JP3837949B2 - エンジンの自動停止始動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、走行中にエンジンの自動停止と自動始動とを実行することにより、燃料を節約し、あるいは排気エミッションを低減させる自動停止始動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、走行時に、例えば交差点等で自動車が停車した場合、所定の停止条件下でエンジンを自動停止させ、その後、所定の始動条件下、例えばアクセルペダルを踏み込んだときに、エンジンを再始動させることにより、燃料を節約したり、排気エミッションを低減させる自動停止始動装置が例えば特開平9−71138号などで知られている。
【0003】
一方、近年の自動車ではオートマチックトランスミッション(自動変速機)を備えるものが多くなっており、前記自動停止始動装置も自動変速機を備えた自動車に設けることが一般的である。また、自動クラッチ式のマニュアルトランスミッションも知られている。これら変速機が油圧式の場合、変速機に油圧を供給するオイルポンプ(油圧ポンプ)が設けられ、しかもそのオイルポンプはエンジンによって駆動されることから、前記自動停止始動装置によるエンジン停止・始動制御において次のような問題が生じる。
【0004】
すなわち、シフトポジションがD(ドライブ)ポジションで、自動停止始動装置によってエンジンが停止すると、これまでエンジンの駆動力で作動していたオイルポンプが停止してしまうので、当然に変速機の作動のための油圧が低下してしまう。したがって変速機の前進クラッチや変速比を油圧で切り換えるクラッチ・ブレーキも、一旦解放状態となってしまう。
【0005】
この状態からアクセルペダルを踏み込むことにより、エンジンの再始動条件が満足されると、エンジンが始動回転し始め、変速機のオイルポンプの吐出圧が徐々に上昇する。そして、Dポジションであるため作動油圧が十分になった時点で、前記前進クラッチが元通り係合して例えば1速になる。クラッチが係合することとは、すなわち、油路から抜けたオイルが再び油路を通って供給されることであり、クラッチ係合までには、エンジンが回転し始めてから多少の時間を要する。ところが、クラッチが係合するまでにはアクセルペダルが踏まれていることからエンジンはかなり高い回転数に達しており、前進クラッチの係合の瞬間に係合ショックが発生する可能性がある。また、搭乗者に不快感を与える可能性がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このようなクラッチの係合ショックを避けるために、自動停止した後、再始動する場合、クラッチを係合させるための油圧回路に、速く油圧を供給する急速増圧手段を設けることが考えられる。
【0007】
ところで、エンジン再始動条件の一つとして、例えばシフトレバーがDポジションにある場合があるが、Dポジションで始動する場合、必ずしも変速機の変速段が1速を達成している状態から始動するとは限らない。
【0008】
その場合でも、前記急速増圧手段は発進の変速段が1速の場合を想定して所定の前進クラッチに油圧を急速に供給するシステムとして設計されていると、2速段で発進する際には、前進クラッチ以外にも油圧を供給する部分があるため、前進クラッチの急速増圧効果は期待できない。
【0009】
一方、2速発進等の場合でも、2速のための前進クラッチ係合用の急速増圧システムを構成することは一応可能ではあるが、実際、1速、2速それぞれに急速増圧手段を構成することは現実性に乏しい。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、エンジンの自動停止始動装置において、エンジンの再始動時での発進応答性向上と所定クラッチの係合ショックを可能な限り低減できるようにすることを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題を解決するため、以下のような手段を採用した。
【0012】
すなわち、本発明では、所定条件でエンジンを自動停止・再始動する自動停止始動装置において、エンジンの自動停止後の再始動時に変速機において所定変速段が達成されている状態で所定クラッチへの供給流体圧を急速に増圧する急速増圧手段と、変速機の状態を検出する検出手段と、この検出手段により変速機において所定変速段が達成されていない状態が検出されたときエンジンの自動停止制御を禁止する自動停止禁止手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
