JP3883425B2 - 耐水性ポリビニルアルコール系共重合体およびそれを用いて得られる合成樹脂エマルジョン - Google Patents
耐水性ポリビニルアルコール系共重合体およびそれを用いて得られる合成樹脂エマルジョン Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は飽和環状アルキル基を有する耐水性を改良した、新規なビニルアルコール系共重合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来分子内にビニルアルコール単位を有するビニルアルコール系重合体としてはポリビニルアルコール(以下「PVA」と略記する)が知られており、各種用途に使用されている。しかし、PVAは水溶性である為、耐水性を改善するための種々の方法が検討されてきた。
例えば、完全けん化のPVAを使用する方法が知られている。しかし、この場合にはPVA水溶液の粘度安定性が悪い等の問題を有している。また、部分けん化のPVAを使用すると、PVA水溶液の粘度安定性は良好であるが、耐水性が不充分である等の問題点を有している。
【0003】
また、PVAを耐水化する方法として、グリオキザール、グルタルアルデヒドあるいはジアルデヒドデンプン、水溶性エポキシ化合物、メチロール化合物等で架橋させる方法が知られている。しかしながらこの方法でPVAを十分耐水化するためには、高温で長時間熱処理することが必要であり、PVAの水溶液の粘度安定性が悪い等の問題を有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、側鎖に飽和環状アルキル基を有する新規なビニルアルコール系重合体を提供するものであり、完全けん化PVAに見られる高い耐水性能を示し、かつ水溶液の粘度安定性に優れている必要がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、環状アルキル基を側鎖に有する新規なビニルアルコール系重合体が、上記の課題を解決する重合体であることを見出した。このビニルアルコール系重合体は、環状アルキル基を有するビニルエーテルと酢酸ビニルを共重合した後、けん化する事により得ることができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明のビニルアルコール系重合体は分子内にビニルアルコール単位と側鎖に環状アルキル基を有するものである。
【0007】
本発明のビニルアルコール系重合体を分散剤用途、接着剤用途、被覆材用途、乳化剤用途、増粘剤用途、凝集剤用途、成形物用途、土壌改良剤用途、感光剤用途の各分野において用いる場合、その粘度平均重合度(以下「重合度」と略記する)が100〜10000のものを好適に使用することができ、より好ましくは200〜6000、更に好ましくは300〜3000の範囲にあるものである。重合度が100未満の場合はビニルアルコール系重合体としての特徴が出ず、重合度が10000を超える場合は粘度が高すぎて工業的な生産がし難くなる。
【0008】
耐水性ビニルアルコール系重合体のけん化度は、90.0モル%以上であり、92.0モル%以上が好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、耐水性ビニルアルコール系重合体の結晶性が低下し、高い耐水性が得られない。
【0009】
環状アルキル基の含有量はビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位の合計量に対し0.1〜8モル%のものを使用することができる。より好ましくは0.2〜4モル%、更に好ましくは0.3〜3モル%である。0.1モル%未満ではビニルアルコールの共重合効果に乏しく、8モル%を超えるとPVAの水に対する良好な溶解性が失われる。
【0010】
本発明のビニルアルコール系重合体は飽和環状ビニルエーテルと酢酸ビニルを共重合し、それをけん化することにより得ることができる。使用される飽和環状ビニルエーテルは、シクロへキシルビニルエーテル、2メチルシクロへキシルビニルエーテル、3メチルシクロへキシルビニルエーテル、2ヒドロキシシクロへキシルビニルエーテル、3ヒドロキシシクロへキシルビニルエーテルである。
【0011】
酢酸ビニルと飽和環状ビニルエーテルを共重合するには、これら不飽和単量体を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で重合させる。なかでも無溶媒あるいはメチルアルコールやエチルアルコール等の低級アルコール等の溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が、工業的に好適である。この場合重合に影響を及ぼさない範囲でアセトン、酢酸メチル、トルエン等の溶剤を含んでいても差し支えない。共重合に使用される開始剤としては2、2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下「AIBN」と略記する)、2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネート等のアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知のラジカル重合開始剤が挙げられる。また重合温度は特に制限はないが、40℃から溶媒あるいはモノマーの沸点程度の範囲が好適である。
【0012】
重合は不飽和単量体、溶媒、開始剤を反応缶に仕込み、系内の溶存酸素を窒素ガスのバブリングにより追い出しを行い、所定の温度に反応缶内温を上げ、目標とする重合率まで反応させ、冷却して重合を停止する公知の反応方法で共重合することができる。飽和ビニルエーテルの一部を始めに仕込み、残りを分割して添加したり、連続的に添加する方法も可能である。
