JP3854985B2 - バナジン酸塩ガラス及びバナジン酸塩ガラスの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電極材料、固体電解質、サーミスタ等のセンサとして好適に用いられ、その電気伝導度を所定の範囲に調整してガラス半導体の設計や開発を容易に行うことのできるバナジン酸塩ガラス及びバナジン酸塩ガラスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、サーミスタ等として用いられるガラス半導体として、五酸化バナジウム(V2O5)を主成分とするバナジン酸塩ガラスが開発されており、これに酸化カリウム(K2O)や酸化ナトリウム(Na2O)を第2成分として加えてガラス化したもの等が知られている。
酸化カリウムや酸化ナトリウムを添加したものでは、バナジン酸塩ガラスの室温での電気伝導度の値は、溶融物を急冷する通常の方法でガラスを作製した場合、せいぜい10-5S・cm-1程度である。
バナジウムを多量に含むガラスは、通常のイオン伝導性の酸化物系ガラスとは異なり、電子伝導性であるため比較的高い電気伝導度を示し、サーミスタ等に用いられている。このようなガラス組成物に関して、例えば以下のようなものが知られている。
(1)特公昭42−24785号公報(以下イ号公報という)には、五酸化バナジウム50モル以上を含み五酸化燐と酸化バリウムとからなるガラス組成に、酸化セリウムと酸化錫並びに酸化鉛を添加した熱感応抵抗素子用ガラス状抵抗材料が開示されている。
(2)特公昭39−9140号公報(以下ロ号公報という)には、五酸化バナジウム70モル%以上、五酸化燐5〜15モル%を含むガラスに13モル%以下の酸化銅を加えて得られるガラスからつくられたサーミスタが開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来のバナジウムを主成分とするバナジン酸塩ガラスでは以下のような課題を有していた。
(1)イ号公報やロ号公報等に記載の溶融物を急冷して得られたバナジン酸塩ガラスでは、その室温での電気伝導度はせいぜい10-5S・cm-1程度と低く、電極材料や固体電解質、サーミスタ等のセンサとして用いるには電気伝導性が不足して実用上使用できない場合があるという課題があった。
(2)バナジン酸塩ガラスの含有成分やその組成によって電気伝導度が左右され、しかもその値がばらつくために、電気伝導度を所定範囲内に調整してガラス半導体等としての設計を精密に行うことが困難であるという課題があった。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、その電気伝導度を飛躍的に高めて電極材料や固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を向上させるとができるバナジン酸塩ガラスを提供し、電気伝導度を所定範囲に制御してこれらを用いる装置や回路の設計を容易に行うことのできるバナジン酸塩ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は以下の構成を有している。
請求項1に記載のバナジン酸塩ガラスは、バナジウム、バリウム、鉄を含む酸化物系ガラス組成物であって、酸化バナジウム、酸化バリウム及び酸化鉄を含む混合物を溶融、急冷して得られたガラス組成物が、前記ガラス組成物のガラス転移温度以上、結晶化温度以下の温度に加熱され、その室温における電気伝導度が10−4〜10−1S・cm−1 のガラス半導体であるように構成されている。
これによって、以下の作用を有する。
(1)バナジウムを主成分とする酸化物系ガラス組成物にバリウム、鉄が副成分として含まれるので、これらの原子が3次元的に関連し合ったガラス骨格を形成させることができ、その電気伝導性を高めて電極材料や固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を向上させることができる。
(2)電気伝導度が所定範囲に設定されているので、バナジン酸塩ガラスをサーミスタや電極素子に適用する場合の設計を容易にでき、設計性に優れている。
(3)バナジン酸塩ガラスにはバリウム及び鉄が含有されているので、ガラス骨格中に4価のバナジウムと5価のバナジウムイオンを配置でき、これにより電子ホッピングの確率が高められ、電気伝導性に優れている。
(4)ガラス質であるため、層状構造の結晶質のものに比べて層間化合物の生成などのインターカレーションによる構造変化を少なくでき、安定した性能を維持できる。さらに、二次電池用カソード電極等に適用した場合、結晶質のものでは2相共存状態がいくつかあるために起電力がステップ状に変化するが、ガラス質では起電力がほぼ一定であり、しかも化学拡散係数を高くできるのでより高いエネルギー密度が得られる。
(5)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり小型化、軽量化ができ、経済性や機能性、デザイン性にも優れている。
(6)ガラス質としているので、複雑な形状等への成形が容易にでき、しかも加工性に優れており、種々の形態の半導体素子としての応用が可能である。
【0006】
ここで、バナジウムは酸化物系ガラスの主骨格を形成させるための構成元素であり、その酸化数が2、3、4、5等に変化して、電子がホッピングする確率を高めることができる。
バナジン酸塩ガラス中の酸化バナジウムの含有量は、40〜98モル%の範囲とすることが望ましい。これはその適用条件にもよるが、酸化バナジウムの含有量が40モル%より少ないと、バナジウムを主構成要素としたガラス骨格を維持させるのが困難になる上に電気伝導度を所定範囲に維持させるのが困難になる傾向が現れ、逆に98モル%を超えると相対的に副成分の量が減るためにこれら副成分による電気伝導度や光学特性、機械的特性等の調整機能を低下させる傾向が現れるからである。
【0007】
バリウムは、二次元的な構成のバナジウム酸化物のガラス骨格を3次元化するために添加される構成元素である。