エンジンを自動停止する条件としては、車速がゼロ、ブレーキペダルオン、アクセルオフ、かつシフトレバーのポジションがN(ニュートラル)またはDにあること、あるいは、ブレーキペダルがオフであっても、シフトレバーのポジションがP(パーキング)にあることなどが一例として挙げられる。従って、交差点などでブレーキが踏まれ、車両が一時停止した場合、あるいは、駐車場での停車時、自動停止始動装置によりエンジンが停止する。
【0014】
次いで、エンジンの再始動条件が揃うと、エンジンが再始動する。エンジンの再始動条件としては、例えば、再発進のため、ブレーキペダルが離され、アクセルが踏み込まれたことなどである。
【0015】
エンジンの再始動時には、通常、急速増圧手段により、所定変速段(例えば1速)が達成されている状態で所定クラッチへの供給流体圧を急速に増圧することで、所定クラッチを、急速に係合させる。
【0016】
このとき、検出手段が変速機の状態を検出し、変速機において所定変速段(例えば1速)が達成されているかいないかが判定され、所定変速段が達成されていない場合、自動停止制御禁止手段により、エンジンの自動停止制御が禁止され、すでに制御が開始されているのであればその段階で中止される。
【0017】
ここで、所定変速段が達成されていない場合とは、スノーモードやマニュアルモード、スポーツモードでの2速発進状態の場合、変速機構のフェール時で1速とならない場合等である。
尚、本発明に係るエンジンの自動停止始動装置は、所定条件でエンジンを自動停止・再始動するエンジンの自動停止始動装置において、エンジンの自動停止後の再始動時に変速機において所定変速比が達成されている状態で所定クラッチへの供給流体圧を急速に増圧する急速増圧手段と、変速機の状態を検出する検出手段と、この検出手段により変速機において所定変速比が達成されていない状態が検出されたときエンジンの自動停止制御を禁止する自動停止禁止手段と、を備えるようにしてもよい。
また、本発明に係るエンジンの自動停止始動装置は、所定条件でエンジンを自動停止・再始動するエンジンの自動停止始動装置において、エンジンの自動停止後の再始動時に変速機において所定変速比が達成されている状態で変速機への供給流体圧を急速に増圧する急速増圧手段と、変速機の状態を検出する検出手段と、この検出手段により変速機において所定変速比が達成されていない状態が検出されたときエンジンの自動停止制御を禁止する自動停止禁止手段と、を備えるようにしてもよい。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適実施形態を図面を参照して説明する。
<システム構成概要>
図1は、本発明に係る装置の全体像を示す構成図である。図1に示したように、内燃機関(以下、エンジンという)1のクランク軸2に、クラッチ3を介して自動変速機(オートマチックトランスミッション:A/Tと記す)4のトルクコンバータ入力部5が連結されている。
【0019】
また、前記クラッチ3に続き、さらに電磁クラッチ6を介して減速装置7が接続され、この減速装置7にモータおよび発電機として機能するモータ・ジェネレータ(以下M/Gと記す)8が連結されている。M/G8はエンジンの自動停止始動制御において、エンジンの再始動時、スタータに代わってエンジンを迅速に始動する。また、M/G8は、クラッチ6が係合した状態で回生制動を実施する。
【0020】
減速装置7は、遊星歯車式で、サンギア11、キャリア12、リングギア13を含み、さらに、ブレーキ14、ワンウェイクラッチ15を介してM/G8に連結する。
また、自動変速機4は、エンジンにより駆動されるオイルポンプを内蔵しており(図示せず)、このオイルポンプは、油圧源として、自動変速機4へ作動用油圧を供給する。このオイルポンプはエンジン停止に伴って停止する。
【0021】
さらに、前記M/G8には、インバータ21が電気的に接続されている。このインバータ21は電力源であるバッテリ22からM/G8へと供給される電力をスイッチングにより可変にしてM/G8の回転数を可変にする。また、M/G8からバッテリ22への電気エネルギーの充電を行うように切替える。
【0022】
さらに、エンジンの制御の他、前記電磁クラッチ3,6の断続の制御、およびインバータ21のスイッチング制御をおこなうため、コンピュータよりなるコントローラ(ECU)23が設けられている。
【0023】
コントローラ(ECU)23に入力される信号は、図2に示したように、エンジン回転数、エンジン水温、イグニッションスイッチ、バッテリSOC(充放電収支)、ヘッドライト、デフォッガ、エアコン、車速、AT油温、シフトポジション、サイドブレーキ、フットブレーキ、排気装置の触媒温度、アクセル開度、クランク位置、スポーツシフト信号、車両加速度センサ、駆動力源ブレーキ力スイッチ、タービン回転数NTセンサ、スノーモードスイッチ、エンジン点火信号、燃焼噴射信号、スタータ、コントローラ、減速装置、ATソレノイド、ATライン圧コントロールソレノイド、ABSアクチュエータ、自動停止制御実施インジケータ、自動停止制御未実施インジケータ、スポーツモードインジケータ、電子スロットル弁、スノーモードインジケータ等からの検出信号であり、また、コントローラ23からはこれらに制御信号が出力される。
