JP3706952B2 - ポリアリーレンスルフィドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略称する)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略称する)の製造方法に関するものである。さらに具体的には、本発明は、反応終了後、PASが析出する温度より高く、かつ反応終了温度より低い温度で水を除去することにより、微粒子が少なく、濾過性の向上等の操作の簡易化を図ることができるPASを比較的簡便な装置で製造するための方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
PPSに代表されるPASの製造方法としては、従来工業的に広く用いられている(1)米国特許第3,354,129号公報等に開示されているアルカリ金属硫化物、特に結晶水を有する硫化ナトリウム(以下含水硫化ナトリウムと略称する)を極性溶媒中で加熱して該含水硫化ナトリウムが含有する水を除去し、そこへジクロルベンゼンを加えて加熱重合させる方法がある。しかしこの方法では、PASは1ミクロン以下の微粒子を多量に含む粉末として得られ、この1ミクロン以下の微粒子が濾過性を低くする、あるいは目詰まりを起こす等の問題があった。そこで、PASの粒径を制御することを目的としていろいろな方法が提言されている。
【0003】
例えば、(2)特公平1−25493号公報には、重合終了後にPASが溶融相をなす最低温度より高い温度で相分離を起こさせるように水を加え、その後冷却することを特徴とする粒状PASの回収方法が開示されている。しかしながら、この方法では確かに大部分のPASは水を加えない場合に比べて粒径の大きな粒子になるが、1ミクロン以下の微粒子のPASも含まれる。
【0004】
また、(3)特開昭59−49232号公報には、重合終了後に重合温度から240℃以下になるまで、50℃/分より遅い速度で徐冷することにより微結晶の大きさを60オングストローム以上にすることを特徴とするPASの製造方法が開示されている。しかしながら、該発明のように徐冷したとしても、1ミクロン以下の微粒子のPASは減少しない。
【0005】
また、(4)特開平6−145354号公報には、PASの重合反応操作において、反応系の降温を開始する時点より早くとも1時間以降から晶析終了時点の間に、反応気相部分を冷却または加熱することを特徴とするPASの粒径制御方法が開示されている。しかしながらこの方法では、確かに粒径はある程度制御されるが、1ミクロン以下の微粒子のPASを減少させることは困難である。
【0006】
また、(5)特開昭63−132941号公報には、反応混合物からのPASの回収法において、重合終了後の該混合物を蒸留脱水後、PASとアルカリ金属ハライドの貧溶媒で極性有機溶媒に可溶な溶媒を加えることで得たPASとアルカリ金属ハライドより成るスラリーを固液分離し、得られたケーキを該添加貧溶媒洗浄を行った後、このケーキを乾燥し、更に水を加えて金属ハライドを溶解洗浄し、固液分離することを特徴とするPASの回収方法が開示されている。確かにこの方法ではPAS中の電解質イオン含有量を低減化できるが、蒸留脱水する温度及びPASを析出させる条件をコントロールしていないためPASの粒径が制御できず、1ミクロン以下の微粒子のPASを減少させることは困難である。
【0007】
また、(6)特開昭60−104130号公報、特開平2−185527号公報には、芳香族ジハロゲン化物(芳香族トリ−またはテトラハロゲン化物を少量含んでいても良い)及び有機溶媒の混合物に、150℃以上で含水アルカリ金属スルフィドを水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、そして実質的に無水の状態の系内で重合反応を行うことを特徴とするPASの製造方法が開示されている。確かにこの方法によって重合反応を無水の状態で行うことは可能であり、そのため微粒子のPASを減らすことは可能ではあるが、しかしながらこの方法のような反応中に水を除去する方法では、水と共にモノマーも系外にでるため、反応の制御が難しく、所望の物性、例えば所望の分子量、結晶性のPASを得難い等の問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の従来の製法の欠点を解決して、微粒子が少なく、濾過性の向上等の操作の簡易化を図ることができるPASを比較的簡便な装置で製造するための方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、微粒子が少ないPASを製造するためには、ポリマー析出時の重合系内の水分量を低減化することが重要であり、反応終了後、反応終了温度より低く、且つポリマーが析出する温度より高い温度で反応スラリーより水を除去した後、冷却してポリマーを析出させることにより微粒子の少ないPASが製造できることを見い出し、本発明を完成するにいたった。
