JP3987713B2 - 炭素繊維チョップドストランド、及びその製造方法 - Google Patents

炭素繊維チョップドストランド、及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維チョップドストランド、及びその製造方法に関する。更に詳しくは、集束性に優れ、導電性に優れた、熱可塑性樹脂をマトリックスとする炭素繊維強化樹脂の製造に適した炭素繊維チョップドストランド、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維チョップドストランドは、所定の長さに切断した束状の補強用繊維束であり、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料のSMC(sheetmolding compound)、BMC(bulk molding compound)、ハンドレイアップ等に利用されてきている。
【0003】
また、炭素繊維チョップドストランドは、主に熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料にも使用されている。炭素繊維強化複合材料は優れた衝撃特性、導電性また高弾性を示し、電気、光学分野や自動車産業などにおいて幅広く使用されている。
【0004】
かかる炭素繊維チョップドストランドは、通常、長さ1〜10mm、フィラメント数3,000本(3K)乃至50,000本(50K)程度の束状のものである。この炭素繊維チョップドストランドは、樹脂ペレットあるいは樹脂パウダーとともに押出機で溶融混練してペレット化し、更にこれを射出成形することによって所望の複合材料とするのが一般的である。
【0005】
上記の工程に供される炭素繊維チョップドストランドは、定量的にかつ安定的に供給できるように、種々のサイズ剤により集束されている。例えば、エポキシ樹脂を用いたサイズ剤が、特開昭61−252371号公報、特開昭61−66615号公報、特開昭57−171767号公報、特開平1−92234号公報に記載されている。しかしながら、エポキシ樹脂系サイズ剤は集束性の点で未だ満足しえない。
【0006】
また、特開昭58−126375号公報、特開昭63−152468号公報、特開平4−82969号公報にはサイズ剤としてウレタン樹脂を用いることが提案されている。更に、特開昭62−110984号公報には、エポキシ樹脂とウレタン樹脂を含むサイズ剤が提案されている。ウレタン樹脂を用いたサイズ剤は、ウレタン樹脂が靭性に優れるため炭素繊維チョップドストランドの集束力は充分であるものの、炭素繊維強化複合材料の持つ特徴のひとつである導電性の高さを発揮させる点については不充分である。
【0007】
炭素繊維チョップドストランドを使用した複合材料の導電性を改善した例としては、特開昭57−56586号公報記載のポリビニルピロリドンをサイズ剤として用いたもの、特開昭64−45857号公報記載のポリエチレングリコールをサイズ剤として用いたものが挙げられる。しかしながら、これらのサイズ剤は前述のエポキシ樹脂系サイズ剤やウレタン樹脂系サイズ剤と比べると炭素繊維チョップドストランドの集束性がはるかに劣り、これを用いる樹脂の成形加工時の取扱い性は満足しえない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、成形加工時の取扱い性に優れ、かつ複合材料の機械特性及び導電性のすべての面において満足しうる炭素繊維チョップドストランドはこれまで見出されておらず、従来の炭素繊維チョップドストランドは前述のようにいずれかの性質を犠牲にするものであった。
【0009】
従って、本発明の課題は、炭素繊維強化樹脂において、優れた機械特性と導電性を示し、かつ成形加工時の取扱い性に優れる高集束の炭素繊維チョップドストランドを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、サイズ剤の主成分をポリウレタン樹脂とし、かつ芳香族ポリウレタン樹脂と非芳香族ポリウレタン樹脂とを併せて用いれば、炭素繊維強化樹脂としたとき優れた機械特性と導電性を示し、しかも成型加工時の取扱い性に優れる集束性が高い炭素繊維チョップドストランドが得られることを見出した。
【0011】
本発明は上記知見に基づき完成するに到ったものである。上記課題を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0012】
