JP7332744B2 - 耐火シート、及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、建築物、乗り物などに使用される耐火シート、及びその製造方法に関する。
建築物、各種乗り物などの構造物の耐火性を確保するために耐火シートが広く使用される。耐火シートは、エポキシ樹脂などの樹脂成分と、樹脂成分に配合された熱膨張性黒鉛とを含有する組成物をシート状に成形したものが知られている。このような耐火シートは、加熱されると熱膨張性黒鉛が膨張して断熱層を形成することで耐火性を確保している。
耐火シートは、一般的に、熱膨張後に一定の機械強度を確保し、かつ熱容量を増大させるために無機充填剤が配合される(例えば、特許文献1参照)。しかし、耐火シートは、無機充填剤が配合されることで柔軟性が低下する傾向にあり、特に、高い強度を確保するために無機充填剤を大量に配合すると柔軟性が乏しくなる。柔軟性が乏しくなった耐火シートは、巻いたときに割れやすくなり、例えば長尺品をロール状に巻くことが困難になったり、施工性が低下したりする。
従来、エポキシ樹脂100重量部と、リン化合物25~200重量部と、熱膨張性黒鉛10~150重量部と、無機充填剤10~200重量部と、発泡剤2~50重量部を含有する樹脂組成物を発泡させてなるエポキシ樹脂発泡体が知られている(例えば、特許文献2参照)。このエポキシ樹脂発泡体は、リン化合物や加熱時に膨張する熱膨張性黒鉛などにより難燃性及び耐火性が付与されつつ、発泡体であるため柔軟性も確保される。
特開2000-143941号公報 特開2003-64209号公報
しかしながら、特許文献2の発泡体は、発泡剤により発泡されたものであり、空隙率が高くなるため、加熱後の膨張倍率を高くできずに優れた耐火性を得ることは難しい。
また、耐火シートは、その製造工程において、樹脂組成物を配管内部に加圧させながら移送させたり、成形機内部をスクリューで移送させたりすることが一般的である。しかし、耐火シートは、無機充填剤を配合することで比重が高くなるので、配管や成形機内部において圧力損失が生じやすくなり、生産性が低下する。
そこで、本発明は、耐火性能及び柔軟性を良好にしつつ、製造時に配管や成形機内部における圧力損失を小さくして生産性も向上させることが可能な耐火シートを提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び無機充填材を含む耐火シートにおいて、内部に複数の気泡を含有させ、かつ気泡の平均直径及び気泡面積比率を所定の範囲とすることで上記課題が解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。本発明の要旨は、以下の[1]~[9]に示すとおりである。
[1]マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び無機充填材を含み、かつ内部に複数の気泡が含有された耐火シートであって、
前記複数の気泡の平均直径が90μm以上であり、かつ断面における気泡面積比率が3~25%である耐火シート。
[2]前記マトリックス樹脂100質量部に対して前記熱膨張性黒鉛が10~300質量部であり、かつ前記無機充填材が10~300質量部である上記[1]に記載の耐火シート。
[3]前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である上記[1]又は[2]に記載の耐火シート。
[4]前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂である上記[3]に記載の耐火シート。
[5]前記エポキシ樹脂100質量部に対して、前記熱膨張性黒鉛が50~200質量部、前記無機充填材が100~300質量部である上記[4]に記載の耐火シート。
[6]分散剤を含有する上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の耐火シート。
[7]全長が2m以上である上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の耐火シート。
[8]ロール状に巻かれる上記[7]に記載の耐火シート。
[9]上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の耐火シートを備える建具。
本発明では、耐火性能及び柔軟性を良好にしつつ、製造時に配管や成形機内部における圧力損失を小さくして生産性も向上させることが可能な耐火シートを提供する。
以下、本発明についてより詳細に説明する。
<耐火シート>
本発明の耐火シートは、マトリックス樹脂と、熱膨張性黒鉛と、無機充填剤とを含み、複数の気泡が内部に含有された耐火シートである。
[気泡]
本発明の耐火シートにおいて、複数の気泡の平均直径は90μm以上となり、かつ断面における気泡面積比率が3~25%となる。本発明の耐火シートは、気泡の平均直径及び気泡面積比率が上記範囲内となることで、耐火性及び柔軟性が良好となる。また、耐火シートの製造工程において、上記した平均直径及び気泡面積比率となるように気泡を混入させることで見掛け比重が低くなって、配管、成形機内部などを移送する際の圧力損失が少なくなり、生産性が良好となりやすい。