【0010】
即ち本発明は、有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させるPASの製造方法において、反応終了後、反応終了温度より低く、且つポリマーが析出する温度より高い温度で、反応スラリー中の有機極性溶媒に対して、1重量%以下の水分量となるように反応スラリーより水を除去した後、前記有機溶媒の存在下に冷却してポリアリーレンスルフィドポリマーを析出させることを特徴とする。
【0011】
従来の反応中に水を除去する場合には、反応の制御が難しく所望の物性を得ることは困難であったが、本発明の方法では、反応後に水を除去するため、反応制御は容易であり、所望の物性のポリマーを得ることが可能である。即ち、本発明はポリマー物性の制御性が良く、微粒子を減らすことができる、従来の方法とは全く異なった、優れた方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明において「スルフィド化剤」、「ジハロ芳香族化合物」、及び「溶媒」という用語は、言及されている各化合物ないし物質がそれぞれ定義された範囲内で混合物である場合を包含する。例えば、「ジハロ芳香族化合物」が複数種の化合物からなっていて、生成PASが共重合体である場合を、本発明は1つの具体例として包含するものである。
【0013】
(重合体の製造)
本発明によるPASの製造方法は、スルフィド化剤によるジハロ芳香族化合物の脱ハロゲン化/硫化反応に基くものである。
【0014】
(スルフィド化剤)
本発明において用いられるスルフィド化剤としては、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、あるいはこれらの混合物等がある。
【0015】
前記アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記硫化アルカリ金属は無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。上記硫化アルカリ金属の中では硫化ナトリウムと硫化カリウムが好ましく、特に硫化ナトリウムが好ましい。
【0016】
これら硫化アルカリ金属は、例えば水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基、硫化水素とアルカリ金属塩基とを反応させることによっても得られるが、反応系外で調製されたものを用いてもかまわない。
【0017】
アルカリ金属水硫化物としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記水硫化アルカリ金属は無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。上記水硫化アルカリ金属の中では水硫化ナトリウムと水硫化カリウムが好ましく、特に水硫化ナトリウムが好ましい。
【0018】
これら水硫化アルカリ金属は、例えば硫化水素とアルカリ金属塩基とを反応させることによっても得られるが、反応系外で調製された物を用いてもかまわない。
【0019】
アルカリ金属塩基としては、例えば水酸化アルカリ金属があげられる。水酸化アルカリ金属としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。上記水酸化アルカリ金属化合物の中では水酸化リチウムと水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0020】
なお上記のいずれの場合にも、硫化アルカリ金属、水硫化アルカリ金属中に微量存在する不純物を除去するためにアルカリ金属塩基を少量過剰に加えてもさしつかえない。
【0021】
上記スルフィド化剤は無水物でもかまわないが、入手の容易性と反応の制御性から等から含水物が好ましく、無水物を使用する場合には、通常、水を加えて用いられる。
【0022】
(ジハロ芳香族化合物)
芳香族スルフィド重合体(ポリアリーレンスルフィド、以下、PAS)の骨格を形成すべき単量体に相当するジハロ芳香族化合物は、芳香族核と該核上の2ケのハロ置換基とを有するものであって、そしてアルカリ金属硫化物等のスルフィド化剤による脱ハロゲン化/硫化反応を介して重合体化しうるものが、任意に使用できる。従って、芳香族核は芳香族炭化水素のみからなる場合の外に、この脱ハロゲン化/硫化反応を阻害しない各種の置換基を有するものでありうる。
