JP3927357B2 - 車両用ブレーキ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、各輪に制動トルクを付与して車両を制動する車両用ブレーキ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、例えば特開平1−164658号公報及び特開平1−164662号公報に示されているように、車両の前後左右輪位置にホイールシリンダを駆動源とする液圧ブレーキをそれぞれ配設して、ブレーキペダルの踏み込み操作に応じて各ホイールシリンダに供給されるブレーキ油圧によって液圧ブレーキを作動させて、各輪にそれぞれブレーキ油圧に応じた制動力を付与するよるようにした車両用ブレーキ装置はよく知られている。また、近年、例えば特開平11−43041号公報に示されているように、車両の前後左右輪位置に電動モータを駆動源とする電動ブレーキを配設して、ブレーキペダルの踏み込み操作に応じて電動モータを回転させることにより電動ブレーキを作動させ、各輪にそれぞれ電動モータの回転に応じた制動力を付与するようにした車両用ブレーキ装置もよく知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記前者の車両用ブレーキ装置にあっては、液圧ブレーキしか備えておらず、油圧系統に失陥が発生すると、ブレーキペダルの踏み込み操作時に、運転者はブレーキペダルの踏み込み量と減速感との間に違和感を感じる。上記後者の車両用ブレーキ装置にあっても、電動ブレーキしか備えておらず、電気系統に失陥が発生すると、ブレーキペダルの踏み込み操作時に、運転者は前記違和感を感じる。また、ブレーキペダルによる車両停止中には、車輪を制動するための大きな制動トルクを必要としないにもかかわらず、電動モータには不必要に大きな電流が流れて、電力が無駄に消費されるとともに、電動モータの発熱、破損などの原因にもなっていた。
【0004】
【発明の概略】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、液圧式ブレーキ装置と電動式ブレーキ装置の協調を図った車両用ブレーキ装置を提供するとともに、同液圧式ブレーキ装置と電動式ブレーキ装置の的確な利用を図った車両用ブレーキ装置を提供することにある。
【0005】
前記目的を達成するために本発明の構成上の特徴は、前輪及び後輪のうちの一方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて同一方の左右輪に作動液圧による制動力を付与する液圧式ブレーキ装置と、前輪及び後輪のうちの他方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて同他方の左右輪に電力による制動力を付与する電動式ブレーキ装置と、前輪の操舵角を検出する操舵角センサと、前記一方の左右輪および前記他方の左右輪のうちのいずれか 1 つの車輪に対する制動力の付与状態に異常が発生したとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力配分を、前記検出された操舵角に応じて異ならせる制動力配分制御手段とを備えたことにある。この場合、例えば、液圧式ブレーキ装置にあっては液圧シリンダなどの液圧アクチュエータにより、電動式ブレーキ装置にあっては電動モータなどの電動アクチュエータにより、制動部材(摩擦部材)を車輪と共に回転する被制動部材に押しつけることにより、制動部材を被制動部材との摩擦力によって車輪を制動するようにするとよい。
【0006】
具体的には、前記制動力配分制御手段は、例えば、前記検出された操舵角が所定値以下であるとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力を均等に制御し、かつ前記検出された操舵角が所定値よりも大きいとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで前記異常が発生した車輪と左右同じ側にある車輪に対する制動力を、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで前記異常が発生した車輪と左右反対側にある車輪に対する制動力よりも大きくなるように制御するとよい。
【0007】
上記のように構成した本発明においては、液圧及び電気という異なるブレーキ装置を混在させたことにより、各種配管の液漏れ、ブースタの負圧失陥時などの液圧系統の異常時にも、各種センサの異常、バッテリ電圧の低下などの電気系統の異常時にも、いずれか一方の系統の制動力を用いて車両を停止させることができるようになり、すなわち前後輪のいずれか一方の左右輪に対する制動力の付与によって車両を停止させることができるようになり、運転者はブレーキ操作に対応した減速感を得ることができるとともに、車両の走行安全性が良好に確保される。そして、制動力配分制御手段が、前輪及び後輪のうちの一方の左右輪および他方の左右輪のうちのいずれか 1 つの車輪に対する制動力の付与状態に異常が発生したとき、異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力配分を、操舵角センサによって検出された操舵角に応じて異ならせるので、車両の操舵状態に応じて的確に車両を制動させることができる。
【0008】
特に、制動力配分制御手段が、検出された操舵角が所定値以下であるとき、異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力を均等に制御し、かつ検出された操舵角が所定値よりも大きいとき、異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで異常が発生した車輪と左右同じ側にある車輪に対する制動力を、異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで異常が発生した車輪と左右反対側にある車輪に対する制動力よりも大きくなるように制御すれば、車輪に対する制動力付与に起因して車体に働く垂直軸周りの回転モーメントの発生が抑制されて、走行安定性を確保できる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記制動力配分制御手段が、前記検出された操舵角が所定値以下であるとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力を、前記異常が発生しない場合よりも大きくなるように制御するようにしたことにある。これによれば、異常の発生した車輪の制動力の不足が補われて、車両は良好に制動される。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前述した液圧式ブレーキ装置、電動式ブレーキ装置及び操舵角センサに加えて、車速を検出する車速センサを備え、前記制動力分配制御手段が、前記一方の左右輪および前記他方の左右輪のうちのいずれか 1 つの車輪に対する制動力の付与状態に異常が発生したとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力配分を、前記検出された操舵角及び車速に応じて異ならせるようにしたことにある。
【0011】
具体的には、前記制動力配分制御手段は、例えば、前記検出された操舵角および車速によって規定される車両の走行状態が、前輪の操舵角および車速によって規定される車両の走行状態を表す境界であって前記異常が発生した車輪と左右反対側への操舵角が大きくなるに従って車速が小さくなる境界の外側にあるとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで前記異常が発生した車輪と左右反対側の車輪に対する制動力の付与を禁止するようにするとよい。
【0012】
これによれば、制動力配分制御手段が、前輪及び後輪のうちの一方の左右輪および他方の左右輪のうちのいずれか 1 つの車輪に対する制動力の付与状態に異常が発生したとき、異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力配分を、操舵角センサによって検出された操舵角に加えて車速センサによって検出された車速に応じて異ならせるので、車両の操舵状態及び走行速度に応じてより的確に車両を制動させることができる。
【0013】
特に、検出された操舵角および車速によって規定される車両の走行状態が、前輪の操舵角および車速によって規定される車両の走行状態を表す境界であって異常が発生した車輪と左右反対側への操舵角が大きくなるに従って車速が小さくなる境界の外側にあるとき、異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで異常が発生した車輪と左右反対側の車輪に対する制動力の付与を禁止するようにすれば、車輪に対する制動力付与に起因して車体に働く垂直軸周りの回転モーメントの発生が抑制されて、走行安定性を確保できる。
【0014】
さらに、本発明の他の特徴は、制動力配分制御手段が、検出された操舵角および車速によって規定される車両の走行状態が、前輪の操舵角および車速によって規定される車両の走行状態を表す境界であって前輪の操舵角が大きくなるに従って車速が小さくなる境界の内側にあるとき、異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで異常が発生した車輪と左右同じ側の車輪に対する制動力を、異常が発生しない場合よりも大きくなるように制御するとよい。これによれば、異常の発生した車輪の制動力の不足が補われて、車両は良好に制動される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明すると、図1は、同実施形態に係る車両用ブレーキ装置の全体を概略的に示している。
【0018】
この車両用ブレーキ装置は、左右前輪FL,FRに制動力を付与するための液圧式ブレーキ装置HBと、左右後輪RL,RRに制動力を付与するための電動式ブレーキ装置EBとからなる。また、この車両用ブレーキ装置は、サービスブレーキ用のブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11と、パーキングブレーキ用のブレーキ操作部材としてのパーキングペダル12とを備えている。ブレーキペダル11が操作されれば、液圧式ブレーキ装置HB及び電動式ブレーキ装置EBが作動して、左右前輪FL,FR及び左右後輪RL,RRに同ペダル11の操作量(又は操作力)Fに対応した制動力が付与される。なお、このブレーキペダル11は図示しないスプリングにより基準位置に付勢されている。
【0019】
