JP3944108B2 - 医療用マニピュレータの動力伝達機構およびマニピュレータ - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
手術支援用マニピュレーターやエネルギー機器などの狭隘部補修用マニピュレーターに関する。特に、小型化、高信頼性化、高剛性化、高操作性化を可能とするワイヤ、プーリによる動力伝達機構を提供する。
【０００２】
【従来の技術】
従来、胆嚢摘出手術などの腹腔鏡下手術においては、図３１に示すように、患者１５０の腹部に小さな穴１５１、１５２、１５３をいくつかあけ、それらにトラカール１５４を取り付け、トラカール１５４を介して、それらの孔に内視鏡１６１、鉗子１７１、１７２などを挿入し、術者（通常、外科医）１６０が内視鏡１６１の映像をモニタ１６２で見ながら手術を行っている。このような手術方法は、開腹を必要としないため、患者への負担が少なく、術後の回復や退院までの日数が大幅に低減される。このため、適用分野の拡大が期待されている。
【０００３】
そのような背景のもと、発明者らは、図３２に示すような、従来の鉗子にロボット技術を取り入れた医療用マニピュレーター（ロボット鉗子）１を提案している（特許文献１参照）。このマニピュレーター１は、姿勢操作部２３と処置操作部２４とを有する操作指令部２０と、一端側が前記操作指令部２０に接続された連結部３０と、前記連結部３０の他端側に接続され、処置部１４と、前記処置部１４を２自由度以上に姿勢変更可能に支持する支持部１５、１６と、を有する作業部１０と、前記姿勢操作部２３からの操作指令を前記支持部に送って前記処置部１４の姿勢を変更させるとともに、前記処置操作部２４からの操作指令を前記処置部に送って前記処置部１４を動作させる制御部（図示せず）と、を備えた医療用マニピュレーターである。
【０００４】
さらに、本発明者らは、縫合結紮作業に適した自由度配置として、図３３に示すような医療用マニピュレーターも提案している（特許文献２参照）。医療用マニピュレーター１は、作業部１０と、操作指令部２０と、両端が作業部１０と操作指令部２０とに接続された連結部３０とを備えている。作業部１０は、連結部３０の中心軸方向３１に対して直交する第１の回転軸１１と、第１の回転軸１１に対して直交する第２の回転軸１２を有する支持部と、術部に処置を施す処置部（グリッパ）１４の中心軸方向が、第２の回転軸１２と概ね平行に配置されている。言いかえれば、作業部１０は、グリッパ１４を２自由度で姿勢変更が可能に支持する支持部としてのヨー軸関節支持部１５およびロール軸関節支持部１６とを有している。操作指令部２０は、連結部３０の中心軸方向３１に対して直交する第３の回転軸２１と、第３の回転軸２１に対して直交する第４の回転軸２２からなる姿勢操作部２３と、操作者が把持して操作する際の操作者の手首の回転方向と、第４の回転軸２２の軸方向が概ね平行である処置操作部２４とを有している。術部に処置を施す処置部１４の把持動作１３は、処置操作部２４の把持動作２５により行う。
【０００５】
遠隔操作型マスタスレーブマニピュレーターに対して、このロボット鉗子は、操作部（マスタ）と鉗子先端部ハンド（スレーブ）を連結させ一体化し、従来の鉗子の利点である術者が行った方が簡単で確実な大きく素早い操作と、マニピュレーターの利点である微細な作業や難しい角度からの操作の両方を可能としたものである。先端部に曲げ・回転などの関節を備えているため、自由自在にハンドの姿勢を動かすことができ、これまでの鉗子では難しかったいろいろな方向からの縫合作業や結紮作業が容易になる。また、右手はロボット鉗子、左手は従来の鉗子という具合に、従来の手術機器と一緒に使うことができる。さらに、システムが簡単・コンパクトなため、低コストで導入できるというメリットがある。
【０００６】
また、同様の構成のマニピュレーターは、作業者が直接その場で作業をすることが困難な場所での作業、すなわちエネルギー機器などの狭隘部の補修作業などにも適している。当然、マニピュレーターの寸法（長さ、太さ、大きさなど）は、作業内容、作業領域に応じて設計されるものである。従って、必ずしも、医療用に限定するものではない。
