JP3948037B2 - ミシン - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、送り歯をベッド部の上面に突出させないドロップフィード状態に切換え可能なミシンに関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
例えば家庭用ミシンにおいては、使用者が縫目形状を選択すると、その縫目形状に基づいて、縫目が自動的に形成されるように構成されているものがある。このようなミシンにおいては、直線縫いやジグザグ縫いなどの実用縫いに関する縫目形状や、文字模様・絵模様などを選択可能に有していて、これらの中から使用者が所望する縫目形状,模様を自由に加工布に施すことができる。
【0003】
ところで、上記ミシンには、ベッド部に設けられた送り歯により加工布を送りながら縫目を形成していく通常状態と、送り歯をベッド部の上面から突出させないドロップフィード状態とに切換え可能となっているものがある。つまり、使用者が、送り歯により布を移動させたくない縫い方をする場合には、ドロップフィード状態に切換えることができるのである。
【0004】
例えば、近年のキルティング分野においては、2枚の布を単に縫合するだけでなく、絵を描くような縫目を形成するようになってきている。この場合、一針毎の加工布の送り方向や送り量を自在に変化させることが望まれるので、送り歯をドロップフィード状態として、作業者の手で加工布を自由に移動させながら縫製動作を実行するようにしている。このような縫い方は、フリーモーション縫いと称されている。
【0005】
しかしながら、フリーモーション縫いにより縫製動作を実行するにあたっては、直線縫い等比較的単調な縫目形状が選択されている場合は、その縫目形状が崩れることなく加工布に形成することができるが、刺繍模様や文字模様等の複雑な模様や、実用縫いに関する縫目形状の中でも針の振りが複雑であったり布の移動方向が複雑な縫目形状(例えば、三重縫いや点線ジグザグ縫い等)が選択されている場合は、きれいな縫目形状が得られなくなってしまう。そのため、フリーモーション縫いを行う場合には、それに適した縫目形状を選択することが望まれる。この場合、送り歯がドロップフィード状態にあるか否かを自動判別し、送り歯がドロップフィード状態にある場合には、フリーモーション縫いに不適な縫目形状が選択されても、縫製動作が実行されないようにすることが考えられる。
【0006】
これに対して、加工布を保持する刺繍枠を移動させることにより該加工布に対して刺繍縫いを行うようにした刺繍用ユニットを着脱可能に有するミシン(例えば特開平4−371189号公報等に記載のミシン)においては、前記刺繍用ユニットを装着するとこれに連動して送り歯がドロップフィード状態に切換えられ、この状態で、刺繍縫い動作が実行される。したがって、このようなミシンの場合は、ドロップフィード状態であっても複雑な模様や縫目形状を加工布に対して形成することが可能であるため、上記したようにドロップフィード状態にあることのみを条件に複雑な模様や縫目形状の縫製動作を禁止すると不都合が生じる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、送り歯をドロップフィード状態に切換えることが可能なものにあって、種々の縫い方に適合した良好な縫目を形成することができるミシンを提供するにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のミシンは、布送り用の送り歯をベッド部の上面から突出させないドロップフィード状態に切換えるための切換手段と、前記送り歯がドロップフィード状態にあるとき、縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに適合するか否かを報知すると共に選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適である場合には適した縫目形状の選択を促す旨或いは適した縫目形状の少なくとも一方を表示する報知手段とを具備している(請求項1の発明)。
前記報知手段は、適した縫目形状の選択を促す旨を文字情報で表示するように構成しても良い(請求項2の発明)。
【0009】
この場合、前記送り歯がドロップフィード状態にあるとき、前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適であるときには、縫製動作の実行を禁止するように構成しても良い(請求項の発明)。
【0010】