パーキングペダル12が操作されれば、電動式ブレーキ装置EBが作動して、左右後輪RL,RRに同ペダル12の操作量(又は操作力)に対応した制動力が付与されて維持される。ただし、このパーキングペダル12の操作に対応した制動力の付与は、電気的に制御されるわけではなく、同ペダル12の組み付けられたパーキングブレーキ機構13によるパーキングブレーキケーブル14a,14bを介した機械的な引っ張り力により制御される。パーキングブレーキ機構13には解除レバー15も組み付けられており、同レバー15の操作により前記パーキングペダル12の操作が解除されて、前記左右後輪RL,RRの制動力も解除されるようになっている。
【0020】
液圧式ブレーキ装置HBは、左右前輪FL,FRにそれぞれ制動力を付与するための液圧ブレーキ21a,21bを備えている。これらの液圧ブレーキ21a,21bは、車体側部材であるマウンティングブラケットに回転不能に保持された摩擦係合部材としてのブレーキパッドをホイールシリンダ22a,22bの作動により車輪と共に回転するディスクロータに摩擦係合させることによって、車輪の回転を抑制する。各ホイールシリンダ22a,22bには、ブレーキペダル11の踏み込み操作量(又は操作力)Fに対応したブレーキ油圧がタンデムマスタシリンダ23の各液室23a,23bから供給されるようになっている。これらの液室23a,23bは、ブレーキ油を蓄えたオイルタンク24にそれぞれ連通している。
【0021】
なお、本実施形態では、ディスク式の液圧ブレーキ21a,21bを採用したが、同ディスク式の液圧ブレーキ21a,21bをドラム式の液圧ブレーキでそれぞれ置換することも可能である。この場合も、ドラム式の液圧ブレーキは、ホイールシリンダをそれぞれ内蔵しており、同ホイールシリンダへのブレーキ油圧の供給により左右前輪FL,FRに制動力を付与する。
【0022】
タンデムマスタシリンダ23の各液室23a,23bと各ホイールシリンダ22a,22bとの各間には、電磁バルブ25a,25bがそれぞれ介装されている。電磁バルブ25a,25bは、それぞれ非通電時に図示連通状態に保たれ、通電により非連通状態に切換えられる。これらの電磁バルブ25a,25bには、リターン用のチェックバルブ26a,26bが並列にそれぞれ接続されている。チェックバルブ26a,26bは、それぞれ電磁バルブ25a,25bが非連通状態にあるとき、ブレーキペダル11の踏み込み操作解除に応答してホイールシリンダ22a,22bへの供給ブレーキ油圧を解除する。
【0023】
また、ホイールシリンダ22a,22bには、電磁バルブ27a,27b及びリザーバ28a,28bがそれぞれ直列に接続されている。電磁バルブ27a,27bは、それぞれ非通電時に図示非連通状態に保たれてホイールシリンダ22a,22bからリザーバ28a,28bへのブレーキ油の流失を禁止し、通電により連通状態に切換えられて前記ブレーキ油の流出を許容する。リザーバ28a,28bには、それぞれ電動モータ31により駆動されるポンプ32a,32bが接続されている。ポンプ32a,32bは、リザーバ28a,28b内のブレーキ油を汲み上げて、電磁バルブ25a,25bの上流側に供給する。
【0024】
次に、液圧式ブレーキ装置HBの電気制御装置について説明する。この電気制御装置は、液圧ブレーキコントローラ40を備えている。液圧ブレーキコントローラ40は、CPU,ROMおよびRAMを含むコンピュータ41を主体として構成されている。液圧ブレーキコントローラ40のコンピュータ41は、ROMに記憶された後述するプログラムの実行により、液圧式ブレーキ装置HBの異常を検出するとともに、電磁バルブ25a,25b,27a,27b及び電動モータ31を制御してホイールシリンダ22a,22bに供給されるブレーキ油圧をブレーキペダル11の操作に応じて又は同ペダル11の操作とは無関係に制御する。液圧ブレーキコントローラ40の入力側には、操作量センサ51、ブレーキペダルスイッチ52、油圧センサ53a,53b,54a,54b、車速センサ55、及び車輪速センサ56a,56bが接続されている。
【0025】
操作量センサ51は、ブレーキペダル11の踏み込み操作量(又は操作力)Fを検出する。なお、この操作量Fは、ブレーキペダル11が図示しないスプリングによって基準位置に付勢されているので、同ペダル11に加えらた操作力に対応するものである。なお、この操作量センサ51を、ブレーキペダル11に付与される実際の操作力Fを検出するもので置換してもよいし、タンデムマスタシリンダ23内の油圧値から前記操作量(又は操作力)Fを検出するようにしてもよい。
【0026】
ブレーキペダルスイッチ52は、ブレーキペダル11の操作に応じて切換えられるもので、同ペダル11の非操作状態にてオフしていて、操作状態にてオンするものである。油圧センサ53a,53bは、タンデムマスタシリンダ23の両液室23a,23bのブレーキ油圧(MP1,MP2)をそれぞれ検出するものである。油圧センサ54a,54bは、ホイールシリンダ22a,22b内のブレーキ油圧をそれぞれ検出するものである。車速センサ55は、変速機の出力軸の回転を検出することにより、車速Vを検出するものである。車輪速センサ56a,56bは、左右前輪FL,FRにそれぞれ設けられ、左右前輪FL,FRの車輪速Vw1,Vw2を検出するものである。
【0027】
電動式ブレーキ装置EBは、左右後輪RL,RRにそれぞれに制動力を付与するために、電動モータ61a,61bを含む電動ブレーキ60a,60bをそれぞれ備えている。本実施形態においては、電動モータ61a,61bはDCモータとされているが、超音波モータとしてもよい。また、本実施形態では、電動ブレーキ60a,60bとして詳しくは後述するドラム式のものを採用したが、ドラム式の電動ブレーキ60a,60bに代えてディスク式の電動ブレーキを用いることもできる。
【0028】
ここで、本実施形態で用いる電動ブレーキ60a,60bについて詳しく説明しておく。これらの電動ブレーキ60a,60bは、図2に示すようにデュオサーボ型のものである。電動ブレーキ60a,60bは、同一に構成されており,ほぼ円板状を成したバッキングプレート200と、そのバッキングプレート200に設けられ、概して円弧状を成した一対のブレーキシュー202a,202bと、内周面に摩擦面204を備えて車輪と共に回転するドラム206と、一対のシュー202a,202bの一端部同士を拡開させる電動アクチュエータ207とを含む。バッキングプレート200は図示しない車体側部材に回転不能に取り付けられる。
【0029】
一対のブレーキシュー202a,202bは、それぞれ、互いに対向する一端部において、バッキングプレート200に固定されたアンカピン208に係合させられることによって、ドラム206と共に回転することを防止された状態で回動可能に保持される。また、他端部同士がストラット210によって連結される。ストラット210によって一方のシューに作用する力が他方のシューに伝達されるのである。なお、一対のブレーキシュー202a,202bは、シューホールドダウン装置212a,212bによってバッキングプレート200にそれの面に沿って移動可能とされている。
【0030】
一対のブレーキシュー202a,202bの他端部同士は、図に示すように、スプリング214により互いに接近する向きに付勢されており、一端部には各シューリターンスプリング215a,215bによりアンカピン208に向かって付勢されている。また、一端部には、ストラット216、リターンスプリング218も設けられている。
【0031】
各ブレーキシュー202a,202bの外周面には、それぞれ、摩擦係合部材としてのブレーキライニング219a,219bが保持され、それら一対のブレーキライニング219a,219bがドラム206の内周面204に摩擦係合させられることにより、ブレーキライニング219a,219bとドラム206との間に摩擦力が発生する。本実施形態においては、ストラット210がアジャスト機構を備えたものであり、ブレーキライニング219a,219bの摩耗に応じてブレーキライニング219a,219bとドラム内周面204との隙間を調整する。
【0032】
各ブレーキシュー202a,202bは、それぞれリム224a,224bとウェブ222a,222bとを含み、ウェブ222a,222bに、それぞれ、レバー230a,230bの一端部がピン232a,232bを介して回動可能に設けられている。レバー230a,230bとウェブ222a,222bとの互いに対向する部分には、それぞれ、切欠が設けられており、これら切欠に、前記ストラット216が、両端がレバー230a,230b、ウェブ222a,222bに係合させられた状態で設けられている。
【0033】
レバー230aの他端部には、電動モータ61a(又は61b)を含む電動アクチュエータ207が連結され、レバー230bの他端部には、パーキングブレーキケーブル14a(又は14b)の一端部が連結されている。サービスブレーキ用のブレーキペダル11が操作されると、電動モータ61a又は61b(電動アクチュエータ207)の駆動によってレバー230aが回動させられ、ストラット216により、一対のブレーキシュー202a,202bが拡開させられる。また、パーキングペダル12が操作されると、レバー230bが回動させられ、ストラット216により、一対のブレーキシュー202a,202bが拡開させられる。なお、レバー230bの他端部とバッキングプレート200との間には、リターンスプリング244がパーキングブレーキケーブル14a(又は14b)と同軸に配設されている。
【0034】
電動アクチュエータ207は、上記電動モータ61a(又は61b)の他に、減速機,運動変換機構を含む。電動モータ61a(又は61b)の出力軸の回転が減速機によって減速させられ、その回転運動がボールねじ機構によって直線運動に変換されるのであり、そのボールねじ機構の出力部材にレバー230aの他端部が連結されるのである。
【0035】
パーキングブレーキケーブル14a(又は14b)は、前述のように、その他端部にてパーキングブレーキ機構13に連結されていて、パーキングペダル12の操作力(操作量)に応じた引っ張り力が付与される。この引っ張り力により、一対のブレーキシュー202a,202bが拡張する向きにレバー230bが回動される。
【0036】
次に、電動式ブレーキ装置EBの電気制御装置について説明する。この電気制御装置は、電動ブレーキコントローラ70を備えている。電動ブレーキコントローラ70も、CPU,ROMおよびRAMを含むコンピュータ71を主体として構成されている。電動ブレーキコントローラ70のコンピュータ71は、ROMに記憶された後述するプログラムの実行により、電動式ブレーキ装置EBの異常を検出するとともに、電動モータ61a,61bを制御して左右後輪RL,RRをブレーキペダル11の操作に応じて制動制御する。この電動ブレーキコントローラ70は、液圧ブレーキコントローラ40に接続されていて信号の授受を行うとともに、その入力側には、パーキングブレーキスイッチ81、制動トルクセンサ82a,82b、車輪速センサ83a,83b、モータ電流センサ84a,84b、舵角センサ85及び変速位置センサ86が接続されている。また、この電動ブレーキコントローラ70には、前述した操作量センサ51、ブレーキペダルスイッチ52及び車速センサ55も接続されている。
