JP3880708B2 - 酸化物超電導体の製造装置および製造方法 - Google Patents
酸化物超電導体の製造装置および製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、基材上に薄膜を形成するCVD反応装置を利用した酸化物超電導体の製造装置とそれを用いた酸化物超電導体の製造方法の改良に係わるもので、長尺のテープ状の基材の長さ方向および幅方向に対し厚さの分布や組成が均一な酸化物超電導薄膜を形成することができ、超電導特性の優れた酸化物超電導体を効率良く製造することができる酸化物超電導体の製造装置とそれを用いた酸化物超電導体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、化学気相堆積法(CVD法)は、スパッタなどの物理的気相堆積法(PVD法)や真空蒸着等の気相法に比べて、基材形状の制約が少なく、大面積の基材に高速で薄膜形成が可能な手法として広く知られている。ところが、このCVD法にあっては、原料ガスの仕込み組成や供給速度、キャリアガスの種類や反応ガスの供給量、あるいは、反応リアクタの構造に起因する成膜室でのガスの流れの制御など、他の成膜法には見られない独特の制御パラメータを数多く有しているがために、CVD法を用いて良質な薄膜形成を行うための条件の最適化が難しい欠点を有している。
【0003】
一般にこの種のCVD反応装置は、反応生成室を構成するリアクタと、このリアクタの内部に設けられた基材と、このリアクタの内部を所望の温度に加熱する加熱装置と、このリアクタに反応生成用の原料ガスを供給する原料ガス供給装置と、リアクタ内部で反応した後のガスを排気する排気装置を主体として構成されている。
そして、この構成のCVD反応装置を用いて基材上に目的の薄膜を形成するには、リアクタの内部を減圧雰囲気とするとともに所望の温度に加熱し、原料ガス供給装置から目的の薄膜に応じた原料ガスをリアクタの内部に導入し、リアクタの内部で原料ガスを分解反応させて反応生成物を基材上に積層し、反応後のガスを排気装置で排出することで行っている。
また、このような構成のCVD反応装置を用いてチップ状の基材の表面に均一な特性と厚さを有する薄膜を形成する場合、チップ状の基材を平面運動させながら成膜する方法が一般に採用されており、例えば、図6に示すように複数枚のチップ状の基材1を、リアクタ(図示略)内に設けられた円盤状の基材ホルダ2上にこれの円周に沿って並べ、基材ホルダ2の中心軸Gを回転軸として回転させながら成膜したり、あるいは図7に示すようにチップ状の基材1を縦方向(X1−X2間)や横方向(Y1−Y2間)にトラバースさせたり、またはチップ状の基材1を偏心回転させながら成膜する方法が挙げられる。なお、図6〜図7中、符号3は原料ガス供給ノズルであり、4はこのノズル3から供給された原料ガス4である。
【0004】
ところが図6に示したような複数枚のチップ状の基材1を並べた基材ホルダ2を回転させる方法は大量生産に適しているが、回転軸Gに対して同心円状に膜厚分布が発生し易いため、形成された薄膜の膜厚の分布が均一でなく、超電導特性にバラツキが生じてしまう。また、図7に示したようなチップ状の基材1を縦横にトラバースしたり、偏心回転させる方法は、厚みが均一な薄膜が得られるが、成膜装置が大型になってしまううえ、生産効率が悪いという問題がある。
また、CVD反応装置を用いてテープ状の基材上に酸化物超電導薄膜を堆積させて長尺の酸化物超電導体を製造する場合には、リアクタ内にテープ状の基材を一方向に送り出すとともに巻取りながら薄膜を成膜する必要があるため、上述のような基材を平面運動させながら成膜する方法を適用することができなかった。
【0005】
そこで、従来は図8〜図9に示すようなCVD反応装置10を用いて長尺の酸化物超電導体を製造していた。このCVD反応装置10は、筒型のリアクタ11を有し、該リアクタ11は隔壁12、13によって基材導入部14と反応生成室15と基材導出部16に区画されている。上記隔壁12、13の下部中央には、テープ状の基材18が通過可能な通過孔19がそれぞれ形成されている。上記反応生成室15には、ガス拡散部20が取り付けられている。このガス拡散部20には、スリットノズル20aが先端に設けられた供給管20bが接続されており、供給管20bから原料ガスや酸素がガス拡散部20を経て反応生成室15内に供給できるようになっている。
