JP3876605B2 - 産業車両におけるブレーキ制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、産業車両のブレーキ制御に用いるセンサが故障しても適切なブレーキ制御を実現する産業車両におけるブレーキ制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の産業車両であるフォークリフトでは、ブレーキペダルをブレーキ操作したり、アクセルレバーまたは前後進レバーを進行方向と反対側に操作するスイッチバック操作をすると、駆動輪にブレーキがかかりフォークリフトが制動される。例えば制動時の路面が水濡れ路面等であると駆動輪がスリップして制動距離が長くなることがあった。
【0003】
従来、この種のスリップを防ぐブレーキ制御を行うリーチ型フォークリフト(以下、単にフォークリフトと称す)が、例えば特開平9−233604号公報に開示されている。このフォークリフトが備えるブレーキング制御装置は、フットペダルがブレーキ操作されたことをリミットスイッチの検知信号を基に認知すると、エンコーダから入力した走行用電動機の回転数を用いて減速度を算出し、その減速度が異常に急激に増大したときは駆動輪(後輪)がスリップしていると判断する。そして、走行用電動機による回生ブレーキトルクまたは発電ブレーキトルクを低減し、エンコーダからの回転数検出値が車速と同等の値まで回復すればスリップから復帰したものと判断し、再び回生ブレーキトルクまたは発電ブレーキトルクを増大する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、駆動輪のスリップの有無を判断するのに用いられるエンコーダなどセンサが故障した場合、ブレーキ制御が不能になる。このため、エンコーダなどのセンサが故障したときには、好適なブレーキ制御が行われず、駆動輪のスリップが許容範囲を外れるという問題を招くことになる。
【0005】
なお、ブレーキング制御装置によるブレーキ制御は、ブレーキトルクを減らすことによりスリップを防ぐ、いわゆるアンチスキッド・ブレーキ・システム(ABS)制御であったため、制動力の向上はさほど望めなかった。従って、例えば水濡れ路面でブレーキをかけたときは、たとえスリップ検出時にブレーキトルクを減らす制御がなされても、乾燥路面に比べ制動距離が長くなるという問題があった。特にリーチ式フォークリフトなどは積荷時に輪重が相対的に小さくなる後輪にブレーキがかかる制動方式であったため、車両重量が重くなり相対的に制動距離が長くなる傾向にある積荷状態で、ブレーキのかかる後輪が輪重低下のためスリップし易くなる。このため、リーチ式フォークリフトなどでは積荷時に水濡れ路面でブレーキ操作した時の制動距離の増え方が特に顕著であった。このことは冷凍倉庫の凍結路面でブレーキがかけられたときも同様であった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、産業車両の駆動輪に制動が付与されたときにその主制動力が不足気味になっても車両の制動力を確保し易いブレーキ制御が可能であるとともに、仮にこのブレーキ制御のために用いられるセンサが故障してもほぼ常に必要以上の制動力を確保できる産業車両におけるブレーキ制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、制動操作手段の操作に基づき駆動輪である前輪または後輪を制動する主制動手段が作動された際、該駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定するための検出値を得るための少なくとも1つのセンサと、前記センサの検出値に基づき駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定する判定手段と、前記駆動輪と前後反対側の車輪に補助的な制動力を付与する補助制動手段と、前記判定手段による判定により制動の補助が必要と判定されると、前記補助制動手段を作動させる制御手段と、前記センサの少なくとも1つの故障を診断する故障診断手段とを備え、前記故障診断手段により前記センサの少なくとも1つが故障と診断されたときには、前記制御手段は、最も安全側の補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させることを要旨とする。
【0008】
この発明によれば、主制動手段が作動された際、判定手段は少なくとも1つあるセンサの検出値を基に駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定する。判定手段により、駆動輪の制動を補助する必要があると判定されると、制御手段は補助制動手段を作動させて所定の車輪に補助ブレーキ力を付与する。一方、故障診断手段によりセンサの少なくとも1つが故障と診断されたときには、制御手段は、最も安全側の強さの補助ブレーキ力が得られるように補助制動手段を作動させる。このため、センサの少なくとも1つが故障しても、常に必要以上の強さの補助ブレーキ力が確保されるので、産業車両の制動時には常に必要以上の制動力が得られる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、制動操作手段の操作に基づき駆動輪である前輪または後輪を制動する主制動手段が作動された際、該駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定するための検出値を得るための少なくとも1つのセンサと、前記センサの検出値に基づき駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定する判定手段と、前記駆動輪と前後反対側の車輪に補助ブレーキ力を付与する油圧式の補助制動手段と、前記補助制動手段に作動のために出力する油圧を調整する電磁式弁手段と、前記判定手段による判定により制動の補助が必要と判定されると、前記補助制動手段を作動させるために前記電磁式弁手段に通電する制御手段と、前記センサの少なくとも1つの故障を診断する故障診断手段とを備え、前記故障診断手段により前記センサの少なくとも1つが故障と診断されたときには、前記制御手段は、最も安全側の補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させることを要旨とする。なお、「最も安全側の補助ブレーキ力」とは、必ずしも予め設定された補助ブレーキ力のうち最も強い値ではなく、その設計思想から最も安全と言える適切な強さの補助ブレーキ力を指す。そのため、安全の設計思想に応じて最も強い値である場合もあれば、最も弱い値である場合もあり、さらに中間値である場合もある。
【0010】