五酸化バナジウムは図1に示すようなVO5ピラミッドから成る層状の結晶構造を有しており、これに酸化カリウム(K2O)や酸化ナトリウム(Na2O)を第2成分として加えてガラス化した場合には、そのガラス骨格が1次元的になる。しかし、五酸化バナジウムに酸化バリウム(BaO)を第2成分として加えることにより、そのガラス骨格を3次元的に形成させることができる。従って、そのガラス骨格を3次元化させることで電気伝導度を向上させ、サーミスタ、コンデンサ、磁性体などとしてバナジン酸塩ガラスを有効に機能させることができる。
バナジン酸塩ガラス中の酸化バリウムの含有量は、1〜40モル%の範囲とすることが望ましい。これは適用条件にもよるが酸化バリウムの含有量が1モル%より少ないと、過剰酸素を吸収した固溶体を生成させP型半導体等として機能させることが困難になる他、均質なガラス化が困難になる傾向が現れ、逆に40モル%を超えると機械的強度や光透過性等が低下しガラス化しにくくなる傾向が現れるので好ましくない。
【0008】
鉄は3d軌道に5個の電子を有する元素であり、この電子がガラス骨格の導電性に寄与している可能性が高い。すなわち、バナジン酸塩ガラスでは、V(IV)からV(V)への電子ホッピングにFeの3d軌道上の5個の価電子も寄与していると推定される。酸化バリウムと同様に酸化鉄の濃度を変化させることで導電性を調整することができ、この電気伝導度の調整成分として添加される。
バナジン酸塩ガラス中の酸化鉄の含有量は、1〜20モル%の範囲とすることが望ましい。これは適用条件にもよるが酸化鉄の含有量が1モル%より少ないと、鉄による電子ホッピング効果を維持させるのが困難になる傾向が現れ、逆に20モル%を超えると光透過性等の光学特性が低下する等の弊害が現れるからである。
【0009】
バナジン酸塩ガラスの電気伝導度は25℃の室温において、10-4〜10-1S・cm-1、好ましくは10-3〜10-2S・cm-1の範囲とすることが望ましい。これは、バナジン酸塩ガラスを適用する電極やサーミスタの種類や容量、用途等にもより変動するが、電気伝導度が10-3S・cm-1より小さくなるにつれ、各種の素子として作動効率が低下し、作動しなくなる等の傾向が現れ、逆に、電気伝導度が10-2S・cm-1を超えるにつれバナジウムの量が相対的に増大して機械的強度等が劣化し、半導体としての電気特性が失われる傾向が現れ、これらの傾向は10-4S・cm-1より小さくなるか、10-1S・cm-1より大きくなるとさらに顕著になるからである。
【0010】
所定の電気伝導度を有したバナジン酸塩ガラスは、例えば酸化バナジウム50〜90モル%、酸化バリウム5〜35モル%、酸化鉄5〜15モル%を含む混合物、若しくは酸化バナジウムと酸化バリウム又は酸化バナジウムと酸化鉄を含む混合物を白金るつぼ中等で加熱溶融した後、これを急冷してガラス化し、このガラス化物を所定のアニーリング処理条件で熱処理することにより製造できる。
【0011】
請求項2に記載のバナジン酸塩ガラスは、請求項1に記載の発明において、前記酸化物系ガラス組成物に酸化レニウムが1〜15モル%含有されて構成される。
この構成によって、請求項1の作用の他、以下の作用が得られる。
(1)導電性に優れた酸化レニウムがバナジン酸塩ガラス中に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気伝導度をさらに効果的に向上できる。
(2)酸化レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移温度や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング処理を容易に行うことができる。
(3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を提供できる。
ここで、酸化レニウムの含有量が1モル%より少ないと電気伝導度を効果的に増加させることが困難になり、逆に15モル%を超えると、バナジウムを主構成要素とするガラス骨格の形成ができなくなるので好ましくない。
【0012】
請求項3に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法は、酸化バナジウム及び、酸化バリウム、酸化鉄を含む混合物を溶融、急冷してそのガラス組成物を得た後、前記ガラス組成物のガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の温度に加熱した後、所定時間保持させ、前記ガラス組成物の電気伝導度を調整するように構成されている。
この構成によって、以下の作用を有する。
(1)バナジン酸塩ガラスにおける電気伝導性は、3d軌道に1個の電子を持つ4価のバナジウムから3d軌道に電子を持たない5価のバナジウムへの電子のホッピング(hopping)に基づくものであり、ガラス骨格そのものが導電機構に関与している。このようなバナジン酸塩ガラスに適度な熱処理を施すことによりガラス骨格そのものの構造や歪み等を変化させて、物性(電気伝導度など)を所定の値に制御することができる。
(2)酸化バナジウムを主成分とするバナジン酸塩ガラスをそのガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の温度に所定時間保持させるので、バナジウム、バリウム、鉄、酸素からなるガラス骨格の歪みを小さくすることができ、これによって4価から5価のバナジウムヘ電子がホッピングする確率を大きくして、ガラス半導体としての導電性を増大させることができ、高性能の電極やサーミスタを製造でき、生産性に優れている。
(3)アニーリング処理の温度や保持時間等のアニーリング条件とこのアニーリング条件により得られるバナジン酸塩ガラスの電気伝導度との対応関係を用いて、アニーリング条件を選択して、その電気伝導度を任意に調整できるので、用途や使用環境に応じた特性を有したサーミスタ素子等を容易に製造できる。
【0013】
