JP3898360B2 - 耐火性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐火性樹脂組成物に関し、詳しくは、柱、梁、壁等に耐火被覆材として簡便に装着可能な耐火性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、建築材料の分野において耐火性能が重要な性能の一つである。
近年、建築材料に合成樹脂部材が広く用いられるようになっているが、建築材料の用途拡大に伴って、さらに耐火性能が付与されたものが求められている。
上記耐火性能としては、単に合成樹脂材料自体が燃え難いばかりでなく、火炎が部材の裏側に廻らないような性能も要求されている。
【0003】
樹脂成分や有機成分は、本質的にそれ自体が燃焼したり、熱溶融する性質を有するので、いかに長時間このような状態になるのを防止できるか、あるいは、無機成分を含有する場合は、いかに長時間無機成分を脱落させずに保持できるかが重要な要素となる。
【0004】
上記合成樹脂材料にこのような性質を付与する方法として、例えば特開平6−25476号公報には、ポリオレフィン樹脂に赤リン又はリン化合物と熱膨張性黒鉛とを添加する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、難燃性については十分な性能が付与されるが、耐火・防火試験において脆い灰分だけが残り、耐火性能に重要な燃焼残渣が脱落したり、裏面温度が基準値260℃以上に上昇することがあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記に鑑み、難燃性を有し、そかも燃焼後の残渣が十分な形状保持性能を有することによって、優れた耐火性能を発現する耐火性樹脂組成物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の耐火性樹脂組成物は、2官能のグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型及び多官能のグリシジルエーテル型からなる群から選ばれる少なくとも1種のエポキシ基をもつモノマーと硬化剤とを反応させることにより得られ、かつ、下記(1)〜(7)のいずれかの方法により可撓性が付与されているエポキシ樹脂100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛10〜300重量部及び無機充填剤50〜500重量部からなることを特徴とする。
(1)架橋点間の分子量を大きくする。
(2)架橋密度を小さくする。
(3)軟質分子構造を導入する。
(4)可塑剤を添加する。
(5)相互浸入網目(IPN)構造を導入する。
(6)ゴム状粒子を分散導入する。
(7)ミクロボイドを導入する。
【0007】
本発明で用いられるエポキシ樹脂は、特に限定されないが、基本的にはエポキシ基をもつモノマーと硬化剤とを反応させることにより得られる。
上記エポキシ基をもつモノマーとしては、例えば、2官能のグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、多官能のグリシジルエーテル型等のモノマーが例示される。
【0008】
上記2官能のグリシジルエーテル型のモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1、6−ヘキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、プロピレンオキサイド−ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型等のモノマーが例示される。
【0009】
上記グリシジルエステル型のモノマーとしては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p−オキシ安息香酸型等のモノマーが例示される。
【0010】
上記多官能のグリシジルエーテル型のモノマーとしては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン・フェノール型等のモノマーが例示される。
【0011】
これらのエポキシ基をもつモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0012】
上記硬化剤としては、重付加型又は触媒型のものが用いられる。
重付加型の硬化剤としては、例えば、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等が例示される。また、上記触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が例示される。
【0013】
上記エポキシ樹脂の硬化方法は、特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。
【0014】
また、上記エポキシ樹脂は可撓性が付与されたものであってもよい。可撓性を付与するためには次の方法が用いられる。
(1)架橋点間の分子量を大きくする。
(2)架橋密度を小さくする
(3)軟質分子構造を導入する。
(4)可塑剤を添加する。
(5)相互侵入網目(IPN)構造を導入する。
(6)ゴム状粒子を分散導入する。
(7)ミクロボイドを導入する。
【0015】
(1)は予め分子鎖の長いエポキシモノマー及び/又は硬化剤を用いて反応させることで、架橋点の間の距離が長くなり可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤としてポリプロピレンジアミン等を用いる)。(2)は官能基の少ないエポキシモノマー及び/又は硬化剤を用いて反応させることにより、一定領域の架橋密度を小さくして可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤として2官能アミン、エポキシモノマーとして1官能エポキシ等を用いる)。(3)は軟質分子構造をとるエポキシモノマー及び/又は硬化剤を導入して可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤として複素環状ジアミン、エポキシモノマーとしてアルキレングリコールグルシジルエーテル等を用いる)。
