JP3948094B2 - N−長鎖アシル酸性アミノ酸またはその塩の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、N−長鎖アシル酸性アミノ酸又はその塩の製造方法に関し、更に詳しくはグルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸又はそれらの塩と長鎖脂肪酸ハライドとを反応させることによる、N−長鎖アシル酸性アミノ酸又はその塩の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
N−長鎖アシル酸性アミノ酸、例えば、N−長鎖アシルグルタミン酸、N−長鎖アシルアスパラギン酸、又はそのナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩などは、界面活性作用、殺菌作用などを有するため、洗浄剤、分散剤、乳化剤、抗菌剤などとして各種用途に利用されている。特に皮膚や毛髪に対する刺激が低いことから、毛髪洗浄剤、身体洗浄剤等の洗浄剤組成物に広く用いられている。
【0003】
N−長鎖アシル酸性アミノ酸、例えば、N−長鎖アシルグルタミン酸の合成方法としては、グルタミン酸と長鎖脂肪酸ハライドとを水溶媒中、アルカリの存在下に反応させる方法が知られている(例えば、特公昭48−35058号公報第7欄冒頭の参考例)。しかし、この方法では収率が低く、工業的に用いるのに十分な方法とは言えない。
【0004】
高収率でN−長鎖アシル酸性アミノ酸を製造する方法としては、水溶媒に触媒として、第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩を触媒として使用する方法が知られている(特公昭48−35058号公報)。しかし、これら触媒は皮膚刺激性等の安全性の問題、または使用した触媒等の臭いの問題があるため、目的生成物中に残留するこれらの触媒を除去するための工程及び設備が必要となり、工業的に満足のいく方法とは言えなかった。
【0005】
収率を上げるための他の方法としては、反応溶媒としてアセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの有機溶媒と水との混合溶媒を使用する方法が知られている(特公昭46−8685号公報)。しかし、これらの有機溶媒を使用する場合、作業環境への影響を考慮する必要性と共に、消防法の規制を満足するために、特に安全面に配慮した設備の対策、これに伴う設備投資の必要といった問題が伴う。また、やはり皮膚刺激性等の安全性、溶媒の臭いの問題といった面から、目的生成物中に残留するこれら溶媒を除去するための工程及び設備が必要であった。
【0006】
また、同様に収率を上げる目的から反応溶媒として含水低級アルコールを使用する方法が知られている(特公昭51−38681号公報)。しかし、この方法もまた、目的生成物中に残留する低級アルコール等の臭いの問題が生じ、これらを除去する工程及び設備が必要となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、酸性アミノ酸と長鎖脂肪酸ハライドとからN−長鎖アシル酸性アミノ酸を、前記種々の問題点を伴わずにしかも収率よく製造することのできる方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる実状に鑑み、鋭意研究の結果、酸性アミノ酸又はその塩と炭素原子数8〜22の長鎖脂肪酸ハライドとを水溶媒中、アルカリの存在下に反応させてN−長鎖アシル酸性アミノ酸を製造する方法において、多価アルコールの共存下で反応を行うことにより前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、酸性アミノ酸又はその塩と炭素原子数8〜22の長鎖脂肪酸ハライドとを水溶媒中、アルカリの存在下に反応させる際に、多価アルコールの共存下で反応を行うことを特徴とするN−長鎖アシル酸性アミノ酸又はその塩の製造方法に関するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法における出発原料の一つである酸性アミノ酸又はその塩は、グルタミン酸及びアスパラギン酸又はそれらの塩等が挙げられる。これらは光学活性体でもラセミ体でもよい。また塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩などを挙げることができる。
【0011】
酸性アミノ酸又はその塩に反応させる長鎖脂肪酸ハライドは、炭素原子数8〜22の飽和又は不飽和脂肪酸ハライドである。例えばノナノイルクロライド、ウンデカノイルクロライド、ラウロイルクロライド、トリデカノイルクロライド、ミリストイルクロライド、パルミトイルクロライド、ステアロイルクロライド、オレオイルクロライドなどの単一組成の飽和又は不飽和の脂肪酸クロライドの他、椰子油脂肪酸クロライド、牛脂脂肪酸クロライド、硬化牛脂脂肪酸クロライド、大豆油脂肪酸クロライド、綿実油脂肪酸クロライドなどの混合物脂肪酸クロライドも同様に使用することができる。
