JP2003034548A - バナジン酸塩ガラス及びバナジン酸塩ガラスの製造方法 - Google Patents

バナジン酸塩ガラス及びバナジン酸塩ガラスの製造方法

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JP2003034548A JP2001218855A JP2001218855A JP2003034548A JP 2003034548 A JP2003034548 A JP 2003034548A JP 2001218855 A JP2001218855 A JP 2001218855A JP 2001218855 A JP2001218855 A JP 2001218855A JP 2003034548 A JP2003034548 A JP 2003034548A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 その電気伝導度を飛躍的に高めて電極材料や
固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を向上
させるとができるバナジン酸塩ガラスを提供し、電気伝
導度を所定範囲に制御してこれらを用いる装置や回路の
設計を容易に行うことのできるバナジン酸塩ガラスの製
造方法を提供する。 【解決手段】 バナジウム、バリウム、鉄を含む酸化物
系ガラス組成物であって、その室温における電気伝導度
が10-4〜10-1S・cm-1であるバナジン酸塩ガラス
である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電極材料、固体電
解質、サーミスタ等のセンサとして好適に用いられ、そ
の電気伝導度を所定の範囲に調整してガラス半導体の設
計や開発を容易に行うことのできるバナジン酸塩ガラス
及びバナジン酸塩ガラスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、サーミスタ等として用いられ
るガラス半導体として、五酸化バナジウム(V25)を
主成分とするバナジン酸塩ガラスが開発されており、こ
れに酸化カリウム(K2O)や酸化ナトリウム(Na
2O)を第2成分として加えてガラス化したもの等が知
られている。酸化カリウムや酸化ナトリウムを添加した
ものでは、バナジン酸塩ガラスの室温での電気伝導度の
値は、溶融物を急冷する通常の方法でガラスを作製した
場合、せいぜい10-5S・cm-1程度である。バナジウ
ムを多量に含むガラスは、通常のイオン伝導性の酸化物
系ガラスとは異なり、電子伝導性であるため比較的高い
電気伝導度を示し、サーミスタ等に用いられている。こ
のようなガラス組成物に関して、例えば以下のようなも
のが知られている。 (1)特公昭42−24785号公報(以下イ号公報と
いう)には、五酸化バナジウム50モル以上を含み五酸
化燐と酸化バリウムとからなるガラス組成に、酸化セリ
ウムと酸化錫並びに酸化鉛を添加した熱感応抵抗素子用
ガラス状抵抗材料が開示されている。 (2)特公昭39−9140号公報(以下ロ号公報とい
う)には、五酸化バナジウム70モル%以上、五酸化燐
5〜15モル%を含むガラスに13モル%以下の酸化銅
を加えて得られるガラスからつくられたサーミスタが開
示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記従
来のバナジウムを主成分とするバナジン酸塩ガラスでは
以下のような課題を有していた。 (1)イ号公報やロ号公報等に記載の溶融物を急冷して
得られたバナジン酸塩ガラスでは、その室温での電気伝
導度はせいぜい10-5S・cm-1程度と低く、電極材料
や固体電解質、サーミスタ等のセンサとして用いるには
電気伝導性が不足して実用上使用できない場合があると
いう課題があった。 (2)バナジン酸塩ガラスの含有成分やその組成によっ
て電気伝導度が左右され、しかもその値がばらつくため
に、電気伝導度を所定範囲内に調整してガラス半導体等
としての設計を精密に行うことが困難であるという課題
があった。
【0004】本発明は上記従来の課題を解決するもの
で、その電気伝導度を飛躍的に高めて電極材料や固体電
解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を向上させる
とができるバナジン酸塩ガラスを提供し、電気伝導度を
所定範囲に制御してこれらを用いる装置や回路の設計を
容易に行うことのできるバナジン酸塩ガラスの製造方法
を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に本発明は以下の構成を有している。請求項1に記載の
バナジン酸塩ガラスは、バナジウム、バリウム、鉄を含
む酸化物系ガラス組成物であって、その室温における電
気伝導度が10-4〜10-1S・cm-1であるように構成
されている。これによって、以下の作用を有する。 (1)バナジウムを主成分とする酸化物系ガラス組成物
にバリウム、鉄が副成分として含まれるので、これらの
原子が3次元的に関連し合ったガラス骨格を形成させる
ことができ、その電気伝導性を高めて電極材料や固体電
解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を向上させる
ことができる。 (2)電気伝導度が所定範囲に設定されているので、バ
ナジン酸塩ガラスをサーミスタや電極素子に適用する場
合の設計を容易にでき、設計性に優れている。 (3)バナジン酸塩ガラスにはバリウム及び鉄が含有さ
れているので、ガラス骨格中に4価のバナジウムと5価
のバナジウムイオンを配置でき、これにより電子ホッピ
ングの確率が高められ、電気伝導性に優れている。 (4)ガラス質であるため、層状構造の結晶質のものに
比べて層間化合物の生成などのインターカレーションに
よる構造変化を少なくでき、安定した性能を維持でき
る。さらに、二次電池用カソード電極等に適用した場
合、結晶質のものでは2相共存状態がいくつかあるため
に起電力がステップ状に変化するが、ガラス質では起電
力がほぼ一定であり、しかも化学拡散係数を高くできる
のでより高いエネルギー密度が得られる。 (5)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり小型
化、軽量化ができ、経済性や機能性、デザイン性にも優
れている。 (6)ガラス質としているので、複雑な形状等への成形