【０００７】
【特許文献１】
特開2000-350735号公報
【特許文献２】
特開2002-102248号公報
【特許文献３】
特許第2519749号公報
【０００８】
【発明が解決しようとする課題】
手術支援用マニピュレーターやエネルギー機器などの狭隘部補修用マニピュレーターは、小型・軽量化、高信頼性化、高剛性化、高操作性化、高作業性化、低コスト化が要求され、そのためには、動力伝達機構を小型・軽量化、高信頼性化、高剛性化、低コスト化しなければならない。特に、特許文献１や特許文献２で示した構成のマニピュレーターにおいては、マスタ・スレーブが一体化されているという制限があるため、動力伝達機構の形状、寸法、配置などが操作性に大きな影響を及ぼす。
【０００９】
マニピュレーターをはじめロボット、メカトロ機器では、アクチュエータの動力を手先効果器（たとえば、ハンドや工具など）に伝える動力伝達機構としてワイヤとプーリによる伝達が一般的に用いられる。ワイヤとプーリによる動力伝達機構において、多回転の動作範囲を必要とする場合、通常は、図２２に示すように、プーリ５０、５１にワイヤ５２を巻き付け、摩擦力による動力伝達を行う。伝達トルクを大きくするためには、摩擦力を大きくすることが必要で、ワイヤのプーリへの巻き付け角度を大きくする、多回転数巻き付ける、または、ワイヤ張力を大きくすればよい。しかしながら、基本的に摩擦による駆動であるため、ワイヤの伸びによる張力低下が生じた場合、ワイヤとプーリ間ですべりが生じ、伝達トルクの低下を招くことになる。このため、張力調整機構が付加されることがあるが、機構が複雑になり、装置の大型化、コスト高の原因となる。さらには関節剛性の低下を招くことになる。また、プーリにワイヤを多回転巻き付けるためには、巻き付け回転数に応じたプーリ幅が必要となるため、装置が大型化する原因となる。そもそも、手術支援用マニピュレーターやエネルギー機器などの狭隘部補修用マニピュレーターには、多回転巻き付けるための十分なスペースがないのが普通である。一方、プーリにワイヤを固定するには、通常、図２３に示すように、固定部材５３Ａを用いて固着する。しかし、ワイヤを多回転巻き付ける場合、固定部材とワイヤが干渉するため、通常、動作範囲（回転角）は、１８０度未満となる。巻き付け角を増やす方法としては、特許文献３があるが、最大２７０度程度までであり、３６０度以上多回転させることは困難である。プーリの回転範囲が限られた状態では、マニピュレーター関節の動作領域すなわち手先効果機の作業領域が狭くなり、作業に支障が生じ、作業性、操作性を大幅に低下させてしまう。作業に支障のない十分な作業領域を得るためには、できる限り多い回転数を必要とするが、従来の方法による動力伝達機構では困難である。
【００１０】
一方、図２４に示すようなワイヤとプーリによる動力伝達機構において、ワイヤ径が細い場合や駆動プーリと従動プーリ間の距離が長い場合、動力伝達時にワイヤの弾性変形（伸び）の影響が大きくなり、十分な動力伝達ができないことがある。また、駆動側プーリを固定した保持状態やサーボロック状態では、従動軸（出力軸）側に十分な回転剛性が得られないという問題がある。所望の回転剛性が得られない場合、十分な作業ができず操作性が低下し、作業性が悪くなる。
【００１１】
また、図２５、図２７に示すようなマスタとスレーブが一体化された一体型マスタスレーブマニピュレーターでは、通常、連結部３０まわりの偏心質量が生じる。この偏心質量の配置によっては、重力の影響により連結部まわりに、操作者が意図せぬ回転トルクが生じ、操作性の低下を招くことになる。特に、操作時の初期状態や操作において最も標準的な姿勢であるマニピュレーターの基準姿勢時に、連結部まわりに偏心質量による回転トルクが生じた場合、操作者に余計な操作力を課すことになるため、大幅な操作性低下を招くことになる。また、図２５に示すような、共通ロール軸、ピッチ軸、ロール軸の場合は、図に示す基準姿勢の状態から、作業部の姿勢をヨー方向（横方向、左右方向）に変化させることは、特異姿勢のため困難である。一方、図２９に示す自由度構成、共通ロール軸、ヨー軸、ロール軸の場合は、図に示す基準姿勢の状態から、作業部の姿勢をピッチ方向（縦方向、上下方向）に変化させることは、特異姿勢のため困難である。実際の操作においては、基準姿勢の状態から作業部の姿勢を横方向および縦方向に誘導させる割合が多く、図２５や図２９に示す自由度配置では、操作性の低下を招くことになる。