また、リアクタ11内の反応生成室15の下方には、該リアクタ11内に通されたテープ状の基材18の長さ方向に沿って排気室17が設けられている。この排気室17の上部には、リアクタ11内に通されたテープ状の基材18の長さ方向に沿って細長い長方形状のガス排気孔21a、21aがそれぞれ形成されている。また、上記排気室17の下部には2本の排気管23の一端がそれぞれ接続されており、一方、これら2本の排気管23の他端は真空ポンプ(図示略)に接続されている。上記2本の排気管23の排気口23aは、リアクタ11内に通されたテープ状の基材18の長さ方向に沿って設けられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが従来のCVD反応装置10においては、長尺の酸化物超電導体を製造する際、スリットノズル20aから導入された原料ガスが反応生成室15内でテープ状の基材18上に薄膜を形成後、導入されたテープ状の基材18の長さ方向に沿って設けられた排気口23a、23aから未反応のガス(残渣ガス)がCVD反応装置10外に排出されるようになっているため、テープ状の基材18の長さ方向に対し厚さや組成が均一な酸化物超電導薄膜を形成できるが、基材18の幅方向への原料ガスの流れ状態を制御できないため、基材18の幅方向に対し厚さの分布や組成にバラツキが生じ、これによってテープ状の基材18の幅方向に対し臨界電流密度にバラツキが生じてしまうため、得られる酸化物超電導体の超電導特性に不満があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、長尺のテープ状の基材の長さ方向および幅方向に対し厚さの分布や組成が均一な酸化物超電導薄膜を形成することができ、超電導特性の優れた酸化物超電導体を効率良く製造することができる酸化物超電導体の製造装置とこれを用いた製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、酸化物超電導体の原料ガスを移動中のテープ状の基材表面に化学反応させて酸化物超電導薄膜を堆積させるCVD反応を行うリアクタと、該リアクタ内に原料ガスを供給する原料ガス供給源と、上記リアクタ内のガスを排気する一対の細長い長方形状の排気孔および該排気孔からの排気ガスを排気する排気口を有するガス排気機構と、上記リアクタ内に酸素ガスを供給する酸素ガス供給源が少なくとも備えられてなる酸化物超電導体の製造装置において、上記リアクタ内に上記ガス排気機構の排気口が、上記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向に沿ってそれぞれ一対ずつ設けられ、上記ガス排気機構に各排気口から排出されるガスの排気量を調整するための流量調整機構が各排気口に対応して設けられて、上記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向へのガスの流れ状態を制御可能な構成とされたことを特徴とする酸化物超電導体の製造装置を上記課題の解決手段とした。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の酸化物超電導体の製造装置を用い、リアクタ内にテープ状の基材を送り込み、原料ガス供給源から酸化物超電導体生成用の原料ガスを上記リアクタ内に供給するとともに酸素ガス供給源から酸素ガスを上記リアクタ内に供給し、更に上記テープ状の基材を加熱して反応生成物を上記基材上に堆積させる一方、上記リアクタ内のガスを、ガス排気機構の、上記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向に沿ってそれぞれ一対ずつ設けられた排気口から排気するとともに該ガス排気機構に各排気口に対応して設けられた流量調整機構を調整して上記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向へのガスの流れ状態を制御しながらCVD反応を行うことを特徴とする酸化物超電導体の製造方法を上記課題の解決手段とした。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明を更に詳細に説明する。
図1は本発明に係る酸化物超電導体の製造装置の一例を示すもので、この例の製造装置には、図2〜図4に詳細構造を示すようなCVD反応装置30が組み込まれ、このCVD反応装置30内においてテープ状の基材に酸化物超電導薄膜が形成されるようになっている。
