JP3894496B2 - ポリアリーレンスルフィドの製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」と略記)の製造方法に関し、さらに詳しくは、PASの重合工程後、重合反応系を迅速に冷却することにより、PASを効率的かつ経済的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記)に代表されるPASは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形などの一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維などに成形することができる。また、PASは、金属などの他材料へのコーティングに使用することができる。そのため、PASは、電気・電子機器、自動車機器などの広範な分野において汎用されている。
【0003】
PASは、一般に、有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを加熱して重合(重縮合)させる方法により製造されている。重合工程前、重合工程中または重合工程後に、必要に応じて、有機アミド溶媒中に重合助剤または相分離剤などが添加されている。
【0004】
PASの重合工程の前後には、様々な付加的な工程が配置されている。ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物との重縮合反応は、水の影響を受けやすいが、原料となるアルカリ金属硫化物は、多くの場合、結晶水などの水を多量に含んでいる。そこで、PASの重合工程前には、一般に、有機アミド溶媒とアルカリ金属硫化物とを含有する混合物から水を留出させて、反応系内の水の量を調整する脱水工程が配置されている。重合工程後には、重合反応系を冷却し、次いで、重合反応系から生成PASを回収する工程が配置されている。
【0005】
ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物との重縮合反応は、脱塩反応であるため、多量のハロゲン化アルカリ金属(例えば、NaCl)が副生物として生成する。回収工程では、生成PASと多量の副生物を含む反応混合物を濾過し、次いで、固形物を洗浄して、PASに混入または付着している副生物やオリゴマーなどを除去する。このようにして回収したPASは、乾燥工程で乾燥される。さらに、有機アミド溶媒や未反応モノマーなどの回収工程も配置されている。
【0006】
PASの開発初期の段階では、重合工程後、高温に加熱され、かつ、高圧状態にある重合反応系から、溶媒フラッシュ法(solvent flashing process)により溶媒を除去し、急冷する方法が採用されていた。しかし、溶媒フラッシュ法では、PASが微粉末となって析出するため、濾過や洗浄などの操作により、PASから副生物やオリゴマーを除去することが困難である。また、粉末状PASは、取り扱いや計量が困難である。
【0007】
そこで、現在では、重合工程後、有機アミド溶媒、PAS、副生物、相分離剤などを含み、PASが溶融状態にある反応混合物の温度を低下させて、粒状PASを含むスラリーを形成させる方法が採用されるに至っている。相分離剤は、高温状態にある反応混合物を有機アミド溶媒相と溶融PAS相とに液−液相分離させる作用を有するものであり、有機カルボン酸塩や水などが用いられている。この方法によれば、粒状PASを回収することができる。粒状PASは、副生物やオリゴマーの分離が容易であり、取り扱い性や計量性にも優れている。
【0008】
しかし、重合工程後、高温状態にある反応混合物の温度を徐々に低下させる方法は、冷却工程に長時間を要することになるため、生産効率に劣り、経済的ではないという問題を抱えている。そこで、比較的短い冷却時間で、純度の高い粒状PASを製造するために、幾つかの方法が提案されている。
【0009】
特開2001−89569号公報には、有機極性溶媒中でポリハロゲン化芳香族化合物とスルフィド化剤とを245〜290℃の温度範囲で重合反応させた後、反応物の冷却工程において、少なくとも2段階の冷却速度で冷却する方法が提案されている。具体的には、まず、0.2〜1.3℃/分の冷却速度で冷却し、所定の温度に到達した後には、1.3℃/分より大きな冷却速度で冷却する方法が提案されている。その実施例には、1℃/分の冷却速度で198℃まで冷却し、その後、2℃/分の冷却速度で50℃まで冷却した実験例が示されている。該公報には、この方法により、短い重合プロセス時間で、純度の高いPASが得られると記載されている。しかし、この方法では、冷却時間の大幅な短縮を行うことができない。
【0010】
特開平10−87831号公報には、密閉容器中で、硫黄源とポリハロ芳香族化合物とを有機極性溶媒中で重合反応させ、重合反応後期に除冷し、顆粒状PPSを製造する方法において、重合反応後期に除冷し、仕込み硫黄源に対して少なくとも50モル%以上が固形顆粒状重合体で存在し、かつ、密閉容器内の圧力が0.39×106Pa以上である状態で、容器を放圧して、ガス相と液相からなる重合反応混合物をガス抜きし、減圧する製造方法が提案されている。該公報には、冷却前に、液相成分を液−液相分離させることも記載されている。この冷却方法では、例えば、1℃/分程度の冷却速度で除冷する必要があるため、冷却時間を大幅に短縮することが困難である。しかも、この方法では、ガス抜きによりガス相から留去させる水の量が多い場合には、それに相応するガス抜き時間を必要とする。
【0011】
特開平9−296042号公報には、有機極性溶媒中でジハロ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させるPASの製造方法において、反応終了後、反応終了温度より低く、かつ、ポリマーが析出する温度より高い温度で、反応スラリーより水を除去し、しかる後、冷却してポリマーを析出させる方法が提案されている。該公報の実施例には、反応終了後、10分かけて250℃から230℃まで冷却し、その温度を保持したまま、30分かけて水−NMP(N−メチル−2−ピロリドン)混合物を留去し、その後、反応混合物を1℃/分の速度で150℃まで冷却したことが記載されている。しかし、この冷却方法は、PPSが析出しない温度を維持して水を留去させる必要があることに加えて、1℃/分という緩やかな冷却速度で除冷する必要がある。
【0012】
特許第2604673号公報及び特許第2604674号公報には、有機アミド溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてPASを製造する方法において、液相の大気圧下における沸点を超える温度に液相を加熱し、かつ、閉じた反応缶の気相部分を冷却することにより、反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめる方法が提案されている。
【0013】