一方で、気泡の平均直径を90μm未満とすると、気泡面積比率が3~25%と低い場合には、十分に柔軟性を向上することができない。また、平均直径が90μm未満であると、気泡を所定量混入させて見掛け比重を低くしても、配管、成形機内部などを移送する際の圧力損失が大きくなりやすく、生産性が低下する。
気泡の平均直径は、柔軟性をより向上させ、かつ圧力損失をより少なくする観点から、150μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、220μm以上がさらに好ましい。気泡の平均直径は、好ましくは500μm以下である。平均直径を500μm以下とすると、耐火シートの機械強度や成形性が良好となる。また、これら観点から、平均直径は、より好ましくは450μm以下、さらに好ましくは400μm以下である。
また、気泡面積比率を3%未満とすると、気泡の平均直径を大きくしても、耐火シートの柔軟性及び生産性を向上させることが難しい。一方で、気泡面積比率を25%より大きくすると、加熱しても十分な膨張倍率で耐火シートを膨張することが難しくなり、耐火性能が低下する。
耐火性能の観点から、気泡面積比率は、22%以下が好ましく、20%以下が好ましい。また、柔軟性及び生産性の観点から気泡面積比率は、好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは10%以上である。
なお、気泡の平均直径は、耐火シートの断面において、20個の気泡の直径を測定して、その平均値を算出して得られる。気泡面積比率は、耐火シートの断面において、(気泡の総面積/シートの断面積)×100を算出して得られる。気泡の平均直径及び気泡面積比率の測定方法の詳細は、後述する実施例で述べるとおりである。
本発明の耐火シートにおいて、複数の気泡は、マトリックス樹脂内部に分散している。気泡は、特に限定されないが、後述するように耐火シートの外部から混入された空気により形成されるとよい。
[マトリックス樹脂]
マトリックス樹脂を構成する樹脂成分は、例えば、熱可塑性樹脂、ゴム物質、熱硬化性樹脂、およびこれらから選択される2種以上の組み合わせが挙げられる。これらの中では、熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
これらの中では、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体が好ましい。
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルモノマーと、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体、塩化ビニル以外の重合体に塩化ビニルをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、ポリ塩化ビニル系樹脂の塩素化物である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂も、ポリ塩化ビニル系樹脂に含まれるものとする。
エチレン酢酸ビニル共重合体としては、特に限定されないが、JISK7192:1999に準拠して測定される酢酸ビニル含量が5~48質量%、好ましくは10~40質量%となるものを使用する。
(ゴム物質)
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。ゴム物質は、加硫ゴムでもよいし、非加硫ゴムでもよい。また、これらの中では、EPDMが好ましい。
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。なお、熱硬化性樹脂は、主剤単独で反応させ、又は主剤と、硬化剤を反応させて得られる。より具体的には、ポリウレタン樹脂では、例えば、主剤であるポリオール化合物と、硬化剤であるポリイソシアネート化合物などの硬化剤とを反応させることで得られる。また、エポキシ樹脂は、一般的に、主剤であるエポキシ化合物と、硬化剤とを反応させることにより得られるが、エポキシ化合物単独で反応させてもよい。
これら熱硬化性樹脂の中では、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂を使用することで、多量のフィラーを充填させた場合でもシートが脆くならず、靭性を保つことが可能である。
なお、本明細書では、特に断りの無い限り、反応して熱硬化性樹脂となる成分の合計、例えば、主剤と硬化剤との合計量を熱硬化性樹脂の含有量とする。また、熱硬化性樹脂の場合、後述する耐火樹脂組成物における樹脂成分とは、反応して熱硬化性樹脂となる成分、例えば、主剤と硬化剤を意味する。
上記した樹脂成分は、一種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。樹脂成分は、2種以上を併用する場合、同種の樹脂成分(例えば、熱可塑性樹脂と熱可塑性樹脂)を2種以上併用してもよいし、異種の樹脂成分(例えば、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂)を2種以上併用してもよい。
(エポキシ樹脂)
