JP3976818B2 - ビニルアルコール系重合体の製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は変性ビニルアルコール系重合体の新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)は数少ない結晶性の水溶性高分子として優れた界面特性および強度特性を有することから、紙加工、繊維加工およびエマルジョン用の安定剤に利用されているほか、PVA系フィルムおよびPVA系繊維等の原料として重要な地位を占めている。また、結晶性を制御したり、官能基を導入して特定の性能を向上させる高機能化が検討されている。
【0003】
変性PVAの製造方法としては、(1)官能基を有するモノマーを酢酸ビニルと共重合した後、けん化することにより、側鎖に官能基を導入する方法;(2)高分子反応により、PVAの側鎖に官能基を導入する方法;(3)連鎖移動反応を利用して官能基を末端に導入する方法等が知られている。
しかしながら、(1)および(3)の方法は、ビニルエステルモノマーの重合性が低く、PVAを得るためには加水分解が必要となることから、導入可能な官能基が限定される。また、従来の変性PVAにおける官能基は、PVAの主鎖に直接結合しているか、あるいはPVAの主鎖に非常に近いために、ビニルアルコール単位の水酸基との分子内相互作用の影響やPVAの主鎖の分子運動の影響を受けやすいことから、官能基の機能を十分に発揮できない場合が多い。また、(2)の方法は、コストなどの問題で、工業的規模での実施は限定されていた。
すなわち、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、シラノール基、ボロン酸基、ふっ素基、水酸基、炭化水素基およびエチレン性不飽和二重結合などの官能基をPVAに導入する方法は知られていたが、従来の方法によりPVAに導入された官能基は、PVAの水酸基との分子内相互作用の影響およびPVAの主鎖の分子運動の影響を受け易いことから、官能基として機能が十分に発現できないことが多い。
また、フェノール性水酸基、フェニル基、ナフタレン基、共役ジエンなどの官能基の場合には、ポリビニルアセタールに導入する方法は知られていたが、PVAに導入する方法は全く知られていない。
一方、アミノ酸基、フェノキシ基の場合には、PVAに導入する方法は全く知られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、反応性、架橋性、イオン的相互作用、水溶性、界面物性または低温での柔軟性などに優れた各種の官能基を有する変性ビニルアルコール系重合体の製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、従来の方法では得ることのできなかった各種の官能基を有する変性ビニルアルコール系重合体の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題について鋭意検討した結果、チオエステル基もしくはチオール基を有するビニルエステル系重合体に、エポキシ基を有する化合物を反応させ、けん化することを特徴とするビニルアルコール単位の含有量が50〜99.9モル%のビニルアルコール系重合体の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に使用するチオエステル基もしくはチオール基を有するビニルエステル系重合体は、ビニルエステルモノマーとチオエステル基を有するモノマーとをラジカル共重合する方法、あるいはビニルエステルモノマーと保護されたチオール基を有するモノマーとをラジカル共重合した後、保護基を脱離させる方法により得られる。
【0007】
また、チオ酢酸、チオ安息香酸などのチオカルボン酸、2−アセチルチオエタンチオール、2−ベンゾイルチオエタンチオール、10−アセチルチオデカンチオール、10−ベンゾイルチオデカンチオールなどのジチオールのモノアセテートあるいはモノベンゾエートなどを連鎖移動剤に用いて、ビニルエステルモノマーをラジカル重合することにより得られる片末端にチオエステル基を有するビニルエステル系重合体、および該重合体から誘導される片末端にチオール基を有するビニルエステル系重合体も使用することができる。
【0008】
ビニルエステルモノマーとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0009】
チオエステル基あるいは保護されたチオール基を有するモノマーとしては、チオ酢酸ビニル、チオ安息香酸ビニル、チオ酢酸アリル、チオ安息香酸アリル、アリル−2−ヒドロキシ−3−アセチルチオプロピルエーテル、アリル−2−ヒドロキシ−3−ベンゾイルチオプロピルエーテル、1−アセチルチオ−2−ヒドロキシ−3−ブテン、1−ベンゾイルチオ−2−ヒドロキシ−3−ブテン、1−アセチルチオ−2−ヒドロキシ−5−ヘキセン、1−ベンゾイルチオ−2−ヒドロキシ−5−ヘキセン、1−アセチルチオ−2−ヒドロキシ−7−オクテン、1−ベンゾイルチオ−2−ヒドロキシ−7−オクテン、1−アセチルチオ−2−ヒドロキシ−9−デセン、1−ベンゾイルチオ−2−ヒドロキシ−9−デセン、N−(3−アセチルチオ−2−ヒドロキシプロピル)−アクリルアミド、N−(3−アセチルチオ−2−ヒドロキシプロピル)−メタクリルアミド、N−(3−アセチルチオ−2−ヒドロキシプロピルオキシメチル)アクリルアミド、N−(3−アセチルチオ−2−ヒドロキシプロピルオキシメチル)メタクリルアミド、2−ヒドロキシ−3−アセチルチオ−プロピルメタクリレート、アリルイソチウロニウムクロリドなどが挙げられる。
