JP4482672B2 - 導電性バナジン酸塩ガラス及びその製造方法 - Google Patents

導電性バナジン酸塩ガラス及びその製造方法 Download PDF

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    • C03GLASS; MINERAL OR SLAG WOOL
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    • C03C3/00Glass compositions
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気伝導性と化学耐久性(耐食性)とをバランスよく兼ね備えた導電性バナジン酸塩ガラス及び、酸性又はアルカリ性の薬品を処理する反応容器や熱交換器、輸送管等の被覆材、電子デバイスの接着用ガラス、電極材料、固体電解質等として好適に用いることのできる導電性バナジン酸塩ガラスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
導電性ガラスは、医薬品製造用反応容器の被覆材や電極材料、センサ、固体電解質などの応用の他に、その電気伝導性を利用して温排水管への貝殻等の付着防止や日用品などの静電気防止などの適用が期待できる。
この導電性ガラスとしては、五酸化バナジウムを含む導電性バナジン酸塩ガラスが開発されており、これに酸化バリウム、酸化鉄、酸化カリウムや酸化ナトリウム等を第2成分として加えてガラス化したものが知られている。
バナジウムを含むガラスは、通常は電気的に絶縁体である酸化物系ガラスと異なり、核外電子のホッピングに基づく電子伝導性を有する。このため、比較的高い電気伝導度を示す。このような導電性バナジン酸塩ガラスに関して、以下のような技術のものが知られている。
(1)特公昭42−24785号公報(以下イ号公報という)には、五酸化バナジウム50モル%以上を含み、五酸化燐と酸化バリウムとからなるガラス組成に、酸化セリウムと酸化錫並びに酸化鉛を添加した熱感応抵抗素子用ガラス状抵抗材料が開示されている。
(2)特公昭39−9140号公報(以下ロ号公報という)には、五酸化バナジウム70モル%以上、五酸化燐5〜15モル%を含むガラスに13モル%以下の酸化銅を加えて得られるガラスからつくられたサーミスタが開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来の導電性バナジン酸塩ガラスは以下の課題を有していた。
(1)イ号公報やロ号公報等に記載の溶融物を急冷して得られた導電性バナジン酸塩ガラスを酸やアルカリ等の腐食性の高い環境下で使用される反応容器の保護材として用いた場合には、化学的耐久性が低いために溶液中への溶出量が多く、消耗が激しく、長期にわたる使用ができず実用性に欠けるという課題があった。
(2)この化学的耐久性を改善するために第3成分を添加すると、電気伝導性が低下して、化学的耐久性と電気伝導性の両者をバランスさせた状態で維持させることができないという課題があった。
(3)導電性バナジン酸塩ガラスの含有成分やその組成によって電気伝導度が左右され、しかもその値がばらつくために、電気伝導度を所定範囲内に調整してガラス半導体等としての設計を精密に行うことが困難であるという課題があった。
(4)一方、飲料用ガラスビン等のガラス製品の多く(75%以上)は再利用されずに廃棄され、また、火力発電所からは多くの石炭灰が放出され、その多くは産業廃棄物として処分され、資源の有効利用が進まないという環境上の課題があった。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、電気伝導性と化学的耐久性とをバランスよく維持させて酸やアルカリ等の腐食性の高い環境下でも適用でき、特に化学反応装置等のライニング用や電極材料、固体電解質、サーミスタ等のセンサに好適な導電性バナジン酸塩ガラスの提供、その含有成分やその組成による特性の変動を抑制して設計を精密に行うことができると共に、飲料用ガラスビン等のガラス製品や、火力発電所等から放出される石炭灰等の産業廃棄物を有効に再資源化できる導電性バナジン酸塩ガラスの製造方法の提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の導電性バナジン酸塩ガラスは、酸化ナトリウムと酸化カルシウムと酸化カリウムを合計で21.7〜36.9モル%含み、酸化ケイ素40〜70モル%と酸化バナジウム1〜10モル%、酸化バリウム0.5〜10モル%、酸化鉄0.5〜5モル%を含み、酸化ナトリウムと酸化カリウムの合計モル量に対する酸化カルシウムのモル量の比率(酸化カルシウム/(酸化ナトリウム+酸化カリウム))が0.28〜1.62であるガラス組成物からなり、室温における電気伝導度が10−8〜10−4S・cm−1であり、ガラス転移温度が400〜700℃であり、20%塩酸中における室温72時間浸漬後の溶出量が35%以下であるガラス組成物からなり、室温における電気伝導度が10−8〜10−4S・cm−1であり、ガラス転移温度が400〜700℃であり、20%塩酸中における室温72時間浸漬後の溶出量が35%以下であるように構成されている。
この構成によって、以下の作用を有する。
(1)酸化バナジウムを所定量含むガラス組成物で形成されているので、電気伝導性と化学耐久性とに優れたガラス骨格を形成させることができ、その電気伝導性を有効に利用して腐食環境下で用いられる化学反応容器用のライニング等の防護被膜材や、電極材料、固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての化学耐久性を保持させることができる。
(2)電気伝導性及び化学耐久性が所定範囲に設定されるので、酸やアルカリに晒される反応容器等の保護被膜やサーミスタ、電極素子に適用する場合の設計を容易にでき、設計の自在性に優れている。
(3)ガラス組成物にはバナジウムの他にバリウムや鉄、カルシウム、ナトリウム、ケイ素、アルミニウム等を含ませることができるので、ガラスの骨格構造を所定条件に制御して形成でき、▲1▼イオン価(酸化数)の差を利用した電子ホッピング効果による電気伝導性の向上、▲2▼ガラス表面の化学ポテンシャルの制御による化学耐久性の向上、▲3▼溶融温度、ガラス転移温度を制御した生産性の向上などの利点がある。
(4)ガラス質としているため、層状構造を有した結晶質のものに比べて層間化合物の生成などのインターカレーションによる構造変化を抑制することができ、安定した性能を維持できる。
(5)二次電池用カソード電極等に適用した場合、結晶質のものでは2相共存状態が幾つかあるために起電力がステップ状に変化するが、ガラス質では起電力がほぼ一定であり、しかも化学拡散係数を高くできるのでより高いエネルギー密度が得られる。
(6)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり小型化、軽量化ができ、実用性や経済性、機能性、デザイン性にも優れている。
(7)ガラス質としているので、複雑な形状等への被膜形成等が容易にでき、しかも加工性に優れており、種々の形態の半導体素子や反応容器の被膜形成材として利用できる。
(8)ガラス転移温度が特定の低い温度域に設定されているので、導電性バナジン酸塩ガラスを医薬品製造用等の反応容器のライニング材等に適用する場合に、溶融温度を低くでき、適当な熱膨張係数を有するグラスライニングの施工を容易に行うことができ、施工性や経済性に優れている。
(9)ガラス転移温度が所定範囲に規定されているので、この導電性バナジン酸塩ガラスにアニーリング処理などを実施する場合に電気伝導性や化学耐久性等の特性の制御性を高めることができ、品質のばらつきが少なく信頼性に優れた半導体デバイスやセンサを製造することができる。
(10)ガラス化の際に溶融温度やガラス転移温度を調整したり、ガラス骨格を構築あるいは修飾したりするためのガラス化調整成分が所定量含まれているので、化学耐久性と電気伝導性の両者をバランスさせた適正状態に維持させることができ、電気伝導性を備えた防食被覆材としての適用性に優れている。