ここで、ガラス転移温度、結晶化温度は、混合物を直接、示差熱分析装置等にかけたり、その推定される構成成分のデータに基づいて状態図を用いた熱力学的計算等を行ったりすることで求めることができる。なお、アニーリング処理の温度は結晶化温度付近に設定すると短時間で処理がすむが、結晶化温度よりも数十度低いガラス転移温度付近で熱処理しても、加熱保持時間が長くなるだけで、基本的にはガラス骨格の構造緩和を生じさせることができる。従って、バナジン酸塩ガラスをガラス転移温度以上、結晶化温度以下の温度で熱処理することによりガラス骨格の歪みを小さくして電子ホッピングの確率を増すことができ、その導電性を大幅に改良することができる。
酸化バナジウムとしては、一酸化バナジウム、三二酸化バナジウム、二酸化バナジウム、五酸化バナジウムが含まれ、特に五酸化バナジウムが好適に用いられる。
酸化バリウムとしては、通常のBaOの他に、過剰酸素を含む固溶体としてのBaOや過酸化バリウムが含まれる。
酸化鉄としては、FeOの他に四酸化三鉄、三酸化二鉄が含まれる。
【0014】
請求項4に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法は、請求項3に記載の発明において、前記アニーリング処理前のガラス組成物の電気伝導度が10-8〜10-6S・cm-1であり、アニーリング処理後の10-4〜10-1S・cm-1であるように構成されている。
この構成によって、請求項3の作用の他、以下の作用が得られる。
(1)ガラス組成物のアニーリング処理前後の電気伝導度をそれぞれ所定の範囲に限定しているので、ラインに載せて大量生産する場合の生産管理を容易にして電気的特性に優れたサーミスタ等の素子を効率的に製造することができる。
(2)アニーリング処理後の電気伝導度を所定のレベルに高め、しかもばらつきの少ない状態に維持でき、信頼性や制御性に優れた電気素子を製造できる。
【0015】
ここで、アニーリング処理後のガラス組成物の電気伝導度は、ガラス組成物を適用する電極やサーミスタの種類や容量、用途等にもより変動するが、10-4S・cm-1より小さいと、各種の素子として作動効率が低下したり、作動しなくなったりする弊害が現れ、逆に、電気伝導度が10-1S・cm-1を超えるとバナジウムの量が相対的に増大して機械的強度等が劣化したり、コストアップに繋がる等の弊害や、半導体としての特性が失われる等弊害が現れるので好ましくない。
またアニーリング処理前のガラス組成物の電気伝導度は、適用する条件によっても変動するが、10-8S・cm-1より小さいと、熱処理によっても実用レベルまで電気伝導度を上げることが困難になり、作動効率が低下したり作動が困難になる弊害が現れる。逆に、電気伝導度が10-6S・cm-1を超えると熱処理により電気伝導度を所定範囲に維持させる制御性が悪化する弊害が現れ、長時間の処理により結晶化してガラスセラミックス(結晶化ガラス)が生じて電気特性が劣化する等の弊害が現れるので好ましくない。
【0016】
請求項5に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法は、請求項3又は4に記載の発明において、前記混合物100wt%に対して酸化レニウムが+1〜+10wt%添加されて構成されている。
この構成により請求項3又は4に記載の作用の他、以下の作用が得られる。
きる。
(1)導電性に優れた酸化レニウムがバナジン酸塩ガラス中に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気伝導度をさらに効果的に向上できる。
(2)酸化レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移温度や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング処理を容易に行うことができる。
(3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を提供できる。
(4)アニーリング前のガラスの電気伝導度をReO3を含まない場合よりも一桁以上高くすることができる。
ここで、酸化レニウムとしては、三酸化二レニウム、二酸化レニウム、五酸化二レニウム、三酸化レニウム七酸化二レニウム等の酸化数が3から7までの化合物が含まれる。この中でも三酸化レニウムが特に好ましく用いられるが、その目的とする電気伝導度や、機械的強度、光透過性等の条件に応じてこれらの酸化物を適宜選択して用いることもできる。
酸化レニウムの添加量が+1wt%より少ないと電気伝導度を効果的に増加させることが困難になり、逆に+10wt%を超えると、バナジウムを主構成要素とするガラス骨格の形成ができなくなるので好ましくない。
【0017】
請求項6に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法は、請求項3乃至5の内いずれか1項の発明において、前記酸化バリウム(B)の前記酸化バナジウム(V)に対するモル比(B:V)が5:90〜35:50であるように構成される。
この構成によって、請求項3乃至5の内いずれか1項の作用の他、以下の作用が得られる。
(1)酸化バリウムの酸化バナジウムに対するモル比が所定範囲に設定されているので、3次元構成のガラス骨格を有効に形成してアニーリング処理における電気電導度の増加率が向上させることができ、生産性に優れている。
(2)アニーリング処理前におけるバナジン酸塩ガラスの電気伝導度のばらつきが少なくなるので、所定範囲に規格化された素子を容易に製造できると共に、信頼性に優れたサーミスタや電極等の電子部品を低原価で提供できる。
(3)特定組成のガラス組成物をアニーリング処理することによりその電気伝導度を一桁以上増加させることができる。
ここで、モル比(B:V)が5:90より小さいと、3次元構成のガラス骨格を形成させるのが困難になったり、酸化バナジウムによるガラス組成物の結晶化温度、ガラス転移温度等の調整が困難になったりする。また均質なガラス化が困難になるような弊害が現れるので好ましくない。逆にモル比(B:V)が35:50より大きくなると、ガラス特性が低下する傾向にあり、しかもバナジウムを主骨格として酸化物ガラスを構成することが困難になるので好ましくない。
【0018】
請求項7に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法は、請求項3乃至6の内いずれか1項の発明において、前記酸化鉄(F)の前記酸化バナジウム(V)に対するモル比(F:V)が5:90〜15:50であるように構成されている。
