JP4052752B2 - 耐火性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐火性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、建築材料の分野において耐火性能が重要な性能の一つである。
近年、建築材料に合成樹脂部材が広く用いられるようになっているが、建築材料の用途拡大に伴って、さらに耐火性能が付与されてものが求められている。
上記耐火性能としては、単に合成樹脂材料自体が燃え難いばかりでなく、火炎が部材の裏側に廻らないような性能も要求されている。
【0003】
樹脂成分や有機成分は、本質的にそれ自体が燃焼したり、熱溶融する性質を有するので、いかに長時間このような状態になるのを防止できるか、あるいは、無機成分を含有する場合は、この無機成分をいかに長時間脱落させずに保持できるかが、耐火性能の重要な要素となる。
【0004】
上記合成樹脂材料にこのような性質を付与する方法として、例えば特開平6−25476号公報には、ポリオレフィン樹脂に赤リン又はリン化合物と熱膨張性黒鉛とを添加する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、難燃性については十分な性能が付与されるが、シート状として壁の裏打ち材等に使用した場合には、耐火・防火試験において脆い灰分だけが残り、耐火性能に重要な燃焼後の残渣が脱落したり、裏面の温度が260℃以上に上昇するという問題点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記に鑑み、難燃性を有し、しかも燃焼後の残渣が十分な形状保持性を有することによって、優れた耐火性能を発現する耐火性樹脂組成物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願の請求項1記載の発明(以下、第1発明という)である耐火性樹脂組成物は、エポキシ樹脂100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛15〜40重量部、ガラス成分20〜300重量部、及び、無機充填剤30〜500重量部からなり、かつ、前記中和処理された熱膨張性黒鉛、ガラス成分及び無機充填剤の総量が200〜600重量部であることを特徴とする。
【0007】
本願の請求項2記載の発明(以下、第2発明という)である耐火性樹脂組成物は、エポキシ樹脂100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛15〜40重量部、リン化合物50〜150重量部、ガラス成分20〜300重量部、及び、無機充填剤30〜500重量部からなり、かつ、前記中和処理された熱膨張性黒鉛、リン化合物、ガラス成分及び無機充填剤の総量が200〜600重量部であることを特徴とする。
【0008】
第1発明の耐火性樹脂組成物〔以下、耐火性樹脂組成物(I)という〕は、エポキシ樹脂、中和処理された熱膨張性黒鉛、ガラス成分及び無機充填剤からなる。
【0009】
上記エポキシ樹脂は、特に限定されないが、基本的にはエポキシ基をもつモノマーと硬化剤とを反応させることにより得られる。
上記エポキシ基をもつモノマーとしては、例えば、2官能のグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、多官能のグリシジルエーテル型、多官能のグリシジルエステル型、脂環式エポキシ型等のモノマーが例示される。
【0010】
上記2官能のグリシジルエーテル型のモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1、6−ヘキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、プロピレンオキサイド−ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型等のモノマーが例示される。
【0011】
上記グリシジルエステル型のモノマーとしては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p−オキシ安息香酸型等のモノマーが例示される。
【0012】
上記多官能のグリシジルエーテル型のモノマーとしては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン・フェノール型等のモノマーが例示される。
【0013】
これらのエポキシ基をもつモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0014】
上記硬化剤としては、重付加型又は触媒型のものが用いられる。
重付加型の硬化剤としては、例えば、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等が例示される。また、上記触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が例示される。
【0015】
上記エポキシ樹脂(エポキシモノマー+硬化剤)の硬化方法は、特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。
【0016】
上記エポキシ樹脂には他の樹脂が添加されてもよい。他の樹脂の添加量が多くなると、エポキシ樹脂の効果が発現されなくなるので、エポキシ樹脂1に対して他の樹脂の添加量は5(重量比)以下が好ましい。
【0017】
また、上記エポキシ樹脂は可撓性が付与されたものであってもよい。
可撓性を付与するためには、例えば次の方法が用いられる。
▲1▼架橋点間の分子量を大きくする。
▲2▼架橋密度を小さくする
▲3▼軟質分子構造を導入する。
▲4▼可塑剤を添加する。
▲5▼相互侵入網目(IPN)構造を導入する。
▲6▼ゴム状粒子を分散導入する。
▲7▼ミクロボイドを導入する。
【0018】
▲1▼は予め分子鎖の長いエポキシモノマー及び/又は硬化剤を用いて反応させることで、架橋点の間の距離が長くなり可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤としてポリプロピレンジアミン等を用いる)。