(11)特に酸化カルシウムや酸化ナトリウムをガラス化調整成分として適用する場合には、これらの成分を含有するガラスカレットや発電所等の石炭灰を利用することができ、大量に排出される産業廃棄物の有効活用が図れると共に、安価な原料を用いることができるので、経済性にも優れている。
(12)酸化カリウム、酸化バリウム、酸化ホウ素、酸化ストロンチウム等を含むガラス化調整成分の添加により導電性バナジン酸塩ガラスのガラス転移温度や化学耐久性を効果的に調整でき、化学耐久性と電気伝導性を適正状態に維持させた導電性バナジン酸塩ガラスとすることができ、品質特性等の制御性に優れた材料を提供できる。
【0006】
ここで、バナジウムは酸化物系ガラスの主骨格を形成させるための構成元素であり、その酸化数が2、3、4、5等に変化して、核外電子のホッピングの確率を高めることができる。
導電性バナジン酸塩ガラス中の酸化バナジウムの含有量は、0.1〜25モル%、好ましくは1〜10モル%の範囲とすることが望ましい。これはその適用条件にもよるが、酸化バナジウムの含有量が1モル%より少なくなるにつれ、バナジウムを主構成要素としたガラス骨格を維持させるのが困難となる上に、電気伝導度を所定範囲に維持させるのが困難となる傾向が現れ、逆に10モル%を超えるにつれて相対的に副成分の量が減るためにこれら副成分による電気伝導度や化学耐久性、光学特性、機械的特性等の制御機能を低下させる傾向が現れ、これらの傾向は0.1モル%より少なくなるか、25モル%を越えるとさらに顕著になるからである。
【0007】
五酸化バナジウムはV25ピラミッドから成る層状の結晶構造を有しており、これに酸化カリウム(K2O)や酸化ナトリウム(Na2O)を加えてガラス化した場合には、そのガラス骨格が1次元的になる。しかし、五酸化バナジウムに酸化バリウム(BaO)等を加えることにより、そのガラス骨格を3次元的に形成させることができる。こうして電気伝導性や化学耐久性をバランスさせて維持させ、化学防食被膜材、サーミスタ、コンデンサ、磁性体などとして、導電性バナジン酸塩ガラスを有効に機能させることができる。
【0008】
この導電性バナジン酸塩ガラスの他の構成成分としては、バリウム、鉄、ケイ素、アルミニウム等が適用できる。バリウムは、二次元的な構成のバナジウム酸化物のガラス骨格を3次元化するために添加される構成元素である。
鉄は3d軌道に5個の電子を有する元素であり、この電子がガラス骨格の電気伝導性に寄与している可能性が高い。すなわち、導電性バナジン酸塩ガラスでは、V(IV)からV(V)への電子ホッピングにFeの3d軌道上の5個の価電子も寄与していると推定される。酸化バリウムと同様に酸化鉄の濃度を変化させることで導電性を調整することができ、この電気伝導度の調整成分として添加される。
導電性バナジン酸塩ガラス中の酸化鉄の含有量は、1〜20モル%の範囲とすることが望ましい。これは適用条件にもよるが酸化鉄の含有量が1モル%より少ないと、鉄による電子ホッピング効果を維持させるのが困難になる傾向が現れ、逆に20モル%を超えると光透過性等の光学特性が低下する等の弊害が現れるからである。
【0009】
導電性バナジン酸塩ガラスの電気伝導度は25℃の室温において、10-8〜10-4S・cm-1、好ましくは10-7〜10-5S・cm-1の範囲とすることが望ましい。これは、導電性バナジン酸塩ガラスを適用する電極やサーミスタの種類や容量、用途等により変動するが、一般的に電気伝導度が10-7S・cm-1より小さくなるにつれ、各種の素子として作動効率が低下し、作動しにくくなる等の傾向が現れ、逆に、電気伝導度が10-5S・cm-1を超えるにつれ、バナジウムの量が相対的に増大するため化学耐久性や機械的強度等が劣化し、半導体としての電気特性が失われる傾向が現れ、これらの傾向は10-8S・cm-1より小さくなるか、10-4S・cm-1より大きくなるとさらに顕著になるからである。
【0010】
導電性バナジン酸塩ガラスの化学耐久性は、規定濃度の腐食性液中に規定時間浸漬された試料の溶出量で評価される。すなわち、例えば測定試料の質量の10倍の質量の20%塩酸を満たした容器中に、この測定試料を浸漬させ、室温72時間浸漬後の溶出量により評価することができる。
このようにして評価される化学耐久性は、溶出量が35質量%以下、好ましくは5質量%以下とすることが望ましい。これは導電性バナジン酸塩ガラスに接触する腐食性液の種類や温度等の適用条件にもよるが、一般的にこの溶出量が5質量%を越えるにつれ、使用中の消耗が激しくなって実用上、防護被膜やセンサ等としての適用が困難となる傾向が生じ、電気伝導度を所定の範囲にバランスよく設定させることが困難となる傾向が現れ、これらの傾向は35質量%を超えるとさらに顕著になるからである。
なお、化学耐久性はこのような測定条件のもとでの溶出量を指標として評価されるが、腐食液の濃度や温度、浸漬時間、液量等の実験条件が異なる測定のもとで行われた試験のものであっても、両者の相関を比較した対照表を用いてこの20%塩酸に浸漬させた場合に相当する溶出量に換算して評価することができる。
【0011】
所定の電気伝導性及び化学耐久性を備えた導電性バナジン酸塩ガラスは、例えば次のガラス組成物を用いて作製できる。酸化バナジウム0.1〜25モル%、酸化バリウム0.5〜10モル%、酸化鉄0.5〜5モル%、酸化ナトリウム1〜25モル%、酸化カルシウム2〜25モル%、酸化ケイ素40〜70モル%等を含有するガラス組成物を白金るつぼ中等で加熱溶融した後、これを急冷して得ることができる。また、このガラス化させたものを前記混合物のガラス転移温度以上、軟化温度以下等のアニーリング温度に所定時間保持させ、生成されるガラス組成物の電気伝導性及び化学耐久性を調整して製造することもできる。
ここで、酸化バナジウムの含有量は0.1〜25モル%が用いられる。この範囲とすることにより、バナジウムを主構成要素としたガラス骨格を維持し、電気伝導度に優れ、化学耐久性や光学特性、化学特性、機械的特性等の機能に優れる。
酸化バリウムは、0.5〜10モル%とすることにより、電気伝導度や化学耐久性に優れる。0.5モル%よりも少なくなるにつれ化学耐久性は向上するが、ガラス化が困難となる傾向がみられ、また、10モル%よりも多くなるにつれバリウムのイオン半径が大きいので化学耐久性が劣化する傾向が認められる。
酸化鉄は、0.5〜5モル%とすることにより、成形温度を下げると共に電気伝導度を向上させる。0.5モル%よりも少なくなるにつれ、電子のホッピングへの寄与が得られ難い傾向があり、また、5モル%よりも多くなるにつれ化学耐久性を低下させる傾向があるので好ましくない。
酸化ナトリウムや酸化カルシウムは下限のモル%よりも少なくなるにつれ化学耐久性は向上するが、ガラスの製造が困難で不均一となる傾向があり、また、上限のモル%よりも多くなるにつれ電気伝導度は向上するが化学耐久性を劣化させるので好ましくない。
酸化ケイ素は、40モル%よりも少なくなるにつれ熱膨張率が大きくなりすぎる傾向があり、また、ガラスの化学耐久性が著しく低下する傾向があり、また、70モル%よりも多くなるにつれガラス製造温度が高温になり省エネルギー性に欠けてくる傾向があるので好ましくない。
この配合組成により、電気伝導性と化学耐久性をバランスよく兼ね備えた導電性バナジン酸塩ガラスが得られる。
【0012】
ここで、ガラス化調整成分としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属などが適用でき、酸化物ガラス中でガラス骨格を構成させる成分となる他、化学耐久性や電気伝導性をそれぞれバランスさせる機能を有している。
ガラス化調整成分は、10〜40モル%、好ましくは15〜30モル%の範囲とすることが好ましい。これは導電性バナジン酸塩ガラスの適用箇所等にもよるが、ガラス化調整成分が15モル%より少なくなるにつれ、ガラス形成が困難となり、逆に30モル%を越えるにつれて化学耐久性や機械的強度等が低下する傾向が現れ、実用レベルの使用が困難となる傾向が現れる。これらの傾向は10モル%より少なくなるか、40モル%を越えるとさらに顕著になるからである。