この発明によれば、制動制動手段の制動操作によって主制動手段が作動された際、判定手段は少なくとも1つあるセンサの検出値を基に駆動輪(前輪または後輪)の制動を補助する必要があるか否かを判定する。判定手段により、駆動輪の制動を補助する必要があると判定されると、制御手段は電磁式弁手段に通電して補助制動手段に出力する油圧を調整し、駆動輪と前後反対側の車輪にその油圧に応じた強さの補助ブレーキ力を付与する。一方、故障診断手段によりセンサの少なくとも1つが故障と診断されたときには、制御手段は、最も安全側の強さの補助ブレーキ力が得られるように補助制動手段を作動させる。このため、センサの少なくとも1つが故障しても、常に必要以上の強さの補助ブレーキ力が確保されるので、産業車両の制動時には常に必要以上の制動力が得られる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記センサは、前記主制動手段による制動力が付与される駆動輪のスリップを検出するためのスリップ検出用センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記駆動輪のスリップがしきい値を超えると補助制動が必要であると判定し、前記スリップ検出用センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、前記制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させることを要旨とする。
【0012】
この発明によれば、判定手段は駆動輪のスリップがしきい値を超えると補助制動が必要であると判定し、スリップ検出用センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように補助制動手段を作動させる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記センサは、前記主制動手段による制動力が付与される際の車速を検出するための車速センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記制動力付与開始時の車速である初速がしきい値を超えると補助制動が必要であると判定し、前記車速センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、前記制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させることを要旨とする。
【0014】
この発明によれば、判定手段は制動力付与開始時の初速(車速)がしきい値を超えると補助制動が必要であると判定し、車速センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように補助制動手段を作動させる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記センサは、前記主制動手段による制動力が前記駆動輪に付与されている最中の車両の減速度を検出するための減速度センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記減速度がしきい値を超えなければ補助制動が必要であると判定し、前記減速度センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、前記制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させることを要旨とする。
【0016】
この発明によれば、判定手段は減速度がしきい値を超えなければ補助制動が必要であると判定し、減速度センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように補助制動手段を作動させる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、前記センサは、車両に昇降可能に設けられた荷役機器の揚高を検出する揚高センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記揚高がしきい値を超えているときは補助制動を制限するように設定されており、前記故障診断手段が前記揚高センサを故障と診断すると、高揚高時の補助ブレーキ力が得られるように前記制御手段は前記補助制動手段を作動させることを要旨とする。
【0018】
この発明によれば、判定手段が駆動輪の制動を補助する必要があると判定し、このとき揚高がしきい値を超える高揚高時はその補助制動を制限するように判定する。制御手段は、判定手段が駆動輪の制動を補助する必要があると判定し、故障診断手段が揚高センサを故障と診断すると、高揚高時の制限された補助ブレーキ力が得られるように補助制動手段を作動させる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明において、前記センサは、前記主制動手段による制動力が付与される際の車速を検出するための車速センサを少なくとも備え、前記制御手段、前記車速センサが故障と診断されたときは、制動操作時から所定時間経過後に補助制動手段の作動を停止させ、前記車速センサ以外のセンサが故障と判断されたときは車速センサの検出値が停止車速以下になったことを条件に前記補助制動手段の作動を停止させることを要旨とする。なお、制動操作時とは、制動操作の検知時に限らず、主制動が実際に作動された時をも含む。
【0020】
この発明によれば、車速センサが故障と診断されたときは、制動操作時から所定時間経過後に補助制動装置の作動が停止される。
【0021】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記スリップ検出用センサは、従動輪車速センサと駆動輪車速センサと操舵角センサとからなり、前記従動輪車速センサが制動解除用車速センサを兼ねていることを要旨とする。
【0022】
この発明によれば、従動輪車速センサが故障と診断されたときには、最大の補助ブレーキ力が車輪に付与されるように補助制動手段が作動され、しかも制動操作から所定時間経過後に補助制動手段の作動が停止される。
【0023】
請求項9に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記センサは、請求項3に記載の前記スリップ検出用センサの他に、請求項4に記載の車速センサと、請求項5に記載の減速度センサと、請求項6に記載の揚高センサのうちの少なくとも1種を備えていることを要旨とする。
【0024】
この発明によれば、少なくとも駆動輪がスリップしたときには補助制動手段が作動されて駆動輪の制動が補助されて産業車両の制動力が確保され易いうえ、その他、初速が高速域にあるときに補助制動が付与されるか、減速度がしきい値を超えないときに補助制動が付与されるか、揚高が高揚高のときに補助ブレーキ力が小さく制限されるかする。このため、適切な制動制御が実現し易い。
【0025】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の発明において、前記主制動手段による制動力が付与される前記駆動輪は、前輪と後輪のうち車両に装備された荷役装置の積載荷重が大きいほど輪重が小さくなる側の車輪であり、前記補助制動手段による補助的な制動力が付与される車輪は、前記荷役装置の積載荷重が大きいほど輪重が大きくなる側の車輪であることを要旨とする。
【0026】
この発明によれば、荷役装置が積荷がある状態では駆動輪の輪重が小さくなるが、この状態で走行するときに制動操作がなされ、主制動がかかった駆動輪が許容範囲を外れたスリップをしても、輪重が相対的に増えた車輪に補助制動がかかるため、産業車両の制動力が確保される。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