また、前記縫目形状の中には多種類の文字模様が含まれていると共に、前記縫目選択手段により選択された縫目形状を表示する表示装置を備え、前記報知手段は、前記送り歯がドロップフィード状態にあるとき前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに適合するか否かを前記表示装置に表示するように構成することもできる(請求項の発明)。
【0011】
さらに、前記報知手段は、前記送り歯がドロップフィード状態にあるときに前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適であるときにのみその旨を表示するようにすることも良い構成である(請求項の発明)。
【0012】
加えて、本発明のミシンは、前記ベッド部に着脱自在に装着され、前記加工布を保持する刺繍枠とこの刺繍枠を前記ベッド部の上方を自在に移動させる刺繍枠移動機構とを有する刺繍用ユニットを備えてなるものであって、前記切換手段は、前記刺繍用ユニットの装着に連動して前記送り歯をドロップフィード状態に切換えるように構成されていると共に、この刺繍用ユニットの装着時においては、前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適である場合でも縫製動作の実行を許容するように構成しても良い(請求項の発明)。
【0013】
【0014】
また、本発明のミシンは、押え足の前記ベッド部からの高さ位置に応じた布厚データを出力する布厚センサと、前記布厚データに基づいて糸供給源からの糸繰出量を制御する糸繰出量制御手段とを備え、前記布厚センサの出力に基づいて前記送り歯がドロップフィード状態にあるか否かを判断する判断手段を具備するように構成しても良い(請求項7の発明)。
【0015】
そして、前記判断手段は、加工布のセット時に布厚センサから出力される布厚データに対し、縫製動作開始初期の所定期間内に布厚センサから出力される布厚データに増加があったときに、前記送り歯がドロップフィード状態ではないと判断するように構成することもできる(請求項8の発明)。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を家庭用の電子制御式ミシンに適用した一実施の形態について図面を参照して説明する。
まず、図2は、本実施の形態に係るミシンの外観を概略的に示しており、ミシン本体1はベッド部2の手前側左端部に平坦なテーブル3を着脱可能に装着すると共に、上方にアーム部4を一体的に有して構成されている。前記アーム部4の先端部には、縫針5を有する針棒6が設けられると共に、図示しない加工布を針板7の上面に押え付けるための押え足8が設けられている。
【0017】
このとき、ミシン本体1内には、図4に示すように、ミシンモータ9及びそのミシンモータ9により回転駆動される主軸10が設けられており、この主軸10の回転力が、針棒上下動機構11を介して前記針棒6に伝達され、もって、針棒6(縫針5)が主軸10の回転に同期して上下駆動されるようになっている。また、アーム部4内には、前記針棒6を左右方向に揺動変位させるための針振り機構12及びその駆動源となる針振り用パルスモータ13が設けられている。これにて、ジグザグ縫い等が可能とされている。
【0018】
また、前記押え足8は、図3にも示すように、アーム部4の先端に設けられた押え棒14の下端部に、溝部8aを通してネジ14aを締付けることにより着脱可能に取付けられている。この場合、図3に示す押え足8は、加工布のうち特にキルトに対してフリーモーション縫いを行う場合に使用されるフリーモーション縫い用のものが取付けられている。
【0019】
このフリーモーション縫い用の押え足8は、前記溝部8aを有するホルダー部8bと、このホルダー部8bに上下に離れて設けられた孔部8c(下方側のみ示す)に挿通される軸部8dと、この軸部8dの下端に設けられた押え面部8eとから構成されている。前記軸部8dには、前記孔部8c間に位置して圧縮コイルばね8fが挿通されており、この圧縮コイルばね8fにより前記押え面部8eは下方に付勢された状態となっている。さらに、この押え面部8eには、前記縫針5が通過する穴8gが、針振りに対応した長穴状に形成されている。
【0020】
また、前記軸部8dの上端には係止部8hが設けられており、この係止部8hは、前記押え棒14に押え足8が取付けられたとき、前記針棒6の針止めネジ6aの上にくるように構成されている。これにより、押え足8は、前記針棒6が所定位置から上方へ移動したときに、ばね力に抗して上昇し、針棒6が所定位置から下方に位置した状態では、前記圧縮コイルばね8fのばね力により加工布を所定の力で押え付けるようになっている。
