JP3815075B2 - オーステナイト系ステンレス鋼板の冷間圧延方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼板の冷間圧延方法に係わり、さらに詳しくは、圧延中の耳割れ、チャタマークの発生を防止することができ、かつ高能率で良好な鋼板表面品質が得られるオーステナイト系ステンレス鋼板の冷間圧延方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ステンレス鋼板の冷間圧延では、圧延された製品の表面光沢度が高いことが要求される。ステンレス鋼は、変形抵抗が高くて加工硬化し易いため、ロールバイト内への圧延油の導入量が少なく、高い圧延圧力が得られる小径ワークロールのセンジミアミルが使用されていた。この圧延では低粘度の鉱油を基油とした不水溶性圧延油(以下、ニート油と記す)、あるいはこれをエマルション化した圧延油が使用されていた。
【0003】
しかし、センジミアミルは圧延ロールが20段にもなり圧延機の構造が複雑で、かつロール径が50〜80mmと小径であるため圧延速度が制約され、生産性が低いという問題があった。
【0004】
そこで近年、生産性を向上させるためにロール径が大きいタンデムミルでの高光沢圧延が試みられるようになった。
【0005】
最近では、構造が簡便でかつ形状制御機能のよい、12段の圧延ロールを備えたクラスターミル(ロール径:80〜120mm)や6段のUCミルが開発され、600m/分以上の高速圧延が試みられている。これらの圧延で鉱油系のニート油を使用した場合には、冷却能および潤滑性に欠け焼付き疵の発生、さらには破断事故時の圧延油への着火等の問題があった。
【0006】
また、高潤滑性の圧延油を用いると圧延ロールと被圧延材との間(ロールバイト)に導入される油量が増加し、光沢度の低下が問題となる。一方、エマルション油を使用した場合は、着火事故の恐れはなくなるが、圧延中の鋼板はエマルション油により冷却され易くなる。
【0007】
オーステナイト系ステンレス鋼板の圧延では、圧延により加工誘起マルテンサイトが生成して加工硬化し、さらに圧延を難しくしている。この加工誘起マルテンサイト(以下、単にマルテンサイトと記す)は低温ほど発生し易いことが知られている。
【0008】
特開昭64−21013号公報には、初期パスの鋼板温度を50〜250℃に高めて圧延する方法が開示されており、また特公平6−6206号公報には圧延前に短時間で鋼板温度を100℃前後に均一に高める方法が示されている。
【0009】
しかし、これらの方法では、鋼板温度を高めることは、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制することに対しては有効ではあるが、中間パスで焼付きが発生するなどの問題があった。
【0010】
さらに、オーステナイト系ステンレス鋼の圧延では、フェライト系ステンレス鋼に比べ耳割れが生じ易く、またチャタマークが発生し易いという問題があった。チャタリングは、圧延材表面に幅方向に縞模様が発生する現象で、原因については潤滑状態に起因する説、機械的な原因など諸説があるが未だ明確になっていない。いずれもニート油圧延に比べエマルション圧延で顕著に発生し、板厚が薄くなると発生し易い傾向にあった。
【0011】
特に、圧下率が大きく、かつ圧延速度を高めると顕著に発生するため、対策としては軽圧下あるいは低速圧延とするしかなく、また、耳割れは板破断の原因になるため、張力を下げること、さらに軽圧下率で圧延することが必要となり、著しく圧延能率を低下させていた。
【0012】
特に、リバース式圧延機においてエマルション油を使用すると、各圧延パスでの加速圧延部および減速圧延部で冷却過多となり、耳割れ、チャタリングの発生が著しい。さらに、外気温が低い冬季には初期パスの材料温度が低いことから一層助長された。
【0013】
上記加速圧延部とは、圧延開始から定常圧延速度になるまでの部分で、また減速圧延とは定常圧延速度から圧延停止までの部分であり、圧延速度が定常部より遅い。
【0014】
なお、チャタリングが発生すると、圧延は不安定となり、かつ圧延材表面には板幅方向に板厚の約2倍程度の縞模様、いわゆるチャタマークが発生して表面品質を低下させる問題もあった。
【0015】