図5及び図6に示すように、産業車両としてのリーチ型フォークリフトトラック(以下、単にフォークリフトと称す)1は、前二輪従動・後一輪駆動の3輪車タイプであり、車体(機台)2の前部に収容されたバッテリ3を電源として走行するバッテリ車である。車体2からは左右一対のリーチレグ4が前方へ延出しており、左右の前輪5は左右のリーチレグ4を構成する各リーチレール4aの先端部にそれぞれ回転可能に支持されている。後一輪である後輪6は操舵輪を兼ねた駆動輪で、車幅方向左寄りにオフセットして位置しており、その右隣には所定距離離れた位置に補助輪(キャスタ)7が設けられている。
【0028】
車体2の後部右側部分が立席タイプの運転席(運転室)8となっており、運転席8の前側にある図5に示すインストルメントパネル9には、荷役操作のための荷役レバー10、および制動操作手段としての前後進操作のためのアクセルレバー11が設けられている。また運転席8の左隣に立設する収容ボックス12の上面にはハンドル(ステアリングホイール)13が設けられている。図6に示すように車体2には、走行用モータ(ドライブモータ)14、荷役用モータ(ポンプモータ(電動モータ))15、荷役用ポンプ(油圧ポンプ)16、オイルタンク18、オイルコントロールバルブ(以下、コントロールバルブという)19、電磁式弁手段としてのブレーキバルブユニット20等が収容されている。
【0029】
図5に示すように、車体2の前側には荷役装置(マスト装置)21が装備され、荷役レバー10のうちのリーチレバー操作時には、リーチシリンダ22が伸縮駆動することによって、荷役装置21がリーチレール4aに沿って所定ストローク範囲内で前後方向に移動する。また、荷役装置21は、2段式のマスト23、リフトシリンダ24およびフォーク25を備え、荷役レバー10のうちのリフトレバー操作時には、リフトシリンダ24が伸縮駆動することによりマスト23が上下方向にスライド伸縮し、これに連動してフォーク25が昇降する。
【0030】
図6に示すように、ブレーキバルブユニット20とコントロールバルブ19は共に荷役用ポンプ16を共通の油圧供給源としている。左右の前輪5には補助制動手段としての油圧式の補助ブレーキ装置(前輪ブレーキ装置)26がそれぞれ取付けられている。補助ブレーキ装置26は本例では油圧式ドラムブレーキ装置からなる。左右の補助ブレーキ装置26は2本のパイプ27を介してそれぞれブレーキバルブユニット20と接続されている。
【0031】
各リーチレール4aの下面には、従動輪車速センサとしての前輪車速センサ(前輪回転数センサ)28,28が取付けられている。前輪車速センサ28は例えば磁気センサからなり、前輪5のホイール側面に周方向に一定ピッチで形成された歯部を検出することによって前輪5の回転数を検出する。
【0032】
図1は、フォークリフトの概略構成図(システム構成図)である。
走行用モータ14は、リアサスペンション機構を構成するリンク部材30の上面に組付けられており、リンク部材30の下面に相対回動可能に設けられたギヤボックス31の下部に後輪(駆動輪)6は回転可能に支持されている。ギヤボックス31と一体回動するステアリングギヤ31aはハンドル13と作動連結されており、後輪6はハンドル13の操作に応じて操舵される。また、ステアリングギヤ31aの近傍には操舵角センサ32が設けられ、操舵角センサ32はステアリングギヤ31aの回転位置を検出して後輪6の操舵角(タイヤ角)に応じた電圧値の信号を出力する。
【0033】
走行用モータ14の上部には主制動手段としての主ブレーキ装置(後輪ブレーキ装置)33が装備されている。主ブレーキ装置33は、走行用モータ14の回転軸と一体回転するディスク34を挟圧して制動力を得るディスクブレーキ装置からなる。主ブレーキ装置33はリンク機構(図示せず)を介してブレーキペダル35と機械的に作動連結されており、ブレーキペダル35が踏込まれていない状態でブレーキがかかる、いわゆるデッドマンブレーキとなっている。またブレーキペダル35がブレーキ操作位置(踏込み解除位置)にあることを検知するブレーキスイッチ36が設けられている。
【0034】
ディスク34の支持部外周面上に周方向に一定ピッチで形成された多数の歯部34aと対向する位置には、歯部34aを被検出部とする2つの回転数センサ37,38が設けられている。2つの回転数センサ37,38は、歯部の位相で90゜ずれた位置に並設されており、90度位相のずれたパルス信号をそれぞれ出力する。2つの回転数センサ37,38のうち一方は、後輪6の回転数(後輪車速)を求めるために用いられる駆動輪車速センサとしての後輪車速センサ37である。
【0035】
コントローラ41には、入力側に前輪車速センサ28、操舵角センサ32、ブレーキスイッチ36、回転数センサ37,38、アクセルセンサ42、前進操作検知スイッチ43,後進操作検知スイッチ44,荷役操作検知スイッチ45,46,47、圧力スイッチ48、揚高センサ49、荷重センサ(圧力センサ)50が電気的に接続されている。またコントローラ41の出力側には、荷役用モータ15、ブレーキバルブユニット20の2つの電磁弁51,52が電気的に接続されている。またコントローラ41には、判定手段および故障診断手段としてのマイコン53及びモータ駆動回路54が内蔵されている。なお、センサ28,32,37,49より、駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定するための検出値を得るためのセンサが構成される。また、このうちセンサ28,32,37により、スリップ検出用センサが構成される。さらに前輪車速センサにより、減速度センサおよび制動解除用車速センサが構成される。また、ブレーキバルブユニット20及びマイコン53より、制御手段が構成される。
【0036】
ブレーキスイッチ36は、ブレーキペダル35の踏込操作が解除されたブレーキ操作検知時にコントローラ41にブレーキスイッチ制動信号を出力する。アクセルセンサ42は、アクセルレバー11の操作位置を検出し、中立位置からの前進・後進別の操作量に応じた電圧値の信号をコントローラ41に出力する。
【0037】
コントローラ41は、前後進操作検知スイッチ43,44からの入力信号を基にアクセルレバー11の操作方向を認識するとともにアクセルセンサ42からの入力信号値を基にアクセルレバー11の操作量を認識する。コントローラ41は、アクセルレバー11の操作方向に応じたモータ回転方向でその操作量に応じたモータ出力が得られるようにモータ駆動回路54を介して走行用モータ14を駆動制御する。またコントローラ41は、2つの回転数センサ37,38から入力する各パルス信号の信号状態の比較から後輪6の回転方向、つまり車両進行方向を逐次検出しており、アクセルレバー11の操作方向が車両進行方向と逆である旨(つまりスイッチバック操作の旨)の信号を前後進操作検知スイッチ43,44から入力すると、これをアクセル制動信号として認識する。コントローラ41はアクセル制動信号の入力中はスイッチバック中であると判断してモータ駆動回路54を介して走行用モータ14を回生制動制御する。なお、後輪6に回生制動をかける走行用モータ14およびモータ駆動回路54によっても主制動手段が構成される。