【0024】
このコントローラ23は、図示しないが中央処理装置(CPU)の他に、制御プログラムを記憶したROM、演算結果等を書き込むRAM、データのバックアップを行うバックアップRAMなどを備えている。これらはバスで接続されている。
【0025】
<自動変速機>
図3に示したように、前記自動変速機A/Tはエンジンのトルクを駆動輪に伝達するため、トルクコンバータ31と、このトルクコンバータ31の出力トルクを車両の駆動に必要なトルクに変換して駆動輪に伝達する歯車変速機とを備えている。
【0026】
トルクコンバータ31は、エンジンのトルクをポンプインペラ32の回転によって流体の運動エネルギに変換し、この流体の流れによる運動エネルギをステータ33を介してタービンランナ34に伝えることによりトルクコンバータ31の出力軸にトルクを伝達する。このトルクコンバータ31は、ロックアップクラッチ35を備え、車速とアクセル開度に応じて、エンジンの出力軸とトルクコンバータ31の出力軸とを直結する。そして、前記タービンランナ34に接続された出力軸には、変速機4の入力軸36(インプットシャフト)が連結されている。
【0027】
前記歯車変速機は、歯車列を備え、遊星歯車機構、クラッチ、ブレーキ等を組み合わせ、複数種の変速比と、前進・後進の選択を行っている。
【0028】
以下、その詳細を図3に従い説明する。
【0029】
図3は自動変速機の歯車列の一例を示す図であり、ここに示す構成では、前進5段・後進2段の変速段を設定できるように構成されている。すなわちここに示す自動変速機は、トルクコンバータ31に連結した副変速部41と、この副変速部41に続く主変速部42とを備えている。
【0030】
副変速部41は、オーバードライブ用遊星歯車機構51を備えており、前記トルクコンバータ31の出力軸に連結した入力軸36が、このオーバードライブ用遊星歯車機構51のキャリヤ52に連結されている。
【0031】
この遊星歯車機構51は、内周面に内歯を有するリングギヤ53と、このリングギヤ53の中心に配置されたサンギヤ54と、このサンギヤ54と前記リングギヤ53との間に配置され、キャリヤ52によって保持されたピニオンギヤとを有し、ピニオンギヤがサンギヤ54とリングギヤ53とに噛合しつつサンギヤ54の周囲を相対回転する構成である。
【0032】
そして、キャリヤ52とサンギヤ54との間には、多板クラッチC0 と一方向クラッチF0 とが設けられている。なお、この一方向クラッチF0 はサンギヤ54がキャリヤ52に対して相対的に正回転(入力軸36の回転方向の回転)する場合に係合するようになっている。
【0033】
またサンギヤ54の回転を選択的に止める多板ブレーキB0 が設けられている。そしてこの副変速部41の出力要素であるリングギヤ53が、主変速部42の入力要素である中間軸61に接続されている。
【0034】
従って、副変速部41では、多板クラッチC0 もしくは一方向クラッチF0 が係合した状態では遊星歯車機構51の全体が一体となって回転するため、中間軸61が入力軸36と同速度で回転し、低速段となる。またブレーキB0 を係合させてサンギヤ54の回転を止めた状態では、リングギヤ53が入力軸36に対して増速されて正回転し、高速段となる。
【0035】
他方、主変速部42は、前記遊星歯車機構51と同一構造の三組の遊星歯車機構70,80,90を備えており、それらの回転要素が以下のように連結されている。すなわち、第1遊星歯車機構70のサンギヤ71と第2遊星歯車機構80のサンギヤ81とが互いに一体的に連結され、また第1遊星歯車機構70のリングギヤ73と第2遊星歯車機構80のキャリヤ82と第3遊星歯車機構90のキャリヤ92との三者が連結され、かつそのキャリヤ92に出力軸95が連結されている。さらに第2遊星歯車機構80のリングギヤ83が第3遊星歯車機構90のサンギヤ91に連結されている。
【0036】
この主変速部42の歯車列では前進5段と後進2段の変速段とを設定することができ、そのためのクラッチおよびブレーキが以下のように設けられている。
【0037】
先ず、クラッチについて述べると、互いに連結されている第2遊星歯車機構80のリングギヤ83および第3遊星歯車機構90のサンギヤ91と中間軸61との間に第1クラッチC1(前進クラッチ)が設けられている。また、互いに連結された第1遊星歯車機構70のサンギヤ71および第2遊星歯車機構80のサンギヤ81と中間軸61との間に第2クラッチC2が設けられている。