この例の製造装置で用いられる図2〜図4に示すCVD反応装置30は、横長の両端を閉じた筒型の石英製のリアクタ31を有し、このリアクタ31は、隔壁32、33によって図2の左側から順に基材導入部34と反応生成室35と基材導出部36に区画されている。なお、リアクタ31を構成する材料は、石英に限らずステンレス鋼などの耐食性に優れた金属であっても良い。
【0012】
上記隔壁32、33の下部中央には、長尺のテープ状の基材38が通過可能な通過孔39がそれぞれ形成されていて、リアクタ31の内部には、その中心部を横切る形で基材搬送領域Rが形成されている。更に、基材導入部34にはテープ状の基材38を導入するための導入孔が形成されるとともに、基材導出部36には基材38を導出するための導出孔が形成され、導入孔と導出孔の周縁部には、基材38を通過させている状態で各孔の隙間を閉じて基材導入部34と基材導出部36を気密状態に保持する封止機構(図示略)が設けられている。
【0013】
上記反応生成室35の天井部には、図2に示すように角錐台型のガス拡散部40が取り付けられている。このガス拡散部40は、リアクタ31の長手方向に沿って配置された台形型の側壁41、41と、これら側壁41、41を相互に接続する前面壁42および後面壁43と、天井壁44とからなるガス拡散部材45を主体として構成され、更に天井壁44に接続された供給管53を具備して構成されている。また、供給管53の先端部には、スリットノズル53aが設けられている。なおまた、ガス拡散部材45の底面は、細長い長方形状の開口部46とされ、この開口部46を介してガス拡散部材45が反応生成室35に連通されている。
【0014】
一方、反応生成室35の下方には、図3に示すように上記基材搬送領域Rの長さ方向に沿って排気室70が設けられている。この排気室70の上部には図2、図4に示すように基材搬送領域Rに通されたテープ状の基材18の長さ方向に沿って細長い長方形状のガス排気孔70a、70aがそれぞれ形成されている。また、排気室70の下部には複数本(図面では4本)の排気管70bの一端がそれぞれ接続されており、一方、これら複数本の排気管70bの他端は真空ポンプ71を備えた圧力調整装置72に接続されている。また、図3〜図4に示すようにこれら複数本の排気管70bのうちの複数本(図面では2本)の排気管70bの排気口70cは、基材搬送領域Rに通されたテープ状の基材38の長さ方向に沿って設けられている。また、上記複数本の排気管70bのうち残り(図面では2本)の排気管70bの排気口70cは、基材搬送領域Rに通されたテープ状の基材38の幅方向に沿って設けられている。上記複数本の排気管70bには、上記ガスの排気量を調整するためのバルブ(流量調整機構)70dがそれぞれ設けられている。従って、ガス排気孔70a,70aが形成された排気室70と、排気口70cを有する複数本の排気管70b・・・と、バルブ70dと、真空ポンプ71と、圧力調整装置72によってガス排気機構80が構成される。このような構成のガス排気機構80は、CVD反応装置30の内部の原料ガスや酸素ガスや不活性ガスなどのガスをガス排気孔70a、70aから排気室70、排気口70c、排気管70bを経て排気できるようになっている。
【0015】
上記CVD反応装置30の外部には、図1に示すように、基材導入部34の反応生成室35側の部分から基材導出部36の反応生成室35側の部分を覆う加熱ヒータ47が設けられ、基材導入部34が不活性ガス供給源50に、また、基材導出部36が酸素ガス供給源51にそれぞれ接続されている。また、ガス拡散部40の天井壁44に接続された供給管53は、原料ガスの気化器(原料ガスの供給源)55に接続されている。
なお、供給管53の途中部分には、酸素ガスの流量調整機構54を介して酸素ガス供給源52が分岐して接続され、供給管53に酸素ガスを供給できるように構成されている。
【0016】
上記原料ガスの気化器55は、球状の胴部55aと円筒状の頭部55bを具備して構成され、胴部55aと頭部55bは隔壁56により区画されるとともに、胴部55aと頭部55bは、上記隔壁56を貫通して設けられた針状のニードル管57により連通されている。また、この頭部55bの中には原料溶液タンク60から供給管61を介して原料溶液が供給されるようになっていて、頭部55b内の原料溶液は上記ニードル管57の上端部近傍まで満たされるとともに、上記ニードル管57の上端部は傾斜切断されていて、上記原料溶液がこの傾斜された切断部分から液滴状になって胴部55a側に供給されるようになっている。
なお、図1において符号62は気化器55の頭部55bに接続された流量計、63は流量計62に接続された調整ガスタンク、64はArガス供給源65に接続された流量調整器をそれぞれ示している。