【0038】
荷役操作検知スイッチ45,46,47は、荷役レバー(リフトレバー10a、リーチレバー10b、ティルトレバー10c)が操作されたことを検知するもので、3つのレバー10a,10b,10c毎に設けられている(但し、リフトレバー10aの下降操作は検知されない)。コントローラ41は、荷役操作検知スイッチ45,46,47から荷役レバー10a,10b,10cが操作された旨の信号を入力すると、荷役用モータ15を駆動する。荷役用モータ15が駆動されることによって荷役用ポンプ16が駆動され、オイルタンク18からホース55を通じて汲み上げられた作動油がホース56を通じてコントロールバルブ19に吐出される。またコントロールバルブ19から排出される作動油はホース57を通じてオイルタンク18に戻される。
【0039】
荷役レバー10a〜10cはコントロールバルブ19と機械的に連結されており、各レバー10a〜10cが操作されると、荷役用モータ15が駆動されるとともにコントロールバルブ19内の対応する切換弁が中立位置(閉弁位置)から切り換え操作されて油路が開弁するようになっている。このため、各レバー10a,10b,10cの操作に応じてリフトシリンダ24、リーチシリンダ22、ティルトシリンダ58のうち対応するものが駆動される。
【0040】
ブレーキバルブユニット20にはホース56から分岐するホース59が接続され、荷役用ポンプ16からの圧油がホース59を通じてブレーキバルブユニット20に供給されるようになっている。またブレーキバルブユニット20とオイルタンク18はホース60を通じて接続されている。
【0041】
圧力スイッチ48は、ブレーキバルブユニット20に設けられたアキュムレータ61に蓄圧される油圧(蓄圧値)の下限値と上限値を検知するものである。コントローラ41は、アキュムレータ61の蓄圧値がその下限値を下回って圧力スイッチ48がオフしたときに荷役用モータ15を駆動し、その後、蓄圧値が上限値に達して圧力スイッチ48がオンすると荷役用モータ15の駆動を停止する。また左右の補助ブレーキ装置26,26は、コントローラ41がブレーキバルブユニット20の2つの電磁弁51,52をそれぞれ励消磁制御および電流値制御することにより作動制御される。
【0042】
次にブレーキ系の油圧回路について図2に基づいて説明する。
ブレーキバルブユニット20は、ポンプポートP、タンクポートT、2つのブレーキポートB1,B2の計4ポートを備えている。ポンプポートPには荷役用ポンプ16に繋がるホース59が接続され、タンクポートTにはオイルタンク18に繋がるホース60が接続されている。また2つのブレーキポートB1,B2には、左右の補助ブレーキ装置26,26の各ホイールシリンダ62,62が2本のパイプ27,27を通じてそれぞれ接続されている。
【0043】
ブレーキバルブユニット20は、減圧弁63、逆止弁64、電磁開閉弁(シャットオフ弁)51および電磁比例式圧力調整弁(リニアソレノイド弁)52を備え、これら弁51,52,63,64はポンプポートPとブレーキポートB1,B2を接続する油路65上に直列に配置されている。減圧弁63はポンプポートPから入力される油圧を減圧するものである。減圧弁63とシャットオフ弁51の間における油路65上に設けられた逆止弁64は、アキュムレータ61に畜圧された作動油の逆流を阻止するもので、アキュムレータ61が設定圧(上限値)に達するまで開弁するようにその開弁圧が設定されている。またアキュムレータ61と圧力スイッチ48は、逆止弁64とシャットオフ弁51の間で油路65から分岐する2本の油路66,67を通じて互いに連通している。またリニアソレノイド弁52の排出ポートは油路68を通じてタンクポートTに接続されている。
【0044】
コントローラ41は、シャットオフ弁51とリニアソレノイド弁52の各ソレノイド51a,52aと電気的に接続されている。シャットオフ弁51は、ソレノイド51aが消磁されているときバネ51bの付勢力により閉弁し、ソレノイド51aが励磁されているとき開弁するオンオフ弁である。また、リニアソレノイド弁52は、コントローラ41からソレノイド52aに入力される電流値に応じてその出力油圧(液圧)が一義的に決まるようになっている。補助ブレーキ装置26は、ホイールシリンダ62に液圧が供給されることで作動し、その液圧値に応じた制動力を前輪5に付与する。
【0045】
マイコン53は、制動信号を入力して後輪6に主ブレーキがかけられる際、前輪5の補助ブレーキ(補助制動)が必要であるか否かを判断し、その必要があるときのみ補助ブレーキ装置26を作動させるようになっている。このとき図3に示すマップM1,M2を参照して決まるブレーキ圧(液圧)を基にリニアソレノイド弁52のソレノイド52aに通電する電流値を決めている。
【0046】
図3(a),(b)に示すマップについて以下に説明する。
図3(a),(b)に示すマップM1,M2は、車速V、減速度β、スリップ値S、揚高Hの4つのパラメータを用いて補助制動が必要であるかの判定を兼ねたブレーキ圧を求める。ブレーキ圧が「0」であれば補助ブレーキ装置26は作動されず、ブレーキ圧が「0」以外の値をとると補助ブレーキ装置26が作動される。図3のマップM1,M2を参照して得られるブレーキ圧に応じて補助ブレーキ装置26の作動時に前輪5に付与される補助ブレーキ力が決まる。つまり、補助ブレーキ装置26を作動させるか否かの判定は、ブレーキ圧を求めることでその値が「0」であるか否かによって判定される。
【0047】
同図(a)に示すマップM1は低揚高用で、同図(b)に示すマップM2は高揚高用である。マップM1,M2は共に同図では下横軸に車速(初速)V、上横軸にスリップ値S、縦軸に減速度βをとっている。3つのパラメータV,β,Sにより区分されるブレーキ圧の領域(ランク)分けの仕方は、この実施形態では両マップM1,M2で同じでただ数値のみが異なる。パラメータとしての車速Vはブレーキ操作時の初速を指し、初速Vがある一定速度(しきい値)Vcを超える高速時は補助制動を与え、しきい値Vc以下の低速時は補助制動を与えない(ブレーキ圧=0)。車速(初速)Vは、前輪車速センサ28からの単位時間当たりの入力パルス数を基に左右の前輪5の回転速度を求め、左右の前輪回転速度の平均値から求められる。減速度βは車速Vの時間変化を計算して求められ、制動中の減速度βがある一定減速度(しきい値βc)以下の時はその時の減速度βに応じたブレーキ圧の補助制動を与え、しきい値βc)を超える急減速時は補助制動を与えない(ブレーキ圧=0)。つまり、初速Vがそのしきい値Vc 以下となる低車速領域と、減速度βがしきい値βc を超える高減速度領域では、ブレーキ圧が「0」に設定され、これらの領域(同図中ハッチング部分)では補助ブレーキはかけない。
【0048】
