JP3950239B2 - X線装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、X線の発散を制限して平行なX線ビームを形成するためのソーラスリットを用いて構成されるX線装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
X線を用いて試料を解析する装置、すなわちX線装置は従来から広く知られている。また、このX線装置として、試料に入射するX線又は試料で回折したX線の発散を制限して平行なX線ビームを形成するためにソーラスリットを用いる構造のものが知られている。従来、ソーラスリットを用いたX線装置として、図12に示すものが知られている。
【0003】
このX線装置では、例えば、試料Sを試料軸線Xs を中心として所定の角速度で連続的又は間欠的に回転、いわゆるθ回転させ、同時にX線カウンタ51を試料軸線Xs を中心としてθ回転の2倍の角速度でそれと同じ方向へ回転、いわゆる2θ回転させる。そして、それらのθ回転及び2θ回転を行う間、X線焦点Fから放射されるX線をモノクロメータ用スリット52、モノクロメータ53、ソーラスリット54及び発散制限スリット56を通して試料Sに入射する。
【0004】
従来のソーラスリット54は、例えば図13に示すように、一対のスペーサ59を挟んで複数の金属箔61を積層することによって構成される。このソーラスリット54は、X線Rの進行方向に関して前後方向は開放されていてX線の進行が許容され、その両側部はスペーサ59及び側壁62によって塞がれている。
【0005】
図12において、ソーラスリット54は、X線焦点Fから発生すると共にモノクロメータ53で反射又は回折するX線の発散を制限して試料Sに入射するX線を平行ビームに成形する。また、場合によっては、散乱線制限スリット57と受光スリット58との間にソーラスリットを配設して試料Sで回折したX線の発散を制限してX線カウンタ51へ入射させることもある。
【0006】
図12において、θ回転する試料Sに入射するX線とその試料Sの結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されると、その試料SでX線の回折が生じ、その回折X線はそれぞれが2θ回転する散乱線制限スリット57及び受光スリット58を通してX線カウンタ51によって検出される。これにより、試料Sで回折するX線の回折角度2θ及びX線強度が測定される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来のX線装置では、図12に示すように、ソーラスリット54がその他のX線光学素子、例えばモノクロメータ53や試料Sから離れた位置に配置されていた。そのため、ソーラスリット54だけを配設するための専用の空間が必要になってX線装置が大型にならざるを得なかった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、X線装置においてソーラスリットを配設するための空間を節約できるようにすること及び空間の節約によりX線強度を上げることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るX線装置は、X線を発生するX線源と、そのX線源から発生して試料で回折するX線を検出するX線検出器と、前記X線源から発生したX線又は前記試料で回折したX線を単色化するモノクロメータと、ソーラスリットとを有するX線装置において、前記ソーラスリットは、スペーサによって互いに間隔をおいて積層された複数の金属箔を有し、前記スペーサはX線進行経路の片側において前記金属箔の一端部を支持し、前記X線源からのX線は、前記スペーサによって支持された前記金属箔の前記一端部に隣接する端部から入射し、該端部の反対側の端部から出射し、前記複数の金属箔のうち前記スペーサによって支持された一端部と反対側の端部は開放端であり、前記ソーラスリットは、前記複数の金属箔の開放端がX線進行経路に対して直角の方向で前記モノクロメータの表面に対向し且つ前記複数の金属箔がX線進行経路上に置かれる状態に配設されることを特徴とする。上記の金属箔は、X線を透過させない材料であれば任意の材料によって形成することができ、例えばステンレス等によって形成できる。
【0010】
このX線装置によれば、ソーラスリットの金属箔の片端部を開放状態にしたのでその開放部分に対向してモノクロメータを配設させることができる。この構成により、X線をモノクロメータに入射させ、さらにそのモノクロメータから回折X線を取り出す際には、それと同時にソーラスリットによってX線を平行X線ビームに成形することができる。そして、モノクロメータに対向する位置にソーラスリットを配設するので、ソーラスリットだけを配設するための専用の空間を用意する必要がなくなり、その結果、X線装置の全体形状を小型にすることができ、また、その小型化によりX線の強度を上げることができる。
