JP3991839B2 - 鍵盤装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術の分野】
本発明は、押鍵操作により回動する回動部材を備えた鍵盤装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、適当な質量を有する回動部材である質量ハンマ体を押鍵操作により駆動して回動させ、アコースティックピアノのような自然な押鍵感触を擬似的に得るようにした鍵盤装置が知られている(下記特許文献1)。
【0003】
この装置では、例えば、鍵の前部で質量ハンマ体を駆動し、押鍵操作に連動して質量ハンマ体の後部が上下方向に回動するように構成される。また、質量ハンマ体の回動終了位置を規制する上限ストッパが通常設けられ、通常の押鍵操作では、上限ストッパに質量ハンマ体が当接したときに押鍵押し切り(ストロークあがき)となる。上限ストッパとしては例えば、質量ハンマ体の慣性を受け止めるために、フェルトやエラストマ等の発泡体が用いられる。
【0004】
また、押鍵操作される鍵自体が、適当な質量配分がなされた回動部材となる装置もある。
【0005】
【特許文献1】
特許第3060930号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、回動部材を停止させる上限ストッパが硬すぎると、回動部材が上限ストッパで跳ね返りやすく、また、演奏者の指に過度の衝撃が加わり、しかも大きな衝撃音が発生する。特に、上記特許文献1の装置のように、回動部材としての質量ハンマ体は一般に、その回動支点から自由端部までが長く、鍵の動きを拡大しているため、強打時には特にその自由端部の動きが速い。そのため、上記傾向が一層強くなる。一方、上限ストッパが柔らか過ぎると、しっかりとしたストップ感が得られず、押鍵感触的にも不安定で演奏しにくい。
【0007】
また、回動部材と上限ストッパとの当接による反力の変化の態様は、レットオフ感に影響し、上限ストッパの反力のみでは、アコースティックピアノのような良好なレットオフ感を得るのは困難である。
【0008】
さらに、回動部材が上限ストッパに強く当接することが繰り返されることで、経年変化により上限ストッパが変形し、回動部材の回動終了位置が変位すると、押鍵による鍵の回動終了位置が鍵毎にばらつき、押鍵感触が悪化する場合がある。
【0009】
このように、上限ストッパの硬さの設定だけでは、押鍵押し切り時において、回動部材の強い跳ね返り、指への過度の衝撃、大きな衝撃音を抑制し、且つしっかりとしたストップ感を長期間維持することが困難であるという問題があった。
【0010】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、押鍵押し切り時における回動部材の跳ね返り、指への衝撃及び衝撃音を抑制しつつ、しっかりとしたストップ感を長期に亘り維持することができる鍵盤装置を提供することにある。
【0011】
付言すれば、アコースティックグランドピアノでは、ハンマの弦当接直前で鍵とハンマとの切り離しが行われている。すなわち、ジャック棒がスピンローラを擦りながら突き上げると、押鍵当初には鍵及びハンマの質量がかかっていたものが、ハンマが自由移動していくことで、鍵のみの質量がかかる状態になる。そして、ハンマは弦に当接して跳ね返り、バックチェック機構で受け止められる。つまり、グランドピアノにおけるストップ感は極めて軽いものとなる。しかし、上記従来の押鍵感触を擬似的に得るようにした鍵盤装置では、このような感触の実現にはまだ困難があったため、本発明では、押鍵感触を少しでもグランドピアノに近づけるべく、以下に説明するような構成としたものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤装置は、押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持された質量部とを有し、前記回動部材が、前記質量部の移動方向に垂直な該質量部の面に当接するのと略同時に前記ストッパ部にも当接するように構成され、前記質量部には、該質量部の質量の大半を占める質量体が含まれ、且つ、該質量体は、弾性材を介して固定部に支持されたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、押鍵操作により回動部材が回動し、ストッパ部に当接して該その回動終了位置がほぼ規制される。