初速Vがしきい値Vc を超える高車速領域では、スリップ値Sがしきい値Sc 以下にある条件下で、ブレーキ圧は減速度βが大きいほど小さな値をとるように減速度βに応じて段階的(この例では4段階)な値Pmin ,PL ,PM ,PH (Pmin <PL <PM <PH )に設定されている。例えば減速度βが大き過ぎる場合はブレーキ圧を弱めとし、減速度βが小さ過ぎる場合はブレーキ圧を強めとする。このため、適正な減速度βが得られるようにその時の減速度βの値に応じて適正なブレーキ圧に調整される。但し、スリップ値Sがしきい値Sc を超えると、ブレーキ圧の最大値Pmax が設定される。一方、フォーク25を所定高さ以上に上昇させた高揚高時は、車両重心位置が高く急減速すると車体が前後に揺れ易くなる。高揚高用のマップM2では、このような不都合を回避できるように減速度βを低めに抑えるべく、低揚高時に比べ各ランク毎のブレーキ圧を相対的に低めの値PHmin,PHL,PHM,PHH,PHmax(PHmin<PHL<PHM<PHH<PHmax)に設定している。
【0049】
後輪6のスリップ値Sの検出方法は次のようである。マイコン53は、前輪車速センサ28からの単位時間当たりの入力パルス数を基に前輪5の回転速度を求め、この前輪回転速度と前輪半径とから前輪車速(従動輪換算車速)Vf を算出する。またマイコン53は、後輪車速センサ(後輪回転数センサ)37からの単位時間当たりの入力パルス数を基に後輪6の回転速度を求め、この後輪回転速度と後輪半径とから後輪車速(駆動輪換算車速)Vr を算出する。ここで、フォークリフト1は、ハンドル13が一杯近くにまで切られた最大操舵角付近で旋回内輪側の前輪5の回転速度が零になる場合があるので、前輪車速Vf を求めるのに旋回外輪側の前輪5の回転を検出する一方の前輪車速センサ28からの入力信号のみを使用している。マイコン53は操舵角センサ32から入力する操舵角θを基に、旋回外輪側の前輪5が左右どちらであるかを判定する。なお、直進走行(θ=0)時は、左右のうち予め定められた一方の前輪車速センサ28からの入力信号のみ使用する。
【0050】
本例では、車両旋回時に前輪5と後輪6の各々の旋回半径が異なることを考慮した補正係数K(θ)(操舵角θの関数)をその時々の操舵角θに応じて求め、前輪車速Vf にその補正係数K(θ)を乗じて、前輪車速Vf を後輪位置相当の車速に変換した車速VR に換算する。この車速VR は後輪6がスリップしていないときの後輪車速Vr に相当する。そしてコントローラ41は、この車速VR と後輪車速Vr との差を「すべり速度」ΔV(=VR −Vr )として算出する。後輪6のスリップが許容範囲を超えたことを判定するしきい値Sc は、後輪6と路面との摩擦係数が静止摩擦領域から動摩擦領域に移行する境界付近の値が設定されており、例えばスリップ率換算で0.2付近の値が設定されている。なお、スリップ判定にはすべり速度ΔVに代え、スリップ率(=(VR−Vr )/VR)を使用することもできる。また、補助ブレーキ装置26が作動するときのブレーキ圧の決め方は、スリップ値、車速(初速)V、減速度βのうち少なくとも一つをパラメータとして、パラメータの値に応じて可変させる設定であれば足りる。また減速度の代わりに積荷の荷重をパラメータに用い、荷重センサ50の検出値である荷重に応じてブレーキ圧を決めて荷重にさほど影響されずにある許容範囲内の減速度がいつも得られるようにブレーキ圧を制御することもできる。
【0051】
また、補助ブレーキ装置26の作動応答性を高めるためにブレーキ操作が検知された時点、つまり制動信号入力後直ちにホイールシリンダ62に液圧が立たない程度の既定値の予備電流をブレーキバルブユニット20(電磁弁51,52)に通電するようにしている。具体的には、ソレノイド51aを励磁してシャットオフ弁51を開弁することでリニアソレノイド弁52にアキュムレータ61の油圧を印加させると共に、ソレノイド52aにスプールが閉弁と開弁の境界に位置するときの電流値よりも若干小さな微小電流である予備電流が通電される。
【0052】
マイコン53はメモリに、補助ブレーキ装置26を作動制御するための図4に示す補助ブレーキ制御用プログラムなど各種プログラムなどを記憶している。補助ブレーキ制御用プログラム(図4)では、センサ28,32,37,49のいずれか1つでも故障してブレーキ圧を求められなくなった異常時でも、ほぼ常に必要以上の強さの補助ブレーキが確保されるような適切な補助ブレーキ制御がなされる対策処理が行われる。
【0053】
補助ブレーキ制御用プログラムにおけるセンサ故障時の制御の仕方について以下に説明する。前輪車速センサ28と後輪車速センサ37と操舵角センサ32はスリップ値Sを検出するために使用されるため、これらのいずれか1つでも故障するとスリップ値Sが検出できなくなる。この場合は、安全を見越して最大のブレーキ圧Pmax を設定するようにしている。また揚高センサ49が故障であるときは安全を見越して高揚高のときのブレーキ圧に制限する。また補助ブレーキ装置26の作動開始後、前輪車速センサ28の検出値を基に車速Vが停止車速(例えば2km/h)以下になるとブレーキ圧を「0」にする設定にしているが、前輪車速センサ28が故障のときは車速Vを検出できないので、ブレーキ操作開始後、4秒経過後にブレーキ圧を「0」にする設定としている。この「4秒」は補助ブレーキ装置26が作動されたときにほとんどの場合で車速が「0」になるブレーキ操作時間で、仮に車速が「0」にならなくとも車速が十分小さくなる時間である。マイコン53はこの4秒を計時するためのカウンタ(タイマカウンタ)を内蔵している。
【0054】
補助ブレーキ制御用プログラムにおけるセンサ故障診断方法について説明する。車速センサ28,37の故障は、入力パルスの信号値が下限値(<Lレベル)と上限値(>Hレベル)の間の範囲(正常範囲)を外れたことをもって判断する。例えば0Vをとれば断線、電源電圧をとればショートとする。またパルス周期が正常範囲を大きく逸脱した場合(つまり最高車速を大きく超える異常高車速の周期検出時)も故障と判断する。また、操舵角センサ32の故障は、信号値がその下限値と上限値の間の範囲(正常範囲)を外れたことをもって判断する。また、揚高センサ49の故障は、3本の信号線のオン・オフの組合せが正常時の組合せ以外になったことをもって判断する。
【0055】
次に補助ブレーキ制御用プログラムの内容を、図4に示すフローチャートに従って説明する。マイコン53は、ブレーキペダル35の踏み込みが解除されたブレーキ操作か、アクセルレバー11のスイッチバック操作のいずれかの操作に基づく制動信号を入力すると、図4に示す補助ブレーキ制御プログラムを実行する。
【0056】
ステップ(以下、単にSと記す)10では、前輪車速センサ28が故障であるか否かを判断する。前輪車速センサ28が故障でなければS20に進み、故障であればS50に進む。
【0057】
S20では、タイマカウンタをクリアする。
S30では、後輪車速センサ37と操舵角センサ32のいずれかが故障であるか否かを判断する。両センサ32,37のいずれも故障でなければS40に進み、故障であればS70に進む。
【0058】
S40では、正常時のブレーキ圧を設定する。すなわちこの例では車速V、減速度β、スリップ値Sの3つのパラメータを基に低揚高用マップM1(図3(a))を参照してブレーキ圧を求め、これを指示値とする。
【0059】
一方、S10で前輪車速センサ28が故障していると判断された場合は、S50において、タイマカウンタをインクリメントする。
次のS60では、タイマカウンタが4秒を計時したか否かを判断する。4秒経過前であればS70に進み、4秒経過すればS130に進む。
【0060】
S70では、最大ブレーキ圧Pmax を指示値とする。