【００１２】
【課題を解決するための手段】
本発明は、可撓性動力伝達部材と、
この可撓性動力伝達部材が巻き掛けられる駆動側プーリと従動側プーリの一対のプーリと、
前記可撓性動力伝達部材を前記一対のプーリのうちの一方のプーリに対して固定する固定ピンと、
前記一方のプーリに設けられ、前記固定ピンを挿入するためのピン埋没穴と、
を備え、
前記固定ピンを前記ピン埋没穴に挿入することにより互いに固定されるように、前記固定ピンまたは前記ピン埋没穴の少なくともいずれか一方がテーパ状に構成され、
前記固定ピンは、前記固定ピンの軸線に対して横向きに形成された動力伝達部材通過孔を有し、この動力伝達部材通過孔に前記可撓性動力伝達部材を通過させ、この状態の前記固定ピンを前記ピン埋設穴に埋設状態に圧入することにより、前記可撓性動力伝達部材の前記一方のプーリへの固定を実現し、
さらに、前記プーリの外周面における一部分にそこに巻き掛けられた前記可撓性動力伝達部材を埋め込み状態に収納するスリット溝部を形成し、前記可撓性動力伝達部材を前記スリット溝に嵌め込み状態に収納し、
前記ピン埋没穴は前記スリット溝部に形成されている、
ことを特徴とする。
【００１３】
さらに、前記各固定ピンにおける前記動力伝達部材通過孔は、前記圧入時にこの動力伝達部材通過孔を縮径させる、この固定ピンの軸方向に沿って延成された、縮径用のスリット部を有するものとして形成されていることを特徴とする。
【００１４】
さらに、可撓性動力伝達部材と、この可撓性動力伝達部材が巻き掛けられる駆動側プーリと従動側プーリの一対のプーリと、を備え、前記可撓性動力伝達部材における前記一対のプーリ間に張設された部分としての２本の動力伝達系統のうちの、少なくとも高張力を受ける側の動力伝達系統としての、前記可撓性動力伝達部材を、中空軸を被せて補強するか切断して中実軸で連結したことを特徴とする。
【００１５】
他に、前記中空軸は、複数箇所で、内部を通る前記可撓性動力伝達部材と固着により一体化されていることを特徴とする。
【００１６】
また、前記中空軸または前記中実軸を摺動可能に被挿して支持する支持部材をさらに備えることを特徴とする。
【００１７】
本発明によれば、ワイヤ（可撓性動力伝達部材）とプーリによる動力伝達機構において、摩擦駆動の場合の張力調整機構を必要とせず、また、ワイヤとワイヤのプーリへの締結部が干渉しない構成で、省スペース、多回転に対応可能であり、さらに、くさび効果で強い締結力が得られる。これにより、マニピュレーター関節の動作領域すなわち手先効果機の作業領域が広くなり、作業に支障のない十分な作業領域が得られるため、作業性、操作性が大幅に向上する。
【００１８】
また、駆動側プーリと従動側プーリ間の、少なくとも高張力を受けるワイヤ側のワイヤ部分に、中空軸を被せるか又は中実軸で連結しているため、ワイヤ径が細い場合や駆動プーリと従動プーリ間の距離が長い場合でも、動力伝達時にワイヤの弾性変形（伸び）の影響が小さく、十分な動力伝達が可能となり、また、駆動側プーリを固定した保持状態やサーボロック状態では、従動軸（出力軸）側に十分な回転剛性が得られる。これにより、確かな動力伝達が可能となり、作業性、操作性が大幅に向上する。
【００１９】
さらに、操作時の初期状態や操作において最も標準的な姿勢であるマニピュレーターの基準姿勢時に、連結部まわりに偏心質量による回転トルクが生じない構成となっているため、操作者に余計な操作力を課すことになく、作業性、操作性が大幅に向上する。また、自由度構成が、連結部による共通ロール軸と、ヨー軸（横方向）とピッチ軸（縦方向）の間方向（斜め方向）の屈曲軸と、ロール軸の自由度構成となっているため、基準姿勢の状態から作業部の姿勢誘導が容易となり作業性、操作性が大幅に向上する。