回動部材は、質量部に当接するのと略同時にストッパ部にも当接し、質量部が回動部材の回動方向と略同方向に移動することで、回動部材の運動エネルギが質量部に吸収されるので、質量部を設けない場合に比し、ストッパ部が受ける運動エネルギが少なくて済む。そのため、回動部材がストッパ部から跳ね返りにくく、演奏者の指に過度の衝撃が加わらず、しかも大きな衝撃音が発生しない。また、ストッパ部の経年変化も少なくなる。よって、押鍵押し切り時における回動部材の跳ね返り、指への衝撃及び衝撃音を抑制しつつ、しっかりとしたストップ感を長期に亘り維持することができる。
上記目的を達成するために本発明の請求項2の鍵盤装置は、押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持された質量部とを有し、前記回動部材が、前記質量部に当接するのと略同時に前記ストッパ部にも当接するように構成され、前記質量部には、該質量部の質量の大半を占める質量体が含まれ、且つ、該質量体は、弾性材料で構成されたことを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するために本発明の請求項3の鍵盤装置は、押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持された質量部とを有し、押鍵操作により、前記回動部材が前記質量部及び前記ストッパ部に当接することで、少なくともその当接直後においては、押鍵操作により与えられた前記回動部材の運動エネルギが、前記ストッパ部の弾性変形によるひずみエネルギと前記質量部の運動エネルギとに変換されるように構成され、前記質量部には、該質量部の質量の大半を占める質量体が含まれ、且つ、該質量体は、弾性材料で構成されたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、押鍵操作により回動部材が回動し、ストッパ部に当接して該その回動終了位置がほぼ規制される。押鍵操作により、回動部材が質量部及びストッパ部に当接することで、少なくともその当接直後においては、押鍵操作により与えられた回動部材の運動エネルギが、ストッパ部の弾性変形によるひずみエネルギと質量部の運動エネルギとに変換されるので、質量部を設けない場合に比し、ストッパ部が受ける運動エネルギが少なくて済む。よって、請求項1と同様に、押鍵押し切り時における回動部材の跳ね返り、指への衝撃及び衝撃音を抑制しつつ、しっかりとしたストップ感を長期に亘り維持することができる。
上記目的を達成するために本発明の請求項4の鍵盤装置は、押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、膜状部材を介して、前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持され、質量の大半を占める質量体が含まれてなる質量部とを有し、前記回動部材が、前記質量部に当接するのと略同時に前記ストッパ部にも当接するように構成されたことを特徴とする。
上記目的を達成するために本発明の請求項5の鍵盤装置は、押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、膜状部材を介して、前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持され、質量の大半を占める質量体が含まれてなる質量部とを有し、押鍵操作により、前記回動部材が前記質量部及び前記ストッパ部に当接することで、少なくともその当接直後においては、押鍵操作により与えられた前記回動部材の運動エネルギが、前記ストッパ部の弾性変形によるひずみエネルギと前記質量部の運動エネルギとに変換されるように構成されたことを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る鍵盤装置の構成を示す斜視図である。本実施の形態の鍵盤装置は、シャーシ4と、鍵1と、押鍵動作に適当な慣性を与えてアコースティックピアノのような押鍵感触を得るためのハンマ2とから主に構成される。ハンマ2は各鍵1に対応して設けられる。なお、黒鍵についても鍵1と同様に構成され、シャーシ4に回動自在に支持されて成る。なお、以下、本装置の演奏者側を前方と称する。