特に、酸化ナトリウムをガラス化調整成分として用いる場合の含有量は1〜30モル%、好ましくは10〜20モル%の範囲とすることが好ましい。これは酸化バナジウムの含有量やその他の成分の含有量などにもよるが、一般的に酸化ナトリウムの含有量が10モル%より少なくなるにつれて溶融温度やガラス化温度が増加して製造の際の生産性が低下する傾向が現れ、逆に20モル%を越えるにつれ、化学耐久性が低下して使用が困難となる傾向が現れ、これらの傾向は1モル%より少なくなるか、又は30モル%を越えるとさらに顕著になるからである。
【0013】
ここで、ガラス転移温度は300〜700℃、好ましくは400〜700℃、更に好ましくは400〜600℃の範囲にすることが好ましい。これは、導電性バナジン酸塩ガラスを適用する装置やデバイス等の種類やその形状、成分構成等にもよるが、一般的にガラス転移温度が400℃より低くなるにつれ、化学耐久性や機械的強度等が低下する傾向が現れ、逆に600℃を越えるにつれ、溶融したガラスの粘性が高くなってグラスライニング等における均一なライニング層の形成が困難となる傾向が現れ、これらの傾向は300℃より低くなるか、又は700℃を超えるとさらに顕著になるからである。
なお、ガラス転移温度の設定は、導電性バナジン酸塩ガラス中のナトリウムやカリウムなどのアルカリ成分の添加量を増減させて調整することにより行うことができる。この添加量は予め実験的に求めた添加量とガラス転移温度との関係を示した相関表や理論計算等に基づいて決定することができる。
【0014】
請求項2に記載の導電性バナジン酸塩ガラスは、酸化ナトリウムと酸化カルシウムと酸化カリウムを合計で5.726.3モル%含み、酸化ケイ素40〜70モル%と酸化アルミニウム15〜18モル%と酸化バナジウム1〜10モル%、酸化バリウム0.5〜10モル%、酸化鉄0.5〜5モル%を含み、酸化ナトリウムと酸化カリウムの合計モル量に対する酸化カルシウムのモル量の比率(酸化カルシウム/(酸化ナトリウム+酸化カリウム))が0.27〜8.89であるガラス組成物からなり、室温における電気伝導度が10−8〜10−4S・cm−1であり、ガラス転移温度が400〜700℃であり、20%塩酸中における室温72時間浸漬後の溶出量が35%以下であるように構成されている。
この構成によって、以下の作用を有する。
(1)酸化バナジウムを所定量含むガラス組成物で形成されているので、電気伝導性と化学耐久性とに優れたガラス骨格を形成させることができ、その電気伝導性を有効に利用して腐食環境下で用いられる化学反応容器用のライニング等の防護被膜材や、電極材料、固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての化学耐久性を保持させることができる。
(2)電気伝導性及び化学耐久性が所定範囲に設定されるので、酸やアルカリに晒される反応容器等の保護被膜やサーミスタ、電極素子に適用する場合の設計を容易にでき、設計の自在性に優れている。
(3)ガラス組成物にはバナジウムの他にバリウムや鉄、カルシウム、ナトリウム、ケイ素、アルミニウム等を含ませることができるので、ガラスの骨格構造を所定条件に制御して形成でき、▲1▼イオン価(酸化数)の差を利用した電子ホッピング効果による電気伝導性の向上、▲2▼ガラス表面の化学ポテンシャルの制御による化学耐久性の向上、▲3▼溶融温度、ガラス転移温度を制御した生産性の向上などの利点がある。
(4)ガラス質としているため、層状構造を有した結晶質のものに比べて層間化合物の生成などのインターカレーションによる構造変化を抑制することができ、安定した性能を維持できる。
(5)二次電池用カソード電極等に適用した場合、結晶質のものでは2相共存状態が幾つかあるために起電力がステップ状に変化するが、ガラス質では起電力がほぼ一定であり、しかも化学拡散係数を高くできるのでより高いエネルギー密度が得られる。
(6)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり小型化、軽量化ができ、実用性や経済性、機能性、デザイン性にも優れている。
(7)ガラス質としているので、複雑な形状等への被膜形成等が容易にでき、しかも加工性に優れており、種々の形態の半導体素子や反応容器の被膜形成材として利用できる。
(8)ガラス転移温度が特定の低い温度域に設定されているので、導電性バナジン酸塩ガラスを医薬品製造用等の反応容器のライニング材等に適用する場合に、溶融温度を低くでき、適当な熱膨張係数を有するグラスライニングの施工を容易に行うことができ、施工性や経済性に優れている。
(9)ガラス転移温度が所定範囲に規定されているので、この導電性バナジン酸塩ガラスにアニーリング処理などを実施する場合に電気伝導性や化学耐久性等の特性の制御性を高めることができ、品質のばらつきが少なく信頼性に優れた半導体デバイスやセンサを製造することができる。
(10)ガラス化の際に溶融温度やガラス転移温度を調整したり、ガラス骨格を構築あるいは修飾したりするためのガラス化調整成分が所定量含まれているので、化学耐久性と電気伝導性の両者をバランスさせた適正状態に維持させることができ、電気伝導性を備えた防食被覆材としての適用性に優れている。
(11)特に酸化カルシウムや酸化ナトリウムをガラス化調整成分として適用する場合には、これらの成分を含有するガラスカレットや発電所等の石炭灰を利用することができ、大量に排出される産業廃棄物の有効活用が図れると共に、安価な原料を用いることができるので、経済性にも優れている。
(12)酸化カリウム、酸化バリウム、酸化ホウ素、酸化ストロンチウム等を含むガラス化調整成分の添加により導電性バナジン酸塩ガラスのガラス転移温度や化学耐久性を効果的に調整でき、化学耐久性と電気伝導性を適正状態に維持させた導電性バナジン酸塩ガラスとすることができ、品質特性等の制御性に優れた材料を提供できる。
(13)酸化アルミニウムをガラス成分とすることにより、シリカ系失透の生成を抑制して分相化を防止できる他、化学的耐久性を増大させ、弾性率や硬度を増加したガラスを製造できる。
【0015】
請求項3に記載のバナジン酸塩ガラスは、請求項1又は2に記載のバナジン酸塩ガラスであって、結晶化を起こさないようにアニーリングされてガラスの構造緩和がなされている構成を有している。
この構成によって、請求項1又は2の作用に加えて以下の作用を有する。
(1)ガラス骨格のゆがみ(ひずみ)を小さくしたり、あるいは取り除いたりすることによって、電気伝導度の制御が高精度で可能となり、所要の電気伝導度や化学耐久性を具備させることができる。
【0016】
請求項4に記載の導電性バナジン酸塩ガラスの製造方法は、請求項1乃至3の内いずれか1に記載の導電性バナジン酸塩ガラスの製造方法であって、バナジウム、バリウム、鉄を含むバナジン酸塩組成物5〜35質量%に対して、(a)ガラスビン等を破砕したガラスカレット又はケイ酸ガラス、若しくは石炭灰を35〜95質量%、(b)酸化ナトリウム、酸化カリウムの1種以上が0〜20質量%、(c)酸化カルシウムが0〜15質量%、(d)酸化ケイ素が0〜50質量%、(e)酸化バナジウムが0〜30質量%、(f)酸化ホウ素が0〜10質量%、を混合する原料調整工程と、この混合物を溶融してガラス転移温度以上の熱処理温度に所定時間保持し結晶化を起こさないようにアニーリングしてガラスの構造緩和をする熱処理工程を有して構成されている。
この構成によって、以下の作用を有する。
(1)原料調整工程を有するので、通常は廃棄されるガラスビンや火力発電所等から排出される石炭灰等を導電性バナジン酸塩ガラスのカルシウム、ナトリウム、ケイ素、アルミニウム源となる原料として適用でき、資源の有効活用が図れると共に、廃棄物量を削減して環境保護性にも優れている。
(2)導電性バナジン酸塩ガラスを安価な廃棄物原料を用いて製造できるので、経済性に優れている。