【0012】
本発明において反応溶媒の一成分として使用される多価アルコールとしては、例えばグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1, 3−ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。またポリエチレングリコール等、上記に述べたものの重合体でもよい。更に、トレハロース、スクロース等、複数の水酸基を有する非還元性二糖類も、本発明の多価アルコールに含めることができる。これらの多価アルコールはそれぞれ単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
これらの多価アルコールは目的生成物中に残留しても、皮膚刺激性等の安全性の問題はない。またこれらの多価アルコールのほとんどは化粧料または界面活性剤等への配合成分として通常使用されるものである。従って、目的生成物中に僅かに残留するこれら多価アルコールは通常除去の必要が生じない。更に目的生成物の臭いの問題も大きく改善される。従って、残留溶媒・触媒等を除去するための設備、製造工程の簡略化等、大きな工業的メリットが生じる。
【0014】
前記多価アルコールのうち、好ましいものとしてグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが上げられる。反応収率の観点及び安価に入手可能である点等から、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが工業的に実施する上で特に好ましい。
【0015】
本発明において反応はアルカリ存在下で行う。実際には、酸性アミノ酸またはその塩を多価アルコール水溶液中、アルカリ存在下で溶解し、それから脂肪酸ハライドを添加するのがよい。反応収率を上げる観点から反応溶媒のpHは、pH10〜13の範囲が好ましい。また反応終了まで、このpHの範囲に維持して反応を行う方がよい。使用するアルカリには特別の制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニアなどが挙げられるが、特に水酸化ナトリウムが実用的である。
【0016】
本発明で用いる多価アルコールの反応溶媒中の濃度は、比較的広範囲にわたって採用できるが、好ましくは脂肪酸ハライド添加前の重量%濃度で5〜80%、更に好ましくは5〜50%である。5%より低い場合には反応収率を高める効果が小さくなり、80%越える場合には原料である酸性アミノ酸が反応溶媒に溶けにくくなる。
【0017】
本発明における反応温度は、特別の制限はないが、通常0℃〜50℃の範囲で行われる。高収率に反応を進める上で、好ましくは0℃〜40℃である。更に好ましくは5℃〜30℃である。
【0018】
酸性アミノ酸またはその塩と長鎖脂肪酸クロライドとの使用割合については、目的物質を高収率で得る上で、前者を後者に対して同モル以上用いるのが好ましい。この範囲内においても前者の使用割合が大きくなるほど収率が向上するが、実用上好ましいのは、長鎖脂肪酸クロライドに対する酸性アミノ酸またはその塩の使用割合(モル比)が1. 0〜1. 5の範囲である。
【0019】
酸性アミノ酸またはその塩の濃度は特に制限はないが、反応収率を高める観点から脂肪酸ハライド添加前の重量%濃度で10〜60%とするのが収率上好ましく、15〜50%の範囲が特に好ましい。
【0020】
反応行う際は反応収率を上げる観点から、酸性アミノ酸又はその塩を溶媒に溶解した後、攪拌下、脂肪酸ハライドを徐々に添加する方法が好ましい。反応時間は各種条件によって異なるが、脂肪酸ハライドの添加時間が通常1時間から6時間程度であり、添加後の反応時間は通常10分から4時間程度である。
【0021】
反応終了後、反応混合物を硫酸、塩酸などの鉱酸で酸性にし、析出したN−長鎖アシル酸性アミノ酸を濾別する。また濾別したN−長鎖アシル酸性アミノ酸を水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等で中和し、その後水を減圧留去することでN−長鎖アシル酸性アミノ酸塩が得られる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
実施例1
L−グルタミン酸ナトリウム1水和物175g(0.93mol)を13重量%ジプロピレングリコール水溶液230mlに懸濁し、これに25重量%水酸化ナトリウム水溶液145gを添加し、pH12の水溶液を調整した(ジプロピレングリコール濃度、9重量%)。これにラウリン酸クロライド158g(0.72mol)と25重量%水酸化ナトリウム水溶液を攪拌下、pH12、10℃を維持しながら、2時間かけて同時に添加し、更に2時間反応させた。反応終了後、15重量%硫酸でpH1に調整し、冷水を加えN−ラウロイルグルタミン酸の結晶を析出させた。その結晶を濾取し、24時間、25℃で乾燥させたところ220gであった。HPLCで分析した結果、N−ラウロイルグルタミン酸の収率は、89mol%(対ラウリン酸クロライド)であった。