が容易にでき、しかも加工性に優れており、種々の形態
の半導体素子としての応用が可能である。
【0006】ここで、バナジウムは酸化物系ガラスの主
骨格を形成させるための構成元素であり、その酸化数が
2、3、4、5等に変化して、電子がホッピングする確
率を高めることができる。バナジン酸塩ガラス中の酸化
バナジウムの含有量は、40〜98モル%の範囲とする
ことが望ましい。これはその適用条件にもよるが、酸化
バナジウムの含有量が40モル%より少ないと、バナジ
ウムを主構成要素としたガラス骨格を維持させるのが困
難になる上に電気伝導度を所定範囲に維持させるのが困
難になる傾向が現れ、逆に98モル%を超えると相対的
に副成分の量が減るためにこれら副成分による電気伝導
度や光学特性、機械的特性等の調整機能を低下させる傾
向が現れるからである。
【0007】バリウムは、二次元的な構成のバナジウム
酸化物のガラス骨格を3次元化するために添加される構
成元素である。五酸化バナジウムは図1に示すようなV
5ピラミッドから成る層状の結晶構造を有しており、
これに酸化カリウム(K2O)や酸化ナトリウム(Na2
O)を第2成分として加えてガラス化した場合には、そ
のガラス骨格が1次元的になる。しかし、五酸化バナジ
ウムに酸化バリウム(BaO)を第2成分として加える
ことにより、そのガラス骨格を3次元的に形成させるこ
とができる。従って、そのガラス骨格を3次元化させる
ことで電気伝導度を向上させ、サーミスタ、コンデン
サ、磁性体などとしてバナジン酸塩ガラスを有効に機能
させることができる。バナジン酸塩ガラス中の酸化バリ
ウムの含有量は、1〜40モル%の範囲とすることが望
ましい。これは適用条件にもよるが酸化バリウムの含有
量が1モル%より少ないと、過剰酸素を吸収した固溶体
を生成させP型半導体等として機能させることが困難に
なる他、均質なガラス化が困難になる傾向が現れ、逆に
40モル%を超えると機械的強度や光透過性等が低下し
ガラス化しにくくなる傾向が現れるので好ましくない。
【0008】鉄は3d軌道に5個の電子を有する元素で
あり、この電子がガラス骨格の導電性に寄与している可
能性が高い。すなわち、バナジン酸塩ガラスでは、V
(IV)からV(V)への電子ホッピングにFeの3d
軌道上の5個の価電子も寄与していると推定される。酸
化バリウムと同様に酸化鉄の濃度を変化させることで導
電性を調整することができ、この電気伝導度の調整成分
として添加される。バナジン酸塩ガラス中の酸化鉄の含
有量は、1〜20モル%の範囲とすることが望ましい。
これは適用条件にもよるが酸化鉄の含有量が1モル%よ
り少ないと、鉄による電子ホッピング効果を維持させる
のが困難になる傾向が現れ、逆に20モル%を超えると
光透過性等の光学特性が低下する等の弊害が現れるから
である。
【0009】バナジン酸塩ガラスの電気伝導度は25℃
の室温において、10-4〜10-1S・cm-1、好ましく
は10-3〜10-2S・cm-1の範囲とすることが望まし
い。これは、バナジン酸塩ガラスを適用する電極やサー
ミスタの種類や容量、用途等にもより変動するが、電気
伝導度が10-3S・cm-1より小さくなるにつれ、各種
の素子として作動効率が低下し、作動しなくなる等の傾
向が現れ、逆に、電気伝導度が10-2S・cm-1を超え
るにつれバナジウムの量が相対的に増大して機械的強度
等が劣化し、半導体としての電気特性が失われる傾向が
現れ、これらの傾向は10-4S・cm-1より小さくなる
か、10-1S・cm-1より大きくなるとさらに顕著にな
るからである。
【0010】所定の電気伝導度を有したバナジン酸塩ガ
ラスは、例えば酸化バナジウム50〜90モル%、酸化
バリウム5〜35モル%、酸化鉄5〜15モル%を含む
混合物、若しくは酸化バナジウムと酸化バリウム又は酸
化バナジウムと酸化鉄を含む混合物を白金るつぼ中等で
加熱溶融した後、これを急冷してガラス化し、このガラ
ス化物を所定のアニーリング処理条件で熱処理すること
により製造できる。
【0011】請求項2に記載のバナジン酸塩ガラスは、
請求項1に記載の発明において、前記酸化物系ガラス組
成物にレニウムが1〜15モル%含有されて構成され
る。この構成によって、請求項1の作用の他、以下の作
用が得られる。 (1)導電性に優れたレニウムがバナジン酸塩ガラス中
に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気伝導
度をさらに効果的に向上できる。 (2)レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移温度
や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング処理
を容易に行うことができる。 (3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピ
ング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を
提供できる。ここで、レニウムの含有量が1モル%より
少ないと電気伝導度を効果的に増加させることが困難に
なり、逆に15モル%を超えると、バナジウムを主構成
要素とするガラス骨格の形成ができなくなるので好まし
くない。
【0012】請求項3に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法は、酸化バナジウム及び、酸化バリウム、酸化鉄
を含む混合物を溶融、急冷してそのガラス組成物を得た
後、前記ガラス組成物のガラス転移温度以上、結晶化温
度以下のアニーリング処理の温度に所定時間保持させ、
前記ガラス組成物の電気伝導度を調整するように構成さ
れている。この構成によって、以下の作用を有する。 (1)バナジン酸塩ガラスにおける電気伝導性は、3d
軌道に1個の電子を持つ4価のバナジウムから3d軌道
に電子を持たない5価のバナジウムへの電子のホッピン
グ(hopping)に基づくものであり、ガラス骨格
そのものが導電機構に関与している。このようなバナジ
ン酸塩ガラスに適度な熱処理を施すことによりガラス骨
格そのものの構造や歪み等を変化させて、物性(電気伝
導度など)を所定の値に制御することができる。 (2)酸化バナジウムを主成分とするバナジン酸塩ガラ
スをそのガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニー
リング処理の温度に所定時間保持させるので、バナジウ
