたガラス繊維チョップドストランドが、それぞれ実施例2及び比較例5〜8に該当する。
【0047】
[ガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物の作製]
(実施例3及び比較例9〜12)
実施例2及び比較例5〜8のガラス繊維チョップドストランドを、ナイロン6(宇部興産社製、1015B)のペレットにガラス含有率33重量%となるように混合し、エクストルーダーによりペレット化した後、射出成形機によりガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物を得た。なお、100重量部のナイロン6に対する塩化マグネシウムの重量は0.25重量部であった。また、実施例1及び比較例1〜4で得られたガラス繊維用集束剤を用いたガラス繊維強化ポリアミド樹脂が、それぞれ実施例3及び比較例9〜12に該当する。
【0048】
[ガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物の性能試験]
(常態引張り強度試験)
実施例3及び比較例9〜12で得られたガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物を、ASTM I号ダンベルに成形し、これを試験片として、ASTM D638に準拠して、乾燥条件で25℃におけるガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物の常態引張り強度(MPa)を測定した。なお、引張り強度は、試験片を変形速度5mm/分で変形した場合の強度の最高値とした。
【0049】
(耐水性試験−吸水引張り強度試験)
上記「引張り強度試験」と同様に、実施例3及び比較例9〜12で得られたガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物の試験片を作製し、この試験片をプレッシャークッカーにて120℃で15時間(2気圧、飽和水蒸気)保持し、プレッシャークッカーから取り出し直後に上記「引張り強度試験」と同様に引張り強度(MPa)を測定し、耐水性試験とした。
【0050】
(アイゾット衝撃試験−ノッチあり)
実施例3及び比較例9〜12で得られたガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物を、厚さ6.4mm、幅12.7mm、長さ64mmに成形し、これに切欠きを入れたものを試験片として、ASTM D256に準拠して衝撃試験を行った。なお、ハンマ持ち上げ角は150°、ハンマ容量は20kg・cmであった。
【0051】
(アイゾット衝撃試験−ノッチなし)
実施例3及び比較例9〜12で得られたガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物を、厚さ6.4mm、幅12.7mm、長さ64mmに成形し、これに切欠きを入れずに試験片として、ASTM D256に準拠して衝撃試験を行った。なお、ハンマ持ち上げ角は150°、ハンマ容量は20kg・cmであった。
【0052】
常態引張り強度試験、耐水性試験(吸水引張り強度試験)、アイゾット衝撃試験(ノッチあり)及びアイゾット衝撃試験(ノッチあり)の結果を、含有するガラス繊維用集束剤の不揮発成分の組成(ガラス繊維用集束剤100重量部中の各不揮発成分の重量部、不揮発成分の全重量を基準とした各不揮発成分の重量%)、とともに表1に示した。なお、実施例3及び比較例9〜12で得られたガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物には、それぞれ実施例1及び比較例1〜4のガラス繊維用集束剤が用いられている。
【0053】
【表1】
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高い引張り強度及び耐衝撃性を発揮するのみならず耐水性においても優れた性能を示すガラス繊維強化熱可塑性樹脂を得ることが可能な、ガラス繊維用集束剤を提供することができる。また、かかるガラス繊維用集束剤を用いたガラス繊維束、及び、かかるガラス繊維束を含むガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形物を提供することが可能になる。
Claims (3)
- 不揮発成分と揮発成分とから構成されるガラス繊維用集束剤であって、前記不揮発成分は、ポリウレタン樹脂と潤滑剤とシランカップリング剤と塩化マグネシウムとを含み、前記揮発成分は、水を含み、前記塩化マグネシウムの含有比率が、前記不揮発成分の全重量を基準として、40〜60重量%であるガラス繊維用集束剤の不揮発成分により、
繊維長が1〜25mmであるガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなることを特徴とする、
ガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物を得るために用いられるガラス繊維チョップドストランド。 - 請求項1記載のガラス繊維チョップドストランドとポリアミド樹脂とのコンパウンドをペレット化し、射出成形することによりガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物を得ることを特徴とするガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形物の製造方法。
- 前記ガラス繊維チョップドストランドにおける塩化マグネシウムの重量が、前記ポリアミド樹脂100重量部に対して0.05〜1.5重量部であることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
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