【0037】
パーキングブレーキスイッチ81は、パーキングブレーキ機構に組み付けられた切換えスイッチで構成されて、通常オフ状態に保たれており、パーキングペダル12の踏み込み操作によりパーキング用の制動力が付与されるとオン状態に切換えられる。制動トルクセンサ82a,82bは、電動ブレーキ60a,60bのアンカピン208に取り付けられた歪みセンサで構成されて、アンカピン208の歪みに基づいて各電動ブレーキ60a,60bにより発生される制動トルクを検出する。なお、ドラム式の電動ブレーキ60a,60bに代えて電動ディスクブレーキを採用した場合には、制動トルクセンサ82a,82bは、マウンティングブラケットに取り付けられた歪みセンサによって構成される。
【0038】
車輪速センサ83a,83bは、左右後輪RL,RRにそれぞれ設けられ、左右後輪RL,RRの車輪速Vw3,Vw4を検出するものである。モータ電流センサ84a,84bは、ドライブ回路62に組み込まれており、電動ブレーキ60a,60bの電動モータ61a,61bのコイルに流れる実電流Iを検出する。舵角センサ85は、ハンドルシャフトに組み付けられ、ハンドルの回転角を検出することにより左右前輪FL,FRの操舵角θfを検出する。ただし、この操舵角θfは、左右前輪FL,FRの中立位置にて「0」を表し、右方向の操舵を正で表し、左方向の操舵を負で表している。変速位置センサ86は、変速機に組み付けられて、シフトレバーの位置(特に、パーキング位置)を検出する。
【0039】
一方、電動ブレーキコントローラ70の出力側には、前記ドライブ回路62が接続されている。ドライブ回路62は、電動ブレーキコントローラ70からの指令信号に応じてバッテリ63から電動モータ61a,61bに電流を供給する。本実施形態においては、電動ブレーキコントローラ70からドライブ回路62にはデューティ比を表す指令信号が出力され、電動モータ61a,61bには前記デューティ比に従つた電流が供給される。
【0040】
なお、本明細書においては詳しい説明は省略するが、図1に破線で示すように、電動ブレーキ60a,60b内に位置センサ89a,89bを設けるようにしてもよい。これらの位置センサ89a,89bは、例えば電動モータ61a,61bの回転角を測定することにより、ブレーキシュー202a,202bのドラム206に対する相対的位置を検出して出力するものである。そして、これらの位置センサ89a,89bは、ブレーキライニング219a,219bがドラム206の内周面204に接触するまで電動モータ61a,61bを高速で回転させて制動トルクの発生の応答性を向上させたり、左右後輪RL,RRに対する制動力付与の制御精度の向上に用いられたり、また制動トルクセンサ82a,82bなどの制動力付与制御に用いるセンサの異常時に同センサの代替えとして用いる。
【0041】
以下、上記のように構成した車両用ブレーキ装置の動作を説明する。まず、液圧式ブレーキ装置HB及び電動式ブレーキ装置EBも正常である場合について説明する。液圧式ブレーキ装置HBにおいては、電磁バルブ25a,25b,27a,27bが非通電によって図示状態に保たれており、ブレーキペダル11が踏み込み操作されなければ、ホイールシリンダ22a,22bにはブレーキ油圧が供給されず、液圧ブレーキ21a,21bによる制動力は左右前輪FL,FRに付与されない。ブレーキペダル11が踏み込み操作されると、タンデムマスタシリンダ23は、同ペダル11の踏み込み操作量(又は操作力)Fに応じたブレーキ油圧をホイールシリンダ22a,22bに供給する。したがって、液圧ブレーキ21a,21bは、ブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに応じた制動力を左右前輪FL,FRに付与する。なお、この場合においても、液圧ブレーキコントローラ40は、図示しないプログラムを実行して、液圧式ブレーキ装置HBの異常の検出処理を行っている。
【0042】
一方、電動式ブレーキ装置EBにおいては、電動ブレーキコントローラ70が、図3の後輪制動プログラムを所定の短時間毎に繰り返し実行している。このプログラムの実行は、ステップS10にて開始され、ステップS12にて、ブレーキペダルスイッチ52からの信号に基づいてブレーキペダル11が踏み込み操作されているか否かを判定する。ブレーキペダル11が踏み込み操作されていなければ、ステップS12にて「NO」と判定して、ステップS14にて電流「0」(電流オフ)を表す指令信号をドライブ回路62に出力する。したがって、この場合には、ドライブ回路62は電動モータ61a,61bに電流を流さないので、電動ブレーキ60a,60bによる制動力は左右後輪RL,RRに付与されない。
【0043】
ブレーキペダル11が踏み込み操作されると、前記ステップS12にて「YES」と判定されて、プログラムはステップS16に進められる。ステップS16においては、詳しくは後述するように、液圧ブレーキコントローラ40からの信号に基づいて、液圧式ブレーキ装置HBが異常であるか否かを判定する。いま、液圧式ブレーキ装置HBは正常であるので、ステップS16にて「NO」と判定して、ステップS18にて電動式ブレーキ装置EBの作動抑制条件が成立しているか否かを判定する。この作動抑制条件は、下記(1)〜(5)の判定条件により、車両の停止中、渋滞時などの極低速走行中及びパーキングブレーキが作動中であるか否かを判定するものである。
【0044】
(1)車速センサ55によって検出された車速Vが、車両の停止状態を表すほぼ「0」であること。なお、前記車速Vを、車輪速センサ56a,56b、83a,83bによって検出された車輪速Vw1,Vw2,Vw3,Vw4を用いて計算するようにしてもよい。また、前記条件(V=0)に、ブレーキペダル11の踏み込み時間が所定時間よりも長いことを、AND条件として加えるようにしてもよい。なお、ブレーキペダル11の踏み込み時間は、ブレーキペダルスイッチ52がオンし続けている時間をコンピュータ71内に設けたタイマなどにより計測することによって検出される。
【0045】
(2)車速センサ55によって検出された車速Vが、車両の極低速状態を表すVo以下であること。また、この場合も、前記車速Vを、車輪速センサ56a,56b、83a,83bによって検出された車輪速Vw1,Vw2,Vw3,Vw4を用いて計算するようにしてもよい。
【0046】
(3)操作量センサ51によって検出されたブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fが、小さな所定値Fo以下であること。また、前記条件(F≦Fo)に、前記(2)の条件(V≦Vo)を、AND条件として加えるようにしてもよい。
【0047】
(4)パーキングペダル12が踏み込み操作されていて、パーキングブレーキスイッチ81がオン状態にあること。
【0048】
(5)変速位置センサ86によって検出されたシフトレバーがパーキング位置にあること。また、この条件に、前記(4)の条件(パーキングブレーキスイッチ81がオン状態であること)を、AND条件として加えるようにしてもよい。
【0049】
前記(1)〜(5)の条件がいずれも成立していなければ、前記ステップS18にて「NO」すなわち作動抑制条件が成立していないと判定して、ステップS20にて電動ブレーキの通常制御処理を実行して、ステップS26にてこの後輪制動プログラムの実行を一旦終了する。
【0050】
このステップS20の電動ブレーキの通常制御処理においては、操作量センサ51によって検出されたブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに対応した目標制動トルクT*が計算され、同計算された目標制動トルクT*に制動トルクセンサ82a,82bによって検出された実制動トルクTがそれぞれ一致するように電動モータ61a,61bに流れる電流が制御される。この場合、前記電流を電動モータ61a,61bに流すためのデューティ比を表す指令信号がドライブ回路62に供給され、ドライブ回路62は前記指令信号によってバッテリ63から電動モータ61a,61bに前記電流を流す。
【0051】
電動モータ61a,61bは、前記供給電流に応じた駆動力でレバー230aを回動させる。ストラット216により、一対のシュー202a,202bが拡開させられ、摩擦係合部材(ブレーキライニング219a,219b)がドラム206の内周面204に押し付けられる。摩擦係合部材はドラム内周面204に摩擦係合させられ、これらの間に摩擦力が発生させられる。したがって、車輪の回転が抑制され、車輪に制動トルクが付与される。
【0052】
一方のシュー202bにおいて生じた摩擦力に基づくつれまわり力と、電動アクチュエータ207による駆動力とが他端部からストラット210を介して他方のシュー202aの他端部に伝達される。他方のシュー202aは、このつれまわり力と拡開力との和によりドラム内周面204に押し付けられ、一方のシュー202bより大きな摩擦力が生じる。その結果、左右後輪RL,RRには、電動ブレーキ60a,60bにより、ブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに対応した目標制動トルクT*に等しい制動トルクが付与される。このように、一方のシュー202bの出力が他方のシュー202aの入力となり、しかも、二重のサーボ効果が得られるため、デュオサーボ型ドラムブレーキにおいては、大きな制動トルクを得ることができる。
【0053】
この電動ブレーキコントローラ70による左右後輪RL,RRへの制動トルクの付与制御について、図4の機能ブロック図を用いて詳しく説明しておく。ブロックB1において、運転者によるブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに基づいて目標制動トルクT*が決定される。ブロックB2,B3において、目標制動トルクT*と目標電流値I*との関係に従つて目標電流値I*が求められ、目標電流値I*とデューティ比との関係に従つてデューティ比が求められ、それを表す指令信号がドライブ回路62に出力される。一方、電動ブレーキ60a,60bによって左右後輪RL,RRに制動トルクが付与されると、この制動トルクは制動トルクセンサ82a,82bによって検出され、同検出された実制動トルクTがフィードバックされる。そして、目標制動トルクT*と実制動トルクTとの偏差に対応した制御信号が前記デューティ比を表す信号に加算されて、同加算結果を表す指令信号がドライブ回路62に出力されるようになる。
【0054】
その結果、電動モータ61a,61bに流れる電流は、目標制動トルクT*と実制動トルクTとの偏差がなくなるように、フィードバック制御されることになり、電動ブレーキ60a,60bは左右後輪RL,RRを目標制動トルクT*に等しい制動トルクで制動することになる。なお、この制動トルクのフィードバック制御においては、実際の差に基づいて決定されるようにしても、差の微分値に基づいて決定されるようにしても、積分値に基づいて決定されるようにしてもよく、実際の差,微分値,積分値の2つ以上に基づいて決定されるようにしてもよい。また、前述の目標制動トルクT*と目標電流値I*との関係(摩擦係数を基本値μoとした場合)を表すテーブル、目標電流値I*とデューティ比との関係を表すテーブル、ブレーキ操作力Fと目標制動トルクT*との関係を表すテーブルは、コンピュータ71内に設けたROMに格納されており、各々の値は、各々のテーブルを利用して決定されるのであるが、各々の値は演算により求められるようにすることもできる。
