JP3826259B2 - 産業車両のブレーキ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輪のスリップを検出した検出結果に基づき制御される産業車両のブレーキ制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種のリーチ式フォークリフト(以下、単にフォークリフトと称す)のブレーキ装置として、例えば特開平9−233604号公報に開示されるものがあり、図8は同公報にて開示されたフォークリフトの概略構成図である。フォークリフト71は、従動輪である前輪72と駆動輪かつ操舵輪である後輪73とを備えている。運転室74の床面にはフットペダル75が設けられ、フットペダル75の踏込み側にはリミットスイッチ75aが設けられている。このフォークリフト71では、運転者がフットペダル75を踏込むことによりこのリミットスイッチ75aがオンされてブレーキが解除される、いわゆるデッドマンブレーキが採用されている。
【0003】
フォークリフト71は、走行用電動機76、走行用減速機77、電磁ブレーキ78及びエンコーダ79を装備している。フォークリフト71は走行用電動機制御回路80aを内蔵したブレーキング制御装置80を備えている。
【0004】
ブレーキング制御装置80は、フットペダル75が開放されてリミットスイッチ75aがオフされた場合、エンコーダ79から入力した回転数を用いて減速度を算出し、その減速度が急激に増大したときは駆動輪(後輪73)がスリップしていると判断する。そして、走行用電動機76による回生ブレーキトルクまたは発電ブレーキトルクを低減し、エンコーダ79からの回転数検出値が車速と同等の値まで回復すればスリップから復帰したものと判断し、再び回生ブレーキトルクまたは発電ブレーキトルクを増大する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、ブレーキング制御装置80によって駆動輪のスリップの有無を判断しているものの、ブレーキトルクを減らすことによりスリップを防ぐ、いわゆるアンチスキッド・ブレーキ・システム(ABS)制御であったため、制動力の向上はさほど望めない。従って、例えば水濡れ路面でブレーキをかけたときは、たとえスリップ検出時にブレーキトルクを減らす制御がなされても、乾燥路面に比べ制動距離が長くなるという問題があった。特にリーチ式フォークリフトなどは積荷時に輪重が相対的に小さくなる後輪にブレーキがかかる制動方式であったため、車両重量が重くなり相対的に制動距離が長くなる傾向にある積荷状態で、ブレーキのかかる後輪が輪重低下のためスリップし易くなる。このため、リーチ式フォークリフトなどでは積荷時に水濡れ路面でブレーキ操作した時の制動距離の増え方が特に顕著であった。このことは冷凍倉庫の凍結路面でブレーキがかけられたときも同様であった。
【0006】
本発明は前記の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、制動時に車輪がスリップしたときの制動距離を短縮することができる産業車両のブレーキ制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため請求項1に記載の発明では、制動用の操作手段が操作されたことに基づき作動され、前輪と後輪のうちいずれか一方に制動力を付与する主制動手段と、前記前輪と後輪のうち少なくとも一方に、前記制動手段を補助するための制動力を付与する補助制動手段と、前記前輪と後輪のうち、前記主制動手段によって主制動が付与される車輪の回転速度のみを検出する検出手段と、前記検出手段により検出された前記回転速度の時間的変化を演算することで加速度を算出し、前記主制動が付与される車輪のスリップとみなし得るしきい値を前記加速度が超えると、当該スリップした車輪と前後反対側の車輪に補助の制動力を付与する前記補助制動手段を作動させる制御手段とを備え、前記しきい値は、前記主制動手段によって車両に発生する最大制動力を車両が空荷状態の車両重量で除算して得られる最大加速度より大きな値である。