これらの公報に記載の方法は、水分含有率が高い還流液を多量に液相上部に戻して、水分含有率の高い層を形成させ、この層に、液相中の残存アルカリ金属硫化物やハロゲン化アルカリ金属、オリゴマーなどを含有させるためのものである。したがって、この方法は、液相を含む重合反応系の冷却方法ではない。これらの公報には、反応缶上部を冷却中に、液温が下がらないように一定に保持することが記載されている。実際に、この方法で気相を冷却するだけでは、液相を含む重合反応系の全体を効率良く冷却することはできない。
【発明の開示】
【0014】
本発明の目的は、ポリアリーレンスルフィドの重合工程後、重合反応系を迅速に冷却することにより、ポリアリーレンスルフィドを効率的かつ経済的に製造する方法を提供することにある。
【0015】
より具体的に、本発明の目的は、有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを加熱して重合させるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、重合工程後、冷却工程において、生成ポリアリーレンスルフィドと有機アミド溶媒とを含有する液相とガス成分を含有する気相とからなる重合反応系を、気相中のガス成分 (A) の冷却方法により冷却する冷却工程を配置し、この冷却工程を効率的に実施することができる製造方法を提供することにある。
【0016】
重合工程後、密閉された重合缶内で、液相と気相とからなる重合反応系は、高温・高圧状態にある。液相には、有機アミド溶媒、生成PAS、ハロゲン化アルカリ金属、相分離剤などの添加剤などが含有されている。気相には、硫化水素、水(水蒸気)、有機アミド溶媒(蒸気)、ジハロ芳香族化合物(蒸気)、種々の熱分解生成物などが含有されている。重合開始前に重合缶を窒素置換した場合には、気相中に多量の窒素も含まれることになる。重合工程後、重合反応系の加熱を停止して除冷する方法では、冷却に長時間を要する。
【0017】
気相中には、水蒸気が含まれており、この水蒸気を凝縮させて、凝縮液(水)を液相に還流させると、高温の液相により加熱されて、再蒸発する。その時の水の蒸発潜熱が大きいため、液相を効率的に冷却できるのではないかと考えることができる。しかし、気相には、硫化水素、窒素、アルキルメルカプタンなどの低沸点ガス成分が多量に含まれているため、気相中のガス成分を冷却して、水蒸気などのガス成分の一部を凝縮させて、還流させることは、効率的ではない。
【0018】
前記の特許第2604673号公報及び特許第2604674号公報には、反応缶の気相部分を冷却する方法が開示されているが、具体的には、反応缶の上部に巻きつけたコイルに20℃の冷媒を流して冷却するなど、非常に低温に冷却することによって、気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流している。しかし、これらの公報に記載されている方法は、冷却方法として採用されているのではないことに加えて、気相中に含まれる水蒸気など凝縮方法としては、効率的ではなく、しかも反応缶の上部の温度を下げすぎると、気相中に含まれるジハロ芳香族化合物などの高融点物質が反応缶上部の内壁などに付着するおそれがある。
【0019】
そこで、本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、冷却工程において、気相中のガス成分を冷却するとともに、重合反応系の気相から、ガス成分中の水の沸点より低い沸点を有する低沸点ガス成分を排出するなどして、その含有量を低減させる方法に想到した。
【0020】
気相から低沸点ガス成分の含有量を低減させると、例えば、リフラックスコンデンサーなどを用いてガス成分を冷却することにより、水蒸気などを含む高沸点ガス成分を効率良く凝縮させて、凝縮液を重合反応系内に還流させることができることが判明した。そこで、重合反応系内に還流した凝縮液を液相上に落下させるなどして液相中に導入し、液相中に導入した凝縮液の少なくとも一部を再蒸発させると、大きな蒸発潜熱により、液相を含む重合反応系全体を極めて効率良く冷却することができる。
【0021】
本発明の方法によれば、リフラックスコンデンサーのジャケットなどに通す冷媒の温度をあまり低温にしなくても、効率的に高沸点ガス成分の凝縮・還流を行うことができ、液相に還流した水などが再蒸発する際の蒸発潜熱を利用することにより、液相を含む重合反応系の全体を迅速に冷却することができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0022】
本発明によれば、有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを加熱して重合させるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、
(1)重合工程後、生成ポリアリーレンスルフィドと有機アミド溶媒とを含有する液相とガス成分(A)を含有する気相とからなる重合反応系を、気相中のガス成分 (A) の冷却方法により冷却する冷却工程を配置し、かつ、
(2)冷却工程において、気相中のガス成分(A)を冷却することにより、ガス成分 (A) 中の水の沸点以上の沸点を有する高沸点ガス成分 (A2) を凝縮させて、凝縮液を重合反応系内に還流させるとともに、重合反応系の気相から、ガス成分(A)中の水の沸点より低い沸点を有する低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させる
ことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
1.ポリアリーレンスルフィドの重合方法
ポリアリーレンスルフィド(PAS)は、有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを加熱して重合させることにより合成することができる。重合反応系には、必要に応じて、相分離剤や重合助剤などを添加することができる。
【0024】
(1)アルカリ金属硫化物
本発明で使用するアルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物、水性混合物、または無水物として使用することができる。硫化ナトリウムなどの代表的なアルカリ金属硫化物は、通常、水和物として市販されている。水和物としては、例えば、硫化ナトリウム・9水塩(Na2S・9H2O)、硫化ナトリウム・5水塩(Na2S・5H2O)などがある。アルカリ金属硫化物は、有機アミド溶媒中でアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とをin situで反応させることにより調製することもできる。
【0025】
アルカリ金属硫化物中に不純物として微量のアルカリ金属水硫化物やアルカリ金属チオ硫酸塩が存在することがあるため、アルカリ金属水酸化物を添加して、これらの微量成分を除去したり、アルカリ金属硫化物へ変換させてよい。
【0026】
アルカリ金属硫化物の中でも、硫化ナトリウム及び水硫化ナトリウムが、安価であることから特に好ましい。
【0027】
