JP5765799B2 - 耐水性および化学耐久性に優れたバナジン酸塩−リン酸塩ガラス - Google Patents
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Description
上記の範囲内の温度でアニーリングを行うと、ガラス骨格の構造緩和によりガラス骨格の歪みを減少させ、3価あるいは4価のバナジウムから5価のバナジウムへの価電子(3d電子)のホッピング伝導の確率を増大させることにより電気伝導度を1桁以上増大させることができる。
金属酸化物混合物が、上記の割合で酸化バナジウム、酸化バリウム、および酸化鉄を含んでいると、高い電気伝導度を有するバナジン酸塩−リン酸塩ガラスを得ることができる。
本発明の一実施の形態に係るバナジン酸塩−リン酸塩ガラス(以下、単に「バナジン酸塩−リン酸塩ガラス」と呼称する場合がある。)は、酸化バナジウム、酸化バリウムおよび酸化鉄からなる金属酸化物混合物と、五酸化二リン(P2O5)とを含む原料組成物を溶融および急冷固化して得られる。バナジン酸塩−リン酸塩ガラスの原料となる原料組成物において、金属酸化物混合物に含まれる金属酸化物のモル数の合計と五酸化二リンのモル数の比は、41:59〜60:40である。なお、該金属酸化物混合物に含まれる金属酸化物のモル数の合計と五酸化二リンのモル数の比の定義は上述のとおりである。
(1)酸化バナジウム
バナジウムは酸化物系ガラスの主骨格を形成させるための構成元素であり、その酸化数を+2、+3、+4、+5等に適宜変化させることにより、電子がホッピングする確率を高めることができる。酸化バナジウムとしては、一酸化バナジウム(VO)、三酸化二バナジウム(V2O3)、二酸化バナジウム(VO2)、五酸化二バナジウム(V2O5)が含まれ、特に五酸化二バナジウムが好適に用いられる。
酸化バリウムは、2次元構造を有する酸化バナジウムのガラス骨格を3次元化するために添加される。五酸化バナジウムは、VO5ピラミッドを構成単位とする層状の結晶構造を有しており、これに酸化カリウム(K2O)や酸化ナトリウム(Na2O)などのアルカリ酸化物を第2成分として加えてガラス化した場合には、そのガラス骨格が1次元的になる。しかし、五酸化バナジウムに酸化バリウム(BaO)を第2成分として加えることにより、そのガラス骨格を3次元的に形成させることができる。その結果、電子ホッピングの確率が増加し、電気伝導度を向上させることができる。
鉄は3d軌道に5個の電子を有する元素であり、この電子がガラス骨格の電気伝導性、すなわち3価あるいは4価のバナジウムから5価のバナジウムへの電子のホッピングに寄与している可能性が高い。酸化バリウムと同様に酸化鉄の濃度を変化させることで導電性を調整することができるので、電気伝導度の調整成分として添加される。
酸化鉄としては、ヘマタイト(Fe2O3)の他に、ウスタイト(FeO)やマグネタイト(Fe3O4)などが含まれる。バナジン酸塩−リン酸塩ガラス中の酸化鉄の含有量は、金属酸化物混合物全体の1〜20モル%の範囲とすることが好ましく、金属酸化物混合物全体の5〜15モル%の範囲とすることがより好ましい。これは適用条件にもよるが酸化鉄の含有量が1モル%より少ないと、鉄による電子ホッピングの効率が下がる傾向が現れ、逆に20モル%を超えると光透過性等の光学特性が低下する等の弊害が現れるからである。
金属酸化物混合物において、各金属酸化物(酸化バナジウム、酸化バリウム、酸化鉄)の好ましい含有量は上記のとおりであるが、各金属酸化物の含有量比(モル比)も、所定の範囲内であることが好ましい。
五酸化二リンは、ケイ酸やホウ酸と同様にガラス形成能を有する無機酸化物であると共に、安定で均質なガラスを容易に形成できる点で優れている。五酸化二リンを酸化バナジウムと共に用いてガラスを形成させると、ポリリン酸構造を有するネットワークを形成することによりバナジウムを含むガラス骨格を強化する。そのため、このようにして得られるバナジン酸塩−リン酸塩ガラスは高い耐水性および化学耐久性を有している。