▲2▼は官能基の少ないエポキシモノマー及び/又は硬化剤を用いて反応させることにより、一定領域の架橋密度を小さくして可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤として2官能アミン、エポキシモノマーとして1官能エポキシ等を用いる)。
▲3▼は軟質分子構造をとるエポキシモノマー及び/又は硬化剤を導入して可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤として複素環状ジアミン、エポキシモノマーとしてアルキレングリコールグルシジルエーテル等を用いる)。
【0019】
▲4▼は可塑剤として非反応性の希釈剤を添加する方法である(例:可塑剤としてDOP、タール、石油樹脂等を用いる)。
▲5▼はエポキシ樹脂の架橋構造に別の軟質構造をもつ樹脂を導入する相互侵入網目(IPN)構造で可撓性を発現させる方法である。
▲6▼エポキシ樹脂マトリックスに液状又は粒状のゴム粒子を配合分散させる方法である(例:エポキシ樹脂マトリックスとしてポリエステルエーテル等を用いる)。
▲7▼は1μm以下のミクロボイドをエポキシ樹脂マトリックスに導入させることにより、可撓性を発現させる方法である(例:エポキシ樹脂マトリックスとして分子量1000〜5000のポリエーテルを添加する)。
【0020】
上記エポキシ樹脂の剛性、可撓性を調整することによって、硬い板状物から柔軟性を有するシートの成形が可能となり、液状で流し込む方法によって複雑な形状の成形体を得ることも可能である。
【0021】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質である熱膨張性黒鉛を中和処理したものである。上記熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理することにより生成するグラファイト層間化合物であり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0022】
上述のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和することにより、上記中和処理された熱膨張性黒鉛が得られる。
【0023】
上記脂肪族低級アミンとしては特に限定されず、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
【0024】
上記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては特に限定されず、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩などが挙げられる。
【0025】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が、200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、所定の耐火断熱層が得られず、また、20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、樹脂分と混練する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。
【0026】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、日本化成社製「CA−60S」、東ソー社製「GREP−EG」、UCAR Carbon社製「GRAFGUARD#160」、「GRAFGUARD#220」等が挙げられる。
【0027】
上記ガラス成分としては、特に限定されないが、ガラス繊維、ガラス粉末が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記ガラス繊維としては、取扱い性の点から繊維長50mm以下、繊維径50μm以下のチョップトストランドが好ましい。
上記ガラス粉末としては、ガラス繊維を細かく粉砕して粉末状にしたものが知られているが、製法は特に限定されない。ガラス粉末の平均粒径は、取扱い性の点から50μm以下が好ましい。
【0028】
上記無機充填剤としては、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。
【0029】
上記無機充填剤の中で、含水無機物、金属炭酸塩の使用が好ましく、これらは単独で使用されてもよく、両者が併用されてもよい。
上記含水無機物は加熱時に脱水し、吸熱する効果を有するため、耐熱性を高めるという点から好ましく、具体的には、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
また、上記金属炭酸塩の中でも、周期律表II族又は III族に属する金属の炭酸塩は、燃焼時に発泡して発泡焼成物を形成するため、形状保持性を高めるという点から好ましく、具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0030】
上記無機充填剤は骨材的な働きをすることから、燃焼残渣の強度向上や熱容量の増大に寄与するものと考えられる。無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。
上記無機充填剤添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため粒径の小さいものが好ましいが、粒径が0.5μmより小さくなると二次凝集が起こり分散性が悪くなる。
【0031】
上記無機充填剤の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、耐火性樹脂組成物(I)の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることによって樹脂組成物の粘度を低くすることができることから、上記範囲の中でも粒径の大きいものが好ましい。しかしながら、粒径が100μmを超えると成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下する。
【0032】
上記耐火性樹脂組成物(I)において、中和処理された熱膨張性黒鉛の配合量は、少なくなると十分な熱膨張性が得られず、多くなると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなるので、エポキシ樹脂100重量部に対して、15〜40重量部となされる。