【0011】
また、モノクロメータにソーラスリットを直接に装着することができ、そうすれば、そのモノクロメータ及びソーラスリットの両者間の相対的な位置が自動的に決定する。この結果、X線装置を構成する各種X線光学要素に関する光軸調整を行うに際して、ソーラスリットとそれに対向するモノクロメータの両者に関してはそれらを別々に位置調整する必要がなくなり、それ故、X線装置に関する光軸調整作業を簡単に行うことができるようになる。
【0012】
次に、本発明に係る他のX線装置は、X線を発生するX線源と、そのX線源から発生して試料で回折するX線を検出するX線検出器と、ソーラスリットとを有するX線装置において、前記ソーラスリットは、スペーサによって互いに間隔をおいて積層された複数の金属箔を有し、前記スペーサはX線進行経路の片側において前記金属箔の一端部を支持し、前記X線源からのX線は、前記スペーサによって支持された前記金属箔の前記一端部に隣接する端部から入射し、該端部の反対側の端部から出射し、前記複数の金属箔のうち前記スペーサによって支持された一端部と反対側の端部は開放端であり、前記ソーラスリットは、前記複数の金属箔の開放端がX線進行経路に対して直角の方向で前記試料の表面に対向し且つ前記複数の金属箔がX線進行経路上に置かれる状態に配設されることを特徴とする。
【0013】
このX線装置によれば、ソーラスリットの金属箔の片端部を開放状態にしたのでその開放部分に対向して試料を配設することができる。この構成により、X線を試料に入射させ、さらにその試料から回折X線を取り出す際には、それと同時にソーラスリットによってX線を平行X線ビームに成形することができる。そして、試料に対向する位置にソーラスリットを配設するので、ソーラスリットだけを配設するための専用の空間を用意する必要がなくなり、その結果、X線装置の全体形状を小型にすることができ、また、その小型化によりX線の強度を上げることができる。
【0014】
本発明に係るX線装置において、前記スペーサは、その中央部が前記開放端側へ張出し、X線が入射する側の端部及びX線が出射する側の端部が前記中央部に比べて前記開放端の反対側へ後退する形状に形成することができる。一般に、金属箔はその板厚が非常に薄く形成されるので、その剛性が低くて撓み等の変形を起こし易い。これに対し、本発明態様のようにスペーサの中央部を張出し形状にし、その両端部を後退形状にすれば、そのスペーサによって金属箔を変形し難い状態で支持でき、よって、本発明のように金属箔を片端開放状態、すなわち片持ち状態で支持する場合に好都合である。
【0015】
上記のように金属箔をスペーサによって片端開放状態で支持する際には、そのスペーサを中央部が張出す山形形状に形成することが望ましい。この構成によれば、スペーサを簡単に形成することができ、しかも、金属箔を通過するX線の進行経路を確保できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係るソーラスリットを用いたX線装置の一実施形態を平面的に示している。ここに示すX線装置は、X線発生装置1と、モノクロメータ装置2と、発散制限スリット3と、そしてゴニオメータ4とを含んで構成される。ソーラスリット18はモノクロメータ22と共にモノクロメータ装置2の内部に配設される。
【0017】
X線発生装置1は、ケーシング6と、そのケーシング6の中に格納された回転ターゲット7と、同じくケーシング6の中に格納されたフィラメント8とを有する。フィラメント8は通電によって発熱して熱電子を発生し、その熱電子はフィラメント8とターゲット7との間に印加される電圧によって加速された状態でターゲット7の外周表面に衝突し、その衝突領域すなわちX線焦点FからX線が放射されて発散する。このX線は、ケーシング6の適所に設けたX線取出し用窓9を通して外部ヘ取り出される。本実施形態では、X線焦点Fとして、図1の紙面垂直方向に長い、いわゆるラインフォーカスを考える。
【0018】
モノクロメータ装置2は図2、図3及び図4に示す構造を有する。図3は図2のX−X線に沿った断面構造を示し、図4は図2のY−Y線に沿った断面構造を示している。これらの図に示す通り、モノクロメータ装置2は、円筒形状のハウジング11と、そのハウジング11の内部に格納されるモノクロメータ支持台12とを有する。ハウジング11の底面には貫通穴13が形成され、モノクロメータ支持台12の底面から延びる回転軸12aがその貫通穴13に回転可能に嵌合する。ハウジング11の周壁にはX線を通過させるためのX線通過用窓37が適宜の大きさで形成される。