【0038】
つぎにブレーキについて述べると、第1ブレーキB1はバンドブレーキであって、第1遊星歯車機構70および第2遊星歯車機構80のサンギヤ71,81の回転を止めるように配置されている。また、これらのサンギヤ71,81(すなわち共通サンギヤ軸)とケーシング96との間には、第1一方向クラッチF1と多板ブレーキである第2ブレーキB2 とが直列に配列されており、その第1一方向クラッチF1はサンギヤ71,81が逆回転(入力軸36の回転方向とは反対方向の回転)しようとする際に係合するようになっている。
【0039】
第1遊星歯車機構70のキャリヤ72とケーシング96との間には、多板ブレーキである第3ブレーキB3 が設けられている。そして第3遊星歯車機構90のリングギヤ93の回転を止めるブレーキとして、多板ブレーキである第4ブレーキB4 と第2一方向クラッチF2 とがケーシング96との間に並列に配置されている。なお、この第2一方向クラッチF2 はリングギヤ93が逆回転(入力軸36の回転方向とは反対方向の回転)しようとする際に係合するようになっている。なお、図3において、S1はタービン回転数センサであり、S2は出力軸回転数センサである。
【0040】
上記の自動変速機4では、各クラッチやブレーキを図4の作動表に示すように係合・解放することにより前進5段・後進2段の変速段を設定することができる。なお、図4において○印は係合状態、◎印はエンジンブレーキ時の係合状態、△印は係合するが動力伝達には関係のない状態、空欄は解放状態をそれぞれ示す。
【0041】
また、本件発明は、自動変速機に限らず自動クラッチ式のマニュアル・トランスミッションについても適用可能である。
【0042】
<エンジンの自動停止始動装置>
所定の停止条件でエンジンを自動停止させ、所定の復帰条件でエンジンを再始動させるエンジン自動停止始動装置が設けられている。このエンジン自動停止始動装置でエンジンを再始動する場合、変速機において、前進クラッチであるC1クラッチに供給する油圧(流体圧)を、急速増圧手段により急速増圧する。
【0043】
エンジン1の自動停止始動装置は、前記ROMに記憶された制御プログラムに従ってコントローラ23上に実現される。この装置は、図5に示したように、エンジン1の自動停止の実行条件を判定する自動停止判定手段101と、自動停止判定手段101により自動停止条件が揃ったと判定されたときエンジンへの燃料供給をカットする燃料カット指令手段102と、エンジン1の再始動の実行条件を判定する自動復帰判定手段103と、自動復帰判定手段103によりエンジン1を再始動すべきであると判定したとき、M/G8を駆動するとともに燃料供給を再開してエンジンを再始動する復帰指令手段104とを備えている。
【0044】
そして、自動停止判定手段101や自動復帰判定手段103での判定のため、車速センサからの信号、シフトレバーのポジションを示す信号、アクセルセンサからの信号、ブレーキペダル信号等が入力されている。
【0045】
自動停止判定手段101は、例えば、車速がゼロ、ブレーキペダルが踏まれていて、アクセルペダルが踏まれていなくて、エンジン水温やA/Tの作動油温が所定範囲内にあり、かつシフトレバーのポジションがDまたはNにあることなどを条件にエンジンを停止すべきと判定する。このようにDまたはNポジションのとき、自動停止始動制御を行うことをDエコランといい、Nポジションのときのみ自動停止始動制御を行い、他のポジションでは自動停止始動制御を行なわない制御をNエコランという。DエコランとするかNエコランとするかを選択して制御するようにすることもできる。なお、ただ単にシフトレバーがPポジションにあることなどを条件にエンジンを停止すべきとしてもよい。
【0046】
一方、自動復帰判定手段103は、例えば、アクセルペダルが踏まれるか、ブレーキがオフとなったときにエンジンを再始動すべきであると判定する。
【0047】
なお、自動停止始動装置は、自動停止判定手段101により自動停止条件が揃ったと判定されたとき、運転席に設けた制御実施インジケータ、例えばランプを点灯し、運転者にエンジンの自動停止中であることを示す自動停止表示手段105を備えている。
【0048】
さらに、コントローラ23上には、変速機の状態を検出する検出手段107が設けられており、この検出手段107で、変速機の状態、とりわけ、変速機により1速が達成されていない状態かどうかが検出される。
【0049】
また、コントローラ23上には、シフトポジションが走行ポジションのときで、かつ、検出手段107による検出の結果、変速機により1速が達成されていない状態であるとされたとき、自動停止制御を禁止する自動停止禁止手段108を備えている。例えば、変速機が1速でなく、高速段にあるとき、変速機の各種バルブが作動しなくなって変速機がフェールした状態のとき、さらに、2速発進を行うスノーモード時やスポーツモード時である。