【0023】
具体的には、本発明において使用されるジハロ芳香族化合物の例には、例えば下式(A)〜(D)で示される化合物が包含される。
【0024】
【化1】
【0025】
ここで各置換基は下記の通りである。
X:Cl、Br、I または F。特に、Cl及びBrより成る群から選ばれた少なくとも1種のハロゲン。
【0026】
Y:−R、−OR、−COOR、−COONa、−CN及び−NO2(Rは、 H、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基より成る群から選ばれたもの)より成る群から選ばれたもの。ここで、アルキル基又はアルキル基部分は炭素数1〜18程度、アリール基またはアリール基部分は炭素数6〜18程度のものが挙げられる。
【0027】
【化2】
【0028】
(R'及びR''は、H、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基より成る群から選ばれたもの)より成る群から選ばれたもの。ここでアルキル基またはアルキル基部分及びアリール基またはアリール基部分は上記と同様に定義される。
【0029】
式(A)中でm及びnは、それぞれm=2、0≦n≦4の整数。
式(B)中でa及びbは、それぞれa=2、0≦b≦6の整数。
式(C)中でc、d、e及びfは、それぞれ0≦c≦2、0≦d≦2、
c+d=2、0≦e、f≦2の整数。
【0030】
式(D)中でg、h、i及びjは、それぞれ0≦g≦2、0≦h≦2、
g+h=2、0≦i、j≦2の整数。
【0031】
上記一般式のジハロゲン置換基芳香族化合物の例としては、例えば、次のようなものがある。
【0032】
p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタリン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド等であり、なかでも、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロベンゾフェノンおよび4,4’−ジハロジフェニルスルホンが好ましく、その中でもp−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、4,4’−ジクロルベンゾフェノンおよび4,4’−ジクロルジフェニルスルホンは特に好適に使用される。
【0033】
ジハロ芳香族化合物の適当な選択組合せによって2種以上の異なる反応単位を含む共重合体を得ることができるのは、前記の通りである。p−ジクロルベンゼンと4,4’−ジクロルベンゾフェノンもしくは4,4’−ジクロルフェニルスルホンとを組み合わせて使用すれば、例えば、次の単位を含んだ共重合物を得ることができる。
【0034】
【化3】
【0035】
とを含んだ共重合物。
【0036】
本発明の製造方法において、PASとしてポリフェニレンスルフイド(以下、PPS)を得るに当たっては、上記した成分を共重合することは可能ではあるが、p−ジハロベンゼンをジハロ芳香族化合物中70モル%以上、好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上用いて重合すると種々の物性に優れたPPSが得られるので好ましい。
【0037】
本発明で使用するジハロ芳香族化合物の使用量は、使用するスルフィド化剤中の硫黄源1モル当たり0.8〜1.3モルの範囲が望ましく、特に0.9〜1.10モルの範囲が物性の優れたPASポリマーを得るのに好ましい。
【0038】
なお、本発明によるPASは、上記ジハロ芳香族化合物の重合体であるが、生成重合体の末端を形成させるため、あるいは重合反応ないし分子量を調節するためにモノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を併用することも、分岐または架橋重合体を形成させるためにトリハロ以上のポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を併用することも可能である。
【0039】
これらのモノハロまたはポリハロ化合物が芳香族化合物である場合の具体例としては、ジハロ芳香族化合物の上記具体例のモノハロ誘導体またはポリハロ誘導体が挙げられる。
【0040】
上記モノハロ誘導体またはポリハロ誘導体は、任意の目的に使用できるが、具体的には、例えばジハロベンゼンに若干量のトリクロルベンゼンを組み合わせて使用すれば、分岐を持ったフェニレンスルフィド重合体を得ることができる。
【0041】
また、モノハロまたはポリハロ化合物の使用量は、特に制限されるものではなく、目的あるいは反応条件によって適宜調節すればよいが、ジハロ芳香族化合物1モルに対して好ましくは0.1モル以下、更に好ましくは0.05モル以下である。