【0018】
鍵1、ハンマ2は、それぞれの回動軸、すなわち鍵回動軸P1、ハンマ回動軸P2を中心として上下方向に回動可能に構成されている。鍵1は対応するハンマ2を駆動可能に構成され、ハンマ2はスイッチ部3を駆動可能に構成されている。
【0019】
図2及び図3は、図1のA−A線に沿う縦断面図である。図2は非押鍵状態(鍵1が押鍵行程の開始位置にある状態)を示し、図3は押鍵状態(鍵1が押鍵行程の終了位置(押し切り位置)にある状態)を示す。
【0020】
鍵1には、その後端部側の面に凸球面状の鍵支点部1aが突設されている。その中心が上記鍵回動軸P1である。一方、シャーシ4のシャーシ水平部4aの後方には鍵支持部5が設けられている。鍵支持部5の鍵支点部1aに対向する部分には、各鍵支点部1aに対応して凹部5aが設けられている(図1参照)。鍵支点部1aが鍵支持部5の凹部5aと係合して、鍵1が鍵支点部1a(鍵回動軸P1)を中心として上下方向に回動自在にされている。
【0021】
鍵1の前部には下方に垂下したハンマ駆動片1bが設けられている。ハンマ駆動片1bの下端部にはウレタンゴム製等の緩衝材13が取り付けられている。緩衝材13は、ハンマ2の上側延設部2c及び下側延設部2b間に挟入され、鍵1の押鍵動作をハンマ2に伝達すると共に、ハンマ2の復帰動作を鍵1に伝達する。なお、押鍵及び押鍵復帰の行程において、緩衝材13はその上端部がハンマ2の上側延設部2cと常に当接して動作の伝達を確実にしている。
【0022】
シャーシ4は、シャーシ水平部4aとシャーシ4の前部4bとがリブ12により連結されて補強されている。シャーシ前部4bには鍵並び方向(鍵1の横方向)の回動を規制するためのキーガイド6が各鍵1毎に突設されている。
【0023】
ハンマ2は、各鍵1に対応して設けられ、シャーシ4に設けられた支持部材9のハンマ支持部9a(ハンマ回動軸P2)を中心としてその自由端部2dが上下方向に回動自在にハンマ支点部2aにて支持されている。また、ハンマ支点部2a近傍から鍵1の後部に亘って、前側が2又形状となっているフォーク形状のバネ7が懸架されている。このバネ7は、鍵1を鍵支持部5に押しつけると共に、ハンマ2を支持部材9のハンマ支持部9aに押しつけ、鍵1及びハンマ2がシャーシ4から容易に脱落しないようにしている。
【0024】
ハンマ2は、質量部材2fの重さによって下側延設部2bにて鍵1を上方に常に付勢している。なお、鍵1の復帰力はバネ7から付与されるのではなく、ハンマ2自身の復帰力によるものである。ハンマ2は、下部にスイッチ部3を駆動するためのスイッチ駆動部2eを有する。
【0025】
シャーシ4の後部4dには、フェルト等の上側ストッパ10(ストッパ部)が設けられ、シャーシ保持部4cには、下側ストッパ11が設けられている。上側ストッパ10は、例えば、全鍵幅に亘る長さに形成され、押鍵時にハンマ2の質量部材2fと当接して鍵1及びハンマ2の回動終了位置(鍵1では前端部の下限位置、ハンマ2では自由端部2dの上限位置)を規制する。下側ストッパ11は非押鍵時にハンマ2の質量部材2fと当接して鍵1の前端部の上限位置を規制する。なお、上側ストッパ10は複数鍵共通または各鍵毎に設けてもよい。
【0026】
シャーシ前部4bにはスイッチ基板8が取り付けられ、スイッチ基板8上にはスイッチ部3が設けられている。スイッチ部3は、ハンマ2のスイッチ駆動部2eに対向して各ハンマ2毎に設けられている。スイッチ部3は、接点時間差タイプの2メイク式タッチレスポンススイッチであり、鍵1の押鍵動作を検出する。
【0027】
シャーシ4における鍵1の後方には、運動エネルギ分散機構MEが設けられる。運動エネルギ分散機構MEは、板バネ15、質量体16及び第1、第2クッション17、18等から構成される。
【0028】
板バネ15は、各鍵1に対応して設けられ、金属で側面視U字状に形成され、一端部15aが支持部14に取り付けられる。板バネ15の他端部15bの上面には質量体16が、下面には第1クッション17が、それぞれ固着される。質量体16及び第1クッション17は、各板バネ15の弾性により上下方向に移動自在になっている。第2クッション18は、全鍵共通に設けられ、質量体16との間に間隙を有して後部カバー19の天井部19aの下面に固着されている。
【0029】