【0017】
さらに、CVD反応装置30の基材導出部36の側方側には、CVD反応装置30内の基材搬送領域Rを通過するテープ状の基材38を巻き取るためのテンションドラム73と巻取ドラム74とからなる基材搬送機構75が設けられている。また、基材導入部34の側部側には、テープ状の基材38をCVD反応装置30に供給するためのテンションドラム76と送出ドラム77とからなる基材搬送機構78が設けられている。
【0018】
また、リアクタ31の基材搬送領域R内には原料ガスや酸素ガスなどのガスの流れを測定する流量計(図示略)が取り付けられ、さらに該流量計および上記バルブ70dに制御機構82が電気的に接続されている。この制御機構82は、上記流量計の計測結果に基づいて各バルブ70dを調整し、リアクタ31内を移動中のテープ状の基材38の長さ方向及び幅方向への原料ガスや酸素ガスなどのガスの流れ状態を制御できるようになっている。
さらに、上記制御機構82は酸素ガス流量調整機構54に電気的に接続されることにより、上記基材搬送領域R内の流量計の計測結果に基づいて酸素ガス流量調整機構54を作動調整し、供給管53を介してCVD反応装置30へ送る酸素ガス量も調整できるようになっていることが好ましい。
【0019】
次に上記のように構成されたCVD反応装置30を備えた酸化物超電導体の製造装置を用いてテープ状の基材38上に酸化物超電導薄膜を形成し、酸化物超電導体を製造する場合について説明する。
図1に示す製造装置を用いて酸化物超電導体を製造するには、まず、テープ状の基材38と原料溶液を用意する。
この基材38は、長尺のものを用いることができるが、特に、熱膨張係数の低い耐熱性の金属テープの上面にセラミックス製の中間層を被覆してなるものが好ましい。上記耐熱性の金属テープの構成材料としては、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ(C276等)などの金属材料や合金が好ましい。また、上記金属テープ以外では、各種ガラステープあるいはマイカテープなどの各種セラミックスなどからなるテープを用いても良い。
次に、上記中間層を構成する材料は、熱膨張係数が金属よりも酸化物超電導体の熱膨張係数に近い、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SrTiO3、MgO、Al2O3、LaAlO3、LaGaO3、YAlO3、ZrO2などのセラミックスが好ましく、これらの中でもできる限り結晶配向性の整ったものを用いることが好ましい。
【0020】
次に酸化物超電導体をCVD反応により生成させるための原料溶液は、酸化物超電導体を構成する各元素の金属錯体を溶媒中に分散させたものが好ましい。具体的には、Y1Ba2Cu3O7-xなる組成で広く知られるY系の酸化物超電導薄膜を形成する場合は、Ba-ビス-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン-ビス-1,10-フェナントロリン(Ba(thd)2(phen)2)と、Y(thd)2 と、Cu(thd)2などを使用することができ、他にはY-ビス-2,2,6,6-テト ラメチル-3,5-ヘプタンジオナート(Y(DPM)3)と、Ba(DPM)2と、 Cu(DPM)2などを用いることができる。
【0021】
なお、酸化物超電導薄膜には、Y系の他に、La2-xBaxCuO4の組成で代 表されるLa系、Bi2Sr2Can-1CunO2n+2(nは自然数)の組成で代表さ れるBi系、Tl2Ba2Can-1CunO2n+2(nは自然数)の組成で代表される Tl系のものなど多種類の超電導薄膜が知られているので、目的の組成に応じた金属錯塩を用いてCVD法を実施すれば良い。
ここで例えば、Y系以外の酸化物超電導薄膜を製造する場合には、必要な組成系に応じて、トリフェニルビスマス(III)、ビス(ジピバロイメタナト)ストロンチウム(II)、ビス(ジピバロイメタナト)カルシウム(II)、トリス(ジピバロイメタナト)ランタン(III)、などの金属錯塩を適宜用いてそれぞれの系の酸化物超電導薄膜の製造に供することができる。
【0022】