本発明で用いられるエポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、エポキシ化合物と硬化剤とを反応させることにより得られるが、エポキシ化合物を単独で反応させて得られてもよい。エポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物であり、具体的には、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型が例示される。グリジシルエーテル型は、2官能でもよいし、3官能以上の多官能でもよい。また、グリシジルエステル型も同様である。エポキシ化合物は、架橋度を調整するためなどに1官能のものを含んでもよい。これらの中では、2官能のグリシジルエーテル型が好ましい。
上記2官能のグリシジルエーテル型のエポキシ化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型などのアルキレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1、6-ヘキサンジオール型、水添ビスフェノールA型等の脂肪族エポキシ化合物が例示される。さらには、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、エチレンオキサイド-ビスフェノールA型、プロピレンオキサイド-ビスフェノールA型などの芳香族環を含む芳香族エポキシ化合物が挙げられる。これらの中では、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型などの芳香族エポキシ化合物が好ましい。
上記グリシジルエステル型のエポキシ化合物としては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p-オキシ安息香酸型等のエポキシ化合物が例示される。
3官能以上のグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン・フェノール型等が例示される。
これらのエポキシ化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
硬化剤としては、重付加型または触媒型のものが用いられる。重付加型の硬化剤としては、例えば、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、ポリメルカプタン等が挙げられる。また、上記触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が例示される。
エポキシ樹脂の硬化方法は、特に限定されず、公知の方法によって行うことができ、例えば、エポキシ化合物に硬化剤を混合して加熱することで硬化できる。
また、上記エポキシ樹脂は可撓性が付与されたものであってもよい。可撓性を付与するためには次の方法が用いられる。
(1)架橋点間の分子量を大きくする。
(2)架橋密度を小さくする。
(3)軟質分子構造を導入する。
(4)可塑剤を添加する。
(5)相互侵入網目(IPM)構造を導入する。
(6)ゴム状粒子を分散導入する。
(7)ミクロボイドを導入する。
上記(1)は、エポキシ化合物及び硬化剤の少なくともいずれかに予め分子鎖の長いものを用いて、これらを反応させることで、架橋点間の距離が長くなり可撓性を発現させる方法である。例えば、硬化剤としてポリプロピレンジアミン等などのポリエーテル系ジアミンなどを使用するとよい。
(2)は、エポキシ化合物及び硬化剤の少なくともいずれかに官能基の少ないものを用いて、これらを反応させることにより、一定領域の架橋密度を小さくして可撓性を発現させる方法である。例えば、硬化剤として2官能アミン、エポキシ化合物の少なくとも一部に1官能エポキシ化合物等を用いるとよい。
(3)は、エポキシ化合物及び硬化剤の少なくともいずれかに軟質分子構造を有するものを用いて可撓性を発現させる方法である。例えば硬化剤として複素環状ジアミンを使用し、又は、エポキシ化合物としてアルキレングリコールグルシジルエーテル等を用いるとよい。
(4)は可塑剤を耐火シートに非反応性の希釈剤として添加する方法である。(5)はエポキシ樹脂の架橋構造に別の軟質構造をもつ樹脂を導入する相互侵入網目(IPN)構造で可撓性を発現させる方法である。(6)はエポキシ樹脂マトリックスに液状又は粒状のゴム粒子を配合分散させる方法である。(7)は1μm以下のミクロボイドをエポキシ樹脂マトリックスに導入させることにより、可撓性を発現させる方法である。
(可塑剤)
耐火シートは、可塑剤を含んでいてもよい。耐火シートは、可塑剤を含むことで、耐火シートの柔軟性や加工性を高めやすくなる。特に、耐火シートは、熱可塑性樹脂がポリ塩化ビニル樹脂である場合、可塑剤を含むことが好ましい。また、耐火シートは、上記したようにエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を使用する場合でも、可塑剤を含有することで、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に可撓性を付与することが可能になる。
可塑剤としては、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル系可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等のアジピン酸エステル系可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル系可塑剤、タール、石油樹脂などが挙げられる。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