PASの製造工程では、アルカリ金属硫化物の水和水、水性混合物の水媒体、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応により副生する水などが多量に存在する場合には、重合工程に先立つ脱水工程により脱水される。
【0028】
(2)ジハロ芳香族化合物
本発明で使用されるジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素から選ばれる各原子を指し、同一ジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。
【0029】
ジハロ芳香族化合物の具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、p−ジブロモベンゼン、1,4−ジクロロナフタリン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、4,4′−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、4,4′−ジクロロジフェニルエーテル、4,4′−ジクロロジフェニルスルホン、4,4′−ジクロロジフェニルスルホキシド、4,4′−ジクロロジフェニルケトンなどを挙げることができる。これらの中でも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロベンゼンを主成分とするものが好ましい。
【0030】
ジハロ芳香族化合物は、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基などの置換基を1つ以上有していてもよい。置換基を複数個有する場合、置換基の種類は単独でも、異なる種類の組み合わせであってもよい。これらのジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。ジハロ芳香族化合物を2種以上用いる場合には、2種以上の異なる構造単位を有する共重合体が得られる。共重合体には、ランダム共重合体、ブロック共重合体などがある。
【0031】
ジハロ芳香族化合物の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.90〜1.20モルである。
【0032】
(3)有機アミド溶媒
本発明では、脱水工程、重合工程、冷却工程などにおいて、溶媒として有機アミド溶媒を用いる。
【0033】
有機アミド溶媒は、高温の塩基性条件下で安定なものが好ましい。有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルビロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンなどのN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素などのテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物;が挙げられる。これらの有機アミド溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、NMP、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンがより好ましく、NMPが特に好ましい。
【0035】
本発明の重合反応に用いられる有機アミド溶媒の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり、通常0.1〜10kgの範囲である。
【0036】
(4)添加剤成分
生成PASの末端を形成させたり、重合反応や分子量を調整するために、モノハロ化合物を少量使用することができる。モノハロ化合物は、芳香族化合物であっても、非芳香族化合物であってもよい。
【0037】
分岐または架橋重合体を生成させるために、3個以上のハロゲン原子が結合したポリハロ化合物、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物などを使用することができる。分岐・架橋剤としてのポリハロ化合物としては、芳香族化合物以外の化合物をも使用することができるが、トリハロベンゼンなどの芳香族化合物が好ましい。
【0038】
重合助剤として、有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などを適宜使用することができる。これらの重合助剤の多くは、相分離剤としても機能する。
【0039】
(5)相分離剤
PASの重合工程において、重合反応を促進させて、高重合度のPASを短時間で得るために、反応混合物中に相分離剤を含有させることができる。相分離剤は、重合反応がある程度進行した反応混合物(液相)をポリマー濃厚相(溶融PAS相)とポリマー希薄相(有機アミド溶媒相)の2相に液−液相分離させるために用いられる。相分離剤は、重合反応の初期から反応混合物中に存在させることができるが、重合反応の途中で添加してもよい。また、相分離剤は、重合反応終了後の反応混合物に添加して、液−液相分離状態を形成してから、冷却してもよい。
【0040】
相分離剤の具体例としては、一般にPASの重合助剤として公知の有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、水などが挙げられる。これらの相分離剤は、単独で使用するだけでなく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。相分離剤の中でも、酢酸リチウムや酢酸ナトリウムなどの有機カルボン酸金属塩、及び水が好ましい。
【0041】
相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常、0.01〜10モルの範囲内である。
【0042】
(6)脱水工程
反応混合物中の水分量を調整するために、重合工程の前に脱水工程を配置することができる。脱水工程は、望ましくは不活性ガス雰囲気下、アルカリ金属硫化物を有機アミド溶媒中で加熱し、蒸留により水を系外へ分離することにより実施する。アルカリ金属硫化物は、通常、水和物または水性混合物として使用するため、重合工程で必要とされる量を超える水分を含有している。また、硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合は、等モル程度のアルカリ金属水酸化物を添加し、有機アミド溶媒中で両者をin situで反応させてアルカリ金属硫化物に変換するが、この変換反応では、水が副生する。
【0043】
脱水工程では、これらの水和水(結晶水)や水媒体、副生水などからなる水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、重合工程での共存水分量が、仕込みアルカリ金属水硫化物1モルに対して、通常0.3〜5モル、好ましくは0.5〜2.4モル程度になるまで脱水する。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程の前に水を添加して所望の水分量に調節することができる。
【0044】