【0008】
この発明によれば、検出手段により主制動が付与される車輪の回転速度が検出され、制御手段によって車輪の回転速度の時間変化から得られた加速度を基に車輪がスリップしていると判断された場合、補助制動手段が作動され、スリップが検出された車輪と前後反対側の車輪に補助の制動力が付与される。従って、例えば水濡れ路面や凍結路面で制動用の操作手段が操作された際、車輪がスリップしても制動距離が短縮される。またスリップ判定には、従動輪との回転速度差を見るのではなく、主制動が付与される車輪の回転速度のみを用いるので、補助制動力が付与される車輪が、従動輪であるときだけでなく駆動輪であるときにもスリップの検出が可能となる。また前輪と後輪が従動輪と駆動輪の組合せからなる産業車両に適用する場合、前輪と後輪のうち主制動が付与される例えば駆動輪の回転速度のみ検出すれば済むので、検出手段が簡単な構造で済む。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記主制動手段による制動力が付与されると共に前記検出手段による回転速度の検出対象となる前記車輪は、前記前輪と後輪のうち車両に装備された荷役装置の積載荷重が大きいほど輪重が小さくなる側の車輪であり、前記補助制動手段による補助の制動力が付与される車輪は、前記荷役装置の積載荷重が大きいほど輪重が大きくなる側の車輪である。
【0010】
この発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、荷積載時は主制動手段によって制動力が付与される側の車輪の輪重が小さくなるため、主制動付与時にスリップし易くなり、それと共に積荷状態にはその荷の荷重分の慣性力が働き制動距離が延びる傾向にある。しかし、検出手段によってその車輪のスリップが検出されたときには、荷積載時に輪重の大きくなる側の車輪に補助用制動手段による補助の制動力が付与されるので、例えば水濡れ路面や凍結路面での積荷時における制動距離を効果的に短縮することが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、前記産業車両は、前記荷役装置が車両の支持レールに沿って前後方向に移動可能なリーチ式である。
【0012】
この発明によれば、請求項2に記載の発明の作用に加え、荷役装置を支持レールに沿って車体と離間する前方へ移動させた状態では、主制動手段によって制動力が付与される側の車輪の輪重がより一層小さくなるが、この車輪と前後反対側で輪重の大きくなっている車輪に補助制動手段による補助の制動力が付与される。従って、リーチ式の産業車両で、荷役装置が前方位置にあっても、例えば水濡れ路面や凍結路面での制動距離を効果的に短縮することが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の発明において、前記主制動手段により制動力が付与されると共に前記検出手段による回転速度の検出対象となる前記車輪は、前記車両の車幅方向において中心からずれて配置されている。
【0014】
この発明によれば、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、車両の車幅方向において中心からずれて配置された車輪が制動時にスリップしても、そのスリップした車輪と前後反対側の車輪に補助の制動力が付与されるので、車両姿勢の旋回(例えば尻振り)現象が発生し難くなる。
【0015】
【発明の実施の形態】
図3及び図4に示すように、産業車両としてのリーチ式フォークリフトトラック(以下、単にフォークリフトと称す)1は、前二輪・後一輪の3輪車タイプであり、車体(機台)2の前部に収容されたバッテリ3を電源として走行するバッテリ車である。車体2からは左右一対のリーチレグ4が前方へ延出している。左右の前輪5は従動輪で、左右のリーチレグ4を構成する各リーチレール4aの先端部にそれぞれ回転可能に支持されている。車体2の底部後側に位置する後一輪は、操舵輪を兼ねた駆動輪(後輪)6であり、この駆動輪6は車幅方向左寄りにオフセットされて位置している。駆動輪6の右隣には、所定距離離れた位置に補助輪(キャスタ)7が設けられている。