第1クッション17は、押鍵操作によりハンマ2が回動したとき、ハンマ2の自由端部2dが上側ストッパ10に当接するのと略同時に第1クッション17にも当接するように、その高さ方向の位置が設定される。これにより、後述するように、ハンマ2の運動エネルギが分散される。
【0030】
第1クッション17は、ハンマ2の回動終了位置近傍でハンマ2を受け止め、衝撃音を緩和する機能を果たすので、比較的硬い緩衝材で構成される。一方、第2クッション18は、ハンマ2を受け止めた第1クッション17と共に上方に移動する質量体16を受け止め、その運動エネルギを吸収するためのものである。従って、その硬さを柔らかく設定しても押鍵時のストップ感には影響がないし、エネルギを効率よく吸収して質量体16が再びハンマ2方向へ戻る速度が速くなりすぎないように、十分な柔らかさを有する材料で構成される。
【0031】
質量体16は、慣性を持たせるために金属等のある程度の質量がある材料で構成され、第1クッション17、板バネ15の他端部15b及び質量体16からなる「質量部MA」の質量の大半を占める。板バネ15は、ハンマ2による打撃力を受けて移動した質量体16を原位置(図2に示す位置)に復帰させる機能を果たす。
【0032】
かかる構成において、鍵1を押鍵すると、鍵1のハンマ駆動片1bによってハンマ2が駆動されて回動する。そして、図3に示すように、ハンマ2がその回動終了位置近傍に達すると、ハンマ2の自由端部2dが、第1クッション17及び上側ストッパ10に略同時に当接する。
【0033】
すると、「質量部MA」が上方に移動し、程なく質量体16が第2クッション18に当接する。ハンマ2の自由端部2dが上記「質量部MA」に当接したことで、ハンマ2の運動エネルギの多くは「質量部MA」に伝わり、ハンマ2の運動エネルギは効果的に減少する。ここで、「質量部MA」の質量をma(kg)、ハンマ2との当接後の「質量部MA」の移動速度をva(m/s)とすると、バネ力や摩擦力等を考慮しなければ、「mava 2/2」に相当する運動エネルギ(J)がハンマ2から「質量部MA」に移行したことになる。これにより、ハンマ2の運動エネルギのうち上側ストッパ10で吸収を受け持つべき分が減少する。
【0034】
従って、上側ストッパ10の硬さを比較的柔らかめに設定できることから、ハンマ2の強い跳ね返り、演奏者の指への過度の衝撃、大きな衝撃音の発生等が抑制される。しかも、しっかりとしたストップ感が得られる。また、経年変化にも強く、上側ストッパ10の変形が抑制される結果、長期に亘って良好な押鍵感触が維持される。
【0035】
また、ハンマ2が当接した「質量部MA」は、ハンマ2から離間していくので、ハンマ2は、当接時に「質量部MA」から大きな反力を受けた後、その反力が急速に減少する。そしてその後、ハンマ2は、上側ストッパ10から大きな反力を受ける。従って、押鍵押し切り時においては、ハンマ2が受ける反力の変化は、グランドピアノにおいてハンマアクションを介して鍵が受ける反力の変化に比較的近いものとなり、良好なレットオフ感が得られる。
【0036】
一方、質量体16が第2クッション18に当接すると、第2クッション18は柔らかいため、「質量部MA」の運動エネルギがほとんど吸収される。そして、「質量部MA」の自重及び板バネ15のバネ力により、「質量部MA」は、振動を減衰させながら原位置に復帰していく。
【0037】
なお、ハンマ2の自由端部2dは、上側ストッパ10よりも先に第1クッション17に当接してもよく、それとは逆に、第1クッション17よりも先に上側ストッパ10に当接してもよい。すなわち、上側ストッパ10は第1クッション17に比しかなり柔らかい材料で構成されるので、上側ストッパ10と第1クッション17との硬さ設定の差異から、自由端部2dが第1クッション17に一旦当接してしまえば、その後に上側ストッパ10が受ける衝撃は著しく減少する。従って、両者の高さ方向の配置については、多少の誤差は許容され、ハンマ2の上側ストッパ10と第1クッション17への当接の時間差も多少は許容される。
【0038】
このことをさらに考察すると、次のようになる。すなわち、ハンマ2の自由端部2dに質量が集中しているとみなした場合における、その質量集中部の質量をmh、当接直前におけるハンマ2の自由端部2dの速度をvh、上側ストッパ10の弾性定数(ばね定数に相当するもの)をk(N/m)、上側ストッパ10の変形量をx(m)とすると、当接直前にハンマ2の自由端部2dが有していた運動エネルギE1(J)、押鍵押し切り直後において上側ストッパ10が蓄える弾性変形によるひずみエネルギE2(J)、押鍵押し切り直後における「質量部MA」の運動エネルギE3(J)は、下記数式1、2、3により表される。