〔1〕 サイズ剤を用いて集束した炭素繊維チョップドストランドであって、該サイズ剤の主成分がポリウレタン樹脂であり、かつ該ポリウレタン樹脂が芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上及び非芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする炭素繊維チョップドストランド。
【0013】
〔2〕 芳香族ポリウレタンと非芳香族ポリウレタンの質量成分比が芳香族ポリウレタン/非芳香族ポリウレタン=30/70〜70/30である〔1〕に記載の炭素繊維チョップドストランド。
【0014】
〔3〕 JIS R7601の硫酸洗浄法によるサイズ剤付着量Sa及びJIS R7601の熱分解法によるサイズ剤付着量Shがいずれも1〜5質量%の範囲にあり、かつ次式(1):
サイズ剤灰分(%)=(Sa−Sh)×100/Sa (1)
より求められるサイズ剤灰分が10〜20%である〔1〕または〔2〕に記載の炭素繊維チョップドストランド。
【0015】
〔4〕 嵩密度が400g/L以上である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の炭素繊維チョップドストランド。
【0016】
〔5〕 炭素繊維ストランドにサイズ剤を含浸させ、次いで乾燥させた炭素繊維ストランドを所定長に切断する炭素繊維チョップドストランドの製造方法において、含浸させるサイズ剤が自己乳化タイプのエマルジョンと強制乳化タイプのエマルジョンとを含む水系エマルジョンである炭素繊維チョップドストランドの製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明でサイズ剤の主成分として用いられるポリウレタン樹脂は、芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上と、非芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上とを含むものである。
【0018】
これらのポリウレタン樹脂は、例えばポリイソシアネートとポリオールの重付加反応等の公知の方法により得られる。芳香族ポリウレタン樹脂としては、樹脂のモノマー単位に芳香環を有しているポリウレタン樹脂であれば特に限定はないが、例えばトリレンジイソシアネートやジフェニルメタンジイソシアネートのように芳香族イソシアネートを原料として反応させたポリウレタン樹脂を挙げることができる。非芳香族ポリウレタン樹脂としては、上記芳香族ポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂であれば特に限定はないが、例えばヘキサメチレンジアイソシアネートやジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートや脂環族イソシアネートを原料として反応させたポリウレタン樹脂を挙げることができる。
【0019】
非芳香族ポリウレタン樹脂は芳香族ポリウレタン樹脂に比べ分子骨格の自由度が高いため、可撓性があり、より靭性に優れる利点がある。一方、芳香族ポリウレタンは芳香環を有するため、加水分解しにくいという利点がある。各種溶剤に対する溶解性については、非芳香族ポリウレタン樹脂の方が比較的溶解しやすい傾向がある。ここで「溶解」とは、溶質であるポリウレタン樹脂の分子鎖と溶媒の分子とが混ざり合うことをいう。非芳香族ポリウレタン樹脂は、分子骨格の自由度が高いため分子運動が活発で、容易に分子鎖が溶媒中に移動し混ざり合うので、芳香族ポリウレタン樹脂に比べ溶媒に溶解しやすい。
【0020】
芳香族ポリウレタン樹脂のみをサイズ剤として含む炭素繊維チョップドストランドを用いて炭素繊維強化複合材料を製造する場合、非芳香族ポリウレタン樹脂を含む炭素繊維チョップドストランドを用いる場合に比べ、得られる炭素繊維強化複合材料の機械特性は優れるが、導電性が劣るものとなる。サイズ剤として用いた非芳香族ポリウレタン樹脂は成形加工中に容易にマトリックス樹脂中に溶解して移動するのに対し、芳香族ポリウレタン樹脂は炭素繊維表面上に残存しやすい。炭素繊維表面上に残存した芳香族ポリウレタン樹脂は炭素繊維とマトリックス樹脂とのバインダーの役割をし、界面結合力を増大させ、複合材料の機械特性を優れたものとする。一方、導電性に対しては炭素繊維表面上に残存する芳香族ポリウレタン樹脂が、導体である炭素繊維同志の接触抵抗を増大させ、導電性を低下させる。反対に非芳香族ポリウレタン樹脂のみをサイズ剤として用いる場合には、導電性には優れるが、機械特性が劣るものとなる。