S80では、揚高センサ49が故障であるか否かを判断する。揚高センサ49が故障でなければS90に進み、故障であればS100に進む。
【0061】
S90では、揚高センサ49の検出結果が「高揚高」であるか否かを判断する。高揚高であればS100に進み、高揚高でなれば(つまり低揚高であれば)S110に進む。
【0062】
S100では、既に決まった指示値を高揚高用マップM2を参照して高揚高時の制限された指示値に変更する。すなわち、S40で正常時のブレーキ圧を指示値として設定した場合は、Pmin →PHmin,PL →PHL,PM →PHM,PH →PHH,Pmax →PHmaxのように高揚高用の制限された指示値に変更する。またそれまでの処理でセンサ28,32,37のいずれかの故障を理由にS70で指示値が最大ブレーキ圧Pmax に決まっていれば、その指示値をPHmaxに変更する。
【0063】
S110においては、車速Vが停止車速以下か否かを判断する。停止車速はほぼ停車したとみなせる程度の極めて低い車速(例えば2km/h以下の値)で、補助ブレーキを解除するために設定された車速である。車速Vが停止車速以下であればS120に進み、S120においてブレーキ圧の指示値を「0」とする。一方、車速Vが停止車速以下でなければS150に進む。なお、前輪車速センサ28が故障で車速Vの値が信用できないときは、強制的にS150に進む。
【0064】
一方、S60でタイマカウンタが4秒を計時したと判断された場合、S130において、ブレーキ圧の指示値を「0」とする。これは、前輪車速センサ28が故障で車速Vの値が信用できないため、大抵の場合、停止するまでに充分減速されるはずの4秒間の補助ブレーキの付与を待って補助ブレーキを解除する。
【0065】
そしてS140では、タイマカウンタをクリアしてS150に進む。
S150では、指示値のブレーキ圧が得られるようにブレーキバルブユニット20を電流値制御し、補助ブレーキ装置26にブレーキ圧が出力されるようにこれを作動制御する。指示値がブレーキ圧「0」であれば補助ブレーキ装置26は作動されず、指示値がブレーキ圧「0」以外の値であれば補助ブレーキ装置26が作動され、前輪5にブレーキ圧に応じた強さの補助ブレーキが掛かる。
【0066】
よって、このフォークリフト1によれば、ブレーキ操作時またはスイッチバック操作時は、その操作開始時の車速(初速)V、減速度β、スリップ値S、揚高Hの4つをパラメータとしてブレーキ圧が決まり、ブレーキ圧が「0」以外であればその値に応じてブレーキバルブユニット20が電流値制御され、前輪5,5に補助ブレーキが付与される。従って、後輪(駆動輪)6に主ブレーキが掛かるときに補助制動が必要であると判断すれば前輪5,5に補助ブレーキが掛けられるので、車両制動開始時の車速(車速)Vが高速であったり、後輪6が許容範囲を超えるスリップをしても制動距離が相対的に短く済む。また減速度βに応じてブレーキ圧が調整されるので、ある決まった範囲内に減速度βが落ちつき、積荷の重軽によらず制動距離のばらつきも小さく抑えられる。さらに荷が高揚高にあるときには低揚高時に比べ弱めの補助ブレーキが付与されるので、制動時の車体の前後の揺れも極力抑えられる。
【0067】
例えば積荷状態でリーチアウトして輪重が小さくなった後輪6が水濡れ路面や氷結路面に位置する時にブレーキ操作がなされ、後輪6がスリップしたとしても、このとき補助ブレーキ装置26,26の作動により、輪重が大きくなっている前輪5,5に補助ブレーキがかかるので、制動距離が短く抑えられる。また、車幅中心から左寄りにずれた後輪6にはサイドフォースが働くため、スリップ時には車体後部が図6の矢印方向へ流れる尻振り現象が発生するが、前輪5,5に付与される補助制動力がサイドフォースによる車体の旋回モーメントを打ち消す方向に働くので、車体後部の尻振り量が小さく抑えられる。
【0068】
そしてセンサ故障時には、次のような制御が行われる。すなわち前輪車速センサ28と後輪車速センサ37と操舵角センサ32のいずれか1つでも故障であると、スリップ値Sが検出できないので、最大ブレーキ圧Pmax を設定する。但し、揚高センサ49により検出された揚高が「高揚高」のときは、高揚高用のブレーキ圧PHmaxに制限される。
【0069】
補助ブレーキは車速Vが停止車速に達すると解除されるが、前輪車速センサ28の故障時は車速V自体の検出が不能になるので、補助ブレーキは制動信号入力時(制動操作開始時)からタイマカウントにより4秒計時後に解除される。その結果、車両停止にも拘わらず補助ブレーキ装置26の作動が継続される電力消費の無駄を避けることができる。
【0070】
また揚高センサ49の故障時は、揚高が高いのか低いのかが分からないので、安全を見越して高揚高時の小さめのブレーキ圧に制限される。このため、積荷状態の高揚高にあって車両重心位置が高いときには、小さく制限された強さで補助ブレーキが掛かるので、車両制動時に補助ブレーキが掛かっても車体の前後の揺れが比較的小さく抑えられる。
【0071】
以上詳述したように本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)補助ブレーキ装置26のブレーキ圧を決めるパラメータV,S,β,Hを求めるためのセンサ28,32,37,49が故障したときには、安全を見越して最も安全側のブレーキ圧を設定して補助ブレーキを掛けるので、常に必要以上の強さの補助ブレーキが確保される。従って、例えば車両制動開始時に高車速であったり、制動開始後に後輪6のスリップが許容範囲を超えたときでも制動距離を短くすることができる。
【0072】
(2)後輪6のスリップを検出するためのセンサ(前輪車速センサ28,後輪車速センサ37,操舵角センサ32)のいずれか1つでも故障のときは、最大ブレーキ圧Pmax を設定するので、仮に後輪6が許容範囲を超えるスリップをしても、制動距離を短く抑えることができる。
【0073】
(3)揚高センサ49が故障のときは、ブレーキ圧を高揚高用の小さめの値に制限するので、仮に高揚高にあっても、補助ブレーキが強過ぎるために車体が前後に不安定になることを極力回避できる。
【0074】
(4)前輪車速センサ28が故障のときは、制動操作開始時から十分制動され得る所定時間(4秒)経過後に補助ブレーキを解除するので、制動力が十分確保されるとともに、車両停止にも拘わらず補助ブレーキ装置26の作動が継続される電力消費の無駄を回避できる。
【0075】
(5)センサが故障していない正常時は、ブレーキ操作時またはスイッチバック操作時に、後輪6への主ブレーキの補助が必要と判断したときに前輪5に補助ブレーキを掛ける構成を採用したので、後輪6が許容範囲を超えてスリップをしても、また制動開始時に高車速域にあっても、制動距離を短く抑えることができる。また後輪(駆動輪)6のスリップ時は、ABS制御のように主ブレーキのブレーキ圧を弱める制御ではなく、前輪(従動輪)5に補助ブレーキを与えるブレーキ制御なので、制動距離を短くすることができる。また減速度βの値に応じてブレーキ圧が調整されるので、制動時にはある決まった範囲内に減速度βが落ちつき、積荷の重軽によらず制動距離のばらつきも小さく抑えられる。さらに高揚高のときには補助ブレーキを小さめの強さに制限するので、高揚高時で車両重心位置が高くても補助ブレーキを掛けたことによって車体が前後に不安定になることも極力回避できる。