【0039】
【数1】
E1=mhvh 2/2
【0040】
【数2】
E2=kx2/2
【0041】
【数3】
E3=mava 2/2
そして、ハンマ2の加速度、板バネ15のバネ力、各種摩擦力、粘弾性による損失等の影響を除外すれば、下記数式4が成立する。
【0042】
【数4】
E1=E2+E3
すなわち、当接直前にハンマ2の自由端部2dが有していた運動エネルギE1が、上側ストッパ10のひずみエネルギE2と「質量部MA」の運動エネルギE3とに分散変換される。従って、自由端部2dが上側ストッパ10と第1クッション17のいずれに先に当接するにしても、運動エネルギE1がひずみエネルギE2と運動エネルギE3とに適当に分散されるように設定すればよく、また、ストップ感がどのようなものになるかは、上記運動エネルギの分散の設定態様によって任意に規定することができる。その場合、上側ストッパ10及び第1クッション17の硬さ、「質量部MA」の質量、上側ストッパ10と「質量部MA」との高さ関係が、分散設定を決める設計上の主な要素となる。
【0043】
なお、実際の押鍵の態様は様々である。例えば、強打の場合であっても、押鍵当初だけ強く、ハンマ2が、鍵1との連動関係がほとんど絶たれた状態で回動終了位置に達する場合がある。本実施の形態では、ハンマ2の上側延設部2cと下側延設部2bと緩衝材13とで、ハンマ2と鍵1とが上下方向に連結されているので、実際には、回動往行程後半において、ハンマ2が鍵1を引き込むような動作となる。一方、押鍵力による加速度が回動全行程に亘って加わり続け、鍵1とハンマ2との連動関係が保たれた状態で回動終了位置に達する場合がある。この状態では、鍵1がハンマ2に対して最後(回動終了位置)まで付勢し続けることになる。特許第2956180号で示されているように、鍵の動特性は、線形微分方程式で近似されるので、厳密には、前者と後者とでは回動終了位置近傍での力学的作用が相違し、押鍵感触を同列には議論できない。特に後者では、押鍵感触には、ハンマ2の速度及び「質量部MA」の質量のほか、その時点でハンマ2に付与されている加速度、板バネ15のバネ力、各種摩擦力が影響する。
【0044】
しかし、いずれにしても、最終的にはハンマ2が上側ストッパ10で受け止められることには変わりなく、回動終了位置ではハンマ2の運動エネルギが急速に消失し、しかも上側ストッパ10が負担する運動エネルギが少なくて済むことから、衝撃が少なく且つ鍵1がしっかりと止まった感覚が得られることになる。
【0045】
本実施の形態によれば、ハンマ体2が上側ストッパ10に当接するのと略同時に第1クッション17にも当接し、質量部MAが上方に移動して第2クッション18に当接することで、ハンマ体2の運動エネルギが質量部MAを介して第2クッション18に吸収されるので、質量部MAを設けない場合に比し、上側ストッパ10が受ける運動エネルギが減少する。そのため、ハンマ体2が上側ストッパ10から跳ね返りにくく、演奏者の指に過度の衝撃が加わらず、しかも大きな衝撃音が発生しない。また、上側ストッパ10の経年変化も少なくなる。よって、押鍵押し切り時におけるハンマ体の跳ね返り、指への衝撃及び衝撃音を抑制しつつ、しっかりとしたストップ感を長期に亘り維持することができる。さらに、上側ストッパ10の経年変化による縮みからくる鍵上面の高さの不揃いがなくなることで、グリッサンド奏法等の演奏のやりやすさを長期に亘って維持することができる。
【0046】
なお、質量体16は板バネ15を介して支持したが、これに限るものでなく、ハンマ2が第1クッション17当接した後の質量体16が、ハンマ2の自由端部2dの回動方向と略同方向に移動自在で、なおかつ質量体16が速やかに原位置に復帰できる構成であれば、他の方法で支持するようにしてもよい。
【0047】
なお、ハンマ2は後方が自由端部2dとして回動するようになっているが、これに限るものでなく、前方に自由端部を設けた形でも本発明を適用可能である。