ム、バリウム、鉄、酸素からなるガラス骨格の歪みを小
さくすることができ、これによって4価から5価のバナ
ジウムヘ電子がホッピングする確率を大きくして、ガラ
ス半導体としての導電性を増大させることができ、高性
能の電極やサーミスタを製造でき、生産性に優れてい
る。 (3)アニーリング処理の温度や保持時間等のアニーリ
ング条件とこのアニーリング条件により得られるバナジ
ン酸塩ガラスの電気伝導度との対応関係を用いて、アニ
ーリング条件を選択して、その電気伝導度を任意に調整
できるので、用途や使用環境に応じた特性を有したサー
ミスタ素子等を容易に製造できる。
【0013】ここで、ガラス転移温度、結晶化温度は、
混合物を直接、示差熱分析装置等にかけたり、その推定
される構成成分のデータに基づいて状態図を用いた熱力
学的計算等を行ったりすることで求めることができる。
なお、アニーリング処理の温度は結晶化温度付近に設定
すると短時間で処理がすむが、結晶化温度よりも数十度
低いガラス転移温度付近で熱処理しても、加熱保持時間
が長くなるだけで、基本的にはガラス骨格の構造緩和を
生じさせることができる。従って、バナジン酸塩ガラス
をガラス転移温度以上、結晶化温度以下の温度で熱処理
することによりガラス骨格の歪みを小さくして電子ホッ
ピングの確率を増すことができ、その導電性を大幅に改
良することができる。酸化バナジウムとしては、一酸化
バナジウム、三二酸化バナジウム、二酸化バナジウム、
五酸化バナジウムが含まれ、特に五酸化バナジウムが好
適に用いられる。酸化バリウムとしては、通常のBaO
の他に、過剰酸素を含む固溶体としてのBaOや過酸化
バリウムが含まれる。酸化鉄としては、FeOの他に四
酸化三鉄、三酸化二鉄が含まれる。
【0014】請求項4に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法は、請求項3に記載の発明において、前記アニー
リング処理前のガラス組成物の電気伝導度が10-8〜1
-6S・cm-1であり、アニーリング処理後の10-4
10-1S・cm-1であるように構成されている。この構
成によって、請求項3の作用の他、以下の作用が得られ
る。 (1)ガラス組成物のアニーリング処理前後の電気伝導
度をそれぞれ所定の範囲に限定しているので、ラインに
載せて大量生産する場合の生産管理を容易にして電気的
特性に優れたサーミスタ等の素子を効率的に製造するこ
とができる。 (2)アニーリング処理後の電気伝導度を所定のレベル
に高め、しかもばらつきの少ない状態に維持でき、信頼
性や制御性に優れた電気素子を製造できる。
【0015】ここで、アニーリング処理後のガラス組成
物の電気伝導度は、ガラス組成物を適用する電極やサー
ミスタの種類や容量、用途等にもより変動するが、10
-4S・cm-1より小さいと、各種の素子として作動効率
が低下したり、作動しなくなったりする弊害が現れ、逆
に、電気伝導度が10-1S・cm-1を超えるとバナジウ
ムの量が相対的に増大して機械的強度等が劣化したり、
コストアップに繋がる等の弊害や、半導体としての特性
が失われる等弊害が現れるので好ましくない。またアニ
ーリング処理前のガラス組成物の電気伝導度は、適用す
る条件によっても変動するが、10-8S・cm-1より小
さいと、熱処理によっても実用レベルまで電気伝導度を
上げることが困難になり、作動効率が低下したり作動が
困難になる弊害が現れる。逆に、電気伝導度が10-6
・cm-1を超えると熱処理により電気伝導度を所定範囲
に維持させる制御性が悪化する弊害が現れ、長時間の処
理により結晶化してガラスセラミックス(結晶化ガラ
ス)が生じて電気特性が劣化する等の弊害が現れるので
好ましくない。
【0016】請求項5に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法は、請求項3又は4に記載の発明において、前記
混合物100wt%に対して酸化レニウムが+1〜+1
0wt%添加されて構成されている。この構成により請
求項3又は4に記載の作用の他、以下の作用が得られ
る。きる。 (1)導電性に優れた酸化レニウムがバナジン酸塩ガラ
ス中に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気
伝導度をさらに効果的に向上できる。 (2)酸化レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移
温度や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング
処理を容易に行うことができる。 (3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピ
ング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を
提供できる。 (4)アニーリング前のガラスの電気伝導度をReO3
を含まない場合よりも一桁以上高くすることができる。
ここで、酸化レニウムとしては、三酸化二レニウム、二
酸化レニウム、五酸化二レニウム、三酸化レニウム七酸
化二レニウム等の酸化数が3から7までの化合物が含ま
れる。この中でも三酸化レニウムが特に好ましく用いら
れるが、その目的とする電気伝導度や、機械的強度、光
透過性等の条件に応じてこれらの酸化物を適宜選択して
用いることもできる。酸化レニウムの添加量が+1wt
%より少ないと電気伝導度を効果的に増加させることが
困難になり、逆に+10wt%を超えると、バナジウム
を主構成要素とするガラス骨格の形成ができなくなるの
で好ましくない。
【0017】請求項6に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法は、請求項3乃至5の内いずれか1項の発明にお
いて、前記酸化バリウム(B)の前記酸化バナジウム
(V)に対するモル比(B:V)が5:90〜35:5
0であるように構成される。この構成によって、請求項
3乃至5の内いずれか1項の作用の他、以下の作用が得
られる。 (1)酸化バリウムの酸化バナジウムに対するモル比が
所定範囲に設定されているので、3次元構成のガラス骨
格を有効に形成してアニーリング処理における電気電導
度の増加率が向上させることができ、生産性に優れてい
る。 (2)アニーリング処理前におけるバナジン酸塩ガラス
の電気伝導度のばらつきが少なくなるので、所定範囲に