【0016】
車体2の後部右側部分には立席タイプの運転席(運転室)8が設けられ、運転室8の後方側が乗降口となっている。運転室8の前側にある図3に示すインストルメントパネル9には、荷役操作のための荷役レバー10、前後進操作のためのアクセルレバー11が設けられている。運転室8の左隣に立設する収容ボックス12の上面にはハンドル(ステアリングホイール)13が設けられている。図4に示すように収容ボックス12には、ドライブモータ14、荷役用モータ15、荷役用ポンプ16等が収容されており、また車体2の前部には、オイルタンク18、オイルコントロールバルブ(以下、コントロールバルブ)19、ブレーキ・コントロール・バルブユニット(以下、ブレーキ制御バルブ)20等が収容されている。
【0017】
車体2の前側には荷役装置としてのマスト装置21が装備され、荷役レバー10のうちのリーチレバー操作時には、コントロールバルブ19を通じて作動油が給排されてリーチシリンダ22が伸縮駆動することによって、マスト装置21はリーチレール4aに沿って所定ストローク範囲内で前後方向に移動する。また、マスト装置21はアウタマスト23a、インナマスト23b、フォーク24およびリフトシリンダ25を備え、荷役レバー10のうちのリフトレバー操作時には、コントロールバルブ19を通じて作動油が給排されてリフトシリンダ25が伸縮駆動することによって、アウタマスト23aに対するインナマスト23bのスライドに連動してフォーク24が昇降する。
【0018】
図4に示すように、バッテリ3の下方に配置されたブレーキ制御バルブ20は、コントロールバルブ19と同様に荷役用ポンプ16を油圧供給源とする。左右の前輪5には補助制動手段としての油圧式の補助ブレーキ装置(前輪ブレーキ装置)26がそれぞれ取付けられている。補助ブレーキ装置26は本例ではドラムブレーキ装置からなる。左右の補助ブレーキ装置26は2本のパイプ27を通じてブレーキ制御バルブ20と接続されている。
【0019】
図5は、後輪(駆動輪)のドライブ機構を示す背面図である。ドライブモータ14の上部には主制動手段としての主ブレーキ装置(後輪ブレーキ装置)31が装備されている。主ブレーキ装置31は、ドライブモータ14の回転軸14aと一体回転するディスク32を、ブレーキパッド31aで挟圧して制動力を得るディスクブレーキ装置からなる。主ブレーキ装置31はリンク機構33を介してブレーキペダル34と機械的に作動連結されており、ブレーキペダル34が踏込まれていない状態でブレーキがかかる、いわゆるデッドマンブレーキとなっている。ブレーキペダル34の踏込操作を解除したときに主ブレーキ装置31が作動され、このブレーキペダル34が制動用の操作手段を構成する。
【0020】
ドライブモータ14の上部には、ディスク32の支持部外周面上に周方向に一定ピッチで形成された多数の歯部(図示省略)を被検出部とする2つの回転数センサ35,36が取付けられている。2つの回転数センサ35,36は、歯部の位相で90゜ずれた位置に互いに配置されている。
【0021】
また、ドライブモータ14は、リアサスペンション機構を構成するリンク部材37の上面に組付けられており、リンク部材37の下面に相対回動可能に設けられたギヤボックス38の下部に駆動輪6は回転可能に支持されている。ギヤボックス38の上端部に形成されたステアリングギヤ39はハンドル13(図3参照)と作動連結されており、駆動輪6はハンドル13の操作に応じて操舵される。
【0022】
図1は、フォークリフトの概略構成図(システム構成図)である。
フォークリフト1に備えられたコントローラ41には、入力側にブレーキスイッチ42、アクセルセンサ43、荷役操作検知スイッチ44、回転数センサ35,36および圧力スイッチ45が接続されている。またコントローラ41の出力側には荷役用モータ15、ブレーキ制御バルブ20およびモータ駆動回路46が接続されている。モータ駆動回路46には回生回路46aが内蔵されている。