【0021】
さらに、詳しく図示はしないが、前記押え棒14には押え足8の高さ位置に基づいて加工布の布厚を検出するための布厚センサ15(図4にのみ図示)が配設されている。この布厚センサ15は、例えば周知の直線形のポテンショメータからなるものであり、押え足8(軸部8d)の高さ位置に連動して正逆回転する可動部及びその回転位置に対応する電圧(布厚データ)を発生するボリュームとを備えて構成されている。
【0022】
詳しく図示はしないが、ミシン本体1には、上糸繰出用パルスモータ16により動作される上糸繰出機構17が設けられており、前記布厚センサ15の検出信号(布厚データ)は、上糸繰出量の制御に用いられるようになっている。この場合、後述する制御装置18は、前記布厚センサ15から出力される布厚データに基づく加工布の厚さ及び加工布の送り量並びに針振り量に基づいて、適切な上糸繰出量を1ステッチ毎に演算し、この演算結果に基づいて上糸繰出用パルスモータ16を制御するものである。従って、上糸繰出機構17,上糸繰出用パルスモータ16及び制御装置18が、本発明にいう糸繰出量制御手段として機能するようになっている。
【0023】
一方、前記ベッド部2の上面には、前記針棒6に対応して針板7が設けられ、その針板7の下面部に位置して図示しない釜機構が設けられている。さらに、前記針板7の下方には、縫針5の上昇中に加工布を送るための送り歯19(図5参照)が配設されている。この送り歯19には、図4に示すように、前記主軸10の回転力が送り歯前後動機構20及び送り歯上下動機構21を介して伝達され、もって、主軸10の回転に同期して前後方向移動及び上下方向移動を行うようになっている。このとき送り歯19の前後方向移動量つまり加工布の送り量は、送り歯用パルスモータ22により送り量調整機構23を介して制御されるようになっている。
【0024】
さらに、図2に示すように、前記アーム部4の先端側の前面部には、電源スイッチ24及びスタート・ストップキー25が設けられている。また、本実施の形態のミシンは、一般的な加工布に対して縫製動作を実行できることは勿論、刺繍縫い動作も実行できるようになっている。この場合は、前記押え棒8には、図2および図3に示すフリーモーション縫い用の押え足8に代えて一般縫い用或いは刺繍縫い用が装着されるようになっている。さらに、刺繍縫いを行うときには、ベッド部2からテーブル3部分を取外して、刺繍枠及び刺繍枠移動機構26(図4参照)を有した刺繍用ユニット(図示せず)に付替えることができるようになっている。
【0025】
また、前記アーム部4の前面には、各種の模様やメッセージ等を画面に表示するための表示装置たるLCD27が設けられている。このLCD27には、後述するように使用者が縫製動作を実行させるにあたって、メニュー選択画面(図6参照)や縫目形状選択画面(図7等参照)等が表示されるようになっている。このLCD27の表面には、各種の操作キーを構成するタッチパネル28(図4にのみ示す)が設けられている。このタッチパネル28は、周知のように透明電極を縦横に並べて構成され、このタッチパネル28を使用者が手指で触れた位置を検出することができるようになっている。
【0026】
そして、図5に示すように、前記ベッド部2には、前記テーブル3を取外した時に露出する側面部分に位置して切換手段たる送り歯上下レバー29が設けられている。この送り歯上下レバー29は、前記送り歯19を加工布に作用する通常状態から、ベッド部2(針板7)の上面から突出せず加工布の送り動作を行わないドロップフィード状態へ切換えるために設けられるもので、使用者により当該レバー29が右側に切換操作されると、送り歯19がドロップフィード状態とされるのである。これにて、例えば使用者が自らの手で加工布を動かしながら縫製動作を行ういわゆるフリーモーション縫いを行いたいときに、送り歯19をドロップフィード状態に切換えることができるのである。
【0027】
尚、前述の刺繍用ユニットが装着されると、これに連動して前記送り歯上下レバー29が右側に位置するように切換えられて送り歯19がドロップフィード状態になるように構成されている。従って、刺繍枠により加工布を移動させて刺繍縫いを行う場合には、その移動が送り歯19により邪魔されないようになっている。
【0028】
さて、ミシン本体1内には、図4に示すように、各機構を制御するための制御装置18が設けられている。この制御装置18は、マイクロコンピュータを主体として構成され、入力インターフェース30、出力インターフェース31、CPU32、ROM33及びRAM34をバスライン35により相互に接続して構成されている。
【0029】