【0010】
チオエステル基もしくはチオール基を有するビニルエステル系重合体のチオエステル基もしくはチオール基の含有量は、0.01〜30モル%が好ましく、0.02〜20モル%がより好ましく、0.05〜15モル%が特に好ましい。
チオエステル基もしくはチオール基を有するビニルエステル系重合体の粘度平均分子量(Mv)は、103 〜2000×103 が好ましい。なお、粘度平均分子量(Mv)は、30℃のアセトン中で測定した極限粘度の値[η]から、下記の式により計算される。
極限粘度[η](dl/g)=5×10-4×Mv0.62
【0011】
チオエステル基もしくはチオール基を有するビニルエステル系重合体は、上記以外の単量体を含有することも差し支えない。このような単量体単位としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸などの不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩などのアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩などのメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシランなどのビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコールなどが挙げられる。
【0012】
本発明に使用するエポキシ基を有する化合物としては、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、メタノール(POE)nグリシジルエーテル(n=1〜30)、フェノール(POE)nグリシジルエーテル(n=1〜30)、ラウリルアルコール(POE)nグリシジルエーテル(n=1〜30)、メタノール(POP)nグリシジルエーテル(n=1〜30)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、(POE)nジグリシジルエーテル(n=1〜30)、(POP)nジグリシジルエーテル(n=1〜70)、(ポリオキシテトラメチレングリコール)nジグリシジルエーテル(n=1〜30)、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルポリグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、ブタジエンモノエポキサイド、ブタジエンジオキシド、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,5−ヘキサジエンジオキシド、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,7−オクタジエンジオキシド、1,2−エポキシ−9−デセン、1,9−デカジエンジオキシド、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、8−ヒドロキシ−6、7−エポキシ−1−オクテン、8−アセトキシ−6、7−エポキシ−1−オクテン、N−(2,3−エポキシ)プロピルアクリルアミド、N−(2,3−エポキシ)プロピルメタクリルアミド、4−アクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、3−アクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、4−メタクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、3−メタクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、3−メチル−3,4−エポキシブトキシメチロールアクリルアミド、N−グリシドキシメチルアクリルアミド、N−グリシドキシメチルメタクリルアミド、N−グリシドキシエチルアクリルアミド、N−グリシドキシエチルメタクリルアミド、N−グリシドキシプロピルアクリルアミド、N−グリシドキシプロピルメタクリルアミド、N−グリシドキシブチルアクリルアミド、N−グリシドキシブチルメタクリルアミド、4−アクリルアミドメチル−2,5−ジメチル−フェニルグリシジルエーテル、4−メタクリルアミドメチル−2,5−ジメチル−フェニルグリシジルエーテル、アクリルアミドプロピルジメチル(2,3−エポキシ)プロピルアンモニウムクロリド、メタクリルアミドプロピルジメチル(2,3−エポキシ)プロピルアンモニウムクロリド、3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパン、3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン、3−パーフルオロオクチル−1,2−エポキシプロパン、3−パーフルオロデシル−1,2−エポキシプロパン、3−(パーフルオロ−2 −メチルブチル)−1,2−エポキシプロパン、3−(パーフルオロ−2 −メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン、3−(パーフルオロ−2 −メチルオクチル)−1,2−エポキシプロパン、3−(パーフルオロ−3−メチルデシル)−1,2−エポキシプロパン、3−(1H, 1H, 5H−オクタフルオロペンチロキシ)−1,2−エポキシプロパン、3−(1H,1H,5H−ドデカフルオロヘプチロキシ)−1,2−エポキシプロパン、3−(1H,1H,5H−ヘキサデカフルオロノニロキシ)−1,2−エポキシプロパン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。(なお、POEはポリオキシエチレンを意味し、POPはポリオキシプロピレンを意味し、nはPOEおよびPOPの重合度を意味する。)