耐火シートにおける可塑剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは10~150質量部、より好ましくは20~100質量部、さらに好ましく30~80質量部である。可塑剤の使用量がこれら範囲内とすることで、加工性を良好にしつつ、耐火シートに柔軟性を付与しやすくなる。
なお、耐火シートが、可塑剤を含む場合、本明細書におけるマトリックス樹脂は、上記樹脂成分と、可塑剤からなる。すなわち、マトリックス樹脂は、上記樹脂成分、又は樹脂成分及び可塑剤からなり、マトリックス樹脂の質量部には、上記樹脂成分に加えて、可塑剤の質量部も含まれる。
耐火シートにおけるマトリックス樹脂の含有量は、耐火シート全量基準で、好ましくは12~60質量%である。下限値以上のマトリックス樹脂を使用することで、耐火シートの形状保持性が良好となる。また、上限値以下とすることで、熱膨張性黒鉛、及び無機充填剤を一定量以上配合することが可能になる。これら観点から、マトリックス樹脂の含有量は、15~50質量%が好ましく、18~32質量%がより好ましい。
[熱膨張性黒鉛]
本発明の耐火シートは、熱膨張性黒鉛を含む。熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張するものであり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、無機酸と、強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。無機酸としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等が挙げられる。また、強酸化剤としては、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。
また、上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和してもよい。脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。アルカリ金属化合物および上記アルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
[無機充填剤]
本発明の耐火シートは、熱膨張性黒鉛以外にも、さらに無機充填剤を含有する。無機充填剤は、骨材的役割を果たして、加熱され膨張した後における耐火シート(すなわち、膨張残渣)の機械強度を向上させ、かつ耐火シートの熱容量を増大させる。
無機充填剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水酸化物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
これらの中でも、耐火シートの機械強度を向上させる観点から、金属炭酸塩、金属水酸化物、金属酸化物が好ましい。中でも、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムがより好ましく、特に、金属炭酸塩である炭酸カルシウムがさらに好ましい。
無機充填剤は、粒状であることが好ましい。粒状の無機充填剤の平均粒子径は、0.5~200μmの範囲が好ましく、1~50μmの範囲がより好ましい。平均粒子径は、空気透過法により求めるとよい。
本発明の耐火シートにおいて、マトリックス樹脂100質量部に対して、熱膨張性黒鉛の含有量が10~300質量部であり、かつ無機充填材の含有量が10~300質量部であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の含有量を10質量部以上とすることで、耐火シートの膨張倍率を高くして耐火性能が良好になる。熱膨張性黒鉛を300質量部以下とすることで、柔軟性が低下することを防止する。
また、無機充填剤を10質量部以上とすることで、熱膨張後の膨張残渣でも耐火シートの機械強度が良好となる。300質量部以下とすることで耐火シートの柔軟性が低下することを防止する。
これら観点から、熱膨張性黒鉛の含有量が50~200質量部であり、かつ無機充填材の含有量が100~300質量部であることがより好ましい。
さらに、熱膨張性黒鉛と無機充填剤の合計含有量は、マトリックス樹脂100質量部に対して、柔軟性、機械強度、耐火性能の観点から、好ましくは20~500質量部、より好ましくは100~400質量部である。
本発明において、樹脂成分はエポキシ樹脂であることが好ましい。そして、エポキシ樹脂100質量部に対して、熱膨張性黒鉛の含有量が10~300質量部であり、かつ無機充填材の含有量が10~300質量部であることが好ましく、熱膨張性黒鉛の含有量が50~200質量部であり、かつ無機充填材の含有量が100~300質量部であることがより好ましい。さらに、熱膨張性黒鉛と無機充填剤の合計含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは20~500質量部、より好ましくは100~400質量部である。
[分散剤]
本発明の耐火シートは、分散剤を含有してもよい。分散剤は、耐火シートにおいて、熱膨張性黒鉛、及び無機充填剤の分散性を良好にする。そのため、熱膨張性黒鉛、及び無機充填剤を耐火シートに多量に含有させやすくなる。また、分散剤は、気泡をできやすくし、気泡の平均直径や気泡面積比率を上記範囲内に調整しやすくなる。