【0033】
上記耐火性樹脂組成物(I)において、ガラス成分の配合量は、少なくなると十分な形状保持性が得られず、多くなると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなるので、エポキシ樹脂100重量部に対して、20〜300重量部となされる。
【0034】
上記耐火性樹脂組成物(I)において、無機充填剤の配合量は、少なくなると十分な耐火性能が得られず、多くなると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなるので、エポキシ樹脂100重量部に対して、30〜500重量部となされる。
【0035】
上記耐火性樹脂組成物(I)において、中和処理された熱膨張性黒鉛、ガラス成分及び無機充填剤の総量は、少なくなると十分な耐火性能が得られず、多くなると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなるので、エポキシ樹脂100重量部に対して、200〜600重量部となされる。
【0036】
上記耐火性樹脂組成物(I)において、中和処理された熱膨張性黒鉛とガラス成分とを組み合わせることにより、燃焼時の熱膨張性黒鉛の飛散を抑え、形状保持性を向上させることができる。
ここで、熱膨張性黒鉛の割合が多くなると、燃焼時に熱膨張した黒鉛が飛散するため十分な断熱膨張層が得られず、逆にガラス成分の割合が多くなると、十分な断熱膨張層が得られなくなるので、熱膨張性黒鉛:ガラス成分=9:1〜1:100(重量比)の範囲が好ましい。
【0037】
また、耐火性樹脂組成物(I)自身が難燃性であっても、燃焼残渣の形状保持性が不十分であると、脆くなった燃焼残渣が崩れ落ちて火炎を通過させてしまうため、形状保持性が十分か否かにより耐火性樹脂組成物(I)の用途形態が大きく異なる。燃焼時時の形状保持性という点からは、熱膨張性黒鉛:ガラス成分=1:3〜1:100(重量比)の範囲が好ましく、より好ましくは熱膨張性黒鉛:ガラス成分=1:3〜1:60(重量比)である。
【0038】
第2発明の耐火性樹脂組成物〔以下、耐火性樹脂組成物(II)という〕は、エポキシ樹脂、中和処理された熱膨張性黒鉛、リン化合物、ガラス成分及び無機充填剤からなる。
【0039】
上記耐火性樹脂組成物(II)において、エポキシ樹脂、中和処理された熱膨張性黒鉛、ガラス成分及び無機充填剤は、上記耐火性樹脂組成物(I)と同様の成分が用いられる。
【0040】
上記リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、及び、下記一般式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点において、ポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0041】
【化1】
【0042】
式中、R1 、R3 は、水素、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2 は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0043】
上記赤リンは、少量の添加で難燃効果が向上する。上記赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。
【0044】
上記ポリリン酸アンモニウム類としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、難燃性、安全性、コスト等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。
市販品としては、例えば、ヘキスト社製「AP422」、「AP462」;住友化学社製「スミセーフP」;チッソ社製「テラージュC60」、「テラージュC70」、「テラージュC80」等が挙げられる。
【0045】
上記一般式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。
【0046】
上記これらのリン化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
上記耐火性樹脂組成物(II)において、エポキシ樹脂、中和処理された熱膨張性黒鉛、ガラス成分及び無機充填剤の配合量は、上記耐火性樹脂組成物(I)と同様の理由により、エポキシ樹脂100重量部に対して、熱膨張性黒鉛15〜40重量部、ガラス成分20〜300重量部、及び、無機充填剤30〜500重量部となされる。
【0048】
上記耐火性樹脂組成物(II)において、リン化合物が使用されることにより、さらに燃焼残渣の形状保持性が向上する。
リン化合物の配合量は、少なくなると十分な形状保持性が得られず、多くなると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなるので、エポキシ樹脂100重量部に対して、15〜150重量部となされる。
【0049】
上記耐火性樹脂組成物(II)において、中和処理された熱膨張性黒鉛、リン化合物、ガラス成分及び無機充填剤の総量は、少なくなると十分な耐火性能が得られず、多くなると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなるので、エポキシ樹脂100重量部に対して、200〜600重量部となされる。
【0050】
上記耐火性樹脂組成物(II)において、中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物とガラス成分とを組み合わせることにより、燃焼時の熱膨張性黒鉛の飛散を抑え、形状保持性を向上させることができる。
ここで、熱膨張性黒鉛の割合が多くなると、燃焼時に熱膨張した黒鉛が飛散するため十分な断熱膨張層が得られず、逆に(ガラス成分+リン化合物)の割合が多くなると、十分な断熱膨張層が得られなくなるので、熱膨張性黒鉛:(ガラス成分+リン化合物)=9:1〜1:100(重量比)の範囲が好ましい。
【0051】
また、耐火性樹脂組成物(II)自身が難燃性であっても、燃焼残渣の形状保持性が不十分であると、脆くなった燃焼残渣が崩れ落ちて火炎を通過させてしまうため、形状保持性の点からは、熱膨張性黒鉛:(ガラス成分+リン化合物)=1:3〜1:100(重量比)の範囲が好ましく、より好ましくは熱膨張性黒鉛:(ガラス成分+リン化合物)=1:3〜1:60(重量比)である。