【0013】
その他のエポキシ基を有する化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル類が挙げられる。また、ビニルモノマー(但し、ビニルエステルを除く)と、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、ブタジエンモノエポキサイド、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、N−(2,3−エポキシ)プロピルアクリルアミド、N−(2,3−エポキシ)プロピルメタクリルアミド、N−(グリシドキシ)メチルアクリルアミド、N−(グリシドキシ)メチルメタクリルアミドなどのエポキシ基を有するビニルモノマーとをラジカル共重合することにより得られるエポキシ基を有する重合体も使用できる。
これらのエポキシ基を有する化合物は、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
チオエステル基もしくはチオール基を有するビニルエステル系重合体とエポキシ化合物との反応は、無溶媒、またはエポキシ基を有する化合物を溶解し、チオエステル基もしくはチオール基を有するビニルエステル系重合体を溶解もしくは膨潤させる溶剤中で実施される。このような溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;n−ヘキサン等の炭化水素類;水等が挙げられる。これらの溶剤は、単独もしくは混合して使用される。
【0015】
チオール基もしくはチオエステル基を有するビニルエステル系重合体とエポキシ基を有する化合物との反応条件は、通常、溶剤を使用する場合のポリマー濃度5〜90%、エポキシ基の濃度/チオエステル基もしくはチオール基の濃度=1.0〜5.0(モル比)、反応温度0〜250℃、反応時間0.01〜20時間である。
チオール基との反応では、3級アミン(例えばトリエチルアミン、ピリジン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アンモニア)、ホスフィン(例えばトリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン)、水酸化ナトリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロオキサイド、ナトリウムメチラート等の塩基性化合物が反応触媒として有効である。チオエステル基との反応では、トリブチルアンモニウムクロリド、トリブチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩が反応触媒として有効である。
また、チオール基の酸化を防止するために、反応系の脱気または窒素置換をしたり、酸化防止剤等を添加することもできる。
【0016】
けん化反応は、塩基性触媒または酸触媒を用いた通常のポリビニルエステルのけん化反応が適用できる。すなわち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート等の塩基性触媒、あるいはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いて、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコールあるいはグリコールを溶媒に用いて、けん化反応が行われる。この場合、ビニルエステル系重合体や触媒の溶解性を向上するために、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、アセトン、水等の溶剤が適宜混合して使用される。けん化反応の条件は、通常、触媒濃度/ビニルエステル単位濃度=0.001〜1.2(モル比)、反応温度0〜180℃、反応時間0.1〜20時間の範囲である。
本発明におけるけん化反応は、チオエステル基もしくはチオール基とエポキシ化合物との反応中あるいは反応終了後に行う。
【0017】
本発明の製造方法によれば、従来の方法では得ることのできなかった各種の官能基を有する変性PVA、PVA系重合体を一成分とするブロックポリマーおよびグラフトポリマーが得られる。
【0018】
本発明の製造方法により得られるビニルアルコール系重合体の分子量は、該重合体の4%のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液の20℃の粘度(B型粘度計で測定)で表して、3〜20,000cpの範囲が好ましく、3〜10,000cpの範囲がより好ましく、3〜5000cpの範囲がより好ましい。また、ビニルアルコール単位の含有量は50〜99.9モル%である。
【0019】
本発明で得られるビニルアルコール系重合体は、繊維糊剤、繊維処理剤、繊維加工剤、クリアーコーテイング、クレーコーティング等の紙コーティング剤用バインダー、感熱紙のオーバーコート用バインダー等の紙加工剤、有機、無機顔料用の分散剤、エマルジョン用重合分散安定剤、塩ビ等の懸濁重合用分散安定剤、セラミックス用バインダー、画像形成材料、感光性樹脂、ホルマールやブチラール等のビニルアセタール用原料、フィルム、繊維等に使用される。
該ビニルアルコール系重合体は、単独で使用される他に、無変性PVA、他の変性PVA、でんぷん(およびその変性物)、セルロース誘導体、ガム類、ゼラチン、カゼイン等の各種のポリマー、可塑剤、架橋剤などと併用される。