【0021】
本発明において、芳香族ポリウレタン樹脂と非芳香族ポリウレタン樹脂の組成比は、質量成分比で芳香族ポリウレタン/非芳香族ポリウレタン=30/70〜70/30の範囲が、炭素繊維強化複合材料とした場合に優れた機械特性と導電性を発揮するので好ましい。
【0022】
また、JIS R7601の硫酸洗浄法によるサイズ剤付着量をSa、同じくJIS R7601の熱分解法によるサイズ剤付着量をShとしたときに、Sa及びShをいずれも1〜5質量%の範囲とするのが好ましい。更に、次式(1)より求められるサイズ剤灰分が10〜30%であることが好ましい。
【0023】
サイズ剤灰分(%)=(Sa−Sh)×100/Sa (1)
サイズ剤の芳香族ポリウレタン樹脂は、熱分解の際に炭化しやすく残渣が多くなる。従って、サイズ剤灰分が30%を越える場合は、熱分解法によるサイズ剤付着量の測定値が低めになる芳香族ポリウレタン樹脂が実際には多く付着していることになり、複合材料の導電性が低くなる。一方、サイズ剤灰分が10%未満の場合は、逆にサイズ剤として付着している芳香族ポリウレタン樹脂の比率が小さく、複合材料の機械特性における満足度が低くなる。
【0024】
本発明で用いる炭素繊維については、特に制限はなく、各種の公知の炭素繊維、例えばレーヨン、ポリアクリロニトリル、ピッチ、リグニン、炭化水素ガスを用いて製造された炭素繊維や黒鉛質繊維及びこれらに金属をコーティングした金属被覆炭素繊維等の中から任意に選んで用いることができる。
【0025】
本発明の炭素繊維チョップドファイバーの前駆体である炭素繊維ストランドのフィラメント構成本数については特に限定されないが、コスト面や成形加工時の取扱い性の点で12,000〜50,000のフィラメントからなる炭素繊維ストランドが好ましい。
【0026】
炭素繊維チョップドストランドの製造方法としては、炭素化工程より取り出される炭素繊維ストランドを巻き取ることなく、複数本を合糸しながら、後工程で各処理を行い、その後切断工程に供し、所定の長さに切断する連続的な製造方法が生産効率が高く好ましい。
【0027】
炭素繊維の製造工程では、炭素化処理終了後、マトリックス樹脂との接着性改良のために表面処理を施すのが一般的である。この表面処理には、液相処理、気相処理などが公知の方法として知られているが、生産性、処理の均一性、安定性等の観点から液相電解表面処理が好ましい。
【0028】
上記の表面処理を経た炭素繊維は、充分に洗浄し電解質を除去した後、サイズ剤処理を施す。
【0029】
サイズ剤の付与は、スプレー法、液浸法、転写法等種々の既知の方法を採択し得るが、液浸法が汎用的で効率的且つ均一に付与できる点に於いて優れており好ましい。
【0030】
液浸法において、炭素繊維ストランドをサイズ剤液に浸漬する際には、サイズ剤液中に設けられた液没ローラ又は液浸ローラを介して、開繊と絞りを繰り返し、ストランドの芯までサイズ液を含浸させることが好ましい。
【0031】
サイズ剤を付与する場合の処理方法としては、サイズ剤を溶解させる溶媒により、溶剤法と、エマルジョン法とに分けることができる。溶剤法で使用する溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール等のアルコール類;メチレンクロライド等の有機塩素化合物等を挙げることができる。サイズ剤の付与は溶剤法、エマルジョン法のいずれの方法も用いることができるが、人体への安全性及び環境汚染を防止する観点からエマルジョン法を用いることが好ましい。
【0032】
エマルジョン法を用いる場合のサイズ剤としては特に制限はないが、自己乳化タイプのエマルジョンと強制乳化タイプのエマルジョンとの両者を含むよう選択することが好ましい。
【0033】
強制乳化タイプのエマルジョンは、サイズ剤のみでは水で乳化しないため、乳化剤等を用いてサイズ剤を強制的にエマルジョン化している。これに対し、自己乳化タイプのエマルジョンはサイズ剤の分子骨格に親水基を導入することにより、乳化剤を用いなくても水中にサイズ剤が乳化分散するものである。自己乳化タイプのエマルジョンは強制乳化タイプのエマルジョンに比べエマルジョン粒子の粒径が小さく、炭素繊維ストランド内部への浸透性は良好であるが、乾燥工程において、炭素繊維ストランド内でマイグレーションを起こしやすい。しかし、粒径の大きい強制乳化タイプのサイズ剤エマルジョンを自己乳化タイプのサイズ剤エマルジョンを混ぜるとマイグレーションを防止し、炭素繊維ストランド中にサイズ剤が均一に付着しやすい。その結果、炭素繊維チョップドストランドとしたときの集束性が向上する。