【0042】
(溶媒及び水)
本発明の重合反応に使用する有機極性溶媒は、公知慣用のものが使用できるが、通常は活性水素を有しない有機極性溶媒、すなわちアプロチックタイプの有機極性溶媒である。
【0043】
この溶媒は、本発明重合反応を不当に阻害するものであってはならない。また、この溶媒は、少なくとも原料であるジハロ芳香族化合物及びS2-を与えるスルフィド化剤を反応に必要な濃度に溶解することができる程度の溶解能を持つものであるのが好ましい。従って、この溶媒は、窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子を有する極性溶媒であることが普通である。
【0044】
更に、この溶媒は、原料ジハロ芳香族化合物と同様な脱ハロゲン化/硫化反応に関与しうるものでないことが望ましい。従って、例えばハロ芳香族炭化水素ではないことが望ましい。
【0045】
また、本発明の製造方法から明らかなように、溶媒としては、水より沸点の高いものが用いられる。このような溶媒の具体的例を挙げれば、(1)アミド、たとえば、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、N−メチルピロリドン(NMP)、N−シクロヘキシルピロリドン(NCP)、N−メチルカプロラクタム、テトラメチル尿素(TMU)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、その他、(2)エーテル化ポリエチレングリコールたとえばポリエチレングリコールジアルキルエーテル(重合度は2000程度まで、アルキル基はC1〜C20程度)など、(3)スルホキシド、たとえばテトラメチレンスルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO)その他、がある。前記各種の溶媒の中でも、N−メチルカプロラクタムおよびNMPは、化学的安定性が高いので、特に好ましい。
【0046】
溶媒の使用量は、使用する溶媒の種類によっても異なるが均一な重合反応が可能な反応系の粘度を保持すること、また、ある程度の生産性を維持できる量であればよく、重合に用いるスルフィド化剤中の硫黄源1モル当り1.0〜6モルの範囲が好ましい。また、生産性を更に考慮すると、重合に用いるスルフィド化剤中の硫黄源1モル当り1.2〜5.0モルの範囲が好ましく、また、更に好ましい使用溶媒量は重合に用いるスルフィド化剤中の硫黄源1モル当り1.5〜4モルである。
【0047】
重合系内の水分量、あるいはスルフィド化剤の含水量を調整するための水は、反応を阻害するものが含まれていなければ良く、そのため蒸留水、イオン交換水等、反応を阻害するアニオンやカチオン等を除いた水が好ましい。
【0048】
一般に、本発明の重合反応中に存在させるべき水分は、加水分解反応などの併発を回避させるために、なるべく少ない方がよい。しかしながら、使用するスルフィド化剤が水和物等である場合には、スルフィド化剤を有機極性溶媒中で加熱脱水してもスルフィド化剤1モルに対して1モル以上は系内に残存してしまい、系内の水分を減らすことは困難であり、系内の水分量はスルフィド化剤1モル当たり1〜2モル、好ましくは1〜1.5モルである。
【0049】
スルフィド化剤として無水物を用いると、水分量を任意にコントロールできるが、その場合の系内水分量は、スルフィド化剤1モル当たり0.05〜2.0モル、好ましくは0.07〜1.5モル、更に好ましくは0.1〜1.0モルである。
【0050】
(重合)
本発明による重合は、必要に応じて脱水操作を行った後、例えば200〜300℃、好ましくは210〜280℃の温度に加熱して0.1〜40時間、好ましくは0.5〜20時間、更に好ましくは1〜10時間加熱して行うことが好ましい。この範囲内であると反応の進行がスムーズである。
【0051】
すなわち、この反応温度が200℃未満では反応速度が遅く、また反応が不均一になる可能性があり、一方、300℃を超えると生成ポリマーあるいは溶媒の分解等の副反応が起こりやすい。
【0052】
また、反応時間は使用した原料の種類や量、あるいは反応温度に依存するので一概に規定できないが、0.1時間未満では未反応成分の量が増大したり生成するポリマーが低分子量になる可能性が高く、また40時間以上では生産性が悪く好ましくない。
【0053】
なお、重合終了時の温度は使用した原料の種類や量等に依存するので一概に規定できないが、本発明の主旨からも明らかなように、PASが実質的に溶解し得る温度以上でなければならない。これらを考慮すると、通常220℃以上、好ましくは230℃以上、更に好ましくは240℃以上である。
