JP3581597B2 - 耐火被覆鉄骨構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、柱、はり(梁)等の耐火被覆鉄骨構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
建築物の高層化等にともない、建築物の構造材をなす梁、柱等として軽量な鉄骨が用いられるようになってきている。建築物の構造材として用いられる鉄骨には、建設省告示第2999号やJIS A 1304により耐火性能基準が定められており、その基準を満たすために、鉄骨の表面を耐火性に優れた材料で被覆することが一般的に行われている。
【0003】
しかし、ロックウール等の断熱材はそれ自体の耐熱温度が低く、単独では約600℃で体積収縮を起こすため、耐火被覆材とし単独で用いることが困難であった。
このため、耐火被覆材としてロックウールと金属板を併せて用いた耐火鉄骨被覆構造体が考案されており、例えば、スチールコート C−1(アスク社製、指定番号;耐火C1081)が挙げられるが、前記耐火被覆材は、比重150kg/m3 以上、かつ、厚み40mm以上と、厚く、重いため、取扱に支障が生じる等の問題点があった。また、耐火被覆材が厚いことにより室内空間を狭める等の問題点もあった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記に鑑み、厚みが薄く、耐火性に優れた耐火被覆鉄骨構造体を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、鉄骨側から順に、補助断熱層、熱膨張性耐火層、不燃材又は準不燃材からなる遮炎層が被覆されてなる耐火被覆鉄骨構造体であって、前記熱膨張性耐火層は、熱膨張性無機化合物を含有する樹脂組成物からなり、かつ、50kW/m 2 の加熱条件下で30分間加熱することによる体積膨張が1.1〜30倍であり、前記補助断熱層は、熱伝導率が1.5kcal/m・h・℃以下であって、かつ、400℃の加熱条件下で1時間加熱することによる厚み方向の収縮率が10%以下の石膏ボードからなる耐火被覆鉄骨構造体である。以下に本発明を詳細に説明する。
【0006】
本発明で用いる熱膨張性耐火層は、熱膨張性無機化合物を含有する樹脂組成物からなる。
上記熱膨張性無機物質としては、例えば、熱膨張性黒鉛、バーミキュライト、ホウ砂等が挙げられる。このうち、熱膨張性黒鉛及びバーミキュライトが好ましい。
【0007】
上記熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理することにより生成するグラファイト層間化合物であり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0008】
上記熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、所定の熱膨張性耐火層が得られず、粒度が20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質と混練する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。
【0009】
バーミキュライトとしては特に限定されず、例えば、「バーミキュライト」(キンセイマテック社製)等が挙げられる。
【0010】
上記樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物、並びに、無機充填剤を含有してなるのが好ましい。
上記樹脂組成物は、膨張により充分な断熱性能を発揮し、シート状に成型でき、取り扱い性に優れる。
【0011】
上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ブチルゴム、ポリブテン、水素添加石油樹脂、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ニトリルゴム等が挙げられる。
【0012】
上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質のなかでも、クロロプレン系樹脂、塩素化ブチル系樹脂等のハロゲン化された樹脂は、それ自体難燃性が高く、熱による脱ハロゲン化反応により、架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する点において好ましい。
【0013】
これらの樹脂は、非常に柔軟でゴム的性質を持っていることから、上記無機充填剤を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟でフレキシブルなものとなる。
より柔軟でフレキシブルな樹脂組成物を得るためには、非加硫ゴムやポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。
【0014】
上記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレンを主成分とする共重合体及びこれらの(共)重合体の混合物の他、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0015】
上記エチレンを主成分とする共重合体としては例えば、エチレン部を主成分とするエチレンと他のαオレフィンとの共重合体等が挙げられ、上記αオレフィンとしては、例えば、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ブテン、1−ペンテン等が挙げられる。
【0016】