(1)電気炉などの温度を予め目標とする温度に設定しておき、温度が一定となったところで、室温に保存しておいたガラス試料を電気炉等に入れる方法である。この方法の特徴は、加熱時間を比較的正確に制御できるという点である。目標とする時間が経過したら、直ちに電気炉等からガラスを取り出し、白金るつぼ等の容器の外側を氷水等で急冷するか、空気中に放置する。このように急冷することにより、加熱開始からの加熱時間を正確に制御できるので、高い精度でガラスの構造緩和が可能となる。よって、電気伝導度の制御が高精度で可能となり、目的の電気伝導度(導電性)に設定することができる。
(2)ガラスを室温からゆっくり加熱する方法である。これは、電気炉等の昇温速度を一定に(任意に)設定し、目的の温度に到達後、適当な時間加熱し、その後一定速度で徐々に室温、または室温付近まで冷却する方法である。
(1)バナジン酸塩−リン酸塩ガラスの製造
V2O5、BaO、Fe2O3をモル比70:15:15で混合したものを金属酸化物混合物として使用した。バナジウム原子(V)、バリウム原子(Ba)、鉄原子(Fe)のモル比は、75.7:8.1:16.2である。金属酸化物混合物に含まれる金属酸化物のモル数の合計と五酸化二リンのモル数の比が下記の表1に示す9種類の異なる組成(試料1〜9)となるように金属酸化物混合物および五酸化二リン(P2O5)を秤量し、めのう乳鉢で粉砕および混合後、得られた原料組成物を磁製または白金製のるつぼに入れた。るつぼに入れた原料組成物を電気炉中1000℃で60分間加熱し、溶融させた。溶融した原料組成物をステンレス製金型に流し込み急速冷却処理を行った。室温まで放冷後金型から取り出し、ガラス化していることを確認した。
上記実施例1、実施例4および比較例1において製造したバナジン酸塩−リン酸塩ガラスの一部をめのう乳鉢で粉砕した。得られた粉体50mgを用いてDTA測定を行った。結晶化に伴う吸熱ピークの温度を元に熱処理(アニーリング)温度を決定した。
上記実施例1、実施例4および比較例1において製造したバナジン酸塩−リン酸塩ガラスを所定の形状に成形後、側面に銀ペーストを塗布し、銅線をハンダ付けした。これを基板に取り付け、直流二端子法を用いて室温における電気伝導度を測定した。測定はアニーリング前後のサンプルについて行い、アニーリングがバナジン酸塩−リン酸塩ガラスの電気伝導性に及ぼす影響についても検討した。測定結果を下記の表2に示す。
アニーリングにより、バナジン酸塩−リン酸塩ガラスの電気伝導度は、帯電防止部材等への応用が可能な10−7S・cm−1程度まで増大可能であることが確認された。
比較例1、2および実施例1〜7において製造したバナジン酸塩−リン酸塩ガラスおよびバナジン酸塩ガラスを10mm×10mm×3mmの直方体状に加工し、サンプル管にとった超純水15mL中に浸漬した。サンプルを浸漬した超純水を室温または100℃で120分間撹拌し、着色の有無を目視で確認した。超純水中に溶出した鉄およびバナジウムの濃度は、それぞれ原子吸光分析および吸光度分析により、検量線法を用いて定量した。結果は、下記の表3に示すとおりである。なお、表3において「○」は目視により着色が確認されたこと、「×」は目視により着色が確認されなかったことをそれぞれ表す。
Claims (1)
- 酸化バナジウム、酸化バリウムおよび酸化鉄からなり、酸化バナジウム、酸化バリウム、および酸化鉄の含有量が、それぞれ、40〜98モル%、1〜40モル%、および1〜20モル%である金属酸化物混合物と、五酸化二リンとを含み、該金属酸化物混合物に含まれる金属酸化物のモル数の合計と五酸化二リンのモル数の比が41:59〜60:40である原料組成物を溶融および急冷固化して得られるバナジン酸塩−リン酸塩ガラスであって、前記原料組成物を溶融および急冷固化後、さらに前記バナジン酸塩−リン酸塩ガラスのガラス転移温度以上融点以下の温度で所定時間アニーリングして得られることを特徴とするバナジン酸塩−リン酸塩ガラス。
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