【0024】
実施例2
L−グルタミン酸ナトリウム1水和物175g(0.93mol)を13重量%ポリエチレングリコール水溶液230mlに懸濁し、これに25重量%水酸化ナトリウム水溶液145gを添加し、pH12の水溶液を調整した(ポリエチレングリコール濃度、9重量%)。実施例1と同様に反応を行い、結晶を析出させた。得られたN−ラウロイルグルタミン酸の結晶を濾取し、24時間、25℃で乾燥させたところ220gであった。HPLCで分析した結果、N−ラウロイルグルタミン酸の収率は、85mol%(対ラウリン酸クロライド)であった。
【0025】
実施例3
L−グルタミン酸ナトリウム1水和物175g(0.93mol)を20重量%エチレングリコール水溶液250mlに懸濁し、これに25重量%水酸化ナトリウム水溶液145gを添加し、pH12の水溶液を調整した(エチレングリコール濃度、14重量%)。実施例1と同様に反応を行い、結晶を析出させた。得られたN−ラウロイルグルタミン酸の結晶を濾取し、24時間、25℃で乾燥させたところ223gであった。HPLCで分析した結果、N−ラウロイルグルタミン酸の収率は、91mol%(対ラウリン酸クロライド)であった。
【0026】
実施例4
L−グルタミン酸ナトリウム1水和物175g(0.93mol)と7. 5重量%スクロース水溶液230mlに懸濁し、これに25重量%水酸化ナトリウム水溶液145gを添加し、pH12の水溶液を調整した(スクロース濃度、5重量%)。実施例1と同様に反応を行い、結晶を析出させた。得られたN−ラウロイルグルタミン酸の結晶を濾取し、24時間、25℃で乾燥させたところ215gであった。HPLCで分析した結果、N−ラウロイルグルタミン酸の収率は、82mol%(対ラウリン酸クロライド)であった。
【0027】
実施例5
L−グルタミン酸ナトリウム1水和物175g(0.93mol)を15重量%プロピレングリコール水溶液240mlに懸濁し、これに25重量%水酸化ナトリウム水溶液140gを添加し、pH11の水溶液を調整した(プロピレングリコール濃度、10重量%)。pH11、20℃を維持しながら、ラウリン酸クロライド170g(0.78mol)を使用し、実施例1と同様の操作を行った。得られたN−ラウロイルグルタミン酸の結晶を濾取し、24時間、25℃で乾燥させたところ235gであった。HPLCで分析した結果、N−ラウロイルグルタミン酸の収率は、90mol%(対ラウリン酸クロライド)であった。
【0028】
実施例6
L−グルタミン酸ナトリウム1水和物175g(0.93mol)を15重量%グリセリン240mlに懸濁し、これに25重量%水酸化ナトリウム水溶液145gを添加し、pH12の水溶液を調整した(グリセリン濃度、10重量%)。実施例1と同様に反応を行い、結晶を析出させた。得られたN−ラウロイルグルタミン酸の結晶を濾取し、24時間、25℃で乾燥させたところ200gであった。HPLCで分析した結果、ラウロイルグルタミン酸の収率は、81mol%(対ラウリン酸クロライド)であった。
【0029】
実施例7
水200mlにプロピレングリコールを加え、プロピレングリコール濃度の異なる反応溶媒を複数調製し、各々にL−グルタミン酸ナトリウム1水和物175g(0.93mol)を懸濁した後、これに25重量%水酸化ナトリウム水溶液145gを添加し、pH12の水溶液を調整した。椰子油脂肪酸クロライド160.9g(0.72mol)を用いて実施例1と同様の操作を行った。椰子油脂肪酸クロライド添加前のプロピレングリコール濃度とN−椰子油脂肪酸アシルグルタミン酸の収率との関係を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
試験例 臭いの官能評価
反応溶媒として13重量%エタノール水溶液を用い、実施例1と同様に反応させ、同様の操作でN−ラウロイルグルタミン酸の結晶を得、これを比較例として用いた。実施例1、2、3、4、5、6及び上記比較例で得られたラウロイルグルタミン酸100gを25重量%水酸化ナトリウム水溶液で溶解し、pH7.3の界面活性剤溶液450gを調製した。この界面活性剤溶液につき、25℃において臭いの評価を行った。10人のパネラーにより、以下の基準に従って評価点をつけ、その平均値を表2に示した。
全く臭い無し 0点
僅かに臭い有り 1点
臭い有り 2点
強い臭い有り 3点
【0032】
【表2】
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、N−長鎖アシル酸性アミノ酸又はその塩を高収率で製造でき、消防法上の安全性等への配慮又は残留溶媒・触媒等の除去のために要する過大な設備及び製造工程を簡略化できる等、工業的に有利に実施することができる。
Claims (2)
- 多価アルコールがグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
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