上記のテープ状の基材38を用意したならば、これをCVD反応装置30内の基材搬送領域Rに基材搬送機構78により基材導入部34から所定の移動速度で送り込むとともに基材搬送機構68の巻取ドラム74で巻き取り、更に反応生成室35内の基材38を加熱ヒータ47で所定の温度に加熱する。なお、基材38を送り込む前に、不活性ガス供給源50から不活性ガスをパージガスとしてCVD反応装置30内に送り込み、同時にCVD反応装置30の内部のガスを圧力調整装置72でガス排気孔70a、70aから排気室70、排気口70c、排気管70bを経て抜くことでCVD反応装置30内の空気等の不用ガスを排除して内部を洗浄しておくことが好ましい。
【0023】
基材38をCVD反応装置30内に送り込んだならば、酸素ガス供給源51からCVD反応装置30内に酸素ガスを送り、更に原料溶液タンク60から原料溶液を気化器55の頭部55bに送るとともに、調整タンク63からキャリアガスとしてArガスを気化器55の頭部55bに送る。同時にCVD反応装置30の内部のガスを圧力調整装置72でガス排気孔70a、70aから排気室70、排気口70c、排気管70bを経て排気する。これにより気化器55の頭部55b内の圧力と胴部55aの圧力に差異を生じさせ、この気圧差により頭部55b内の原料溶液をニードル管57先端部からニードル管57の内部側に引き込むことができ、これにより原料溶液を液滴状に変換することができる。
そして、以上の操作により液滴状の原料をキャリアガス中に含ませた原料ガスを生成させることができ、この原料ガスを気化器55の胴部55aから供給管53を介してガス拡散部40に供給する。また、これと同時に酸素ガス供給源52から酸素ガスを供給して原料ガス中に酸素を混合する操作も行う。
【0024】
次に、CVD反応装置30の内部においては、供給管53の出口部分からガス拡散部40に出た原料ガスが、ガス拡散部40の前面壁42と後面壁43に沿って拡散しながら反応生成室35側に移動し、反応生成室35の内部を通り、次いで基材35を上下に横切るように移動してガス排気孔70a、70aに引き込まれるように移動させることにより、加熱された基材38の上面側で原料ガスを反応させて反応生成物を堆積させる。ここで基材38上に反応生成物を堆積させるとき、ガス排気機構80に設けられた圧力調整装置72でガス排気孔70a、70aから排気室70、排気口70c、排気管70bを経て排気するとともに各バルブ70dを調整して各排気管70b内のガス流れを調整することにより、基材搬送領域Rを移動中のテープ状の基材38の長さ方向及び幅方向への原料ガスの流れ状態を制御しながらCVD反応を行う。
また、CVD反応装置30内で反応が進行する間に、基材搬送領域Rを移動中のテープ状の基材38の長さ方向及び幅方向への原料ガスや酸素ガスなどのガスの流れ状態が変化して酸化物超電導薄膜に悪影響を与える恐れがでることがあるので、リアクタ31の基材搬送領域R内に設けられた流量計でガスの流量変化を測定し、この測定結果に基づいて制御機構82により各バルブ70dや酸素ガス供給源52から供給する酸素ガス量を調整し、ガス流れ状態が常に好ましい流れ状態になるように制御し、これによってテープ状の基材38の長さ方向および幅方向に対し厚さの分布や組成が均一な酸化物超電導薄膜を常に形成することができる。
【0025】
また、CVD反応装置30内で反応が進行する間に、反応生成室35の内部などにおいて堆積物が増加し、この堆積物が加熱により分解反応を起こしてガスを放出すると、反応生成室35内の酸素ガス分圧が目的の分圧と異なるようになることがある。このような場合は、排気管70bを介して排出される排気ガス中の酸素濃度が変わるので、この濃度変化を排気管70bの途中に設けられた酸素濃度計測装置(図示略)で検出し、酸素濃度が低下した場合は、不足分に応じて所定の割合で制御機構82が、CVD反応装置30に送る酸素ガス量を増加させ、酸素濃度が増加した場合は、増加分に応じて所定の割合で制御機構82がCVD反応装置30に送る酸素ガス量を減少させる。このような制御装置82の作用により反応生成室35内の酸素分圧を常に一定に維持することができ、これにより、常に一定の酸素分圧でCVD反応を起こすことができるようになる。従って、テープ状の基材38上に均一の酸化物超電導層を生成できるようになる。
【0026】