【0023】
ブレーキスイッチ42は、ブレーキペダル34の踏込操作が解除(つまりブレーキ操作)されたことを検知するもので、ブレーキ操作検知時にはコントローラ41にブレーキスイッチ制動信号を出力する。アクセルセンサ43は、アクセルレバー11の操作位置を検出し、中立位置から前進・後進別の操作量に応じた電圧値の信号をコントローラ41に出力する。
【0024】
コントローラ41は、回転数センサ35から入力する単位時間当たりのパルス数から駆動輪6の回転速度を検出する。またコントローラ41は、2つの回転数センサ35,36から入力する位相の90゜ずれた各パルス信号の信号状態(エッジとレベル)を比較することによりドライブモータ14の回転方向を検出する。なお、駆動輪6の回転速度を検出する回転数センサ35により検出手段が構成される。
【0025】
コントローラ41は、アクセルセンサ43からの入力信号値を基にアクセルレバー11の操作方向および操作量を認識し、操作方向に応じたモータ回転方向を指令する回転方向指令信号と、操作量に応じたモータトルクが得られるようにモータ出力値を指令する出力値指令信号を、モータ駆動回路46に出力する。またコントローラ41は、2つの回転数センサ35,36から入力する各パルス信号の信号状態の比較から駆動輪6の回転方向、つまり実際の走行方向を逐次検出しており、アクセルセンサ43からアクセルレバー11の操作方向が走行方向と逆である旨(つまりスイッチバック操作の旨)の信号を入力すると、これをアクセル制動信号として認識する。この場合、コントローラ41はスイッチバック中であると判断してモータ駆動回路46に回生指令信号を出力する。ドライブモータ14は、モータ駆動回路46に入力される回転方向指令信号および出力値指令信号を基に回転方向および出力制御され、モータ駆動回路46に入力される回生指令信号を基に回生制動制御される。なお、アクセルレバー11をスイッチバック操作(前進走行中の後進操作、または後進走行中の前進操作)したときに駆動輪6に回生ブレーキがかかるため、アクセルレバー11は制動用の操作手段を構成し、ドライブモータ14および回生回路46aは主制動手段を構成する。
【0026】
荷役操作検知スイッチ44は、荷役レバー10が操作されたことを検知するもので、3つのレバー10a,10b,10c(図2を参照)のそれぞれに1つずつ設けられている。コントローラ41は、荷役操作検知スイッチ44からの信号を基に荷役レバー10が操作されたことを検知すると、荷役用モータ15を駆動する。荷役用モータ15が駆動されることによって荷役用ポンプ16が駆動され、オイルタンク18からホース47を通じて汲み上げられた作動油がホース48を通じてコントロールバルブ19に吐出される。またコントロールバルブ19から排出される作動油はホース49を通じてオイルタンク18に戻される。
【0027】
ブレーキ制御バルブ20にはホース48から分岐するホース50が接続され、ホース50を通じて荷役用ポンプからの圧油が供給されるようになっている。またブレーキ制御バルブ20にはオイルタンク18に作動油を排出するためのホース51が接続されている。圧力スイッチ45は、ブレーキ制御バルブ20に設けられたアキュムレータ52の蓄圧値(油圧)が設定下限値に達したことを検知するものである。コントローラ41は、圧力スイッチ45から検知信号を入力すると、荷役用モータ15を駆動する。
【0028】
またコントローラ41は、ブレーキ制御バルブ20に対しその中に内蔵された図2に示す二種類の電磁弁55,56を励消磁制御する。ブレーキ制御バルブ20は、各電磁弁55,56が励消磁されることにより、出力油圧(液圧)が制御される。
【0029】
次に図2に示す荷役系及びブレーキ系の油圧回路について説明する。