【0020】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の「部」および「%」は、特に断わりのない限り、重量部基準を意味する。
【0021】
(片末端にチオエステル基を有するビニルエステル系重合体)
合成例1
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管および温度計を備えた反応器に、酢酸ビニルモノマー440部とメタノール110部を仕込み、窒素ガスを15分バブリングして脱気した。別途、チオ酢酸0.25部をメタノール10部に溶解したチオールの初期添加液、チオ酢酸3.8部にメタノールを加えて全量を40部にしたチオールの連続添加液およびメタノール50部に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.16部を溶解した開始剤溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。
反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、別途調製したチオ酢酸の初期添加液と開始剤溶液をこの順序に添加し重合を開始した。直ちにチオ酢酸の連続添加液の添加を開始し、重合を続けた。チオ酢酸の連続添加は、重合の進行に伴う反応器内の固形分濃度の増加にあわせて下記の表1の値を目標に実施した。なお、固形分濃度はサンプリングにより重量法でチェックした。
【0022】
【表1】
【0023】
チオ酢酸を連続添加しながら重合を4時間行い、冷却して重合を停止した。この時の固形分濃度は50.1%であった。
次に、30℃の減圧下で、メタノールを時々添加しながら、未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度53.2%)を得た。このメタノール溶液の一部をエーテル中に投入してポリマーを回収し、アセトン−エーテルで再沈−精製を2回繰り返した後、40℃で減圧乾燥した。
この精製ポリマーについて、CDCl3 を溶媒にしてプロトンNMR(日本電子製、GSX-270 )測定およびアセトン中の極限粘度測定(JIS)を実施した。その結果、粘度平均分子量31×103 の片末端にアセチルチオ基を有するポリ酢酸ビニル重合体であることが判明した。
【0024】
(側鎖にチオエステル基を有するビニルエステル系重合体の合成例)
合成例2
合成例1と同様の反応器に、酢酸ビニルモノマー405部、チオ酢酸アリル11.2部およびメタノール30部を仕込み、窒素ガスを15分バブリングして脱気した。別途、メタノール15部に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル4.5部を溶解した開始剤溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。
反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、別途調製した開始剤溶液を添加し重合を開始した。重合を4時間行い、冷却して重合を停止した。この時の固形分濃度は56.2%であった。
次に、30℃の減圧下で、メタノールを時々添加しながら、未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度48.5%)を得た。
合成例1と同様にして精製したポリマーは、チオ酢酸アリル単位(チオエステル基)を2.3モル%含有する粘度平均分子量87×103のポリ酢酸ビニル共重合体であった。
【0025】
合成例3〜9
合成例2と同様にして(但し、ビニルエステルモノマーの種類や量、メタノールの量、開始剤の種類や量、未反応ビニルエステルモノマーの除去にn−ブタノールの併用など適宜条件を変更)、表2に示すチオエステル基を有するビニルエステル系重合体を得た。
【0026】
【表2】
【0027】
(エポキシ基を有する重合体の合成例)
合成例10
合成例1と同様の反応器に、メタクリル酸メチルモノマー450部、メタクリル酸グリシジル18部およびトルエン485部を仕込み、窒素ガスを15分バブリングして脱気した。別途、トルエン15部に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル4.5部を溶解した開始剤溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。
反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、別途調製した開始剤溶液を添加し重合を開始した。重合を4時間行い、冷却して重合を停止した。この時の固形分濃度は34.5%であった。重合液を2000部のn−ヘキサンに投入してポリマーを回収し、トルエン/n−ヘキサンで再沈−精製を2回繰り返した後、40℃で減圧乾燥した。
この精製ポリマーについて、CDCl3を溶媒にしてプロトンNMR(日本電子製、GSX−270)測定およびトルエン中の極限粘度測定を実施し、粘度平均分子量を算出した。その結果、アリルグリシジルエーテル単位(エポキシ基)を2.0モル%含有する粘度平均分子量85×103のメタクリル酸メチル共重合体であることが判明した。
【0028】
実施例1