【0034】
強制乳化タイプのサイズ剤と自己乳化タイプのサイズ剤の混合割合は、10:90〜90:10(質量基準)が好ましい。
【0035】
本発明においてサイズ剤として使用するポリウレタン樹脂は公知の方法により製造したもののほか、下記の市販のものを用いることができる。
【0036】
自己乳化タイプの芳香族ポリウレタン樹脂としては、例えばハイドランHW−301、同HW−310、同HW−311、同HW−312B、同HW−325、同HW−337(大日本インキ化学社製);ユープレンUX−306、同UX−312、同UA−110(三洋化成社製);レザミンD−1005(大日精化工業社製)等が挙げられる。強制乳化タイプの芳香族ポリウレタン樹脂としては、例えばボンディック1040NS、同1050B−NS、同1230NS、同1310NSA、同1320NS(大日本インキ化学社製)等が挙げられる。
【0037】
一方、非芳香族ポリウレタン樹脂としては、自己乳化タイプとしてハイドランHW−920、同HW−935、同HW−940(大日本インキ化学社製);パーマリンUA−110、同UA−200(三洋化成社製);ディスパコールU42、同U53、同U54(バイエル社製)等が挙げられる。強制乳化タイプの例としてボンディック1612NSC、同1850NS、同1940NS、同1980NS(大日本インキ化学社製);ケミチレンGA−2、同GA−4(三洋化成社製)等を挙げることができる。
【0038】
サイズ剤の付与方法は、例えば上記の芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種類以上を含む水系エマルジョンと、非芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種類以上を含む水系エマルジョンとを混合し、混合エマルジョン溶液に炭素繊維ストランドを含浸させサイズ剤を付与してもよい。または、単独のエマルジョンを順次二段階以上に分けて付与してもよい。また、本発明の効果を損なわない程度にポリウレタン樹脂以外の樹脂、例えばエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等をサイズ剤成分として使用してもよい。
【0039】
水系エマルジョンの場合、炭素繊維ストランドに付与するサイズ剤量を適正化する上で、サイズ剤の濃度は1〜100g/L、25℃での溶液粘度は0.1〜100Pが好ましい。サイジングする際の工程温度は0〜50℃が好ましく、サイズ剤の付着量をコントロールするために、サイズ剤を付着させた後、スクイズ処理してもよい。
【0040】
サイズ剤付着量は、ポリウレタン樹脂として1〜5質量%の範囲が好ましい。サイズ剤の付着量が1質量%未満では炭素繊維チョップドストランドの集束性が低下し、成形加工時における取扱い性が劣る傾向がある。一方、5質量%を超えると、複合材料としたときにマトリックス樹脂に対するサイズ剤の量が多くなり、不純物効果によりマトリックス樹脂の結晶性を低下させ、複合材料における機械特性低下を招く傾向がある。
【0041】
炭素繊維ストランドにサイズ剤溶液を付着させた後、通常乾燥ゾーンに送りサイズ剤液を乾燥させる。乾燥ゾーンの雰囲気温度は、溶剤を使用したサイズ剤溶液の場合は、その溶剤の種類により決まる。汎用的な水系エマルジョンの場合は80〜200℃に設定する。乾燥温度が高い、あるいは乾燥時間が長い場合、乾燥状態は良好となるが、熱履歴を多く与える場合、サイズ剤樹脂の劣化が起こり、ストランドの柔軟性が欠け、ストランドを切断してチョップ化する時にストランドが割れやすくなり、嵩密度が低くなる等の弊害が起こるので、適正な乾燥条件で乾燥することが好ましい。
【0042】
炭素繊維ストランドの集束性を高めるために、プリカーサーからサイズ剤液乾燥までの間に、加撚してもよい。加撚は、ストランドの集束のみならず、単糸切れによるストランドの毛羽立ちを抑制するためにも有効である。加撚の程度は、2個/m〜30個/mが好ましい。
【0043】
サイズ剤付与処理後、乾燥させたストランドは、切断工程に供される。切断にはロービングカッター等のロータリー式カッターや、ギロチンカッター等通常用いられているカッターを用いることが出来る。
