JP3785769B2 - ステンレス鋼板の冷間圧延方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エマルション圧延油を使用するステンレス鋼板の冷間圧延方法であって、特に表面品質を損なうことがなく、かつ高能率に圧延することを可能にするステンレス鋼板の冷間圧延方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ステンレス鋼板の圧延は、圧延された製品の表面光沢が高いことが要求される。しかし、ステンレス鋼板はその変形抵抗が高く、加工硬化し易いことから、そのような鋼板の圧延には圧延油の導入量が少なく、高い圧延圧力が得られる小径ワークロールのセンジミアミルが使用されていた。そして、それに使用する圧延油は、低粘度の鉱油を基油とした不水溶性圧延油 (以下、ニート油) 、あるいはこれをエマルション化した圧延油 (エマルション圧延油、あるいは単にエマルション油とも云う) であった。しかし、センジミアミルは圧延ロールが20段と圧延機の構造が複雑でかつロール径が50〜80mmと小径であるため圧延速度が制約され、生産性が低いという問題があった。
【0003】
そこで近年、生産性を向上させるため、ロール径が大きいタンデムミルでの高光沢圧延が試みられ、特開昭2−110195号公報、特開平5−305326号公報に示すような低粘度圧延油の使用、特開平4−118101号公報、特開昭5−78690 号公報に示すような高粘度油の細粒径エマルション圧延油を用いた圧延が行われてきた。
【0004】
すなわち、例えば、特開平5−305326号公報には、冷間圧延の前の工程もしくは圧延機入側で粘度5cSt 以下の液体を鋼板に塗布し、第1パス以降は粘度5cSt 以上の液体を鋼板に用いることが開示されている。
【0005】
一方、特開平4−118101号公報にはステンレス鋼板の焼付けと表面あれとを防止する冷間圧延法として、粘度80 cSt/40 ℃以上の高粘度の圧延原液を使用することが開示されている。
【0006】
さらに、特開平2−110195号公報には、粘度4 〜15cSt/50℃(5〜18cSt/40℃に相当) の圧延油を用いて冷間圧延することが開示されている。
確かに、そのような手段によって圧延能率の向上が図られるようになったが、依然センジミアミルでニート油を用いて圧延した際と同様の高光沢度を得ることはできない。
【0007】
さらに最近では、構造が簡便でかつ形状制御機能の良い、圧延ロールが12段のクラスターミル (ロール径:80〜120 mm) 、同じく6段のUCミルが開発され、600mpm以上の高速圧延が試みられている。そのような高速圧延に用いる圧延油として鉱油系のニート油を使用した場合には、冷却性不足および潤滑性不足から焼付き疵の発生、さらには破断事故時に圧延油に着火する等の問題があった。また高潤滑性とした場合においては圧延ロールと圧延材との間 (ロールバイト) に導入される油量が増し、光沢性の低下が問題となる。
【0008】
一方、エマルション圧延油の場合は、着火事故の恐れは解決するが、冷却性が増すため、ニート油よりロールバイトでの圧延油粘度が高くなり、油膜が厚くなって十分な光沢性が得られないばかりか、エマルション油の鋼板やロールへの付着の不均一、および摩耗粉がエマルション中に取り込まれて生じる粘凋なスカムの部分的付着による油模様が発生する等の問題があった。また、エマルション圧延油で圧延した鋼板はニート油圧延の場合に比べ、表面に付着した摩耗分の量が多く、圧延油に混じり合って粘度を高め、油膜厚の増大につながっていた。
【0009】
また、ニート油の圧延では圧延後の鋼板に付着する油量が多く、コイル巻取り時に高い張力で巻かれても、巻き疵の発生がないが、エマルション圧延油の場合は油量が少ない上に摩耗粉量が多く、巻き疵が発生し表面品質を低下させる。かかる巻き疵防止のため、合紙を挿入してコイルに巻く方法もあるが、高速での巻取り・巻き出しが困難であること、コイル温度が高いと合紙が鋼板上に焼付き、剥がれない等の問題から、低速圧延でしかできない。また、鋼板上に摩耗粉が多いことから、摩耗粉が圧延時に押込められた疵や模様、さらにはロールに押込まれると、ロール疵となり、鋼板上に繰り返し転写されてコイル全長に及ぶ疵となる。
【0010】
したがって、高光沢性など優れた表面品質が要求されるフェライト系ステンレス鋼板を600m/min以上の高速で圧延することはできないのが現状であった。