【００２０】
すなわち、小型・軽量、高信頼性、高剛性、低コストな動力伝達機構を提供することが可能となり、さらにその動力伝達機構を有することにより高操作性、高作業性を備えた手術支援用マニピュレーターやエネルギー機器などの狭隘部補修用マニピュレーターを提供することが可能となる。
【００２１】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図１は、本発明の第１の実施の形態によるマニピュレーターの動力伝達機構の駆動側および従動側のワイヤ・プーリ部を示す断面図・側面図である。図２は、動力伝達系全体を示す分解状態の概略構成図、図３は、マニピュレーターに組み込んだ場合の概略構成図である。図１に示すように本発明の第１の実施の形態によるマニピュレーターの動力伝達機構においては、駆動側プーリ５０、従動側プーリ５１、ワイヤ（可撓性動力伝達部材）５２、円柱状又はテーパ状のピン５３、ワイヤ連結部材（図示せず）から構成されている。ワイヤはステンレスワイヤロープが一般的であるが、タングステンや繊維系材料など他の材質のものでも問題なく、可撓性を有するものであればよい。本発明ではこれら全てを含めてワイヤとよぶ。なお、ワイヤ連結部材は、一本の直線状のワイヤの両端を連結してループ状にするために必要な部材のことである。
【００２２】
ワイヤ５２はループ状に構成されており、本発明の第１の実施例においては、プーリ５０、５１にそれぞれ１．５回転ずつ巻きつけている。ワイヤ５２は、固定ピン５３でプーリ５０、５１に固定されている（締結部）。この構成では、最大±２７０度の動作範囲が得られる。
【００２３】
図２は、動力伝達系全体を示す概略構成図の一例として、駆動側プーリ５０には減速機付きモータ５４が、従動側プーリ５１にはアーム５５が取り付ける例を図示しているが、必ずしもこの構成である必要はなく、基本は駆動側の動力を従動側へ伝達するための動力伝達機構である。図３には、マニピュレーター１に組み込んだ場合の概略構成図を図示しているが、必ずしも本構成である必要はない。マニピュレーター１は、作業部１０、操作部２０、連結部３０および制御部（図示せず）などから構成され、操作者は操作部を操作することで作業部の位置姿勢を誘導する。本マニピュレーターは狭隘部での作業ないし狭隘部を通過させての作業を行うため、作業部１０は小型コンパクトに構成する必要がある。かつ、高い操作性、作業性を得るためには、十分な動作領域（従動軸の回転角度）が必要となる。
【００２４】
次に、駆動部の詳細を示すために、プーリ５０ないし５１の斜視図を図４に示す。基本的には駆動プーリ５０と従動プーリ５１は同構造でよい。プーリ５０には、ワイヤが嵌め込み可能な幅のスリット溝部５６とその概略中心部に円柱状又はテーパ状の穴５７を有している。図５にワイヤ１２をプーリ５０に固定するための固定ピン５３の斜視図を図５に示す。固定ピン５３は、円柱状又はテーパ状の形状で、概略中心にワイヤ通過可能な穴５８があいている。図６（ａ）−（ｃ）は、固定の手順を示す図である。概略中心にワイヤ通過可能な穴があいている円柱状又はテーパ状の固定ピン５３に、ワイヤを通過させた後に、円柱状又はテーパ状の固定ピン５３を、プーリ５０の円柱状又はテーパ状の穴５７に差し込むことにより、ワイヤ５２をプーリ５０に固定する。ピン５３の上面は概ねプーリ５０の外周面の高さと一致させる寸法関係とすることにより、回転角度が大きい時にも隣のワイヤと干渉しない構成となる。また、テーパ形状とすることでくさび効果により、ワイヤ５２をより強固にプーリ５０に固定できる。従って、ワイヤ５２をより強固にプーリ５０に固定するとともに、多回転が可能となる。
【００２５】