(3)混合物をガラス転移温度以上に保持する熱処理工程を有するので、ガラス骨格そのものの構造の歪み等を緩和させて、電気伝導性や化学耐久性などの特性を所定の範囲に設定でき、制御性に優れる。
(4)導電性バナジン酸塩ガラスをそのガラス転移温度以上の熱処理温度に所定時間保持させて調整するので、バナジウム、ケイ素、鉄、アルミニウム、酸素などから成るガラス骨格のゆがみ(ひずみ)を小さくしてバナジウム4価から5価への電子ホッピングの確率を高め、ガラス半導体や保護被膜としての導電性を増大させることができ、長寿命の保護膜や電極、サーミスタ等を製造できる。
(5)熱処理の温度や保持時間等の熱処理条件とこの熱処理条件により得られる導電性バナジン酸塩ガラスの電気伝導性や化学耐久性との対応関係を用いて、熱処理条件を選択して、その特性を任意に調整することができ、用途や使用環境に応じた特性を有したサーミスタ素子や伝導性ガラス等を製造できる。
【0017】
ここで、バナジン酸塩組成物としては、バナジウム、バリウム、鉄等を含むバナジン酸塩酸化物、例えば15モル%BaO・70モル%V25・15モル%Fe23の組成を有する酸化物系のものや、酸化バナジウム、酸化バリウム、酸化鉄をそれぞれ所定比率で混合したもの、及び、これらの溶融物を所定粒度、例えば1〜500μm程度の粒度に粉砕したもの等が該当する。
含アルカリ組成物としては、成分構成がほぼ一定範囲にあるジュースやコーラ等の飲料用ガラスビンなどを例えば100〜5000μmに粉砕した、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素などを含むガラスカレットや火力発電所などで排出される酸化カルシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどを含むフライアッシュ(石炭灰)等が適用できる。
ガラス組成物の配合比は、バナジン酸塩組成物が5〜35質量%に対し、(a)ガラスカレット又はケイ酸塩ガラス、若しくは石炭灰が35〜95質量%、(b)酸化ナトリウム、酸化カリウムの1種以上が0〜20質量%、(c)酸化カルシウムが0〜15質量%、(d)酸化ケイ素が0〜50質量%、(e)酸化バナジウムが0〜30質量%、(f)酸化ホウ素が0〜10質量%配合される。
ここで、バナジン酸塩組成物は、5質量%よりも少なくなるにつれ電気伝導度の値が著しく低下し、また、35質量%よりも多くなるにつれ化学耐久性が低下してくるという傾向があるので好ましくない。
(a)ガラスカレット、ケイ酸塩ガラス、石炭灰は、65質量%よりも少なくなるにつれ化学耐久性が低下してくるという傾向があり、また、95質量%よりも多くなると、バナジン酸塩組成物が少なくガラスの軟化点が上昇し生産性を低下させるという傾向があるので好ましくない。ガラスカレットを用いれば、ガラスの製造に要する電気量(コスト)を10%以上抑えることができるので、75〜90質量%が好適に用いられる。また、ガラスカレットの添加は廃棄物の再資源化にも寄与する。尚、ガラスカレットの配合量の所定量を酸化ケイ素と置き換えてもよい。この場合、表2にも示すように、製造したガラス中の酸化ケイ素の量が55モル%から75モル%程度になるように設計すればよい。ガラスカレット(イ)と酸化ケイ素(ロ)の混合比を(イ)/(ロ)=40〜60質量%とすると、電気伝導度や化学耐久性を著しく向上できることもわかった。また、ガラスカレットを用いるときは、系内に酸化ナトリウムや酸化カリウム、酸化リチウム、酸化カルシウムなどを所定量配合すると電気伝導度や化学耐久性をバランスさせながら向上させることができる。
また、酸化ホウ素を、5質量%添加することにより、電気伝導度や化学耐久性をバランスよく向上させることができる。
ケイ酸塩ガラスは化学耐久性の向上と、ナトリウムやカリウム、リチウムなどのイオン伝導に寄与するので、80〜90質量%が好適に用いられる。尚、ケイ酸塩ガラスを用いるときは、酸化バナジウム10〜20質量%を添加すると電気伝導度や化学耐久性をバランスよく向上させることができる。これはバナジウム原子上の価電子のホッピングによる電子伝導で電気伝導度が向上するためである。
石炭灰はガラスびんと同様の効果があり、ケイ酸塩原料として寄与するので、70〜90質量%が好適に用いられる。尚、石炭灰を用いるときは、所定量を系内に添加することにより電気伝導度や化学耐久性をバランスよく向上させることができる。石炭灰は火力発電所などから放出される産業廃棄物であり、これを有効利用することは資源エネルギーと環境保全の両方から重要である。
(b)酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム等はガラス製造温度を、酸化ケイ素単独の場合と比し、下げることができるのでエネルギー的に有利である。またナトリウムイオンやカリウムイオン、リチウムイオン等はガラスのイオン伝導に寄与するので、ガラスカレットを用いる系内では5〜15質量%が特に好適に用いられる。これにより、電気伝導度や化学耐久性をバランスよく向上させることができる。
(c)酸化カルシウムは、他の周期表第2族元素と同様、ガラス骨格の隙間で酸素の近傍に存在し、ガラス構造を安定化させることに寄与するので、特に、ガラスカレットや石炭灰を用いる系内では5〜10質量%が好適に用いられる。電気伝導度や化学耐久性をバランスよく向上させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明は、清涼飲料水用などのガラスびんや火力発電所などから放出される石炭灰などを原料の一部として導電性バナジン酸塩ガラスを製造するものであり、これにより導電性バナジン酸塩ガラスの化学耐久性、および電気伝導性を適正に調整するようにしたものである。
本発明の一実施の形態に係る導電性バナジン酸塩ガラスは以下の製造方法により作製される。
まず、所定粒度に調整されたバナジウムを含むガラス質などのバナジン酸塩組成物や、バナジウム、カルシウム、ナトリウム、ケイ素、アルミニウム等の成分を含む各種のガラス原料、石炭灰など選択して所定比率で混合する。この混合物を溶融点以上の温度に加熱して溶融し、必要に応じて所定の熱処理を施して急冷して所定の化学耐久性と電気伝導性とを兼ね備えたガラス組成物を得る。
なお、このガラス組成物をさらに必要に応じてそのガラス転移温度以上、結晶化温度又は軟化温度以下の熱処理の温度に所定時間保持させ、所定の電気伝導性と化学耐久性とに調整された導電性バナジン酸塩ガラスを製造方法することもできる。以下、この製造方法の一例についてさらに詳細に説明する。
【0019】
ここで原料として用いたバナジン酸塩組成物は、酸化バナジウム70モル%、酸化バリウム15モル%、酸化鉄15モル%を含むガラス質又はこれらの混合物からなるガラス化原料である。
この組成物はバナジウムからなるガラス骨格を3次元化するためのバリウム、3d電子による電子ホッピング効果を促すための鉄を有して構成されている。なお、周期表の第2族元素(Mg)、あるいは五酸化リン(P25)を副成分として主成分となる五酸化バナジウムに加えることによっても、ガラス骨格を3次元化させることができる。従って、ガラス質のバナジン酸塩組成物中のBaOをMgO、あるいはP25に置換したり、周期表上でBaとMgの中間に位置するCaの酸化物を用いたりした場合にも電気伝導度の上昇効果が期待できる。
このようなバナジン酸塩組成物を作製する際には、例えば試薬特級の酸化バリウム(BaO)が15モル%、五酸化バナジウム(V25)が70モル%、酸化鉄(Fe23)が15モル%になるように直示天秤等を用いて秤り取る。
この混合物を白金るつぼなどに移し、電気炉中1000℃で60分間加熱し、溶融する。これを直ちに氷水等を用いて急冷する(白金るつぼの外側、底部を氷水に浸ける)ことにより、所定の化学耐久性と電気伝導性を有したバナジン酸塩のガラス組成物が得られる。
【0020】
なお、前記熱処理方法には、以下の二通りの方法がある。