【0076】
(6)後輪(駆動輪)6が輪重の低減によりスリップし易い状態にある積荷時(特にリーチ時)に、後輪(駆動輪)6が主ブレーキによりスリップしても、輪重の増えた前輪5に補助ブレーキが掛かるので、制動力を十分確保し易い。
【0077】
なお、実施の形態は上記に限定されず、以下の態様でも実施できる。
○ 補助ブレーキ制御に用いるセンサは、上記実施形態のものに限定されない。例えばスリップの検出には加速度センサを使用することができる。すなわち加速度センサの検出値から減速度を求め、その減速度がフォークリフトの非スリップ時(スリップ値が許容範囲内にある正常時)には起こり得ない値をとるとスリップが許容範囲を外れたと判断する。また加速度センサを減速度βの検出に用いることもできる。また1つのパラメータを求めるためのセンサの個数は上記実施形態に限定されず、減速度センサが1つのセンサからなる構成でもよいし、揚高センサが複数のセンサからなる構成でもよい。
【0078】
○ 4輪が駆動輪で4輪に主ブレーキがかけられる産業車両に適用することもできる。すなわち、駆動輪の4輪に主ブレーキがかかり、そのときにセンサの検出値に基づき補助制動が必要であると判断されると、4輪のうち予め定められた任意の車輪(例えば主ブレーキのかかる4輪全て、あるいは主ブレーキのかかる4輪のうち前輪または後輪のみ)が制動される。補助制動手段は例えば走行用モータの回生ブレーキであってもよい。つまり、ブレーキペダルをブレーキ操作したりアクセルレバー(または前後進レバー)をスイッチバック操作して駆動輪に主ブレーキを掛けた際、補助制動が必要と判定されると、走行用モータ14を回生させて回生ブレーキを補助ブレーキとして駆動輪に付与する。このように主制動手段と補助制動手段が同一のものであっても構わない。また補助制動が付与される車輪が駆動輪と異なる場合でも、その補助制動される車輪は従動輪に限定されない。例えば前輪が電動モータで駆動される駆動輪でその回生ブレーキにより補助制動するものでも構わない。つまり補助制動手段は油圧式のブレーキ装置でなくても構わない。
【0079】
○ 駆動輪は前輪で、前輪である駆動輪に主ブレーキが掛けられる産業車両であっても構わない。この場合、例えば後輪(従動輪)に補助ブレーキを掛ければ制動距離が短くなる。
【0080】
○ 複数のパラメータのうち全てのパラメータについてセンサの診断をする構成ではなく、全てのパラメータのうち特定の1つのパラメータのセンサの故障時のみ最も安全側の補助ブレーキ力を付与するブレーキ制御を行う構成であってもよい。例えばスリップ値を求めるためのセンサの故障のときには最大の補助ブレーキ力を付与するが、揚高センサが故障のときは補助ブレーキ力を最も安全側の値に制限する制御を行わない。
【0081】
○ 4つのパラメータのうち1つのみ採用する構成でもよい。例えばスリップ値のみ、初速のみ、減速度のみでもよい。また上記4つ以外のパラメータ(例えば荷重)のみでもよい。
【0082】
○ 初速に応じて補助ブレーキ力を連続的または断続的に変化させてもよい。また初速に応じて補助ブレーキ装置の作動時間を連続的または断続的に変化させてもよい。また揚高に応じて補助ブレーキ力を連続的または断続的に変化させてもよい。また2つのマップM1,M2のランク分けの設定を異なるようにしてもよい。
【0083】
○ 車速センサが故障で車速を検出できなくなったとき、制動操作開始時から所定時間(4秒)経過後に補助ブレーキ装置26の作動を停止するようにし、この所定時間「4秒」は大抵の場合、車両がほほ停止する時間であることを理由に設定したが、例えばほとんどの場合、低速ではあるがある車速を有するような時間を設定することもできる。要するに所定時間は、産業車両の重量や、最大車速、主ブレーキ力、その産業車両が使用される環境(路面状況等)など種々の条件に応じて、さらに制動設計思想に応じて適宜変更可能である。
【0084】
○ 所定時間(4秒)の計時を開始するタイミングは、ブレーキ操作開始時に限定されない。例えばスイッチバック操作時には、マイコン53がモータ駆動回路54に回生指令をした時を、所定時間(4秒)の計時開始時としてもよい。要するに停止車速以下になるのに必要な最長時間の経過後に補助ブレーキが解除されるような所定時間を計時できればよい。
【0085】
以下、前述した各実施形態から把握される技術的思想をその効果とともに記載する。
(1)請求項5において、前記制御手段は、前記減速度がしきい値を超えず前記判定手段により補助制動が必要であると判定されたときは、その減速度に応じて目標減速度が得られるように補助ブレーキ力を段階的または連続的に設定する。この構成によれば、制御手段は、減速度がしきい値を超えず判定手段により補助制動が必要であると判定されたときは、その減速度に応じて目標減速度が得られるように補助ブレーキ力を段階的または連続的に設定する。そして、このような補助ブレーキ制御の下で、請求項5に記載の発明の作用が得られる。
【0086】
(2)請求項9において、前記センサは、前記スリップ検出用センサと、請求項4に記載の車速センサと、請求項5に記載の減速度センサと、請求項6に記載の揚高センサとを備えている。
【0087】
(3) 請求項1〜請求項3のいずれか一項において、前記センサは、荷役装置に積載された荷の荷重を検出するための荷重センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記荷重がしきい値を超えると補助制動が必要であると判定し、前記荷重センサ(50)のうち少なくとも1つが故障であると診断されると、前記制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させることを要旨とする。
【0088】
(4)請求項1〜請求項9のいずれか一項において、産業車両は、前記主制動手段による制動力が付与される駆動輪が後輪で、前記補助制動手段による制動力が付与される車輪が前輪であると共に、荷役装置が車体の前側に前後移動可能に装備されたリーチ型フォークリフトである。荷役装置が積荷がある状態で前方に移動すると駆動輪(後輪)の輪重が小さくなるが、この状態で走行するときに制動操作がなされ、主制動がかかった駆動輪が許容範囲を外れたスリップをしても、輪重が相対的に増えた前輪に補助制動がかかるため、産業車両(リーチ型フォークリフト)の制動力が確保される。
【0089】
【発明の効果】
以上詳述したように請求項1〜10に記載の発明によれば、駆動輪に制動が付与されたときにその主制動力が不足気味になっても車両の制動力を確保し易いブレーキ制御が可能であるとともに、仮にこのブレーキ制御のために用いられるセンサが故障してもほぼ常に必要以上の制動力を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施形態におけるフォークリフトの概略構成図。
【図2】 ブレーキ系の油圧回路図。
【図3】 ブレーキ圧を設定するためのマップ
【図4】 補助ブレーキ制御用プログラムのフローチャート。
【図5】 フォークリフトの側面図。
【図6】 フォークリフトの平断面図。
【符号の説明】