【0048】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態では、第1の実施の形態に対し、「質量部MA」に代えて「質量部MB」を設け、しかも「質量部MB」の保持態様を変えた点が異なり、その他は第1の実施の形態と同様である。
【0049】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る鍵盤装置の縦断面図であり、図2に対応して非押鍵状態を示している。
【0050】
シャーシ4の後部4d’には、第1の実施の形態と同様に、上側ストッパ10が全鍵幅に亘り、鍵並び方向(ハンマ2の並び方向でもある)に沿って帯状に配設されている。本実施の形態ではさらに、シャーシ後部4d’において、上側ストッパ10の後方に、「質量部MB」が設けられる。上側ストッパ10及び「質量部MB」はいずれも、後部4d’の下面に接着等により固定されている。「質量部MB」は、上側ストッパ10に近接して、全鍵幅に亘り、鍵並び方向に沿って帯状に配設されており、従って、上側ストッパ10と「質量部MB」とが2列に並設された状態となっている。これにより、「質量部MB」の組み付けが第1の実施の形態の「質量部MA」に比し容易になっている。
【0051】
「質量部MB」は、それぞれ全鍵幅の長さを有する質量体22を上側クッション21と下側クッション23とで挟んだ構造となっており、上側クッション21がシャーシ後部4d’に固着される。質量体22は、金属で構成してもよいが、本実施の形態では、例えば、エラストマやゴムに金属粉を混合する等により、適当な質量と柔軟性とを兼ね備えた弾性材料で構成され、特に内部損失が大きい材料で構成されるのが望ましい。質量体22は、「質量部MB」の質量の大半を占める。
【0052】
下側クッション23は、ハンマ2の自由端部2dと直接当接して、ハンマ2の運動エネルギを質量体22に伝えると共に、衝撃音を軽減する。従って、衝撃を吸収しすぎることがないよう、ハンマ2の運動エネルギを質量体22に十分に伝えるに適した硬さを有している。上側クッション21は、ハンマ2から質量体22が受けた運動エネルギを効率よく吸収するような柔らかい材料で構成される。質量体22は、上側クッション21が弾性変形する範囲で上下方向に移動自在になっている。
【0053】
「質量部MB」は、押鍵操作によりハンマ2が回動したとき、ハンマ2の自由端部2dが上側ストッパ10に当接するのと略同時に下側クッション23にも当接するように、その高さ方向の位置が設定される。
【0054】
かかる構成において、鍵1を押鍵してハンマ2がその回動終了位置近傍に達すると、ハンマ2の自由端部2dが、上側ストッパ10及び下側クッション23に略同時に当接する。
【0055】
すると、下側クッション23を介して質量体22が上方へ付勢され、上側クッション21が大きく弾性変形して質量体22が上方に移動する。ハンマ2の自由端部2dが「質量部MB」に当接したことで、ハンマ2の運動エネルギの多くは「質量部MB」に伝わり、ハンマ2の運動エネルギは効果的に減少する。押鍵時における運動エネルギの分散変換の作用は第1の実施の形態と同様であり、押鍵押し切り直後における「質量部MB」の運動エネルギをE4(J)とすると、ハンマ2の運動エネルギE1のほとんどが、上側ストッパ10のひずみエネルギE2と「質量部MB」の運動エネルギE4とに分散変換される。
【0056】
本実施の形態によれば、押鍵押し切り時におけるハンマ体の跳ね返り、指への衝撃及び衝撃音を抑制しつつ、しっかりとしたストップ感を長期に亘り維持することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0057】
本実施の形態によればまた、「質量部MB」及び上側ストッパ10は、全ハンマ2共通に設けられ、鍵並び方向に沿って帯状に並設されたので、第1の実施の形態のように、「質量部MA」を各鍵毎に設ける場合に比し、「質量部MB」の組み付け工数を削減することができる。また、「質量部MB」及び上側ストッパ10は、共通の保持部材であるシャーシ4により保持されるようにしたので、第1の実施の形態のように、「質量部MA」を後部カバー19の天井部19aに別途固着する場合に比し、装置の奥行き寸法を短くすることができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、質量体22は、金属粉を混合した弾性材料で構成したが、個々のハンマ2の動作に応じて自由に移動できればよく、例示の材料や構成に限るものでない。