【0019】
図3に示すように、回転軸12aのうちハウジング11の外部へ突出する部分には回転駆動用バー14が接続される。この回転駆動用バー14の先端には図2に示すようにツマミ16の先端が当接し、このツマミ16を回すことにより、モノクロメータ支持台12を中心軸線Xm を中心として希望する角度だけ回転させることができる。モノクロメータ支持台12の中心位置には、図4に示すように段差Dが形成され、この段差Dを境としてモノクロメータ支持台12の上側表面の一方の側にモノクロメータ組立体17が配設され、そのモノクロメータ組立体17に対向する他方の側にソーラスリット18が配設される。
【0020】
図4から明らかなように、モノクロメータ組立体17、ソーラスリット18及びハウジング11は、モノクロメータ軸線Xm を中心として一体となって回転することができる。
【0021】
モノクロメータ組立体17は、図5に示すように、断面L字形状の支持部材19の縦側片に固着された支持基体21と、その支持基体21の表面に膜状に形成された多層膜モノクロメータ22とを有する。支持基体21は、例えばSi(シリコン)単結晶基板、ステンレス等によって形成され、多層膜モノクロメータ22が形成される面が図6に示すように放物線Bとなるように形成される。モノクロメータ組立体17は、多層膜モノクロメータ22が段差Dに突き当てられることによって所定位置に位置決めされる。
【0022】
多層膜モノクロメータ22は、図11に示すように、適宜の成膜法、例えばスパッタリング法によって重元素層31と軽元素層32とを適宜の厚さで交互に周期的に積層することによって形成される。図6において支持基体21の表面が放物線Bであるので、多層膜モノクロメータ22も放物線Bの形状に形成される。
【0023】
多層膜モノクロメータ22の格子面間隔は、異なる入射角で入射するX線が多層膜で反射するときに全ての反射X線が互いに平行に出射するよう、場所によって異ならせてある。具体的には、入射角の大きくなるX線入射側の格子面間隔が小さく、入射角が小さくなるX線出射側の格子面間隔が大きくなり、それらの中間位置で格子面間隔が連続的に変化する。
なお、モノクロメータ22の表面形状は、図11に示すような放物線形状に限られず、図10に示すような平面形状にすることもできる。
【0024】
図6に示すように、支持基体21のX線入射側端面にはスリット部材23が直接に固着され、そのスリット部材23に形成した穴、すなわちモノクロメータ用スリット24がモノクロメータ22のX線入射側端面そのものの位置に配設される。本実施形態では、X線焦点Fを放物線Bの中心線上に配置し、X線焦点Fからスリット24までの距離L1を80mmに設定し、X線取込み角度θ1を0.5°に設定し、そしてモノクロメータ22の長さL2を40mmに設定する。
【0025】
モノクロメータ22に関連する以上の構成により、X線焦点Fから発散するX線は、モノクロメータ用スリット24によって規制されてモノクロメータ22に入射し、そのモノクロメータ22で反射すなわち回折した後、平行X線ビームとなって出射する。本実施形態で用いる放物線形状の多層膜モノクロメータ22によれば、入射X線の多くの部分を回折X線として取り出すことができるので、単結晶モノクロメータ等に比べて格段に強度の強い回折X線を得ることができる。
【0026】
図2において、モノクロメータ組立体17に対向して配設されるソーラスリット18は、図7に示すように、ベース26の上に複数の金属箔27と複数のスペーサ28とを交互に積層することによって形成される。より具体的には、図9に示すように、複数の金属箔27をスペーサ28を挟んで積み重ねた上で、それらの金属箔27及びスペーサ28にネジ29を通し、さらにそれらのネジ29をベース26に設けたネジ穴33にねじ込むことによって組立てられる。
【0027】
金属箔27はX線を透過しない任意の材料、例えばステンレスによって形成される。また、スペーサ28は、例えばステンレス、真鍮によって形成される。スペーサ28の厚さ、すなわち隣り合う一対の金属箔27の間隔T及び金属箔27の長さL3は、図8に示す開き角度θ2が0.5°〜5°程度になるように設定される。また、図7において、ソーラスリット18の高さHは10mm〜20mmに設定し、個々の金属箔27の板厚は0.05mm程度に設定する。
【0028】
金属箔27はその片側においてスペーサ28によって支持され、それと反対側は自由端として開放されている。そして、その自由端が図4に示すようにモノクロメータ22の表面に接触する。本実施形態ではモノクロメータ22の表面が放物線形状に形成されているので、金属箔27の自由端もそれに対応した放物線形状に形成される。
【0029】