実施形態の酸化物超電導体の製造装置にあっては、リアクタ31にガス排気機構80の排気口70cが、基材搬送領域Rを移動中のテープ状の基材38の長さ方向及び幅方向に沿ってそれぞれ複数箇所設けられ、ガス排気機機構80に各排気口70cから排出されるガスの排気量を調整するためのバルブ70dが設けられたものであるので、この装置を用いて酸化物超電導体の製造を行うと、リアクタ31内を移動中のテープ状の基材38の長さ方向及び幅方向への原料ガスや酸素ガスなどのガスの流れ状態を制御しながらCVD反応を行うことができる。 また、上記構成のガス排気機構80が設けられたことにより、基材導入部34内に基材38の導入時に万が一反応に寄与しない空気中の不用成分やガスを混入させてしまうことがあってもこれらをガス排気孔70aから速やかに排出することができる。よって反応生成室35に基材導入部34側から不用ガスや不用成分を混入させてしまう可能性が少なくなり、反応生成室35での原料ガスの分解と薄膜生成に悪影響を及ぼすおそれも少なくなる。
【0027】
また、上記構成のガス排気機構80が設けられたことにより、反応に寄与した残りの残余ガスを基材38の両側に位置するガス排気孔70a,70aから反応生成室35外に排出できるので、反応後の残余ガスを基材38に長い時間触れさせることなく成膜処理できる。更に、反応後の残余ガスを基材38の側方に配置されたガス排気孔70a…から排気室70、排気口70c、排気管70bを経て排出できるので、基材導入部34側にも基材導出部36側にも残余ガスを到達させるおそれが少ない。よって、残余ガスにより目的の組成とは異なった組成の薄膜や堆積物あるいは反応生成物を基材導入部34側において、あるいは基材導出部36側において生成させてしまうことはなくなる。
更に、基材導出部36に酸素ガス供給源51が接続されたことにより、成膜時に酸素供給源51から基材導出部36に酸素ガスを送ることにより、基材38上の酸化物超電導薄膜に酸素を供給し、酸化物超電導薄膜にできる限りの酸素供給を行うので、より膜質の良好な酸化物超電導薄膜を得ることができる。また、基材導出部36に送った酸素ガスにより反応生成室35と基材導出部36との気圧差を少なくして圧力バランスを取り、反応生成室35における原料ガスの流れを円滑にすることができる。
【0028】
従って、実施形態の酸化物超電導体の製造装置によれば、反応生成室35内に反応に寄与しない不用成分や不用ガスが混入するのを低減できるうえ、反応後の残余ガスをテープ状の基材38に長い時間触れさせることなく成膜処理でき、しかも基材搬送領域Rを移動中のテープ状の基材38の長さ方向及び幅方向への原料ガスや酸素ガスなどのガスの流れ状態を制御しながらCVD反応を行うことができるので、テープ状の基材38の長さ方向および幅方向に対し厚さの分布や組成が均一な酸化物超電導薄膜を形成することができ、臨界電流密度等の超電導特性の優れた酸化物超電導体85を効率良く製造できる。
なお、実施形態の酸化物超電導体の製造装置においては、横長型のリアクタを用い、上下方向に原料ガスを移動させる構成の装置について説明したが、リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向へのガスの流れ状態を制御できれば、リアクタは横型に限らす縦型であっても良いし、原料ガスを流す方向は上下方向に限らす左右方向や斜めの方向でも良く、基材の搬送方向も左右方向あるいは上下方向のいずれでも良いのは勿論である。また、リアクタ自体の形状も筒型のものに限らず、ボックス型や容器型、球形型などのいずれの形状でも差し支えないのは勿論である。
本発明の酸化物超電導体の製造装置は、酸化物超電導導体の製造装置に好適に用いることができる。また、本発明の酸化物超電導体の製造方法は、酸化物超電導導体の製造方法に好適に用いることができる。
【0029】
【実施例】
以下、本発明を、実施例および比較例により、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例)
Y1Ba2Cu3O7-xなる組成で知られるY系の酸化物超電導薄膜を形成するために、CVD用の原料溶液としてBa-ビス-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタ ンジオン-ビス-1,10-フェナントロリン(Ba(thd)2(phen)2)と、 Y(thd)2と、Cu(thd)2を用いた。これらの各々をY:Ba:Cu=1.0:1.9:2.7のモル比で混合し、テトラヒドロフラン(THD)の溶媒中に3.0重量%になるように添加したものを原料溶液とした。
【0030】
基材テープはNi合金の1種であるハステロイC276(米国、Haynes Stellite Co.の商品名で、Cr14.5〜16.5%、Mo15.0〜17.0%、Co 2.5%以下、W3.0〜4.5%、Fe4.0〜7.0%、C0.02%以下、Mn1.0%以下、残部Niの組成)からなる長さ100mm、幅10mm、厚さ0.2mmのハステロイテープを鏡面加工し、このハステロイテープの上面にイオンビームアシストスパッタリング法により厚さ0.5μmのYSZ(Y2O3安定化ジルコニア)面内配向中間膜を形成したものを用いた。