この構成によって、請求項3乃至6のいずれか1項の作用の他、以下の作用が得られる。
(1)酸化鉄の酸化バナジウムに対するモル比が特定範囲に設定されているので、ガラスとしての光透過性等の光学特性を損なうことなく維持でき、光学素子としての利便性に優れている。
(2)酸化物系ガラス中における鉄の酸化数を異ならせることにより、電子ホッピング効果を更に増大させることができ、高い電気伝導度を維持させることができる。
(3)酸化鉄の添加による磁性発現も期待でき、これを利用したメモリ等への適用が可能である。
ここで、モル比(F:V)が5:90より小さくなると、酸化鉄によるガラス組成物の結晶化温度、ガラス転移温度等の調整が困難になり、また、ガラス化しにくくなる等のような弊害が現れるので好ましくない。
逆にモル比(F:V)が15:50より大きくなると、光透過性等の光学特性が劣化して透明電極への適用が困難になると共に、均質なガラスが困難となり、しかもバナジウムを主骨格とした酸化物系ガラスを構成することが困難になるので好ましくない。
【0019】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1のバナジン酸塩ガラスは以下のように製造される。
まず、酸化バナジウム及び、酸化バリウム、酸化鉄を所定量含む混合物を作製する。この混合物をその溶融点温度以上に加熱して溶融、急冷してそのガラス組成物を得る。次に、このガラス組成物をそのガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の温度に所定時間保持させ、所定の電気伝導度を有するバナジン酸塩ガラスを製造方法する。以下、この製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0020】
まず、その化学組成が15BaO・70V2O5・15Fe2O3に調整された混合物Aを作成する。この混合物A中にはバナジウムからなるガラス主骨格を3次元化するためのBaO等の酸化バリウム、3d電子による電子ホッピング効果を促すための酸化鉄が副成分として含まれている。
なお、周期表の第2族元素(Mg)あるいは五酸化リン(P2O5)を副成分として主成分となる五酸化バナジウムに加えることによっても、ガラス骨格を3次元化させることができる。従って、BaOをMgO、あるいはP2O5に置換した場合にも同様に電気伝導度の上昇が期待できる。また、周期表上でBaとMgの中間に位置するCaの酸化物を用いても同様の効果が期待できる。
試薬特級の酸化バリウム(BaO)が15モル%、五酸化バナジウム(V2O5)が70モル%、酸化鉄(Fe2O3)が15モル%になるよう、直示天秤を用いて各試薬を秤り取る。試薬の合計が1グラム(g)の場合には、BaOが0.1320g、V2O5が0.7306g、Fe2O3が0.1375gとなる。
この混合物Aを白金るつぼに移し、電気炉中1000℃で60分間加熱し、溶融する。これを直ちに氷水で急冷する(白金るつぼの外側、底部を氷水に浸ける)ことにより、V−Ba−Fe系のガラス組成物Aが得られる。
【0021】
なお、前記アニーリング処理方法は、以下の二通りの方法がある。
▲1▼電気炉などの温度を予め目標とする温度に設定しておき、電気炉等の温度が一定となったところで、室温に保存しておいたガラス試料を入れる方法である。
この方法の特徴は、加熱時間を比較的正確に制御できるという点である。目標とする時間が経過したら、直ちに電気炉等からガラスを取り出し、白金るつぼ等の容器の外側を氷水等で急冷する。このように急冷することにより、加熱開始からの熱処理(加熱)時間を正確に制御できるので、高い精度でガラスの構造緩和が可能となる。よって、電気伝導度の制御が高精度で可能となり、目的の電気伝導度(導電性)に設定することができる。
▲2▼ガラスを室温からゆっくり加熱する方法である。これは、電気炉等の昇温速度を一定に(任意に)設定し、目的の温度に到達後、適当な時間加熱し、その後一定速度で徐々に室温、または室温付近まで冷却する方法である。
以上の▲1▼、▲2▼の方法により、ガラス骨格のゆがみ(ひずみ)を小さくしたり、あるいは取り除いたりすることができ、これらを組み合わせることもできる。
例えば、予め目標の温度に加熱した電気炉の中にガラスを入れ、一定時間経過後、ゆっくり室温付近まで冷却する方法などが挙げられる。最も重要なことは、ガラスに与える熱エネルギーの総量である。よって、目的とする電気物性の発現に最も適切な方法をとる必要がある。
【0022】
以上のように作成されたガラス組成物Aの試料について示差熱分析(DTA)や示差走査熱量測定(DSC)などを行うことによりそれぞれのガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)を求めた。
ガラスをそのガラス転移温度以上の温度で加熱すると、ガラス骨格の切断やガラスを構築する骨格の再構築、フラグメントの再配列が起きる。しかし、ガラスを長時間、ガラス転移温度以上の温度で加熱すると、ガラス相中に結晶相が析出し、それらが成長することにより、ガラスは結晶化ガラス(ガラスセラミック)となって、電気伝導度や光透過性等を低下させる要因となる。従って、アニーリング処理温度における保持時間は、そのガラス処理量や加熱装置の熱容量等によっても変動するが、所定の電気伝導度を保持させることができ、しかもこのような結晶化が起こらないような範囲、例えば10分〜180分間、好ましくは20〜60分間の範囲に設定しておくことが望ましい。
アニーリング処理温度はガラス転移温度以上、結晶化温度以下(示差熱分析における結晶化の発熱ピークの裾の高温側端点温度又は発熱ピークの中心点における温度)の範囲に設定する。この熱処理時間が短時間であれば、結晶相が析出する前に(結晶化ガラスとなる前に)ガラス骨格のゆがみ(ひずみ)が小さくなり、いわゆる構造緩和が起きる。
こうして、電気伝導度を10-4〜10-1S・cm-1の範囲のレベルにまで高められたバナジン酸塩ガラスを作製することができる。
【0023】