前記ROM33には、ミシンの縫製動作を制御するための制御プログラム、LCD27の表示制御用の制御プログラム、刺繍データの読出し、編集等の各種のデータ処理を行うためのデータ処理用プログラム等が記憶されている。前記LCD27の表示制御用の制御プログラムの実行により、制御装置18は、後述するように各種表示を制御する手段として機能している。
【0030】
そして、これと共に、ROM33には、縫目形状の異なる多種類の実用縫い(直線縫い,ジグザグ縫い,裁ち目かがり縫い等)に関する前記針棒6及び送り歯19の動作パターンを指示する実用縫いデータ、多数個の刺繍模様の縫目形状を確定する刺繍データ、LCD27に必要な表示を行うための表示データ(ビットマップデータ)などがが記憶されている。この場合、ROM33に記憶される刺繍データとは、一針ごとの加工布(刺繍枠)の移動量(針落ち位置)等を示すデータとされている。
【0031】
また、前記出力インターフェース31には、前記ミシンモータ9及び針振り用パルスモータ13,送り歯用パルスモータ24,上糸繰出用パルスモータ25並びにLCD27が接続されている。また、前記刺繍用ユニットの装着時においては、この出力インターフェース31に、図示しないコネクタを介して刺繍枠移動機構26が接続されるようになっている。一方、入力インターフェース30には、前記タッチパネル28、スタート・ストップキー25、及び布厚センサ15が接続されている。
【0032】
これにて、前記制御装置18は、使用者によるタッチパネル28の選択操作に基づいて、ROM33に記憶されたプログラムや各種データに従って上記したミシンの各機構を制御し、各種の実用縫いにかかる縫製動作や、刺繍縫い動作を実行させるようになっている。
【0033】
このとき、制御装置18は、後述するように、縫製動作を実行させるにあたって、前記LCD27の画面に、メニュー選択画面(図6参照)や実用縫いに係る縫目形状選択画面(図7,8参照)或いは刺繍模様選択画面(図示せず)を表示させるようになっている。使用者は、そのLCD27の画面において、選択操作(タッチパネル28のタッチ操作)を行うことによって、所望する実用縫いあるいは刺繍模様を選択することができるようになっている。従って、タッチパネル28が、本発明でいう縫目選択手段として機能する。尚、縫目形状選択画面においては、LCD27の画面の上部に設けられた選択内容表示領域Aに、選択された実用縫いの名称及びその縫目形状を表示するようになっている。
【0034】
そして、詳しくは後の作用説明にて明らかとなるように、制御装置18は、そのソフトウェア構成により、使用者により縫製動作の開始が指示されると、前記布厚センサ15からの検出信号に基づいて送り歯19がドロップフィード状態にあるか否かを判断するようになっている。この場合、制御装置18は、縫製開始時に布厚センサ15から出力される布厚データtに対して縫製開始時から所定期間内、例えば主軸10が1回転以上する間に、布厚データtが増加したか否か、即ち、送り歯19がベッド部2から突出して押え足8が上方に押し上げられたか否かにより、送り歯がドロップフィード状態にあるか否かを判断するようになっている。
【0035】
さらに、送り歯19がドロップフィード状態にあって且つ刺繍用ユニットが装着されていない場合(刺繍縫いのモードではない場合)には、選択された縫目形状が、ドロップフィード状態で縫目を形成するに適合するか否か、言換えると、フリーモーション縫いに適するか否かを判断するようになっている。そして、本実施の形態においては、選択された縫目形状がフリーモーション縫いに不適であるときに、制御装置18は、LCD27のメッセージ表示部Bに、フリーモーション縫いに適した縫目形状の選択を促す旨を表示すると共に、適した縫目形状を表示させ(図8参照)、さらに、縫製動作の実行を禁止するようになっている。この場合、フリーモーション縫いに適した縫目形状とは、実用縫いに関する縫目形状(図6参照)のうち、直線縫い及びジグザグ縫いとされている。従って、制御装置18が、本発明にいう判断手段及び報知手段として機能する。
【0036】
次に上記構成の作用について図1も参照して述べる。使用者がフリーモーション縫いを行いたい場合には、まず、送り歯上下レバー29を操作することにより送り歯19をドロップフィード状態に切換えると共に、フリーモーション縫い用の押え足8を押え棒14に装着する。そして、ミシン本体1の電源スイッチ24がオンされると、制御装置18は、LCD27に初期画面であるメニュー選択画面を表示させ、続いて、図1に示すフローチャートに従って縫目形状の選択から縫製までの処理を実行する。
【0037】