なお、金属箔27の先端がモノクロメータ22の表面に近接する場合、すなわち金属箔27の先端とモノクロメータ22の表面との間にわずかの隙間が形成される場合でも、金属箔27は所期の目標、すなわち発散するX線を平行X線ビームに成形するという目標を達成することができる。
【0030】
なお、スペーサ28は図7に示すように、その中央部分28aが前方へ張出し、その両端部分28bが後退する形状の山形形状に形成されている。金属箔27はその板厚が非常に薄いので剛性が低く撓みを発生し易い。しかしながら本実施形態のようにスペーサ28をその中央部分が張出す形状に形成すれば、金属箔27により大きな剛性を持たせることができる。
【0031】
しかも、このようなスペーサ28の山形形状は、図2に示すように、X線焦点Fから放射されてモノクロメータ22で回折するX線Rの進行を妨げることのない形状であるので、スペーサ28の中央部分を張出し形状にしたとしてもX線測定の結果に悪影響を及ぼすことがない。
【0032】
図1に戻って、ゴニオメータ4は、試料軸線Xs を中心として回転できるθ回転台41と、試料軸線Xs を中心としてθ回転台41から独立して回転できる2θ回転台42とを有する。測定対象である試料Sはθ回転台41に装着される。θ回転台41にはθ回転駆動装置43が連結され、2θ回転台42には2θ回転駆動装置44が連結される。これらの回転駆動装置は、例えば、電動モータ等といった動力源と、ウオームとウオームホイール等といった動力伝達機構とを含んで構成される。
【0033】
2θ回転台42の適所にはカウンタアーム46が取り付けられ、そのカウンタアーム46の上に散乱線制限スリット47、受光スリット48及びX線カウンタ49がそれぞれ所定位置に固定される。散乱線制限スリット47は、X線経路の近傍に配置される各種の部材から発生する散乱線がX線カウンタ49に取込まれるのを防止するためのスリットである。受光スリット48は、X線カウンタ49に入るX線の幅を決めるスリットである。
【0034】
以下、上記構成より成るソーラスリット及びX線装置の動作を説明する。まず、図1に示すX線装置を用いてX線測定を行うに際し、その測定に先立ってそのX線装置を構成する各種の構成要素をX線光軸に対して一定の位置に位置決め、すなわち光軸調整する。
【0035】
例えば、モノクロメータ22に対するX線焦点Fの角度2θc 及びモノクロメータ軸線Xm のまわりのモノクロメータ22の角度θc を計算による角度位置にそれぞれ設定し、さらに、図2のツマミ16を回すことによりモノクロメータ22のθc 角度を微調整し、X線焦点Fに関する2θc 角度を微調整し、さらに、モノクロメータ22をX線光軸に対して直交する方向Yc に関して微調整する。そしてそれらの各微調整の際にX線カウンタ49でカウントされるX線の強度を測定し、その強度値が最大強度になる位置を探し出す。X線強度が最大強度になるモノクロメータ22の角度位置がX線光軸に対するモノクロメータ22の最良の位置である。
【0036】
また、モノクロメータ装置2以外の各種構成要素、例えば発散制限スリット3、散乱線制限スリット47、受光スリット48等に関してもX線光軸に対する位置調整を周知の方法を用いて行う。
【0037】
X線装置によっては、図12に示すように、モノクロメータ53とモノクロメータ用スリット52とが別体、すなわち、それぞれが別々に設けられるものがあるが、そのようなX線装置では、両者を相互に関連させながらそれぞれ独自に位置調整しなければならない。この作業は、非常に面倒で時間のかかる作業である。
【0038】
これに対し、図1に示すモノクロメータ装置2のように、モノクロメータ用スリット24をモノクロメータ22のX線入射側端面の所定位置に直接に取り付けるようにすれば、モノクロメータ用スリット24のモノクロメータ22に対する相対位置は常に一定位置に固定される。こうすれば、モノクロメータ装置2をX線光軸に対する所定位置に位置調整する際には、モノクロメータ22だけに関してその調整作業をすれば足り、モノクロメータ用スリット24に関しては特別な位置調整作業を実行する必要がない。この結果、モノクロメータ装置2に関する光軸調整の作業が極めて簡単になり、その作業を迅速且つ確実に行うことができる。
【0039】
以上のようにしてX線装置の各種構成要素に関して光軸調整が完了した後、X線を用いた測定が以下のようにして行われる。まず、図2に示すように、モノクロメータ装置2を通過するX線の強度をX線測定のために十分な強度となるように、モノクロメータ組立体17及びソーラスリット18のまわりにハウジング11を設置する。
【0040】