【0055】
また、ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理においては、前記トルクフィードバック制御に代えて、電動モータ61a,61bに流れる電流Iをフィードバックして制御することも可能である。この電流フィードバック制御について、前記と同様に制御機能ブロック図を用いて説明すると、図5は同制御機能ブロック図を示している。まず、ブロックB11に示すように、ブレーキ操作力Fに基づいて目標ブレーキ作動力D*が決定される。なお、このブレーキ作動力とは、電動モータ61a,61bによって電動ブレーキ60a,60bにもたらされる力、具体的には電動モータ61a,61bによってレバー230aにもたらされる力である。次に、ブロックB12,B13に示すように、目標ブレーキ作動力D*と目標電流値I*との関係に基づいて目標電流値I*が決定され、目標電流値I*とデューティ比との関係に基づいてデューティ比が決定される。そして、この場合には、モータ電流センサ84a,84bによって検出された実モータ電流Iがフィードバックされて、前記決定した目標電流値I*と実モータ電流値Iの差I*−Iに応じたフィードバック制御量が前記決定されたデューティ比に加算されて指令信号としてドライブ回路62に出力される。
【0056】
これにより、ドライブ回路62は、前記指令信号に制御されて、バッテリ63から電動モータ61a,61bに目標電流値I*に等しい電流を流す。したがって、電動ブレーキ60a,60bは、ブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに対応した目標ブレーキ作動力D*を発生する。なお、上述の目標ブレーキ作動力D*と目標電流値I*との関係を表すテーブル、目標電流値I*とデューティ比との関係を表すテーブル、ブレーキ操作量(又は操作力)Fと目標ブレーキ作動力D*との関係を表すテーブル等は予めROMに記憶されている。このような制御によっても、電動ブレーキ60a,60bを制御することも可能であるが、この制御は、前述したトルクフィードバック制御に比べれば実制動トルクTを用いていない点で必ずしも前記制御ほど正確でないが、車両の停止中などの実制動トルクTの検出精度が良好でない場合に利用するのに適している。
【0057】
なお、前記電流制御においては、電動モータ61a,61bに実際に流れている電流Iをフィードバックするようにしたが、同電流Iをフィードバックしなくも電動ブレーキ60a,60bに所望の作動力を発生させることができれば、この電流フィードバックを省略してもよい。この場合、図5の電動モータ61a,61bの電流Iをフィードバックする経路を省略して、ブロックB13にて決定されたデューティ比を表す指令信号を直接ドライブ回路62に供給するようにすればよい。
【0058】
一方、前記(1)〜(5)の条件のうちのいずれかが成立すれば、前記ステップS18にて「YES」すなわち作動抑制条件が成立していると判定して、ステップS22にて電動ブレーキ禁止(抑制)処理を実行して、ステップS26にてこの後輪制動プログラムの実行を一旦終了する。
【0059】
ステップS22においては、電動モータ61a,61bに流れる電流をオフすなわち電動モータ61a,61bに電流が流れないようにする。したがって、この場合には、電動ブレーキ60a,60bは、電動モータ61a,61bの駆動力により、左右後輪RL,RRを制動することはない。ただし、パーキングペダル12が踏み込み操作されていて、パーキングブレーキケーブル14a,14bに引っ張り力が付与されている状態では、同ケーブル14a,14bが、一対のブレーキシュー202a,202bが拡張する向きにレバー230bを回動するので、左右後輪RL,RRには、パーキングペダル12の踏み込み操作による制動力が付与される。また、この状態でも、左右前輪FL,FRには液圧ブレーキ21a,21bによる制動力が付与されているとともに、パーキングブレーキの作動中には、左右後輪RL,RRにもパーキングペダル12の操作による電動ブレーキ60a,60bの制動力が付与されている。
【0060】
このように、大きな制動力が不要であるが、長時間の制動力の付与が必要となる可能性のある車両の停止中、渋滞時などの極低速走行中又はパーキングブレーキが作動中である場合には、電動モータ61a,61bに電流が流れないようにしたので、連続通電による電動モータ61a,61bの発熱、コイルの破損、無駄な電力の消費などを防止できる。
【0061】
また、前記ステップS22の電動ブレーキ禁止(抑制)処理においては、電動モータ61a,61bに電流を全く流さないようにしたが、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理による電流値よりも少なくとも小さな電流を流すようにしてもよい。この場合、予め定めた小さな所定電流を電動モータ61a,61bに流すようにすればよい。また、ブレーキペダル11が操作されている状態においては、前記ステップS20にて決定される目標制動トルクF*よりも予め定めた所定量だけ小さな目標制動トルク、又は同目標制動トルクF*に予め定めた「1」より小さな所定比率を乗じた目標制動トルクを計算して、同計算した目標制動トルクになるように電動モータ61a,61bに流れる電流を制御して、同モータ61a,61bに流れる電流を制限するようにしてもよい。また、前記ステップS20にて電動モータ61a,61bに目標電流I*を流すように制御する場合(図5の場合)には、前記目標制動トルクF*の場合と同じ手法により目標電流値I*を同ステップS20の場合よりも小さく設定するようにして、電動モータ61a,61bに流れる電流を小さな電流値に制限するようにすればよい。
【0062】
その結果、これによっても、車両の停止中、渋滞時などの極低速走行中又はパーキングブレーキが作動中である場合には、連続通電による電動モータ61a,61bの発熱、コイルの破損、無駄な電力の消費などを防止できる。特に、前記条件(1)〜(5)中の(2)の条件V≦Vo又は(3)の条件F≦Foの成立時においては、電動モータ61a,61bに電流を流さないようにするよりも、同モータ61a,61bに流れる電流を小さく抑えて電動ブレーキ60a,60bによる制動力を小さく制限することが有効である。
【0063】
次に、液圧式ブレーキ装置HB又は電動式ブレーキ装置EBに異常が発生した場合について説明する。液圧ブレーキコントローラ40のコンピュータ41は、図示しないプログラムの実行により、油圧センサ53a,53bからタンデムマスタシリンダ23の各液室23a,23b内のブレーキ油圧及び油圧センサ54a,54bからホイールシリンダ22a,22b内のブレーキ油圧を入力して、各ブレーキ油圧に応じて油圧失陥などの液圧式ブレーキ装置HBの異常を判定する。
【0064】
この異常の判定においては、操作量センサ51からブレーキペダル11の操作量(操舵力)Fを入力するとともに、ブレーキペダルスイッチ52からブレーキペダル11の操作の有無を表す信号を入力して、前記入力したブレーキ油圧がブレーキペダル11の操作に対応した値を示しているか否かにより判定する。例えば、ブレーキペダルスイッチ52がブレーキペダル11の操作を表しているにもかかわらず、油圧センサ53a,54aからのブレーキ油圧が大気圧を示していれば、左前輪FLのブレーキ系統に異常が発生していると判定し、油圧センサ53b,54bからのブレーキ油圧が大気圧を示していれば、右前輪FRのブレーキ系統に異常が発生していると判定する。また、油圧センサ53a,54aからのブレーキ油圧が操作量センサ51からの操作量(又は操作力)Fに匹敵する油圧に比べて小さければ、左前輪FLのブレーキ系統に異常が発生していると判定し、油圧センサ53b,54bからのブレーキ油圧が操作量センサ51からの操作量(又は操作力)Fに匹敵する油圧に比べて小さければ、右前輪FRのブレーキ系統に異常が発生していると判定する。そして、これらの異常検出時には、液圧ブレーキコントローラ40のコンピュータ41から電動ブレーキコントローラ70のコンピュータ71に、前記異常を表す信号が出力される。
【0065】
電動ブレーキコントローラ70のコンピュータ71は、前記図3の後輪制動プログラムの実行中、ステップS16にて、「YES」すなわち液圧ブレーキ系に異常が発生したと判定して、ステップS24の液圧系異常ルーチンを実行して、ステップS26にてこの後輪制動プログラムの実行を一旦終了する。
【0066】
この液圧系異常ルーチンは、図6に詳細に示されており、その実行がステップS30にて開始され、ステップS32にて目標制動トルクT*を計算する。この目標制動トルクT*の計算方法は、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理の場合と同様に操作量(又は操作力)Fに対応して決定される(図4のブロックB1参照)。次に、ステップS34にて、舵角センサ85によって検出された操舵角θfを入力して、同操舵角θfの絶対値|θf|が小さな所定値θf0以下であるかを判定することにより、車両が直進状態にあるかを判定する。
【0067】
車両がほぼ直進状態にあって操舵角θfの絶対値|θf|が小さな所定値θf0以下であれば、ステップS34にて「YES」と判定し、ステップS36にて前記計算した目標制動トルクT*に正の所定値αを加算して、左右後輪RL,RRの各目標制動トルクT*(=T*+α),T*(=T*+α)をそれぞれ計算する。そして、ステップS48にて、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理の場合と同様、電動ブレーキ60a,60bによって左右後輪RL,RRに付与される制動トルクが前記目標制動トルクT*,T*に等しくなるように、電動モータ61a,61bに流れる電流を制御する(図4のブロックB2,B3参照)。これにより、左右後輪RL,RRには、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理の場合に比べて所定値αだけ大きな制動トルクがそれぞれ付与される。
【0068】
一方、車両が旋回状態にあって操舵角θfの絶対値|θf|が前記所定値θf0よりも大きければ、ステップS34にて「NO」と判定し、プログラムをステップS38,S40に進める。ステップS38、S40においては、前記液圧ブレーキコントローラ40のコンピュータ41からの異常を表す信号に基づいて、左右前輪FL,FRのいずれのブレーキ系統に異常が発生しているかを判定する。
【0069】