メニュー選択画面にあっては、図6に示すように、多数個の刺繍模様を種別に大分類(8種類)した模様種類或いは実用縫いを選ぶ画面が現れる。ここで、使用者がフリーモーション縫いを行いたい場合には、タッチパネル28を操作して実用縫いの項目を選択する。この結果、LCD27の画面には実用縫いに関する縫目形状選択画面が表示される(ステップS1)。
【0038】
この縫目形状選択画面においては、図7に示すように、実用縫いに関する多数個の縫目形状が表示され、初期状態においては、直線縫いが選択された状態となっている。即ち、図7に示すように、LCD27に表示されている縫目形状選択画面の上部の選択内容表示領域Aに「直線ぬい」及びその形状が表示される。尚、この直線縫いでは、使用者はタッチパネル28の操作により縫目の長さを指定することもできる。
【0039】
続いて、図示は省略しているが、使用者により加工布がベッド部2の上面にセットされて押え足8が下降されると、制御装置18は、布厚センサ15からの布厚データtに基づいて加工布の厚さT0を検出する。このとき、送り歯19は、最下方位置に位置しているので、実際の加工布の厚みを検出することができる。制御装置18は、上述のように、前記加工布の厚さT0及び縫目の長さ(布送り量)や針振り量等に応じて1ステッチ毎の上糸の繰出量を演算し、その演算結果に応じて糸繰出用パルスモータ25を駆動し、上糸繰出機構33により1針毎に上糸の繰出量を調整するようになっている。
【0040】
また、このとき、ステップS2にて、制御装置18により、後述する送り歯19がドロップフィード状態にあるか否かの判断を行うための変数Tmaxに0がセットされる。
【0041】
今、使用者が、加工布に対して直線縫いを行いたい場合には、スタート・ストップキー25を操作することにより、縫製動作(ミシンモータ9による主軸10の回転)が開始される(ステップS3にてYes)。尚、このとき、制御装置18は、押え足8が下降されていることを条件に縫製動作を開始するようになっている。
【0042】
続いて、制御装置18は、布厚センサ15から出力される布厚データtから加工布の厚さT0だけ差引いた値を布厚Tとして読込む(ステップS4)。従って、縫製開始時の布厚Tは0となる。次のステップS5では、制御装置18は、RAM34に記憶されている変数Tmaxと布厚Tとを比較し、Tの値がTmaxより大きいときには、そのTの値をTmaxに代入する(ステップS6)。この処理は、主軸10が1回転以上するまで繰り返される(ステップS7)。
【0043】
この場合、送り歯19がドロップフィード状態にあるときには、主軸10が1回転する間に送り歯19は針板9の上面より突出せず、布厚Tは0より大きくなることはないので(ステップS5にてNo)、Tmaxは0のままとなる。これに対し、送り歯19がドロップフィード状態になければ、加工布が送り歯19によって上方に押し上げられるので、Tmaxの値は最大布厚値となる。
【0044】
次のステップS8では、Tmaxが0かどうかが判断される。ここで、送り歯19がドロップフィード状態であれば、Tmaxは0のままなので(ステップS8にてNo)、続いて、縫製モードが刺繍モードであるか否か判断し、この場合、刺繍モードでなければ(ステップS9にてNo)、ステップS10にて、選択された縫目形状がフリーモーション縫いに適した縫目形状であるか否かが判断される。
【0045】
この場合、選択された縫目形状は直線縫いであり、前述したようにフリーモーション縫いに適する縫目形状であるので(ステップS10にてYes)、フリーモーション縫いモードである旨の表示がなされ(図示せず)、縫製処理が実行される(ステップS11及びステップS12)。この結果、使用者は、フリーモーション縫いにより、当該加工布に対して絵を描くように縫目を形成することができる。
【0046】
これに対して、使用者が加工布に対して三重縫いを行おうと考え、縫目形状選択画面にてタッチパネル15を操作して三重縫いに係る形状を選択すると(ステップS3にてNo、ステップS13)、図8に示すように、選択模様表示領域Aに「三重ぬい」及びその形状が表示される(ステップS14)。
【0047】
そして、使用者によるスタート・ストップキー13の操作に基づいて縫製動作が開始されると(ステップS3にてYes)、上述のように、制御装置18は、縫製動作開始時から主軸10が1回転する間に布厚センサ15から出力される布厚データtに基づいて布厚Tを算出し、送り歯19がドロップフィード状態にあるか否かの判断をする(ステップS4〜S8)。この場合も、送り歯19はドロップフィード状態にあり(ステップS8にてNo)、また、刺繍縫いモードではないので(ステップS9にてNo)、ステップS10にて選択された縫目形状がフリーモーション縫いに適しているか否かをの判断を行う。