前記アニーリング処理がなされたガラス組成物Aの試料の電気伝導度を以下のようにして測定してその結果を表1に示した。
なお、測定に際しては前記ガラス組成物Aの試料厚さが1ミリメートル以下のガラス片を用いて、直流二端子法または直流四端子法、交流四端子法(電気伝導度の値が1×10-5S・cm-1以上の場合)を適用して室温で値を求めた。
ここでは、溶融した金属インジウムを用いて、ガラス表面にリード線を固定させたものを電極とした。電気伝導度(σ)の値は、電流密度(Acm-2)の値を電場の大きさ(Vcm-1)で割ったものである。
Acm-2÷Vcm-1=A/Vcm-1=S・cm-1=S・cm-1
なお、電気伝導度(S・cm-1)は、比抵抗(Ω・cm)の逆数である。
【0024】
【表1】
【0025】
図2にガラス組成物Aのガラス片を結晶化温度(370℃)で60分間熱処理して得られた試料の電流−電圧特性(I−V特性)を示す。電流(I)と電圧(V)は良好な直線関係を示すオーミック(ohmic)であることが分かる。従ってこの直線の傾きから、抵抗値が求まり(単位はΩ)、この値と試料のサイズから電気伝導度(単位はS・cm-1)が求まる。
図3には同じく、結晶化温度(370℃)で120分間熱処理した試料の電流−電圧特性を示す。この程度の熱処理では試料はガラス質のままであり、ガラス相中に混合物Aの組成に関連した結晶相がほとんど析出していないことが図4のX線回折パターンの結果からも分かる。肉眼による観測からもガラス質のままであることが確認できた。
【0026】
熱処理前の、このガラス組成物Aの試料の電気伝導度(σ)は1.1×10-7S・cm-1であったが、60分の熱処理(図2)で処理前の350倍に大きくなり(σ=3.8×10-5S・cm-1)、120分の熱処理(図3)では20000倍(σ=2.2×10-3S・cm-1)にもなっている。180分の熱処理後には、電気伝導度の値は当初の値の25000倍(σ=2.8×10-3S・cm-1)にもなっている。また、300分の熱処理後には、電気伝導度の値は当初の値の45000倍(σ=4.9×10-3S・cm-1)にもなっている。これらの電気伝導度の値は、五酸化バナジウムをベースとするガラス半導体試料(ブロック状試料)の中では、これまでのところ、最も大きな値である。これらの電気伝導度の値を熱処理時間に対してプロットしたデータを図5に示している。
【0027】
なお、この熱処理試料の電気伝導度の値は、カリウム、鉄を副成分とするバナジン酸塩ガラス(25K2O・65V2O5・10Fe2O3)における値(4.3×10-4S・cm-1;英国化学会誌T.Nishida他4名、1889−1896(1996))よりも10倍以上大きい。
これは、酸化バリウムを含むバナジン酸塩ガラスが3次元骨格を有しており、4価のバナジウムから5価のバナジウムヘ電子がホッピングする確率が、1次元骨格を持つ25K2O・65V2O5・10Fe2O3系のガラスよりも大きくなるためと考えられる。
【0028】
実施の形態1のバナジン酸塩ガラス及びその製造方法は、以上のように構成されているので以下の作用を有する。
(1)バナジン酸塩ガラスにおける電気伝導性は、4価から5価のバナジウムへの電子のホッピングに基づくものであり、バナジン酸塩ガラスに適度な熱処理を施すことによりガラス骨格そのものの構造や歪み等を変化させ、物性(電気伝導度など)を容易に制御できる。
(2)他のガラス半導体と同様、電極材料、固体電解質、各種センサなど幅広い分野での応用が期待できる。とりわけ、ガラスの組成を変えるという従来の材料設計法に加えて、ひとたび作製したガラス試料を、結晶化温度からガラス転移温度の間の任意の温度で適度に熱処理することにより、目的の電気伝導度を持つガラス半導体の設計と開発が容易となる。
(3)アニーリング処理時間とこのアニーリング処理により得られる電気電導度との関係を求めておき、この関係を用いて電気伝導度を所定値に設定することができる。こうしてブロック状のバナジン酸塩ガラスの電気伝導度を飛躍的に高めることができ、高い導電性を有するガラスやガラスセラミックス(結晶化ガラス)の開発が期待できる。
(4)バナジウムを主成分とする酸化物系ガラス組成物にバリウム、鉄が副成分として含まれるので、これらの原子からなるガラス骨格を互いに3次元的に関連し合った構造にすることができ、電子伝導性を高め、電極材料や固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を大幅に向上させることができる。
(5)バナジン酸塩ガラスには3次元ガラス骨格を形成させるバリウム及び、電子ホッピングの確率を高めるための鉄がそれぞれ適正量で含有されているので、光学特性等を損ねることなく電気伝導性を飛躍的に向上させることができる。
(6)酸化バナジウムを主成分とするバナジン酸塩ガラスをそのガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の温度に所定時間保持させるので、バナジウム、バリウム、鉄、酸素からなるガラス骨格の歪みを小さくすることができ、ガラス半導体としての導電性を増大させることができ、高性能の電極やサーミスタを製造するための生産性に優れている。
(7)アニーリング処理の温度や保持時間等のアニーリング条件とこのアニーリング条件により得られるバナジン酸塩ガラスの電気伝導度との対応関係を用いて、アニーリング条件を選択して、その電気伝導度を任意に調整できるので、用途や使用環境に応じた特性を有したサーミスタ素子等を容易に製造できる。
(8)ガラス組成物のアニーリング処理前後の電気伝導度をそれぞれ所定の範囲に限定しているので、ラインに載せて大量生産する場合の生産管理を容易にして電気的特性に優れたサーミスタ等の素子を効率的に製造することができる。
(9)アニーリング処理後の電気伝導度を所定のレベルに高め、しかもばらつきの少ない状態に維持でき、信頼性や制御性に優れた電気素子を製造できる。
【0029】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2のバナジン酸塩ガラスは以下のように製造される。