一方、冷間圧延による加工硬化が大きいオーステナイト系ステンレス鋼板の圧延時には、エマルション油では圧延後の鋼板に付着する油量が少ないため、油膜厚が低減することから潤滑不足となり、高荷重あるいは焼付きの発生から十分な圧下率が得られず、パス回数が増し、あるいは高い圧延速度が得られず圧延能率が低い状態であった。また、コイル巻取り時の巻き疵やロール押し込み疵の発生は、フェライト系ステンレス鋼板圧延より張力が高いこと、高面圧のため摩耗粉の発生が多いこと等からフェライト系ステンレス鋼の圧延時と同様に問題であった。
【0011】
以上のように、高光沢性が必要なフェライト系ステンレス鋼板、高潤滑性が必要なオーステナイト系ステンレス鋼板のいずれもエマルション圧延油を用いたリバース式圧延機においては高能率で圧延できないのが現状であった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前記の問題点を解決する圧延方法、すなわち、エマルション圧延油を使用する冷間圧延において、フェライト系、オーステナイト系のいずれのステンレス鋼板をも同一のエマルション圧延油を用いて高速・高能率圧延を行い、高光沢度・高表面品位度の鋼板を得ることができる冷間圧延方法を提供することにある。
【0013】
より具体的にはリバース式圧延機においてフェライト系、オーステナイト系のいずれのステンレス鋼板の場合でも、600 mpm 以上の高い圧延速度で圧延しても、巻き疵、ロール押込み疵、光沢むら、焼付き等のない表面品位とすることができ、特にフェライト系ステンレス鋼の場合、Gs60°で400 以上の光沢度が得られるという優れた作用効果を実現できる冷間圧延方法を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、高光沢性が要求されるフェライト系ステンレス鋼板をエマルション油を用いて冷間圧延する際の圧延油原液の粘度と、それから得られたエマルション圧延油の濃度および平均粒径とをそれぞれ変えて圧延時の潤滑性と圧延後の鋼板付着油量および摩耗粉量、圧延油中の摩耗粉量、さらに巻き疵、ロール押込み疵、表面光沢度、光沢むらとの関係を、従来のニート油圧延と比較して種々検討した結果、次のような知見を得た。
【0015】
(1) エマルション圧延油の場合は、ある程度低粘度、低濃度、細粒径にしないと高光沢が得られない。
(2) 圧延による摩耗粉の発生は、鋼板に付着した摩耗粉量、圧延油中の摩耗粉量の測定から、ニート油とエマルション油でほとんど差がないが、エマルション油の場合は鋼板上に多く残り、圧延油中に少ない。しかも、エマルション油の原液粘度が低いほど、平均粒径が小さいほど鋼板に付着した摩耗粉量が増す。
【0016】
(3) 圧延後の付着油量は、同一粘度であれば、エマルション油の方が少なく、エマルション油の場合は平均粒径が小さいほど少なくなる。また、エマルション油の場合、原液粘度の影響は、ニート油よりは軽微であるが粘度が低いほど付着油量は減る。
(4) 圧延油原液に摩耗粉が混入すると、圧延油の粘度が高くなる。したがって、摩耗粉の多い場合は、少ない場合より潤滑性が増すが、光沢性は低下する。
【0017】
(5) 摩耗粉の多い部分が鋼板に付着するとその部分は光沢むらとなる。さらに摩耗粉の比率が多くなると、ロール押し込み疵が発生する。
(6) エマルション圧延油を使って圧延した鋼板に圧延油原液を巻取り前に塗布すると、巻き疵が減少する。また、次パス圧延時に摩耗粉量が減少する。
【0018】
(7) そのことにより光沢が改善される。また、ロール押込み疵も減少する。さらに圧延荷重が減少し、焼付き疵の発生も減少する。
(8) このような作用効果は、圧延機入側で鋼板表面にエマルション圧延油を供給しない方が原液の脱落が少なく、より顕著に発揮される。
【0019】
(9) 圧延油原液を鋼板に塗布することで、エマルション圧延油の使用濃度を低濃度としても十分な潤滑性が得られ、また、光沢性も向上するため、平均粒径を過度に下げる必要もなくなり、エマルション圧延油の管理が容易になる。
以上の知見、基礎的事実を総合して、本発明を完成するに至った。
【0020】
ここに、本発明は次の通りである。
(1) ロール径50mm以上120 mm以下の小径ワークロールを有したリバース式圧延機でエマルション圧延油を使用してステンレス鋼板を冷間圧延するに際し、少なくとも1つのパス後の巻取り時に、6cSt 以上20cSt 未満の粘度の圧延油原液を鋼板に供給するステンレス鋼板の冷間圧延方法。
