JP5964638B2 - 炭素繊維チョップドストランド、およびその製造方法 - Google Patents
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Description
チョップドストランドの製造方法を提供することにある。
本発明の炭素繊維チョップドストランドは、炭素繊維の単繊維が複数本集束されてなる炭素繊維束を所定の長さに切断した、炭素繊維チョップドストランドである。
本発明の炭素繊維チョップドストランドのフリーファイバー発生率は0.5%以下であり、好ましくは0.2%以下で、より好ましくは0.1%以下である。フリーファイバー発生率は低い方が好ましいが、実質的には0.001%以上である。
しかし、このような方法ではいずれも、チョップドストランドの分散性が低下してしまうため、未分散繊維束発生数が、フィラメント1000本あたり3本をこえてしまう。
そのため、フリーファイバー発生率が0.5%以下であり、さらに、未分散繊維束発生数がフィラメント1000本あたり0〜3本である本発明の炭素繊維チョップドストランドを得ることは困難であった。
サイズ剤は、複合材料を製造する際に用いるマトリックス樹脂との相溶性の高いものが好ましい。サイズ剤はマトリックス樹脂の種類に応じ適宜選択することが好ましい。
また、本発明の炭素繊維チョップドストランドの製造方法に用いる炭素繊維束は、サイズ剤を付与する前に、炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)が、20〜30%、好ましくは22〜27%になるように表面処理を行うことが好ましい。
電解酸化処理で表面処理を行う場合、炭素繊維束にかかる電気量を調節することで、目的のO/Cを有する炭素繊維束を得ることができる。本発明の炭素繊維チョップドストランドの製造方法においては、電気量が、炭素繊維1gに対して10〜100クーロンになる範囲とすることが好ましく、50クーロン以下の範囲とすることがより好ましい。炭素繊維1gにかかる電気量が10クーロン未満では、処理が不十分になりやすくO/Cが20%より低くなりやすい傾向にあり、100クーロンを越えると、過剰な処理により、O/Cが30%より高くなりやすい傾向にある。
大気中330℃で30分間加熱したときの本発明の炭素繊維チョップドストランドの質量減少率が、0.8%以下であれば、高温でマトリクス樹脂と混練しても熱分解ガスが発生しにくく、成形性、作業性が良好である。
以下に、さらに詳細に炭素繊維チョップドストランドの製造方法を示す。本発明の炭素繊維チョップドストランドの製造方法は、以下に限定されるものではない。
炭素繊維チョップドストランドの出発原料の炭素繊維束は、特に制限がなく、各種の公知の炭素繊維を用いることが出来る。例えば、レーヨン、ポリアクリロニトリル、ピッチ、リグニン、炭化水素ガスを用いて製造された炭素繊維や黒鉛質繊維等が例示される。これらの中でも、ポリアクリロニトリルを原料とするアクリル系炭素繊維が、強度、弾性率等の物性の良さ、及び入手の容易さの点で好ましい。
炭素繊維径は特に限定されないが、汎用性、製造コスト、性能の点で4〜10μmが好ましく、4〜8μmがより好ましい。炭素繊維束を構成する単繊維の集束数は1000〜100000本が好ましく、10000〜50000本がより好ましい。
PAN系の炭素繊維束は、例えば、以下の方法により製造することができる。
PAN系炭素繊維の前駆体繊維は、アクリロニトリルをモノマー単位として90質量%以上含有するアクリロニトリル系重合体を紡糸することにより製造される。前駆体繊維のフィラメント数は、製造効率の面では1000フィラメント以上が好ましく、12000フィラメント以上がより好ましい。
得られた前駆体繊維は、加熱空気中200〜260℃で10〜100分間耐炎化処理される。この時の処理は、一般的に、延伸倍率0.85〜1.15の範囲で処理される。
上記耐炎化繊維は、従来の公知の方法を採用して炭素化することができる。例えば、窒素雰囲気下300〜1600℃で炭素化処理を行う。
上記炭素化処理工程は、張力をコントロールすると共に、必要に応じて、複数の炉で所定の物性となるように処理を行っても良い。より高い弾性率が求められる場合は、さらに2000〜3000℃の高温で黒鉛化処理を行ってもよい。
上記のようにして得られた炭素繊維束は、上述のように炭素繊維表面の表面酸素濃度(O/C)が20〜30%になるように表面酸化処理を施す。炭素繊維の表面酸化処理方法としては、液相酸化方法、気相酸化方法などが挙げられるが、液相酸化方法が好ましく、中でも電解溶液中で繊維を電気的に酸化する電解酸化処理を用いることがより好ましい。
電解酸化処理を用いて本発明の炭素繊維チョップドストランドを製造するためには、炭素繊維1gに対して10〜100クーロンになる範囲とすることが好ましく、50クーロン以下の範囲とすることがより好ましい。炭素繊維1gにかかる電気量をこの範囲で調節すると、繊維としての力学的特性に優れ、かつ、樹脂との接着性の向上した炭素繊維を得やすい。一方、炭素繊維1gにかかる電気量が10クーロン未満では、樹脂との接着性が低下しやすい傾向にあり、100クーロンを越えると、過剰な処理により、繊維強度が低下しやすい傾向にある。