まず、酸化バナジウム及び、酸0化バリウム、酸化鉄をそれぞれ所定量含む混合物に酸化レニウムを添加したり、この混合物からなるガラス組成物を溶解しこれに所定量の酸化レニウムを添加したりして、所定の混合物を作製する。この混合物をその溶融点温度以上に加熱して溶融、急冷してそのガラス組成物を得る。次に、このガラス組成物を混合物のガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の温度に所定時間保持させ、ガラス組成物の電気伝導度を調整して、所定の特性を有するV−Ba−Fe−Re系のバナジン酸塩ガラスを製造方法する。以下、この製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0030】
まず、その化学組成が15BaO・70V2O5・15Fe2O3+x%ReO3(x=1、5、10)にそれぞれ調整された混合物Bを作成する。この混合物B中にはバナジウムからなるガラス主骨格を3次元化するための酸化バリウム及び、電子ホッピング効果を助長させるための酸化鉄、それ自体電気伝導性を有し電気電導度を増加させるための酸化レニウムが副成分として含まれている。
なお、前記x=1、5、10はモル比に換算すると、それぞれ1.3モル%、6.3モル%、11.9モル%に相当する添加量である。
試薬特級の酸化バリウム(BaO)が15モル%、五酸化バナジウム(V2O5)が70モル%、酸化鉄(Fe2O3)が15モル%になるよう、直示天秤を用いて各試薬を秤り取り、この混合物に対して酸化レニウム(ReO3)が重量比でx%(x=1および5、10)になるように酸化レニウムを秤り取って、この混合物を白金るつぼ等で溶融する。
また、前記ガラス組成物Aのガラス片を白金るつぼに移し、これを可能な限り低い温度(本ガラスの場合は720℃が適当)で溶融させ、溶融開始後直ちに酸化レニウムを加えるようにしてもよい。こうして約15分間溶融後、白金るつぼの外側(底面)を氷水で急冷してV−Ba−Fe−Re系のガラス組成物Bが得られる。
【0031】
以上のように作製されたガラス組成物Bの試料について示差熱分析や示差走査熱量測定を行うことによりそれぞれのガラス転移温度と結晶化温度を求めた。
次に、ガラス組成物Bを混合物のガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の保持温度である350〜390℃に所定時間、例えば5分〜120分間、好ましくは30分〜60分間、空気又は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス等の雰囲気中で保持させることにより、電気伝導度が所定値になるように調整して、実施の形態2のバナジン酸塩ガラスを作製した。
【0032】
酸化レニウム含有量がそれぞれ1、5、10wt%であるV−Ba−Fe−Re系のバナジン酸塩ガラス(ガラス組成物B)について、前記実施の形態1と同様にしてその電気伝導度等のデータを測定した。その電気伝導度の測定結果を表1に示す。
【0033】
図6に酸化レニウムの含有量が+5wt%(x=5)であるガラス組成物Bの熱処理前の試料の電流−電圧特性を示す。電流(I)と電圧(V)は良好な直線関係を示すオーミック(ohmic)であることが分かる。この試料の電気伝導度の値は1.7×10-7S・cm-1であった。酸化レニウム(ReO3)は、酸化物であるにも関わらず、金属並みの電気伝導度を有することで知られる。
このように電気伝導度が1.1×10-7S・cm-1であるガラス組成物Aに対して、ReO3をわずか5wt%ドープするだけで、ガラス組成物Bの電気伝導度を8.3×10-6S・cm-1にまで、即ちガラス組成物Aの電気伝導度の約75倍に高められることがわかる。
図7にはガラス組成物Bの試料を結晶化温度(370℃)で60分間熱処理した後の電流−電圧特性を示す。この熱処理試料もガラス質のままである。電気伝導度の値は、熱処理によって処理前の8.3×10-6S・cm-1から4.0×10-3S・cm-1まで上昇する。すなわち、60分間の熱処理より電気伝導度は、約480倍高くなっている。
【0034】
なお、x=10であるガラス組成物Bの場合はアニーリング処理前における電気伝導度が5.1×10-6S・cm-1であり、前記と同様にアニーリング処理を施すことにより電気伝導度の向上を図ることができる。
【0035】
表1に示すように酸化レニウムがx=1であるガラス組成物Bの場合には、ガラスの電気伝導度は1.7×10-6S・cm-1であり、370℃で60分間熱処理後には、5.0×10-3S・cm-1である。
この電気伝導度の値(5.0×10-3S・cm-1)は、食塩水の電気伝導度や超イオン伝導ガラスの電気伝導度に匹敵するものであり、ガラス半導体として、幅広い分野での応用が期待できる。
【0036】
例えば、このような特性を有するバナジン酸塩ガラスは、▲1▼二次電池用カソード電極、▲2▼燃料電池用電極、▲3▼発電所温排水管の貝殻等付着防止材、▲4▼端末等への入力用タッチパネル、その他、ジュール熱によりパネル面を加熱するくもり止め機能を有したガラスパネル、pHメータ用等のガラス電極、Ba2+イオンの移動を利用した固体電解質、太陽電池用電極等への適用が期待できる。
▲1▼二次電池用カソード電極は、結晶性の遷移金属カルコゲナイドや酸化物も注目されているが、結晶性材料の場合は放充電を繰り返すことによって大きな構造変化を生じ、電池特性が劣化するという問題がある。これに対してバナジン酸塩ガラスを用いた場合は、インターカレーションによる構造変化がないため、電池特性の劣化を防止できる。またこれらのバナジン酸塩ガラスは薄膜化が比較的容易であり電池の小型化、軽量化ができる。さらに定電流放電特性を比べた場合、結晶性V2O5では2相共存状態がいくつかあるために起電力がステップ状に変化するが、V2O5系ガラスではほぼ一定の起電力を生じ、平均的に高い起電力を示す傾向が見られ、より高いエネルギー密度が得られる。またガラスの放電電池特性が良好なのは、導電性に寄与するイオンの動きやすさ(化学拡散係数)が結晶より高いためと考えられる。
【0037】