【0021】
(2) 圧延入側では鋼板へのエマルション圧延油の供給は行わず、ロールのみとし、出側ではロールおよび鋼板に供給する上記(1) に記載のステンレス鋼板の冷間圧延方法。
(3) エマルション圧延油の使用濃度が5vol%以下、平均粒径が5μm以下である上記(1) または(2) に記載のステンレス鋼板の冷間圧延方法。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明は圧延油原液と水からなる水中油型エマルション圧延油を使用してステンレス鋼板をロール径が50mm以上、120 mm以下の小径ワークロールを有したリバース式圧延機で600mpm以上の高速度で冷間圧延する際に必要とする冷間圧延方法である。
【0023】
図1は本発明にかかるリバース冷間圧延におけるステンレス鋼板の走行方向とエマルション圧延油および圧延油原液の供給方式の説明図であり、図中、ロール10により圧下されるステンレス鋼板20は各圧延パス毎に巻取り機30により巻取られる。各圧延パスに際してノズル40、42、44からはエマルション圧延油が、ノズル50からは圧延油原液がそれぞれ鋼板に供給できるように構成される。圧延油原液を鋼板に供給するノズル40はロール10にエマルション圧延油を供給する。ノズル50はロールコータであってもよい。図中、矢印は鋼板の走行方向を示す。
【0024】
第1の発明
水中油型エマルション圧延油を使用して例えばフェライト系ステンレス鋼板を、ロール径が50mm以上、120 mm以下の小径ワークロールを有した圧延機で例えば600 mpm 以上の高速度で冷間圧延する。その際の最終圧延パス後の圧延材表面光沢は、ニート油を使用した圧延速度400m/min未満の低速で圧延した際に得られるGs60°で400 〜500 という優れた表面光沢ではなく、200 〜350 と低い。
【0025】
したがって、本発明にあっては、これを解消するため、油膜厚さを低減する方法としてエマルション圧延油の原液粘度と、好ましくはエマルション平均粒径の最適化を図り、さらに、圧延後の鋼板表面の摩耗粉と圧延油の比率に注目し、少なくとも1つの圧延パス、好ましくは各圧延パスのコイル巻取り前に、6cSt 以上20 cSt未満の粒度の圧延油原液を鋼板に塗布するのであって、これにより摩耗粉比率が小さくなり、疵や光沢むらが少なく、かつ高光沢が得られる。
図1においてノズル50からの圧延油原液の供給は各圧延パス毎に行ってもよく、前段のパスあるいは後段のパスの巻取り時だけに行ってもよい。
【0026】
第2の発明
また、エマルション圧延油の供給は入側では鋼板への供給は行わず、ロールのみとし、出側ではロールおよび鋼板に供給して上述の本発明の第1の発明による効果を更に高めたのが本発明の第2の特徴である。例えば図1において左から右に走行するパスを考えると、ノズル42は停止して出側ノズル44だけを作動させてエマルション圧延油を鋼板に供給する。
【0027】
第3の発明
さらに、エマルション油の使用濃度を5vol%以下、平均粒径を5μm以下として光沢性の向上を図ったのが本発明の第3の特徴である。
【0028】
まず、第1の発明について詳しく説明する。
エマルション油を使用した場合の光沢性低下の原因は、冷却性が増すため、ニート油よりロールバイトでの圧延油粘度が高くなり、油膜が厚くなることにある。油膜厚さは、一般に下記(1) 式の油膜厚さ等量(td ) で示される。
【0029】
【数1】
【0030】
しかし、この式はロールバイトに十分な油量がある場合に限られ、(1) 式に示される量より少ない場合にはその量となる。なお、本明細書において「粘度」は特にことわりがない限り、40℃におけるそれを表わすものである。
【0031】
図2は圧延後の鋼板に圧延油原液を塗布し、さらにエマルション圧延油を使用して圧延した結果を、摩耗粉と圧延油の比率と粘度との関係にまとめて示す。比較のため圧延油原液を塗布しない場合についても示す。これからも分かるように原液塗布の作用により原液粘度20 cSt未満のとき、平均粒径が一般的な7.0 μmまで大きくても優れた光沢性が得られるようになる。
【0032】
これは、熱間圧延後の焼鈍・酸洗済みの鋼板に5〜11パスの圧延を行うと、前の圧延パス後の鋼板表面に付着している油量や摩耗粉量が光沢や焼き付きに大きく影響するためである。すなわち、摩耗粉が多いと圧延油の粘度が高くなり、油膜厚を増すためである。