【0016】
(4)は可塑剤として非反応性の希釈剤を添加する方法である(例:可塑剤としてDOP、タール、石油樹脂等を用いる)。(5)はエポキシ樹脂の架橋構造に別の軟質構造をもつ樹脂を導入する相互侵入網目(IPN)構造で可撓性を発現させる方法である。(6)エポキシ樹脂マトリックスに液状又は粒状のゴム粒子を配合分散させる方法である(例:エポキシ樹脂マトリックスとしてポリエステルエーテル等を用いる)。(7)は1μm以下のミクロボイドをエポキシ樹脂マトリックスに導入させることで可撓性を発現させる(例:エポキシ樹脂マトリックスとして分子量1000〜5000のポリエーテルを添加する)。
【0017】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質である熱膨張性黒鉛を中和処理したものである。上記熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理することにより生成するグラファイト層間化合物であり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0018】
上述のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和することにより、上記中和処理された熱膨張性黒鉛が得られる。
【0019】
上記脂肪族低級アミンとしては特に限定されず、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
【0020】
上記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては特に限定されず、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩などが挙げられる。
【0021】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が、200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、所定の耐火断熱層が得られず、また、20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、樹脂分と混練する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。
【0022】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、日本化成社製「CA−60S」、東ソー社製「GREP−EG」、UCAR Carbon社製「GRAFGUARD#160」、「GRAFGUARD#220」等が挙げられる。
【0023】
上記無機充填剤としては特に限定されず、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。
【0024】
一般的に、上記無機充填剤は、骨材的な働きをすることから、残渣強度の向上や熱容量の増大に寄与すると考えられる。上記無機充填剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。
無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなる。上記無機充填剤の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、上記範囲のなかでも粒径の大きいものが好ましい。粒径が100μmを超えると、成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下する。
【0026】
上記無機充填剤の中で、特に水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、加熱残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで残渣強度が向上する点で特に好ましい。
水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広がり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0027】
上記含水無機物の粒径は、小さくなると嵩が大きくなって高充填化が困難となるので、脱水効果を高めるために高充填するには粒径の大きなものが好ましい。
具体的には、粒径が18μmでは、1.5μmの粒径に比べて充填限界量が約1.5倍程度向上することが知られている。さらに、粒径の大きいものと小さいものとを組合わせることによって、より高充填化が可能となる。
【0028】
上記無機充填剤の市販品では、例えば、水酸化アルミニウムとして、粒径1μmの「H−42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「H−31」(昭和電工社製);炭酸カルシウムとして、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8μmの「BF300」(白石カルシウム社製)等が挙げられる。また、粒径の大きい無機充填剤と粒径の小さいものを組み合わせて使用することがより好ましく、組み合わせることによって、さらに高充填化が可能となる。
【0029】
本発明の耐火性樹脂組成物において、中和処理された熱膨張性黒鉛の配合量が、少なくなると十分な熱膨張性が得られず、多くなると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなるので、エポキシ樹脂100重量部に対して10〜300重量部である。
【0030】