荷役レバー10(リフトレバー10a、ティルトレバー10b、リーチレバー10c)はコントロールバルブ19と機械的に連結されている。各レバー10a〜10cが操作されると、荷役操作検知スイッチ44(図1参照)の検知信号を基にコントローラ41により荷役用モータ15が駆動され、各レバー10a,10b,10cの操作に応じてリフトシリンダ25,ティルトシリンダ57,リーチシリンダ22のうち対応するものが駆動される。
【0030】
ブレーキ制御バルブ20は、ポンプポートP、タンクポートT、2つのブレーキポートB1,B2の計4ポートを備えている。ポンプポートPには荷役用ポンプ16に繋がるホース50が接続され、タンクポートTにはオイルタンク18に繋がるホース51が接続されている。また2つのブレーキポートB1,B2には、左右の補助ブレーキ装置26,26の各ホイールシリンダ58,58に繋がる2本のパイプ27,27がそれぞれ接続されている。
【0031】
ブレーキ制御バルブ20は、減圧弁59、逆止弁60、電磁開閉弁(シャットオフ弁)55、電磁比例式圧力調整弁(リニアソレノイド弁)56を備え、これら弁55,56,59,60はポンプポートPとブレーキポートB1,B2を接続する油路61上に直列で配置されている。減圧弁59はポンプポートPから入力される圧油を減圧するものである。減圧弁59とシャットオフ弁55の間における油路61上に設けられた逆止弁60は、アキュムレータ52に畜圧された作動油の逆流を阻止するもので、アキュムレータ52が設定圧に達するまで開弁するようにその開弁圧が設定されている。
【0032】
コントローラ41は、シャットオフ弁55とリニアソレノイド弁56の各ソレノイド55a,56aと電気的に接続されている。シャットオフ弁55は、ソレノイド55aが消磁されているときバネ55bの付勢力により閉弁し、ソレノイド55aが励磁されているとき開弁するオンオフ弁である。また、リニアソレノイド弁56は、コントローラ41からソレノイド56aに入力された電流の値に応じてその出力油圧が一義的に決まるようになっている。補助ブレーキ装置26は、ホイールシリンダ58に液圧が供給されることで作動し、前輪5に制動力を付与するようになっている。
【0033】
コントローラ41のメモリ41aには、補助ブレーキが必要であるか否かを判定し、必要であれば補助ブレーキ装置26を作動させる図7に示す補助ブレーキ制御用プログラム及び図6に示すマップMが記憶されている。
【0034】
マップMはリニアソレノイド弁56の出力油圧を決めるためのものである。マップMの縦軸は液圧値で横軸は後輪加速度(後輪減速度)であり、その横軸は図6で右側に向かうに従い負の値が大きくなる方向にとっている。コントローラ41は加速度(減速度)aからマップMを参照して決まる油圧(液圧)を基にリニアソレノイド弁56のソレノイド56aに流す電流値を決めている。駆動輪6がスリップしているとみなし得るしきい値αを駆動輪6の加速度aが超えた場合(即ち、加速度aの値がしきい値αよりも小さくなる場合)に、ブレーキ制御バルブ20はホイールシリンダ58の液圧が「p」となるように制御される。また、加速度aがしきい値αを超えない場合、ブレーキ制御バルブ20はホイールシリンダ58の液圧が「0」となるように制御される。
【0035】
コントローラ41は回転数センサ35からの単位時間当たりの入力パルス数から駆動輪6の回転速度を求め、この駆動輪6の回転速度の単位時間当たりの変化を単位時間で除する計算をすることにより駆動輪6の加速度aを求める。また、しきい値αは、後輪6の主ブレーキ装置31によって車両に発生す最大制動力を、車両が最も軽くなる空荷状態のときの車両重量で除算して得られる最大加速度(最大減速度)より大きな値に設定されている。
【0036】
次に、コントローラ41が実行する補助ブレーキ制御用プログラムについて図7のフローチャートに従って説明する。