【0033】
次に、鋼板表面の摩耗粉と圧延油の比率 (摩耗粉比率) と粘度との関係、圧延荷重および光沢性との関係を検討した結果をそれぞれ図3および図4に示す。
図3から分かるように、圧延油原液に摩耗粉が混入すると、圧延油の粘度が飛躍的に高くなる。したがって、圧延後の鋼板へ圧延油原液を塗布することで、鋼板上での摩耗粉比率を下げ、また余分な油分がロールバイト入り口で排除される際に摩耗粉を一緒に排出させるため、ロールバイト内での圧延油の粘度を低下させ、図4に示すように、光沢性が改善する。このことは高光沢が要求されるフェライト系ステンレス鋼板の圧延には好都合である。したがってエマルション油の細粒径化はそれほど必要でなくなる。
【0034】
なお、塗布する圧延油原液の粘度が20cSt を越えると優れた表面光沢が得られない。また、原液の粘度が6cSt 未満になると、焼付き疵が発生する。したがって、第1の発明の原液粘度は6cSt 以上20cSt 未満に限定した。
【0035】
ロール径についての限定の理由は、ロール径が直径120 mmを越えると圧延中の滑り長さが長くなり、焼付き疵が発生するためであり、また、オーステナイト系ステンレス鋼板では圧延荷重が増し、圧延し難い。一方、ロール径が直径50mm未満では600 m/min 以上の高速圧延が困難なこと、およびロール摩耗が著しく、圧延材の形状不良を生じやすくなるためである。
【0036】
原液を塗布することにより、実際の圧延において鋼板表面の表面品質上でさらに有用な効果がある。それはコイル巻取り時の巻き疵、および圧延時の摩耗粉のロール押込み疵の防止である。巻き疵は、コイル巻取り時に高い張力で巻かれた際にコイル層間の面圧と滑りにより発生した疵であり、鋼板上に付着した油分が少な過ぎる場合、および摩耗粉量が多い場合に発生し易い。また、押込み疵は鋼板上の摩耗粉が多く、凝集した場合にロールに押し込められて発生する。したがって、圧延後の鋼板への原液塗布は油量を確保し、かつ摩耗粉量を減少するため、これらの疵防止に効果がある。図5にこれらの効果を示す。さらに、前述の図4の結果からも分かるように、オーステナイト系ステンレス鋼板の圧延時には圧延荷重が軽減する。
【0037】
圧延油原液の塗布方法は、ノズルスプレー、ロールコーター等の方法でよく、鋼板上へ塗布できればいかなる方法でもよい。必ずしも表裏面に塗布する必要はない。巻取られた際に反対面にも転着するため、図1に示すように表面のみに塗布してもよい。塗布量はむやみに多量とすると、コイル巻取り時にしみ出し、無駄になるばかりか周囲を汚すため、50g/m2以下が好ましく、摩耗粉を排出させる作用のためには最低1g/m2以上を塗布することが好ましい。より好ましい範囲は2〜20g/m2である。
【0038】
なお、各パスの塗布量は一定であっても各パス毎に変更してもよい。フェライト系ステンレス鋼板の圧延時は前半パスは少なく、後半パスほど多くすることが好ましく、オーステナイト系ステンレス鋼板の場合はフェライト系より全体的に多くすることが好ましい。
【0039】
エマルションの平均粒径は、圧延油原液を巻取り時に鋼板に塗布しない場合には、2.0 μm未満としないと優れた光沢性が得られないが、原液塗布の作用により粒径が7.0 μm程度まで大きくても優れた光沢性が得られるようになる。エマルションを2.0 μm未満の細粒径に維持するには摩耗粉、スカム等の除去、新油の補給などの維持管理が大変で、維持できないことが多々発生する。7.0 μm程度まで、粒径が大きくなると維持管理が十分に行え、従って容易に優れた光沢性の維持が可能になる。
【0040】
次に、第2の発明について詳しく説明する。
圧延機への圧延油の供給の目的は鋼板およびロールへの潤滑と冷却である。したがって、従来より圧延機入側および出側から鋼板とロールに向けスプレーノズルで2〜5kg/cm2の圧力で供給している。特に入側ではロールバイト (圧延材がロールに噛み込まれる部分) に集中して供給されている。本発明にしたがって圧延油原液をコイル巻取り時に塗布した場合は圧延機入側で鋼板表面にエマルション圧延油がスプレーされると、その圧力および圧延油原液の乳化力で圧延油原液の一部が脱落してしまい、原液供給による前述の作用が十分に発揮されない。また、鋼板が過度に冷却されることから、鋼板上に付着した圧延油の粘度が高まり、圧延時の油膜を厚くして光沢性を低下させる。したがって入側では鋼板へのエマルション圧延油の供給は行わず、ロールのみとし、出側では冷却のため、ロールおよび鋼板に供給するのである。