上記エチレン単独重合体、及び、上記エチレンと他のαオレフィンとの共重合体としては、チーグラー・ナッタ触媒、バナジウム触媒、4価の遷移金属を含むメタロセン化合物等を重合触媒として重合されたものが挙げられるが、なかでも、4価の遷移金属を含むメタロセン化合物等を重合触媒として得られるポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0017】
上記メタロセン化合物に含まれる4価の遷移金属としては特に限定されず、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニッケル、パラジウム、白金等が挙げられる。
【0018】
上記メタロセン化合物は、上記4価の遷移金属に、1つ又はそれ以上のシクロペンタジエニル環及びその類縁体がリガンドとして1つ又はそれ以上存在する化合物をいう。
【0019】
上記4価の遷移金属を含むメタロセン化合物等を重合触媒として得られるポリエチレン系樹脂としては、例えば、ダウケミカル社製、商品名「CGCT」、「アフィニティー」、「エンゲージ」;エクソンケミカル社製、商品名「EXTRACT」等の市販品が挙げられる。
【0020】
上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。樹脂の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂をブレンドしたものをベース樹脂として用いても良い。
【0021】
上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質には、更に、本発明における熱膨張性耐火層の耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されても良い。
上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質の架橋や変性を行う時期については特に限定されず、予め架橋、変性した熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質を用いても良く、後述のリン化合物や無機充填剤等の他の成分を配合する際同時に架橋や変性しても良い。また、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質に他の成分を配合した後に架橋や変性しても良く、上記架橋や変性は、いずれの段階で行っても良い。
【0022】
上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質の架橋方法については特に限定されず、熱可塑性樹脂又はゴム物質について通常行われる架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物等を使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法等が挙げられる。
【0023】
上記リン化合物としては特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、及び、下記一般式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、費用等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0024】
【化1】
【0025】
式中、R1 及びR3 は、水素、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2 は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0026】
上記赤リンは、少量の添加で難燃効果を向上する。上記赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。
【0027】
上記ポリリン酸アンモニウム類としては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取扱性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、住友化学工業社製「スミセーフP」、チッソ社製「テラージュC60」等が挙げられる。
【0028】
上記一般式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。なかでも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。
上記リン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0029】
上記無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。なかでも、含水無機物及び金属炭酸塩が好ましい。
【0030】
上記水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、加熱残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで残渣強度が向上する点で特に好ましい。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広がり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0031】
上記炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩は、上記リン化合物との反応で膨張を促すと考えられ、特に、リン化合物として、ポリリン酸アンモニウムを使用した場合に、高い膨張効果が得られる。また、有効な骨材として働き、燃焼後に形状保持性の高い残渣を形成する。
【0032】