▲1▼電気炉などの温度を予め目標とする温度に設定しておき、電気炉等の温度が一定となったところで、室温に保存しておいたガラス試料を入れる方法である。
この方法の特徴は、加熱時間を比較的正確に制御できるという点である。目標とする時間が経過したら、直ちに電気炉等からガラスを取り出し、白金るつぼ等の容器の外側を氷水等で急冷する。このように急冷することにより、加熱開始からの熱処理(加熱)時間を正確に制御できるので、高い精度でガラスの構造緩和が可能となる。これによって、電気伝導度の制御が高精度で可能となり、このガラスに所要の電気伝導性や化学耐久性を具備させることができる。
▲2▼ガラスを室温からゆっくり加熱する方法である。これは、電気炉等の昇温速度を一定に(任意に)設定し、目的の温度に到達後、適当な時間加熱し、その後一定速度で徐々に室温、または室温付近まで冷却する方法である。
以上の▲1▼、▲2▼の方法により、ガラス骨格のゆがみ(ひずみ)を小さくしたり、あるいは取り除いたりすることができ、これらを組み合わせることもできる。
例えば、予め目標の温度に加熱した電気炉の中にガラスを入れ、一定時間経過後、ゆっくり室温付近まで冷却する方法などが挙げられる。
【0021】
導電性バナジン酸塩ガラスを製造するためのガラス化調整成分としては、所定粒度に調整されたほぼ一定組成のガラスカレットや火力発電所などから排出される石炭灰等を用いることができる。
ここではガラスカレットとして、▲1▼株式会社コカコーラボトラーズ製の清涼飲料水用のガラスびん(リアルゴールド用のガラスびん)を粉砕したものと、▲2▼医薬品製造用反応容器の表面保護材として一般に用いられるケイ酸塩ガラスとを適用した。
ちなみに▲1▼ガラスびんは、酸化ナトリウム:16質量%、酸化カルシウム:10質量%、酸化ケイ素:74質量%の化学組成を有し、▲2▼ケイ酸塩ガラスは酸化ケイ素を主成分とする一般的な化学組成(酸化ケイ素:約65〜75質量%)を有するものを用いた。
ガラス化調整成分としてのカルシウム、ケイ素、アルミニウムなどの原料としては、石炭を燃料とする火力発電所から排出された石炭灰を用いた。石炭灰の代表化学組成は酸化カルシウム:平均4質量%、酸化鉄:平均3質量%、酸化アルミニウム:平均24質量%、酸化ケイ素:平均62質量%、その他の金属酸化物:平均7質量%であった。
また、導電性バナジン酸塩ガラスのナトリウム源となる原料としては酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムなどを配合させて、全体のナトリウム分が所定範囲になるように調整した。
なお、ガラス化調整成分として添加する原料成分には、上記の他に酸化アルミニウムや酸化ホウ素、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化鉛、リン酸、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどが必要に応じて適用できる
この内、酸化アルミニウムをガラス成分とすることにより、シリカ系失透の生成を抑制して分相化を防止できる他、化学的耐久性を増大させ、弾性率や硬度を増加させることができる。
酸化ホウ素等はそれ自身網目構造を作りガラスとなり得るほか、ケイ酸塩ガラスでも網目構成成分となり、粘性を低下させると共に化学的耐久性の高いガラスを製造するのに適している。
【0022】
表1は実施の形態における各実施例1〜20及びその比較例1〜4におけるガラスの原料構成を表した組成表であり、表2は表1の原料構成により作製されたガラスの元素構成(モル%)を表した組成表である。
【0023】
【表1】
Figure 0004482672
【0024】
【表2】
Figure 0004482672
【0025】
以上のように作成されたガラス組成物の各試料について示差熱分析(DTA)や示差走査熱量測定(DSC)などを行うことによりそれぞれのガラス転移温度(Tg)と溶融温度を求めた。それらを表3に示す。なおDTA測定における昇温速度は毎分15℃に設定した。
【0026】
【表3】
Figure 0004482672
【0027】
ガラスをそのガラス転移温度以上の温度で加熱すると、ガラス骨格の切断やガラスを構築する骨格の再構築、フラグメントの再配列が起きる。しかし、ガラスを長時間、ガラス転移温度以上の温度で加熱すると、ガラス相中に結晶相が析出し、それらが成長することにより、ガラスは結晶化ガラス(ガラスセラミック)となって、電気伝導度や光透過性等を低下させる要因となる。従って、アニーリング処理温度における保持時間は、そのガラス処理量や加熱装置の熱容量等によっても変動するが、所定の電気伝導度を保持させることができ、しかもこのような結晶化が起こらないような範囲、例えば10分〜180分間、好ましくは20〜60分間の範囲に設定しておくことが望ましい。
熱処理温度はガラス転移温度以上、結晶化温度以下(示差熱分析における結晶化発熱ピークの裾の高温側端点温度又は発熱ピークの中心点における温度)の範囲に設定する。この熱処理時間が短時間であれば、結晶相が析出する前に(結晶化ガラスとなる前に)ガラス骨格のゆがみ(ひずみ)を小さくして、いわゆる構造緩和を起こさせることができ、電気伝導度を所定の範囲のレベルにまで高められた導電性バナジン酸塩ガラスを作製できる。
【0028】
前記アニーリング等の熱処理がなされたガラス組成物の試料の電気伝導度を以下のようにして測定した。
なお、測定に際してはガラス組成物の試料厚さが1ミリメートル以下のガラス片を用いて、直流二端子法または直流四端子法、交流四端子法を適用して室温で値を求めた。なお、この測定においては、溶融した金属インジウムまたは金属銀ペーストを用いて、ガラス表面にリード線を固定させたものを電極とした。
【0029】
各試料の化学耐久性は、30℃の設定温度に保持された恒温槽に、所定濃度の塩酸及び水酸化ナトリウム溶液を入れた密閉容器を載置し、この腐食性の溶液中に予め秤量した試料を浸漬させ、所定時間後に取り出された試料を秤量して、その減量から溶出量を求めた。本実施の形態では化学耐久性の指標として、▲1▼20%塩酸中72時間浸漬後の溶出量、▲2▼20%塩酸中240時間後の溶出量、▲3▼1モル水酸化ナトリウム溶液中72時間浸漬後の溶出量、▲4▼1モル水酸化ナトリウム溶液中240時間浸漬後の溶出量をそれぞれ測定した。
表3に、以上のようにして求められた各試料の電気伝導性と化学耐久性等のデータを示している。
以下、表1〜表3を参照しながら実施例1〜20及びその比較例1〜4について説明する。
【0030】
(実施例1〜9)
表1に示すように実施例1〜9は、バナジン酸塩組成物の配合量を10質量%に固定し、ガラスびんの配合量を90〜40質量%の範囲で変化させて不足分を酸化ナトリウムや酸化カリウム、酸化カルシウム等で補うように配合して得られたものである。
なお、実施例5を除く実施例1〜9のデータはこの所定比率で配合された混合物を1000℃で1時間保持して溶融させた後、ガラス化したものであり、実施例5は1200℃で1時間保持して溶融させたもののデータを示している。
表3に示されるように実施例2〜6ではガラス転移温度が521℃以下になるように炭酸ナトリウムを加えて、原料中の酸化ナトリウムの量を調整した。このとき、炭酸ナトリウムは(Na2CO3→Na2O+CO2↑)の反応により、ガラス中では、Na2Oとなる。(ここで、Na2O分子は単独で存在する訳ではなく、≡Si−O-・・・Na+のイオン結合を構築し、網目修飾イオンの役割を果たしている。)
表2のデータに示されるように、原料組成を調整してガラス中の酸化カルシウムや酸化ナトリウムの含有量などを所定範囲にして、ガラス中の各イオンの配置を決定して、所定の化学耐久性と電気伝導性とを兼ね備えたガラス組成物とすることができる。
【0031】
表3の化学耐久性のデータに示すように実施例1(ガラスびん:90質量%・バナジン酸塩組成物:10質量%を原料とした導電性バナジン酸塩ガラス)の化学耐久性は極めて高いことが分かる。また、実施例2(ガラスびん:85質量%・バナジン酸塩組成物:10質量%・酸化ナトリウム:5質量%)及び実施例3(ガラスびん:80質量%・バナジン酸塩組成物:10質量%・酸化ナトリウム:10質量%)の化学耐久性にも実用上全く問題ないことが分かった。