電解液の電解質濃度は1〜20質量%が好ましい。電解質濃度が1質量%未満であると、電気伝導度が低いために、電解に適さない傾向があり、一方で、電解質濃度が高すぎる場合は、電解質が析出し、濃度の安定性が低くなる傾向がある。
電解液の温度は、高いほど電気伝導性を向上させるため、処理を促進させることができる。一方で、電解液の温度が40℃を超えると、水分の蒸発による濃度の変動等により、時間変動なく均一な条件を提供するのが難しくなるため、15〜40℃の間が好ましい。
表面処理された炭素繊維束には、上述のようにサイズ剤付与工程において、サイズ剤の正味量として、1.5〜3.0質量%のサイズ剤を付着させる。サイズ剤は、エマルジョン系サイズ剤又は溶媒系サイズ剤が好ましい。サイズ剤は前述のように公知のものが使用できる。これらのサイズ剤のうちでも、耐熱性が高いサイズ剤が好ましい。耐熱性が高いサイズ剤としては、大気中330℃で30分間加熱した時の質量減少率が30%以下のものが好ましく、20%以下のものがより好ましい。特に、ウレタン樹脂系は集束性に優れ、耐熱性にも優れているため好ましい。
液浸法においては、炭素繊維束をサイズ剤液に浸漬する際に、サイズ剤液中に設けられたローラを用いて開繊と絞りが繰り返され、繊維束の中心部までサイズ剤が含浸されるようにすることが好ましい。
サイズ剤が付着した炭素繊維束は、次いで乾燥される。乾燥は、80〜200℃の乾熱空気中に炭素繊維束を通過させる方法が例示される。
また、炭素繊維束は、撚り数が0〜1回/mであることが好ましい。
炭素繊維チョップドストランドは、上記炭素繊維束を所定の長さに切断することにより製造される。
炭素繊維チョップドストランドの長さは、3〜15mmが好ましく、5〜10mmがより好ましい。長さが3mm未満の炭素繊維チョップドストランドは、チョップドストランドの嵩密度が小さくなるため、チョップドストランドの取扱い性が低下しやすい傾向がある。15mmを超える炭素繊維チョップドストランドは、射出成型機やペレット製造用の押出機等にチョップドストランドを供給する際の供給安定性が低下しやすい傾向がある。
炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は高い方が、複合材料を製造する際に成形機に安定して供給しやすいため好ましく、好ましくは500g/L以上である。
上記のようにして得られた本発明の炭素繊維チョップドストランドは、各種熱可塑性樹脂の補強材として公知の各種用途に使用できる。
各測定値は、下記方法により求めた。
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従ってX線光電子分光計(XPS)によって求めることができる。測定には、JEOL社製ESCA JPS−9000MXを使用した。炭素繊維束をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10−6Paの真空度に保った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせる。O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、282〜292eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比で計算して求められる。
サイズ剤の付着した炭素繊維束を約5g採取し、質量(W1)を測定した。予め恒量にした坩堝の質量(W2)を量った後、前記炭素繊維束を坩堝に入れ、窒素雰囲気下450℃±5℃に保たれた熱風循環式乾燥機内で30分熱処理を行った。坩堝ごとデシケーターに入れ室温まで冷却し、炭素繊維束が入った坩堝の質量(W3)を測定した。サイジング剤付着量を次式(1)により求めた。
サイズ剤付着量(%)=(W1+W2−W3)/(W3−W2)×100 (1)
炭素繊維束の交絡数は、フックドロップ法による交絡値(CF値)で定義される。フックドロップ法による交絡値の測定方法は以下の通りである。
炭素繊維束の下端に200gの重りを付けて垂下げる。この炭素繊維束に10gの重りを付けた鉤針を刺し、落下する距離を測定する。50回測定し、最大の値から大きい順に10個、最小の値から小さい順に10個を除き、残る30個の測定値の平均値をX(cm)とする。下式(2)より交絡値(CF値)が算出される。
CF値=100/X (1/m) (2)
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA 2000Sを用い、空気流量100mL/分、昇温速度10℃/分、測定温度域25〜350℃、試料重量(チョップドストランド)40mgにて測定し、330℃での重量減少率(%)をガス発生量とした。
500mLのビーカーに、その上方30cmの高さより、炭素繊維チョップドストランドを落としてビーカー上端を超えて山盛り状態になるまで充填した。その後、500mLのビーカーの上端以上に盛り上がっている炭素繊維チョップドストランドをガラス棒を用いてすり切りまで除去し、このときの炭素繊維チョップドストランドの質量(W4)を測定した。さらに、この炭素繊維束を2000mLのメスシリンダーに移し、密閉し、メスシリンダーの軸を中心軸として、20分間25rpmで回転した。メスシリンダーの回転を停止し、試料を篩(チョップ長が1〜5mmの場合は5メッシュ、チョップ長が6〜10mmの場合は4メッシュ)に移し、試料が篩の目から落下しなくなるまで前後左右に動かして篩分けした。篩に残ったフリーファイバーを採取し、その質量(W5)を測定し、フリーファイバー発生率を次の式(3)により算出した。