図７は、テーパ状でまたは円柱状のピン５３のワイヤ通過可能な穴５８の形状の例を示した図である。円形の穴５８の場合（ａ）、低コストである。一方、図７（ｂ）−（ｄ）のように、スリット部５８ａを形成することにより穴５８が変形しやすいため、くさび効果による締め付け力をワイヤ５２に効率よく伝えることが可能なため、さらに締め付け力は上昇する。
【００２６】
また、通常、本発明による実施例では、ワイヤ５２のピン５３への固定作業とピン５３のプーリ５０への固定作業とを、ピン５３をテーパの穴５７に挿入するという作業により、同時に行うことが可能となり作業効率が向上する。
【００２７】
本発明の第１の実施例によれば、ワイヤ５２とプーリ５０，５１による動力伝達機構において、摩擦駆動の場合の張力調整機構を必要とせず、また、ワイヤ５２とワイヤ５３同士が、プーリ５０，５１への締結部において干渉しない構成であり、省スペース、多回転に対応可能であり、さらに、くさび効果で強い締結力が得られる。これにより、マニピュレーター関節の動作領域すなわち手先効果機の作業領域が広くなり、これにより作業に支障のない十分な作業領域が得られるため、作業性、操作性が大幅に向上する。
【００２８】
図８〜図１２は、本発明の第２の実施の形態によるマニピュレーターの動力伝達機構の駆動側および従動側のワイヤ・プーリ部を示す断面図である。ワイヤ５２におけるプーリ５０，５１間の部分に、中空軸を挿入し又は中実軸６０で連結した例を示す。ワイヤ５２のプーリへの連結方法はこれらの図に示すように、いろいろ考えられる。これらのいずれのようにしても問題はない。図９、図１１は、下側の中空軸６０ａにワイヤ５２を通過させ少なくとも２箇所以上で固着（たとえば圧着）した構成である。一般に固着部の引っ張り強度は、ワイヤ５２そのものの引っ張り強度より劣るため、固着部の強度信頼性を確保することが課題であるが、ワイヤ５２を中空軸６０ａに通過させることにより、少なくともワイヤ５２の引っ張り強度は保たれるため、固着（たとえば圧着）の不良による固着部の破断の問題を回避できる。
【００２９】
図８−図１１において、少なくとも高張力を受ける側（下側）のワイヤ５２を、中実軸棒６０ｂで連結するか、中空軸６０ａに貫通させている。つまり、ワイヤ５２における、一対のプーリ５０，５１間に張設された部分としての、２本のワイヤ部分（動力伝達系統）のうちの高張力側のワイヤ５２を、中空軸６０ａ又は中実軸６０ｂで補強している。このように、高張力を受けるワイヤ５２が片側の場合（下側のワイヤと仮定）、少なくとも高張力を受ける側のワイヤ５２を、中空軸６０ａに貫通させ、又は中実軸棒６０ｂで連結することでも十分な効果が得られる。
【００３０】
図１２は、円盤状の支持部材６１の穴６１ａ，６１ａにより前述の中空軸６０ａ又は中実軸６０ｂを摺動自在に支持した構成例である。同図１２では、支持部材６１に６箇所の穴６１ａ，６１ａ、・・・があいており、そのうちの２つに中空軸６０ａ又は中実軸棒６０ｂを通過支持させている。穴の数は駆動軸数に対応した個数となる。
【００３１】
ワイヤ５２の両側（図では上下）を、中空軸６０ａに通し又は中実軸６０ｂで連結した場合、駆動プーリ５０と従動プーリ５１の軸が鉛直方向に向うように配置されている時は、重力的にバランスするため、中空軸６０ａ又は中実軸６０ｂの重力成分が駆動トルク増大を引き起こすことはない。しかし、水平方向に配置した時には、中空軸６０ａ又は中実軸６０ｂの重力の影響がワイヤ５２の張力に対して無視できない影響を及ぼすことがある。場合によっては振動増大やワイヤ破断などの事態を引き起こす。そのような場合、図１２に示すような支持部材６１で支持することにより、重力の影響を低減させることが可能となる。また、駆動プーリ５０と従動プーリ６１ａが連結部３０の一部としてのパイプ６２に内設される場合、支持部材６１は、図１３のような円盤状の支持部材を、図１４に示すように、パイプ６２内の所定間隔毎の必要箇所に配置し、固定すればよい。
【００３２】