【0013】
本発明のビニルアルコール系重合体は、本発明の目的を阻害しない範囲で他の単量体を、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位の合計に対し30モル%以下の範囲で共重合することも可能である。それらの単量体を以下に例示する。
(1)カルボン酸のビニルエステル類:
酢酸ビニル以外のギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ピバリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等。
(2)アルキルアリルエーテル類:
プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル、オクチルアリルエーテル、デシルアリルエーテル、ドデシルアリルエーテル、テトラデシルアリルエーテル、ヘキサデシルアリルエーテル、オクタデシルアリルエーテル等。
(3)飽和カルボン酸のアリルエステル類:
ステアリン酸アリル、ラウリン酸アリル、ヤシ油脂肪酸アリル、オクチル酸アリル、酪酸アリル等。
(4)α−オレフィン類:
エチレン、プロピレン、α−ヘキセン、α−オクテン、α−デセン、α−ドデセン、α−ヘキセン、α−オクタデセン等。
(5)その他:
(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アリルスルホン酸塩、(メタ)アクリル酸又はそのアルキルエステル等。
【0014】
重合終了後、アルコール蒸気で未反応モノマーを取り除き、共重合体のアルコール溶液をけん化することにより目的のビニルアルコール系重合体を得ることができる。アルコール中の共重合体の濃度は、通常20〜50重量%である。
【0015】
前記により得られた共重合体はアルコール、場合により含水アルコールに溶解された状態で公知の方法により水酸化ナトリウムやナトリウムアルコラート等のアルカリ触媒をもちいてけん化し、ビニルアルコール系重合体を製造することが出来る。これら触媒の使用量は共重合体に対して1/10〜1/300モル当量の範囲が好ましい。尚けん化反応の温度は特に制限がないが、通常20〜60℃の範囲が好ましい。
【0016】
けん化終了後のビニルアルコール系重合体は脱アルコール処理を行い、乾燥により溶剤を除去し、目的とするビニルアルコール系重合体を得ることが出来る。
【0017】
かくして得られたビニルアルコール系重合体は種々の用途に使用されるので、以下にその例を具体的に挙げる。
(1)分散剤用途:
塗料、墨汁、水彩カラー、接着剤等の有機・無機顔料の分散安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等の各種ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤および分散助剤。
(2)接着剤用途:
木材、紙、アルミ箔、プラスチック等の接着剤、粘着剤、再湿接着剤、不織布用バインダー、繊維バインダー、石膏ボードや繊維板等の各種建材用バインダー、各種粉体造粒用バインダー、セラミックスバインダー、セメントやモルタル用添加剤、ホットメルト接着剤、感圧接着剤、染料の固着剤。
(3)被覆剤用途:
紙のクリアーコーティング剤、紙の顔料コーティング剤、紙の内添サイズ剤、感熱記録紙用バインダー、繊維製品用サイズ剤、経糸糊剤、繊維加工剤、皮革仕上剤、塗料、防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤。
(4)乳化剤用途:
エチレン系不飽和化合物、ブタジエン系不飽和化合物の乳化重合用乳化剤、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂等の疎水性樹脂、エポキシ樹脂、パラフィン、ピチュメン等の後乳化剤。
エチレン系不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、ビニルスルホン酸等の不飽和酸;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミドおよびそのN−メチロール化合物、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等があげられ、これらは単独でもしくは二種以上混合して用いられる。
(5)凝集剤用途:
水中懸濁物および溶存物の凝集剤、パルプスラリーの濾水性向上剤。
(6)成形物用途:
繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、ケミカルレース用水溶性繊維、スポンジ
(7)感光剤用途:
【0018】
【実施例】
次に実施例および比較例により、本発明を詳細に説明する。以下の実施例および比較例において「部」と記載のあるものは重量部を示し、「%」と記載のあるものは重量%を示す。
また、得られた本出願のポリビニルアルコール系共重合体の分析、耐水性、エマルジョンの耐水性を下記の要領で評価した。
【0019】
ビニルアルコール系重合体中の飽和環状アルキル基単位は、400MHz 1H−NMRにより定量した。1H−NMR測定時のビニルアルコール系重合体の溶媒はD2Oを使用した。また、酢酸ビニル単位のケン化度は、JIS K 6726に従い測定した。
【0020】
(1)粘度平均重合度測定
けん化度が99.5モル%未満の場合は、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、溶媒としてイオン交換水を用いてオストワルド粘度計により30℃で測定した極限粘度[η](g/dl)から、次式により粘度平均重合度(P)を求めた。