上記金属炭酸塩のなかでも、さらに、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸亜鉛等の周期律表IIb族金属の炭酸塩等が好ましい。
一般的に、無機充填剤は、骨材的な働きをすることから、残渣強度の向上や熱容量の増大に寄与すると考えられる。
【0033】
上記無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmのものが使用できる。上記無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなる。上記無機充填剤の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物粘度が高くなり成型性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、粒径の大きいものが好ましい。粒径が100μmを超えると、成型体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下する。より好ましくは、約1〜50μmである。
【0034】
上記無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウムである粒径1μmの「H−42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「H−31」(昭和電工社製)、及び、炭酸カルシウムである粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化社製)等が挙げられる。
【0035】
上記無機充填剤は、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
また、粒径の大きい無機充填剤と粒径の小さいものを組み合わせて使用することがより好ましく、組み合わせて用いることによって、熱膨張性耐火層の力学的性能を維持したまま、高充填化することが可能となる。
【0036】
上記熱膨張性耐火層に用いられる好ましい樹脂組成物としては、例えば、以下に説明する樹脂組成物(1)及び(2)が挙げられる。
【0037】
上記樹脂組成物(1)は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物、熱膨張性黒鉛及び無機充填剤からなり、上記リン化合物及び上記熱膨張性黒鉛の配合量は、上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して合計量で20〜200重量部が好ましく、上記熱膨張性黒鉛と上記リン化合物との重量比〔(熱膨張性黒鉛)/(リン化合物)〕は、0.01〜9が好ましい。
【0038】
上記無機充填剤の配合量は、上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して50〜500重量部が好ましく、上記無機充填剤と上記リン化合物との重量比〔(無機充填剤)/(リン化合物)〕は、0.6〜1.5が好ましい。
【0039】
上記樹脂組成物(1)における無機充填剤としては、上記含水無機物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び、周期律表IIb族金属の金属炭酸塩が好ましく、より好ましくは、含水無機物と金属炭酸塩の混合物である。
【0040】
上記樹脂組成物(1)において、熱膨張性黒鉛は、加熱により膨張して断熱層を形成し、熱の伝達を阻止する。無機充填剤は、その際の熱容量の増大により寄与し、リン化合物は膨張断熱層の形状保持能力を有する。
樹脂組成物(1)の配合比は、これらの諸機能がバランスよく発現するようになされている。
【0041】
上記樹脂組成物(2)は、非加硫ゴム、リン化合物、熱膨張性黒鉛、及び、無機充填剤からなり、上記リン化合物、熱膨張性黒鉛及び無機充填剤の合計量は、非加硫ゴム100重量部に対して50〜900重量部が好ましい。
【0042】
上記熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比〔(熱膨張性黒鉛)/(リン化合物)〕は、0.01〜9、上記無機充填剤とリン化合物との重量比〔(無機充填剤)/(リン化合物)〕は、0.6〜1.5がそれぞれ好ましい。
【0043】
上記樹脂組成物(2)においては、加熱によりリン化合物は脱水、発泡すると共に、炭化触媒として作用する。無機充填剤は、その際熱容量の増大に寄与し、また、リン化合物は膨張断熱層の形状保持能力を有する。
熱膨張性黒鉛は、その際に膨張し断熱層を形成し、熱の伝達を阻止するためにより有効に作用する。
【0044】
本発明で用いる熱膨張性耐火層は、50kW/m 2 の加熱条件下で30分間加熱することによる体積膨張が1.1〜30倍である。上記熱膨張性耐火層は、火炎時に、断熱層を形成する。この断熱層により補助断熱層に対する加熱は大幅に低減され、単独では断熱材として用いることが困難な材料も補助断熱層に使用でき、耐火材の厚みを薄くし軽量化を図ることができる。体積膨張が1.1倍未満であると、断熱性能が不充分であり、30倍を超えると断熱層の崩壊を招く。
【0045】
本発明で用いる熱膨張性耐火層は、25℃での初期のかさ密度が0.8〜2.0g/cm3 であるのが好ましい。25℃での初期のかさ密度を0.8〜2.0g/cm3 の範囲内とすることによって、上記熱膨張性耐火層に要求される断熱性、耐火性等の物性を損なわず、しかも、作業性に優れたものとすることができる。
【0046】
25℃における初期のかさ密度が、0.8g/cm3 未満であると、樹脂組成物中に充分な量の膨張剤、炭化剤、不燃性充填剤等を添加することができず、加熱後の膨張倍率、残渣量が不充分となり、耐火断熱層を形成することができなくなる。25℃における初期のかさ密度が、2.0g/cm3 を超えると、上記樹脂組成物の重量が大きくなりすぎるために、上記耐火被覆鉄骨構造体の取扱い性が低下する。より好ましくは、1〜1.8g/cm3 である。