これらの原料の仕込みは、一般的には、常温から300℃、好ましくは常温から200℃の温度範囲内で行われる。脱水操作の途中で原料の一部を追加してもよい。脱水工程に使用される溶媒としては、通常、有機アミド溶媒を用いる。脱水工程で使用する溶媒は、重合工程で使用する有機アミド溶媒と同一であることが好ましく、NMPが特に好ましい。溶媒の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり、通常0.1〜10kgである。
【0045】
脱水工程で使用する装置は、重合工程に用いられる重合反応装置(重合缶)と同じであっても、異なるものであってもよく、バッチ式、連続式または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。
【0046】
脱水工程は、仕込み後の混合物を、通常300℃以下、好ましくは60〜280℃の温度範囲で、通常15分間から24時間、好ましくは30分間から10時間、加熱して行われる。加熱は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法を組み合わせる方法により行う。
【0047】
脱水工程では、通常、有機アミド溶媒の一部が水と共に共沸して留出する。水は、有機アミド溶媒との共沸混合物としてか、あるいは蒸留により有機アミド溶媒と水とを分離して、水のみとして排出する。さらに、水または水と有機アミド溶媒との共沸混合物と共に、硫化水素が留出する。留出した硫化水素をアルカリ金属水酸化物水溶液に吸収させるなど、適当な方法で回収し、硫黄分として再利用することが好ましい。
【0048】
(7)重合工程
重合工程は、脱水工程終了後のアルカリ金属硫化物と有機アミド溶媒を含有する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合し、得られた反応混合物を加熱することにより行われる。反応混合物の調製は、通常100〜350℃、好ましくは120〜350℃の温度範囲内で行われる。混合順序は、特に制限なく、両成分を部分的に少量ずつ、あるいは一時に添加することにより行われる。また、脱水工程で留出した硫化水素を回収するための硫化水素吸収液の混合も適宜の順で行うことができる。反応混合物を調製する際に、有機アミド溶媒の量や共存水分量などの調整を行ってもよく、さらに、重合助剤や相分離剤などの添加物を混合してもよい。
【0049】
このようにして、有機アミド溶媒、アルカリ金属硫化物、ジハロ芳香族化合物などを含有する反応混合物を調製した後、反応混合物を加熱して、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを脱塩・重縮合反応させる。重合反応装置(重合缶)としては、反応混合物や反応生成物に分解などの悪影響を及ぼさない耐食性に優れた材質のものであることが好ましく、少なくとも接液部がチタン材で構成されている反応装置が好ましい。
【0050】
重合反応は、重合缶内で反応混合物を加熱することにより行われるが、この重合反応は、密閉系での加熱反応である。この重合反応は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われることがあるが、不活性ガスの使用は必須ではない。PASの重合反応は、一般に100〜350℃、好ましくは150〜330℃の範囲内で行われるが、本発明の方法が効果的なのは、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは240℃以上の高温で加熱重合する場合である。
【0051】
加熱方法としては、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法を組み合わせた方法が用いられる。重合反応時間は、一般に10分間から72時間、好ましくは30分間から48時間の範囲内である。重合工程に使用される有機アミド溶媒は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり、通常0.1〜10kg、好ましくは0.15〜1kgの範囲内である。この範囲内であれば、重合反応途中でその量を変化させてもよい。
【0052】
重合反応開始時の共存水分量は、仕込みアルカリ金属水硫化物1モルに対し、通常0.3〜5モル、好ましくは0.5〜2.4モルの範囲内である。本発明の好ましい実施態様において、重合開始から終了までの任意の時間に、相分離剤を添加することにより、比較的高分子量のPASを生成させることができる。相分離剤としては、コストや除去の容易性などの観点から、水が特に望ましい。
【0053】
相分離剤の含有量を増加させて液−液相分離状態を形成させる場合、相分離剤の添加時期は、重合開始から終了までの間であれば任意の時間に行うことができるが、重合の途中で水を添加する方法が好ましい。
【0054】
重合反応の途中で水を相分離剤として増加させる重合方法としては、
(I) 仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.5〜2.4モルの水が存在する状態で、180〜235℃の温度で重合を行って、ジハロ芳香族化合物の転化率を50〜98モル%にさせる第一工程、及び
(II) 仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり2.5〜7.0モルの水が存在する状態となるように水を添加するとともに、245〜290℃の温度に昇温して重合を継続する第二工程
を含む少なくとも二段階の工程で重合を行う方法が好ましい。
【0055】
本発明の方法が最も顕著にその効果を発揮するのは、重合工程において、途中で相分離剤として水を追加して、比較的高分子量のPASを含有する反応混合物を生成させ、これを冷却する場合である。
【0056】
比較的高分子量のPASを含有する混合物において、水/NMPのモル比は、好ましくは0.6〜1.1、より好ましくは0.7〜1.0の範囲内にあり、NMP/仕込みアルカリ金属硫化物のモル比は、好ましくは2.3〜5.5、より好ましくは2.5〜4の範囲内である。さらに、重合工程開始前のジハロ芳香族化合物/アルカリ金属硫化物のモル比は、好ましくは0.9〜1.2、より好ましくは0.98〜1.05の範囲内である。仕込みアルカリ金属硫化物(「S分」ともいう)のモル数は、脱水工程終了後のアルカリ金属硫化物のモル数を基準とする。
【0057】
2.冷却工程
本発明の製造方法では、PASの重合工程後、生成PASと有機アミド溶媒とを含有する液相とガス成分(A)を含有する気相とからなる重合反応系を冷却する冷却工程を配置し、かつ、冷却工程において、気相中のガス成分(A)を冷却するとともに、重合反応系の気相から、ガス成分(A)中の水の沸点より低い沸点を有する低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させる。
【0058】