【0041】
最後に、第3の発明について詳しく説明する。
圧延油原液を鋼板に塗布することで、エマルション圧延油の使用濃度を低濃度としても十分な潤滑性が得られ、また優れた光沢性も確保できるのでエマルション油の平均粒径を過度に下げる必要もなくなり、エマルション油の維持管理が容易になる。具体的にはエマルション圧延油の使用濃度、つまりエマルション濃度は5vol%以下でよい、下限値は原液塗布量が最適であれば原理的には0%、すなわち温水でも可能であるが、循環使用すると鋼板に塗布した原液が洗浄されて混入するため、実質的には0.5 %程度が下限となる。エマルションの平均粒径は第1および第2の発明では特に限定しないが、細粒径ほど光沢性が高くなるため5μm以下が好ましい。また、2μmより細粒になると塗布した圧延油原液の洗浄性が増し、原液塗布の効果が減少するため、より好ましい範囲は2μm〜5μmの範囲である。つまり、2μm未満では乳化剤の使用量が多くなり、洗浄力が増し圧延機や配管内の汚れを取り込みやすく、エマルション粒径の経時的な劣化を生じ、維持管理が行い難い。
【0042】
以下、本発明の圧延油の性状、組成について更に詳しく説明する。
圧延油原液の粘度を本発明の範囲とするためには、40℃で、5〜10cSt 低粘度の鉱油、合成炭化水素および粘度や融点の比較的低い合成エステルを使用することが好ましい。合成エステルとしては例えばラウリル酸、パルミチン酸等、炭素数が10〜18の何れかの脂肪酸と炭素数が1〜18の何れかのアルコールとのモノエステル、また、前述の脂肪酸とトリメチロールプロパン等の多価アルコールとのモノエステル、および/またはジエステル、および/またはトリエステル、さらに、アジピン酸等の二塩基酸と前述のアルコールとのジエステルなどが挙げられる。
【0043】
上記合成エステルの圧延油原液としての配合量は、鹸化価で50〜120 mg-KOH/gの範囲が好ましい。50mg-KOH/g未満では潤滑不足となり焼付き疵が発生し易くなる。また、120 mg-KOH/gを越えると、摩耗粉への吸着・反応が進みスカムが粘凋となり、油模様が発生し易くなる。
【0044】
エマルション圧延油の油粒子の平均粒径を5μm以下とするには、乳化剤の量を増量することで容易に粒径が調整できる。特に、乳化剤の種類を限定するものではないが、乳化剤は粘度が30cSt 以上の高粘度であり、多量に使用すると圧延油原液の全体粘度が高くなるため、圧延油原液の粘度が上限の20cSt 未満となる範囲であれば、乳化剤の種類および量を限定するものではない。
【0045】
圧延油原液中には上記合成エステルの他にアルコール類等の濡れ性改善剤、極圧添加剤、防錆剤、酸化防止剤等の添加剤を適宜使用してもよい。
次にエマルション濃度について補足する。
【0046】
第1および第2の発明ではエマルション濃度および平均粒径は特に限定していないが、濃度が0.5 vol%未満では濃度の維持管理が困難となること、および焼付きが発生し易くなるため、濃度は0.5 vol%以上とすることが好ましい。なお、濃度が15vol%を越えると油膜厚が大きくなり、また、冷却能が低下することおよび潤滑性の向上効果が飽和するため、上限は15%以下が好ましい。
【0047】
【実施例】
実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
直径が100 mm、表面粗さRaが 0.13 μm の材質SKD11 のワークロールとバックアップロールの直径が350 mmの4Hiリバース式圧延機により、表1に示す圧延材を、表2および表3に示す圧延条件で7パスおよび9パスの圧延に実施した。
【0048】
なお、圧延油は表4に示す組成、性状のものを用いた。また、表5に原液塗布の条件を示し、表6に供試材、圧延条件、圧延油条件および原液塗布条件の組み合わせを示す。
【0049】
圧延油原液の塗布形態は表5に示すが、各パスの巻取りに先立って鋼板に供給する場合と、後半のパスだけに圧延油原液を塗布する場合と2通りの形態を採用した。原理的には少なくとも1回のパス時の巻取り時に塗布すればよい。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