さらに、図1において、θ回転台41の所定位置に試料Sを装着し、X線焦点FからX線を発生させる。発生したX線はモノクロメータ装置2に導入され、さらに図2において、モノクロメータ22に入射すると共にそのモノクロメータ22で回折することにより所定波長に単色化される。本実施形態では、モノクロメータ22の格子面間隔がその長さ方向、すなわちX線の進行方向に関して異なるように調節されているので、モノクロメータ22に入射したX線はそのモノクロメータ22の全面で回折することができ、よってそのモノクロメータ22からは強度の強いX線ビームが得られる。
【0041】
さらに、本実施形態のモノクロメータ22の表面は放物線形状になっているので、モノクロメータ22から出射するX線は、平行ビーム、特に水平方向に平行な平行ビームとして取り出される。つまり、本実施形態のモノクロメータ22によれば、単色化された強度の強い水平方向に関して平行なX線ビームが得られる。
【0042】
さらに本実施形態では、図2に示すように、モノクロメータ22に対向してソーラスリット18を配設し、そのソーラスリット18の金属箔27の先端をモノクロメータ22の表面に接触又は近接させてあるので、モノクロメータ22によって水平方向に平行となるX線ビームは、それと同時に、ソーラスリット18の働きによって縦方向に関しても平行ビームに成形される。
【0043】
図12に示す従来のX線装置においては、ソーラスリット54がモノクロメータ53から離れて配設されるので、その分だけ余分な空間を必要としたが、図1に示す本実施形態のX線装置では、ソーラスリット18がモノクロメータ装置2の中に組み込まれるので、ソーラスリット18だけのための専用の空間が不要となってX線装置の全体形状を小型にできるか、あるいは、ゴニオメータ4のまわりに空間的余裕を形成できる。加えて、X線強度が増大する。
【0044】
以上のようにしてモノクロメータ装置2によって形成された強度の強い単色化された平行X線は、図1において、試料Sに入射する。平行ビーム法によるX線測定が行われる場合には、その平行X線ビームが試料Sに低角側、すなわち非常に小さな入射角度で入射し、そのような入射X線のうち試料Sで回折したものがX線カウンタ49によって検出され、さらに強度が演算される。
【0045】
また、必要があれば、試料SにX線が入射する間、θ回転台41を所定の角速度で連続的又は間欠的に回転、いわゆるθ回転させ、同時に2θ回転台42をそのθ回転の2倍の角速度で同じ方向へ回転、いわゆる2θ回転させることにより、試料Sで回折する回折X線の回折角度2θ及び強度を測定できる。
【0046】
以上のように、本実施形態のX線装置及びソーラスリット18によれば、金属箔27のうち一方の側を開放端としたので、その開放端の所にモノクロメータ22を配設でき、よって、ソーラスリットだけを配設するための専用の空間をX線光軸上に用意する必要がなくなり、その結果、X線装置の全体形状を小型にすることができる。
【0047】
また、モノクロメータ22にソーラスリット18を直接に装着することができ、そのように両者を直接に組み付ければ、両者の相対的な位置を自動的に決定することができる。この結果、X線測定を行うのに先立ってモノクロメータ22及びソーラスリット18の両者をX線光軸に対して別々に位置調整する必要がなくなり、それ故、X線装置を構成する各種光学要素に関する光軸調整のための作業を簡単に行うことができる。
【0048】
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、図1に示す実施形態では、X線焦点Fと試料Sとの間に配設したモノクロメータ22に対向させてソーラスリット18を配設したが、そのソーラスリット18に代えて又はそれに加えて、本発明のソーラスリット、すなわち一方の側が開放端であるようなソーラスリットを試料Sに対向させて配設することもできる。
【0049】
また、X線装置によっては、試料SとX線カウンタ49との間にモノクロメータが配設される構造のものがあるが、そのようなX線装置に関しては、試料SとX線カウンタ49との間に配設されるそのようなモノクロメータに対して本発明のソーラスリットを配設することもできる。
【0050】
図2に示したモノクロメータ装置の実施形態では、モノクロメータとして図6に示すような放物線形状のX線回折面を有するものを用いたが、単なる平面形状のX線回折面を有するモノクロメータに対して本発明を適用できることはもちろんである。また、多層膜モノクロメータに代えて単結晶モノクロメータその他の通常のモノクロメータを用いることもできる。
【0051】
また、図1に示すX線装置は単なる一例であり、X線発生装置1、ゴニオメータ4等は図示以外の任意の構造とすることができる。
【0052】
【発明の効果】