【0031】
次に、図2〜図4に示す構造の石英製のCVD反応装置30を図1に示す酸化物超電導体の製造装置に組み込んだ装置を用い、ガス気化器の温度を230℃に設定し、原料溶液の供給速度を0.2ml/分に設定し、CVD反応装置内の基材テープの移動速度を20cm/時間、基材テープ加熱温度を800℃、リアクタ31内の圧力を5Toor、酸素ガス供給源からの酸素ガス流量を45〜55ccm、酸素分圧を0.45Toorに酸素濃度計測装置で一定になるように設定し、リアクタ31内のガスをガス排気機構80の排気口70cから排気するとともに各バルブ70dを調整して基材搬送領域Rを移動中の基材テープの長さ方向及び幅方向への原料ガスの流れ状態を制御することにより連続蒸着を行い、導入ガス総量を545〜555ccmとしてYSZ面内配向中間膜上に厚さ0.6〜1.0μmのY1Ba2Cu3O7-xなる組成の酸化物超電導薄膜を形成し、長さ100mm、10mmの超電導体を得た。
なお、ここで用いたCVD反応装置30はリアクタ31に4本の排気管70bが接続されており、これら排気管70bのうち2本の排気管70bの排気口70cが基材搬送領域Rに通された基材テープの長さ方向に沿って設けられ、残りの2本の排気管70bの排気口70cは、基材搬送領域Rに通された基材テープの幅方向に沿って設けられているものであった。
【0032】
実施例で得られた酸化物超電導体の幅方向の位置ごとの酸化物超電導薄膜の厚さを測定した結果を図5に示す。実施例で形成した酸化物超電導薄膜の幅方向への厚さの分布は、7.6%とバラツキが小さいものであった。ここでの厚さの分布は、下記の式により計算したものである。
幅方向の厚さ分布(%)=(最大厚−最小厚)÷平均厚×100
【0033】
(比較例)
リアクタ31に2本の排気管70bが接続され、これら排気管70bの排気口70cは基材搬送領域Rに通された基材テープの長さ方向に沿って設けられており、基材テープの幅方向に沿って設けられていない以外は実施例で用いたものと同様のCVD反応装置を酸化物超電導体の製造装置に組み込んだ装置を用いた以外は上記実施例と同様にして酸化物超電導体を得た。
比較例で得られた酸化物超電導体の幅方向の位置ごとの酸化物超電導薄膜の厚さを測定した結果を図5に合わせて示す。比較例で形成した酸化物超電導薄膜の幅方向への厚さの分布は約40%とバラツキが大きいものであった。
【0034】
以上のことからリアクタにガス排気機構の排気口を上記リアクタ内を移動中の基材テープの長さ方向及び幅方向に沿ってそれぞれ複数箇所設け、上記ガス排気機構に各排気口から排出されるガスの排気量を調整するためのバルブを設けてリアクタ内を移動中の基材テープの長さ方向及び幅方向へのガスの流れ状態を制御可能な構成とすることにより、基材テープ上に形成される酸化物超電導薄膜の幅方向の厚さの分布にバラツキが生じるのを大幅に改善でき、これにより幅方向の厚さの分布のバラツキに起因する臨界電流密度のバラツキを低減できるので、均一で優れた臨界電流密度を示す酸化物超電導体を製造できることがわかる。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように本発明にあっては、特に、リアクタにガス排気機構の排気口が、リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向に沿ってそれぞれ一箇所以上設けられ、上記ガス排気機構に各排気口から排出されるガスの排気量を調整するための流量調整機構が設けられて、上記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向へのガスの流れ状態を制御可能な構成とされた酸化物超電導体の製造装置を用いるので、リアクタ内に反応に寄与しない不用成分や不用ガスが混入するのを低減できるうえ、反応後の残余ガスをテープ状の基材に長い時間触れさせることなく成膜処理でき、しかもリアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向への原料ガスや酸素ガスなどのガスの流れ状態を制御しながらCVD反応を行うことができるので、テープ状の基材の長さ方向および幅方向に対し厚さの分布や組成が均一な酸化物超電導薄膜を形成することができ、臨界電流密度等の超電導特性の優れた酸化物超電導体を効率良く製造できる。