【0054】
本発明の重合反応においては、接液部がチタンあるいはクロムあるいはジルコニウム等でできた重合缶を用い、通常、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの面から窒素が好ましい。
【0055】
反応圧力については、使用した原料及び溶媒の種類や量、あるいは反応温度等に依存するので一概に規定できないので、特に制限はない。
【0056】
また、反応液の調整及び共重合体の生成反応は、一定温度で行なう1段反応でもよいし、段階的に温度を上げていく多段階反応でもよいし、あるいは連続的に温度を変化させていく形式の反応でもかまはない。
【0057】
(後処理)
本発明においては、この後処理に最大の特徴がある。
本発明において、重合体(ポリマー)の回収は、まず、反応終了後、反応終了温度より低く、かつポリマーが析出しない温度で、まず反応混合物(反応スラリー)より、水を除去する。
【0058】
この水を除去する温度は、使用した原料及び溶媒の種類や量、あるいは反応条件により最適値が異なるが、反応終了温度より低く、かつポリマーが析出しない温度でなければならない。反応終了温度以上では、重合反応あるいは分解等の副反応が進行してしまい好ましくないし、ポリマーが析出する温度以下では、本特許の目的であるポリマー微粒子の低減効果が達成できない。
【0059】
すなわち、ここで水を除去する温度は、ポリマーが析出する温度以上で、かつ反応終了温度以下、好ましくは反応終了温度より10℃以上低い温度である。
【0060】
また水を除去する量は、反応混合物中より、できるだけ水を除去する方が好ましいが、有機極性溶媒に対して1重量%以下の水分量となるように水除去する。勿論、有機極性溶媒に対して0重量%の場合も包含する。
【0061】
この水を除去する際、もちろん水のみを除去してもかまわないが、水と共に未反応のジハロ芳香族化合物及び有機極性溶媒を反応混合物を除去してもかまわない。但し、水と共に有機極性溶媒を除去する場合、除去し過ぎるとPASが溶解し難くなったり、あるいは系の粘度が高くなって操作性が悪くなるといった問題もある。
【0062】
水と共に有機極性溶媒を除去する量は、反応に使用した溶媒の種類あるいは量によって異なるので一概に規定できないが、除去する量は反応時の有機極性溶媒量に対して70重量%以下、好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下である。
【0063】
このようにして水を除去した後、該混合物をポリマーが析出する温度以下まで冷却する。冷却は段階的に温度を下げていく多段冷却でも良いし、あるいは連続的に温度を下げていく形式の冷却でも良い。
【0064】
ここでの冷却開始からポリマー析出終了までに要する時間は、急冷、徐々に冷却、或いは放冷のいずれでもよく、冷却開始温度あるいは該混合物中の各化合物の量によっても異なるので一概に規定できないが、通常0.01〜20hr、好ましくは0.05〜10hr、更に好ましくは0.1〜5hrの範囲である。0.1hr以下では温度制御等が困難であるし、20hr以上だと生産性が悪くなるので好ましくない。この冷却は、有機極性溶媒を主体とする液媒体から、ポリマーの大部分或いは全てが析出するまで行われる。
【0065】
析出したポリマーは、濾別などにより液媒体と分離することにより、固体として得ることができる。ポリマー析出後の反応混合物からの重合体の回収は、例えば該混合物をそのまま、あるいは反応溶媒(もしくはそれと同等の低分子重合体の溶解度を有する溶媒)を加えて攪拌した後、ろ別して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後そのままあるいは中和、水洗、ろ別および乾燥をすることによっても行うことができる。
【0066】
また、該混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で加熱して溶媒だけを留去し、ついで缶残固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、それから中和、水洗、ろ別および乾燥をすることによって行うことができる。
【0067】
また、別法としては、該混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくとも生成重合体に対しては貧溶媒であるもの)を沈降剤をして添加して重合体、無機塩等の固体状生成物を沈降させ、それを濾別、洗浄及び乾燥することによって行うこともできる。
【0068】