規格化された素子を容易に製造できると共に、信頼性に
優れたサーミスタや電極等の電子部品を低原価で提供で
きる。 (3)特定組成のガラス組成物をアニーリング処理する
ことによりその電気伝導度を一桁以上増加させることが
できる。ここで、モル比(B:V)が5:90より小さ
いと、3次元構成のガラス骨格を形成させるのが困難に
なったり、酸化バナジウムによるガラス組成物の結晶化
温度、ガラス転移温度等の調整が困難になったりする。
また均質なガラス化が困難になるような弊害が現れるの
で好ましくない。逆にモル比(B:V)が35:50よ
り大きくなると、ガラス特性が低下する傾向にあり、し
かもバナジウムを主骨格として酸化物ガラスを構成する
ことが困難になるので好ましくない。
【0018】請求項7に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法は、請求項3乃至6の内いずれか1項の発明にお
いて、前記酸化鉄(F)の前記酸化バナジウム(V)に
対するモル比(F:V)が5:90〜15:50である
ように構成されている。この構成によって、請求項3乃
至6のいずれか1項の作用の他、以下の作用が得られ
る。 (1)酸化鉄の酸化バナジウムに対するモル比が特定範
囲に設定されているので、ガラスとしての光透過性等の
光学特性を損なうことなく維持でき、光学素子としての
利便性に優れている。 (2)酸化物系ガラス中における鉄の酸化数を異ならせ
ることにより、電子ホッピング効果を更に増大させるこ
とができ、高い電気伝導度を維持させることができる。 (3)酸化鉄の添加による磁性発現も期待でき、これを
利用したメモリ等への適用が可能である。ここで、モル
比(F:V)が5:90より小さくなると、酸化鉄によ
るガラス組成物の結晶化温度、ガラス転移温度等の調整
が困難になり、また、ガラス化しにくくなる等のような
弊害が現れるので好ましくない。逆にモル比(F:V)
が15:50より大きくなると、光透過性等の光学特性
が劣化して透明電極への適用が困難になると共に、均質
なガラスが困難となり、しかもバナジウムを主骨格とし
た酸化物系ガラスを構成することが困難になるので好ま
しくない。
【0019】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)本発明の実施の
形態1のバナジン酸塩ガラスは以下のように製造され
る。まず、酸化バナジウム及び、酸化バリウム、酸化鉄
を所定量含む混合物を作製する。この混合物をその溶融
点温度以上に加熱して溶融、急冷してそのガラス組成物
を得る。次に、このガラス組成物をそのガラス転移温度
以上、結晶化温度以下のアニーリング処理の温度に所定
時間保持させ、所定の電気伝導度を有するバナジン酸塩
ガラスを製造方法する。以下、この製造方法についてさ
らに詳細に説明する。
【0020】まず、その化学組成が15BaO・70V
25・15Fe23に調整された混合物Aを作成する。
この混合物A中にはバナジウムからなるガラス主骨格を
3次元化するためのBaO等の酸化バリウム、3d電子
による電子ホッピング効果を促すための酸化鉄が副成分
として含まれている。なお、周期表の第2族元素(M
g)あるいは五酸化リン(P25)を副成分として主成
分となる五酸化バナジウムに加えることによっても、ガ
ラス骨格を3次元化させることができる。従って、Ba
OをMgO、あるいはP25に置換した場合にも同様に
電気伝導度の上昇が期待できる。また、周期表上でBa
とMgの中間に位置するCaの酸化物を用いても同様の
効果が期待できる。試薬特級の酸化バリウム(BaO)
が15モル%、五酸化バナジウム(V25)が70モル
%、酸化鉄(Fe23)が15モル%になるよう、直示
天秤を用いて各試薬を秤り取る。試薬の合計が1グラム
(g)の場合には、BaOが0.1320g、V25
0.7306g、Fe23が0.1375gとなる。こ
の混合物Aを白金るつぼに移し、電気炉中1000℃で
60分間加熱し、溶融する。これを直ちに氷水で急冷す
る(白金るつぼの外側、底部を氷水に浸ける)ことによ
り、V−Ba−Fe系のガラス組成物Aが得られる。
【0021】なお、前記アニーリング処理方法は、以下
の二通りの方法がある。 電気炉などの温度を予め目標とする温度に設定してお
き、電気炉等の温度が一定となったところで、室温に保
存しておいたガラス試料を入れる方法である。この方法
の特徴は、加熱時間を比較的正確に制御できるという点
である。目標とする時間が経過したら、直ちに電気炉等
からガラスを取り出し、白金るつぼ等の容器の外側を氷
水等で急冷する。このように急冷することにより、加熱
開始からの熱処理(加熱)時間を正確に制御できるの
で、高い精度でガラスの構造緩和が可能となる。よっ
て、電気伝導度の制御が高精度で可能となり、目的の電
気伝導度(導電性)に設定することができる。 ガラスを室温からゆっくり加熱する方法である。これ
は、電気炉等の昇温速度を一定に(任意に)設定し、目
的の温度に到達後、適当な時間加熱し、その後一定速度
で徐々に室温、または室温付近まで冷却する方法であ
る。以上の、の方法により、ガラス骨格のゆがみ
(ひずみ)を小さくしたり、あるいは取り除いたりする
ことができ、これらを組み合わせることもできる。例え
ば、予め目標の温度に加熱した電気炉の中にガラスを入
れ、一定時間経過後、ゆっくり室温付近まで冷却する方
法などが挙げられる。最も重要なことは、ガラスに与え
る熱エネルギーの総量である。よって、目的とする電気
物性の発現に最も適切な方法をとる必要がある。
【0022】以上のように作成されたガラス組成物Aの
試料について示差熱分析(DTA)や示差走査熱量測定
(DSC)などを行うことによりそれぞれのガラス転移
温度(Tg)と結晶化温度(Tc)を求めた。ガラスを
そのガラス転移温度以上の温度で加熱すると、ガラス骨
格の切断やガラスを構築する骨格の再構築、フラグメン
トの再配列が起きる。しかし、ガラスを長時間、ガラス
転移温度以上の温度で加熱すると、ガラス相中に結晶相
が析出し、それらが成長することにより、ガラスは結晶
化ガラス(ガラスセラミック)となって、電気伝導度や
光透過性等を低下させる要因となる。従って、アニーリ
ング処理温度における保持時間は、そのガラス処理量や
加熱装置の熱容量等によっても変動するが、所定の電気
伝導度を保持させることができ、しかもこのような結晶
化が起こらないような範囲、例えば10分〜180分
間、好ましくは20〜60分間の範囲に設定しておくこ