S101において、ブレーキスイッチ42からブレーキペダル34の踏込操作を止めた旨のブレーキスイッチ制動信号、またはアクセルレバー11をスイッチバック操作した旨のアクセル制動信号を入力したか否かを判断する。これらのいずれかの信号を入力した際は、駆動輪6に制動力が付与される。すなわちブレーキスイッチ制動信号入力時はブレーキペダル34の踏込操作が止められたことにより主ブレーキ装置31が機械的に作動されて駆動輪6に主制動力が加えられる。一方、アクセル制動信号入力時はドライブモータ14に回生ブレーキが加えられて駆動輪6に主制動力が加えられる。
【0037】
S102において、既定値にてブレーキ制御バルブ20に通電を行う。即ち、ホイールシリンダ58の液圧値は「0」であるが、このホイールシリンダ58が作動しない程度の既定値の電流をブレーキ制御バルブ20の各弁55,56に通電する。
【0038】
S103において、回転数センサ35からの単位時間当たりの入力パルス数から後輪6の回転速度を求め、その回転速度の所定単位時間当たりの変化を計算して後輪6の加速度(即ち、減速度)aを求める。
【0039】
S104において、加速度aがしきい値αを超えるか否かを判定する。ここで加速度aがしきい値αを超えるときは、駆動輪6がスリップしていると判断してS105に移行する。また、加速度aがしきい値αを超えないときは、駆動輪6がスリップしていないと判断してS108に移行する。
【0040】
S105において、後輪6のスリップ時にはマップMから設定液圧値pを読み込む。
S106において、ブレーキ作動指令をする。即ち、シャットオフ弁55のソレノイド55aを励磁してこれを開弁するとともに、マップMから読み込んだ設定液圧値pに応じた電流値をリニアソレノイド弁56のソレノイド56aに通電する。この結果、補助ブレーキ装置26が作動され、各ホイールシリンダ58,58に供給された設定液圧値pに応じた制動力が前輪5,5に付与される。
【0041】
S107において、制動信号が解除されたか否かを判定する。即ち、ブレーキペダル34が再び踏込まれたか、或いはアクセルレバー11が中立位置もしくは進行方向と同じ位置に操作されたか否かを判断する。そして、S107で制動信号が解除されればS108に移行する。
【0042】
S108において、各弁55,56のソレノイド55a,56aへの通電を停止して、左右の補助ブレーキ装置26,26の作動を停止する。
従って、この実施形態では以下のような効果を得ることができる。
【0043】
(1)駆動輪6の加速度aがしきい値αを超える場合、駆動輪(後輪)6がスリップしていると判断し、この場合に前輪5に設けられた補助ブレーキ装置26を作動させる。従って、例えば水濡れ路面や凍結路面でブレーキ操作がなされて駆動輪6がスリップしても、前輪5に補助制動力が付与されることになるので、従来技術で述べたスリップした車輪の制動トルクを抜くABS制御を採用する場合に比べ、制動距離を短縮できる。また、駆動輪6のスリップを検出するのに加速度を用いるので、例えば従動輪である前輪5の回転速度を検出するセンサが不要で駆動輪6の回転速度を検出する回転数センサ35があれば足りるので、簡単な構造で実現できる。
【0044】
(2)フォークリフト1は後輪駆動式であり、荷積載時に車体2の前部に相対的に大きな荷重がかかり主制動力が加えられる駆動輪6の輪重が相対的に低下するが、駆動輪6のスリップ時には積荷時に輪重が増えて相対的にスリップし難くなっている前輪5に補助ブレーキ装置26により補助制動力が付与される。よって、荷重のため車両総重量が重く制動距離が長くなる傾向にある積荷時でも、水濡れ路面などでの駆動輪6のスリップ時には前輪5,5に補助制動力が付与されることにより制動距離を効果的に短くできる。さらに積荷状態でマスト装置21が前方に移動したリーチアウト時においては駆動輪6の輪重が一層低下するが、輪重の増えた前輪5に補助制動力が付与されることで、この場合も制動距離が効果的に短くなる。
【0045】
(3)フォークリフト1は駆動輪6が車幅中心からオフセットして位置するが、制動時に後輪6がスリップした時は補助ブレーキ装置26が作動されて左右の前輪5,5に補助制動力が付与されるので、例えば水濡れ路面や凍結路面でブレーキ操作したときに、スリップ時の駆動輪6に働く横方向力(サイドフォース)に起因して車体2が図4の矢印方向に旋回する尻振り現象を防止することができる。