分散剤としては、各種の界面活性剤が使用できる。界面活性剤は、親水基部分と、樹脂成分と相溶性を有する疎水基部分を有するとよい。具体的には、ポリエーテルリン酸エステル又はそのアミン塩、ポリエーテルポリオールポリエステル酸又はそのアミン塩、ポリエステル又はそのアミン塩、ポリカルボン酸又はそのアミン塩、ポリアミノアマイドとリン酸との燐酸塩、ポリエステル酸アミド又はそのアミン塩などが挙げられる。これら分散剤において使用されるアミンはポリアミンであってもよい。これらの中では、ポリエーテルリン酸エステル又はそのアミン塩が好ましい。分散剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
耐火シートにおける分散剤の含有量は、マトリックス樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5~15質量部、より好ましくは1~8質量部である。
[リン化合物]
本発明の耐火シートは、リン化合物を含有することが好ましい。リン化合物を含有することで、耐火シートの耐火性能が向上する。ここでいうリン化合物とは、上記した分散剤以外のリン化合物であり、具体的には、赤リン、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステル、含ハロゲン縮合型リン酸エステル、リン酸金属塩、亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム類、ポリリン酸アルミニウム類、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレム、低級リン酸塩、下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。
リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステルが挙げられる。縮合リン酸エステルとしては、PX-200(商品名.大八化学工業社製)、CR-733S(商品名.大八化学工業社製)等のビスフェノールA由来の縮合リン酸エステル、CR-741S(商品名.大八化学工業社製)等のキシレノール由来の縮合リン酸エステル等が挙げられる。含ハロゲンリン酸エステルおよび含ハロゲン縮合型リン酸エステルとしては、上記のリン酸エステルおよび縮合型リン酸エステルの構造中に塩素等のハロゲンを含有するものが挙げられる。
リン酸金属塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム等が挙げられ、亜リン酸金属塩としては、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸アルミニウム等が挙げられ、中でも、亜リン酸アルミニウムが好ましい。
ポリリン酸アンモニウム類としては、例えばポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸ピペラジン、ポリリン酸アンモニウムアミドなど挙げられるが、難燃性、安全性、コスト、取扱性等の点からポリリン酸アンモニウムが好ましい。
さらに、一般式(1)で表される化合物は以下の通りである。

化学式(1)中、R1およびR3は、同一又は異なって、水素、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または、炭素数6~16のアリール基を示す。R2は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状あるいは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、または、炭素数6~16のアリールオキシ基を示す。
上記化学式で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。
上記リン化合物は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。リン化合物は、上記した中では、亜リン酸金属塩、及びポリリン酸アルミニウム類から選択される1種又は2種以上が好ましい。
リン化合物は、上記した炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩と反応して、金属炭酸塩の膨張を促すと考えられ、特に、リン化合物として、ポリリン酸アンモニウム類を使用した場合に、高い膨張効果が得られるやすくなる。また、有効な骨材として働き、燃焼後に形状保持性の高い膨張残渣を形成する。
耐火シートにおけるリン化合物の含有量は、マトリックス樹脂100質量部に対して、好ましくは20~300質量部、より好ましくは40~250質量部である。リン化合物の含有量をこれら下限値以上とすることで、耐火シートの耐火性能をより向上させやすくなる。また、上限値以下とすることで耐火シートの柔軟性、形状保持性などを確保しやすくなる。
[その他の添加剤]
本発明の耐火シートは、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂等の上記した添加剤以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤の含有量は、マトリックス樹脂100質量部に対して、例えば、50質量部以下、好ましくは30質量部以下である。