とが望ましい。アニーリング処理温度はガラス転移温度
以上、結晶化温度以下(示差熱分析における結晶化の発
熱ピークの裾の高温側端点温度又は発熱ピークの中心点
における温度)の範囲に設定する。この熱処理時間が短
時間であれば、結晶相が析出する前に(結晶化ガラスと
なる前に)ガラス骨格のゆがみ(ひずみ)が小さくな
り、いわゆる構造緩和が起きる。こうして、電気伝導度
を10-4〜10-1S・cm-1の範囲のレベルにまで高め
られたバナジン酸塩ガラスを作製することができる。
【0023】前記アニーリング処理がなされたガラス組
成物Aの試料の電気伝導度を以下のようにして測定して
その結果を表1に示した。なお、測定に際しては前記ガ
ラス組成物Aの試料厚さが1ミリメートル以下のガラス
片を用いて、直流二端子法または直流四端子法、交流四
端子法(電気伝導度の値が1×10-5S・cm-1以上の
場合)を適用して室温で値を求めた。ここでは、溶融し
た金属インジウムを用いて、ガラス表面にリード線を固
定させたものを電極とした。電気伝導度(σ)の値は、
電流密度(Acm-2)の値を電場の大きさ(Vcm-1
で割ったものである。 Acm-2÷Vcm-1=A/Vcm-1=S・cm-1=S・
cm-1 なお、電気伝導度(S・cm-1)は、比抵抗(Ω・c
m)の逆数である。
【0024】
【表1】
【0025】図2にガラス組成物Aのガラス片を結晶化
温度(370℃)で60分間熱処理して得られた試料の
電流−電圧特性(I−V特性)を示す。電流(I)と電
圧(V)は良好な直線関係を示すオーミック(ohmi
c)であることが分かる。従ってこの直線の傾きから、
抵抗値が求まり(単位はΩ)、この値と試料のサイズか
ら電気伝導度(単位はS・cm-1)が求まる。図3には
同じく、結晶化温度(370℃)で120分間熱処理し
た試料の電流−電圧特性を示す。この程度の熱処理では
試料はガラス質のままであり、ガラス相中に混合物Aの
組成に関連した結晶相がほとんど析出していないことが
図4のX線回折パターンの結果からも分かる。肉眼によ
る観測からもガラス質のままであることが確認できた。
【0026】熱処理前の、このガラス組成物Aの試料の
電気伝導度(σ)は1.1×10-7S・cm-1であった
が、60分の熱処理(図2)で処理前の350倍に大き
くなり(σ=3.8×10-5S・cm-1)、120分の
熱処理(図3)では20000倍(σ=2.2×10-3
S・cm-1)にもなっている。180分の熱処理後に
は、電気伝導度の値は当初の値の25000倍(σ=
2.8×10-3S・cm-1)にもなっている。また、3
00分の熱処理後には、電気伝導度の値は当初の値の4
5000倍(σ=4.9×10-3S・cm-1)にもなっ
ている。これらの電気伝導度の値は、五酸化バナジウム
をベースとするガラス半導体試料(ブロック状試料)の
中では、これまでのところ、最も大きな値である。これ
らの電気伝導度の値を熱処理時間に対してプロットした
データを図5に示している。
【0027】なお、この熱処理試料の電気伝導度の値
は、カリウム、鉄を副成分とするバナジン酸塩ガラス
(25K2O・65V25・10Fe23)における値
(4.3×10-4S・cm-1;英国化学会誌T.Nis
hida他4名、1889−1896(1996))よ
りも10倍以上大きい。これは、酸化バリウムを含むバ
ナジン酸塩ガラスが3次元骨格を有しており、4価のバ
ナジウムから5価のバナジウムヘ電子がホッピングする
確率が、1次元骨格を持つ25K2O・65V25・1
0Fe23系のガラスよりも大きくなるためと考えられ
る。
【0028】実施の形態1のバナジン酸塩ガラス及びそ
の製造方法は、以上のように構成されているので以下の
作用を有する。 (1)バナジン酸塩ガラスにおける電気伝導性は、4価
から5価のバナジウムへの電子のホッピングに基づくも
のであり、バナジン酸塩ガラスに適度な熱処理を施すこ
とによりガラス骨格そのものの構造や歪み等を変化さ
せ、物性(電気伝導度など)を容易に制御できる。 (2)他のガラス半導体と同様、電極材料、固体電解
質、各種センサなど幅広い分野での応用が期待できる。
とりわけ、ガラスの組成を変えるという従来の材料設計
法に加えて、ひとたび作製したガラス試料を、結晶化温
度からガラス転移温度の間の任意の温度で適度に熱処理
することにより、目的の電気伝導度を持つガラス半導体
の設計と開発が容易となる。 (3)アニーリング処理時間とこのアニーリング処理に
より得られる電気電導度との関係を求めておき、この関
係を用いて電気伝導度を所定値に設定することができ
る。こうしてブロック状のバナジン酸塩ガラスの電気伝
導度を飛躍的に高めることができ、高い導電性を有する
ガラスやガラスセラミックス(結晶化ガラス)の開発が
期待できる。 (4)バナジウムを主成分とする酸化物系ガラス組成物
にバリウム、鉄が副成分として含まれるので、これらの
原子からなるガラス骨格を互いに3次元的に関連し合っ
た構造にすることができ、電子伝導性を高め、電極材料
や固体電解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を大
幅に向上させることができる。 (5)バナジン酸塩ガラスには3次元ガラス骨格を形成
させるバリウム及び、電子ホッピングの確率を高めるた
めの鉄がそれぞれ適正量で含有されているので、光学特
性等を損ねることなく電気伝導性を飛躍的に向上させる
ことができる。 (6)酸化バナジウムを主成分とするバナジン酸塩ガラ
スをそのガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニー
リング処理の温度に所定時間保持させるので、バナジウ
ム、バリウム、鉄、酸素からなるガラス骨格の歪みを小
さくすることができ、ガラス半導体としての導電性を増
大させることができ、高性能の電極やサーミスタを製造
するための生産性に優れている。 (7)アニーリング処理の温度や保持時間等のアニーリ
ング条件とこのアニーリング条件により得られるバナジ
ン酸塩ガラスの電気伝導度との対応関係を用いて、アニ
ーリング条件を選択して、その電気伝導度を任意に調整
できるので、用途や使用環境に応じた特性を有したサー
ミスタ素子等を容易に製造できる。 (8)ガラス組成物のアニーリング処理前後の電気伝導
度をそれぞれ所定の範囲に限定しているので、ラインに
載せて大量生産する場合の生産管理を容易にして電気的
特性に優れたサーミスタ等の素子を効率的に製造するこ