【0050】
自動停止始動制御前あるいは制御中にこれらスノーモード等に変更するとき、自動停止制御あるいはすでにある自動停止状態を即座に中止する。
【0051】
ここで、スノーモードとは、スノーモードスイッチによるマニュアル設定に限らず、車輪のスリップ状態に従って自動的にスノーモードに切り換える場合も含む。
【0052】
また、スポーツモードでは、2速で発進する場合があり、これもスノーモードと同じ扱いとする。
【0053】
<ヒルホールド制御手段>
車両が停止していてもエンジンが動いていれば、シフトレバーがDポジションにある限り、車両を前進させようとするクリープ力が働く。従って、傾斜の緩い坂道などでは、このクリープ力で車両が後退するのを防止できる。
【0054】
しかし、本発明では、車両が停止するとエンジンを停止してしまうので、クリープ力は働かない。従って、停止した位置が坂道であった場合、ブレーキを踏み続けていなければ車両が後退してしまうこととなる。
【0055】
そこで、図5に示したように、自動停止判定手段101により自動停止条件が揃ったと判定されたとき、ブレーキ装置のマスタシリンダ液圧を保持してブレーキ力を保持するヒルホールド制御手段106を備えている。このヒルホールド制御手段106もまた、プログラムによりコントローラ7上に実現される。なお、ヒルホールド制御はアンチロックブレーキ装置(ABS)用のアクチュエータの駆動により行うことが好ましい。また、車輪につながる回転軸を機械的にロックするものであってもよい。
【0056】
<急速増圧手段>
本発明の急速増圧手段を示す油圧回路を図6に従って説明する。
【0057】
この図6は、変速機を作動制御する油圧回路の一部であり、図6では、エンジン1により駆動されるオイルポンプ17と、このオイルポンプ17からの油圧をライン圧コントロールソレノイド201で調圧して所定のライン圧として供給するプライマリレギュレータバルブ202と、運転席内のシフトレバーと連動して前記プライマリーレギュレータバルブ202からのライン圧を各ポジションに応じて作動部分に導くマニュアルバルブ203と、マニュアルバルブ203からの油圧を前進クラッチC1へと供給・遮断する切換バルブ205と、前進クラッチC1用のアキュムレータ206とを示している。このアキュムレータ206の前段には、オリフィス207が介装されている。なお、208は切換バルブ205の駆動用ソレノイドである。
さらに、前進クラッチC1への油圧経路は、マニュアルバルブ203から大オリフィス209と前記切換バルブ205とを介して前進クラッチC1に油圧を供給する第1の油圧経路210と、大オリフィス209を通過した後の第1の油圧経路210から分岐して小オリフィス211を介して前進クラッチC1へと油圧を供給する第2の油圧経路212とに分かれいる。そして、大オリフィス209を通過した後の第1の油圧経路210と前記第2の油圧経路212との間に、前記小オリフィス211部分と並列に接続され、チェックボールからなる逆止弁213を備えた復帰経路214が設けられている。この逆止弁213は、前進クラッチC1側からマニュアルバルブ203側へと向かう方向にのみ作動油が流れ得るよう構成し、前進クラッチC1から作動油を復帰経路214を介してドレーンする。
【0058】
前記切換バルブ205が開制御されているとき、大オリフィス209のみを介して第1の油圧経路210から直接前進クラッチC1へと油圧が供給される。一方、切換バルブ205が閉制御されているとき、大オリフィス209を経由した油圧は、さらに小オリフィス211を経由して第2の油圧経路212から前進クラッチC1へと供給される。大オリフィス209のみを経由したときの方が、小オリフィス211をも経由する場合に比較して油圧供給速度は速い。従って、本実施形態における急速増圧手段とは、切換バルブ205と第1の油圧経路210と大オリフィス209をいう。
【0059】
さらに、急速増圧手段を構成するものとして、前記コントローラ上には、エンジン再始動後に一定時間、前記切換バルブ205を開制御して、大オリフィス209からの油圧を直接前進クラッチC1へと供給する復帰用油圧供給指令手段109がプログラムにより実現されている。
【0060】
通常のエンジンの作動時には、切換バルブ205が閉じて第1の油圧経路210から第2の油圧経路212を経由する経路を選択している。エンジンの自動停止始動装置によりエンジンが一旦停止し、その後再始動する場合は、復帰用油圧供給指令手段109からの指令で切換バルブ205が開く。従って、マニュアルバルブ203から供給される油圧は、第1の油圧経路210から大オリフィス109を経由した後、そのまま直接前進クラッチC1へと急速に供給される。