実施例4(ガラスびん:75質量%・バナジン酸塩組成物:10質量%・酸化ナトリウム:15質量%)の化学耐久性は実施例1〜3のものに比較してそれほど良くないが、酸濃度などがさほど高くなければ十分使用に耐えられることが分かる。
実施例5は酸化ホウ素をガラス化調整成分として5質量%添加した例を示すものであり、その電気伝導度が1.1×10-7S・cm-1と実施例中では低いが、ヒータ用などとしての通電加熱性を有しており、酸化ホウ素の添加により熱膨張率、耐熱性、および化学耐久性の高い導電性バナジン酸塩ガラスが得られることがわかる。
【0032】
実施例6は(ガラスびん:40質量%・バナジン酸塩組成物:10質量%・酸化ナトリウム:10質量%・酸化ケイ素:40質量%)として、ガラスびんの配合量を比較的少なくしその不足分を酸化ケイ素で補うようにした実験例を示しており、この電気伝導度は15×10-7S・cm-1と発熱体等として使用できる範囲内であり、その化学耐久性は高く、20%HCl中で72時間後の溶出量が0.03質量%とごく少ないことが分かる。
実施例7〜9はガラスびん:80質量%、バナジン酸塩組成物:10質量%をベースとして、これにそれぞれ▲1▼酸化カリウム10質量%、▲2▼酸化カルシウム10質量%、▲3▼酸化カリウム5質量%と酸化カルシウム5質量%の混合物を配合したものである。この実施例7〜9における20%HCl中で72時間後の溶出量はそれぞれ、▲1▼0.08質量%、▲2▼0.10質量%、▲3▼0.09質量%となり、化学耐久性が良好であり、腐食性雰囲気に晒されるような電気デバイス用として使用できることが分かる。
【0033】
比較例1はバナジン酸塩組成物の配合量を80質量%に増大させ、これにガラスびん10質量%と酸化ナトリウム10質量%を配合したもので、この場合には、電気伝導性を所定レベルに維持できるものの、20%HCl中で72時間後の溶出量が100質量%と大きくなり、化学耐久性が低下し、化学耐久性を所定範囲に維持させるためには表3に示すように酸化バナジウムの配合量に上限値が存在することを示唆している。なお、この電気伝導度は当初16×10-7S・cm-1であったが、これにさらに所定の熱処理を付加することにより電気伝導度の値を調整できることがわかった。
すなわち、この試料を空気中で370℃で30分間アニーリングしたところ、その電気伝導度は24×10-7S・cm-1に増加し、1時間熱処理したもので25×10-7 S・cm-1、2時間熱処理後では14×10-7S・cm-1 に低下した。このように熱処理時間や熱処理温度にもそれぞれ適正範囲があり、この設定条件を適正に定めることで所要の化学耐久性と電気伝導性を有した導電性バナジン酸塩ガラスを製造することができる。
【0034】
比較例2はガラスびん:70質量%とバナジン酸塩組成物:30質量%の例である。この場合には酸化バナジウム等の配合比率が適正でないために、化学耐久性の指標となる20%濃度の塩酸中の72時間浸漬後の溶出量が40.7質量%と実用上使用できる限界以上に高くなっていることが分かる。
【0035】
以上説明したように、表3の電気伝導性(電気伝導度σ)のデータから実施1〜9のいずれの系においても、10-5〜10-7S・cm-1の範囲の比較的高い電気伝導度を示しており、前記化学耐久性に加えて優れた電気伝導性のガラス材料として適用できることが分かった。
このようにガラスびんとバナジン酸塩組成物とを組み合わせた導電性バナジン酸塩ガラスは化学耐久性に極めて優れており、ガラス転移温度などの設計、制御も容易である。従って、この電気伝導性と化学耐久性とを利用して医薬品製造に用いられる反応容器等において、その静電気を逃がすための静電気防止材などにも活用できる他、温排水管などへの貝殻の付着防止材としても活用できる。
【0036】
なお、このような場合の導電性バナジン酸塩ガラスの成膜方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法等のほかに溶融したガラスを基板上に吹きつけて固化させたりする等の方法を適用することができる。
また、この導電性バナジン酸塩ガラスの適度の電気伝導性を利用して通電加熱することにより、ビルや車等の窓ガラスのヒータとして用いることができ、くもり止めや結露防止などにも効果があると予想される。なお、原料となるガラスびんとして、本実施例ではコカコーラボトラーズ社の清涼飲料水用ガラスびんを用いたが、これに限らず、他のガラスびんでも同等あるいはそれ以上の成果が期待できる。
【0037】
(実施例10〜15)
実施例10〜15及び比較例3はバナジン酸塩組成物10質量%(または30質量%)をベースとして、これに石炭灰や酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム等のガラス化調整成分を配合した場合の実験例を示している。
実施例10は、石炭灰:90質量%、バナジン酸塩組成物:10質量%の混合系を、実施例15は、石炭灰:70質量%、バナジン酸塩組成物:30質量%の混合系であり、実施例11〜14は石炭灰及びバナジン酸塩組成物に加えて、ガラス化調整成分を配合した系列のものを示している。
これに対して、比較例3では石炭灰:75質量%、バナジン酸塩組成物:10質量%、酸化ナトリウム:15質量%の配合比率や熱処理条件等が適正でない混合系のデータを示している。
実施例10〜15のように石炭灰を用いたガラス系、特に実施例10(石炭灰:90質量%、バナジン酸塩組成物:10質量%のガラス)は塩酸のみならず水酸化ナトリウム溶液中においても高い化学耐久性を示していることがわかる。
また、アルカリ成分等を添加した実施例11(石炭灰:80質量%、バナジン酸塩組成物:10質量%、酸化ナトリウム:10質量%)ではその化学耐久性にも大きな問題はないが、比較例3のようにアルカリ成分(酸化ナトリウム)が15質量%以上になると20%塩酸中での溶出量が増加している。
このように各原料構成によって化学耐久性が変化して、比較例3では酸化ナトリウムが規定量を越えるために大幅に化学耐久性が劣化しているのが分かる。
このように火力発電所等から排出される石炭灰等の廃棄物を、バナジン酸塩組成物に添加し、カルシウムやケイ素、アルミニウム等の原料として適用できる。さらに、導電性バナジン酸塩ガラスを安価な廃棄物原料を用いて製造でき、経済性や環境保護性にも優れていることが明らかになった。
【0038】
(実施例16〜20)
実施例16〜20は、バナジン酸塩組成物に医薬品製造用反応容器(鉄製)の表面保護材として用いられるケイ酸塩ガラスを原料の一部として配合して導電性バナジン酸塩ガラスを作製した実験例である。
実施例16〜20の導電性バナジン酸塩ガラスは、所定粒度に粉砕されたケイ酸塩ガラスに対してバナジン酸塩組成物(BaO:15モル%、V25:70モル%、Fe23:15モル%)または酸化バナジウムをそれぞれ一定の質量比で混合したものを1400℃で1時間溶融することにより作成した。この試料の化学耐久性と電気伝導性を評価した測定結果を表3に示す。なお、比較例4としてケイ酸ガラスのみの場合のデータを示している。
【0039】
表3から分かるように、実施例16〜19の導電性バナジン酸塩ガラスは実施例1〜15や比較例4のものに比べて化学耐久性に大きな違いは見られず、化学反応容器用の防護被膜材として実用上使用できるレベルのものであることがわかる。
実施例18(ケイ酸塩ガラス:80質量%、バナジン酸塩組成物:20質量%)では、20%HCl中で72時間の溶出量が4.35質量%となり、化学耐久性が若干落ちているように見えるが、試験に用いた塩酸濃度が高濃度であることを考えると、多くの場合ほとんど問題なく使用できるレベルのものである。
また、実施例16〜20は全実施例の中でも比較的高い電気伝導度を示しており、ガラス半導体として幅広い分野での利用が期待できる。