以上のように、オーステナイト系ステンレス鋼の冷間圧延においては、光沢性の維持以上に、耳割れ、チャタマークなどの発生のため、リバース式圧延機においては300m/分以上の高速で高能率に圧延することができないのが現状であった。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、水中油型エマルション油を使用したオーステナイト系ステンレス鋼のリバース圧延において、300m/分以上の高速圧延をおこなっても、耳割れ、チャタマークおよび板破断の発生を防止しすることができ、高光沢性、表面性状に優れた鋼板を得ることができるステンレス鋼板の冷間圧延方法を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
ステンレス鋼板の冷間圧延方法に係わる本発明の要旨は以下の通りである。
【0018】
「水中油型エマルション油を使用して、リバース式圧延機でオーステナイト系ステンレス鋼板を冷間圧延するに際し、圧延1パス目の入側では鋼板を加熱せず、圧延2パス目の入側の鋼板温度を下記式(1)で示す温度T℃以上になるように鋼板温度を制御して圧延することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の冷間圧延方法。
【0019】
T(℃)= 1.68×M+63 ・・・・・・ (1)
ここで、Mは2パス目入側でのマルテンサイト量(体積%)」
本発明者らは、オーステナイト系ステンレス鋼板の冷間圧延時に発生する耳割れ、およびチャタマークを防止するため、エマルション油を用いたリバース圧延を繰り返し種々検討した結果、以下の知見を得て本発明を完成するに至った。
【0020】
(1)チャタマークは、一般的な圧延機の振動現象に起因するものではなく、鋼板の内質に関係しており、チャタマークと耳割れは基本的には同一の現象である。
【0021】
(2)耳割れは、鋼板エッジ部で鋼板表面から45〜50゜傾斜し、鋸歯状に連続して発生しており、周期的な剪断変形から派生する現象である。
【0022】
(3)チャタマークは、耳割れを発生させた剪断変形が鋼板の幅中央方向へ広がり鋼板表面に至った痕跡である。
【0023】
(4)耳割れやチャタマークが発生した鋼板のマルテンサイトの生成量は、発生しない鋼板の場合より多い。
【0024】
(5)チャタマークの原因となる周期的な剪断変形は、マルテンサイト生成量が10%を超え、1パス当たりの圧下率が15%以上、総圧下率が50%以上および圧延速度が約300m/分以上で発生し易い。また、概して外気温が低い冬季に発生し易い。
【0025】
(6)マルテンサイトは、1パスから3パス目での発生が顕著で、かつそれらのパスの入側鋼板温度に影響される。しかし、1パス目でのマルテンサイトの発生は比較的すくなく、1パス目入側の鋼板温度が低くても発生しない場合がある。
【0026】
(7)耳割れおよびチャタマークの発生は、2パス目入側のマルテンサイト量M(体積%)と鋼板温度と密接な関係があり、2パス目の入側での鋼板温度を下記式で示すT℃以上にすることにより防止できる。
T(℃)= 1.68×M+63
【0027】
(8)2パス目入側で、鋼板温度をT℃以上に高めておけば、3パス目以降は加工熱によりT℃未満にならないので、特に鋼板を加熱する必要はない。図1は、SUS304の冷間圧延で発生したチャタマークの平面外観図である。
【0028】
図2は、SUS304の冷延鋼板のチャタマーク発生部の圧延方向の断面を顕微鏡で観察した状態を示す。
【0029】
図2に示されるように、剪断変形は鋼板表面から肉厚方向に45〜50゜傾斜して連続して発生しており、その剪断変形が鋼板表面に至ったところにチャタマークが発生している。
【0030】
図3は、SUS304の鋼板を総圧下率59%で圧延した際に鋼板のエッジに発生した耳割れ部の観察図である。図3(a)は鋼板エッジ部の側面図、図3(b)は同(a)の下面の平面図である。
【0031】
図3(a)から、チャタマークは剪断変形が鋼板表面に達した所に発生していることが分かる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の冷間圧延方法の実施の形態について説明する。
【0033】
2パス目の入側の鋼板温度を、T(℃)=1.68×M+63以上にする理由は、以下のとおりである。
【0034】
先ず、2パス目の入側の鋼板温度を制御するのは、1パス目で発生するマルテンサイト量は10%未満と比較的少なく、2パス目以降で発生量を制御すれば問題とならないからである。また、1パス目の入側で鋼板を加熱することも考えられるが、加熱した鋼板にエマルション油をスプレ供給すると、油分の鋼板への付着むらが生じ易く、圧延時の焼付きの1種であるカジリや光沢むらが発生する恐れがある。さらに、当然のことながら1パス目の前では、加工誘起マルテンサイトは発生していないので測定できなく、発生量の予測もできない。