本発明の第２の実施例によれば、駆動プーリ５０と従動プーリ５１間の、少なくとも高張力を受ける側のワイヤ部分を、中空軸６０ａに通し又は中実軸６１ｂで連結しているため、ワイヤ５２の径が細い場合や駆動プーリ５０と従動プーリ５１間の距離が長い場合でも、動力伝達時にワイヤ５２の弾性変形（伸び）の影響が小さく、十分な動力伝達が可能となり、また、駆動側プーリを固定した保持状態やサーボロック状態では、従動軸（出力軸）側に十分な回転剛性が得られる。また、支持部材により中空軸ないし中実軸の重力の影響による振動増大やワイヤ破断などの事態を避けることが可能となる。これにより、確かな動力伝達が可能となり、作業性、操作性が大幅に向上する。
【００３３】
図１５〜図２０は、本発明による第３の実施の形態によるマニピュレーターの斜視図およびそのワイヤ・プーリ部を示した図である。マスタとスレーブが一体化された一体型マスタスレーブマニピュレーターでは、通常、連結部３０まわりの偏心質量が生じる。この偏心質量の位置によっては、重力の影響により連結部３０まわりに、操作者が意図せぬ回転トルクが生じ、操作性の低下を招くことになる。特に、操作時の初期状態や操作において最も標準的な姿勢であるマニピュレーターの基準姿勢時に、連結部まわりに偏心質量による回転トルクが生じた場合、操作者に余計な操作力を課すことになるため、大幅な操作性低下を招くことになる。
【００３４】
通常、質量の占める割合が大きいのは、駆動モータ５４であるため、図１５〜２０ではマニピュレーターの基準姿勢時に駆動モータ５４が概ね上下方向に向くようにしている。つまり、駆動軸プーリ５０を従動軸プーリ５１に対して、例えば図２６に比して、ねじった位置関係としている。対象作業の内容によってマニピュレーターの最適な基準姿勢は異なるが、図１５は、共通ロール軸（連結部３０の軸周り）、ピッチ軸、ロール軸という自由度構成になっている場合である。従来の実施例では、図２５に示すように、基準姿勢時にモータ５４が水平方向に配置され、重量バランスが悪く操作性の低下を招いていたが、本実施例では、マニピュレーターの基準姿勢時にモータ５４が概ね下方に来るように駆動軸プーリ５０と従動軸プーリ５１に９０度のねじりを加えているため重量バランスがよく操作性に優れる。図１６は、ワイヤ５２とプーリ５０，５１の関係を示した図である。図１７は、共通ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸という自由度構成になっているが、図１８に示すように、同様に９０度ねじりを加えている。また、同図に示すように、必ずしも駆動プーリ５０と従動プーリ５１の組み合わせだけでなく、途中のアイドルプーリ５１ａとの間でねじりを加えることも可能である。
【００３５】
図１９は、共通ロール軸、ピッチ軸ないしヨー軸、ロール軸という自由度構成の場合であるが、駆動プーリ５０と従動プーリ５１とに概ね４５度のねじりを加えている。この場合、作業部１０側の回転軸６３と操作部２０側の回転軸６４の方向は、概ね一致した方向になっている。図１５に示す自由度構成、共通ロール軸、ピッチ軸、ロール軸の場合は、この図に示す基準姿勢の状態から、作業部１０の姿勢をヨー方向（横方向）に変化させることは、特異姿勢のため困難である。一方、図２９に示す自由度構成、共通ロール軸、ヨー軸、ロール軸の場合は、図に示す基準姿勢の状態から、作業部の姿勢をピッチ方向（縦方向）に変化させることは、特異姿勢のため困難である。実際の操作においては、基準姿勢の状態から作業部の姿勢を横方向および縦方向に誘導させる割合が多く、図２５や図２９に示す従来例の自由度配置では、操作性の低下を招く。
【００３６】
また、腹腔鏡下手術においては、術者１６０は図２１のような姿勢で手術を行うため、術者の手の向きが最も自然な向きとなるのは内側に約４５度の向きである。従って、図１９の本発明の実施の態様によれば、共通ロール軸、ピッチ軸とヨー軸の中間方向（約４５度の傾き）、ロール軸という自由度構成の場合、術者１６０の手の向きが最も自然な向きとなる向きと、マニピュレーター最も操作しやすい向きとを一致させることができるとともに質量のあるモータ５４を安定した下向きに配置させることができる。従って、極力疲労感を低減させることができ、操作性が大幅に向上する。なお、２つのプーリ５０，５１間の傾きは必ずしも４５度である必要は無く、ピッチ軸方向、ヨー軸方向から少しでもずれているだけで、上下方向や左右方向が特異姿勢からずれるために、操作性は向上する。