とができる。 (9)アニーリング処理後の電気伝導度を所定のレベル
に高め、しかもばらつきの少ない状態に維持でき、信頼
性や制御性に優れた電気素子を製造できる。
【0029】(実施の形態2)本発明の実施の形態2の
バナジン酸塩ガラスは以下のように製造される。まず、
酸化バナジウム及び、酸0化バリウム、酸化鉄をそれぞ
れ所定量含む混合物に酸化レニウムを添加したり、この
混合物からなるガラス組成物を溶解しこれに所定量の酸
化レニウムを添加したりして、所定の混合物を作製す
る。この混合物をその溶融点温度以上に加熱して溶融、
急冷してそのガラス組成物を得る。次に、このガラス組
成物を混合物のガラス転移温度以上、結晶化温度以下の
アニーリング処理の温度に所定時間保持させ、ガラス組
成物の電気伝導度を調整して、所定の特性を有するV−
Ba−Fe−Re系のバナジン酸塩ガラスを製造方法す
る。以下、この製造方法についてさらに詳細に説明す
る。
【0030】まず、その化学組成が15BaO・70V
25・15Fe23+x%ReO3(x=1、5、1
0)にそれぞれ調整された混合物Bを作成する。この混
合物B中にはバナジウムからなるガラス主骨格を3次元
化するための酸化バリウム及び、電子ホッピング効果を
助長させるための酸化鉄、それ自体電気伝導性を有し電
気電導度を増加させるための酸化レニウムが副成分とし
て含まれている。なお、前記x=1、5、10はモル比
に換算すると、それぞれ1.3モル%、6.3モル%、
11.9モル%に相当する添加量である。試薬特級の酸
化バリウム(BaO)が15モル%、五酸化バナジウム
(V25)が70モル%、酸化鉄(Fe23)が15モ
ル%になるよう、直示天秤を用いて各試薬を秤り取り、
この混合物に対して酸化レニウム(ReO3)が重量比
でx%(x=1および5、10)になるように酸化レニ
ウムを秤り取って、この混合物を白金るつぼ等で溶融す
る。また、前記ガラス組成物Aのガラス片を白金るつぼ
に移し、これを可能な限り低い温度(本ガラスの場合は
720℃が適当)で溶融させ、溶融開始後直ちに酸化レ
ニウムを加えるようにしてもよい。こうして約15分間
溶融後、白金るつぼの外側(底面)を氷水で急冷してV
−Ba−Fe−Re系のガラス組成物Bが得られる。
【0031】以上のように作製されたガラス組成物Bの
試料について示差熱分析や示差走査熱量測定を行うこと
によりそれぞれのガラス転移温度と結晶化温度を求め
た。次に、ガラス組成物Bを混合物のガラス転移温度以
上、結晶化温度以下のアニーリング処理の保持温度であ
る350〜390℃に所定時間、例えば5分〜120分
間、好ましくは30分〜60分間、空気又は窒素ガス、
アルゴンガス等の不活性ガス等の雰囲気中で保持させる
ことにより、電気伝導度が所定値になるように調整し
て、実施の形態2のバナジン酸塩ガラスを作製した。
【0032】酸化レニウム含有量がそれぞれ1、5、1
0wt%であるV−Ba−Fe−Re系のバナジン酸塩
ガラス(ガラス組成物B)について、前記実施の形態1
と同様にしてその電気伝導度等のデータを測定した。そ
の電気伝導度の測定結果を表1に示す。
【0033】図6に酸化レニウムの含有量が+5wt%
(x=5)であるガラス組成物Bの熱処理前の試料の電
流−電圧特性を示す。電流(I)と電圧(V)は良好な
直線関係を示すオーミック(ohmic)であることが
分かる。この試料の電気伝導度の値は1.7×10-7
・cm-1であった。酸化レニウム(ReO3)は、酸化
物であるにも関わらず、金属並みの電気伝導度を有する
ことで知られる。このように電気伝導度が1.1×10
-7S・cm-1であるガラス組成物Aに対して、ReO3
をわずか5wt%ドープするだけで、ガラス組成物Bの
電気伝導度を8.3×10-6S・cm-1にまで、即ちガ
ラス組成物Aの電気伝導度の約75倍に高められること
がわかる。図7にはガラス組成物Bの試料を結晶化温度
(370℃)で60分間熱処理した後の電流−電圧特性
を示す。この熱処理試料もガラス質のままである。電気
伝導度の値は、熱処理によって処理前の8.3×10-6
S・cm-1から4.0×10-3S・cm-1まで上昇す
る。すなわち、60分間の熱処理より電気伝導度は、約
480倍高くなっている。
【0034】なお、x=10であるガラス組成物Bの場
合はアニーリング処理前における電気伝導度が5.1×
10-6S・cm-1であり、前記と同様にアニーリング処
理を施すことにより電気伝導度の向上を図ることができ
る。
【0035】表1に示すように酸化レニウムがx=1で
あるガラス組成物Bの場合には、ガラスの電気伝導度は
1.7×10-6S・cm-1であり、370℃で60分間
熱処理後には、5.0×10-3S・cm-1である。この
電気伝導度の値(5.0×10-3S・cm-1)は、食塩
水の電気伝導度や超イオン伝導ガラスの電気伝導度に匹
敵するものであり、ガラス半導体として、幅広い分野で
の応用が期待できる。
【0036】例えば、このような特性を有するバナジン
酸塩ガラスは、二次電池用カソード電極、燃料電池
用電極、発電所温排水管の貝殻等付着防止材、端末
等への入力用タッチパネル、その他、ジュール熱により
パネル面を加熱するくもり止め機能を有したガラスパネ
ル、pHメータ用等のガラス電極、Ba2+イオンの移動
を利用した固体電解質、太陽電池用電極等への適用が期
待できる。 二次電池用カソード電極は、結晶性の遷移金属カルコ
ゲナイドや酸化物も注目されているが、結晶性材料の場
合は放充電を繰り返すことによって大きな構造変化を生
じ、電池特性が劣化するという問題がある。これに対し
てバナジン酸塩ガラスを用いた場合は、インターカレー
ションによる構造変化がないため、電池特性の劣化を防
止できる。またこれらのバナジン酸塩ガラスは薄膜化が
比較的容易であり電池の小型化、軽量化ができる。さら
に定電流放電特性を比べた場合、結晶性V25では2相
共存状態がいくつかあるために起電力がステップ状に変
化するが、V25系ガラスではほぼ一定の起電力を生
じ、平均的に高い起電力を示す傾向が見られ、より高い
エネルギー密度が得られる。またガラスの放電電池特性
が良好なのは、導電性に寄与するイオンの動きやすさ
(化学拡散係数)が結晶より高いためと考えられる。
【0037】燃料電池用電極としては、現在のとこ
ろ、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(N
i)を添加した多孔質炭素板が用いられている。炭素は
酸素ガスと反応して材料が劣化する欠点があるが、化学