【0021】
【式1】
【0022】
(2)フィルム耐水性の評価
溶解濃度が10%になるように、所定のPVAを蒸留水中に分散させた後、温度95℃で1時間加熱攪拌を行ってPVA水溶液を調整し、次いで、20℃に冷却してキャスト製膜して厚さ100ミクロンの膜を作成した(a)。
得られた膜の一部を、105℃で2時間熱処理を行った(b)。
試験体膜(a,b)を20℃の水中に1時間浸漬後に取り出し、乾燥して重量を測定して溶解率を算出した。すなわち、溶解率100%で皮膜は完全に溶解し、溶解率0%で皮膜は溶解せずフィルム耐水性に優れていることになる。
【0023】
(3)エマルジョンの評価
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素導入口を備えたガラス製重合容器にイオン交換水455重量部を加え、耐水性ビニルアルコール系共重合体35重量部を添加して、加熱攪拌し溶解した。その後、重合容器内温度を70℃にして、過硫酸カリウム0.05重量部を添加した。次に酢酸ビニル420重量部を3時間かけて連続的に添加した。連続添加終了後、過硫酸カリウム0.05重量部を追加して1時間熟成反応を行い、重合を完結した。
得られたエマルジョンは、JIS K 6828に準じて水可溶分試験により皮膜耐水性を評価した。すなわち溶解率100%で皮膜は完全に溶解し、溶解率0%で皮膜は溶解せず皮膜耐水性に優れる事になる。
またエマルジョンの低温安定性は、30℃での初期粘度(η30℃)と5℃で1日間放置後の5℃での粘度(η5℃)との比(低温増粘倍率=η5℃/η30℃)を求め、3以上を良好(○)、3以下を不良(×)とした。測定は、B型粘度計(回転数10rpm)を用いて行った。
【0024】
(実験例1)還流冷却器、モノマー添加口、温度計、サンプリング口、窒素導入口、撹拌機を備えた1リットルの重合缶に酢酸ビニル2250部、シクロへキシルビニルエーテル40部、メタノール563部を仕込み、撹拌しながら窒素を吹き込み脱酸素を行った。その後加温し缶内温度が62℃にて安定したところで、メタノール25部にAIBN1.5部を溶解したメタノール溶液25部を加え重合を開始した。系内の固形分濃度を分析しつつ重合を行い、6時間後に重合缶を冷却し重合を停止した。その時の重合率は70%であった。その後メタノール蒸気で未反応モノマーを除き、酢酸ビニル/シクロへキシルビニルエーテル共重合体のメタノール溶液を得た。次にこのメタノール溶液の濃度が50%になるように調整し、35℃に温度調節したニーダーで撹拌しながら、水酸化ナトリウムの濃度が10%のメタノール溶液387mlを加え、3時間けん化を行った。得られたビニルアルコール系重合体をメタノールで洗浄し、脱溶剤を行った後、90℃で2時間乾燥し白色粉末のビニルアルコール系重合体を得た。得られたビニルアルコール系重合体中のシクロへキシルビニルエーテル単位の含有率は6.4モル%/(ポリビニルアルコール+酢酸ビニル)であり、けん化度は99.5モル%であった。イオン交換水を溶媒として測定した粘度平均重合度は1700であった。ビニルアルコール系重合体の物性は表1に示した。
【0025】
(実施例1〜3、実験例2)シクロヘキシルビニルエーテル、メタノールの量を変えた以外は、実験例1と同様にして共重合PVAを得た。結果は表1に示した。
【0026】
(比較例1〜3)
表1に示すコモノマーを使用した以外は、実施例1と同様にしてビニルエステル系重合体を合成した。ビニルアルコール系重合体の物性は、表1に示した。比較例3はエマルジョン重合評価において粘度が極端に高くなり、エマルジョン評価を行うことはできなかった。結果は、表1に示した。
【0027】
(比較例4)
通常のPVA(電気化学工業株式会社製部分けん化PVA B−17)を用いた以外は、実施例1と同様にして評価した。得られたフィルムの耐水性は、完全に溶解し悪かった。またエマルジョンにおいても良好な耐水性が得られなかった。結果は、表1に示した。
【0028】
(比較例5)
通常のPVA(電気化学工業株式会社製部分けん化PVA K−17E)を用いた以外は、実施例1と同様にして評価した。得られたフィルムの耐水性と、エマルジョンの皮膜耐水性は良好であったが、エマルジョンの低温安定性は、不良であった。結果は、表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
【発明の効果】
本発明のシクロアルキル基を有する耐水性ポリビニルアルコール系重合体は、乳化分散剤、接着剤、表面コーティング性等に優れる。
また、かかる特性から本発明のビニルアルコール系重合体は、分散剤、接着剤、表面コーティング剤に限らず、被覆剤、樹脂用ブレンド剤、懸濁重合安定剤、乳化剤、凝集剤、感光剤、成形物、繊維サイジング剤、各種フィルム、シート等の各種用途に使用できる。
Claims (2)
- シクロヘキシルビニルエーテルと酢酸ビニルを含む共重合体をケン化して得られるポリビニルアルコール系共重合体であって、シクロヘキシルビニルエーテルの含有量が0.2〜4.0モル%であり、酢酸ビニル単位のケン化度が92.0〜99.3モル%であり、得られるポリビニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度が300〜3000の範囲であることを特徴とする耐水性ポリビニルアルコール系共重合体。
- 請求項1記載の耐水性ポリビニルアルコール系共重合体を用いて、酢酸ビニルを乳化重合して得られる合成樹脂エマルジョン。
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