左前輪FLのブレーキ系統にのみ異常が発生していれば、ステップS38にて「YES」と判定して、ステップS42にて前記計算した目標制動トルクT*に正の所定値αを加算して左後輪RLの目標制動トルクT*(=T*+α)を計算するとともに、同目標制動トルクT*から正の所定値βを減算して右後輪RRの目標制動トルクT*(=T*−β)を計算する。そして、ステップS48にて、前記と同様に、電動ブレーキ60a,60bによって左右後輪RL,RRに付与される制動トルクが前記目標制動トルクT*,T*に等しくなるように、電動モータ61a,61bに流れる電流を制御する。これにより、左後輪RLには、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理の場合に比べて所定値αだけ大きな制動トルクが付与されるとともに、右後輪RRには、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理の場合に比べて所定値βだけ小さな制動トルクが付与される。
【0070】
また、車両が旋回状態にあり、右前輪FRのブレーキ系統にのみ異常が発生していれば、ステップS40にて「YES」と判定して、ステップS44にて前記目標制動トルクT*から正の所定値βを減算して左後輪RLの目標制動トルクT*(=T*−β)を計算するとともに、同目標制動トルクT*に正の所定値αを加算して右後輪RRの目標制動トルクT*(=T*+α)を計算する。そして、ステップS48にて、前記と同様に、電動ブレーキ60a,60bによって左右後輪RL,RRに付与される制動トルクが前記目標制動トルクT*,T*に等しくなるように、電動モータ61a,61bに流れる電流を制御する。これにより、前記とは逆に、左後輪RLには、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理の場合に比べて所定値βだけ小さな制動トルクが付与されるとともに、右後輪RRには、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理の場合に比べて所定値αだけ大きな制動トルクが付与される。
【0071】
さらに、車両が旋回状態にあり、左右前輪FL,FRの両ブレーキ系統に異常が発生していれば、ステップS38,S40にて共に「NO」と判定して、ステップS46にて、左右後輪RL,RRの各目標制動トルクT*,T*を前記ステップS32の処理によって計算した目標制動トルクT*にそれぞれ設定する。そして、ステップS48の処理により、電動ブレーキ60a,60bによって左右後輪RL,RRに付与される制動トルクが、前記ステップS20の電動ブレーキの通常制御処理の場合と同じ目標制動トルクT*,T*になるように制御される。
【0072】
図7は、前記液圧系異常ルーチンによる左右後輪RL,RRの制動力制御をまとめて示すものである。なお、図7中、○印は正常なブレーキ系統を表し、×印は異常なブレーキ系統を表している。また、上向き矢印は制動力の増加を表し、下向き矢印は制動力の減少を表し、横向き矢印は制動力の増減なしを表している。これからも理解できるように、車両がほぼ直進状態にある状態で液圧式ブレーキ装置HBの一部に異常が発生した場合には、電動ブレーキ60a,60bによる左右後輪RL,RRの両制動力が、左右前輪FL,FRの両方のブレーキ系統が共に正常である場合に比べて大きく制御される。このような左右前輪FL,FRに対する左右後輪RL,RRの制動力配分比の変更により、左右前輪FL,FRのための液圧式ブレーキ装置HBの制動力の不足が、左右後輪RL,RRのための電動式ブレーキ装置EBによって補われて、車両は良好に制動される。
【0073】
また、車両の旋回中に、左右前輪FL,FRのいずれかのみのブレーキ系統に異常が発生した場合には、異常が発生した前輪と左右同じ側にある左後輪RL(又は右後輪RR)に対する電動ブレーキ60a(又は電動ブレーキ60b)による制動力が、左右前輪FL,FRの両方のブレーキ系統が共に正常である場合に比べて大きく制御される。これと同時に、異常が発生した車輪と対角位置にある右後輪RR(又は左後輪RL)に対する電動ブレーキ60b(又は電動ブレーキ60a)による制動力が、左右前輪FL,FRの両方のブレーキ系統が共に正常である場合に比べて小さく制御される。このような左右後輪RL,RRの制動力配分の変更により、車輪に対する制動力付与に起因して車体に働く垂直軸回りの回転モーメントの発生が抑制されて、走行安定性を確保できる。また、所定値α,βの与え方によっては、左右後輪RL,RRに対する制動力が増加制御され、左右前輪FL,FRのための液圧式ブレーキ装置HBの制動力の不足が、左右後輪RL,RRのための電動式ブレーキ装置EBによって補われて、車両は良好に制動される。なお、車両の旋回中に、左右前輪FL,FRの両方のブレーキ系統に異常が発生した場合に、左右後輪RL,RRの制動力を増加させないのは、車両のスピンを回避するためである。
【0074】
次に、前記図6の液圧系異常ルーチンを図8のように変形した変形例について説明する。この場合も、ステップS60の実行開始後、ステップS62にて前記図6の場合と同様に目標制動トルクT*を計算する。ただし、この場合には、左右後輪RL,RRの各目標制動トルクT*,T*を前記計算した目標制動トルクT*に一旦設定しておく。次に、ステップS64、S66において、前記液圧ブレーキコントローラ40のコンピュータ41からの異常を表す信号に基づいて、左右前輪FL,FRのいずれのブレーキ系統に異常が発生しているかを判定する。
【0075】
左前輪FLのブレーキ系統にのみ異常が発生していれば、ステップS64にて「YES」と判定して、ステップS68にて、車速センサ55及び舵角センサ85から車速V及び操舵角θfを入力し、ROMに記憶されたテーブルAを参照することにより、前記車速V及び操舵角θfで決まる現在の車両の走行状態が右後輪RRの制動力付与禁止領域にあるかを判定する。このテーブルAは、図9(A)に示すように、車速Vと操舵角θfによって決まり、左前輪FLのブレーキ系統の異常時に、右後輪RRに制動力を付与する領域と、同制動力の付与を禁止する領域(図9(A)のハッチング領域)とを規定するデータを記憶している。この場合、操舵角θfが正の小さな所定値未満すなわち車両がほぼ直進又は左旋回状態にあれば、車速Vが所定車速以上すなわち車両の高速走行状態時に禁止領域とされ、操舵角θfが前記所定値以上すなわち車両が右旋回状態にあれば、操舵角θfが大きくなるに従って車速Vが小さくなっても禁止領域とされる。
【0076】
そして、前記ステップS68にて「YES」すなわち車両の走行状態が禁止領域にあると判定されると、ステップS70にて右後輪RRの目標制動トルクT*を「0」に変更する。また、前記ステップS68にて「NO」すなわち車両の走行状態が禁止領域にないと判定されると、右後輪RRの目標制動トルクT*を前記ステップS62にて設定した値に保ったまま、プログラムをステップS72に進める。
【0077】
ステップS72においては、ROMに記憶されたテーブルCを参照することにより、前記車速V及び操舵角θfで決まる現在の車両の走行状態が左後輪RLの制動力増加許容領域にあるかを判定する。このテーブルCは、図9(C)に示すように、車速Vと操舵角θfによって決まり、左前輪FL又は右前輪FRのブレーキ系統の異常時に、異常が発生している前輪と左右同じ側の後輪(ただし、左右前輪FL,FRの両方の異常時には左右後輪RL,RRの両方)に付与する制動力を増加することを許容する領域(図9(C)のハッチング領域)と、同制動力の増加を禁止する領域とを規定するデータを記憶している。この場合、操舵角θfの絶対値|θf|が大きく、すなわち車両の旋回半径が小さくなるに従って、車速が小さくなっても制動力の増加が禁止されるようになっている。言いかえれば、車両の旋回半径が大きくなって直進走行に近づくに従って、車速Vが大きくなっても制動力の増加が許容される。
【0078】
そして、前記ステップS72にて「YES」すなわち車両の走行状態が増加許容領域にあると判定されると、ステップS74にて左後輪RLの目標制動トルクT*を同トルクT*よりも正の所定値αだけ大きな値T*+αに変更する。また、前記ステップS72にて「NO」すなわち車両の走行状態が増加許容領域にないと判定されると、左後輪RLの目標制動トルクT*を前記ステップS62にて設定した値に保ったまま、プログラムをステップS88に進める。ステップS88においては、前記図6のステップS48の場合と同様に、電動ブレーキ60a,60bによって左右後輪RL,RRに付与される各制動トルクが、前記設定した目標制動トルクT*,T*に等しくなるように制御される。
【0079】
一方,右前輪FRのブレーキ系統にのみ異常が発生していれば、ステップS66にて「YES」と判定して、ステップS76にて、車速センサ55及び舵角センサ85から車速V及び操舵角θfを入力し、ROMに記憶されたテーブルBを参照することにより、前記車速V及び操舵角θfで決まる現在の車両の走行状態が左後輪RLの制動力付与禁止領域にあるかを判定する。このテーブルBは、図9(B)に示すように、車速Vと操舵角θfによって決まり、右前輪FRのブレーキ系統の異常時に、左後輪RLに制動力を付与する領域と、同制動力の付与を禁止する領域(図9(B)のハッチング領域)とを規定するデータを記憶している。この場合、操舵角θfが絶対値の小さな負の所定値よりも大きいすなわち車両がほぼ直進又は右旋回状態にあれば、車速Vが所定車速以上すなわち車両の高速走行状態時に禁止領域とされ、操舵角θfが前記所定値以下すなわち車両が左旋回状態にあれば、操舵角θfが小さく(操舵角θfの絶対値|θf|は大きく)なるに従って車速Vが小さくなっても禁止領域とされる。
【0080】
そして、前記ステップS76にて「YES」すなわち車両の走行状態が禁止領域にあると判定されると、ステップS78にて左後輪RLの目標制動トルクT*を「0」に変更する。また、前記ステップS76にて「NO」すなわち車両の走行状態が禁止領域にないと判定されると、左後輪RLの目標制動トルクT*を前記ステップS62にて設定した値に保ったまま、プログラムをステップS80に進める。
【0081】
ステップS80においては、ROMに記憶された前記テーブルCを参照することにより、前記車速V及び操舵角θfで決まる現在の車両の走行状態が左後輪RLの制動力増加許容領域にあるかを判定する。そして、前記ステップS80にて「YES」すなわち車両の走行状態が増加許容領域にあると判定されると、ステップS82にて右後輪RRの目標制動トルクT*を同トルクT*よりも正の所定値αだけ大きな値T*+αに変更する。また、前記ステップS80にて「NO」すなわち車両の走行状態が増加許容領域にないと判定されると、右後輪RRの目標制動トルクT*を前記ステップS62にて設定した値に保ったまま、プログラムを前記ステップS88に進める。そして、ステップS88の処理により、電動ブレーキ60a,60bによって左右後輪RL,RRに付与される各制動トルクが、前記設定した目標制動トルクT*,T*に等しくなるように制御される。