【0035】
なお、2パス目前で鋼板温度をT℃以上に制御しておけば、3パス目以降は加工熱によりT℃以上となる。
【0036】
次に、2パス目の入側の鋼板温度を、T℃以上にするのは、T℃未満の温度では、マルテンサイトの生成を抑制することができないからである。
【0037】
T(℃)=1.68×M+63は、種々の実験により求めた式である。
【0038】
図4は、上記式を求めた試験結果の一例を示し、2パス目入側の温度、マルテンサイト量とチャタマークとの関係を示す。
【0039】
この試験では、SUS304の熱間圧延した鋼板(焼鈍、酸洗済み材)を、エマルション油を使用したリバース圧延で、1パス目は圧延速度を、50、100、150、200、250、300m/分と変更して圧延し、2パス目の入側でマルテンサイト量(フェライトスコープによる測定値:M%)と鋼板温度(T)を測定した。圧延条件は、以下の通りとした。
【0040】
(パスNo.) 圧延速度(m/分) 圧下率(総圧下率)%
1 50,100,150,200,250,300 18(18)
2 50〜300 15(30.3)
3 300 15(40.8)
4 300 15(49.6)
5 300〜600 15(57.2)
なお、1パス目の圧延速度変更により、加工発熱、摩擦熱、エマルション油による冷却等から圧延時の鋼板温度が変化し、マルテンサイト量の調整ができる。また、2パス目の鋼板温度は、圧延速度(入側鋼板速度)エマルション油の供給量の変更および外部からの加熱により種々変えた。
【0041】
上記のような条件で冷間圧延した後、鋼板の耳割れ、およびチャタマークの発生状況を調べた。
【0042】
その結果、エッジから3mm程度のチャタマークが発生するのは、図4中の△印のような分布となり、直線状となった。この直線は、T=1.68×M+63で表すことができる。
【0043】
したがって、チャタマークを防止するには2パス目の入側での鋼板温度がTより低い場合は鋼板を外部からの加熱手段により少なくともT℃まで高めることによりエッジから3mmを超えるチャタマークの発生を防止することができる。
【0044】
なお、2パス目の入側の鋼板温度をT℃以上に制御するのであるが、上限は特に限定しないが、あまり高温度になると焼付きが発生し、表面疵となる恐れがあるので、80℃以下にするのが好ましい。
【0045】
2パス目の入側鋼板温度がT℃以上であれば、外気温が低い冬季で第1パスの鋼板温度が15℃以下となっても総圧下率が50%を超えるパスでのマルテンサイト量は10%を上回ることはなく、耳割れとチャタマークは実用上問題とならない程度まで軽減する。
【0046】
2パス目の被圧延材の温度を高めるために、1パス目を強圧下して加工発熱を活用する方法も可能であるが、強圧下すると摩耗粉の発生が多く、光沢むらになり易く、また1パス目の入側鋼板温度が低い冬季は、30%以上の圧下率を必要とし、圧延機の圧下能力を超えるため、実質的に加工発熱だけで2パス目の圧延材温度をT℃以上とするのは困難である。
【0047】
鋼板の加熱手段としては、高温水蒸気を用いるのがよい。その理由は第1に工業的に比較的容易に使用でき経済的であること、第2に他の輻射熱や誘導加熱による方法では、加熱による油分の変質が著しく、潤滑性の低下や光沢性の低下を引き起こす。さらに、高温水蒸気の場合は、鋼板上の油分および摩耗紛をも機械的な表面の洗浄効果により吹き飛ばすことができる。これは冷間圧延を行う熱延後のステンレス鋼板は、その脱スケール時にショットや酸によるアタックで表面粗さはRaで3μm程度と粗くなっており、冷間圧延時の初期パスで摩耗紛が発生し易い。摩耗紛はエマルション油で圧延した場合には鋼板上に残り易く、板汚れや光沢むら、さらには焼き付き疵、押し込み疵の原因になる。
【0048】
それに対し、高温水蒸気の場合は鋼板上の油分および摩耗紛をも吹き飛ばすことができるので光沢性をむしろ向上させる。
【0049】
また、1パス目入側から鋼板温度を予熱することも考えられるが、鋼板上にエマルション油の油分が付着する際温度が高いと付着がむらになり易く、焼付きの1種であるカジリや光沢むらが生じ易い。
【0050】
2パス目の圧延前の鋼板の加熱は、加速圧延または減速圧延における圧延速度が50〜300m/分の部分でおこなうのが好ましい。
【0051】