【0046】
(4)ブレーキペダル34の踏込操作解除やアクセルレバー11のスイッチバック操作がなされて制動信号を入力したときには、予めブレーキ制御バルブ20の各弁55,56に既定値の予備電流を流すので、駆動輪6のスリップ検出後、直ちにホイールシリンダ58に設定液圧を立ち上げることができる。よって、補助ブレーキ装置26が作動する際のタイムロスを低減できる。
【0047】
なお、実施形態は前記に限定されるものではなく、次のように変更してもよい。
○ 駆動輪6がスリップしたとき、制動信号の入力が解除されるまで補助ブレーキ装置26を作動させることに限定されない。例えば加速度aの値がしきい値αを超えなくなったとき(即ち、スリップから回復したとき)に、補助ブレーキ装置26の作動を停止してもよい。
【0048】
○ 加速度aがしきい値αを超えたときの設定液圧(補助制動力)は可変であってもよい。例えばリフトシリンダ25の内部油圧を検出する圧力センサの検出値を基に積荷の荷重を算出し、その荷重から把握される車両全重量に応じて、車両重量が大きいほど大きな値をとるように設定液圧(補助制動力)を設定する。
【0049】
○ 前輪5および後輪6が共に駆動輪である3輪駆動式のリーチ型フォークリフトにも採用できる。後輪6がスリップしたときに前輪5に補助ブレーキ装置26による補助制動力が付与されるので、3WDの構成でも制動距離を短くすることができる。また前輪5も駆動輪であると、従動輪と駆動輪の回転差から駆動輪のスリップを検出する検出方法を採用できないが、駆動輪の加速度からスリップを検出する方式なので、3WDの構成でも後輪6のスリップを検出できる。
【0050】
○ 補助ブレーキ装置26は、ブレーキペダル34の踏込操作解除やアクセルレバー11のスイッチバック操作などの制動操作に連動して常に作動されてもよい。例えば制動操作時に後輪のスリップがしきい値を超えたときに、補助ブレーキ装置26の補助制動力を通常(後輪の非スリップ時)の制動力より強くする構成とする。この構成によっても、駆動輪6がスリップした際の制動距離を短くすることができる。
【0051】
○ 前輪、後輪のうちいずれか一方に主制動手段が設けられたフォークリフトにおいて、前輪および後輪の両方に補助ブレーキ装置26を装備してもよい。この場合、後輪スリップ時には前輪の補助ブレーキ装置26を作動させ、前輪スリップ時には後輪の補助ブレーキ装置26を作動させることによって、前輪或いは後輪のどちらがスリップしても制動距離を短縮できる。
【0052】
○ 主ブレーキ装置による主制動が前輪5にかかり、補助ブレーキ装置による補助制動が後輪6にかかる構成でもよい。例えばフォークリフトの場合、空荷のときには前輪5の輪重が相対的に小さくなり前輪5がスリップし易いが、前輪5がスリップしたときに後輪6に補助制動力がかかる、あるいは通常の制動力に補助制動力が付加されることによって、制動トルクを抜く制御に比べ制動距離を短縮することができる。
【0053】
○ 後輪6のスリップ検出時に後輪6の制動トルクを抜くABS制御を併用してもよい。
○ 補助ブレーキ装置26や主ブレーキ装置31としてどんな方式のブレーキ装置も採用できる。例えば補助ブレーキ装置26としてディスクブレーキ装置を採用できる。また主ブレーキ装置31としてドラムブレーキ装置を採用できる。
【0054】
○ 後輪6は車幅中心からオフセットして位置することに限定されない。例えば、後輪(駆動輪)が車幅中央に1個、あるいは後輪(駆動輪)が左右2輪ある構成でもよい。
【0055】
○ 産業車両はリーチ型フォークリフト1に限定されず、例えばカウンタバランス型やオーダーピッキング型などの他のタイプのフォークリフトに適用することもできる。また無人フォークリフトに適用することもできる。その他、主制動のかかる車輪がスリップしたときに、主制動のかかる車輪と前後反対側の車輪に補助制動力を付与する構成を、フォークリフト以外の他の産業車両で実施することもできる。