最終パス圧延後の鋼板表面の鏡面光沢度(JISに規定するGs60°で測定) 、目視判定による光沢むら、焼付発生の程度、圧延荷重を測定し、表6に併記した。
なお、光沢度は高光沢が要求される供試材1について実施し、光沢むら、焼付発生の程度、巻き疵、押込み疵は供試材1、2について、下記に示す記号で表示している。また、圧延荷重については、潤滑性が要求される供試材2について、各圧延パスの合計圧延荷重を圧延パス数で割った平均圧延荷重を供試材および圧延条件が同じである比較例との差を同じく下記の記号で表示している。
【0057】
(光沢むら)
○:確認できない、□:僅かであり品質上問題ない、△:顕著で品質不適
(焼付発生の程度)
○:発生無し、□:軽微な発生 (許容範囲内) 、△:著しい発生 (不良)
(巻き疵発生の程度)
○:発生無し、□:軽微な発生 (許容範囲内) 、△:著しい発生 (不良)
(押し込み疵発生の程度)
○:発生無し、□:軽微な発生 (許容範囲内) 、△:著しい発生 (不良)
(圧延荷重)
○:比較例より15%以上低減、□:比較例より10%以上低減、
△:比較例と同等か5%未満の減少。
【0058】
本発明の実施例では光沢性が要求されるフェライト系ステンレス鋼板 (供試材1) の場合には、いずれも光沢度 (Gs60°) が400 以上の光沢度が得られ、かつ高速圧延を行っても焼付や巻き疵、押し込み疵、光沢むらの発生がないか軽微である。また、潤滑性が要求されるオーステナイト系ステンレス鋼板 (供試材2) の場合には、比較例に比べ、焼付や巻き疵、押し込み疵の発生がないか軽微である。特にエマルション油の供給は入側では鋼板への供給は行わない場合、各種の疵の発生がない。
【0059】
また、エマルション油の使用濃度が5vol%以下、平均粒径が5μm以下である場合にはフェライト系ステンレス鋼の圧延において、光沢度がさらに向上する。以上に示すように本発明の圧延油は、フェライト系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板のいずれを圧延しても要求される性能を発揮できる。
【0060】
【発明の効果】
ステンレス鋼板をロール径50mm以上120 mm以下の小径ワークロールを有したリバース式圧延機でエマルション圧延油を使用して600mpm以上の高速度で冷間圧延するに際し、フェライト系ステンレス鋼板においてはニート油で得られるGs60°で400 以上の高光沢を可能にし、かつ、フェライト系、オーステナイト系のいずれのステンレス鋼板においても焼付き疵、巻き疵、押し込み疵等の発生により表面品質を損なうことなく、高能率で圧延することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明におけるエマルション圧延油および圧延油原液の供給の様子の説明図である。
【図2】エマルション圧延油の原液粘度およびエマルションの平均粒径と圧延材の光沢度との関係および焼き付きの発生との関係を示すグラフである。
【図3】鋼板表面の摩耗粉と圧延油の比率と粘度との関係を示すグラフである。
【図4】鋼板表面の摩耗粉と圧延油の比率と圧延荷重および光沢度との関係を示すグラフである。
【図5】鋼板表面の摩耗粉と圧延油の比率とコイル巻取り時の巻き疵およびロール押込み疵との関係を示すグラフである。
Claims (3)
- ロール径50mm以上120 mm以下の小径ワークロールを有したリバース式圧延機でエマルション圧延油を使用してステンレス鋼板を冷間圧延するに際し、少なくとも1つのパス後の巻取り時に、6cSt 以上20cSt 未満の粘度の圧延油原液を鋼板に供給するステンレス鋼板の冷間圧延方法。
- 圧延入側では鋼板へのエマルション圧延油の供給は行わず、ロールのみとし、出側ではロールおよび鋼板に供給する請求項1に記載のステンレス鋼板の冷間圧延方法。
- エマルション圧延油の使用濃度が5vol%以下、平均粒径が5μm以下である請求項1または2に記載のステンレス鋼板の冷間圧延方法。
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JP33037797A JP3785769B2 (ja) | 1997-12-01 | 1997-12-01 | ステンレス鋼板の冷間圧延方法 |
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