【0048】
そして、三重縫いは、フリーモーション縫いに不適な縫目形状であるため(ステップS10にてNo)、図に示すように、メッセージ表示部Bに、フリーモーション縫いに適した模様形状を表示すると共に、「フリーモーション模様は左の模様を選択してください」というメッセージを表示し(ステップS15)、縫製動作を停止させるようになっている(ステップS16)。
【0049】
一方、使用者が、刺繍縫いを行おうと考え、押え足8を刺繍縫い用のものと交換すると共に、ベッド部2からテーブル3を取外して刺繍用ユニットを装着すると、これに連動して送り歯19がドロップフィード状態となる。この場合は、使用者は、メニュー選択画面にてタッチパネル17を操作して刺繍縫い動作に係る模様(「実用」以外の模様の項目)の項目を選択することになる。
【0050】
そして、縫製動作が開始されると、制御装置18は、縫製動作開始時から主軸10が1回転する間に布厚センサ15から出力される布厚データtに基づいて送り歯19がドロップフィード状態にあることを検出する(ステップS3〜S8,ステップS8にてNo)。このとき、ミシン本体1には刺繍用ユニットが装着されて刺繍モードとなっているため(ステップS9にてYes)、制御装置18は、選択された縫目形状がフリーモーション縫いに適しているか否かの判断は行うことなく縫製動作(刺繍縫い動作)の処理を実行する(ステップS12)。
【0051】
尚、詳しい説明は省略するが、送り歯19がドロップフィード状態にないときには、主軸10が1回転する間にベッド部2より突出する送り歯19により押え足が上昇されて布厚Tが0より大きくなるため、TmaxがTに置換えられて、Tmaxは0より大きくなる(ステップS5にてYes、ステップS6〜S8)。この場合は、実用縫いに関する縫目形状のうちのいずれが選択された場合であっても、縫製動作は継続される。
【0052】
このように本実施の形態によれば、使用者により縫目形状が選択されて縫製動作の開始が指示されると、制御装置16は、縫製動作開始から主軸10が1回転する間に送り歯19がドロップフィード状態にあるか否か判断し、送り歯19がドロップフィード状態であって刺繍モードでないときには、前記選択された縫目形状がフリーモーション縫いに適した縫目形状であるか否かを判断すると共に、フリーモーション縫いに不適である場合にはその旨、この場合は、適した縫目形状の選択を促す旨(「フリーモーション縫いには左の模様を選択してください」というメッセージ)及びフリーモーション縫いに適した縫目形状をLCDのメッセージ表示部Bに表示するように構成した。
【0053】
これにより、使用者に対して、フリーモーション縫いにより、選択した縫目形状を加工布に形成するには不適であることを確実に知らせることができ、しかも、その報知は、文字情報(メッセージ)として表示されるので、使用者は報知内容をすぐに理解することができる。また、このとき、フリーモーション縫いに適した縫目形状も表示されるので、使用者は、縫目形状の選択をやり直すに当たって、選択すべき縫目形状を容易に知ることができる。
【0054】
さらに本実施の形態においては、選択された縫目形状がフリーモーション縫いに不適であるときには、縫製動作の実行を停止させるように構成した。これにより、万一、使用者が、選択した縫目形状がフリーモーション縫いに不適である旨の報知がなされたことに気付かずに縫製動作が実行されてしまうという不具合を未然に防止できる。
【0055】
また、本実施の形態では、制御装置18による送り歯19がドロップフィード状態にあるか否かの判断を、布厚センサ15から出力される布厚データtに基づいて行うように構成した。そのため、送り歯19がドロップフィード状態にあるか否かを検出するために、新たな装置を設ける必要がなく、ミシンが従来から備える構成を利用することができるので、構成を簡単にすることができる。
【0056】
この場合、送り歯19がドロップフィード状態にあるか否かの判断は、縫製動作開始時から主軸10が1回転する間に行われるので、比較的早い時期に送り歯19がドロップフィード状態にあることを検出することができる。
【0057】
尚、本発明は上記し且つ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、たとえば次のような拡張変更が可能である。
メッセージ表示部Bへの表示は、フリーモーション縫い適した縫目形状の選択を促す旨、或いは、フリーモーション縫いに適した縫目形状のいずれか一方でも良い。また、フリーモーション縫いに不適な縫目形状が選択された場合の報知は、ブザー音や音声にて行っても良い。