【0044】
チョップドストランドの繊維長は、1〜10mmとすることが好ましく、特に3〜8mmとすることが好ましい。
【0045】
本発明で使用される炭素繊維のストランドの引っ張り強さは2.9GPa以上、引っ張り弾性率は200GPa以上、単繊維直径は5〜10μmの性能を示すものが、複合材料に使用するものとして好ましい。
【0046】
複合材料のマトリックス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアセタール等の汎用エンジニアリングプラスチックが挙げられる。また、ポリプロピレンやABS等の汎用プラスチックやポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性の芳香族ポリエステル等の耐熱性ポリマー類も使用することができる。
【0047】
一般に、炭素繊維チョップドストランドの集束性を評価する尺度として、嵩密度が用いられる。本発明の炭素繊維チョップドストランドは、繊維長によって若干の変動はあるが、嵩密度400g/L以上が好ましい。また、フリーファイバー発生率は衝撃を加えた時のチョップドストランドの集束性の指標となり、ほぼ嵩密度と対応し嵩密度が高いチョップドストランドはフリーファイバー発生率も小さくなる傾向を示すが、ストランド内部へのサイズ剤が浸透不足になると嵩密度が高くてもフリーファイバー発生率が高くなる。フリーファイバー発生率としては2.0%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下がよい。このような炭素繊維チョップドストランドはフィーダーでの持ち込みがよくマトリックスへの安定配合を行うことが出来る。
【0048】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各測定値は下記の方法にて求めた値である。
【0049】
[嵩密度]
2000ccのメスシリンダーに300gの炭素繊維チョップドストランドを充填し軽く衝撃を与え平衡に達したときの体積を求めた。
【0050】
[フリーファイバー発生率]
2000ccのメスシリンダーに約500ccの炭素繊維チョップドストランドを入れ密封した。この時の炭素繊維チョップドストランドの質量(W1g)を測定した。密封したメスシリンダーの高さ方向を軸にして、20分間25rpmで回転した。メスシリンダーの回転を止め試料を#4の篩に移し篩い分けした。篩に残ったフリーファイバーを採取しその質量(W2g)を測定した。試料全体の質量とフリーファイバーの質量からフリーファイバー発生率(%)を求めた。
【0051】
[複合材料特性]
曲げ強度はJIS K 7203に準拠して求めた。体積抵抗測定は、同曲げ試験片の長さ方向(100mm)の両端に藤倉化成社製ドータイトD−550を塗布、乾燥後、アデックス社製デジタルオームメーターAX−111Aを用いて抵抗を測定し、体積抵抗を求めた。アイゾット衝撃値はJIS K 7110の切欠き寸法0(切欠き加工なし)の2号試験片を用いた以外は同規格に準拠して求めた。
【0052】
実施例1
フィラメント数24000本(24K)のポリアクリロニトリル(PAN)系プリカーサーを耐炎化工程及び炭素化工程を経て炭素化炉より排出された炭素繊維を電解表面処理し、水洗した。その後、自己乳化タイプの芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるハイドランHW−301(大日本インキ化学社製)と強制乳化タイプの非芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるボンディック1980NS(大日本インキ化学社製)を樹脂純分で30/70質量%になるよう混合した水系エマルジョンサイズ剤液に通し、次いで120℃の乾燥機にて乾燥させた後、繊維長6mmに切断した。その際、ストランド張力及びエマルジョン樹脂濃度を調整し、硫酸分解法によるサイズ剤付着量を3.5%(Sa)にした。また、燃焼法によるサイズ剤付着量は3.1%(Sh)であり、式(1)より求めたサイズ剤灰分は11%であった。
【0053】
得られた炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は460g/L、フリーファイバー発生率0.1%であり、品質良好なチョップが得られた。
【0054】