例えば、金属を1つのハンマ2または複数のハンマ2毎に分割した構成でもよく、あるいは1つのハンマ2の幅よりさらに狭い幅で分割された構成でもよい。具体的には、金属製の鎖状ワイヤを全鍵幅または複数鍵幅に亘る長さに形成すれば、内部の摩擦によるエネルギの効率的な吸収が期待できる。鎖状ワイヤの場合でも、単一のワイヤに限らず、複数本を装置の前後方向に並設してもよい。鎖状ワイヤの断面として、その外部形状(1本の線の断面)は矩形等が望ましく、また、各鎖内部を樹脂で埋めるのがより望ましい。また、質量体22として、砂や金属粉を袋状部材で包んで全鍵幅または複数鍵幅に亘る長さに形成したものを適用してもよい。
【0059】
なお、「質量部MA」は、全ハンマ2に共通でなく、いくつかに分割し、複数ハンマ2に共通に設けてもよい。
【0060】
本実施の形態では、下側クッション23の下面位置は、上側クッション21、質量体22及び下側クッション23の厚みの合計で決まるため、下側クッション23の下面位置を全鍵幅に亘って均一にするには、厚みのばらつきを極力小さく設定する必要がある。しかし、次に示す変形例のようにすれば、下側クッション23の下面位置を容易に均一にすることができる。
【0061】
すなわち、「質量部MB」をシャーシ後部4d’に接着固定する代わりに、図5に示すように、支持部材24(24A、24B等)を、シャーシ4乃至装置本体に対して固定的に、適当な間隔で(例えば各ハンマ2間に)複数設け、高さを均一にした支持部材24の支持面24a(24Aa、24Ba等)で「質量部MB」を下方から保持するようにしてもよい。このようにすれば、支持面24aにて下側クッション23の下面位置が一様に保たれるため、各ハンマ2間の当接タイミングのばらつきが少なくなって、各鍵間の押鍵感触乃至ストップ感が均一なものとなる。
【0062】
特に、上記鎖状ワイヤを採用する構成や、図5に示すように、各支持部材24で各鍵毎に仕切られるような構成では、近接する複数の鍵が同時に押鍵された場合であっても、近接鍵相互間でタッチ感触の影響を受けにくい構造にすることができる。
【0063】
あるいは、「質量部MB」をシャーシ後部4d’に接着固定する代わりに、図6に示すように、シート部材25によって「質量部MB」を下方からくるんで保持するように構成してもよい。シート部材25は、例えば、上部がシャーシ4に保持されるようにすればよい。シート部材25は、薄い膜状部材で、伸縮量が少ないがあまり硬くなく、可撓性を有するような厚み及び材料で形成され、ハンマ2の運動エネルギが質量体22に円滑に伝わることを阻害しないように構成される。このようにすれば、シート部材25にて下側クッション23の下面位置が一様に保たれるため、上記支持部材24の場合と同様の効果を奏することができる。なお、下側クッション23は、シート部材25の下面に設けるようにしてもよい。
【0064】
なお、第1、第2の実施の形態においては、上側ストッパ10、「質量部MA」、「質量部MB」に当接する回動部材として、鍵1によって回動するハンマ2を例示したが、これに限るものでなく、適当な質量配分がなされた鍵自体が上記回動部材として上側ストッパ10、「質量部MA」、「質量部MB」に直接当接するように構成した場合にも、本発明を適用可能である。また、他の部材を介して鍵1によりハンマ2が回動する場合にも適用される。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、押鍵押し切り時における回動部材の跳ね返り、指への衝撃及び衝撃音を抑制しつつ、しっかりとしたストップ感を長期に亘り維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態に係る鍵盤装置の駆動部構造の構成を示す斜視図である。
【図2】 図1のA−A線に沿う縦断面図(非押鍵状態(鍵が押鍵行程の開始位置にある状態))である。
【図3】 図1のA−A線に沿う縦断面図(押鍵状態(鍵が押鍵行程の終了位置(押し切り位置)にある状態))である。
【図4】 本発明の第2の実施の形態に係る鍵盤装置の縦断面図である。
【図5】 第2の実施の形態の変形例を示す図である。
【図6】 第2の実施の形態の変形例を示す図である。
【符号の説明】