フリーファイバー発生率(%)=(W5/W4)×100 (3)
炭素繊維チョップドストランドを1片取り出し、100mLビーカーに入った25℃のアセトン50mL中に投入し、マグネチックスターラー(株式会社石井商店製)で2cmの撹拌子を用い、2000回転/分で3分間撹拌した。攪拌後、光学顕微鏡(OLYMPUS社製)を用いて観察し、単繊維が同一方向に並んでまとまっている直径が50μm以上の繊維束の本数を測定し、チョップドストランドに含まれるフィラメント1000本あたりの本数をN50として求めた。同様の測定を5回行い、その平均値を用いて評価した。
チョップドストランドカット時の不良発生評価は、チョップドストランド製造過程の切断工程の直後に孔径5mmの篩を設置し、製造された全てのチョップドストランドを、振動を与えながら篩にかけ評価した。孔径5mmの篩を通過しないチョップドストランドが確認された場合には、不良発生とした。
炭素繊維チョップドストランドとポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成社製 パンライトL−1250Y)を、炭素繊維が30質量%になるようにドライブレンドした後、ベント式押出機にて、溶融混練して、炭素繊維含有ポリカーボネートペレットを得た。得られたペレットを射出成形にて試験片を成形し、JIS K7074に従い、曲げ強度を評価した。
前駆体繊維であるPAN繊維(単繊維繊度0.7dtex、フィラメント数24000)を、空気中250℃で、繊維比重1.35になるまで耐炎化処理を行い、次いで窒素ガス雰囲気下、最高温度650℃で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1300℃で高温炭素化させて製造した炭素繊維束を、10.0質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用い、電解溶液温度30℃、表1に記載の電気量で電解酸化により表面処理を行い、実質的に無撚りの炭素繊維束(引張強度4000MPa、引張弾性率240GPa、フィラメント数24000本、単繊維直径7μm)を得た。表面処理を行った炭素繊維束の繊維表面に付着している水分を平ローラ上でのブロアーによる風を用いた除去方法で処理した。この時のブロアー風温度は30℃として処理した。
得られた炭素繊維束に対して、表1に記載の工程張力をかけながら、ウレタンエマルジョン系サイズ剤((株)DIC社製 1230N)を付与した。分散剤を含まない状態のサイズ剤樹脂を、大気中330℃で30分間加熱した時の質量減少率は15%であった。
サイズ剤を付与した炭素繊維束を120℃の熱風乾燥機で乾燥させた。炭素繊維束の交絡数は、2個/mであった。得られた炭素繊維束を、6mmの長さに切断し、嵩密度520g/Lの炭素繊維チョップドストランドを製造した。得られた炭素繊維チョップドストランドの特性、曲げ特性を表1にまとめた。何れも良好なチョップ特性を示した。
実施例と同様にして、表1に記した条件でチョップドストランドを作製したが、いずれのチョップドファイバーも良好な結果を示すことができなかった。
比較例1では、表面処理後の付着水除去を行わなかったため、サイズ剤が炭素繊維束に均一に付着せず、その結果、フリーファイバー発生率が高くなった。さらに、サイズ剤が均一に付着していなかったため、繊維束の分散性も悪く、未分散繊維束発生数が高くなった。そのため、比較例1のチョップドストランドを用いて製造したコンポジットの物性は低いものであった。
比較例2では、サイズ剤付着工程張力が2.5g/texと強すぎたため、サイズ剤が炭素繊維束に均一に付着せず、カット不良が発生し、フリーファイバー発生率が高くなった。さらに、サイズ剤が均一に付着していなかったため、繊維束の分散性も悪く、未分散繊維束発生数が高くなった。そのため、比較例2のチョップドストランドを用いて製造したコンポジットの物性は低いものであった。
比較例3では、サイズ剤の付着量が低かったため、カット不良が発生し、フリーファイバー発生率が高くなり、得られたチョップドストランドの取扱い性が悪かった。
比較例4では、サイズ剤の付着量が高すぎたため、炭素繊維束の分散性が悪くなり、未分散繊維束発生数が高くなった。また、チョップドストランドの質量減少率も高く、チョップドストランドからの分解ガスの発生量が増加した。そのため、比較例4のチョップドストランドを用いて製造したコンポジットの物性は低下してしまった。
Claims (2)
- サイズ剤を付与する前に炭素繊維束に付着している水分を除去し、次いで炭素繊維束1Texあたり0.5〜1.6gの張力をかけながら乾燥後のサイズ剤付着量が1.5〜3.0質量%になるようにサイズ剤を付与することを特徴とする炭素繊維チョップドストランドの製造方法。
- サイズ剤を付与する前に、炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)が、20〜30%になるように表面処理を行う請求項1に記載の炭素繊維チョップドストランドの製造方法。
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