【００３７】
また、対象作業の内容によってマニピュレーターの最適な基準姿勢時にモータが概ね下方に設定できるように、駆動軸プーリと従動軸プーリにねじり角度を自由ら設定できる構成としてもよい。
【００３８】
【発明の効果】
以上本発明によれば、ワイヤとプーリによる動力伝達機構において、摩擦駆動の場合の張力調整機構を必要とせず、また、ワイヤとワイヤのプーリへの締結部とが干渉しない構成で、省スペース、多回転に対応可能であり、さらに、くさび効果で強い締結力が得られる。これにより、マニピュレーター関節の動作領域すなわち手先効果機の作業領域が広くなり、作業に支障のない十分な作業領域が得られるため、作業性、操作性が大幅に向上する。
【００３９】
また、駆動プーリと従動プーリ間の２系統のワイヤのうち、少なくとも高張力を受けるワイヤ側のワイヤ部分を、中空軸に通しないし中実軸で連結しているため、ワイヤ径が細い場合や駆動プーリと従動プーリ間の距離が長い場合でも、動力伝達時にワイヤの弾性変形（伸び）の影響が小さく、十分な動力伝達が可能となり、また、駆動側プーリを固定した保持状態やサーボロック状態では、従動軸（出力軸）側に十分な回転剛性が得られる。これにより、確かな動力伝達が可能となり、作業性、操作性が大幅に向上する。
【００４０】
さらに、操作時の初期状態や操作において最も標準的な姿勢であるマニピュレーターの基準姿勢時に、連結部まわりに偏心質量による回転トルクが生じない構成となっているため、操作者に余計な操作力を課すことはなく、作業性、操作性が大幅に向上する。また、自由度構成が、連結部による共通ロール軸と、ヨー軸とピッチ軸の中間方向の屈曲軸と、ロール軸の自由度構成となっているため、基準姿勢の状態から作業部の姿勢誘導が容易となり作業性、操作性が大幅に向上する。
【００４１】
すなわち、小型・軽量、高信頼性、高剛性、低コストな動力伝達機構を提供することが可能となり、さらにその動力伝達機構を有することにより高操作性、高作業性を備えた手術支援用マニピュレーターやエネルギー機器などの狭隘部補修用マニピュレーターを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の第１の実施の形態による動力伝達機構の正面図、左右の側面図およびｄ−ｄ線，ｅ−ｅ線断面図。
【図２】 本発明の第１の実施の形態による動力伝達系全体を示す概略分解斜視図。
【図３】 本発明の第１の実施の形態による動力伝達機構をマニピュレーターに組み込んだ場合の概略全体斜視図。
【図４】 本発明の第１の実施の形態による動力伝達機構のプーリの斜視図。
【図５】 本発明の第１の実施の形態による動力伝達機構の固定ピンの斜視図。
【図６】 本発明の第１の実施の形態による動力伝達機構の組立て手順を示す工程図。
【図７】 本発明の第１の実施の形態による動力伝達機構の固定ピンの各種形状の例を示す図。
【図８】 本発明の第２の実施の形態による動力伝達機構の例の正面図。
【図９】 本発明の第２の実施の形態による動力伝達機構の例の正面図。
【図１０】 本発明の第２の実施の形態による動力伝達機構の例の正面図。
【図１１】 本発明の第２の実施の形態による動力伝達機構の例の正面図。
【図１２】 本発明の第２の実施の形態による動力伝達機構の例の正面図。
【図１３】 本発明の第２の実施の形態による動力伝達機構の支持部材の正面図。
【図１４】 本発明の第２の実施の形態による動力伝達機構の支持部材のパイプ内への装着状態の横断面図。
【図１５】 本発明の第３の実施の形態によるマニピュレーターの斜視図。
【図１６】 本発明の第３の実施の形態によるマニピュレーターのワイヤとプーリの関係を示す斜視図。
【図１７】 本発明の第３の実施の形態によるマニピュレーターの斜視図。
【図１８】 本発明の第３の実施の形態によるマニピュレーターのワイヤとプーリの関係を示す斜視図。