耐久性の高いバナジン酸塩ガラスを電極材料として用い
ることでこの問題を解決することができる。 発電所温排水管の貝殻等付着防止材は火力発電所や原
子力発電所などの温排水管に適用される。ここには貝殻
類が、また地熱発電所の出水管や入水管にはスケールと
呼ばれるケイ酸塩が付着する。これらが付着する第一段
階、あるいは全段階で微生物の働きが重要となってい
る。導電性に優れたバナジン酸塩ガラスに1mV程度の
電圧をかけることにより、バイオレイヤーと呼ばれる微
生物層の形成を阻止することができる。 タッチパネルなどの車などに用いるガラス製品には、
通常、透明の導電性ガラス(ITO膜など)が用いられ
るが、スイッチ材料として、導電性で加工性に優れたバ
ナジン酸塩ガラスの適用が可能である。なお、以上では
実施の形態2の応用例について述べたが、実施の形態1
で作製されたバナジン酸塩ガラスについても以上の応用
例が適用できるのは言うまでもない。
【0038】実施の形態2のバナジン酸塩ガラス及びそ
の製造方法は、以上のように構成されているので実施の
形態1の作用に加えて以下の作用を有する。 (1)導電性に優れた酸化レニウムがバナジン酸塩ガラ
ス中に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気
伝導度をさらに効果的に向上できる。 (2)酸化レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移
温度や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング
処理を容易に行うことができる。 (3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピ
ング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を
提供できる。 (4)電極材料、固体電解質、各種センサなど幅広い分
野での応用が期待できる。とりわけ、ガラスの組成を変
えるという従来の材料設計法に加えて、ひとたび作製し
たガラス試料を、結晶化温度からガラス転移温度の間の
任意の温度で適度に熱処理することにより、目的の電気
伝導度を持つガラス半導体の設計と開発が容易となり生
産性に優れている。
【0039】
【発明の効果】請求項1に記載のバナジン酸塩ガラスに
よれば、以下の効果を有する。 (1)バナジウムを主成分とする酸化物系ガラス組成物
にバリウム、鉄が副成分として含まれるので、これらの
原子が3次元的に関連し合ったガラス骨格を形成させる
ことができ、その電気伝導性を高めて電極材料や固体電
解質、サーミスタ等のセンサとしての機能を向上させる
ことができる。 (2)電気伝導度が所定範囲に設定されているので、バ
ナジン酸塩ガラスをサーミスタや電極素子に適用する場
合の設計を容易にでき、設計性に優れている。 (3)バナジン酸塩ガラスにはバリウム及び鉄が含有さ
れているので、ガラス骨格中に4価のバナジウムと5価
のバナジウムイオンを配置でき、電子ホッピングの確率
が高められ、電気伝導性に優れている。 (4)ガラス質であるため、層状構造の結晶質のものに
比べて層間化合物の生成などのインターカレーションに
よる構造変化を少なくでき、安定した性能を維持でき
る。さらに、二次電池用カソード電極等に適用した場
合、結晶質のものでは2相共存状態がいくつかあるため
に起電力がステップ状に変化するが、ガラス質では起電
力がほぼ一定であり、しかも化学拡散係数を高くできる
のでより高いエネルギー密度が得られる。 (5)結晶質のものに比べて薄膜化が容易であり小型
化、軽量化ができ、経済性や機能性、デザイン性にも優
れている。 (6)ガラス質としているので、複雑な形状等への成形
が容易にでき、しかも加工性に優れており、種々の形態
の半導体素子としての応用が可能である。
【0040】請求項2に記載のバナジン酸塩ガラスによ
れば、請求項1の効果の他、以下の効果が得られる。 (1)導電性に優れたレニウムがバナジン酸塩ガラス中
に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気伝導
度をさらに効果的に向上できる。 (2)レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移温度
や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング処理
を容易に行うことができる。 (3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピ
ング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を
提供できる。
【0041】請求項3に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法によれば、以下の効果を有する。 (1)バナジン酸塩ガラスにおける電気伝導性は、3d
軌道に1個の電子を持つ4価のバナジウムから3d軌道
に電子を持たない5価のバナジウムへの電子のホッピン
グ(hopping)に基づくものであり、ガラス骨格
そのものが導電機構に関与している。このようなバナジ
ン酸塩ガラスに適度な熱処理を施すことによりガラス骨
格そのものの構造や歪み等を変化させて、物性(電気伝
導度など)を所定の値に制御することができる。 (2)酸化バナジウムを主成分とするバナジン酸塩ガラ
スをそのガラス転移温度以上、結晶化温度以下のアニー
リング処理の温度に所定時間保持させるので、バナジウ
ム、バリウム、鉄、酸素からなるガラス骨格の歪みを小
さくすることができ、4価から5価のバナジウムヘ電子
がホッピングする確率を大きくして、ガラス半導体とし
ての導電性を増大させることができ、高性能の電極やサ
ーミスタを製造でき、生産性に優れている。 (3)アニーリング処理の温度や保持時間等のアニーリ
ング条件とこのアニーリング条件により得られるバナジ
ン酸塩ガラスの電気伝導度との対応関係を用いて、アニ
ーリング条件を選択して、その電気伝導度を任意に調整
できるので、用途や使用環境に応じた特性を有したサー
ミスタ素子等を容易に製造できる。
【0042】請求項4に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法によれば、請求項3の効果の他、以下の効果が得