上記のようにして得られた炭素繊維チョップドストランドとポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成製パンライトL−1250)を炭素繊維が15質量%になるようにドライブレンドした後、4mmベント式押出機にて、溶融混練してストランド状に押出し、水冷後切断して炭素繊維含有ポリカーボネートペレットを得た。このペレットを十分乾燥後、射出成形にて試験片を成形し物性を測定したところ、曲げ強度202MPa、アイゾット衝撃値(ノッチ無)47kJ/m2と良好な物性を示した。また、同成形物の体積抵抗は3Ω・cmと優れた電気特性を示した。
【0055】
実施例2
24KのPAN系プリカーサーを耐炎化工程及び炭素化工程を経て炭素化炉より排出された炭素繊維を電解表面処理し、水洗後、自己乳化タイプの芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるハイドランHW−311(大日本インキ化学社製)と強制乳化タイプの非芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるボンディック1850NS(大日本インキ化学社製)を樹脂純分で50/50質量%になるよう混合した水系エマルジョンサイズ剤液に通し、次いで120℃の乾燥機にて乾燥させた後、繊維長6mmに切断した。その際、ストランド張力及びエマルジョン樹脂濃度を調整し、硫酸分解法によるサイズ剤付着量を2.5%(Sa)にした。また、燃焼法によるサイズ剤付着量は2.1%(Sh)であり、式(1)より求めたサイズ剤灰分は16%であった。
【0056】
得られた炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は450g/L、フリーファイバー発生率0.3%であり、品質良好なチョップが得られた。
【0057】
上記のようにして得られた炭素繊維チョップドストランドとポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成製パンライトL−1250)を炭素繊維が15質量%になるようにドライブレンドした後、4mmベント式押出機にて、溶融混練してストランド状に押出し、水冷後切断して炭素繊維含有ポリカーボネートペレットを得た。このペレットを十分乾燥後、射出成形にて試験片を成形し物性を測定したところ、曲げ強度208MPa、アイゾット衝撃値(ノッチ無)50kJ/m2と良好な物性を示した。また、同成形物の体積抵抗は4Ω・cmと優れた電気特性を示した。
【0058】
実施例3
24KのPAN系プリカーサーを耐炎化工程及び炭素化工程を経て炭素化炉より排出された炭素繊維を電解表面処理し、水洗後、自己乳化タイプの芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるユープレンUX−306(三洋化成社製)と強制乳化タイプの非芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるケミチレンGA−4(三洋化成社製)を樹脂純分で70/30質量%になるよう混合した水系エマルジョンサイズ剤液に通し、次いで120℃の乾燥機にて乾燥させた後、繊維長6mmに切断した。その際、ストランド張力及びエマルジョン樹脂濃度を調整し、硫酸分解法によるサイズ剤付着量を3.0%(Sa)にした。また、燃焼法によるサイズ剤付着量は2.4%(Sh)であり、式(1)より求めたサイズ剤灰分は20%であった。
【0059】
得られた炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は480g/L、フリーファイバー発生率0.6%であり、品質良好なチョップが得られた。
【0060】
上記のようにして得られた炭素繊維チョップドストランドとポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成製パンライトL−1250)を炭素繊維が15質量%になるようにドライブレンドした後、4mmベント式押出機にて、溶融混練してストランド状に押出し、水冷後切断して炭素繊維含有ポリカーボネートペレットを得た。このペレットを十分乾燥後、射出成形にて試験片を成形し物性を測定したところ、曲げ強度216MPa、アイゾット衝撃値(ノッチ無)51kJ/m2と良好な物性を示した。また、同成形物の体積抵抗は6Ω・cmと優れた電気特性を示した。
【0061】
実施例4