なお、実施例19(ケイ酸塩ガラス:90質量%、酸化バナジウム:10質量%)と実施例20(ケイ酸塩ガラス:80質量%、酸化バナジウム:20質量%)の系は、バナジン酸塩組成物を用いる系(実施例16〜18)との比較のために作成したものであり、これらのデータの比較から、バナジン酸塩組成物を必ずしも出発原料としなくとも、該当する試薬等を添加してその全体の化学組成を所定範囲に調整したり、熱処理条件を適切に設定したりすることなどにより所定の化学耐久性と電気伝導性を有した導電性バナジン酸塩ガラスが作製できることを示している。
酸化バナジウムを20質量%とした実施例20では、その化学耐久性の指標である20%HCl中での溶出量が29.6質量%と他の系統の実施例に比べて増加しているが、腐食性が比較的低い雰囲気下で用いられる電気デバイス用としては十分適用できるレベルのものであった。
【0040】
本実施例1〜20におけるガラス転移温度は表3に示すように、484℃(実施例4)〜670℃(実施例10)の範囲であり、その軟化温度は574℃(実施例4)〜819℃(実施例11)の範囲である。これらのデータから導電性バナジン酸塩ガラスを反応容器のライニング材として適用する際の溶けたガラスの流動性などを良好な範囲に確保でき、施工性に優れること等がわかる。
このように医薬品製造用反応容器表面に使われているケイ酸塩ガラスとバナジン酸塩組成物または酸化バナジウムを所定比率で組み合わせて作成した導電性バナジン酸塩ガラスは化学耐久性に優れていると共に、ガラス転移温度などの設計、制御も容易である。さらに、比較例4に示したケイ酸塩ガラスに比較して10万倍(×105)以上となる電気伝導度(10-7〜10-4S・cm-1)を有するため、通電加熱用の発熱体として有効に使用できる他、医薬品製造用反応容器の静電気防止材として反応操作時における安全性を高めることができる。また温排水管の貝殻付着防止などにも活用できる他、その適度の導電性により電熱ヒータとしてビルや車などのガラスのくもり止めや結露防止などにも適用できる。
【0041】
本発明の実施の形態の導電性バナジン酸塩ガラス及びその製造方法は以上のように構成されているので以下の作用を有する。
(1)電気伝導性と化学耐久性とに優れたガラス骨格を形成させることができ、腐食環境下で用いられる化学反応容器用の導電性を有した防護被膜材や、電極材料、固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての化学耐久性を保持させることができる。
(2)ガラスビンや火力発電所等から排出される石炭灰等の廃棄物を、導電性バナジン酸塩ガラスのケイ素、カルシウム、ナトリウムなどの原料として適用でき、資源の有効活用が図れると共に、廃棄物量を削減して環境保護性にも優れている。
(3)ガラス骨格を所定条件に制御して形成でき、電子ホッピング効果による電気伝導性の向上、ガラス表面の化学ポテンシャルの制御による化学耐久性の向上、溶融温度、ガラス転移温度を制御した生産性の向上などの利点がある。
(4)ガラス質としているため、層状構造を有した結晶質のものに比べて層間化合物の生成などのインターカレーションによる構造変化を少なくでき、安定した性能を維持できる。
(5)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり、複雑な形状等への被膜形成等が容易で加工性にも優れており、種々の形態の半導体素子や反応容器の被膜形成材としての応用が可能である。
(6)電気伝導性及び化学耐久性を調整するのに有効なバナジウム、ケイ素、鉄、カルシウム、ナトリウムなどが所定量含まれているので、化学耐久性と電気伝導性の両者をバランスさせた適正状態に維持させることができる。
(7)導電性バナジン酸塩ガラスを安価な廃棄物原料を用いて製造できるので、経済性に優れている。
(8)熱処理温度や保持時間等の熱処理条件と、この熱処理条件により得られる導電性バナジン酸塩ガラスの電気伝導性や化学耐久性との対応関係を用いて、熱処理条件を選択して、その特性を任意に調整することができるので、用途や使用環境に応じた特性を有した電気伝導性の素材を製造できる。
【0042】
【発明の効果】
請求項1に記載の導電性バナジン酸塩ガラスによれば、以下の効果を有する。
(1)酸化バナジウムを所定量含むガラス組成物としているので、電気伝導性と化学耐久性とに優れたガラス骨格を形成させることができ、その電気伝導性を有効に利用して、腐食環境下で用いられる化学反応容器用のライニング等の防護被膜材や、電極材料、固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての化学耐久性を保持させることができる。
(2)電気伝導性及び化学耐久性が所定範囲に設定されるので、酸やアルカリに晒される反応容器等の保護被膜やサーミスタ、電極素子に適用する場合の設計を容易にでき、設計の自在性に優れている。
(3)ガラス組成物にはバナジウムの他にバリウムや鉄、カルシウム、ナトリウム等を含ませることができるので、ガラス骨格を所定条件に制御して形成でき、▲1▼イオン価(酸化数)の差を利用した電子ホッピング効果による電気伝導性の向上、▲2▼ガラス表面の化学ポテンシャルの制御による化学耐久性の向上、▲3▼溶融温度、ガラス転移温度を制御した生産性の向上などの利点がある。
(4)ガラス質としているため、層状構造を有した結晶質のものに比べて層間化合物の生成などのインターカレーションによる構造変化を少なくでき、安定した性能を維持できる。
(5)二次電池用カソード電極等に適用した場合、結晶質のものでは2相共存状態がいくつかあるために起電力がステップ状に変化するが、ガラス質では起電力がほぼ一定であり、しかも化学拡散係数を高くできるのでより高いエネルギー密度が得られる。
(6)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり小型化、軽量化ができ、実用性や経済性、機能性、デザイン性にも優れている。
(7)ガラス質としているので、複雑な形状等への被膜形成等が容易にでき、しかも加工性に優れており、種々の形態の半導体素子や反応容器の被膜形成材として利用できる。
(8)ガラス転移温度が特定の低い温度域に設定されているので、導電性バナジン酸塩ガラスを医薬品製造用等の反応容器のライニング等に適用する場合に、施工温度を低くでき、そのグラスライニングの施工を容易に行うことができ、施工性や経済性に優れている。
(9)ガラス転移温度が所定範囲に規定されているので、この導電性バナジン酸塩ガラスにアニーリング処理などを実施する場合に電気伝導性や化学耐久性等の特性の制御性を高めることができ、品質のばらつきが少なく信頼性に優れた半導体デバイスやセンサを製造することができる。
(10)ガラス化の際に溶融温度やガラス転移温度を調整したり、ガラス骨格を構築あるいは修飾するためのガラス化調整成分が所定量含まれているので、化学耐久性と電気伝導性の両者をバランスさせた適正状態に維持させることができ、電気伝導性を備えた防食被覆材としての適用性に優れている。
(11)特に酸化カルシウムや酸化ナトリウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等をガラス化調整成分として適用する場合には、これらの成分を含有するガラスカレットや発電所等の石炭灰を利用することができ、大量に排出される産業廃棄物の有効活用が図れると共に、安価な原料を用いるので経済性にも優れている。
(12)酸化カリウム、酸化バリウム、酸化ホウ素、酸化ストロンチウム等を含むガラス化調整成分の添加により導電性バナジン酸塩ガラスのガラス転移温度や化学耐久性を効果的に調整でき、化学耐久性と電気伝導性を適正状態に維持させた導電性バナジン酸塩ガラスとすることができ、品質特性等の制御性に優れた材料を提供できる。
【0043】
請求項2に記載の導電性バナジン酸塩ガラスによれば、以下の効果を有する。