重合工程終了時の重合反応系は、高温・高圧状態にある密閉系である。重合反応系の液相には、有機アミド溶媒、生成PAS、ハロゲン化アルカリ金属(例えば、NaCl)、未反応ジハロ芳香族化合物などが含まれている。他方、気相には、例えば、水(水蒸気)、硫化水素、窒素、酸素、炭酸ガス、アルキルメルカプタン、アミン類、アルキルスルフィド、低級炭化水素、未反応ジハロ芳香族化合物(蒸気)、有機アミド溶媒(蒸気)などのガス成分(A)が含まれている。
【0059】
これらのガス成分(A)の中には、原料調製工程や重合工程などで添加・混入したもの以外に、高温・高圧での重合反応時に有機アミド溶媒が熱分解したり、アルカリ金属硫化物が分解したり、硫化水素と他の成分とが反応したりして、新たに生成したものも含まれている。例えば、窒素ガスで置換した重合缶内において、NMP中で硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンとを反応させて、ポリフェニレンスルフィドを合成する場合には、ガス成分(A)として、窒素が60モル%程度、硫化水素が15〜20モル%、水が4〜8モル%、メチルメルカプタンが5モル%程度含まれており、これ以外に、それぞれ少量のp−ジクロロベンゼン、NMP、炭酸ガス、ジメチルメルカプタンなどが検出される。このガス成分の組成は、一例であって、製造条件が変動すれば、ガス成分の組成も変動する。重合缶内を窒素ガスで置換しない場合には、気相中のガス成分の組成は、前記組成から大幅に変動する。ただし、製造条件が変動しても、気相中に硫化水素や水蒸気などが比較的多量に含まれることには変わりがない。
【0060】
ガス成分(A)には、水の沸点(100℃)よりも沸点が低い硫化水素、アルキルメルカプタン、窒素などの低沸点ガス成分(A1)が多量に含まれている。これらの低沸点ガス成分(A2)は、冷媒を用いた通常の冷却法では液体に凝縮することができないため、本件明細書では、「非凝縮性ガス成分」と呼ぶことがある。
【0061】
他方、ガス成分(A)には、水、NMP、p−ジクロロベンゼンなどの水の沸点以上の沸点を有する高沸点ガス成分(A2)が含まれているが、一般に、比較的少量である。高沸点ガス成分(A2)は、冷媒を用いた通常の冷却法により凝縮させて液体にすることができる蒸気成分(凝集性成分)である。高沸点ガス成分(A2)の中でも、水(水蒸気)は、冷却により凝縮させて、重合反応系に還流すると、液相に落下したり、重合缶壁を伝わって液相に到達し、そして、高温の液相と接触して再蒸発する。水は、再蒸発の際に大きな蒸発潜熱を液相から奪うため、液相が効率的に冷却されることが判明した。
【0062】
しかし、気相中のガス成分(A)には、多量の低沸点ガス成分(A1)が含まれているため、ガス成分(A)を冷却しただけでは、伝熱量が不十分であって、蒸気成分の高沸点ガス成分(A2)を効率的に凝縮・還流させることができない。この点について、リフラックスコンデンサーを用いた気相中のガス成分(A)の冷却法を例にとって説明する。
【0063】
図1は、リフラックスコンデンサーを用いて、重合反応系の気相中のガス成分を冷却する方法を示す断面図である。重合工程後、密閉された重合缶1内は、液相2と気相3とからなる重合反応系が形成されている。重合缶1の上部にリフラックスコンデンサー4を配置し、冷媒をライン5からリフラックスコンデンサーのジャケット(詳細を図示せず)に通し、ライン6から排出させる。気相3中のガス成分(A)は、弁9からリフラックスコンデンサー4内に入る。リフラックスコンデンサー4の上方には、温度計7が取り付けられている。リフラックスコンデンサー4の上部に配置された排出弁8は、閉じた状態である。
【0064】
気相3中のガス成分(A)が多量の低沸点ガス成分(A1)(非凝縮性ガス成分)を含有していると、リフラックスコンデンサーのジャケットに冷媒を通してガス成分(A)を冷却しても、伝熱効率が極めて悪く、高沸点ガス成分(A2)(蒸気成分)が液体に凝縮する効率が悪い。しかも、リフラックスコンデンサー4内の高沸点ガス成分(A2)が凝縮を開始すると、さらに高濃度の低沸点ガス成分(A1)がリフラックスコンデンサー4内に溜まるため、高沸点ガス成分(A2)がリフラックスコンデンサー4内に入るのを妨害する。
【0065】
そこで、本発明では、冷却工程において、気相中のガス成分(A)を冷却するとともに、重合反応系の気相から、ガス成分(A)中の水の沸点より低い沸点を有する低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させる方法を採用する。ガス成分(A)中の低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させる方法としては、重合反応系外に排出する方法と、液相中に吸収させる方法と、これらを組み合わせた方法がある。
【0066】
低沸点ガス成分(A1)を重合反応系外に排出する方法の具体例としては、図1に示すリフラックスコンデンサー4の上部に配置した排出弁8を開けて、排出弁8から排出させる方法がある。しかし、単に排出弁8を開けただけでは、低沸点ガス成分(A1)とともに、水を含む高沸点ガス成分(A2)も系外に排出されるため、低沸点ガス成分(A1)を選択的に排出させて、その含有量を低減させることが望ましい。その具体的な方法としては、リフラックスコンデンサー4により、高沸点ガス成分(A2)の少なくとも一部を凝縮させて、凝縮液を重合反応系内に還流させることにより、リフラックスコンデンサー4内の上方における低沸点ガス成分(A1)濃度を高めてから、排気弁8を通して低沸点ガス成分(A1)を重合反応系外に排出させる方法が挙げられる。
【0067】
より具体的に、重合工程後、重合缶1への加熱を停止し、リフラックスコンデンサー4のジャケットに冷媒を通してガス成分(A)の冷却を開始する。排出弁8は、閉じたままとする。冷却を続けていると、リフラックスコンデンサー4内の低沸点ガス成分(A1)の濃度が上昇する。そこで、排出弁8を徐々に開けて低沸点ガス成分(A2)を系外に排出させる。リフラックスコンデンサーによる冷却の開始と同時に、排出弁を開けてもよいが、その場合には、十分に時間をかけて徐々に開けることが望ましい。低沸点ガス成分(A1)が排出されていることは、リフラックスコンデンサー4の上方に取り付けた温度計7の示す温度を指標にして判定することができる。すなわち、低沸点ガス成分(A1)が排出されている間は、温度計の示す温度(出口温度)は、例えば、165℃程度と低い。ガス成分(A)中の低沸点ガス成分(A1)の濃度が著しく低下して、高沸点ガス成分(A2)が排出弁8から排出されるようになると、温度計の示す出口温度は、例えば、236℃まで高くなり、しかも排出口に凝縮物が観察されるようになる。その時点で、排出弁8を閉じる。この操作は、1バッチに付き1回行うが、必要に応じて、2回以上行ってもよい。また、重合缶1とリフラックスコンデンサー4とをつなぐラインに設けられた弁9は、重合工程後に開けても、重合工程中に開けておいてもよい。
【0068】