加減速部での圧延では圧延速度が定常圧延の速度よりも小さい。したがって、エマルション油により鋼板が冷却され易く温度が低下する部分であるので、この部分で鋼板をT℃以上となるように加熱しておくのがよい。なお、2パス目の圧延前に鋼板の温度制御をおこない、さらに3パス目の入側で同じような温度制御をおこなってもよく、また圧延後半パスでおこなってもよい。圧延後半での温度制御は、加工熱により鋼板温度が上昇し過ぎる恐れがある場合にそれを防止するためにおこなうのがよい。
【0052】
本発明に使用する高温水蒸気について、説明する。ここでの高温水蒸気とは、特別のものでなく、圧力が2〜7kg/cm2 程度で、温度は100〜150℃である。また、流量的には板幅100mmあたり、30〜200リットル/min程度でよい。ノズルは鋼板表面に対し垂直より進行方向に対向するように設置することが望ましく、温度の上昇および油分、摩耗粉の除去性を高めるため、鋼板との距離は可能な限り近い方がよい。さらに、ノズルを複数列配置するとより効率的になる。
【0053】
マルテンサイト量の測定方法は、ドイツのフィッシャー(FISCHER)社のフェライトスコープ(製品名:MP3C、FE8e3)が簡便でよい。測定原理は、DIN59981、ASTMB499、ISO2178などで規定されている磁気誘導法であり、低周波AC励起電流を測定プローブより発生させ、測定試料表面(板厚方向に1.5〜2.0mm)に低周波の磁界を発生させる。その磁束密度は測定プローブ(ピックアップコイル)で測定し、測定信号をプローブ特性と適当な数学的変換モデルに基づいてフェライト量あるいはマルテンサイト量に変換するものである。
【0054】
このマルテンサイト量の信号と鋼板温度の測定信号を演算回路に送り、前述の(1)式で示される両者の関係から目標となる設定鋼板温度を算出し、測定温度との差の信号により、高温水蒸気の流量バルブの開閉を自動的にあるいはマニュアル操作で制御することで本発明の方法を実現することができる。
【0055】
マルテンサイト量:M%の測定は、2パス目の入側で鋼板温度Tの測定と同タイミングで測定することが基本であるが、鋼板の圧延方向の位置が確認できるなら、1パス目の巻き取り前におこなうこともできる。この方法によれば予めTが決定されるため、2パス目圧延時の高温水蒸気の流量バルブの開閉の操作指示が演算時間の遅れなく実施できる利点がある。
【0056】
さらに、本発明に使用するエマルション油の圧延油の組成および性状について説明する。
【0057】
本発明に使用する圧延油の組成および性状については特に限定しないが、以下のものが使用できる。エマルション油の原液の組成は低粘度の鉱油、合成炭化水素等を基油とし、これに合成エステル類を添加したものである。例えばラウリル酸、パルミチン酸等炭素数が10〜18の何れかの脂肪酸と炭素数が1〜18の何れかのアルコールとのモノエステル。また、前述の脂肪酸とトリメチロールプロパン等の多価アルコールとのモノエステル、またはおよびジエステル、トリエステル。さらに、アジピン酸等の二塩基酸と前述のアルコールとのジエステルなどがあげられる。上記合成エステルの配合量は、エマルション油原油全体としての鹸化価で50〜120mgKOH/gの範囲になるようにすることが好ましく、原液の粘度範囲は40℃で7cSt〜15cStである。また、水中に分散させる際の濃度は5〜20%が好ましく、油粒子の平均径は1.5〜5μmの範囲が好ましい。なお、使用する際の圧延油温度は40〜50℃が好ましい。
【0058】
【実施例】
実施例により、本発明の効果をさらに詳しく説明する。
【0059】
材質がSKD11で、直径が100mm、表面粗さがRa0.13μmのワークロールと直径が350mmのバックアップロールを備えた4Hiリバース式圧延機により、下記のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS304の熱延鋼板(焼鈍、酸洗済み材)を圧延した。
【0060】
厚さ:3.2mm、幅:100mm、長さ300m
図5は、実施例で用いた圧延装置および計測装置等の配置を示す図である。同図は、4Hiリバース圧延機1によりコイル2から巻戻された鋼板9を2パス目の圧延をおこなっている状態を示す図である。圧延前の鋼板温度は、温度計3aで測定され、その測定値は温度信号変換器5を介して設定鋼板温度演算機7に送られる。 それと同時に、マルテンサイト量測定器4で鋼板のマルテンサイト量が測定され、その測定値もマルテンサイト量信号変換機6を介して設定鋼板温度演算機7に送られる。この演算機で求めた設定温度に鋼板温度を加熱するために、演算機からの信号が水蒸気バルブ指示機12に送られて水蒸気量変更バルブ8が制御され、ノズル11から噴射される水蒸気で鋼板温度がT℃以上の温度になるように加熱される。
【0061】