24KのPAN系プリカーサーを耐炎化工程及び炭素化工程を経て炭素化炉より排出された炭素繊維を電解表面処理し、水洗後、強制乳化タイプの芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるボンディック1230NS(大日本インキ化学社製)と自己乳化タイプの非芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるハイドランHW−940(大日本インキ化学社製)を樹脂純分で50/50質量%になるよう混合した水系エマルジョンサイズ剤液に通し、次いで120℃の乾燥機にて乾燥させた後、繊維長6mmに切断した。その際、ストランド張力及びエマルジョン樹脂濃度を調整し、硫酸分解法によるサイズ剤付着量を4.0%(Sa)にした。また、燃焼法によるサイズ剤付着量は3.4%(Sh)であり、式(1)より求めたサイズ剤灰分は15%であった。
【0062】
得られた炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は480g/L、フリーファイバー発生率0.04%であり、品質良好なチョップが得られた。
【0063】
上記のようにして得られた炭素繊維チョップドストランドとポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成製パンライトL−1250)を炭素繊維が15質量%になるようにドライブレンドした後、4mmベント式押出機にて、溶融混練してストランド状に押出し、水冷後切断して炭素繊維含有ポリカーボネートペレットを得た。このペレットを十分乾燥後、射出成形にて試験片を成形し物性を測定したところ、曲げ強度213MPa、アイゾット衝撃値(ノッチ無)52kJ/m2と良好な物性を示した。また、同成形物の体積抵抗は4Ω・cmと優れた電気特性を示した。
【0064】
実施例5
24KのPAN系プリカーサーを耐炎化工程及び炭素化工程を経て炭素化炉より排出された炭素繊維を電解表面処理し、水洗後、強制乳化タイプの芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるボンディック1320NS(大日本インキ化学社製)と自己乳化タイプの非芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるディスパコールU54(バイエル社製)を樹脂純分で60/40質量%になるよう混合した水系エマルジョンサイズ剤液に通し、次いで120℃の乾燥機にて乾燥させた後、繊維長6mmに切断した。その際、ストランド張力及びエマルジョン樹脂濃度を調整し、硫酸分解法によるサイズ剤付着量を3.0%(Sa)にした。また、燃焼法によるサイズ剤付着量は2.5%(Sh)であり、式(1)より求めたサイズ剤灰分は17%であった。
【0065】
得られた炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は560g/L、フリーファイバー発生率0.03%であり、品質良好なチョップが得られた。
【0066】
上記のようにして得られた炭素繊維チョップドストランドとポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成製パンライトL−1250)を炭素繊維が15質量%になるようにドライブレンドした後、4mmベント式押出機にて、溶融混練してストランド状に押出し、水冷後切断して炭素繊維含有ポリカーボネートペレットを得た。このペレットを十分乾燥後、射出成形にて試験片を成形し物性を測定したところ、曲げ強度221MPa、アイゾット衝撃値(ノッチ無)54kJ/m2と良好な物性を示した。また、同成形物の体積抵抗は5Ω・cmと優れた電気特性を示した。
【0067】
比較例1
24KのPAN系プリカーサーを耐炎化工程及び炭素化工程を経て炭素化炉より排出された炭素繊維を電解表面処理し、水洗後、自己乳化タイプの芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるハイドランHW−301(大日本インキ化学社製)の水系エマルジョンサイズ剤液に通し、次いで120℃の乾燥機にて乾燥させた後、繊維長6mmに切断した。その際、ストランド張力及びエマルジョン樹脂濃度を調整し、硫酸分解法によるサイズ剤付着量を3.0%(Sa)にした。また、燃焼法によるサイズ剤付着量は2.2%(Sh)であり、式(1)より求めたサイズ剤灰分は27%であった。
【0068】