上記耐火性樹脂組成物において、無機充填剤の配合量が、少なくなると十分な耐火性能が得られず、多くなると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなるので、エポキシ樹脂100重量部に対して50〜500重量部である。
【0031】
上記耐火性樹脂組成物自身が難燃性であっても形状保持性が不十分であると、脆くなった残渣が崩れ落ちて、火炎を貫通させてしまうため、形状保持性が十分であるか否かによって、耐火性樹脂組成物の用途が大きく異なる。
樹脂としてエポキシ樹脂を使用することによって、樹脂自身が燃焼時にチャー(炭化)層を形成し、形状を保持するのに十分強固な膨張性断熱層を形成する。
従って、燃焼残渣の形状を保持するための成分(形状保持材)や物理的に形状を保持する部材(例えば、ラス金網)を使用する必要がない。
【0032】
上記樹脂組成物には、その物性を損なわない範囲で、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等が添加されてもよい。
【0033】
上記樹脂組成物は、上記各成分を、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロール等公知の混練装置を用いて混練することにより得ることができ、上記樹脂組成物を、例えば、プレス成形、押出し成形、カレンダー成形等の従来公知の成形方法により、熱膨張性シートに成形することができる。
【0034】
【作用】
本発明の耐火性樹脂組成物は、エポキシ樹脂、中和処理された熱膨張性黒鉛及び無機充填剤の各成分が、それぞれの性能を発揮することにより、耐火性能を発現する。具体的には、加熱時に熱膨張性黒鉛が膨張して断熱層を形成して熱の伝達を阻止する。その際、エポキシ樹脂はチャー(炭化)層を形成し、膨張性断熱層として寄与する。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1〜3)
表1に示した配合量の、ビスフェノールF型エポキシモノマー(油化シェル社製「E807」)又はウレタン変性ビスフェノールA型エポキシモノマー(油化シェル社製「E292」)、ジアミン系硬化剤(油化シェル社製「EKFL052」)、中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP−EG」)、水酸化アルミニウム(昭和電工社製「H−31」)、及び、炭酸カルシウム(備北粉化社製「ホワイトンBF−300」)を混練ロールで混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、0.5mm厚の亜鉛鉄板に塗布し、150℃で15分間プレスして硬化させ、所定厚みの板状試料を得た。
【0037】
(比較例1)
表1に示した配合量の、メタロセンポリエチレン(PE)系樹脂(ダウケミカル社製「EG8200」)、ポリブテン(出光石油化学社製「ポリブテン100R」)、中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP−EG」)、水酸化アルミニウム(昭和電工社製「H−31」)、及び、炭酸カルシウム(備北粉化社製「ホワイトンBF−300」)を混練ロールで混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、0.5mm厚の亜鉛鉄板に塗布し、150℃で15分間プレスして硬化させ、所定厚みの板状試料を得た。
【0038】
上記板状試料について下記項目の性能評価を行い、その結果を表1に示した。
(1)耐火性
上記板状試料を100mm×100mm×3mmに切断して試験片とし、この試験片を水平に設置した状態で、コーンカロリーメーター(アトラス社製「CONE2A」)を用いて、35kW/cm2 の熱量を亜鉛鉄板側から30分間照射して燃焼させ、試験片の裏面(照射側と反対側)の温度をサーモビュア(日本電子データム社製)を用いて測定した。
試験片の裏面の温度が260℃以下のものを○、260℃を超えるものを×で表示した。
【0039】
(2)耐火性
上記(1)で耐火性を評価した試験片に、50mm×50mm×1mmの金属板を載せ、この金属板上にさらに10g、50gの分銅を別々に載せて残渣の状態を観察した。10、50gとも残渣に崩れが生じかなったものを◎、50gで崩れが生じたが10gで崩れが生じかなったものを○、10gで崩れや割れが生じたものを×で表示した。
【0040】
【表1】
【0041】
形状保持性で×と評価されたものは非常に脆く、試験片を長手方向に立てるだけで崩れるため、実際に耐火材料として用いる際には燃焼中に脱落して耐火性能が発現するのは短時間であると予想される。
【0042】
【発明の効果】
本発明の耐火性樹脂組成物は、上述の構成であり、加熱時に膨張断熱層を形成し、さらにその形状を保持することによって顕著な耐火性能を発現するため、幅広い用途に使用可能である。この耐火性樹脂組成物は、通常の設備で成形可能であり、例えば、シート状に成形して建築物の被覆用途等に好適に使用することができる。
Claims (1)
- 2官能のグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型及び多官能のグリシジルエーテル型からなる群から選ばれる少なくとも1種のエポキシ基をもつモノマーと硬化剤とを反応させることにより得られ、かつ、下記(1)〜(7)のいずれかの方法により可撓性が付与されているエポキシ樹脂100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛10〜300重量部及び無機充填剤50〜500重量部からなることを特徴とする耐火性樹脂組成物。
(1)架橋点間の分子量を大きくする。
(2)架橋密度を小さくする。
(3)軟質分子構造を導入する。
(4)可塑剤を添加する。
(5)相互浸入網目(IPN)構造を導入する。
(6)ゴム状粒子を分散導入する。
(7)ミクロボイドを導入する。
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