これらの場合の「洗浄」は、抽出の形で実施することもできる。乾燥は、単離した重合体を実質的に水等の溶媒が蒸発する温度に加熱して行う。乾燥は真空下で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気下で行なってもよい。上記したような各洗浄は、繰り返して行うこともできる。
【0069】
特に本発明の方法でポリマーを析出させると、1ミクロン以下の微粒子が非常に少ないため、濾過性に優れる。従って、上記の該混合物をそのまま、あるいは反応溶媒(もしくはそれと同等の低分子重合体の溶解度を有する溶媒)を加えて攪拌した後、濾別して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後そのままあるいは中和、水洗、ろ別、乾燥という方法を採用するのが、ポリマー物性の面からも好ましい。
【0070】
得られた重合体はそのまま各種成形材料等に利用できるが、空気あるいは酸素富化空気中あるいは減圧化で熱処理することにより増粘することが可能であり、必要に応じてこのような増粘操作を行なった後、各種成形材料等に利用してもよい。
【0071】
この熱処理温度は、特に限定されるものではなく、処理時間によっても異なるし、処理する雰囲気によっても異なるので一概に規定できないが、通常は180℃以上で行うことが好ましい。熱処理温度が180℃未満では増粘速度が非常に遅く生産性が悪く好ましくない。熱処理を押出機等を用いて重合体の融点以上で溶融状態で行っても良い。但し、重合体の劣化の可能性あるいは作業性等から、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。
【0072】
本発明により得られた重合体は、従来のPAS同様そのまま射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形のごとき各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物にすることができる。しかしながら強度、耐熱性、寸法安定性等の性能をさらに改善するために、本発明の目的を損なわない範囲で各種充填材と組み合わせて使用することも可能である。
【0073】
充填材としては、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等が使用できる。また無機充填材としては、例えば硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用できる。
【0074】
また、成形加工の際に添加剤として本発明の目的を逸脱しない範囲で少量の、例えば離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤を含有せしめることができる。
【0075】
更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用できる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム、等が挙げられる。
【0076】
本発明の重合体及びその組成物は、従来の方法で得られるPAS同様耐熱性、寸法安定性等が優れるので、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形、あるいはコンポジット・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形などの各種成形加工分野において耐熱性や成形加工性、寸法安定性等の優れた成形材料あるいは繊維、フィルムとして用いられる。
【0077】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0078】
原料としては、次のものを使用した。
1.スルフィド化剤(アルカリ金属硫化物)
結晶硫化ナトリウム(5水塩)(以下、Na2S・5H2Oと略称する)は三協化成(株)製品を使用。
2.溶媒
N−メチルピロリドン(以下、NMPと略称する)は三菱化成(株)製品を使用。
3.ジハロ芳香族化合物
p−ジクロルベンゼン(以下、p−DCBと略称する)は住友化学(株)製品を使用。
4.水
水道水を蒸留した後イオン交換を施したものを使用。
【0079】
物性評価は次の通り行った。得られた重合体の粒度分布は、堀場製作所製粒径測定装置LA−500を用いて測定し、体積基準にて解析した。また、得られた重合体の溶融粘度(η)は、高化式フローテスターを用いて測定した(316℃、剪断速度100/秒、ノズル孔径0.5mm、長さ1.0mm)。
【0080】
実施例1