【0061】
次に、他の急速増圧手段を同じく図6に従って説明する。
【0062】
これは、図6において、ライン圧コントロールソレノイド201でプライマリーレギュレータバルブ202の調圧値を上げ、ライン圧を昇圧制御する昇圧手段を設けた構成である。この場合は、エンジン再始動時に、ライン圧を昇圧制御することで急速に油圧経路210から油圧を供給する。
【0063】
エンジンの再始動時に昇圧手段により油圧を昇圧すると、同じ圧力損失の油圧経路であれば、昇圧した圧力分だけ速く油圧が供給される。
【0064】
さらに他の急速増圧手段として、油圧経路に設けたオリフィスの絞り度をエンジンの再始動時に一時的に緩くする可変絞りオリフィスを設けてもよい。
【0065】
<制御例>
以下、制御例を図7のフローチャート及び図8及び図9のタイミングチャートを用いて説明する。
【0066】
エンジンを始動し、シフトレバーが走行ポジション、特にDポジションにした状態で、プライマリレギュレータバルブ202で調圧されたライン圧はマニュアルバルブ203を介して最終的には前進用摩擦係合装置である前進クラッチC1へと供給される。この前進クラッチC1が係合しているときは、図4の作動表から明らかなように、車両は前進状態にある。このとき切換バルブ205は閉じた状態である。
【0067】
例えば、この状態で交差点で信号が赤になったため、ブレーキを踏み、車両が停止した場合、自動停止判定手段201がエンジンの自動停止の実行条件を判定する。交差点での停止では、車速がゼロ、ブレーキペダルが踏まれていて、アクセルペダルが踏まれていなくて、エンジン水温やA/Tの作動油温が所定範囲にあり、かつシフトレバーのポジションがDまたはNにあることなどの条件は満たされており、この結果、エンジンは停止すべきであると判定される。
【0068】
自動停止判定手段201により自動停止条件が揃ったと判定されたとき燃料カット指令手段202によりエンジンへの燃料供給がカットされる。すると、エンジンが停止してその回転数NEが徐々に落ちる。エンジン停止とともにオイルポンプ17の駆動も停止するので、かつ、前進クラッチC1と前進クラッチ用アキュムレータ206に蓄積されていた油が逆止弁213、復帰経路214を通ってドレーンされる(図8の(a))。C1油圧がエンジン停止後もしばらく一定であるのは、アキュムレータ206からの油圧によるものである。
【0069】
この間、図7に示した処理が実行され、まず、ステップ20において、運転状態を示す各種入力信号が処理され、その入力信号を元にエンジン停止制御中であるか否かが判定される(ステップ30)。ここでエンジン停止制御中でなければ、そのまま処理を再開、すなわちステップ20に戻り、エンジン停止制御中であれば、ステップ40へと進み、自動復帰判定手段103がエンジンを再始動すべきであるか否かを判定する。ここで、再始動する条件が揃っていなければ、自動停止制御状態を継続する(ステップ50)。自動停止状態のときは、オイルポンプ17の停止によりクリープ力も失われるため、ヒルホールド制御装置が作動して、C1油圧がドレーンされる前にブレーキ油圧を保持し、ブレーキ力を確保しておく(ステップ60)(図8(b))。さらに、制御実施インジケータが点灯し(ステップ70)、運転者にエンジン停止中であることを示す。
【0070】
信号が青になり、ブレーキペダルを離すか、アクセルペダルを踏むと、自動復帰判定手段103がエンジンを再始動すべきであると判定するので(ステップ40)、復帰指令手段104によりM/G8を駆動するとともに燃料供給を再開してエンジンを再始動する(ステップ80)。すると、エンジン回転数はアイドル回転(+α)(図9のNETGT)に制御される。また、ヒルホールド制御手段206によるブレーキ力の保持が解除される(ステップ90:図9(a))
エンジンが再始動するとオイルポンプ17も再駆動されるが、この間、エンジン回転数が安定するまでの間、復帰用油圧供給指令手段109により切換バルブ205が開制御され、第1の油圧経路210と大オリフィス209を経由した油圧を直接前進クラッチC1へと供給する(ステップ100)。
【0071】
このとき、ライン圧コントロールソレノイド201でプライマリーレギュレータバルブ202の調圧値を上げ、ライン圧を昇圧制御してもよい。
【0072】
これらにより、前進クラッチC1へ加わる油圧は、図9(b)のように第2の油圧経路212の小オリフィス211を経由した場合(図9(c))に比較して、急速に立ち上がる。その後、制御未実施インジケータを点灯し(ステップ110)、ステップ20に戻る。
【0073】
なお、復帰用油圧の供給時間(TFAST)、あるいは、ライン圧の昇圧時間は、変速機の作動油温(AT油温)に影響されるので、この時間は表1のようなマップに従い選択するようにするとよい。このようにすると、AT油温の差による作動油の粘性のばらつきによる制御に与える影響を回避でき、適切な制御を行うことができる。