本発明の耐火シートの厚さは、特に限定されないが、例えば0.5~20mm、好ましくは0.8~5mmである。
また、耐火シートの長さは、全長が2m以上であることが好ましく、その耐火シートがロール状に巻かれることがより好ましい。本発明の耐火シートは、柔軟性が高いため、全長を長くしてロール状に巻いても割れやヒビ等が発生しない。また、気泡の平均直径や、気泡面積比率を大きくすることで柔軟性がさらに向上し、ロール状に巻いたとき端部における浮きなども発生しない。また、耐火シートの長さの上限は、特に限定されないが、例えば400m、好ましくは20mである。
なお、耐火シートの幅は、特に限定されないが、例えば、5mm~150cm程度である。
<耐火シートの製造方法>
本発明の耐火シートは、例えば、マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び無機充填材を含み、かつ複数の気泡が混入された耐火樹脂組成物を得る第1工程と、気泡が混入された耐火樹脂組成物をシート状に成形して耐火シートを得る第2工程を含む製造方法により製造されるとよい。以下、耐火シートの製造方法について詳細に説明する。
[第1工程]
第1工程では、例えば、樹脂成分を含むマトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び無機充填材を混練機において混練して、耐火樹脂組成物を得るとよい。このとき、耐火樹脂組成物には、混練により外部の空気が巻き込まれることで空気が混入させる。また、耐火シートに、上記した分散剤、リン化合物、及びその他の添加剤などの任意の成分を配合する場合には、マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び無機充填材に加えて、任意の成分も合わせて混練させればよい。
一般的な混練は、特に粘度が高い場合、混練により外部から巻き込まれた空気が組成物中に残留しないように、脱気しながら行う。それに対して、本発明の製造方法では、脱気されずに混練が行われ、そのため、混練時に巻き込まれた空気は、耐火樹脂組成物において、気泡として存在する。
また、本製造方法では、気泡の平均直径及び気泡面積比率を所定の範囲とするために、以下に示すように、混練時の耐火樹脂組成物の粘度を所望の範囲としたり、上記したように耐火樹脂組成物に分散剤を配合したりするとよい。
すなわち、混練機において混練して耐火樹脂組成物を得るとき、耐火樹脂組成物の粘度は、1000~7000mPa・sの範囲にすることが好ましい。耐火樹脂組成物の粘度をこの範囲内に調整することで、混練時に耐火樹脂組成物に気泡を混入させ、混入された気泡を、耐火シートにおいて存在させやすくなり、気泡の平均直径や気泡面積比率を上記した所定の範囲内に調整しやすくなる。また、粘度を上限値以下とすることで、配管などを用いて耐火性樹脂組成物を移送できるようになり、生産性が向上する。
気泡の平均直径及び気泡面積比率を上記した所望の範囲に調整しやすくする観点から、上記粘度は、2500~6000mPa・sがより好ましく、3000~5000mPa・sがさらに好ましい。なお、本明細書における粘度とは、混練時の耐火樹脂組成物の温度(混練温度)において、レオメータを用いて、せん断速度1500rpmで測定した粘度である。
混練時の耐火樹脂組成物の温度(混練温度)は、耐火樹脂組成物の粘度が上記範囲内となる温度であればよいが、例えば、10~100℃、好ましくは20~60℃である。
耐火性樹脂組成物には、粘度が上記範囲内となるように、適宜溶剤を加えてもよい。使用する溶剤は、樹脂成分の種類に応じて適宜選択するとよい。特に限定されないが、具体的には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
溶剤の使用量は、特に限定されないが、溶剤以外の成分100質量部に対して、例えば、1~200質量部使用される。
溶剤は、樹脂成分として、熱可塑性樹脂、及びゴム物質の少なくともいずれかを使用する場合に好ましく使用される。熱可塑性樹脂及びゴム物質は、後述する第2工程において硬化されないので、無溶剤では耐火樹脂組成物が高粘度になりやすい。そのため、溶剤を加えることで粘度を低下させて上記範囲内の粘度とするとよい。
耐火樹脂組成物において使用される混練機は、特に限定されないが、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機、攪拌翼を備える攪拌器等公知の混練機を使用することができる。これらの中では、例えば、攪拌翼がディスパー翼である攪拌器を用いて混練を行うことが均一にフィラーを分散できる点から好ましい。
第1工程後、耐火樹脂組成物は、圧力を加えて配管を通されて型枠に送られたり、押出機においてスクリューにより押し出されたりするが、本発明の製造方法では、耐火シートにおける平均直径及び気泡面積比率が所定範囲となるように気泡が混入されることで、配管内部やスクリュー押出時などにおける圧力損失が少なくなる。そのため、耐火シートの生産性が向上する。
[第2工程]