このようにして、気相3から低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させると、高沸点ガス成分(A2)に対するリフラックスコンデンサー(熱交換器)4の伝熱効率が顕著に高められ、リフラックスコンデンサー4内で水を含む高沸点ガス成分(A2)が効率的に凝縮され、凝縮液が重合缶1内に還流される。還流された水などの凝縮液は、液相2に導入される。通常は、水などの凝縮液は、リフラックスコンデンサー4から重合缶内に還流されて、液相上に落下する。いまだ高温状態にある液相に導かれた凝縮液、特に水は、液相2により加熱されて再蒸発する。その際、水の大きな蒸発潜熱が液相2の温度を低下させる。
【0069】
気相のガス成分(A)の冷却方法としては、リフラックスコンデンサーを用いた方法に限定されない。気相のガス成分(A)の冷却は、外部冷却でも内部冷却でも可能であり、例えば、反応缶の気相に設置した内部コイルや、反応缶上部の外部コイルに冷媒を流す方法でもよい。リフラックスコンデンサーを用いない場合には、低沸点ガス成分(A1)の排出口と排出弁を重合缶上部に設けることができる。低沸点ガス成分(A1)を系外に排出する場合には、低沸点ガス成分(A1)が溜まり易いリフラックスコンデンサーを使用する方法が好ましい。
【0070】
本発明の方法によれば、伝熱効率を顕著に向上させることができるため、リフラックスコンデンサーのジャケットなどに通す冷媒(例えば、冷却水)の温度をそれほど低下させる必要がなく、冷媒の温度を100℃未満、ジハロ芳香族化合物の融点より高い温度に調整して、気相中のジハロ芳香族化合物がリフラックスコンデンサーや重合缶内壁、内部コイルなどに付着するのを防ぐことができる。p−ジクロロベンゼンを用いる場合などは、冷媒の温度を55〜70℃程度に調整することがより好ましい。ジハロ芳香族化合物の付着のおそれが少ない場合などには、冷媒の温度を上記より低く設定してもよい。また、冷却中に、冷媒の温度を変化させてもよい。
【0071】
リフラックスコンデンサー4の上部に配置した排気弁8に、アルカリ金属水酸化物の水溶液を溜めた捕集装置を連結し、排気弁を通して排出された低沸点ガス成分(A1)を該水溶液中にバブリングさせて、該低沸点ガス成分(A1)の少なくとも一部を該水溶液中に捕集することが好ましい。この方法によれば、低沸点ガス成分(A1)の中の硫化水素が捕集される。
【0072】
気相から低沸点ガス成分(A1)を低減させる方法としては、前述の系外に排出する方法以外に、液相に吸収させる方法が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を液相に添加すると、低沸点ガス成分(A1)の硫化水素が硫化物として、液相内に吸収され、固定される。アルカリ金属水酸化物は、水溶液または水との混合物として液相に添加することが好ましい。
【0073】
液相にアルカリ金属水酸化物を添加することによって、反応缶の気相に設置した内部コイル、外部コイル、もしくは反応缶上部に設置したリフラックスコンデンサーでの蒸気成分の熱交換効率(伝熱係数)が増加する。したがって、熱交換効率(伝熱係数)が実質的に増大しなくなる量が、アルカリ金属水酸化物の好ましい添加量であるが、生成物の品質に悪影響を及ぼさない範囲内でアルカリ金属水酸化物の添加量を増加させることができる。
【0074】
上記方法により、硫化水素を液相に吸収・固定させるだけでも、高沸点ガス成分(A2)に対する伝熱効率が大きく改善され、凝縮・還流を効率的に行うことができる。また、低沸点ガス成分(A1)の少なくとも一部を液相中に吸収させるとともに、残存する低沸点ガス成分(A1)を重合反応系外へ排出することにより、気相から低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させることもできる。
【0075】
凝縮・還流がなされる水、ジハロ芳香族化合物、有機アミドは、冷却工程中には反応缶から除去しないが、冷却工程終了後には、気相から除去してもよい。低沸点ガス成分(A1)(非凝縮性ガス成分)中の硫化水素を回収して、リサイクルすることができる。低沸点ガス成分(A1)の気相からの低減操作は、バッチ操作で1回もしくは複数回行ってもよいし、連続操作で行ってもよい。
【0076】
本発明の方法によれば、低沸点ガス成分(A1)(非凝縮性ガス成分)を気相から低減することにより、気相における、高沸点ガス成分(A2)(蒸気成分)への伝熱量が飛躍的に増大し、凝縮・還流による除熱効果により、液相を含む重合反応系全体を短時問で冷却することができる。本発明の製造方法により得られるPASは、収率、品質、洗浄・濾過・乾燥工程における操作性の点で、従来法に比べて優れている。
【0077】
重合工程後の冷却は、高温・高圧下における冷却操作であり、通常、反応容器ジャケット、内部熱交換器、外部熱交換器などを備える反応缶、反応缶上部に設置した熱交換器により行うことができる。気相のガス成分(A)の冷却に加えて、液相の冷却を行ってもよい。低沸点ガス成分(A1)(非凝縮性ガス成分)の系外排出の終了点は、前記したように、気相に設置した熱交換器(リフラックスコンデンサー)を経た後の排出ガスの急激な温度上昇や、排出ガス中の凝縮成分が容易に固体や液体になることから判断することができる。
【0078】
冷却工程では、PPSの場合、液相の温度が155℃程度になるまで、前記方法により除冷する。この冷却温度で、生成PASは、粒状の固体となり、液相は、スラリーとなる。その後は、気相を系外に解放したり、液相を急冷したり、液相に水を導入したりしてもよい。
【0079】
3.回収工程
冷却工程の後、常法に従って、洗浄工程、濾過工程、乾燥工程などを行い、精製されたPASを回収することができる。例えば、液相を冷却したスラリーをそのまま、あるいは水分などで希釈してから濾別し、水洗・濾過を繰り返して乾燥することにより、精製PASを得ることができる。濾別・篩分け後、PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類、アルコール類などの他の有機溶媒、高温水などで洗浄処理してもよい。PASは、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。本発明の製造方法によれば、PASは、粒状で得られるため、濾過、洗浄、乾燥などの処理が容易である。
【0080】
本発明の製造方法により得られるPASは、単独で、もしくは所望により各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の射出成形品やシート、フィルム、繊維、パイプなどの押出成形品に成形することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
実施例及び比較例において、「生成物」とは、重合工程終了後、冷却工程、洗浄工程、目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで粒状ポリマーを捕集する濾過工程、及び乾燥工程を経て得られた粒状PPSを意味する。
【0083】
生成物の収率は、重合工程の前段に配置している脱水工程後のオートクレーブ中の硫化ナトリウムがすべてp−ジクロロベンゼンと反応してPPSに変化した場合の理論量を基準として求めた。
【0084】
[実施例1]非凝縮性ガスをパージした後に、蒸気成分を凝縮・還流させることにより除熱する方法
1.脱水工程:
側壁面から伝導加熱できるように電気ヒータを、さらに、内部の温度及び圧力を検知するために温度計及び圧力計を取り付けた撹拌機付き20リットルのオートクレーブ(重合缶)の上部に、内径20mm、高さ250mmの円筒状のリフラックスコンデンサーを垂直に取り付けた。
【0085】
オートクレーブに、NMP6,000gと硫化ナトリウム・5水和物3,800gとを仕込み、窒素ガスで置換後、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水1,650gとNMP1,100gとを留出させた。この時、0.50モルの硫化水素(H2S)も留出した。脱水工程後の硫化ナトリウムは、22.04モルとなった。
【0086】
次いで、オートクレーブを180℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(「pDCB」と略記)3,435g〔pDCB/Na2S=1.06(モル比)〕、NMP2,815g、水183g〔缶内の合計水量/Na2S=1.40(モル比)〕、さらに、硫化水素が0.5モル留出することにより反応缶内に生じている水酸化ナトリウム1.00モルと合わせて、水酸化ナトリウム量が硫化ナトリウムに対して6.00モル%となるように、純度97%の水酸化ナトリウム13.3gを追加した。
【0087】
2.重合工程:
オートクレーブを撹拌機により撹拌しながら、220℃で4.5時間反応させ、その後、さらに撹拌を続けながら、相分離剤としての水457gを圧入し〔缶内の合計水量/Na2S=2.55(モル比)〕、かつ、255℃に昇温して2.0時間反応させた。重合終了時の缶内圧力は、1.75×106Pa(ゲージ圧)であった。重合工程において所要時間は、6.5時間であった。
【0088】
3.冷却工程:
重合終了後、ヒーターの電源を切り、リフラックスコンデンサーの上部に付属した排出弁のガス出口を、5%水酸化ナトリウム水溶液200gを入れた捕集装置に接続した。ガスパージ(ガス成分の系外への排出)前に、リフラックスコンデンサーのジャケットヘ冷却水(約60℃)の通水を行い、冷却を開始した。
【0089】
その直後に、ガスパージは、リフラックスコンデンサーの上部に付属する排出弁を徐々に開いて、2分間かけて行った。ガスパージ開始時のコンデンサーのガス出口温度は165℃であったが、ガスパージ終了時には236℃まで到達した。このときの缶内温度は243℃で、缶内圧力は1.37×106Paであった。後記する比較例1におけるガスパージなしの場合の同温での圧力との対比から、この温度でのガスパージによる重合缶圧力差は、0.07×106Pa相当であることが分かる。
【0090】
リフラックスコンデンサーのガス出口に凝縮物を観察した時点を、低沸点ガス成分(A1)(非凝縮性ガス成分)のパージの終点とした。5%水酸化ナトリウム水溶液200gに吸収させた捕集成分による重量増加分は、1.2gであった。その中に硫化水素として0.46gを検出した。また、NMP、p−ジクロロベンゼンは検出されなかった。
【0091】
低沸点ガス成分(A1)を系外に排出した後、リフラックスコンデンサーの排気弁を閉じ、さらに、気相中のガス成分(A)を冷却することにより、気相中に存在する高沸点ガス成分(A2)の凝縮・還流を継続させた。この冷却工程において、液相の温度を255℃から155℃まで冷却するのに要した時間は、44分であった。その時の缶内圧力は、0.11×106Paであった。
【0092】
4.回収工程:
得られた反応混合物(液相成分)に、アセトンを加えて、洗浄、濾過を3回繰り返した。その後、室温の水を加えて、4回洗浄を繰り返した。このようにして得られたスラリーに、酢酸水溶液を加えて、洗浄、濾過した後、さらに、水洗を4回繰り返し、次いで、篩にて固形分を回収した。
【0093】
得られたウェットレジンを棚段乾燥器を使用して、105℃にて13時間乾燥した。乾燥後のPPSの収量は、2,169g(収率91%)であった。
【0094】
[実施例2]液相に添加した水酸化ナトリウムと水との混合物で非凝縮性ガスを液相に固定しながら、蒸気成分を凝縮・還流させることにより除熱する方法
実施例1において、重合終了後に水酸化ナトリウム100gと水200gとの混合物をオートクレーブに圧入した。圧入には3分間を要し、缶内温は250℃、缶内圧力は1.52×106Paとなった。圧入完了後、リフラックスコンデンサーのジャケットへの冷却水の通水を行って、冷却を開始した。このようにして、気相から低沸点ガス成分(A1)を液相に吸収・固定し、同時に高沸点ガス成分(A2)の凝縮・還流を継続した。冷却後の操作は、実施例1と同様に実施し、乾燥PPSを回収した。この方法では、液相の冷却開始から155℃まで到達するのに要した時間は、48分であった。その時の缶内圧力は、0.07×106Paであった。
【0095】
[比較例1]非凝縮性ガスをパージすることも、液相に固定することもしないで、蒸気成分を凝縮・還流させることにより除熱する方法
実施例1において、低沸点ガス成分(A1)(非凝縮性ガス成分)を系外に排出しないことを除いて、全て同様に実施し、乾燥PPSを回収した。液相の冷却開始(255℃)から155℃まで到達するのに要した時間は、203分であった。その時の缶内圧力は、0.15×106Paであった。缶内温243℃における缶内圧力は1.44×106Paであった。
【0096】
[比較例2]非凝縮性ガスをパージすることも、液相に固定することもしないで、蒸気成分を凝縮・還流させる目的で、コンデンサーに冷却水を通水することもしないで自然放熱にまかせて除熱する方法
実施例1において、オートクレーブより低沸点ガス成分(A1)(非凝縮性ガス成分)をパージしないこと、及びリフラックスコンデンサーのジャケットに冷却水を通水しないことを除いて、全て同様に実施し、乾燥PPSを回収した。液相の冷却開始(255℃)から155℃まで到達するのに要した時間は、272分であった。その時の缶内圧力は、0.15×106Paであった。
【0097】
[比較例3]大量のガスパージによる気化熱を利用して冷却する方法
実施例1と同様な仕込量、脱水、重合を行った。重合終了後、オートクレーブより低沸点ガス成分(A1)(非凝縮性ガス成分)をパージせず、リフラックスコンデンサーのジャケットへの冷却水の通水もせず、200℃まで1℃/分の冷却速度で徐冷した。200℃時点での圧力は、0.47×106Paであった。排出弁を開けて、ガス抜きを実施した。10分かけてガス抜きを行った。缶内圧力は、0.08×106Pa、温度は、144℃となった。ガス抜き開始から155℃に到達するのに要した時間は、8分であった。155℃での缶内圧力は、0.11×106Paであった。
【0098】
[比較例4]液相に水のみを添加して、コンデンサーに冷却水を通水して蒸気成分を凝縮・還流させることにより除熱する方法
実施例1において、重合終了後に水200gをオートクレーブに投入した。投入には2分間を要し、缶内温度は251℃、缶内圧力は1.77×106Paとなった。投入完了後、リフラックスコンデンサーのジャケットに冷却水の通水を行って冷却を開始した。冷却後の操作を実施例1と同様に実施し、乾燥PPSを回収した。冷却開始からから155℃まで到達するのに要した時間は、222分であった。その時の缶内圧力は、0.18×106Paであった。