【0047】
上記熱膨張性耐火層は、500℃で1時間加熱したときのかさ密度が0.05〜0.5g/cm3 であるのが好ましい。500℃で1時間加熱したときのかさ密度が、0.05g/cm3 未満であると、隙間が多すぎるため、膨張時の崩れにより耐火断熱層がその形状を保持することができず、0.5g/cm3 を超えると、膨張倍率が不充分となり、耐火性能を充分に発揮することができず、いずれの場合も耐火断熱層を形成することができなくなる。より好ましくは、0.1〜0.3g/cm3 である。
【0048】
本発明においては、上記熱膨張性耐火層を構成する上記樹脂組成物に、上記樹脂組成物の物性を損なわない範囲で、難燃剤、酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂等が添加されても良い。
【0049】
上記樹脂組成物は、上記各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロール等公知の混練装置を用いて溶融混練することにより得ることができる。
得られた樹脂組成物は、例えば、プレス成型、押出し成型、カレンダー成型等の従来公知の方法により、上記熱膨張性耐火層に成型することができる。
【0050】
また、上記熱膨張性耐火層の片面には、施工性や燃焼残渣強度を改善する目的で基材層が積層されていても良い。この基材層に用いられる材料としては、例えば、布、不織布、プラスチックフィルム、割布、ガラスクロス、アルミ箔、アルミガラスクロス等が挙げられる。好ましくは、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムである。上記基材層の厚みは、0.25mm以下が好ましい。
上記基材層が積層された上記熱膨張性耐火層は、上記基材層のある面が、上記補助断熱層と接するようにして使用する。
【0051】
上記熱膨張性耐火層として粘着性を有する材料からなるものを用いると、耐火被覆鉄骨構造体を作製する際の作業性が向上する。
粘着性を有するとは、上記遮炎層及び/又は上記補助断熱層に仮止め固定が可能となるような性質を有することを意味し、広く粘着性及び/又は接着性を有することをいう。
【0052】
上記熱膨張性耐火層への粘着性の付与は、例えば、上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質に粘着付与剤を添加することにより行うことができる。
上記粘着付与剤としては特に限定されず、例えば、粘着付与樹脂、可塑剤、油脂類、高分子低重合物等が挙げられる。
【0053】
本発明で用いる補助断熱層は、熱伝導率が1.5kcal/m・h・℃以下であり、かつ、400℃の加熱条件下で1時間加熱することによる厚み方向の収縮率が10%以下である。上記補助断熱層の熱伝導率は低いほど好ましく、1.5kcal/m・h・℃を超えると充分な断熱性を確保するためには膨張後の熱膨張性耐火層と同程度の厚みが必要となり、耐火被覆鉄骨構造体の肉薄化が困難になる。また、400℃の加熱条件下で1時間加熱することによる厚み方向の収縮率が10%を超えると、収縮が断熱効果に大きな影響を与えるため、耐火被覆鉄骨構造体の肉薄化が困難になる。なお、一般的な樹脂フォームは加熱されると溶融又は燃焼し、体積が著しく減少し、400℃の加熱条件下で1時間加熱した場合の収縮率は10%を超え、断熱機能を全く発揮しない状態になる。
【0054】
上記補助断熱層としては、例えば、セラミックブランケット、ガラスウール板、ガラスマット、ロックウール板、石膏ボード、セラミック板、軽量気泡コンクリート板(ALC)、コンクリート板、セメント板、ケイ酸カルシウム板、含水無機物含有ボード、及び、これらの複合板等が挙げられる。市販品としては、例えば、フレックスガード(ニチアス社製、セラミックブランケット)、スーパーフェルトン(ニチアス社製、ガラスマット)、MGフェルト(ニチアス社製、ロックウール)、タイガーボード(吉野石膏社製、石膏ボード)、セルストン(アスク社製、ケイ酸カルシウム板)等が挙げられる。
このうち、セメント、ケイ酸カルシウム板、含水無機物含有ホード、石膏ボード等が好ましい。これらは、その内部に結晶水を含んでいるため、吸熱効果を併せて有する。
これらの補助断熱層は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
上記補助断熱層は、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱した場合の総吸熱量が、100J/g以上であることが好ましい。100J/g以上であると、温度上昇が遅くなり、断熱性能がより良好となる。
【0056】
本発明の耐火被覆鉄骨構造体は上記熱膨張性耐火層と上記補助断熱層の厚みの合計が50mm以下で、補助断熱層と熱膨張性耐火層の厚みの比(補助断熱層/熱膨張性耐火層)が1〜150であることが好ましい。厚みの合計が50mmを超えると肉厚となり、作業性に劣り、また、室内空間を狭める。
【0057】
上記不燃材又は準不燃材からなる遮炎層としては、例えば、鉄板、ステンレス板、亜鉛めっき鋼板、アルミ板、その他の金属板、及び、塩ビ鋼板、カラー鋼板等更に塗装等の処理が施された金属板、セラミック板、石膏ボード、軽量気泡コンクリート板(ALC)、コンクリート板、セメント板、ケイ酸カルシウム板、並びに、これらの複合板等が挙げられる。
これらの遮炎層は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0058】
上記遮炎層の厚みは0.1〜3mmであるのが好ましい。0.1mm未満であると遮炎機能が不充分となり、3mmを超えると上記熱膨張性耐火層の膨張を阻害する可能性がある。
【0059】