【0074】
【表1】
Figure 0003837949
以上の制御において、エンジン停止指令の後、C1油圧が油圧供給回路から十分ドレーンする前にエンジン再始動が生じて、初期油圧の印加が行われるとC1油圧が急に立ち上がり、係合ショックが生じるので、タイマにより所定時間(図8のToff)経過した後でないと、切換バルブ205を開制御しないよう制御する。この所定時間Toffを決定するため、エンジンの回転数NEを検出し、エンジン回転数が所定の回転数(図8のNE1)まで落ちたことを復帰用油圧供給(すなわち切換バルブ205の開制御)の開始条件とする。また、エンジン回転数ではなく、これと連動するオイルポンプの回転数を検出し、オイルポンプの回転数が所定の回転数まで落ちたことを復帰用油圧供給の開始条件としてもよい。
【0075】
なお、後進用摩擦係合装置であるC2クラッチについても、この図の回路を適用できる。
【0076】
また、本発明を適用する変速機は自動クラッチ式のマニュアルトランスミッションであってもよい。
【0077】
以上が、自動停止始動装置の動作例であるが、本発明の最大の特徴点を示す制御例を図10のフローチャートを用いて説明する。
【0078】
走行中、シフトレバーにより走行ポジションが図11におけるDポジションやMポジションにした状態で走行状態にあるものとする。Dポジションは、変速機が自動的に変速段を変化させる場合であり、Mポジションは、運転者がマニュアルで変速段を変化させるためのスポーツモードの位置である。Mポジションの場合、図12に示したように、ステアリングに設けたシフトスイッチ230でポジションをアップダウンさせる。
【0079】
このような運転状態にあるとき、各種信号が図2に従ってコントローラ23に入力され、当該入力信号が処理されている(ステップ120)。次いで、検出手段107で変速機の状態が検出され、その検出信号に基づいて、変速機が1速を達成しているか否かを判定する。すなわち、自動停止禁止手段108中における判定手段で、スノーモードか否か(ステップ130)、変速機の油圧回路を構成するソレノイド208がフェールしているか否か(ステップ140)、スポーツモードか否か(ステップ150)がそれぞれ判断され、これらのいずれかが肯定である場合、ステップ160で、自動停止禁止手段108により、自動停止始動制御が禁止される。
【0080】
スノーモードか否かは、スノーモードスイッチがマニュアル設定されているか否か、あるいは車輪のスリップ率が所定値を越えて自動的にスノーモード設定された場合か否かによる。このとき、変速機により2速発進が行われる。
ソレノイドフェールの場合、通常自動変速機は、高速段を達成する。よって、停止してもその後は1速を達成できないので、スノーモードと同じ扱いとする。
【0081】
スポーツモードも同様であり、スポーツモードでは、ステアリングのシフトスイッチで1速、2速での発進を選択できる。停止時に1速に戻るが、マニュアルで2速発進可能であり、シフトアップにより1速から2速にした状態で自動停止、再始動が行われると、1速を達成できないので、同様の扱いとする。
【0082】
ステップ130,140,150のいずれの条件も否定である場合、自動停止始動制御は実行される状態にあり、自動停止判定手段101により自動停止条件が揃ったと判定されたとき(ステップ170)、図7で示した自動停止制御が実行され、ステップ190へと処理が進み、制御未実施インジケータを点灯する。
【0083】
ステップ170で、自動停止条件が揃わないとき、ステップ200で、自動停止制御を行わず、自動停止未実施インジケータを点灯させる。
【0084】
このように、この実施形態では、シフトポジションがD(ドライブ)ポジションなどの走行ポジションにあるときで、エンジンの再始動時に1速で再始動できない場合には、その後における自動停止始動制御を禁止する。
【0085】
従って、1速で再始動する場合に自動停止始動制御を行うこととなり、再始動時の前進クラッチへの急速増圧が確実に行われ、係合ショックを少なくすることができる。
【0086】
なお、本実施例では、1速が達成されているか否かを検出して制御しているが、本発明では、1速以外の変速段が達成されていないとき、エンジンの自動停止始動制御を禁止してもよい。
【0087】
また、本実施例では、シフトポジションがNポジションでかつスポーツモードが選択されたときは直ちにエンジン自動停止始動制御を中止するのが好ましい。
【0088】
【発明の効果】