【図１９】 本発明の第３の実施の形態によるマニピュレーターの斜視図。
【図２０】 本発明の第３の実施の形態によるマニピュレーターのワイヤとプーリの関係を示す斜視図。
【図２１】 術者の姿勢を示す図。
【図２２】 従来の動力伝達機構の正面図、左右の側面図およびｄ−ｄ線，ｅ−ｅ線断面図。
【図２３】 従来の動力伝達機構の正面図、左右の側面図および断面図。
【図２４】 従来の動力伝達機構の正面図。
【図２５】 従来のマニピュレーターの斜視図。
【図２６】 従来のマニピュレーターのワイヤとプーリの関係を示す斜視図。
【図２７】 従来のマニピュレーターの斜視図。
【図２８】 従来のマニピュレーターのワイヤとプーリの関係を示す斜視図。
【図２９】 従来のマニピュレーターの斜視図。
【図３０】 従来のマニピュレーターのワイヤとプーリの関係を示す斜視図。
【図３１】 内視鏡（腹腔鏡）下での手術を説明する図。
【図３２】 従来のマニピュレーターの斜視図。
【図３３】 従来のマニピュレーターの斜視図。
【符号の説明】
１ マニピュレーター
１０ 作業部
２０ 駆動部
３０ 連結部
５０ 駆動側プーリ
５１ 従動側プーリ
５２ ワイヤ
５３ 固定ピン
５４ 駆動モータ
５５ アーム
５６ スリット部
５７ テーパ穴
５８ 穴
５９ スリット部
６０ａ 中空軸
６０ｂ 中実軸
６１ 支持部材
６２ パイプ
６３，６４ 回転軸

Claims (6)

1. 可撓性動力伝達部材と、
   この可撓性動力伝達部材が巻き掛けられる駆動側プーリと従動側プーリの一対のプーリと、
   前記可撓性動力伝達部材を前記一対のプーリのうちの一方のプーリに対して固定する固定ピンと、
   前記一方のプーリに設けられ、前記固定ピンを挿入するためのピン埋没穴と、
   を備え、
   前記固定ピンを前記ピン埋没穴に挿入することにより互いに固定されるように、前記固定ピンまたは前記ピン埋没穴の少なくともいずれか一方がテーパ状に構成され、
   前記固定ピンは、前記固定ピンの軸線に対して横向きに形成された動力伝達部材通過孔を有し、この動力伝達部材通過孔に前記可撓性動力伝達部材を通過させ、この状態の前記固定ピンを前記ピン埋設穴に埋設状態に圧入することにより、前記可撓性動力伝達部材の前記一方のプーリへの固定を実現し、
   さらに、前記プーリの外周面における一部分にそこに巻き掛けられた前記可撓性動力伝達部材を埋め込み状態に収納するスリット溝部を形成し、前記可撓性動力伝達部材を前記スリット溝に嵌め込み状態に収納し、
   前記ピン埋没穴は前記スリット溝部に形成されている、
   ことを特徴とする、医療用マニピュレータの動力伝達機構。
2. 前記固定ピンにおける前記動力伝達部材通過孔は、前記圧入時にこの動力伝達部材通過孔を縮径させる、この固定ピンの軸方向に沿って延成された、縮径用のスリット部を有するものとして形成されていることを特徴とする請求項１に記載の医療用マニピュレータの動力伝達機構。
3. 前記可撓性動力伝達部材における前記一対のプーリ間に張設された部分としての２本の動力伝達系統のうちの、少なくとも高張力を受ける側の動力伝達系統としての、前記可撓性動力伝達部材を、中空軸を被せて補強するか切断して中実軸で連結したことを特徴とする、請求項１記載の医療用マニピュレータの動力伝達機構。
4. 前記中空軸は、複数箇所で、内部を通る前記可撓性動力伝達部材と固着により一体化されていることを特徴とする請求項３に記載の医療用マニピュレータの動力伝達機構。
5. 前記中空軸または前記中実軸を摺動可能に被挿して支持する支持部材をさらに備えることを特徴とする請求項３または４に記載の医療用マニピュレータの動力伝達機構。
6. 作業部と連結部と操作部と駆動モータと請求項１に記載の医療用マニピュレータの動力伝達機構を備え、前記作業部の位置姿勢を誘導するために、前記動力伝達機構は前記駆動モータの動力を伝達することを特徴とするマニピュレータ。

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