【0082】
また,左前輪FLと右前輪FRの両ブレーキ系統に異常が発生していれば、ステップS64,S66にて共に「NO」と判定して、ステップS84にて、車速センサ55及び舵角センサ85から車速V及び操舵角θfを入力し、ROMに設けた前述したテーブルCを参照することにより、前記車速V及び操舵角θfで決まる現在の車両の走行状態が左右後輪RL,RRの制動力増加許容領域にあるかを判定する。そして、前記ステップS84にて「YES」すなわち車両の走行状態が増加許容領域にあると判定されると、ステップS86にて左右後輪RL,RRの目標制動トルクT*,T*を同トルクT*,T*よりも正の所定値γだけそれぞれ大きな値T*+γ,T*+γに変更する。また、前記ステップS84にて「NO」すなわち車両の走行状態が増加許容領域にないと判定されると、左右後輪RL,RRの目標制動トルクT*,T*を前記ステップS62にて設定した値に保ったまま、プログラムを前記ステップS88に進める。そして、ステップS88の処理により、電動ブレーキ60a,60bによって左右後輪RL,RRに付与される各制動トルクが、前記設定した目標制動トルクT*,T*に等しくなるように制御される。
【0083】
したがって、この変形例によれば、車速Vがあまり大きくなく、かつ操舵角θfの絶対値|θf|があまり大きくない状態で、左右前輪FL,FRの一方又は両方のブレーキ系統に異常が発生した場合には、異常が発生している前輪と左右同じ側の後輪(ただし、左右前輪FL,FRの両方が異常である場合には、左右後輪RL,RRの両方)の制動力が、左右前輪FL,FRの両方のブレーキ系統が共に正常である場合に比べて大きく制御される。このような左右前輪FL,FRに対する左右後輪RL,RRの制動力配分比の変更により、左右前輪FL,FRのための液圧式ブレーキ装置HBによる制動力の不足が、左右後輪RL,RRのための電動式ブレーキ装置EBによって補われて、車両は良好に制動される。また、車速Vが大きく、又は操舵角θfの絶対値|θf|が大きな状態で、左右前輪FL,FRの一方又は両方のブレーキ系統に異常が発生した場合には、前記左右後輪RL,RRの制動力の増加が禁止されるので、制動力の増加に伴う車輪のロックが未然に防止され、車両の走行安定性が確保される。
【0084】
また、車速Vがある程度大きく、かつ操舵角θfの絶対値|θf|が大きい状態で、左右前輪FL,FRの一方のブレーキ系統に異常が発生した場合には、異常が発生した側と左右反対側の左右後輪RL,RRへの制動力の付与が禁止される。このような左右後輪RL,RRの制動力配分の変更により、車輪に対する制動力付与に起因した車体に働く垂直軸回りの回転モーメントの発生が抑制されて、走行安定性を確保できる。
【0085】
なお、この変形例においては、ステップS70,S78の処理により、異常が発生した前輪と左右反対側の後輪の制動力を「0」にするようにしたが、これに代え、前記後輪の制動トルクを前記ステップS62にて設定した目標制動トルクT*,T*よりも小さな値に抑制することにより、制動力による車両の回転モーメントの発生を抑制するようにしてもよい。さらに、この後輪への制動力の抑制においても、車速Vが大きくなるに従って、及び/又は操舵角θfの絶対値|θf|が大きくなるに従って目標制動トルクT*,T*を小さな(「0」に近づく)値に設定するようにしてもよい。
【0086】
次に、左右後輪RL,RRのための電動式ブレーキ装置EBに異常が発生した場合について説明する。電動ブレーキコントローラ70のコンピュータ71は、前記図3の後輪制動プログラムと並行して、ROMに記憶されている図10の電気系異常プログラムを繰り返し実行している。
【0087】
この電気系異常プログラムは、ステップS100にて開始され、ステップS102にて、コンピュータ71及び操作量センサ51の異常を判定する。このコンピュータ71の異常は、図示しないウォッチドッグタイマなどによって検出されるコンピュータ71の暴走などを意味している。また、操作量センサ51の異常は、同センサ51周りの断線、短絡などを検出するものである。コンピュータ71及び操作量センサ51に異常が発生していて、前記ステップS102にて「YES」と判定されると、プログラムをステップS104に進めて同ステップS104の処理後、ステップS116にてこの電気系異常プログラムの実行を一旦終了する。
【0088】
ステップS104においては、電動ブレーキ60a,60bの作動停止を制御する。この電動ブレーキ60a,60bの作動停止は、前述した図3の後輪制動プログラムの実行停止を意味する。これにより、ブレーキペダル11が踏み込み操作されても、左右後輪RL,RRに電動ブレーキ60a,60bによる制動力が付与されなくなる。その結果、左右後輪RL,RRに対する誤った制動力の付与が回避され、車両の走行安定性が確保される。
【0089】
一方、コンピュータ71及び操作量センサ51に異常が発生していなければ、前記ステップS102にて「NO」と判定され、プログラムはステップS106に進められる。ステップS106においては、制動トルクセンサ82a,82b周りの断線、短絡などの異常発生が判定される。制動トルクセンサ82a,82bに異常が発生していなければ、ステップS106にて「NO」と判定して、プログラムをステップS112に進める。ステップS112においては、車輪速センサ83a,83b周りの断線、短絡などの異常が判定される。車輪速センサ83a,83bに異常が発生していなければ、ステップS112にて「NO」と判定して、ステップS116にてこの電気系異常プログラムの実行を終了する。この状態では、前記図3の後輪制動プログラムが前述したように実行され、ブレーキペダル11の踏み込み操作に応じて左右後輪RL,RRに電動ブレーキ60a,60bによる制動力が前述の態様で付与される。
【0090】
一方、制動トルクセンサ82a,82bに異常が発生している場合には、ステップS106における「YES」との判定のもとに、ステップS108,S110の処理を実行する。ステップS108の処理は、図3の後輪制動プログラムによる電動モータ61a,61bの制御態様の切り換えを指示するものである。制動トルクセンサ82a,82bに異常が発生している状態では、図3のステップS20の電動ブレーキの通常制御処理及びステップS24の液圧系異常ルーチンにおける検出実制動トルクTを用いたトルクフィードバック制御(図4の機能ブロック図の制御)を行うことができない。したがって、この場合には、前述した電流フィードバック制御又は電流オープンループ制御(図5の機能ブロック図の制御)などの実制動トルクTを用いない制御を行う必要がある。前記のように、ステップS108の処理により、電動モータ61a,61bの制御態様の切り換えが指示されると、前記図3のステップS20の電動ブレーキの通常制御処理及びステップS24の液圧系異常ルーチンの実行時に、電流フィードバック制御又は電流オープンループ制御により電動モータ61a,61bが駆動制御される。その結果、制動トルクセンサ82a,82bに異常が発生しても、ブレーキペダル11の踏み込み操作による左右後輪RL,RRへの制動力の付与が確保される。
【0091】
また、ステップS110の処理は、図3の後輪制動プログラムによる電動モータ61a,61bの制御のゲインの低下を指示するものである。これにより、電流フィードバック制御又は電流オープンループ制御における電動モータ61a,61bの電流制御ゲインが低下し、すなわち図5の機能ブロック図におけるブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに対する目標電流値I*が低く設定される。したがって、ブレーキペダル11の踏み込み操作によって付与される左右後輪RL,RRへの制動力が低く抑えられる、言い換えれば左右前輪FL,FRに対する左右後輪RL、RRの制動力配分率が低く保たれることになる。制動トルクセンサ82a,82bに異常が発生している状態では、左右後輪RL,RRの制動トルクが精度よく制御されないことがあるが、前記ゲイン制御により、左右後輪RL、RRのロックが未然に回避されて車両の走行安定性が確保される。
【0092】
また、車輪速センサ83a,83bに異常が発生している場合には、ステップS112における「YES」との判定のもとに、ステップS114の処理を実行する。ステップS114の処理は、図3の後輪制動プログラムによる電動モータ61a,61bの制御のゲインの低下を指示するものである。これにより、図3のステップS20,S24にて実行されるトルクフィードバック制御(電流フィードバック制御又は電流オープンループ制御の場合もある)における電動モータ61a,61bの電流制御ゲインが低下し、すなわち図4(又は図6)の機能ブロック図におけるブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに対する目標制動トルクT*(又は図5の機能ブロック図におけるブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに対する目標電流値I*)が低く設定される。したがって、この場合も、ブレーキペダル11の踏み込み操作によって付与される左右後輪RL,RRへの制動力が低く抑えられることになる。
【0093】
この電動式ブレーキ装置EBにおいても、図示しないプログラムの実行によってアンチロックブレーキ制御(ABS制御)が行われて、左右後輪RL,RRのロックが回避されるようになっている。しかしながら、車輪速センサ83a,83bに異常が発生した場合には、左右後輪RL,RRのロックが検出され得ない。したがって、前記ステップS114の処理によって、電動モータ61a,61bの制御ゲインを下げておくことにより、左右後輪RL、RRに大きな制動力が付与されない、言い換えれば左右前輪FL,FRに対する左右後輪RL、RRの制動力配分が低く保たれて、左右後輪RL、RRのロックが未然に回避されて車両の走行安定性が確保される。
【0094】
このように電動式ブレーキ装置EBの異常時には、左右後輪RL,RRに対して制動力が付与されないか、同後輪RL,RRに対する制動力が低く抑えられる。一方、左右前輪FL,FRにおいては、前記左右後輪RL,RRに対する制動力配分が増加し、車両は、ブレーキペダル11の踏み込み操作に応じて前記制動力配分に従った各輪に対する制動力によって制動される。なお、左右前輪FL,FR用の液圧式ブレーキ装置HBにおいても、液圧ブレーキコントローラ40のコンピュータ41による図示しないアンチロックブレーキ制御(ABS制御)により、左右前輪FL,FRのロックは回避される。このアンチロックブレーキ制御は、車輪速センサ56a,56bからの車輪速Vw1,Vw2に基づく左右前輪FL,FRのロック検出時に、電磁バルブ25a,25b,27a,27b及び電動モータ31を制御することにより行われる。
【0095】