▲2▼燃料電池用電極としては、現在のところ、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)を添加した多孔質炭素板が用いられている。炭素は酸素ガスと反応して材料が劣化する欠点があるが、化学耐久性の高いバナジン酸塩ガラスを電極材料として用いることでこの問題を解決することができる。
▲3▼発電所温排水管の貝殻等付着防止材は火力発電所や原子力発電所などの温排水管に適用される。ここには貝殻類が、また地熱発電所の出水管や入水管にはスケールと呼ばれるケイ酸塩が付着する。これらが付着する第一段階、あるいは全段階で微生物の働きが重要となっている。導電性に優れたバナジン酸塩ガラスに1mV程度の電圧をかけることにより、バイオレイヤーと呼ばれる微生物層の形成を阻止することができる。
▲4▼タッチパネルなどの車などに用いるガラス製品には、通常、透明の導電性ガラス(ITO膜など)が用いられるが、スイッチ材料として、導電性で加工性に優れたバナジン酸塩ガラスの適用が可能である。
なお、以上では実施の形態2の応用例について述べたが、実施の形態1で作製されたバナジン酸塩ガラスについても以上の応用例が適用できるのは言うまでもない。
【0038】
実施の形態2のバナジン酸塩ガラス及びその製造方法は、以上のように構成されているので実施の形態1の作用に加えて以下の作用を有する。
(1)導電性に優れた酸化レニウムがバナジン酸塩ガラス中に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気伝導度をさらに効果的に向上できる。
(2)酸化レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移温度や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング処理を容易に行うことができる。
(3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を提供できる。
(4)電極材料、固体電解質、各種センサなど幅広い分野での応用が期待できる。とりわけ、ガラスの組成を変えるという従来の材料設計法に加えて、ひとたび作製したガラス試料を、結晶化温度からガラス転移温度の間の任意の温度で適度に熱処理することにより、目的の電気伝導度を持つガラス半導体の設計と開発が容易となり生産性に優れている。
【0039】
【発明の効果】
請求項1に記載のバナジン酸塩ガラスによれば、以下の効果を有する。
(1)バナジウムを主成分とする酸化物系ガラス組成物にバリウム、鉄が副成分として含まれるので、これらの原子が3次元的に関連し合ったガラス骨格を形成させることができ、その電気伝導性を高めて電極材料や固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を向上させることができる。
(2)電気伝導度が所定範囲に設定されているので、バナジン酸塩ガラスをサーミスタや電極素子に適用する場合の設計を容易にでき、設計性に優れている。
(3)バナジン酸塩ガラスにはバリウム及び鉄が含有されているので、ガラス骨格中に4価のバナジウムと5価のバナジウムイオンを配置でき、電子ホッピングの確率が高められ、電気伝導性に優れている。
(4)ガラス質であるため、層状構造の結晶質のものに比べて層間化合物の生成などのインターカレーションによる構造変化を少なくでき、安定した性能を維持できる。さらに、二次電池用カソード電極等に適用した場合、結晶質のものでは2相共存状態がいくつかあるために起電力がステップ状に変化するが、ガラス質では起電力がほぼ一定であり、しかも化学拡散係数を高くできるのでより高いエネルギー密度が得られる。
(5)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり小型化、軽量化ができ、経済性や機能性、デザイン性にも優れている。
(6)ガラス質としているので、複雑な形状等への成形が容易にでき、しかも加工性に優れており、種々の形態の半導体素子としての応用が可能である。
【0040】
請求項2に記載のバナジン酸塩ガラスによれば、請求項1の効果の他、以下の効果が得られる。
(1)導電性に優れた酸化レニウムがバナジン酸塩ガラス中に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気伝導度をさらに効果的に向上できる。
(2)酸化レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移温度や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング処理を容易に行うことができる。
(3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を提供できる。
【0041】
請求項3に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法によれば、以下の効果を有する。
(1)バナジン酸塩ガラスにおける電気伝導性は、3d軌道に1個の電子を持つ4価のバナジウムから3d軌道に電子を持たない5価のバナジウムへの電子のホッピング(hopping)に基づくものであり、ガラス骨格そのものが導電機構に関与している。このようなバナジン酸塩ガラスに適度な熱処理を施すことによりガラス骨格そのものの構造や歪み等を変化させて、物性(電気伝導度など)を所定の値に制御することができる。
(2)酸化バナジウムを主成分とするバナジン酸塩ガラスをそのガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の温度に所定時間保持させるので、バナジウム、バリウム、鉄、酸素からなるガラス骨格の歪みを小さくすることができ、4価から5価のバナジウムヘ電子がホッピングする確率を大きくして、ガラス半導体としての導電性を増大させることができ、高性能の電極やサーミスタを製造でき、生産性に優れている。
(3)アニーリング処理の温度や保持時間等のアニーリング条件とこのアニーリング条件により得られるバナジン酸塩ガラスの電気伝導度との対応関係を用いて、アニーリング条件を選択して、その電気伝導度を任意に調整できるので、用途や使用環境に応じた特性を有したサーミスタ素子等を容易に製造できる。