【0056】
前記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下にその効果とともに記載する。
(1) 前記制御手段は、前記補助制動手段に出力する油圧を制御する電磁式圧力調整弁(56)を備え、前記制御手段は前記制動用の操作手段が操作されると、前記電磁式圧力調整弁に前記補助制動手段を作動させない規定値の予備電流を通電する。この場合、補助制動手段を作動させるときのタイムロスを低減できる。
【0057】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、制動操作した際に主制動がかかる車輪がスリップしたときに、スリップした車輪と前後反対側の車輪に補助制動力が付与されるので、スリップした車輪の制動トルクを抜く制御を採用する場合に比べ制動距離を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 フォークリフトの概略構成図。
【図2】 荷役系及びブレーキ系の油圧回路図。
【図3】 フォークリフトの側面図。
【図4】 フォークリフトの平面図。
【図5】 後輪のドライブ機構を示す背面図。
【図6】 駆動輪のスリップ検出時のブレーキ制御に使用されるマップ。
【図7】 補助ブレーキ制御用プログラムを示すフローチャート。
【図8】 従来のフォークリフトの側面図。
【符号の説明】
1…産業車両としてのフォークリフト、4…支持レールとしてのリーチレール、5…前輪、6…後輪(駆動輪)、11…操作手段としてのアクセルレバー、14…主制動手段を構成するドライブモータ、21…荷役装置としてのマスト装置、26…補助制動手段としての補助ブレーキ装置、31…主制動手段としての主ブレーキ装置、34…操作手段としてのブレーキペダル、35…検出手段としての回転数センサ、41…制御手段としてのコントローラ、46a…主制動手段を構成する回生回路、a…加速度、α…しきい値。
Claims (4)
- 制動用の操作手段が操作されたことに基づき作動され、前輪と後輪のうちいずれか一方に制動力を付与する主制動手段と、
前記前輪と後輪のうち少なくとも一方に、前記制動手段を補助するための制動力を付与する補助制動手段と、
前記前輪と後輪のうち、前記主制動手段によって主制動が付与される車輪の回転速度のみを検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記回転速度の時間的変化を演算することで加速度を算出し、前記主制動が付与される車輪のスリップとみなし得るしきい値を前記加速度が超えると、当該スリップした車輪と前後反対側の車輪に補助の制動力を付与する前記補助制動手段を作動させる制御手段とを備え、前記しきい値は、前記主制動手段によって車両に発生する最大制動力を車両が空荷状態の車両重量で除算して得られる最大加速度より大きな値である産業車両のブレーキ制御装置。 - 前記主制動手段による制動力が付与されると共に前記検出手段による回転速度の検出対象となる前記車輪は、前記前輪と後輪のうち車両に装備された荷役装置の積載荷重が大きいほど輪重が小さくなる側の車輪であり、前記補助制動手段による補助の制動力が付与される車輪は、前記荷役装置の積載荷重が大きいほど輪重が大きくなる側の車輪である請求項1に記載の産業車両のブレーキ制御装置。
- 前記産業車両は、前記荷役装置が車両の支持レールに沿って前後方向に移動可能なリーチ式である請求項2に記載の産業車両のブレーキ制御装置。
- 前記主制動手段により制動力が付与されると共に前記検出手段による回転速度の検出対象となる前記車輪は、前記車両の車幅方向において中心からずれて配置されている請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の産業車両用のブレーキ制御装置。
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