また、前記図10の電気系異常ルーチンの説明では触れなかったが、電動式ブレーキ装置EBの一部又は全部に異常が発生した場合には、これらの異常を表す情報は電動ブレーキコントローラ70のコンピュータ71から液圧ブレーキコントローラ40のコンピュータ41に供給される。これに応答して、液圧ブレーキコントローラ40は、左右前輪FL,FRに対する制動力付与の態様を変更して、液圧式ブレーキ装置HBにて対処するようにしてもよい。
【0096】
例えば、前記では説明しなかったが、電動モータ61a,61bのいずれか一つのみに異常が発生して左右後輪RL,RRの一方にしか制動力が付与されない場合、左右前輪FL,FRの一方の制動力を低下させたり、同制動力の付与を停止したりして、正常側の後輪と対角位置にある前輪とで車両を主に制動するようにして、車両に制動力による回転モーメントが作用しないようにするとよい。この場合、図6,8の液圧系異常ルーチンで説明した方法と同種の方法により、異常が発生している後輪を示す情報、車速V及び操舵角θfに基づいて、電磁バルブ25a,25b,27a,27bを制御することにより、異常が発生した後輪と左右反対側の前輪に対応したホイールシリンダ22a,22bに供給されるブレーキ油圧を停止又は減少させるようにすればよい。
【0097】
上記実施形態においては、ブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに応じて目標制動トルクF*又は目標電流値I*を計算して、同計算した目標制動トルクF*又は目標電流値I*に応じて電動モータ61a,61bを駆動制御することにより、左右後輪RL,RRに対して電動式ブレーキ装置EBによる制動力を付与するようにした。しかし、この左右後輪RL,RRに対する制動力は、左右前輪FL、FRに付与される制動力には依存しておらず、これでは、左右前輪FL、FR用の液圧式ブレーキ装置HBと左右後輪RL,RR用の電動式ブレーキ装置の協調が充分に図られているわけではない。以下、左右後輪RL,RRに対する制動力を左右前輪FL、FRに付与される制動力に依存して決めることにより、左右前輪FL、FR用の液圧式ブレーキ装置HBと左右後輪RL,RR用の電動式ブレーキ装置を充分に協調させた車両用ブレーキ装置の変形例を説明する。
【0098】
この変形例も、基本的には図1に示すように構成されているが、この場合、電動ブレーキコントローラ70には、左右後輪RL,RRに作用する後輪荷重Wrを検出する後輪荷重センサ88が接続されているとともに、油圧センサ53a,53bによって検出された各ブレーキ油圧M1,M2が供給されるようになっている。そして、電動ブレーキコントローラ70のコンピュータ71は、図3に代えて図11の後輪制動プログラムを所定の短時間毎に繰り返し実行する。
【0099】
この後輪制動プログラムの実行は、ステップS120にて開始され、上述した図3の場合と同様に、ブレーキペダル11が踏み込み操作されなければ、ステップS122にて「NO」と判定して、ステップS124にて電動モータ61a,61bの電流をオフして、電動ブレーキ60a,60bによる制動力が左右後輪RL,RRに付与されないようにする。そして、ステップS148にてこの後輪制動プログラムの実行を一旦終了する。
【0100】
ブレーキペダル11が踏み込み操作されると、前記ステップS122にて「YES」と判定して、ステップS126にて、上述した場合と同様に暴走などによるコンピュータ71の異常を判定する。コンピュータ71に異常が発生していれば、前記ステップS126にて「YES」と判定して、前述したステップS124の処理を実行して、ステップS148にてこの後輪制動プログラムの実行を一旦終了する。これにより、コンピュータ71に異常が発生した場合には、ブレーキペダル11が踏み込み操作されても、左右後輪RL,RRに電動ブレーキ60a,60bによる制動力が付与されず、誤った制動力の付与による車両の走行安定性の悪化が防止される。なお、この場合に、液圧式ブレーキ装置HBによる左右前輪FL,FRの制動力によって車両が制動される点については、上記実施形態の場合と同じである。
【0101】
一方、コンピュータ71に異常が発生していなければ、前記ステップS126にて「NO」と判定し、ステップS128にて、油圧センサ53a,53bからタンデムマスタシリンダ23の両液室23a,23b内のブレーキ油圧MP1,MP2を入力するとともに、後輪荷重センサ88から後輪荷重Wrを入力する。次に、ステップS130にて、上記場合と同様に、制動トルクセンサ82a,82bが正常であるか否かを判定する。
【0102】
制動トルクセンサ82a,82bが正常であれば、ステップS130にて「YES」と判定して、プログラムをステップS132以降に進める。ステップS132においては、前記入力したブレーキ圧MP1,MP2の平均値を計算することによってマスタシリンダ圧MP(=(MP1+MP2)/2)を導出した後、ROMに記憶されている制動トルクテーブルを参照して、タンデムマスタシリンダ23のマスタシリンダ圧MP及び後輪荷重Wrに対応した目標制動トルクT*を計算する。制動トルクテーブルは、図12のグラフに実線で示すように、後輪荷重Wrの種々の大きさに対して、マスタシリンダ圧MPに対する目標制動トルクT*を規定したものである。この場合、マスタシリンダ圧MPは左右前輪FL,FRの制動力に対応するもので、一方、目標制動トルクT*は左右後輪RL,RRの制動力に対応するもので、図12のグラフは前後輪の理想制動力配分に対応させたものである。したがって、前記ステップS132の処理により、ブレーキペダル11の踏み込み操作量(又は操作力)Fに対する理想制動力配分に従った左右後輪RL,RRの目標制動トルクT*が決定される。
【0103】
前記ステップS132の処理後、ステップS134にて、上記場合と同様に、車輪速センサ83a,83bに異常が発生しているかを判定する。車輪速センサ83a,83bに異常が発生していなければ、前記ステップS134にて「NO」と判定して、プログラムをステップS138に進める。車輪速センサ83a,83bに異常が発生していれば、前記ステップS134にて「YES」と判定して、ステップS136にて前記決定した目標制動トルクT*に予め決めた値(1−α)を乗算して、目標制動トルクT*を値(1−α)・T*に変更する。αは正の小さな所定値であり、この場合には、目標制動トルクT*は、図12に破線で示すように、前記ステップS132により決定した値よりも少し小さな値に変更される。
【0104】
前記目標制動トルクT*の決定又は変更後、ステップS138にて、上記実施形態の場合と同様に、電動ブレーキ60a,60bによる左右後輪RL,RRの制動トルクが前記決定又は変更した目標制動トルクT*になるように電動モータ61a,61bが制御される。なお、この制御は、図4のブロックB1以外のブロックB2,B3などの制御に相当する。そして、ステップS148にて、この後輪制動プログラムが一旦終了される。
【0105】
一方、制動トルクセンサ82a,82bに異常が発生していれば、ステップS130にて「NO」と判定して、プログラムをステップS140以降に進める。ステップS140においては、ROMに記憶されている電流テーブルを参照して、前記と場合と同じマスタシリンダ圧MP(=(MP1+MP2)/2)及び後輪荷重Wrに対応した目標電流値I*を計算する。電流テーブルは、図13のグラフに示すように、後輪荷重Wrの種々の大きさに対して、マスタシリンダ圧MPに対する目標電流値I*を規定したものである。そして、図13のグラフも、前後輪の理想制動力配分に対応させたものであるが、この場合には、制御精度の低下によって左右後輪RL,RRのロックを回避するために、目標電流値I*を、前後輪の理想制動力配分によって決定されるものから多少小さく設定しておくようにするとよい。したがって、前記ステップS140の処理により、ブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに対する理想制動力配分に従った左右後輪RL,RRの目標電流値I*が決定される。
【0106】
前記ステップS140の処理後、前記ステップS134,S136の処理と同様なステップS142,S144の処理により、車輪速センサ83a,83bに異常が発生していれば、目標電流値I*は、図13に破線で示すように、前記ステップS140により決定した値よりも多少小さな値(1−α)・I*に変更される。車輪速センサ83a,83bに異常が発生していなければ、目標電流値I*は、前記ステップS140により決定した値に保たれる。
【0107】
前記目標電流値I*の決定又は変更後、ステップS146にて、上記実施形態の場合と同様に、電動モータ61a,61bに目標電流値I*に等しい電流が流れるように同モータ61a,61bを制御する。これにより、電動ブレーキ60a,60bは目標電流値I*に対応した作動力を発生し、左右後輪RL,RRは前記作動力に対応した制動力で制動される。なお、この制御は、図5のブロックB11以外のブロックB12、B13などの制御に相当する。そして、ステップS148にて、この後輪制動プログラムが一旦終了される。なお、この場合も、上述した場合と同様に、実電流値のフィードバック制御を省略して、フィードフォワード制御のみによって左右後輪RL,RRの制動力を制御するようにしてもよい。
【0108】
この図11の後輪制動プログラムによって左右後輪RL,RRの制動力を制御する結果、ステップS132〜S138のトルクフィードバック制御により、左右後輪RL,RRの制動力が前後輪の理想制動力配分にしたがって制御され、すなわち左右前輪FL,FRの制動力との協調とのもとに制御されて、左右後輪RL,RRのロックなどによる車両の走行安定性の悪化を招く事態を未然に避けることができる。また、制動トルクセンサ82a,82bに異常が発生した場合にも、ステップS140〜146からなる電流制御によって前記左右前輪FL,FRとの協調制御が実現されるので、トルクフィードバック制御の場合と同様に、左右後輪RL,RRのロックを回避できる。
【0109】
また、車輪速センサ83a,83bに異常が発生した場合には、前記ステップS134,S136,S142,S144の処理によって目標制動トルクT*又は目標電流値I*が下げられる。すなわち、ブレーキペダル11の操作量(又は操作力)Fに対する電動ブレーキ60a,60bの制御ゲインが下げられる。したがって、車輪速センサ83a,83bに異常が発生して、図示しないアンチロックブレーキ制御(ABS制御)による左右後輪RL,RRのロックが回避されない状態では、未然に左右後輪RL,RRの左右前輪FL,FRに対する制動力配分が下げられて、左右後輪RL,RRのロックが未然に防止されて車両の走行安定性が良好に保たれる。
【0110】