第2工程では、気泡が混入された耐火樹脂組成物を、シート状に成形して耐火シートを得る。ここで、耐火樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば、型枠に流し込まれてシート状にされるとよい。また、混練機として、単軸押出機、二軸押出機などを使用する場合には、押出機から耐火樹脂組成物をシート状に押し出すとよい。
シート状にされた耐火樹脂組成物は、硬化、固化などされるとよい。例えば、樹脂成分として熱硬化性樹脂が使用される場合には、加熱などされて硬化されるとよい。また、樹脂成分として熱可塑性樹脂、ゴム物質が使用される場合には、混練時に加熱されて軟化ないし液状化されていた耐火樹脂組成物を冷却して、固化ないし硬質化するとよい。また、耐火性樹脂組成物に溶剤が含有される場合には、加熱などにより溶剤を揮発させて固化させてもよい。
硬化ないし固化などするための加熱温度は、熱硬化性樹脂の種類、溶剤などの種類によって適宜調整すればよいが、例えば、40~150℃、好ましくは45~95℃である。また、加熱時間は、特に限定されないが、例えば1~15時間程度である。
<耐火シートの使用方法>
本発明の耐火シートは、一戸建住宅、集合住宅、高層住宅、高層ビル、商業施設、公共施設等の各種の建築物、自動車、電車などの各種車両、船舶、航空機などの各種乗り物に使用できるが、これらの中では建築物に使用されることが好ましい。
耐火シートは、上記建築物、車両、船舶、航空機などを構成する部材に取り付けられて使用される。例えば、建築物では、窓、障子、ドア、戸、ふすま等の建具、柱、鉄骨コンクリート等の壁、床、屋根等に取り付けられて、火災や煙の侵入を低減又は防止することができる。これらの中では、建具に使用することが好ましい。すなわち、好ましい一態様において、建具は上記した本発明の耐火シートを備える。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
本実施例における測定及び評価方法は以下の通りである。
[気泡の平均直径]
耐火シートを厚さ方向に切断して、切断断面をSEM(放射型電子顕微鏡)を用いて、観察し、20個の気泡の直径から平均直径を算出した。
なお、耐火シートは、MD方向及び厚さ方向に沿って、耐火シートを切断して得られた断面において10個の気泡の直径を測定し、かつTD方向及び厚さ方向に沿って、耐火シートを切断して得られた断面において10個の気泡の直径を測定した。ただし、MD方向及びTD方向を判断できない場合には、面方向に平行な任意の一方向をMD方向と仮定し、そのMD方向に垂直な方向をTD方向と仮定して同様に行う。
[気泡面積比率]
上記と同様に、切断断面を観察し、(気泡の総面積/観察を行ったシートの総面積)×100を気泡面積比率として算出した。なお、気泡面積比率の算出においても、同じ断面積を有する観察画像を上記のように2枚観察し、観察するシートの断面積合計が10mm2となるようにした。
なお、気泡の総面積は画像処理によって求めることができる。すなわち、SEMにて気泡が暗い色で観察されることを利用し、暗い色の部分の面積を算出することで、気泡の面積を得られる。
[耐火性能]
実施例、比較例で得られた耐火シートを60mm×60mmに切出し、内寸62mm×62mmで高さ100mmの金属枠に入れて600℃で10分間加熱し、各耐火シートを熱膨張させ、「膨張残渣の高さ/加熱前の耐火シートの厚み」により膨張倍率を算出した。膨張倍率が20倍以上のものを「A」、20倍未満のものを「C」と評価した。
[柔軟性]
実施例、比較例で得られた長さ2m、幅10cmの耐火シートを外径10cmの紙芯に巻き付け、巻き終わりの端部の中心を19mm×50mmのビニールテープ(商品名「エスロンテープ#300」、積水化学工業株式会社製)で留めた。
耐火シートに割れやヒビがなく、外観がきれいに巻け、巻き終わりのシート端部に浮きがないものを「A」、割れやヒビがなく、外観がきれいに巻けたが、巻き終わりのシート端部に浮きがあったものを「B」、耐火シートに割れ又はヒビの少なくともいずれかがあるものを「C」と評価した。
[配管の圧力損失]
混練後の耐火樹脂組成物をモーノポンプ「商品名.兵神装備株式会社製」を用いて、内径30mm、長さ3mの配管内に流量6000g/分で通した。その際の配管圧力を圧力計により測定した。配管圧力が2MPa以下の場合を「A」、2MPaより大きく4MPa未満の場合を「B」、4MPa以上の場合を「C」、配管に耐火樹脂組成物を通すことができなかったものを「D」とした。
[実施例1、2、6~8]
表1に記載の配合の通りに原料を計量してディスパー翼を備えた攪拌器に投入して、大気圧、40℃の条件下で脱気せずに混練して、耐火樹脂組成物を得た。いずれの実施例においても耐火樹脂組成物の40℃(混練温度)の粘度は、3000~5000mPa・sの範囲であった。混練後の耐火樹脂組成物を長さ2m、幅10cmの型枠に流し込み、厚み2mmとなるようにしてプレスした。プレス後90℃のオーブンで10時間加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させて耐火シートを得た。
[実施例3~5]
表1に記載の配合の通りに原料を計量してディスパー翼を備えた攪拌器に投入して、混練温度(30℃)における粘度が3000~5000mPa・sとなるように、溶剤をさらに加え、樹脂を溶解させ、大気圧、30℃の条件で、脱気せずに混練して耐火樹脂組成物を得た。溶剤の配合量は、溶剤以外の成分100質量部に対して50質量部であり、溶剤は、実施例3がテトラヒドロフラン、実施例4がアセトン、実施例5がトルエンであった。混練後の耐火樹脂組成物を長さ2m、幅10cmの型枠に流し込み、厚み2mmとなるようにしてプレスした。プレス後、圧力をかけない状態で50℃、10時間で加熱し、溶剤を揮発させることで耐火樹脂組成物を固化させて、耐火シートを得た。