以上の結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の方法によれば、重合工程終了後、簡便な装置と方法により、低沸点ガス成分(非凝縮性ガス成分)を気相から低減するとともに、水などの高沸点ガス成分(蒸気成分)を凝縮し、凝縮液を重合缶(重合反応系)内に還流して、液相を含む重合反応系全体を冷却することにより、冷却工程の必要時間を大幅に短縮することが可能になった。その結果、PAS製造に要する時間を短縮することが実現可能になった。このように、本発明によれば、PASの重合工程後、重合反応系を迅速に冷却することにより、PASを効率的かつ経済的に製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】 図1は、リフラックスコンデンサーを用いて、重合反応系の気相中のガス成分を冷却する方法を示す断面図である。
Claims (20)
- 有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを加熱して重合させるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、
(1)重合工程後、生成ポリアリーレンスルフィドと有機アミド溶媒とを含有する液相とガス成分(A)を含有する気相とからなる重合反応系を、気相中のガス成分 (A) の冷却方法により冷却する冷却工程を配置し、かつ、
(2)冷却工程において、気相中のガス成分(A)を冷却することにより、ガス成分 (A) 中の水の沸点以上の沸点を有する高沸点ガス成分 (A2) を凝縮させて、凝縮液を重合反応系内に還流させるとともに、重合反応系の気相から、ガス成分(A)中の水の沸点より低い沸点を有する低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させる
ことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。 - 低沸点ガス成分(A1)が、硫化水素を含むものである請求項1記載の製造方法。
- 冷却工程において、気相中のガス成分(A)を冷却することにより、気相中に存在する水蒸気、未反応のジハロ芳香族化合物、及び有機アミドを含む水の沸点以上の沸点を有する高沸点ガス成分(A2)を凝縮させて、凝縮液を重合反応系内に還流させるとともに、低沸点ガス成分(A1)を重合反応系外に排出させて、気相から低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させる請求項1記載の製造方法。
- 冷却工程において、気相中のガス成分(A)を冷却することにより、気相中に存在する高沸点ガス成分(A2)を凝縮させて、凝縮液を重合反応系内に還流させ、それによって、液相を含む重合反応系を冷却する請求項3記載の製造方法。
- 重合反応系内に還流した凝縮液を液相中に導入し、液相中に導入した凝縮液の少なくとも一部が再蒸発する際の蒸発潜熱により、液相を含む重合反応系を冷却する請求項4記載の製造方法。
- 冷却工程において、気相から低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させた後、さらに、気相中のガス成分(A)を冷却することにより、気相中に存在する高沸点ガス成分(A2)を凝縮させて、凝縮液を重合反応系内に還流させる操作を継続する請求項3記載の製造方法。
- 気相中のガス成分(A)の冷却を、気相の上部に配置したリフラックスコンデンサーにより行う請求項3記載の製造方法。
- 低沸点ガス成分(A1)の重合反応系外への排出を、リフラックスコンデンサーの上部に配置した排気弁を通して行う請求項7記載の製造方法。
- リフラックスコンデンサーにより、高沸点ガス成分(A2)の少なくとも一部を凝縮させて、凝縮液を重合反応系内に還流させることにより、リフラックスコンデンサー内の上方における低沸点ガス成分(A1)濃度を高めてから、排気弁を通して低沸点ガス成分(A1)を重合反応系外に排出させる請求項8記載の製造方法。
- リフラックスコンデンサーの上部に配置した排気弁に、アルカリ金属水酸化物の水溶液を溜めた捕集装置を連結し、排気弁を通して排出された低沸点ガス成分(A1)を該水溶液中にバブリングさせて、該低沸点ガス成分(A1)の少なくとも一部を該水溶液中に捕集する請求項8記載の製造方法。
- リフラックスコンデンサーが冷媒を通すジャケットを備えた構造を有するものであり、かつ、該ジャケットに通す冷媒の温度を100℃未満、ジハロ芳香族化合物の融点より高い温度に調整して、ガス成分(A)を冷却させる請求項7記載の製造方法。
- 低沸点ガス成分(A1)の少なくとも一部を液相中に吸収させることにより、気相から低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させる請求項1記載の製造方法。
- 液相中にアルカリ金属水酸化物を存在させて、低沸点ガス成分(A1)の少なくとも一部を液相中のアルカリ金属水酸化物と反応させることにより、低沸点ガス成分(A1)を液相中に吸収させる請求項12記載の製造方法。
- 低沸点ガス成分(A1)の少なくとも一部を液相中に吸収させるとともに、残存する低沸点ガス成分(A1)を重合反応系外へ排出することにより、気相から低沸点ガス成分(A1)の含有量を低減させる請求項12記載の製造方法。
- 重合工程において、重合缶内で、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを有機アミド溶媒中で加熱して重合させて、200℃以上の温度に加熱された液相を含む加熱・加圧された重合反応系を生成させる請求項1記載の製造方法。
- 重合工程において、相分離剤の存在下に、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを有機アミド溶媒中で加熱して重合させる請求項1記載の製造方法。
- 相分離剤が、水である請求項16記載の製造方法。
- 重合工程において、
(I) 仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.5〜2.4モルの水が存在する状態で、180〜235℃の温度で重合を行って、ジハロ芳香族化合物の転化率を50〜98モル%にさせる第一工程、及び
(II) 仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり2.5〜7.0モルの水が存在する状態となるように水を添加するとともに、245〜290℃の温度に昇温して重合を継続する第二工程
を含む少なくとも二段階の工程で重合を行う請求項1記載の製造方法。 - 重合工程後、冷却工程前に、重合反応系に相分離剤を添加する請求項1記載の製造方法。
- 冷却工程の後、液相から生成ポリアリーレンスルフィドを回収する請求項1記載の製造方法。
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