本発明によれば、係合ショックを確実に減少できる場合にのみ、エンジンの自動停止始動制御を行うこととなり、係合ショック減少のための確実な制御を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るシステムの全体を示す概略図
【図2】コントローラへの入出力信号を示す図
【図3】変速機の歯車列を示す概略図
【図4】変速機の作動状態を示す図
【図5】コントローラのCPUに実現される自動停止復帰装置のブロック図
【図6】急速増圧手段を実現する理論油圧回路を示した図
【図7】自動停止制御の一例を示したフローチャート図
【図8】エンジン停止制御の状態を示したタイミングチャート図
【図9】エンジン再始動制御の状態を示したタイミングチャート図
【図10】本発明に係る制御の一例を示したフローチャート図
【図11】シフトレバーポジションを示した図
【図12】シフトスイッチを有するステアリングを示した図
【符号の説明】
1…エンジン
2…クランク軸
3…クラッチ、
4…自動変速機(A/T)
5…トルクコンバータ入力部
6…電磁クラッチ
7…減速装置
8…モータ・ジェネレータ(M/G)
11…サンギア
12…キャリア
13…リングギア
14…ブレーキ
15…ワンウェイクラッチ
21…インバータ
22…バッテリー
23…コントローラ(ECU)
41…副変速部
42…主変速部
31…トルクコンバータ
32…ポンプインペラ
33…ステータ
34…タービンランナ
35…ロックアップクラッチ
36…変速機の入力軸
51…遊星歯車機構
52…キャリヤ
53…リングギヤ
54…サンギヤ
61…中間軸
70…遊星歯車機構
71…サンギヤ
72…キャリヤ
73…リングギヤ
80…遊星歯車機構
81…サンギヤ
82…キャリヤ
83…リングギヤ
90…遊星歯車機構
91…サンギヤ
92…キャリヤ
93…リングギヤ
95…出力軸
96…ケーシング
C0…多板クラッチ
C1…前進クラッチ
C2…クラッチ
B0…多板ブレーキ
B1…第1ブレーキ
B2…第2ブレーキ
B3…第3ブレーキ
B4…第4ブレーキ
F0…一方向クラッチ
F1…一方向クラッチ
F2…一方向クラッチ
101…自動停止判定手段
102…燃料カット指令手段
103…自動復帰判定手段
104…復帰指令手段
105…自動停止表示手段
106…ヒルホールド制御手段
107…検出手段
108…自動停止禁止手段
109…復帰用油圧供給指令手段
201…ライン圧コントロールソレノイド
202…プライマリレギュレータバルブ
203…マニュアルバルブ
205…切換バルブ(急速増圧手段)
206…アキュムレータ
207…オリフィス
208…ソレノイド
209…大オリフィス
210…第1の油圧経路
211…小オリフィス
212…第2の油圧経路
213…逆止弁
214…復帰経路
230…シフトスイッチ

Claims (5)

  1. 所定条件でエンジンを自動停止・再始動するエンジンの自動停止始動装置において、
    エンジンの自動停止後の再始動時に変速機において所定変速段が達成されている状態で所定クラッチへの供給流体圧を急速に増圧する急速増圧手段と、
    変速機の状態を検出する検出手段と、
    この検出手段により変速機において所定変速段が達成されていない状態が検出されたときエンジンの自動停止制御を禁止する自動停止禁止手段と、
    を備えたことを特徴とするエンジンの自動停止始動装置。
  2. 所定条件でエンジンを自動停止・再始動するエンジンの自動停止始動装置において、
    エンジンの自動停止後の再始動時に変速機において所定変速比が達成されている状態で所定クラッチへの供給流体圧を急速に増圧する急速増圧手段と、
    変速機の状態を検出する検出手段と、
    この検出手段により変速機において所定変速比が達成されていない状態が検出されたときエンジンの自動停止制御を禁止する自動停止禁止手段と、
    を備えたことを特徴とするエンジンの自動停止始動装置。
  3. 所定条件でエンジンを自動停止・再始動するエンジンの自動停止始動装置において、
    エンジンの自動停止後の再始動時に変速機において所定変速比が達成されている状態で変速機への供給流体圧を急速に増圧する急速増圧手段と、
    変速機の状態を検出する検出手段と、
    この検出手段により変速機において所定変速比が達成されていない状態が検出されたときエンジンの自動停止制御を禁止する自動停止禁止手段と、
    を備えたことを特徴とするエンジンの自動停止始動装置。
  4. 前記検出手段で検出した変速機の状態が、2速発進状態の場合である請求項1記載のエンジンの自動停止始動装置。
  5. 前記検出手段で検出した変速機の状態が、変速機構のフェール時である請求項1〜3のいずれかに記載のエンジンの自動停止始動装置。
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