また、上記構成の酸化物超電導体の製造装置において、特に、上記リアクタ内にガスの流れ状態を計測する流量計が設けられ、さらに該流量計および上記流量調整機構に、上記流量計の計測結果に基づいて上記流量調整機構を調整し、上記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向へのガス及の流れ状態を調整する制御機構が接続されたものを用いることにより、リアクタ内で反応が進行する間に該リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向への原料ガスや酸素ガスなどのガスの流れ状態が変化して酸化物超電導薄膜に悪影響を与える恐れがでても、リアクタ内に設けられた流量計でガスの流量変化を測定し、この測定結果に基づいて制御機構により各流量調整機構を調整し、ガス流れ状態が常に好ましい流れ状態になるように制御できるので、テープ状の基材の長さ方向および幅方向に対し厚さの分布や組成が均一な酸化物超電導薄膜を常に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態の酸化物超電導体の製造装置の全体構成を示す図である。
【図2】 図1の酸化物超電導体の製造装置に備えられたCVD反応装置の構造例を示す略図である。
【図3】 図2に示すCVD反応装置の詳細構造を示す断面図である。
【図4】 図2に示すCVD反応装置の詳細構造を示す平面図である。
【図5】 実施例の酸化物超電導体と比較例の酸化酸化物超電導体の幅方向の位置ごとの酸化物超電導薄膜の厚さを測定した結果を示す図である。
【図6】 従来のCVD反応装置を用いてチップ状の基材の表面に薄膜を形成する方法の例を示す図である。
【図7】 従来のCVD反応装置を用いてチップ状の基材の表面に薄膜を形成する方法のその他の例を示す図である。
【図8】 長尺の基材の表面に酸化物超電導薄膜を形成する従来のCVD反応装置の詳細構造を示す断面図である。
【図9】 図8のCVD反応装置の詳細構造を示す平面図である。
【符号の説明】
30…CVD反応装置、31…リアクタ、38…基材、52…酸素ガス供給源、54…酸素ガス流量調整機構、70b…排気管、70c・・・排気口、70d・・・バルブ(流量調整機構)、71・・・真空ポンプ、72・・・圧力調整装置、80・・・ガス排気機構、82…制御機構、85…酸化物超電導体。
Claims (2)
- 酸化物超電導体の原料ガスを移動中のテープ状の基材表面に化学反応させて酸化物超電導薄膜を堆積させるCVD反応を行うリアクタと、該リアクタ内に原料ガスを供給する原料ガス供給源と、前記リアクタ内のガスを排気する一対の細長い長方形状の排気孔および該排気孔からの排気ガスを排気する排気口を有するガス排気機構と、前記リアクタ内に酸素ガスを供給する酸素ガス供給源が少なくとも備えられてなる酸化物超電導体の製造装置において、
前記リアクタ内に前記ガス排気機構の排気口が、前記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向に沿ってそれぞれ一対ずつ設けられ、前記ガス排気機構に各排気口から排出されるガスの排気量を調整するための流量調整機構が各排気口に対応して設けられて、前記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向へのガスの流れ状態を制御可能な構成とされたことを特徴とする酸化物超電導体の製造装置。 - 請求項1記載の酸化物超電導体の製造装置を用い、リアクタ内にテープ状の基材を送り込み、原料ガス供給源から酸化物超電導体生成用の原料ガスを前記リアクタ内に供給するとともに酸素ガス供給源から酸素ガスを前記リアクタ内に供給し、更に前記テープ状の基材を加熱して反応生成物を前記基材上に堆積させる一方、前記リアクタ内のガスを、ガス排気機構の、前記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向に沿ってそれぞれ一対ずつ設けられた排気口から排気するとともに該ガス排気機構に各排気口に対応して設けられた流量調整機構を調整して前記リアクタ内を移動中のテープ状の基材の長さ方向及び幅方向へのガスの流れ状態を制御しながらCVD反応を行うことを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
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