【0042】
請求項4に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法によれば、請求項3の効果の他、以下の効果が得られる。
(1)ガラス組成物のアニーリング処理前後の電気伝導度をそれぞれ所定の範囲に限定しているので、ラインに載せて大量生産する場合の生産管理を容易にして電気的特性に優れたサーミスタ等の素子を効率的に製造することができる。
(2)アニーリング処理後の電気伝導度を所定のレベルに高め、しかもばらつきの少ない状態に維持でき、信頼性や制御性に優れた電気素子を製造できる。
【0043】
請求項5に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法によれば、この構成により請求項3又は4に記載の効果の他、以下の効果が得られる。
きる。
(1)導電性に優れた酸化レニウムがバナジン酸塩ガラス中に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気伝導度をさらに効果的に向上できる。
(2)酸化レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移温度や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング処理を容易に行うことができる。
(3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を提供できる。
(4)アニーリング前のガラスの電気伝導度をReO3を含まない場合よりも一桁以上高くすることができる。
【0044】
請求項6に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法によれば、請求項3乃至5の内いずれか1項の効果の他、以下の効果が得られる。
(1)酸化バリウムの酸化バナジウムに対するモル比が所定範囲に設定されているので、3次元構成のガラス骨格を有効に形成してアニーリング処理における電気電導度の増加率が向上させることができ、生産性に優れている。
(2)アニーリング処理前におけるバナジン酸塩ガラスの電気伝導度のばらつきが少なくなるので、所定範囲に規格化された素子を容易に製造できると共に、信頼性に優れたサーミスタや電極等の電子部品を低原価で提供できる。
(3)特定組成のガラス組成物をアニーリング処理することによりその電気伝導度を一桁以上増加させることができる。
【0045】
請求項7に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法によれば、請求項3乃至6のいずれか1項の効果の他、以下の効果が得られる。
(1)酸化鉄の酸化バナジウムに対するモル比が特定範囲に設定されているので、ガラスとしての光透過性等の光学特性を損なうことなく維持でき、光学素子としての利便性に優れている。
(2)酸化物系ガラス中における鉄の酸化数を異ならせることにより、電子ホッピング効果を更に増大させることができ、高い電気伝導度を維持させることができる。
(3)酸化鉄の添加による磁性発現も期待でき、これを利用したメモリ等への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】五酸化バナジウム結晶の層状構造を示す模式図
【図2】実施の形態1のバナジン酸塩ガラスの60分間熱処理後の電流−電圧特性図
【図3】バナジン酸塩ガラスの120分間熱処理後の電流−電圧特性図
【図4】バナジン酸塩ガラスの60分間熱処理後のX線回折パターン
【図5】バナジン酸塩ガラスの電気伝導度とアニーリング処理時間との関係を示す図
【図6】実施の形態2のバナジン酸塩ガラスにおける熱処理前の電流−電圧特性図
【図7】バナジン酸塩ガラスの熱処理後(370℃、60分)の電流−電圧特性図
Claims (7)
- バナジウム、バリウム、鉄を含む酸化物系ガラス組成物であって、酸化バナジウム、酸化バリウム及び酸化鉄を含む混合物を溶融、急冷して得られたガラス組成物が、前記ガラス組成物のガラス転移温度以上、結晶化温度以下の温度に加熱され、その室温における電気伝導度が10−4〜10−1S・cm−1 のガラス半導体であることを特徴とするバナジン酸塩ガラス。
- 前記酸化物系ガラス組成物に酸化レニウムが1〜15モル%含有されていることを特徴とする請求項1に記載のバナジン酸塩ガラス。
- 酸化バナジウム及び、酸化バリウム、酸化鉄を含む混合物を溶融、急冷してそのガラス組成物を得た後、前記ガラス組成物のガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の温度に加熱した後、所定時間保持させ、前記ガラス組成物の電気伝導度を調整することを特徴とするバナジン酸塩ガラスの製造方法。
- 前記アニーリング処理前のガラス組成物の電気伝導度が10−8〜10−6S・cm−1であり、アニーリング処理後の電気伝導度が10−4〜10−1S・cm−1であることを特徴とする請求項3に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法。
- 前記混合物100wt%に対して酸化レニウムが+1〜+10wt%添加されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法。
- 前記酸化バリウム(B)の前記酸化バナジウム(V)に対するモル比(B:V)が5:90〜35:50であることを特徴とする請求項3乃至5の内いずれか1項に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法。
- 前記酸化鉄(F)の前記酸化バナジウム(V)に対するモル比(F:V)が5:90〜15:50であることを特徴とする請求項3乃至6の内いずれか1項に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法。
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