圧延直前で温度計3bにより鋼板温度を再度測定して、その測定値が温度信号変換器5を介して設定鋼板温度演算機7に送られT℃以上の温度になっていない場合は補正される。
【0062】
エマルション油は、圧延機入側の鋼板の上下に設けた圧延油スプレーノズル10からワークロール表面および鋼板表面に供給される。
【0063】
圧延条件を表1に示す。また、圧延油は表2に示す2種のエマルション油と比較のためニート油を用いた。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
鋼板の加熱には、表3の脚注に示す温度、圧力が異なる3種の高温水蒸気および高周波誘導コイルによりおこなった。
【0067】
また、鋼板の温度測定は1パスおよび2パス目の入側で接触型の温度計(安立計器社製:ロングライフタイプ211K)で行い、マルテンサイト量の測定にはドイツのフィッシャー(FISCHER)社のフェライトスコープ(製品名:MP3C)を使用した。表3〜5に1パス圧延前および2パス目圧延前の鋼板温度と、2パス目圧延前のマルテンサイト量(M)および目標とする鋼板加熱温度、さらには加熱後の鋼板温度を示す。
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
圧延No.3、6および9では2パス目以外でも温度制御を実施した。
【0072】
圧延No.6の8パスでの水蒸気流量は圧延速度によらず100リットル/分とした。
【0073】
圧延後の鋼板について光沢むら、および焼付きの有無を目視で判定した。また、チャタマークの発生程度が一番強い圧延速度域でのチャタマークのエッジからの発生幅、フェライトメーターによるマルテンサイト量を測定した。さらに、最終の7パスまでの圧延における板破断の有無と発生パスを下記の判定基準で表3〜5に示した。なお、最終パスまでに板破断した場合は破断パスで測定した。
【0074】
(耳割れ深さの程度)
○:発生無し、 □:軽微な発生(許容範囲内)、 ▲:著しい発生(不良)
(チャタマーク幅)
○:確認できない、□:僅か(1〜3mm)あり品質上問題ない、▲:顕著(5mm以上)で品質不適
(光沢むらの程度)
○:確認できない、□:僅かであり品質上問題ない、▲:顕著で品質不適
(焼付き疵の程度)
○:発生無し、 □:軽微な発生(許容範囲内)、 ▲:著しい発生(不良)
(板破断の有無)
○:発生無し、 ▲:発生
本発明例から明らかなように、2パス目の入側の鋼板温度が、(1)式で決定される温度Tより低い場合には、鋼板をT℃以上に加熱して2パス目の圧延をおこなうとマルテンサイト量の生成が少なくなり、チャタマークの発生がないか、発生しても極軽度である。
【0075】
【発明の効果】
本発明例によれば、特に外気温が低い冬季においても、リバース式圧延機により300m/分以上の高圧延速度で圧延しても耳割れの発生、およびチャタマーク、板破断がなく、高能率圧延が可能となり、高光沢度、高表面性状の鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】SUS304冷延鋼板の表面に発生したチャタマークと呼ばれる表面欠陥の平面外観図である。
【図2】チャターマークの発生したSUS304冷延鋼板の縦断面を示す図である。
【図3】SUS304冷延鋼板のエッジに発生した耳割れとチャタマークを示す図である。
【図4】2パス目の入側鋼板温度およびマルテンサイトと総圧下率が50%を超えた圧延パスでのチャタマークの発生程度との関係を示す図である。
【図5】鋼板温度、マルテンサイト量の測定および水蒸気による鋼板の加熱状態を示す図である。
【符号の説明】
1 圧延機 8 水蒸気バルブ開閉指示機
2 コイル 10 圧延油スプレノズル
3a、3b 温度計 11 水蒸気ノズル
4 マルテンサイト量測定機
5 温度信号変換器
6 マルテンサイト量信号変換器
7 設定鋼板温度演算機
Claims (1)
- 水中油型エマルション油を使用して、リバース式圧延機でオーステナイト系ステンレス鋼板を冷間圧延するに際し、圧延1パス目の入側では鋼板を加熱せず、圧延2パス目の入側の鋼板温度を下記式(1)で示す温度T℃以上になるように鋼板温度を制御して圧延することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の冷間圧延方法。
T(℃)= 1.68×M+63 ・・・・・・ (1)
ここで、Mは2パス目入側でのマルテンサイト量(体積%)
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