温度センサー、精留塔、滴下槽、滴下ポンプ、留出物受け槽を連結した攪拌翼付ステンレス製(チタンライニング)4リットルオートクレーブにNa2S・5H2O 840.6g(5.0モル)、NMP 1487g(15.0モル)を仕込み、窒素雰囲気下、200℃まで昇温することにより水−NMP混合物を留去した。留出液中の組成はNMP105g、水345g、イオン性硫黄33mmolであった。系を閉じ、ついでこの系を220℃まで昇温しp−DCB 735.0g(5.0モル)をNMP500gに溶かした溶液を2時間かけて一定速度で滴下した。滴下終了後、220℃で3時間保持した。この後、250℃まで1時間かけて昇温し、その温度で1時間保持して反応を終了した。
【0081】
反応終了後、10分かけて230℃まで冷却し、その温度を保持したまま、30分かけて水−NMP混合物を留去した。留出液中の組成はNMP115g、水98gであった。留去終了後、1℃/分の速度で150℃まで冷却し、その後は放冷した。
【0082】
得られたスラリーを少量サンプリングし、NMPで希釈した後粒度分布を測定したところ、1ミクロン以下の微粒子は検出できなかった。また、得られたスラリー500gを5リットルの水に注いで80℃で1時間攪拌した後、濾過した。このケーキを再び5リットルの湯で1時間攪拌、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返し、濾過後、熱風乾燥器で一晩(120℃)乾燥して白色の粉末状のポリマーを89g得た。得られたポリマーの溶融粘度は520ポイズであった。
【0083】
また、得られたスラリー500gにNMP200gを加えた後、窒素雰囲気下で150℃まで加温し、その温度で特製の保温可能な吸引濾過装置で濾過を行った。濾紙はワットマンのNo.2濾紙(直径125mm)を使用した。濾過に要した時間は65秒であった。
【0084】
比較例1
実施例1と全く同じ操作で重合反応を行い、反応終了後、そのまま1℃/分の速度で150℃まで冷却し、その後は放冷した。得られたスラリーを実施例1と同様に粒度分布を測定したところ、1ミクロン以下の微粒子が2.9%含まれていた。また実施例1と同様に処理し得られたポリマーの溶融粘度は490ポイズであった。また、濾過に要した時間は6分30秒であった
【0085】
比較例2
実施例1と全く同じ操作で重合反応を行い、反応終了後、そのまま250℃で30分かけて水−NMP混合物を留去した。留出液中の組成はNMP183g、水99gであった。留去終了後、1℃/分の速度で150℃まで冷却し、その後は放冷した。得られたスラリーは若干分解臭がした。得られたスラリーを実施例1と同様に粒度分布を測定したところ、1ミクロン以下の微粒子が0.2%含まれていた。また実施例1と同様に処理し得られたポリマーの溶融粘度は90ポイズであった。また、濾過は10分以上を要し、非常に濾過性が悪かった。
【0086】
比較例3
実施例1と全く同じ操作で重合反応を行い、反応終了後、30分かけて190℃まで冷却し、その温度を保持したまま、30分かけて水−NMP混合物を留去した。留出液中の組成はNMP82g、水97gであった。留去終了後、1℃/分の速度で150℃まで冷却し、その後は放冷した。得られたスラリーを実施例1と同様に粒度分布を測定したところ、1ミクロン以下の微粒子が2.8%含まれていた。また実施例1と同様に処理し得られたポリマーの溶融粘度は500ポイズであった。また、濾過に要した時間は6分10秒であった
【0087】
【発明の効果】
本発明の製造方法は、反応終了後、反応終了温度より低く、かつPASが析出する温度より高い温度で水を除去することに特徴があり、この方法によって微粒子が少なく、濾過性に優れる等の操作の簡易化を図ることができるPASを比較的簡便な装置で製造するための方法を提供できる。
Claims (3)
- 有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、反応終了後、反応終了温度より低く、且つポリマーが析出する温度より高い温度で、反応スラリー中の有機極性溶媒に対して、1重量%以下の水分量となるように反応スラリーより水を除去した後、前記有機溶媒の存在下に冷却してポリマーを析出させることを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
- 水を除去する温度が、反応終了温度より10℃以上低い温度であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
- 該ポリアリーレンスルフィドが、ポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の精製方法。
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