また、この変形例においては、左右前輪FL,FRのための液圧式ブレーキ装置HBに異常が発生した場合については説明しなかったが、この変形例の場合にも、前記液圧式ブレーキ装置の異常時には左右後輪RL,RRの左右前輪FL,FRに対する制動力配分を増加させるようにするとよい。この場合、前記ステップS132にて決定される目標制動トルクT*及びステップS140の処理によって決定される目標電流値I*を所定量だけ増加させるようにすればよい。また、上記実施形態の場合と同様に、左右前輪FL,FRのいずれか一方のみの液圧ブレーキ系統に異常が発生して、一方の前輪のみに制動力が付与されない状況下では、異常が発生している側と左右同じ側の左右後輪RL,RRの制動力を増加させるとともに、左右反対側の左右後輪RL,RRの制動力を減少又はなくして、すなわち左右後輪RL,RRの制動力配分を変更して、主に対角位置の車輪の制動力によって車両を制動するようにするとよい。
【0111】
また、この変形例においても、左右後輪RL,RRに異常が発生した場合に、左右前輪FL,FRの制動力を制御する点は、上述した場合と同じである。
【0112】
上記実施形態及び変形例のように、左右前輪FL,FRに液圧式ブレーキ装置HBを適用するとともに、左右後輪RL,RRに電動式ブレーキ装置EBを適用するようにしたので、油圧系統の異常時にも、電気系統の異常時にも、いずれか一方の制動力を用いて車両を停止させることができるようになり、車両の走行安定性が良好に確保される。また、液圧式ブレーキ装置HB及び電動式ブレーキ装置EBの両者の採用により、低温時の液圧式ブレーキ装置HBの応答遅れなどの両ブレーキ装置HB,EBの各欠点が互い補われて、良好な車両の制動特性を得ることができる。
【0113】
なお、上記実施形態及び変形例においては、左右前輪FL,FRに液圧式ブレーキ装置HBを適用するとともに、左右後輪RL,RRに電動式ブレーキ装置EBを適用するようにしたが、逆に、左右前輪FL,FRに電動式ブレーキ装置EBを適用するとともに、左右後輪RL,RRに液圧式ブレーキ装置HBを適用するようにしてもよい。この場合も、液圧式ブレーキ装置HBに異常が発生して左右後輪RL,RRの制動力が減少する場合には、電動式ブレーキ装置EBを電気的に制御することによって左右前輪FL,FRの制動力を向上させ、すなわち左右前輪FL,FRの左右後輪RL,RRに対する制動力配分を増加させて、不足した左右後輪RL,RRの制動力を左右前輪FL,FRの制動力で補うようにするとよい。これにより、ブレーキペダル11の踏み込み操作に応じて車両を的確に停止させることができるようになる。
【0114】
また、液圧式ブレーキ装置HBのうちの左右後輪RL,RRの一方にのみ異常が発生して、左右後輪RL,RRの一方のみの制動力が不足した場合は、同異常が発生した後輪と左右同じ側の前輪の電動式ブレーキ装置EBによる制動力を増加させるとともに、左右反対側の前輪の電動式ブレーキ装置EBによる制動力を減少又はなくして、すなわち左右前輪FL,FRの制動力配分を変更して、主に対角位置の車輪の制動力によって車両を制動するようにするとよい。これにより、上述した場合と同様に、制動力による車両の回転モーメントの発生を抑制できて、車両の走行安定性が良好となる。
【0115】
また、この電動式ブレーキ装置EBを左右前輪FL,FRに適用した変形例においても、電気系統の異常によって左右前輪FL,FRの一方にのみ異常が発生して、同一方の車輪の制動力が不足し又はなくなった場合には、左右後輪RL,RRの液圧式のブレーキ装置を制御して、異常の発生した前輪と左右反対側の後輪の制動力を減少又はなくして、すなわち左右後輪RL,RRの制動力配分を変更して、主に対角位置の車輪の制動力によって車両を制動するようにするとよい。
【0116】
さらに、本発明の実施にあたっては、液圧式ブレーキ装置HBを左前輪FL及び右後輪RRに適用するとともに、電動式ブレーキ装置EBを右前輪FR及び左後輪RLに適用したり、液圧式ブレーキ装置HBを右前輪FR及び左後輪RLに適用するとともに、電動式ブレーキ装置EBを左前輪FL及び右後輪RRに適用したりしてもよい。すなわち、液圧式ブレーキ装置HB及び電動式ブレーキ装置EBを左右前輪FL,FR及び左右後輪RL,RRに対して「たすきがけ(クロス状)」に適用するようにしてもよい。
【0117】
また、本発明は、上述のような、6輪、8輪などのように4輪よりも多くの車輪を有するトラック、トレーラ(牽引車)などにも適用される。この場合も、複数の車輪のうちの一部の車輪に液圧式ブレーキ装置HBを適用するとともに、残りの一部若しくは全部の車輪に電動式ブレーキ装置EBを適用するとよい。そして、トレーラ(牽引車)などに本発明を適用する場合、マスタシリンダから遠く離れて位置する車輪に関しては電動式ブレーキ装置EBを適用するようにして、制動力付与に配管による遅れが問題とならないようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態である車両用ブレーキ装置の全体を示す概略図である。
【図2】 図1の電動ドラムブレーキを詳細に示す断面図である。
【図3】 図1の電動ブレーキコントローラによって実行される後輪制動プログラムのフローチャートである。
【図4】 図1の電動式ブレーキ装置による制御を表す機能ブロック図である。
【図5】 同電動式ブレーキ装置による別の制御を表す機能ブロック図である。
【図6】 図3の後輪制動プログラムの液圧系異常ルーチンを詳細に示すフローチャートである。
【図7】 図6による制御に従った各輪の制動力の付与状態を示す図である。
【図8】 図6の液圧系異常ルーチンの別の例を詳細に示すフローチャートである。
【図9】 (A)〜(C)は、操舵角および車速に応じて変化する左右後輪の制動力の制御態様を表すグラフである。
【図10】 図1の電動ブレーキコントローラによって実行される電気系異常プログラムのフローチャートである。
【図11】 図1の電動ブレーキコントローラによって実行される後輪制動プログラムの他の例を示すフローチャートである。
【図12】 図11のプログラムの実行によって用いられるマスタシリンダ油圧に対する目標制動トルクの変化特性グラフである。
【図13】 図11のプログラムの実行によって用いられるマスタシリンダ油圧に対する目標電流値の変化特性グラフである。
【符号の説明】
HB…液圧式ブレーキ装置、EB…電動式ブレーキ装置、11…ブレーキペダル、12…パーキングペダル、21a,21b…液圧ブレーキ、22a,22b…ホイールシリンダ、23…タンデムマスタシリンダ、40…液圧ブレーキコントローラ、41…コンピュータ、51…操作量センサ、52…ブレーキペダルスイッチ、53a,53,54a,54b…油圧センサ、55…車速センサ、56a,56b…車輪速センサ、60a,60b…電動ブレーキ、61a,61b…電動モータ、70…電動ブレーキコントローラ、71…コンピュータ、81…パーキングブレーキスイッチ、82a,82b…制動トルクセンサ、83a,83b…車輪速センサ、84a,84b…モータ電流センサ、85…舵角センサ、86…変速位置センサ、88…後輪荷重センサ。

Claims (6)

  1. 前輪及び後輪のうちの一方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて同一方の左右輪に作動液圧による制動力を付与する液圧式ブレーキ装置と、
    前輪及び後輪のうちの他方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて同他方の左右輪に電力による制動力を付与する電動式ブレーキ装置と
    前輪の操舵角を検出する操舵角センサと、
    前記一方の左右輪および前記他方の左右輪のうちのいずれか 1 つの車輪に対する制動力の付与状態に異常が発生したとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力配分を、前記検出された操舵角に応じて異ならせる制動力配分制御手段と
    を備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
  2. 前記制動力配分制御手段は、前記検出された操舵角が所定値以下であるとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力を均等に制御し、かつ前記検出された操舵角が所定値よりも大きいとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで前記異常が発生した車輪と左右同じ側にある車輪に対する制動力を、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで前記異常が発生した車輪と左右反対側にある車輪に対する制動力よりも大きくなるように制御する前記請求項1に記載した車両用ブレーキ装置。
  3. 前記制動力配分制御手段は、さらに、前記検出された操舵角が所定値以下であるとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力を、前記異常が発生しない場合よりも大きくなるように制御する前記請求項2に記載した車両用ブレーキ装置。
  4. 前輪及び後輪のうちの一方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて同一方の左右輪に作動液圧による制動力を付与する液圧式ブレーキ装置と、
    前輪及び後輪のうちの他方の左右輪に適用され、ブレーキ操作に応じて同他方の左右輪に電力による制動力を付与する電動式ブレーキ装置と、
    前輪の操舵角を検出する操舵角センサと、
    車速を検出する車速センサと、
    前記一方の左右輪および前記他方の左右輪のうちのいずれか 1 つの車輪に対する制動力の付与状態に異常が発生したとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪に対する制動力配分を、前記検出された操舵角及び車速に応じて異ならせる制動力配分制御手段と
    を備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
  5. 前記制動力配分制御手段は、前記検出された操舵角および車速によって規定される車両の走行状態が、前輪の操舵角および車速によって規定される車両の走行状態を表す境界であって前記異常が発生した車輪と左右反対側への操舵角が大きくなるに従って車速が小さくなる境界の外側にあるとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで前記異常が発生した車輪と左右反対側の車輪に対する制動力の付与を禁止する前記請求項4に記載した車両用ブレーキ装置。
  6. 前記制動力配分制御手段は、前記検出された操舵角および車速によって規定される車両の走行状態が、前輪の操舵角および車速によって規定される車両の走行状態を表す境界であって前輪の操舵角が大きくなるに従って車速が小さくなる境界の内側にあるとき、前記異常が発生した車輪を含まない一方又は他方の左右輪のうちで前記異常が発生した車輪と左右同じ側の車輪に対する制動力を、前記異常が発生しない場合よりも大きくなるように 制御する前記請求項5に記載した車両用ブレーキ装置。
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