本発明の被覆対象となる鉄骨としては特に限定されず、例えば、H型、I型、C型(ボックス型)等の鋼材からなる鉄骨等が挙げられる。
【0060】
本発明の耐火被覆鉄骨構造体は、鉄骨側から順に、補助断熱槽、熱膨張性耐火層、不燃材又は準不燃材からなる遮炎層が被覆され、溶接ビス、釘、ビス、ボルト等によって固定することができる。この場合、遮炎層、熱膨張性耐火層、補助断熱層が積層されてなる被覆材を鉄骨の面にはわせるように設置してもよいし、箱型の枠の外側に上記被覆材を設置し、箱ごと鉄骨にはめ込んで設置してもよい。
【0061】
火災時には上記熱膨張性耐火層が膨張して耐火断熱層を形成し、上記補助断熱層が鉄骨に熱が伝わるのを防止する。
耐火被覆鉄骨構造体を鉄骨に被覆してなる耐火被覆鉄骨構造体は、例えば、鉄骨建築物の梁、柱等として好適に用いることができる。
【0062】
本発明の耐火被覆鉄骨構造体の施工方法としては、予め作成しておいた遮炎層、熱膨張性耐火層、補助断熱層からなる被覆材を鉄骨に被覆する方法の他に、鉄骨の表面に、補助断熱層を被覆し、その上に熱膨張性耐火層を、更にその上に遮炎層を被覆する方法が挙げられる。
【0063】
以下に、図面を参照しながら、本発明の耐火被覆鉄骨構造体について更に説明する。なお、本発明は以下に示す実施の形態のみに限定されるものではない。
図1は、本発明の耐火被覆鉄骨構造体の一の実施の形態を模式的に示したものである。本実施の形態ではH型鋼である鉄骨5の周囲に補助断熱層4を配置し、補助断熱層4の外側には熱膨張性耐火層3を配置し、更にその外側には遮炎層2を配置する。遮炎層2の端部7a及びbは外側に折り曲げられ釘6で固定される。本発明の耐火被覆鉄骨構造体は、更に、図4〜8に示すような構成を採ることもできる。
【0064】
本発明の耐火被覆鉄骨構造体は、鉄骨に設置する際に、その接合目地から火焔が侵入することを防止するために、接合目地部の遮炎層が重なるように設置することが好ましい。また、接合目地の部分に別の補強部材を用いてもよい。
【0065】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1〜6、比較例1〜5
下記の表1に記載の組成で熱膨張性耐火層を構成する樹脂組成物を調製し、熱膨張性耐火層に成型した。
【0066】
【表1】
【0067】
下記の表2に記載の構成を有する積層体により、表2に記載のようにH型鋼を被覆し、耐火被覆鉄骨構造体を作製した。なお、表2に記載の耐火被覆鉄骨構造体の模式図は図1〜図6に示した。
作製した耐火被覆鉄骨構造体に対して、JIS A 1304に準じた耐火試験を行い、試験後の鉄骨の平均温度を測定した。鉄骨の温度が、最高温度が450℃以下で、平均温度が350℃以下であったら合格と判定した。結果は表2に示した。
【0068】
【表2】
【0069】
【発明の効果】
本発明の耐火被覆鉄骨構造体は、上述の構成からなるので、肉薄でありながら、耐火性に優れ、更に、作業性や室内空間の確保に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の耐火被覆鉄骨構造体の一実施形態(構成A)を模式的に示した断面図である。
【図2】耐火被覆鉄骨構造体の一実施形態(構成B)を模式的に示した断面図である。
【図3】耐火被覆鉄骨構造体の一実施形態(構成C)を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の耐火被覆鉄骨構造体の一実施形態(構成D)を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の耐火被覆鉄骨構造体の一実施形態(構成E)を模式的に示した断面図である。
【図6】本発明の耐火被覆鉄骨構造体の一実施形態(構成F)を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明の耐火被覆鉄骨構造体の一実施形態(構成G)を模式的に示した断面図である。
【図8】本発明の耐火被覆鉄骨構造体の一実施形態(構成H)を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
1 耐火被覆鉄骨構造体
2 遮炎層
3 熱膨張性耐火層
4 補助断熱層
5 鉄骨
6 釘
7a、7b 端部
Claims (5)
- 鉄骨側から順に、補助断熱層、熱膨張性耐火層、不燃材又は準不燃材からなる遮炎層が被覆されてなる耐火被覆鉄骨構造体であって、前記熱膨張性耐火層は、熱膨張性無機化合物を含有する樹脂組成物からなり、かつ、50kW/m 2 の加熱条件下で30分間加熱することによる体積膨張が1.1〜30倍であり、前記補助断熱層は、熱伝導率が1.5kcal/m・h・℃以下であって、かつ、400℃の加熱条件下で1時間加熱することによる厚み方向の収縮率が10%以下の石膏ボードであることを特徴とする耐火被覆鉄骨構造体。
- 熱膨張性無機化合物は、熱膨張性黒鉛であることを特徴とする請求項1記載の耐火被覆鉄骨構造体。
- 熱膨張性無機化合物は、バーミキュライトであることを特徴とする請求項1記載の耐火被覆鉄骨構造体。
- 補助断熱層は、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱した場合の総吸熱量が、100J/g以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の耐火被覆鉄骨構造体。
- 熱膨張性耐火層と補助断熱層の厚み合計は、50mm以下で、かつ、補助断熱層と熱膨張性耐火層の厚みの比(補助断熱層/熱膨張性耐火層)は、1〜150であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の耐火被覆鉄骨構造体。
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