1 鍵、 2 ハンマ(回動部材)、 2d 自由端部、 4 シャーシ(保持部材)、 10 上側ストッパ(ストッパ部)、 15 板バネ、 16 質量体、 17 第1クッション、 18 第2クッション、 25 シート部材(膜状部材)、 ME 運動エネルギ分散機構、 MA、MB 質量部
Claims (7)
- 押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、
弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、
前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持された質量部とを有し、
前記回動部材が、前記質量部の移動方向に垂直な該質量部の面に当接するのと略同時に前記ストッパ部にも当接するように構成され、
前記質量部には、該質量部の質量の大半を占める質量体が含まれ、且つ、該質量体は、弾性材を介して固定部に支持されたことを特徴とする鍵盤装置。 - 押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、
弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、
前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持された質量部とを有し、
前記回動部材が、前記質量部に当接するのと略同時に前記ストッパ部にも当接するように構成され、
前記質量部には、該質量部の質量の大半を占める質量体が含まれ、且つ、該質量体は、弾性材料で構成されたことを特徴とする鍵盤装置。 - 押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、
弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、
前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持された質量部とを有し、
押鍵操作により、前記回動部材が前記質量部及び前記ストッパ部に当接することで、少なくともその当接直後においては、押鍵操作により与えられた前記回動部材の運動エネルギが、前記ストッパ部の弾性変形によるひずみエネルギと前記質量部の運動エネルギとに変換されるように構成され、
前記質量部には、該質量部の質量の大半を占める質量体が含まれ、且つ、該質量体は、弾性材料で構成されたことを特徴とする鍵盤装置。 - 押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、
弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、
膜状部材を介して、前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持され、質量の大半を占める質量体が含まれてなる質量部とを有し、
前記回動部材が、前記質量部に当接するのと略同時に前記ストッパ部にも当接するように構成されたことを特徴とする鍵盤装置。 - 押鍵操作により各々回動する複数の回動部材と、
弾性を有し、前記回動部材と当接して該回動部材の回動終了位置をほぼ規制するストッパ部と、
膜状部材を介して、前記回動部材の回動方向と略同方向に移動自在に保持され、質量の大半を占める質量体が含まれてなる質量部とを有し、
押鍵操作により、前記回動部材が前記質量部及び前記ストッパ部に当接することで、少なくともその当接直後においては、押鍵操作により与えられた前記回動部材の運動エネルギが、前記ストッパ部の弾性変形によるひずみエネルギと前記質量部の運動エネルギとに変換されるように構成されたことを特徴とする鍵盤装置。 - 前記ストッパ部及び前記質量部は、複数の回動部材に共通に設けられ、前記回動部材の並び方向に沿って帯状に並設されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鍵盤装置。
- 前記ストッパ部及び前記質量部は、共通の保持部材により保持されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鍵盤装置。
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