【0052】
上記耐火性樹脂組成物(I)と(II)をシート状で使用する場合は、ガラス成分以外の成分からなる組成物を面状に成形した後、ガラス繊維(例えば、チョップトストランドマット、ロービングクロス、フィラメントマット、ラミマット、ガラスクロス等)と積層してもよい。
【0053】
上記耐火性樹脂組成物(I)、(II)には、その物性を損なわない範囲で、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等が添加されてもよい。
【0054】
上記耐火性樹脂組成物(I)、(II)は、上記各成分をバンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロール等公知の混練装置を用いて混練することにより得ることができ、得られた耐火性樹脂組成物を、例えば、押出成形、プレス成形、カレンダー成形等、従来公知の成形方法によりシート状に成形することができる。
【0055】
【作用】
本発明の耐火性樹脂組成物(I)の耐火性は、エポキシ樹脂、中和処理された熱膨張性黒鉛、ガラス成分及び無機充填剤が各成分がそれぞれの性質を発揮することにより発現する。具体的には、加熱時に熱膨張性黒鉛が膨張断熱層を形成して熱の伝達を阻止する。その際、樹脂分として用いられるエポキシ樹脂は炭化層を形成して膨張断熱層として寄与し、また架橋構造をとるため熱膨張後の形状保持性が一層優れる。ガラス成分は、加熱時にその融点を超えることにより膨張断熱層の中で粘稠な溶融物となり、膨張断熱層の形状保持性の向上に寄与する。
無機充填剤は加熱時に熱容量を増大させる働きがあり、耐火性樹脂組成物(II)で用いられるリン化合物は、膨張断熱層の形状保持性を一層向上させる。
【0056】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。
【0057】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
表1に示した配合量の、ビスフェノールF型エポキシモノマー(油化シェル社製「E807」)又はウレタン変性ビスフェノールA型エポキシモノマー(油化シェル社製「E292」)、ジアミン系硬化剤(油化シェル社製「EKFL052」)、中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP−EG」)、ガラス繊維(日東紡績社製「CS 6PE−401」、繊維長6mm、繊維径13μm)、ガラス粉末(日東紡績社製「コナック」、平均粒径5μm)、ポリリン酸アンモニウム(ヘキスト社製「AP422」)、 t−ブチルホスホン酸(和光純薬社製)、水酸化アルミニウム(昭和電工社製「H−31」)、及び、炭酸カルシウム(備北粉化社製「ホワイトンBF−300」)を混練ロールで混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を150℃で15分間プレス成形して硬化させ、試験用サンプルを得た。
【0058】
上記耐火性樹脂組成物の試験用サンプルについて下記項目の性能評価を行い、その結果を表1に示した。
(1)耐火性
上記耐火性多層シートを100mm×100mm×3mm厚に切断して試験片とし、この試験片を水平に設置した状態でコーンカロリーメーター(アトラス社製「CONE2A」)を用いて、50kW/m2 (水平方向)の照射熱量を30分間照射して燃焼させ、試験片の裏面(照射側と反対側)の温度をサーモビュア(日本電子データム社製)を用いて測定した。
試験片の裏面の温度が260℃以下のものを○、260℃を超えるものを×で表示した。
【0059】
(2)形状保持性
フィンガーリングテスター(カトーテック社製)を用いて、上記(1)で得られた燃焼残渣を0.1cm/秒の速度、圧子平面0.25cm2 で圧縮し、燃焼残渣の破断強度を測定した。破断強度が、0以上1kg/cm2 未満のものを×、1以上2.5kg/cm2 未満のものを△、2.5kg/cm2 以上のものを○で表示した。
【0060】
【表1】
【0061】
【発明の効果】
本発明の耐火性樹脂組成物は、上述の構成であり、難燃性を有すると共に、加熱時に燃焼残渣による膨張断熱層を形成し、さらにその膨張断熱層が十分な形状保持性を有することによって、優れた耐火性能を発現するので、幅広い用途に適応可能である。また、耐火性樹脂組成物を、例えばシート状に成形して建築物等を被覆することにより簡便に耐火性を付与することができる。
Claims (5)
- エポキシ樹脂100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛15〜40重量部、ガラス成分20〜300重量部、及び、無機充填剤30〜500重量部からなり、かつ、前記中和処理された熱膨張性黒鉛、ガラス成分及び無機充填剤の総量が200〜600重量部であることを特徴とする耐火性樹脂組成物。
- エポキシ樹脂100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛15〜40重量部、リン化合物50〜150重量部、ガラス成分20〜300重量部、及び、無機充填剤30〜500重量部からなり、かつ、前記中和処理された熱膨張性黒鉛、リン化合物、ガラス成分及び無機充填剤の総量が200〜600重量部であることを特徴とする耐火性樹脂組成物。
- 上記ガラス成分が、ガラス繊維及び/又はガラス粉末であることを特徴とする請求項1又は2記載の耐火性樹脂組成物。
- 上記無機充填剤が、含水無機物及び/又は無機炭酸塩であることを特徴とする請求項1又は2記載の耐火性樹脂組成物。
- 上記エポキシ樹脂が下記(1)〜(7)のいずれかの方法により可撓性を付与されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の耐火性樹脂組成物。
(1)架橋点間の分子量を大きくする。
(2)架橋密度を小さくする。
(3)軟質分子構造を導入する。
(4)可塑剤を添加する。
(5)相互浸入網目(IPN)構造を導入する。
(6)ゴム状粒子を分散導入する。
(7)ミクロボイドを導入する。
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