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管および温度計を備えた反応器に、合成例1で得た片末端にチオエステル基を有する重合体のメタノール溶液(濃度44.5%)100部と、下記の化1(但し、R1,R2,R3およびR4=H,A=C(CH3)2,n=2)で表される両末端にエポキシ基を有する化合物(油化シェルエポキシ(株)製、商品名:エピコート1001)1.3部を酢酸メチル30部に溶解したものを仕込み、15分窒素ガスをバブリングした後、水酸化ナトリウム0.1部をメタノール18部に溶解したものを仕込んだ。攪拌しながら40℃で1時間反応させた後、同温度にて濃度10%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液20部を添加し、けん化反応を行った。40℃で5時間放置後、粉砕し、酢酸3部を加えて中和した。
ソックスレー抽出器を用いて、テトラヒドロフランで48時間洗浄した後、60℃で20時間乾燥することにより、ビニルアルコール系ブロック共重合体を得た。該重合体のIR測定およびプロトンNMR(d6−DMSO)測定を行ったところ、エポキシ基は完全に消失しており、PVA成分とポリフェノキシ成分とからなるブロック共重合体(ポリフェノキシ成分の含有量5.4%、PVA成分のビニルアルコール含有量98.7モル%)であることが判明した。また、該ポリマー濃度4%のDMSO溶液を調製し、20℃で粘度を測定したところ、36.1cpであった。
【0029】
【化1】
【0030】
実施例2〜6
表3に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、変性ビニルアルコール系重合体を得た。条件と結果を表3に示す。
【0031】
実施例7
実施例1と同様の反応器に、合成例2で得た側鎖にチオエステル基を有する重合体のメタノール溶液(濃度48.5%)100部を仕込み、15分窒素ガスをバブリングした後、トリエタノールアミン2部を添加して、30℃で1時間攪拌した。次に、フェニルグリシジルエーテル13.5部をメタノール48部に溶解したものを仕込んだ。攪拌しながら、50℃で2時間反応させた後、40℃に冷却してから、濃度10%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液40部を添加し、けん化を行った。40℃で5時間放置した後、粉砕し、酢酸8部を加えて中和した。
実施例1と同様にして、精製したポリマーは、エポキシ基は完全に消失しており、2.3モル%のフェニル基の導入が確認され、ビニルアルコール単位の含有量は96.6モル%であった。また、、該ポリマー濃度4%のDMSO溶液を調製し、20℃で粘度を測定したところ、60.1cpであった。
【0032】
実施例8〜15
表3に示す条件に変更したこと以外は、実施例7と同様にして、変性ビニルアルコール系重合体を得た。条件と結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
(表3の脚注)
(*1)10%水酸化カリウムのメタノール溶液を使用
POEDGE:POE(n=10)ジグリシジルエーテル
LPOEGE:ラウリルアルコールPOE(n=15)グリシジルエーテル
FOE:3−(パーフルオロ−2−メチルオクチル)−1,2,−エポキシプロパン
TELA:トリエタノールアミン
PTGDGE:PTG(n=18)ジグリシジルエーテル
STO:スチレンオキシド
AGE:アリルグリシジルエーテル
MGE:メチルグリシジルエーテル
MPOEGE:メタノールPOE(n=10)グリシジルエーテル
CHO:シクロヘキセンオキシド
2−EHGE:2−エチルヘキシルグリシジルエーテル
PGGE:ポリグリセリングリシジルエーテル
TBAC:テトラエチルアンモニウムクロリド
NaOH:水酸化ナトリウム
THF:テトラヒドロフラン
VA:ビニルアルコール単位
【0035】
【発明の効果】
本発明によると、従来の方法ではPVAに導入することができなかったか、あるいは困難であったアミノ酸基、フェノール性水酸基、フェニル基、フェノキシ基、ナフタレン基、共役ジエンなどの官能基を、PVAに導入することができる。
また、本発明によると、アミノ基、アミノ酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、シラノール基、ボロン酸基、ふっ素基、水酸基、炭化水素基、フェノール性水酸基、フェニル基、フェニレン基、フェノキシ基、ナフタレン基、エチレン性不飽和二重結合および共役ジエンなどの官能基の機能が十分に発現する変性ビニルアルコール系重合体が得られる。すなわち、本発明によると、下記の化2で表される化学構造形態により、PVAに官能基を導入することができる。
【0036】
【化2】
【0037】
(ここで、化2におけるR1,R2およびR3は水素原子または置換基を有していてもよい炭素数8以下の炭化水素基を表し、Sは硫黄原子を表し、Xは官能基を含有する一価の基を表す。)
その結果、官能基の種類を選択することにより、反応性、架橋性、イオン的相互作用、水溶性、界面物性または低温での柔軟性などに優れた変性ビニルアルコール系重合体が得られる。
また、本発明によると、比較的マイルドな反応条件(反応溶剤として一般的に使用されているメタノールの沸点以下の温度である60℃以下で、エポキシ基とチオエステル基もしくはチオール基との比がほぼ等モルの条件)で、上記の官能基を効率的にPVAに導入することができる。
Claims (1)
- チオエステル基もしくはチオール基を有するビニルエステル系重合体に、エポキシ基を有する化合物を反応させ、けん化することを特徴とするビニルアルコール単位の含有量が50〜99.9モル%のビニルアルコール系重合体の製造方法。
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