(1)酸化バナジウムを所定量含むガラス組成物としているので、電気伝導性と化学耐久性とに優れたガラス骨格を形成させることができ、その電気伝導性を有効に利用して、腐食環境下で用いられる化学反応容器用のライニング等の防護被膜材や、電極材料、固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての化学耐久性を保持させることができる。
(2)電気伝導性及び化学耐久性が所定範囲に設定されるので、酸やアルカリに晒される反応容器等の保護被膜やサーミスタ、電極素子に適用する場合の設計を容易にでき、設計の自在性に優れている。
(3)ガラス組成物にはバナジウムの他にバリウムや鉄、カルシウム、ナトリウム等を含ませることができるので、ガラス骨格を所定条件に制御して形成でき、▲1▼イオン価(酸化数)の差を利用した電子ホッピング効果による電気伝導性の向上、▲2▼ガラス表面の化学ポテンシャルの制御による化学耐久性の向上、▲3▼溶融温度、ガラス転移温度を制御した生産性の向上などの利点がある。
(4)ガラス質としているため、層状構造を有した結晶質のものに比べて層間化合物の生成などのインターカレーションによる構造変化を少なくでき、安定した性能を維持できる。
(5)二次電池用カソード電極等に適用した場合、結晶質のものでは2相共存状態がいくつかあるために起電力がステップ状に変化するが、ガラス質では起電力がほぼ一定であり、しかも化学拡散係数を高くできるのでより高いエネルギー密度が得られる。
(6)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり小型化、軽量化ができ、実用性や経済性、機能性、デザイン性にも優れている。
(7)ガラス質としているので、複雑な形状等への被膜形成等が容易にでき、しかも加工性に優れており、種々の形態の半導体素子や反応容器の被膜形成材として利用できる
(8)ガラス転移温度が特定の低い温度域に設定されているので、導電性バナジン酸塩ガラスを医薬品製造用等の反応容器のライニング等に適用する場合に、施工温度を低くでき、そのグラスライニングの施工を容易に行うことができ、施工性や経済性に優れている。
(9)ガラス転移温度が所定範囲に規定されているので、この導電性バナジン酸塩ガラスにアニーリング処理などを実施する場合に電気伝導性や化学耐久性等の特性の制御性を高めることができ、品質のばらつきが少なく信頼性に優れた半導体デバイスやセンサを製造することができる。
(10)ガラス化の際に溶融温度やガラス転移温度を調整したり、ガラス骨格を構築あるいは修飾するためのガラス化調整成分が所定量含まれているので、化学耐久性と電気伝導性の両者をバランスさせた適正状態に維持させることができ、電気伝導性を備えた防食被覆材としての適用性に優れている。
(11)特に酸化カルシウムや酸化ナトリウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等をガラス化調整成分として適用する場合には、これらの成分を含有するガラスカレットや発電所等の石炭灰を利用することができ、大量に排出される産業廃棄物の有効活用が図れると共に、安価な原料を用いるので経済性にも優れている。
(12)酸化カリウム、酸化バリウム、酸化ホウ素、酸化ストロンチウム等を含むガラス化調整成分の添加により導電性バナジン酸塩ガラスのガラス転移温度や化学耐久性を効果的に調整でき、化学耐久性と電気伝導性を適正状態に維持させた導電性バナジン酸塩ガラスとすることができ、品質特性等の制御性に優れた材料を提供できる。
(13)酸化アルミニウムをガラス成分とすることにより、シリカ系失透の生成を抑制して分相化を防止できる他、化学耐久性を増大させ、弾性率や硬度を増加した導電性バナジン酸塩ガラスを提供できる。
【0044】
請求項3に記載の導電性バナジン酸塩ガラスによれば、請求項1又は2に記載の効果に加えて以下の効果を有する。
(1)ガラス骨格のゆがみ(ひずみ)を小さくしたり、あるいは取り除いたりすることによって、電気伝導度の制御が高精度で可能となり、所要の電気伝導度や化学耐久性を具備させた導電性バナジン酸塩ガラスを提供できる。
【0045】
請求項4に記載の導電性バナジン酸塩ガラスの製造方法によれば、以下の効果を有する。
(1)原料調整工程を有するので、通常は廃棄されるガラスビンや火力発電所等から排出される石炭灰等を導電性バナジン酸塩ガラスのカルシウムやナトリウム、ケイ素、アルミニウム源となる原料として適用でき、資源の有効活用が図れると共に、廃棄物量を削減して環境保護性にも優れている。
(2)導電性バナジン酸塩ガラスを安価な廃棄物原料を用いて製造できるので、経済性に優れている。
(3)混合物をガラス転移温度以上に保持する熱処理工程を有するので、ガラス骨格そのものの構造の歪み等を緩和させて、電気伝導性や化学耐久性などの特性を所定の範囲に設定でき、制御性に優れる。
(4)導電性バナジン酸塩ガラスをそのガラス転移温度以上の熱処理温度に所定時間保持させて調整するので、バナジウム、ケイ素、鉄、アルミニウム、酸素などから成るガラス骨格のゆがみ(ひずみ)を小さくして、バナジウム4価から5価への電子ホッピングの確率を高め、ガラス半導体や保護被膜としての導電性を増大させることができ、長寿命の保護膜や電極、サーミスタ等を製造できる。
(5)熱処理の温度や保持時間等の熱処理条件とこの熱処理条件により得られる導電性バナジン酸塩ガラスの電気伝導性や化学耐久性との対応関係を用いて、熱処理条件を選択して、その特性を任意に調整することもでき、用途や使用環境に応じた特性を有したサーミスタ素子や伝導性ガラス等を製造できる。

Claims (4)

  1. 酸化ナトリウムと酸化カルシウムと酸化カリウムを合計で21.7〜36.9モル%含み、酸化ケイ素40〜70モル%と酸化バナジウム1〜10モル%、酸化バリウム0.5〜10モル%、酸化鉄0.5〜5モル%を含み、酸化ナトリウムと酸化カリウムの合計モル量に対する酸化カルシウムのモル量の比率(酸化カルシウム/(酸化ナトリウム+酸化カリウム))が0.28〜1.62であるガラス組成物からなり、室温における電気伝導度が10−8〜10−4S・cm−1であり、ガラス転移温度が400〜700℃であり、20%塩酸中における室温72時間浸漬後の溶出量が35%以下であることを特徴とする導電性バナジン酸塩ガラス。
  2. 酸化ナトリウムと酸化カルシウムと酸化カリウムを合計で5.726.3モル%含み、酸化ケイ素40〜70モル%と酸化アルミニウム15〜18モル%と酸化バナジウム1〜10モル%、酸化バリウム0.5〜10モル%、酸化鉄0.5〜5モル%を含み、酸化ナトリウムと酸化カリウムの合計モル量に対する酸化カルシウムのモル量の比率(酸化カルシウム/(酸化ナトリウム+酸化カリウム))が0.27〜8.89であるガラス組成物からなり、室温における電気伝導度が10−8〜10−4S・cm−1であり、ガラス転移温度が400〜700℃であり、20%塩酸中における室温72時間浸漬後の溶出量が35%以下であることを特徴とする導電性バナジン酸塩ガラス。
  3. 結晶化を起こさないようにアニーリングされてガラスの構造緩和がなされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性バナジン酸塩ガラス。
  4. 請求項1乃至3の内いずれか1に記載の導電性バナジン酸塩ガラスの製造方法であって、バナジウム、バリウム、鉄を含むバナジン酸塩組成物5〜35質量%に対して、(a)ガラスビン等を破砕したガラスカレット又はケイ酸ガラス、若しくは石炭灰を35〜95質量%、(b)酸化ナトリウム、酸化カリウムの1種以上が0〜20質量%、(c)酸化カルシウムが0〜15質量%、(d)酸化ケイ素が0〜50質量%、(e)酸化バナジウムが0〜30質量%、(f)酸化ホウ素が0〜10質量%、を混合する原料調整工程と、この混合物を溶融してガラス転移温度以上の熱処理温度に所定時間保持し結晶化を起こさないようにアニーリングしてガラスの構造緩和をする熱処理工程を有することを特徴とする導電性バナジン酸塩ガラスの製造方法。
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