1…産業車両としてのリーチ型フォークリフトトラック、5…前輪、6…駆動輪としての後輪、11…制動操作手段としてのアクセルレバー、14…主制動手段を構成する走行用モータ、20…制御手段を構成するとともに電磁式弁手段としてのブレーキバルブユニット、21…荷役装置、26…補助制動手段としての補助ブレーキ装置、28…スリップ検出用センサ、従動輪車速センサ、減速度センサおよび制動解除用車速センサとしての前輪車速センサ、32…スリップ検出用センサとしての操舵角センサ、33…主制動手段としての主ブレーキ装置、35…制動操作手段としてのブレーキペダル、37…スリップ検出用センサおよび駆動輪車速センサとしての後輪車速センサ(後輪回転数センサ)、41…制御手段を構成するコントローラ、49…揚高センサ、52…電磁式弁手段を構成するリニアソレノイド弁、53…制御手段を構成するとともに判定手段および故障診断手段としてのマイコン、54…主制動手段を構成するモータ駆動回路。

Claims (10)

  1. 制動操作手段の操作に基づき駆動輪である前輪または後輪を制動する主制動手段が作動された際、該駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定するための検出値を得るための少なくとも1つのセンサと、
    前記センサの検出値に基づき駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定する判定手段と、
    従動輪としての前記駆動輪と前後反対側の車輪に補助的な制動力を付与する補助制動手段と、
    前記判定手段による判定により制動の補助が必要と判定されると、前記補助制動手段を作動させる制御手段と、
    前記センサの少なくとも1つの故障を診断する故障診断手段と
    を備え、
    前記故障診断手段により前記センサの少なくとも1つが故障と診断されたときには、前記制御手段は、最も安全側の補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させることを特徴とする荷役装置が車体の前側に前後移動可能に装備された産業車両におけるブレーキ制御装置。
  2. 制動操作手段の操作に基づき駆動輪である前輪または後輪を制動する主制動手段が作動された際、該駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定するための検出値を得るための少なくとも1つのセンサと、
    前記センサの検出値に基づき駆動輪の制動を補助する必要があるか否かを判定する判定手段と、
    従動輪としての前記駆動輪と前後反対側の車輪に補助的な制動力を付与する油圧式の補助制動手段と、
    前記補助制動手段に作動のために出力する油圧を調整する電磁式弁手段と、
    前記判定手段による判定により制動の補助が必要と判定されると、前記補助制動手段を作動させるために前記電磁式弁手段に通電する制御手段と、
    前記センサの少なくとも1つの故障を診断する故障診断手段と
    を備え、
    前記故障診断手段により前記センサの少なくとも1つが故障と診断されたときには、前記制御手段は、最も安全側の補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させることを特徴とする荷役装置が車体の前側に前後移動可能に装備された産業車両におけるブレーキ制御装置。
  3. 前記センサは、前記主制動手段による制動力が付与される駆動輪のスリップを検出するためのスリップ検出用センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記駆動輪のスリップがしきい値を超えると補助制動が必要であると判定し、前記スリップ検出用センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、前記制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させる請求項1又は2に記載の産業車両におけるブレーキ制御装置。
  4. 前記センサは、前記主制動手段による制動力が付与される際の車速を検出するための車速センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記制動力付与開始時の車速である初速がしきい値を超えると補助制動が必要であると判定し、前記車速センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、前記制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させる請求項1〜3のいずれか一項に記載の産業車両におけるブレーキ制御装置。
  5. 前記センサは、前記主制動手段による制動力が前記駆動輪に付与されている最中の車両の減速度を検出するための減速度センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記減速度がしきい値を超えなければ補助制動が必要であると判定し、前記減速度センサのうち少なくとも1つが故障であると診断されると、前記制御手段は最大補助ブレーキ力が得られるように前記補助制動手段を作動させる請求項1〜3のいずれか一項に記載の産業車両におけるブレーキ制御装置。
  6. 前記センサは、車両に昇降可能に設けられた荷役機器の揚高を検出する揚高センサを少なくとも備え、前記判定手段は前記揚高がしきい値を超えているときは補助制動を制限するように設定されており、
    前記故障診断手段が前記揚高センサを故障と診断すると、高揚高時の補助ブレーキ力が得られるように前記制御手段は前記補助制動手段を作動させる請求項1〜5のいずれか一項に記載の産業車両におけるブレーキ制御装置。
  7. 前記センサは、前記主制動手段による制動力が付与される際の車速を検出するための車速センサを少なくとも備え、前記制御手段、前記車速センサが故障と診断されたときは、制動操作時から所定時間経過後に補助制動手段の作動を停止させ、前記車速センサ以外のセンサが故障と判断されたときは車速センサの検出値が停止車速以下になったことを条件に前記補助制動手段の作動を停止させる請求項1〜6のいずれか一項に記載の産業車両におけるブレーキ制御装置。
  8. 前記スリップ検出用センサは、従動輪車速センサと駆動輪車速センサと操舵角センサとからなり、前記従動輪車速センサが制動解除用車速センサを兼ねている請求項7に記載の産業車両におけるブレーキ制御装置。
  9. 請求項1又は2に記載の産業車両におけるブレーキ制御装置において、
    前記センサは、請求項3に記載の前記スリップ検出用センサの他に、請求項4に記載の車速センサと、請求項5に記載の減速度センサと、請求項6に記載の揚高センサのうちの少なくとも1種を備えている産業車両におけるブレーキ制御装置。
  10. 前記主制動手段による制動力が付与される前記駆動輪は、前輪と後輪のうち車両に装備された荷役装置の積載荷重が大きいほど輪重が小さくなる側の車輪であり、前記補助制動手段による補助的な制動力が付与される車輪は、前記荷役装置の積載荷重が大きいほど輪重が大きくなる側の車輪である請求項1〜9のいずれか一項に記載の産業車両におけるブレーキ制御装置。
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