【0058】
上記実施の形態においては、ドロップフィード状態において選択された縫目形状がフリーモーション縫いに不適の場合には縫製動作の実行を禁止するように構成したが、縫製動作の実行を禁止しないように構成することもできる。即ち、フリーモーション縫いは、作業者が自由に加工布を移動させることにより当該加工布に対して絵を描くように縫目を形成する縫い方である。そのため、経験を積むことにより比較的複雑な縫目形状でもフリーモーション縫いを行うことができるようになる場合がある。そのような場合にまで、フリーモーション縫いに不適であると考えられる縫目形状が選択されると縫製動作を禁止するように構成する必要はないからである。
【0059】
送り歯がドロップフィード状態にあるか否かは、リミットスイッチ等の検出手段により押え棒の上下動を直接的に検出し、その検出結果から判断するようにしても良く、或いは切換え手段により送り歯がドロップフィード状態に切換えられたことを検出するセンサを設けて判断するようにしても良い。
【0060】
【発明の効果】
以上の説明にて明らかなように、本発明の請求項1のミシンによれば、使用者により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに適合するか否か、また、選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適である場合には適した縫目形状の選択を促す旨或いは適した縫目形状の少なくとも一方を報知手段により報知するようにしたので、その報知結果に基づいて、使用者は、縫製動作を実行するか否かを判断することができ、使い勝手の向上を図ることができる。また、使用者は、報知手段の表示内容に従って適正な縫目形状を選択し直すことができるので、より一層、使い勝手の向上を図ることができる。
この場合、前記報知手段は、適した縫目形状の選択を促す旨を文字情報で表示するように構成すると、使用者は報知内容をすぐに理解することができる(請求項2のミシン)。
【0061】
また、請求項のミシンのように、選択された縫目形状がドロップフィード状態に不適であるときには縫製動作の実行を禁止するように構成すると、ドロップフィード状態でも縫目形状が崩れることなく確実に縫目を形成することができる場合にのみ縫製動作が実行されるようになる。
【0062】
さらに、縫目選択手段により選択された縫目形状を表示する表示装置を備えるものにおいては、報知手段は、選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに適合するか否かを前記表示装置に表示するように構成すると(請求項のミシン)、表示するための装置を新たに設ける必要がなく、また、使用者は、視覚により確実に報知内容を理解することができる。
【0063】
そして、前記報知手段は、選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するのに不適であるときにのみその旨を報知すると(請求項の発明)、不必要な報知が行われなくなる。
【0064】
また、刺繍枠移動機構により刺繍枠を移動させる刺繍用ユニットを備えたミシンであって、刺繍用ユニットが装着されるとこれに連動して送り歯がドロップフィード状態に切換えられるようになっているミシンにおいては、送り歯がドロップフィード状態でも、刺繍用ユニットによる刺繍縫い動作を実行する場合には、複雑な模様(縫目形状)を加工布に対して形成することが可能である。そのため、請求項5のミシンのように、刺繍用ユニットが装着されているときは、選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するのに不適であっても縫製動作を許容するように構成すると良い(請求項のミシン)。
【0065】
【0066】
さらに、請求項7のミシンのように、前記送り歯がドロップフィード状態にあるか否かを判断する判断手段を設け、この判断手段は、糸繰出量制御手段が糸供給源からの糸繰出量を制御するために必要な布厚データを出力する布厚センサの出力に基づいて判断するように構成すると、送り歯がドロップフィード状態にあるか否かを検出する装置を新たに設ける必要がなく、ミシンが従来から備える構成を併用することができるので、構成を簡単にすることができる。
【0067】