[比較例1]
表1に記載の配合の通りに原料を計量しディスパー翼を備えた攪拌器に投入して、真空脱気装置により脱気しながら40℃で混練して、耐火樹脂組成物を得た。耐火樹脂組成物の40℃の粘度は、3000~5000mPa・sであった。その後、実施例1と同様に実施して耐火シートを得た。
[比較例2~4]
表1に記載の配合の通りに原料を計量しディスパー翼を備えた攪拌器に投入して、混練温度における粘度が3000~5000mPa・sとなるように、溶剤をさらに加え、樹脂を溶解させ、真空脱気装置により脱気しながら30℃で混練して耐火樹脂組成物を得た。溶剤の配合量は、溶剤以外の成分100質量部に対して50質量部であり、溶剤は、比較例2がテトラヒドロフラン、比較例3がアセトン、比較例4がトルエンであった。その後、実施例3と同様にして耐火シートを得た。
[比較例5]
表1に記載の配合の通りに原料を計量して混練ニーダーに投入し、溶剤を加えずに混練ニーダーを用いて150℃で混練して耐火樹脂組成物を得た。混練後、耐火樹脂組成物を長さ2mで幅10cmの型枠を用いて140℃でプレス加工して、耐火シートを得た。
[比較例6]
表1に記載の配合の通りに原料を計量してディスパー翼を備えた攪拌器に投入し、大気圧下、40℃で脱気せずに混練して、耐火樹脂組成物を得た。次いで、混練容器より耐火樹脂組成物を除いて攪拌羽根の半分以上が耐火樹脂組成物から出た状態にして追加で混錬し、耐火樹脂組成物に空気を十分に含ませた。耐火樹脂組成物の40℃(混練温度)の粘度は、3000~5000mPa・sであった。混練後の耐火樹脂組成物を長さ2m、幅10cmの型枠に流し込み、厚み2mmとなるようにしてプレスした。プレス後90℃のオーブンで10時間加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させて耐火シートを得た。
表1に記載の各原料は以下の通りである。
(マトリックス樹脂)
エポキシ樹脂(主剤):2官能のグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ化合物、商品名「jER825」、三菱ケミカル株式会社製
エポキシ樹脂(硬化剤):変性脂肪族ポリアミン、可撓性グレード、商品名「FL51」、三菱ケミカル株式会社製
PVC:ポリ塩化ビニル樹脂、商品名「S1001T」、株式会社カネカ製
可塑剤:フタル酸ジイソデシル、商品名「DIDP」、株式会社ジェイプラス製
EVA:エチレン酢酸ビニル共重合体、商品名「EV260」、酢酸ビニル含量28質量%、三井・デュポンポリケミカル株式会社製
EPDM:エチレン-プロピレン-ジエンゴム、商品名「EPT3092PM」、三井化学株式会社製
(熱膨張性黒鉛)
熱膨張性黒鉛(1):商品名「CA60N」、エア・ウォーター株式会社製
熱膨張性黒鉛(2):商品名「ADT-501」、ADT社製
(無機充填材)
炭酸カルシウム:平均粒子径8μm(空気透過法)、商品名「BF300」、白石カルシウム株式会社製
分散剤:ポリエーテルリン酸エステルのポリアミン塩、商品名「DA325」、楠本化成株式会社製
(リン化合物)
亜リン酸アルミニウム:商品名「APA-100」、太平化学産業株式会社製
ポリリン酸アンモニウム:商品名「AP422」、クラリアントケミカルズ社製
表1の結果から明らかように、各実施例では、気泡の平均直径を90μm以上とし、かつ気泡面積比率を3~25%とすることで、耐火性能及び柔軟性が優れたものとなった。また、圧力損失が小さくなり、生産性も良好になった。

Claims (6)

  1. マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び無機充填材を含み、かつ内部に複数の気泡が含有された耐火シートであって、
    前記マトリックス樹脂が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質であり、
    前記複数の気泡の平均直径が90μm以上、500μm以下であり、かつ断面における気泡面積比率が~25%である耐火シート。
  2. 前記マトリックス樹脂100質量部に対して前記熱膨張性黒鉛が10~300質量部であり、かつ前記無機充填材が10~300質量部である請求項1に記載の耐火シート。
  3. リン化合物を含有する請求項1又は2に記載の耐火シート。
  4. 分散剤を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の耐火シート。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の耐火シートを備える建具。
  6. 請求項1~4のいずれか1項に記載の耐火シートの製造方法であって、
    前記マトリックス樹脂、前記熱膨張性黒鉛、及び前記無機充填材を含み、かつ複数の気泡が混入された耐火樹脂組成物を得る工程と、
    気泡が混入された前記耐火樹脂組成物をシート状に成形して耐火シートを得る工程を含む、耐火シートの製造方法。
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