本発明に係るX線装置によれば、複数の金属箔のうち一方の側を開放端としてので、その開放端の所に他のX線光学要素、例えばモノクロメータ、試料等を接触又は近接状態で配設でき、よって、ソーラスリットだけを配設するための専用の空間を用意する必要がなくなり、その結果、X線装置の全体形状を小型にすることができる。また、その小型化により、X線検出器によって検出するX線の強度を増大できる。
【0053】
また、モノクロメータ等といった光学要素にソーラスリットを直接に装着することができ、そうすれば、光学要素とソーラスリットとの間の相対的な位置が自動的に決定する。この結果、X線装置における光軸調整に際してモノクロメータ等とソーラスリットの両者を別々に位置調整する必要がなくなり、それ故、X線装置の各種光学要素の光軸調整作業を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るX線装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1の要部であるモノクロメータ装置を示す平面断面図である。
【図3】図2のX−X線に従った側面断面図である。
【図4】図2のY−Y線に従った側面断面図である。
【図5】モノクロメータ組立体の一実施形態を示す斜視図である。
【図6】モノクロメータの一実施形態を模式的に示す図である。
【図7】本発明に係るX線装置で用いるソーラスリットの一実施形態を示す斜視図である。
【図8】図7の要部を模式的に示す図である。
【図9】図7のソーラスリットの分解斜視図である。
【図10】多層膜モノクロメータの一実施例を模式的に示す側面断面図である。
【図11】多層膜モノクロメータの他の実施例を模式的に示す側面断面図である。
【図12】従来のX線装置の一例を示す平面図である。
【図13】従来のソーラスリットの一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
1.X線発生装置、 2.モノクロメータ装置、 3.発散制限スリット、
4.ゴニオメータ、 11.ハウジング、 12.モノクロメータ支持台、
12a.回転軸、 14.回転駆動用バー、 17.モノクロメータ組立体、
18.ソーラスリット、 22.放物線多層膜モノクロメータ、
24.モノクロメータ用スリット、 27.金属箔、 28.スペーサ、
28a.スペーサの中央部、 28b.スペーサの両端部、 31.重元素層、
32.軽元素層、 B.放物線、 D.段差、 F.X線焦点、 S.試料、
T.金属箔間隔、 θ1.X線取込み角度、 θ2.ソーラスリットの開き角度、
Xm.モノクロメータ軸線、 Xs.試料軸線
Claims (4)
- X線を発生するX線源と、そのX線源から発生して試料で回折するX線を検出するX線検出器と、前記X線源から発生したX線又は前記試料で回折したX線を単色化するモノクロメータと、ソーラスリットとを有するX線装置において、
前記ソーラスリットは、スペーサによって互いに間隔をおいて積層された複数の金属箔を有し、
前記スペーサはX線進行経路の片側において前記金属箔の一端部を支持し、
前記X線源からのX線は、前記スペーサによって支持された前記金属箔の前記一端部に隣接する端部から入射し、該端部の反対側の端部から出射し、
前記複数の金属箔のうち前記スペーサによって支持された一端部と反対側の端部は開放端であり、
前記ソーラスリットは、前記複数の金属箔の開放端がX線進行経路に対して直角の方向で前記モノクロメータの表面に対向し且つ前記複数の金属箔がX線進行経路上に置かれる状態に配設される
ことを特徴とするX線装置。 - X線を発生するX線源と、そのX線源から発生して試料で回折するX線を検出するX線検出器と、ソーラスリットとを有するX線装置において、
前記ソーラスリットは、スペーサによって互いに間隔をおいて積層された複数の金属箔を有し、
前記スペーサはX線進行経路の片側において前記金属箔の一端部を支持し、
前記X線源からのX線は、前記スペーサによって支持された前記金属箔の前記一端部に隣接する端部から入射し、該端部の反対側の端部から出射し、
前記複数の金属箔のうち前記スペーサによって支持された一端部と反対側の端部は開放端であり、
前記ソーラスリットは、前記複数の金属箔の開放端がX線進行経路に対して直角の方向で前記試料の表面に対向し且つ前記複数の金属箔がX線進行経路上に置かれる状態に配設される
ことを特徴とするX線装置。 - 請求項1又は請求項2記載のX線装置において、前記スペーサは、その中央部が前記開放端側へ張出し、X線が入射する側の端部及びX線が出射する側の端部が前記中央部に比べて前記開放端の反対側へ後退する形状であることを特徴とするX線装置。
- 請求項3において、前記スペーサは中央部が張出す山形形状であることを特徴とするX線装置。
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