られる。 (1)ガラス組成物のアニーリング処理前後の電気伝導
度をそれぞれ所定の範囲に限定しているので、ラインに
載せて大量生産する場合の生産管理を容易にして電気的
特性に優れたサーミスタ等の素子を効率的に製造するこ
とができる。 (2)アニーリング処理後の電気伝導度を所定のレベル
に高め、しかもばらつきの少ない状態に維持でき、信頼
性や制御性に優れた電気素子を製造できる。
【0043】請求項5に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法によれば、この構成により請求項3又は4に記載
の効果の他、以下の効果が得られる。きる。 (1)導電性に優れた酸化レニウムがバナジン酸塩ガラ
ス中に特定量含まれるので、バナジン酸塩ガラスの電気
伝導度をさらに効果的に向上できる。 (2)酸化レニウムが特定量含まれるので、ガラス転移
温度や結晶化温度を所定範囲に設定でき、アニーリング
処理を容易に行うことができる。 (3)レニウムの変動しうる酸化数を用いて電子ホッピ
ング効果を高めることもでき、電気特性に優れた素子を
提供できる。 (4)アニーリング前のガラスの電気伝導度をReO3
を含まない場合よりも一桁以上高くすることができる。
【0044】請求項6に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法によれば、請求項3乃至5の内いずれか1項の効
果の他、以下の効果が得られる。 (1)酸化バリウムの酸化バナジウムに対するモル比が
所定範囲に設定されているので、3次元構成のガラス骨
格を有効に形成してアニーリング処理における電気電導
度の増加率が向上させることができ、生産性に優れてい
る。 (2)アニーリング処理前におけるバナジン酸塩ガラス
の電気伝導度のばらつきが少なくなるので、所定範囲に
規格化された素子を容易に製造できると共に、信頼性に
優れたサーミスタや電極等の電子部品を低原価で提供で
きる。 (3)特定組成のガラス組成物をアニーリング処理する
ことによりその電気伝導度を一桁以上増加させることが
できる。
【0045】請求項7に記載のバナジン酸塩ガラスの製
造方法によれば、請求項3乃至6のいずれか1項の効果
の他、以下の効果が得られる。 (1)酸化鉄の酸化バナジウムに対するモル比が特定範
囲に設定されているので、ガラスとしての光透過性等の
光学特性を損なうことなく維持でき、光学素子としての
利便性に優れている。 (2)酸化物系ガラス中における鉄の酸化数を異ならせ
ることにより、電子ホッピング効果を更に増大させるこ
とができ、高い電気伝導度を維持させることができる。 (3)酸化鉄の添加による磁性発現も期待でき、これを
利用したメモリ等への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】五酸化バナジウム結晶の層状構造を示す模式図
【図2】実施の形態1のバナジン酸塩ガラスの60分間
熱処理後の電流−電圧特性図
【図3】バナジン酸塩ガラスの120分間熱処理後の電
流−電圧特性図
【図4】バナジン酸塩ガラスの60分間熱処理後のX線
回折パターン
【図5】バナジン酸塩ガラスの電気伝導度とアニーリン
グ処理時間との関係を示す図
【図6】実施の形態2のバナジン酸塩ガラスにおける熱
処理前の電流−電圧特性図
【図7】バナジン酸塩ガラスの熱処理後(370℃、6
0分)の電流−電圧特性図
フロントページの続き Fターム(参考) 4G062 AA01 AA15 BB12 CC10 DA01 DA10 DB01 DC01 DD01 DE01 DF01 EA01 EB01 EC01 ED01 EE01 EF01 EG03 EG04 EG05 FA01 FB01 FC01 FD01 FE01 FF06 FF07 FG01 FH01 FJ01 FK01 FL01 GA01 GA10 GB01 GC01 GD01 GE01 HH01 HH03 HH05 HH07 HH10 HH12 HH13 HH15 HH17 JJ01 JJ03 JJ05 JJ07 JJ10 KK01 KK03 KK05 KK07 KK10 MM31 MM32 MM35 NN24 5G303 AA10 AB01 BA12 CA02 CB03 CB13 CB36 CB43 CC08 DA05 DA07

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】バナジウム、バリウム、鉄を含む酸化物系
    ガラス組成物であって、その室温における電気伝導度が
    10-4〜10-1S・cm-1であることを特徴とするバナ
    ジン酸塩ガラス。
  2. 【請求項2】前記酸化物系ガラス組成物にレニウムが1
    〜15モル%含有されていることを特徴とする請求項1
    に記載のバナジン酸塩ガラス。
  3. 【請求項3】酸化バナジウム及び、酸化バリウム、酸化
    鉄を含む混合物を溶融、急冷してそのガラス組成物を得
    た後、前記ガラス組成物のガラス転移温度以上、結晶化
    温度以下のアニーリング処理の温度に所定時間保持さ
    せ、前記ガラス組成物の電気伝導度を調整することを特
    徴とするバナジン酸塩ガラスの製造方法。
  4. 【請求項4】前記アニーリング処理前のガラス組成物の
    電気伝導度が10-8〜10-6S・cm-1であり、アニー
    リング処理後の電気伝導度が10-4〜10-1S・cm-1
    であることを特徴とする請求項3に記載のバナジン酸塩
    ガラスの製造方法。
  5. 【請求項5】前記混合物100wt%に対して酸化レニ
    ウムが+1〜+10wt%添加されていることを特徴と
    する請求項3又は4に記載のバナジン酸塩ガラスの製造
    方法。
  6. 【請求項6】前記酸化バリウム(B)の前記酸化バナジ
    ウム(V)に対するモル比(B:V)が5:90〜3
    5:50であることを特徴とする請求項3乃至5の内い
    ずれか1項に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法。
  7. 【請求項7】前記酸化鉄(F)の前記酸化バナジウム
    (V)に対するモル比(F:V)が5:90〜15:5
    0であることを特徴とする請求項3乃至6の内いずれか
    1項に記載のバナジン酸塩ガラスの製造方法。
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