得られた炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は380g/L、フリーファイバー発生率1.6%であった。
【0069】
上記のようにして得られた炭素繊維チョップドストランドとポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成製パンライトL−1250)を炭素繊維が15質量%になるようにドライブレンドした後、4mmベント式押出機にて、溶融混練してストランド状に押出し、水冷後切断して炭素繊維含有ポリカーボネートペレットを得た。このペレットを十分乾燥後、射出成形にて試験片を成形し物性を測定したところ、曲げ強度222MPa、アイゾット衝撃値(ノッチ無)55kJ/m2と良好な物性を示した。また、同成形物の体積抵抗は41Ω・cmと電気特性については満足な値ではなかった。
【0070】
比較例2
24KのPAN系プリカーサーを耐炎化工程及び炭素化工程を経て炭素化炉より排出された炭素繊維を電解表面処理し、水洗後、自己乳化タイプの非芳香族ポリウレタン樹脂エマルジョン溶液であるハイドランHW−940(大日本インキ化学社製)の水系エマルジョンサイズ剤液に通し、次いで120℃の乾燥機にて乾燥させた後、繊維長6mmに切断した。その際、ストランド張力及びエマルジョン樹脂濃度を調整し、硫酸分解法によるサイズ剤付着量を3.0%(Sa)にした。また、燃焼法によるサイズ剤付着量は2.8%(Sh)であり、式(1)より求まるサイズ剤灰分は7%であった。
【0071】
得られた炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は410g/L、フリーファイバー発生率1.4%であった。
【0072】
上記のようにして得られた炭素繊維チョップドストランドとポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成製パンライトL−1250)を炭素繊維が15質量%になるようにドライブレンドした後、4mmベント式押出機にて、溶融混練してストランド状に押出し、水冷後切断して炭素繊維含有ポリカーボネートペレットを得た。このペレットを十分乾燥後、射出成形にて試験片を成形し物性を測定したところ、曲げ強度168MPa、アイゾット衝撃値(ノッチ無)37kJ/m2と物性として満足な値ではなかった。また、同成形物の体積抵抗は2Ω・cmと優れた電気特性を示した。
【0073】
【発明の効果】
本発明の炭素繊維チョップドストランドは、成形加工時の取扱い性に優れる高い集束性を持ち、複合材料とする場合においてはサイズ剤がマトリックス樹脂と炭素繊維の界面強度を向上させるが、導電性を失わない適度なバインダー量であるため、機械強度及び導電性に優れた炭素繊維強化複合材料が得られる。

Claims (5)

  1. サイズ剤を用いて集束した炭素繊維チョップドストランドであって、該サイズ剤の主成分がポリウレタン樹脂であり、かつ該ポリウレタン樹脂が芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上及び非芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする炭素繊維チョップドストランド。
  2. 芳香族ポリウレタンと非芳香族ポリウレタンの質量成分比が芳香族ポリウレタン/非芳香族ポリウレタン=30/70〜70/30である請求項1に記載の炭素繊維チョップドストランド。
  3. 嵩密度が400g/L以上である請求項1又は2に記載の炭素繊維チョップドストランド。
  4. 芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種類以上を含む水系エマルジョンと、非芳香族ポリウレタン樹脂から選ばれる1種類以上を含む水系エマルジョンとを混合した混合エマルジョン溶液に炭素繊維ストランドを含浸させ、次いで乾燥させた炭素繊維ストランドを所定長に切断する炭素繊維チョップドストランドの製造方法。
  5. 混合エマルジョン溶液が、自己乳化タイプのポリウレタン樹脂と強制乳化タイプのポリウレタン樹脂とを含み、強制乳化タイプのポリウレタン樹脂と自己乳化タイプのポリウレタン樹脂の混合割合が10:90〜90:10(質量基準)である請求項に記載の炭素繊維チョップドストランドの製造方法。
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