この場合、前記判断手段は、加工布のセット時に布厚センサから出力される布厚データに対し、縫製動作開始初期の所定期間内に布厚センサから出力される布厚データに増加があったときに、前記送り歯がドロップフィード状態ではないと判断するように構成することができる(請求項8のミシン)。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態を示すもので、縫目形状の選択から縫製までの処理の手順を示すフローチャート
【図2】 ミシンの外観を示す正面図
【図3】 押え足部分を拡大して示す斜視図
【図4】 制御装置を中心とした電気的構成を示すブロック図
【図5】 ベッド部からテーブルを取外した状態を示す部分拡大図
【図6】 初期画面の一例を示す図
【図7】 実用縫いの縫目形状選択画面の一例を示す図(その1)
【図8】 実用縫いの縫目形状選択画面の一例を示す図(その2)
【符号の説明】
図中、1はミシン本体、2はベッド部、8は押え足、15は布厚センサ、18は制御装置(糸繰出量制御手段,判断手段,報知手段)、19は送り歯、27はLCD(表示装置)、28はタッチパネル(縫目選択手段)、29は送り歯上下レバー(切換手段)を示す。

Claims (8)

  1. 縫目形状を選択するための縫目選択手段を備え、その選択に基づいて加工布に対する縫製動作を実行するミシンにおいて、
    布送り用の送り歯をベッド部の上面から突出させないドロップフィード状態に切換えるための切換手段と、
    前記送り歯がドロップフィード状態にあるとき、前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに適合するか否かを報知すると共に選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適である場合には適した縫目形状の選択を促す旨或いは適した縫目形状の少なくとも一方を表示する報知手段とを備えたことを特徴とするミシン。
  2. 前記報知手段は、適した縫目形状の選択を促す旨を文字情報で表示することを特徴とする請求項1記載のミシン。
  3. 前記送り歯がドロップフィード状態にあるとき、前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適であるときには、縫製動作の実行が禁止されることを特徴とする請求項2記載のミシン。
  4. 前記縫目形状の中には多種類の文字模様が含まれていると共に、前記縫目選択手段により選択された縫目形状を表示する表示装置を備えるものであって、
    前記報知手段は、前記送り歯がドロップフィード状態にあるとき前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに適合するか否かを前記表示装置に表示するように構成されていることを特徴とする請求項2または3記載のミシン。
  5. 前記報知手段は、前記送り歯がドロップフィード状態にあるときに前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適であるときにのみその旨を表示することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のミシン。
  6. 前記ベッド部に着脱自在に装着され、前記加工布を保持する刺繍枠とこの刺繍枠を前記ベッド部の上方を自在に移動させる刺繍枠移動機構とを有する刺繍用ユニットを備えてなるものであって、
    前記切換手段は、前記刺繍用ユニットの装着に連動して前記送り歯をドロップフィード状態に切換えるように構成されていると共に、この刺繍用ユニットの装着時においては、前記縫目選択手段により選択された縫目形状がドロップフィード状態で縫目を形成するに不適である場合でも縫製動作の実行が許容されることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のミシン。
  7. 押え足の前記ベッド部からの高さ位置に応じた布厚データを出力する布厚センサと、
    前記布厚データに基づいて糸供給源からの糸繰出量を制御する糸繰出量制御手段とを備えるものであって、
    前記布厚センサの出力に基づいて前記送り歯がドロップフィード状態にあるか否かを判断する判断手段を有することを特徴とする請求項ないし6のいずれかに記載のミシン。
  8. 前記判断手段は、加工布のセット時に布厚センサから出力される布厚データに対し、縫製動作開始初期の所定期間内に布厚センサから出力される布厚データに増加があったときに、前記送り歯がドロップフィード状態ではないと判断することを特徴とする請求項7記載のミシン。
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